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幻想郷のどこかにたたずむ、紅魔館の屋上にて。 永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットは、頼りない三日月を仰ぎながら、上機嫌に微笑んでいた。 その隣に、瀟洒な従者の姿は無い。 レミリアの手にあるのは、彼女のお気に入りである薔薇模様のティーカップではなく、 綺麗な透明色をしたワイングラスである。 無論その中身は、いつもの紅茶――もとい血液ではなく、血のように紅いだけの高級なワインだ。 「ふふっ……」 ワインを飲み干して、レミリアは瞳を閉じる。 そして、遠い過去の記憶に思いを馳せた。 幻想入りを果たすより以前の、不安に満ちた暗い記憶と、 光を掴んだ、今日と同じ日付の、あの日の高揚感。 恐ろしい波動、フランドール・スカーレット。 レミリアの妹である彼女は、精神が不安定である、という理由で、レミリアによって幽閉されている。 フランドールが暮らす薄暗い地下の一室に、結界構築を行ったレミリアの友人、 知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジや、完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜でさえも、 レミリアに禁じられているため、フランドールに会いに行くことは無い。 ちなみに、食事は2日に1回、レミリアが適当な妖精メイドに命じて運ばせている。 事実を述べてしまえば、フランドールは狂ってなどいない。 なぜ、幽閉されているのか。 真の理由は、レミリアだけが知っていた。 (……今日は、私が光を掴んだ記念日) ぼんやりと考えながら、レミリアは、酔った頭で過去の記憶をたどる。 レミリア・スカーレットが、妹であるフランドール・スカーレットに対し、 暗い感情を抱いたのは、レミリアが15歳、フランドールが10歳の時だった。 この頃、もともと頭脳明晰であり、両親からレミリア以上に期待されていたフランドールが、 その真価を発揮し始めていたのである。 人々の相談に乗った際、返す答えは、レミリア以上に正確なものだった。 美しい羽根と可憐な笑顔、純粋無垢な性格は、彼女をレミリア以上の人気者にした。 頭脳明晰、戦闘能力も抜群でありながら、さらなる高みを目指す彼女は、レミリア以上に尊敬された。 レミリアは不安になった。 レミリアの両親は、決して彼女とフランドールを比較して責め立てるようなことも、 彼女の扱いにおいて、フランドールとの差をつけるようなこともしなかった。 しかし――今まで、全てにおいて優位に立ち、 たくさんの敬愛を、その小さな身に受けてきたレミリアは、 自分以上の存在を許すことが出来なかったのだ。 あの日。 レミリアは魔法を用いて、自身の羽根と髪色をフランドールのそれと同じものに変えた。 パジャマに身を包んで眠っていたフランドールの普段着を身につけた。 そして、紅く満ちた月光の下で。 すべてを引き裂き、喰らい、打ちのめし、破壊の限りを尽くした。 そして一時、森に身を隠し、あらかじめ用意しておいた自身のパジャマに着替え、 何事も無かったかのようにして、誰にも目撃されることなく、帰宅した。 それから、フランドールの服を、幸せそうに眠っているフランドールの横に丸めて――。 翌朝、食卓となるテーブルにフランドールは姿を見せず、両親はひどく暗い顔をしていた。 レミリアは、父にフランドールのことを尋ねた。――無論、妹を心配する姉を演じて、だ。 テーブルマナーに関してひどく気を使う母がフォークを取り落とし、泣き崩れた。 父は食事中にもかかわらず、ナイフを放りだして、やはり泣きながらレミリアを抱きしめた。 結局、レミリアの質問には答えてくれなかったが、レミリアは、大方の事情を察した。 しばしの間をおいて、3人は食事を再開し。 ステーキを口に運びながら、レミリアは早朝、寝ぼけた頭で聞いていた両親と妹の会話を思い出す。 ――なんてことだ、ああ、なんてことだ! ――お父様、お母様、私は何もしていない! ――フランドール! もうすべてはわかっているの。……正直に全てを話して、反省なさい…… ――そんな! 