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フェイト一章中編F - (2009/11/11 (水) 10:42:14) の1つ前との変更点

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四つの光が弾けて集う 金の稲妻と、紅蓮の炎と 蒼い疾風と、紫紺の怪異 とある事件を追ってこの地に降り立った機動6課ライトニング隊 その隊長と副隊長を突如、襲った怪人たち これに拮抗できる戦力は戦技教導隊のスペシャルフォースを除けば 同6課のスターズ隊のみ、とさえ言われていた そんな二人を圧倒する謎の敵―――サーヴァント 戦いは既に人の常識をゆうに超えて加速を続け どこまでも昇り積めていく四条の光―― 舞い踊る彼らがついに場に交錯する、その瞬間 四つの思考は刹那の刻を駆け巡って場に弾ける ―――――― 稲妻は遥かな高みにおいて紅蓮の光を見下ろしていた 天より降り注ぐ磊落な彼女にとってそれはいつもの光景なれど しかし彼女は今、眼下に友を置き去りにしてきてしまった悔恨に胸を焦がす 今からでは間に合わない 地上最高速を以って駆け抜ける雷光をして もはやそれを留める術など持ち得ない それを理解してなお――― シグナムッ……!!! あまりの突然の出来事に 目から滲む涙が溢れる暇すらなく 雷の鉄槌を構えし黒衣の女神が数秒後の友の死に慟哭し、 声の無い悲鳴を挙げる ―――――― 紅蓮の熱き魂が盟友を守るために 今、己が命を煌々と燃やす この窮地を招いたのは他ならぬ 我が炎が敵を焼き尽くせなかったが故の事 降りかかる火の粉も払えぬ烈火の何と小さく滑稽な―― 常勝無敗の女神と女将軍が知らずのうちに奢り高ぶり 敵を過小に見ていたというのか――? ならば許せ……戦の神よ そのツケを払うのに何も二人の命はいらぬだろう 炎は彼女が最も信頼を置く稲妻に全てを託し 死の刃を受ける事を覚悟する もはや是非も無し――言葉で飾る必要も見出せない 死を運ぶ蒼と紫の光を双方に迎え 紅蓮の炎は身体の一部となった二刀を構えて立つ ―――――― それは到底、思考の及ぶ一瞬ではなかっただろう それが一刻でも考える余地があったなら、このフェイトであれば助けられたはずだ 対象発見を認めて確保するのにかかる時間がコンマを上回る彼女 一瞬でも思考の及ぶ時間があるのなら――十分、行動を起こせたはずだ だがこれだけの思いが内で爆発していたにも関わらず 彼女はこの時、指一本動かせなかった だからそれはきっと刹那の瞬間 意識、時間が引き延ばされたように 何倍にもゆっくりとなって感じるというあれに違いない そして指をこまねいている者の眼前において起こるは 予定調和の如く何の意外性もない結果のみ 青と紫の閃光が中央で交差し 三つの膨大な力がぶつかり 金属が、魔力が、凌ぎを削り 切り裂かれる甲高い音が鳴り響く 「あ、ああ………」 フェイトのトリガーを持つ手が震える 左下方から襲い来る槍兵と右斜めから飛来する女怪の直撃をまともに受けたシグナム オーバードライブを用いる暇すらありはしない 烈火の将を……かけがえの無い戦友を救う、ありとあらゆる手段が閉鎖し 自分はこうして馬鹿みたいに上空から友達が串刺しになるのを見ている事しか出来なかった 勿論、その馬鹿に託された役割は一つ―― こうして彼女が命懸けで作ってくれた相手の致命的な隙を 自分は穿ち、突き崩す そのために装填した砲撃魔法 騎士が仕留められるのをこの目で見据えながらに紡ぎ出した三叉の豪槍 「……っ! ッ!!!」 滲む涙も、吐き出しそうになる嗚咽も飲み込んで 彼女は下方、光の交錯地点―― 三者の影が絡み合っている地点へ標準を合わせて叫ぼうと、、 <Wait...Sir> 「………!??」 ――叫ぼうとした魔道士を彼女のデバイスが寸での所で推し留めていた ハッと息を呑むフェイト 魔力と闘気が迸り、目を覆うほどの奔流を作り出していたその地点を直視出来ずにいた彼女にとって デバイスの喝破はその擦り切れた思考に今一度、火を灯すに十分なものだった 高度に位置する雲に覆われた彼女の視界が 上方から粉塵を掻き分け、三者の様子を見据えると―― それは確かに一見、中央の女騎士が串刺しになっているように見えただろう しかし、、 「ぬ、ううっ!!」 そこで悲しみと絶望にくすんでいたフェイトの目がはっきりと見開かれる 絡んだ影のうち、真っ先に躍動感を取り戻し状況を打ち砕いたのが他ならぬ―― 「シ、、シグナムっ!!」 ヴォルケンリッター・烈火の将シグナムであったから! 自身の呼吸すら止まっていた邂逅の折 潰れそうだったフェイトの心臓に今、ようやっとまともな酸素が送り込まれる その遥か眼下、トドメを刺しに行った二者――ランサーとライダーの体制が崩れる レヴァンティンの刀身でランサーの槍を、鞘でライダーの短剣を見事、同時に受けきり 女剣士はその場で駒のように回転して双方を弾き返す サーヴァントとて重力の縛りには完全には逃れられない 故にその身体はいつまでも宙空に鎮座してはいられない 人外の脚力で醸し出された突貫力の全てを受けられては、その身が落ちるは必定 「撃てッ!!!」 「はいっ! トライデントッ………スマッシャァァーーーッ!!」 将の怒号を受け 先ほどとは明らかに違う力強い仕草で指にかかったトリガーを引き放ち 中距離狙撃砲をぶっ放すフェイト 「「むう―――、!」」 それは当然、来るであろう反撃だ 頭上にて飛来する雷光を見据えて両サーヴァントが宙で身構える この時、バルディッシュに叩き込まれたカートリッジは三発 練りに練られた純正の魔力がフェイトの体内で凝縮され デバイスを通して増幅されて今、雷神の怒りの鉄槌となって吼え狂う 左手の甲にデバイスの柄を添えて掌から放たれた極太の砲撃は あの高町なのはのエクセリオンバスターと比べて些かの見劣りも無い 翳した手首から方円方に広がる魔法陣の中央からぶっ放されたそれが 左右に一本ずつ枝分かれし、一本はシグナムをすれすれに掠めて通り過ぎる そして一本がランサーを、また一本がライダーをそれぞれ滝のように飲み込んだのだ! 耳を劈く落雷の轟音にバチバチと感電を促す歪な矯音が重なり 場はさながら、子供の頃に話し聞かされたカミナリ様の大合唱の様相を呈す 両サーヴァントを巻き込んだ金の魔砲が暴れ狂って 人一人を飲み込んでなお失速せずに地面に向かい その寸前、三叉の魔力の左右が中央の一本――着弾点で結合し、一つの強大な砲撃と化す ああ、、それはまるで異なる配水管に流された水が 大元となる一本と合流し、巨大な水流となって貯水の渦に落ち込むような―― その集束した全ての威力を対象であるサーヴァント二体にまとめて叩きつけた巨大な砲撃が 地上に壮絶な爆雷となって降り注いだのである! さながら大地に突き立つ一本の柱――― フィールド全体に落雷独特の重低音が 次いで鼓膜を裂きかねない凄まじい爆音が鳴り響く そしてこの峠全体の地面をM6クラスの地震と同等の規模で揺り動かす フェイトの全開砲撃、、Sランク魔道士の全力―― 身の毛がよだつとはまさにこの事だ その天災の中央 巨大なクレーターを作り出した落雷の中心地点にて二つのヒト型が地表に叩きつけられ 10回ほどバウンドしながらそれぞれ地面を滑り――― ゴミのように投げ捨てられて場に落着していた 「…………ふ、」 それを見て苦笑とも取れる溜息を静かに漏らす女剣士 卓越した魔道士のコントロールによって自身の体スレスレを通り過ぎた砲撃 本来ならアレを自分も食らっていたと思うとゾッとしない… ボロ雑巾のように投げ出された敵の有様を見て、心胆が寒くなる彼女であった 「シグナム……! よく無事で……!」 「……………」 そしてその稲妻を撃ち放った主 フェイトが上空から彼女の隣に降りて来る 血相を変えて飛び込んでくる黒衣と金髪の魔道士 自分を心配する献身的な瞳には、目尻に滲んだ跡がある それが彼女にとって最も過酷な選択をさせてしまった事の証だという事は明らかだった 「何だ……? 