私、本当に……なにも、なにも知らないの! ――ああ、もう、駄目だ……フランドール、こっちへ来なさい…… ――ちょ、ちょっと、離してよ、お父様! 信じてよ、お母様、お母様っ……! お姉様ぁ…… 再び優美に微笑んで、2杯目のワインを飲み干し、レミリアは意識を現実へと引き戻した。 あの日、フランドールは地下室に幽閉された。 それからわずか1年後、母はフランドールの一件ですっかり弱り、心臓病に倒れた。 父は母の死にひどく心を痛め、それから半年後、母の後を追って自殺した。 (お父様とお母様には悪いけど……フランドールが居なくなったからこそ、私は幸福をつかめた) レミリアに、罪悪感はないようだった。 父の死後、相変わらず地下の一室に閉じ込められたままのフランドールに全ての真実を語り、 嘲ったのが何よりの証拠だろう。 そして現在、フランドールはレミリアの狂言によって狂人扱いされたままだ。 紅霧異変の際には、今現在の状況のすべてを悟り、 自身の主張が受け入れられることは無い、とあきらめていたのだろう。 フランドールは、少しばかり妖しい少女を演じて、紅白巫女と、白黒魔女と戯れた。 「ふふふ、あははははっ……私は、なんて幸せなのかしら……!」 狂気じみた哂い声を漏らして、レミリアは3杯目のワインを一気に飲み干した。 翌朝。 雲ひとつない、澄み切った青空の下で。 すがすがしそうに背伸びをする、色鮮やかに虹色な門番、紅美鈴の前に、 端をリボンで飾られた一本の線が生まれ、空間が裂けた。 「お早うございます、お嬢様は御在宅で?」 隙間から上半身をのぞかせて、おどけた様子で問いかける彼女は、幻想の境界、八雲紫。 博麗の紅白巫女――楽園の素敵な巫女、博麗霊夢とともに幻想郷の管理者を務める、妖怪の賢者である。 「ええ、いらっしゃるわよ。お嬢様にアポイントメントを取っていない限り、  門番としては、館内に案内するわけにいかないんだけれど」 「細かいことは良いじゃない。それじゃ、勝手に上がらせてもらうわね」 予定調和の茶番劇を終えて、再度空間が裂け、その中に紫が沈んでゆく。 美鈴は、無言でそれを見送った。 「で、どう言った御用件かしら?」 ――数十分後、紅魔館の小ホールには、テーブルに向かい合わせになって座る、レミリアと紫の姿があった。 その能力をうまく利用してレミリアの元へやってきたため、紫は無駄なエネルギーを消費せずにすんだらしい。 普通に歩いて来ていれば、先ほど紅茶を運んできた瀟洒なメイド長と鉢合わせになり、 弾幕ごっこという茶番劇をしなければならなかっただろう。 館内で、レミリアと共に談笑、あるいは弾幕ごっこをして戯れている時点で、 完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜にとって、 その人間、あるいは妖怪は侵入者などではなく、“お客様”だ。 それは暗黙のルールとして成り立っているため、先にレミリアと会ってしまえば面倒は無い。 「ちょっとした疑問を解消したくて」 言いながら、紫は紅茶を喉へと運ぶ。 レミリアも、なんとなくそれにならった。 「疑問?」 「そう、疑問。ここにいる破壊者、それとも狂人と“噂されている”のかしら? その子について」 「妹のことね。両方、よ」 「あらまぁ。……それは本当なの?」 「真実でなかったらどんなに幸せかしらね」 「私ね、とても面白い噂を耳にしたのよ」 「あら、どんな噂なの?」 純粋に興味がわいたのか、レミリアは漆黒の翼をぴん、と伸ばす。 深紅色の瞳が、きらりと輝いた。 一方の紫は、まるで焦らすように紅茶を喉へ流し込み、一呼吸置いてから語り始める。 「昔々、あるところに吸血鬼の家族がおりました。  吸血鬼姉妹の妹は、とても賢く、とても強く在ったため、両親から多大な期待を受けました。  ところが、“無駄に”プライドの高い姉は、彼女を妬んだのです。  なにせ、妹が生まれるまで、姉は“ナンバーワン”の存在だったのですから、  当然と言えば当然なのかもしれません。  妬みながらも、妹に追い付く努力をしようとせず、  姉は、魔法を用いて妹に化け、街に破壊をもたらしました。  妹は無実であるにもかかわらず、人々に恨まれ、両親には絶望され、幽閉されてしまいました。  妹が“狂人”と“評される”ようになったことで、  “根暗で卑屈でどうしようもなく性格の歪んだ”姉は再びナンバーワンの立場に返り咲き、  今まで自分が逆恨みをしていた妹にわざわざ真実を告げて、嘲笑いました。  こうして姉は幸福に、妹は不幸になりました。  すべてを諦めた妹は、エキセントリックな少女を演じながら、  今でも、暗い場所にひとりぼっちのまま、幽閉されているそうです。おしまい」 事もなさげに語りきって、妖艶に微笑む紫。 不愉快な思いを隠しきれずにいるレミリア。 先に口を開いたのは、後者であった。 「それが、私とフランドールであると言いたいの?  幻想入りする以前の過去だとでも、言いたいの?」 彼女は怒りと一緒に、三口目の紅茶を飲み込んだ。   「誰も、幻想入りのことなんて口にしていないのだけれど?」 どこかわざとらしいその表情を見て、はぁ、と溜息を漏らすレミリア。 どうも彼女は、感情が高ぶると、墓穴を掘りやすいタイプらしい。 半ば自棄になったのか、彼女はやや粗暴な口調で語る。 「ああもう、お前のことだ、全て知っていて聞いているんだろう?  なら、こう言わせてもらうわ。御名答、と。  いつから知っていた? どうして知った?  ……まあ、それは兎に角として。  知られているからには、あなたを生きて帰す訳にはいかないわね」   彼女の両手に、深紅色の魔力が宿る。 紫は、臨戦態勢を取るレミリアに微笑みかけると――。 「いい加減に忘れなさいな、そんな暗い過去。  今が幸せなら、それを十分に楽しみなさい。  ……少々、からかいが過ぎたわね、失礼したわ。  私はね、あなたから幸せを奪うようなこと、したくないのよ」 そう言いながら、レミリアを抱きしめた。 呆然として立ちすくむレミリアの髪を、優しく撫でて。 またね、とおどけた笑顔を浮かべると、紫は展開された隙間に沈んで行った。 レミリアは、気付かない。 閉ざされたドアの向こう側で、誰かが怒りに身を震わせていることに。 空間の狭間を抜けて、八雲家の広間に辿り着いた紫は、ごろん、と畳に寝転んだ。 睡眠を大切に考えている彼女のこの行動の意味を察して、 紫の式神を務める、策士の九尾こと八雲藍は、紫の身体を揺すりながら言葉をかける。 「紫様、そんなところで眠られては風邪をひきますよ」 「大丈夫よ、妖怪の賢者は丈夫なの」 「……本音を申し上げますと、お掃除の邪魔なのでございますよ」 「今日の掃除はいいわよ、あなたも少し休んだらどうなの?」 「策士の九尾は丈夫です。さあ、寝室にお布団をご用意してありますから、そちらへ」 面倒ね、と文句を言いながらも、紫は藍の言葉に従う。 彼女は、“風邪をひかないようにと気遣っている”のが藍の本音であることを、 長年の付き合いから、悟っていた。 寝心地の良い羽毛布団の中で、彼女はぼんやりと考える。 ――必ず、あなたを救いだすから 険しい表情のままに、紫は意識を手放した。 紫がレミリアの元を訪れたあの日から、3日が過ぎて。 昨日まで不安を抱えて過ごしていたレミリアの心配は、杞憂に終わりそうだった。 紫はあの日の言葉通り、フランドールに関する真実は、誰にも語っていないらしい。 相変わらず澄み切った青空に、太陽が輝いている。 吸血鬼である彼女だが、雨天や曇天よりは晴天の方が好きだった。 咲夜が彼女に忠誠を誓った日に制作し、献上した、薄紅色の日傘を片手に館を出る。 今日はひとりで外出するようだ。 「それじゃあ、ちょっと薬師さんや蓬莱人と戯れてくるわ」 どこか不穏な、しかし陽気な笑みを浮かべて、彼女は紅魔館の門を飛び立った。 行ってらっしゃいませ、と頭を下げる美鈴。 やがてレミリアの姿は青空に消えて、顔を上げた門番は、虚空を睨みつける。 どこからか姿を現した門番隊の一員と交代すると、彼女は紅魔館内へと急いだ。 ――紅魔館の近く深くに存在する、大図書館にて。 知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジは、暗く淀んだ瞳で、目の前に居る3人の少女を見据えた。 「やはり、パチュリー様が推測なさった通りだったようですね」 怒りと悲しみを織り交ぜたような複雑な表情で呟くは、完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜。 