今の腑抜けた攻撃は」 それを敢えて見ないように無視して 騎士は淡白に言い放つ 「す、すみません……一瞬、躊躇してしまって」 「いや、違う、、そうじゃない  敵のそれについてだ」 そう、それは受けた将が怪訝な思いを隠せない―― 相手と接触した時の事についてだった あれほどの強敵から同時に攻撃を受ければ いくら自分の騎士甲冑でも耐えられないはずだった どうにもならないと覚悟をしかと決めた瞬間であっただけに… 無傷で凌いだという事実を額面どおりに受け入れられないのだ 「対角線上の同士討ちを恐れたか…?  にしても粗末に過ぎる」 「………」 確かに連携において味方同士が同一線軸上に位置すれば 互いを打ち抜いてしまうという最悪のミスを誘発する危険はある だがそれは素人同士の場合であり、熟練の者同士が犯す失敗ではない なのは&フェイトの黄金連携においても見れる、相手を挟み込んでの全力砲撃 その一撃で見事に敵を陥落させるシーンをミッドの武装局員の多くが教材として拝見したがるように 一定の技量を有した者たちであれば同士討ちの可能性など常に計算に入れた挙動を取っているのが普通だ それを踏まえた上で、やはり相手を挟み込んだ状態の優位性は絶対なのだ そこで詰めを誤るなど、、ましてやあれほどの力量を持つ者達が仕損じるなど有り得ない 「ともあれ手応えは十分だったけれど………倒したのでしょうか?」 「まだだ、、見ろ」 二人の眼下―― 地上においてのそりと起き上がる影が二つ 野生のカンか、優れた戦闘者の本能か 結果的に将と切り結んでいる状態から解放された槍兵と騎兵が 何とか最低限の受身が間に合っていたようである 互いに高い対魔力を誇る二人 そして皮肉にも不発に終わった宝具発動によって、収縮した魔力を共に叩き付けたがゆえに 魔力ダメージによる雷撃を軽減し、何とか現世にカタチを残せた…… 直撃ならば間違いなく二人とも消滅していただろう (……、、あの人たち…) そして今 フェイトが戦闘開始直後から抱いていた微かな違和感が―― 確信に変わろうとしていた ―――――― 「「―――、」」 人を超えたサーヴァントとは言え、あれだけの轟雷を受ければただでは済まない 先の自然干渉系の雷撃はいわば現象、災害のようなものだが 今の雷光は紛う事無く―――剣 敵を撃つために練り上げられた戦意と意思を持った刃 ケタが違うのは当然の事だ 地面に亀裂をつけるほどに叩きつけられたランサーとライダーがその体をゆっくりと起こす 重々しい挙動――深いダメージを負っている事は明らかだった 「ったく……いいザマだぜ」 男の重い口調は自己の損傷によるものだが 同時に何かに苛付いているようにも感じられた 「まったくです――これでは埒が明かない」 返される声も同様のものだ 全身を襲う感電のショックが、既に負っていた損傷に上乗せされ しかもまたも宝具不発――いい加減、愚痴の一つも言いたくなるというものだ ―― ここにおいてシグナムの抱いた疑念は実に正しい ―― あの瞬間 サーヴァント二体の凶刃は将の身体を狙ってはいなかった 毒牙はシグナムの眼前にて交錯し、彼女越しに迫る対面―― つまりは相方であるライダー、ランサーにそれぞれ狙い放たれており それを互いに防御するといった不可解な結果に終わっていたのだ シグナムはその見当違いの攻撃、 自ずとこちらの肉体を逸れた刃を叩き落したに過ぎない デバイスの手に残る感触の何と他愛ない事か トドメとして放たれた絶死の牙はその実 宝具による一撃ですらなかったのだ――― ―――――― 疾風が稲妻を穿つべく吹き荒れるその先に 彼は彼の求めた相手とそれを喰らおうと迫る怪物の姿を認める 貫き穿つはずの黒衣は天に舞い上がり 場に立ち塞がるは求めて止まなかった相手 しかしその立会いは彼の望んだ展望からはあまりにも懸け離れ 真紅の牙は刹那―――振るうべき相手を見失う 胎に溜め込んだ呪いの力は行き場を無くし 対峙するは紅と、紫 その奥から迫る紫紺の大蛇が好敵もろともに 