「……正直、許せません。私にとって、妹様はかけがえのない大切な存在ですから」 歯噛みをして、血がにじむのも構わずに拳を握りしめるは、色鮮やかに虹色な門番、紅美鈴。 「私も同じです、私は、妹様と親しい訳ではないですけど……こんなの、酷過ぎます!」 涙目で叫ぶは、パチュリーの従者兼大図書館の司書、小悪魔。 紫がレミリアと言葉を交わしたあの日、ドアの向こうに彼女たちはいた。 ふとしたきっかけで、レミリアに対し不信感を抱くようになったパチュリーは、 2週間前、レミリアが留守にしている隙に、レミリアの自室を調べた。 そして、目当てで会った日記を発見し――スカーレット姉妹の過去を知ることとなる。 日記持ち出したとしても、それを証拠として咲夜や美鈴に真実を語るほどの時間は無い。 持ち出した後、元の場所に戻しても、ああ見えて観察力はあるレミリアに知れる可能性がある。 慎重なパチュリーは、何の準備もないままに、大きな戦闘に発展するのは避けたい、ということで、 日記を証拠として持ち出し、真実を語ることはやむを得ない場合の手段とし、 八雲紫に事の顛末を語り、ほとんど駄目もとで協力を依頼した。 そして、予想外にも、八雲紫は彼女の依頼を受けた。 それを美鈴と咲夜に語り、紫が訪問することになっていたあの日、 今ここにいる3人を集め、ドアの前に待機させた。 無論、パチュリーの魔術を用いて全員の姿を隠したうえで、である。 そして、事はパチュリーの狙い通りに進み、今日にいたる。 「八雲紫が協力してくれて助かったわね。  ……美鈴も、小悪魔も……もう……決まっているかしら。  咲夜。  あなたは、どうしたい?」 おだやかな問いを受けて、咲夜は答える。 「……レミリアお嬢様のことは、心からお慕い申し上げておりました。  ですが……妹様とて、私にとっては大切で、かけがえのない主なのです。  正直、お嬢様に対する憎悪の感情を、否定することはできません。    しかし、お嬢様に対して、怒りをぶつける権利がある者がいるとすれば。  フランドール様ただひとりだと、私は思うのです」 ハッとしたような表情を浮かべる美鈴。 しばしの間ののちに、美鈴とパチュリーは、咲夜に同意した。 しかし、パチュリーの表情はすぐに翳ってしまう。   「……そうね、でも……妹様と会話するには、あの扉が邪魔なの。  そして、あの扉には、私が構築した結界のほかに、さらに強力な結界が張られている。  魔術や能力による干渉も、なかなか受け付けないタイプのものよ。  よほど強い妖怪、あるいは人間でなければ、破るのは不可能ね。  あれはきっと、レミリアの両親が構築したものでしょう」 絶望をその瞳に宿して、力なくうなだれる咲夜の背後の空間が、突如裂けた。 予想外の展開に戸惑うパチュリーの目前に、紫はふわりと優雅に降り立って。 胡散臭い笑みを向けながら、艶やかな唇から、希望の言葉を紡ぎだす。 「お困りのようねぇ。  ここは、妖怪の賢者、八雲紫の出番かしら。  吸血鬼の結界程度を破れずに、幻想郷の管理者は名乗れないわ。  妹様とやらはどうでもいいけれど、この私の力を披露するには丁度良い舞台だもの。  遠慮なく、利用させてもらうわよ?」 自信たっぷりな口調に滲む優しさは、やはり隠しきれないもので。 素直じゃないわね、と美鈴とパチュリーが苦笑した。 私はいつだって素直よ、などととぼけてみせながら、紫は地下へ向かうべく、“スキマ”を展開する。 パチュリー、咲夜、美鈴、小悪魔も、紫に続いてスキマに飛び込み、沈んで行った。 続き:[[破壊の少女と隙間妖怪(後):35スレ916]] ---- - 己の妹陥れて 皇帝気取りか かわいいなレミリア お前はもういらんぞ -- カールおじさん (2014-08-22 10:45:52) - 八雲のおばちゃまカッコイイ! -- 名無しさん (2016-10-08 23:22:30) - レミリア最低だな -- ロリこん (2018-01-06 21:59:37) - それな -- レミリアのどこがいいの (2018-05-21 19:07:41) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
幻想郷のどこかにたたずむ、紅魔館の屋上にて。 永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットは、頼りない三日月を仰ぎながら、上機嫌に微笑んでいた。 その隣に、瀟洒な従者の姿は無い。 レミリアの手にあるのは、彼女のお気に入りである薔薇模様のティーカップではなく、 綺麗な透明色をしたワイングラスである。 無論その中身は、いつもの紅茶――もとい血液ではなく、血のように紅いだけの高級なワインだ。 「ふふっ……」 ワインを飲み干して、レミリアは瞳を閉じる。 そして、遠い過去の記憶に思いを馳せた。 幻想入りを果たすより以前の、不安に満ちた暗い記憶と、 光を掴んだ、今日と同じ日付の、あの日の高揚感。 恐ろしい波動、フランドール・スカーレット。 レミリアの妹である彼女は、精神が不安定である、という理由で、レミリアによって幽閉されている。 フランドールが暮らす薄暗い地下の一室に、結界構築を行ったレミリアの友人、 知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジや、完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜でさえも、 レミリアに禁じられているため、フランドールに会いに行くことは無い。 ちなみに、食事は2日に1回、レミリアが適当な妖精メイドに命じて運ばせている。 事実を述べてしまえば、フランドールは狂ってなどいない。 なぜ、幽閉されているのか。 真の理由は、レミリアだけが知っていた。 (……今日は、私が光を掴んだ記念日) ぼんやりと考えながら、レミリアは、酔った頭で過去の記憶をたどる。 レミリア・スカーレットが、妹であるフランドール・スカーレットに対し、 暗い感情を抱いたのは、レミリアが15歳、フランドールが10歳の時だった。 この頃、もともと頭脳明晰であり、両親からレミリア以上に期待されていたフランドールが、 その真価を発揮し始めていたのである。 人々の相談に乗った際、返す答えは、レミリア以上に正確なものだった。 美しい羽根と可憐な笑顔、純粋無垢な性格は、彼女をレミリア以上の人気者にした。 頭脳明晰、戦闘能力も抜群でありながら、さらなる高みを目指す彼女は、レミリア以上に尊敬された。 レミリアは不安になった。 レミリアの両親は、決して彼女とフランドールを比較して責め立てるようなことも、 彼女の扱いにおいて、フランドールとの差をつけるようなこともしなかった。 しかし――今まで、全てにおいて優位に立ち、 たくさんの敬愛を、その小さな身に受けてきたレミリアは、 自分以上の存在を許すことが出来なかったのだ。 あの日。 レミリアは魔法を用いて、自身の羽根と髪色をフランドールのそれと同じものに変えた。 パジャマに身を包んで眠っていたフランドールの普段着を身につけた。 そして、紅く満ちた月光の下で。 すべてを引き裂き、喰らい、打ちのめし、破壊の限りを尽くした。 そして一時、森に身を隠し、あらかじめ用意しておいた自身のパジャマに着替え、 何事も無かったかのようにして、誰にも目撃されることなく、帰宅した。 それから、フランドールの服を、幸せそうに眠っているフランドールの横に丸めて――。 翌朝、食卓となるテーブルにフランドールは姿を見せず、両親はひどく暗い顔をしていた。 レミリアは、父にフランドールのことを尋ねた。――無論、妹を心配する姉を演じて、だ。 テーブルマナーに関してひどく気を使う母がフォークを取り落とし、泣き崩れた。 父は食事中にもかかわらず、ナイフを放りだして、やはり泣きながらレミリアを抱きしめた。 結局、レミリアの質問には答えてくれなかったが、レミリアは、大方の事情を察した。 しばしの間をおいて、3人は食事を再開し。 ステーキを口に運びながら、レミリアは早朝、寝ぼけた頭で聞いていた両親と妹の会話を思い出す。 ――なんてことだ、ああ、なんてことだ! ――お父様、お母様、私は何もしていない! ――フランドール! もうすべてはわかっているの。……正直に全てを話して、反省なさい…… ――そんな! 私、本当に……なにも、なにも知らないの! ――ああ、もう、駄目だ……フランドール、こっちへ来なさい…… ――ちょ、ちょっと、離してよ、お父様! 信じてよ、お母様、お母様っ……! お姉様ぁ…… 再び優美に微笑んで、2杯目のワインを飲み干し、レミリアは意識を現実へと引き戻した。 あの日、フランドールは地下室に幽閉された。 それからわずか1年後、母はフランドールの一件ですっかり弱り、心臓病に倒れた。 父は母の死にひどく心を痛め、それから半年後、母の後を追って自殺した。 (お父様とお母様には悪いけど……フランドールが居なくなったからこそ、私は幸福をつかめた) レミリアに、罪悪感はないようだった。 父の死後、相変わらず地下の一室に閉じ込められたままのフランドールに全ての真実を語り、 嘲ったのが何よりの証拠だろう。 そして現在、フランドールはレミリアの狂言によって狂人扱いされたままだ。 紅霧異変の際には、今現在の状況のすべてを悟り、 自身の主張が受け入れられることは無い、とあきらめていたのだろう。 フランドールは、少しばかり妖しい少女を演じて、紅白巫女と、白黒魔女と戯れた。 「ふふふ、あははははっ……私は、なんて幸せなのかしら……!」 狂気じみた哂い声を漏らして、レミリアは3杯目のワインを一気に飲み干した。 翌朝。 雲ひとつない、澄み切った青空の下で。 すがすがしそうに背伸びをする、色鮮やかに虹色な門番、紅美鈴の前に、 端をリボンで飾られた一本の線が生まれ、空間が裂けた。 「お早うございます、お嬢様は御在宅で?」 隙間から上半身をのぞかせて、おどけた様子で問いかける彼女は、幻想の境界、八雲紫。 博麗の紅白巫女――楽園の素敵な巫女、博麗霊夢とともに幻想郷の管理者を務める、妖怪の賢者である。 「ええ、いらっしゃるわよ。お嬢様にアポイントメントを取っていない限り、  門番としては、館内に案内するわけにいかないんだけれど」 「細かいことは良いじゃない。それじゃ、勝手に上がらせてもらうわね」 予定調和の茶番劇を終えて、再度空間が裂け、その中に紫が沈んでゆく。 美鈴は、無言でそれを見送った。 「で、どう言った御用件かしら?」 ――数十分後、紅魔館の小ホールには、テーブルに向かい合わせになって座る、レミリアと紫の姿があった。 その能力をうまく利用してレミリアの元へやってきたため、紫は無駄なエネルギーを消費せずにすんだらしい。 普通に歩いて来ていれば、先ほど紅茶を運んできた瀟洒なメイド長と鉢合わせになり、 弾幕ごっこという茶番劇をしなければならなかっただろう。 館内で、レミリアと共に談笑、あるいは弾幕ごっこをして戯れている時点で、 完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜にとって、 その人間、あるいは妖怪は侵入者などではなく、“お客様”だ。 それは暗黙のルールとして成り立っているため、先にレミリアと会ってしまえば面倒は無い。 「ちょっとした疑問を解消したくて」 言いながら、紫は紅茶を喉へと運ぶ。 レミリアも、なんとなくそれにならった。 「疑問?」 「そう、疑問。ここにいる破壊者、それとも狂人と“噂されている”のかしら? その子について」 「妹のことね。両方、よ」 「あらまぁ。……それは本当なの?」 「真実でなかったらどんなに幸せかしらね」 「私ね、とても面白い噂を耳にしたのよ」 「あら、どんな噂なの?」 純粋に興味がわいたのか、レミリアは漆黒の翼をぴん、と伸ばす。 深紅色の瞳が、きらりと輝いた。 一方の紫は、まるで焦らすように紅茶を喉へ流し込み、一呼吸置いてから語り始める。 「昔々、あるところに吸血鬼の家族がおりました。  吸血鬼姉妹の妹は、とても賢く、とても強く在ったため、両親から多大な期待を受けました。  ところが、“無駄に”プライドの高い姉は、彼女を妬んだのです。  なにせ、妹が生まれるまで、姉は“ナンバーワン”の存在だったのですから、  当然と言えば当然なのかもしれません。  妬みながらも、妹に追い付く努力をしようとせず、  姉は、魔法を用いて妹に化け、街に破壊をもたらしました。  妹は無実であるにもかかわらず、人々に恨まれ、両親には絶望され、幽閉されてしまいました。  妹が“狂人”と“評される”ようになったことで、  “根暗で卑屈でどうしようもなく性格の歪んだ”姉は再びナンバーワンの立場に返り咲き、  今まで自分が逆恨みをしていた妹にわざわざ真実を告げて、嘲笑いました。  こうして姉は幸福に、妹は不幸になりました。  すべてを諦めた妹は、エキセントリックな少女を演じながら、  今でも、暗い場所にひとりぼっちのまま、幽閉されているそうです。おしまい」 事もなさげに語りきって、妖艶に微笑む紫。 不愉快な思いを隠しきれずにいるレミリア。 先に口を開いたのは、後者であった。 「それが、私とフランドールであると言いたいの?  幻想入りする以前の過去だとでも、言いたいの?」 彼女は怒りと一緒に、三口目の紅茶を飲み込んだ。   「誰も、幻想入りのことなんて口にしていないのだけれど?」 どこかわざとらしいその表情を見て、はぁ、と溜息を漏らすレミリア。 どうも彼女は、感情が高ぶると、墓穴を掘りやすいタイプらしい。 半ば自棄になったのか、彼女はやや粗暴な口調で語る。 「ああもう、お前のことだ、全て知っていて聞いているんだろう?  なら、こう言わせてもらうわ。御名答、と。  いつから知っていた? どうして知った?  ……まあ、それは兎に角として。  知られているからには、あなたを生きて帰す訳にはいかないわね」   彼女の両手に、深紅色の魔力が宿る。 紫は、臨戦態勢を取るレミリアに微笑みかけると――。 「いい加減に忘れなさいな、そんな暗い過去。  今が幸せなら、それを十分に楽しみなさい。  ……少々、からかいが過ぎたわね、失礼したわ。  私はね、あなたから幸せを奪うようなこと、したくないのよ」 そう言いながら、レミリアを抱きしめた。 呆然として立ちすくむレミリアの髪を、優しく撫でて。 またね、とおどけた笑顔を浮かべると、紫は展開された隙間に沈んで行った。 レミリアは、気付かない。 閉ざされたドアの向こう側で、誰かが怒りに身を震わせていることに。 空間の狭間を抜けて、八雲家の広間に辿り着いた紫は、ごろん、と畳に寝転んだ。 睡眠を大切に考えている彼女のこの行動の意味を察して、 紫の式神を務める、策士の九尾こと八雲藍は、紫の身体を揺すりながら言葉をかける。 「紫様、そんなところで眠られては風邪をひきますよ」 「大丈夫よ、妖怪の賢者は丈夫なの」 「……本音を申し上げますと、お掃除の邪魔なのでございますよ」 「今日の掃除はいいわよ、あなたも少し休んだらどうなの?」 「策士の九尾は丈夫です。さあ、寝室にお布団をご用意してありますから、そちらへ」 面倒ね、と文句を言いながらも、紫は藍の言葉に従う。 彼女は、“風邪をひかないようにと気遣っている”のが藍の本音であることを、 長年の付き合いから、悟っていた。 寝心地の良い羽毛布団の中で、彼女はぼんやりと考える。 ――必ず、あなたを救いだすから 険しい表情のままに、紫は意識を手放した。 紫がレミリアの元を訪れたあの日から、3日が過ぎて。 昨日まで不安を抱えて過ごしていたレミリアの心配は、杞憂に終わりそうだった。 紫はあの日の言葉通り、フランドールに関する真実は、誰にも語っていないらしい。 相変わらず澄み切った青空に、太陽が輝いている。 吸血鬼である彼女だが、雨天や曇天よりは晴天の方が好きだった。 咲夜が彼女に忠誠を誓った日に制作し、献上した、薄紅色の日傘を片手に館を出る。 今日はひとりで外出するようだ。 「それじゃあ、ちょっと薬師さんや蓬莱人と戯れてくるわ」 どこか不穏な、しかし陽気な笑みを浮かべて、彼女は紅魔館の門を飛び立った。 行ってらっしゃいませ、と頭を下げる美鈴。 やがてレミリアの姿は青空に消えて、顔を上げた門番は、虚空を睨みつける。 どこからか姿を現した門番隊の一員と交代すると、彼女は紅魔館内へと急いだ。 ――紅魔館の近く深くに存在する、大図書館にて。 知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジは、暗く淀んだ瞳で、目の前に居る3人の少女を見据えた。 「やはり、パチュリー様が推測なさった通りだったようですね」 怒りと悲しみを織り交ぜたような複雑な表情で呟くは、完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜。 「……正直、許せません。私にとって、妹様はかけがえのない大切な存在ですから」 歯噛みをして、血がにじむのも構わずに拳を握りしめるは、色鮮やかに虹色な門番、紅美鈴。 「私も同じです、私は、妹様と親しい訳ではないですけど……こんなの、酷過ぎます!」 涙目で叫ぶは、パチュリーの従者兼大図書館の司書、小悪魔。 紫がレミリアと言葉を交わしたあの日、ドアの向こうに彼女たちはいた。 ふとしたきっかけで、レミリアに対し不信感を抱くようになったパチュリーは、 2週間前、レミリアが留守にしている隙に、レミリアの自室を調べた。 そして、目当てで会った日記を発見し――スカーレット姉妹の過去を知ることとなる。 日記持ち出したとしても、それを証拠として咲夜や美鈴に真実を語るほどの時間は無い。 持ち出した後、元の場所に戻しても、ああ見えて観察力はあるレミリアに知れる可能性がある。 慎重なパチュリーは、何の準備もないままに、大きな戦闘に発展するのは避けたい、ということで、 日記を証拠として持ち出し、真実を語ることはやむを得ない場合の手段とし、 八雲紫に事の顛末を語り、ほとんど駄目もとで協力を依頼した。 そして、予想外にも、八雲紫は彼女の依頼を受けた。 それを美鈴と咲夜に語り、紫が訪問することになっていたあの日、 今ここにいる3人を集め、ドアの前に待機させた。 無論、パチュリーの魔術を用いて全員の姿を隠したうえで、である。 そして、事はパチュリーの狙い通りに進み、今日にいたる。 「八雲紫が協力してくれて助かったわね。  ……美鈴も、小悪魔も……もう……決まっているかしら。  咲夜。  あなたは、どうしたい?」 おだやかな問いを受けて、咲夜は答える。 「……レミリアお嬢様のことは、心からお慕い申し上げておりました。  ですが……妹様とて、私にとっては大切で、かけがえのない主なのです。  正直、お嬢様に対する憎悪の感情を、否定することはできません。    しかし、お嬢様に対して、怒りをぶつける権利がある者がいるとすれば。  フランドール様ただひとりだと、私は思うのです」 ハッとしたような表情を浮かべる美鈴。 しばしの間ののちに、美鈴とパチュリーは、咲夜に同意した。 しかし、パチュリーの表情はすぐに翳ってしまう。   「……そうね、でも……妹様と会話するには、あの扉が邪魔なの。  そして、あの扉には、私が構築した結界のほかに、さらに強力な結界が張られている。  魔術や能力による干渉も、なかなか受け付けないタイプのものよ。  よほど強い妖怪、あるいは人間でなければ、破るのは不可能ね。  あれはきっと、レミリアの両親が構築したものでしょう」 絶望をその瞳に宿して、力なくうなだれる咲夜の背後の空間が、突如裂けた。 予想外の展開に戸惑うパチュリーの目前に、紫はふわりと優雅に降り立って。 胡散臭い笑みを向けながら、艶やかな唇から、希望の言葉を紡ぎだす。 「お困りのようねぇ。  ここは、妖怪の賢者、八雲紫の出番かしら。  吸血鬼の結界程度を破れずに、幻想郷の管理者は名乗れないわ。  妹様とやらはどうでもいいけれど、この私の力を披露するには丁度良い舞台だもの。  遠慮なく、利用させてもらうわよ?」 自信たっぷりな口調に滲む優しさは、やはり隠しきれないもので。 素直じゃないわね、と美鈴とパチュリーが苦笑した。 私はいつだって素直よ、などととぼけてみせながら、紫は地下へ向かうべく、“スキマ”を展開する。 パチュリー、咲夜、美鈴、小悪魔も、紫に続いてスキマに飛び込み、沈んで行った。 続き:[[破壊の少女と隙間妖怪(後):35スレ916]] ---- - 己の妹陥れて 皇帝気取りか かわいいなレミリア お前はもういらんぞ -- カールおじさん (2014-08-22 10:45:52) - 八雲のおばちゃまカッコイイ! -- 名無しさん (2016-10-08 23:22:30) - レミリア最低だな -- ロリこん (2018-01-06 21:59:37) - それな -- レミリアのどこがいいの (2018-05-21 19:07:41) - いや、いろんなレミリアを見て俺はむしろ楽しんでるぞ -- 名無しさん (2021-09-13 22:56:24) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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