自分を飲み込もうと巨大な顎を覗かせた 二度も俺に宝具を向けるか、――― そも………あれは自分の相手のはずだ 愛すべき敵は戦士にとって恋人も同じ 失った矛先は怒りと共に新たなる獲物を求めて猛り狂い 彼は紅蓮のその向こうの紫に向けて狂犬のような眼差しを向けた しかして迎え撃つ光は二つ かの牙の及ぶは個に対しての絶対的な殺傷であり 二兎を追うには及ばない 疾風は今一度、大いなる無念と共に その牙を仕舞わざるを得なかった ―――――― 紫紺の髪が翻り 空を切り裂いてその身を躍らせる怪異 我が身を焼いた無礼な炎を今、完膚なきまでに吹き消そうと 駆ける眼前で三つの光が弾けて飛んだ 彼女が殺意を以って求めて止まぬ紅い光は踏み止まってこちらへ相対 彼女が歪な好意で求めて止まぬ金の光が上空へと舞い上がる そして彼女が求めぬ蒼い光が今――殺気を以って彼女を刺した 彼女にとって英霊は元より怨敵 ソレに全開の殺意を向けられては反応せずにはいられない 何のつもりか――? その汚い槍が自分の心臓に向いている その汚い槍で自分の獲物を散々に傷つけてくれたようだ 照準の定まらぬ大砲 その全身を覆った強大な力を持て余した中で 彼女は無粋な横槍に激しい怒りを灯す 獲物を遮る壁二つ だが先にそれを排除すれば 其を抜いた上方にある雷纏いし金色の蝶には届くまい 自身の紅き命の水で描いた方円陣は今一度―― その行き場を失い、霧散するのだった ―――――― 「「――――、」」 かくしてあの瞬間 四つの光が至った思考が出揃ったわけだが……全く笑い話にもならない 二人の取った選択は結局、「保留」―― 意気揚々と飛び込んでいってこれでは、、あまりにも粗末な結果だろう 「槍術を極めた男にしては幼稚な誤爆ですね  アイルランドの御子――早くもヤキが回りましたか」 「てめえこそ邪魔しやがって…何のつもりだライダー」 「貴方が先に間合いに入って来たのでしょう?  あそこで互いに宝具を打ち合えば上空のフェイトに狙い打たれていた」 「…………」 なのはとフェイトの砲撃連携のようにいくわけが無い 彼らの切り札――宝具はあまりにも、、威力がありすぎて デバイスのような細かな調節も出来ない 唯一無二の尊き幻想は連射が効かず、連携するように作られてはいないのだ しかも放つ前後に膨大な隙が出来る つまりは手詰まり―― 目の前の敵を撃てば上空のフェイトに撃たれ フェイトに狙いを変えれば正面の敵に撃たれる かと言って踏み止まれば相方の宝具発動に撃たれる 彼らにとっては絶好の機会が一転、三竦みの檻に閉じ込められたような戦況に陥り フェイト、シグナムの運や機転も相まって 場はジャンケンでいうグー、チョキ、パーの出揃ったあいこのような状況に成り代わっていたのだ フェイトは友を見殺しにした薄情な選択を自ら責め苛むだろう だが、時に冷徹なまでの最善がか細い糸のような希望を手繰り寄せる事もある シグナムの重き覚悟と心胆、自身の命すら賭けて揺るがぬ合理的判断が 天秤が相手に傾ききるのを寸でのところで踏み止まらせた そして決して私情に崩れず己が役割に徹したフェイト この二人だからこそ――事態の好転は起こった もし魔道士が感情に任せて走っていれば、二人は諸共に宝具で焼き尽くされていただろう 互いに信頼していなければ為しえぬ二人の絆が、絶対の窮地を凌いだのだ 「ライダー……一つ聞いていいか?」 「―――、」 そして対するサーヴァントの両者に 彼女らと同じような信頼を求める事はないだろう 何故ならこの二人はもともと――― 「さっきのアレは俺も巻き込む気だったのか?」 「―――アレとは?」 「とぼけるんじゃねえ  一度目に森からすっ飛んで来た時の事だ」 「さて何のことやら――貴方など眼中にありませんでしたから」 「………」 敵を上方に迎えているというのに 今、立ち上がった両者の瞳に写るのは―― 「ライダー、お前は――俺の敵か?」 「何を馬鹿な事を…」 共に協力し、この窮地を脱する心など断じてない 「―――敵に決まっているでしょう?」 「………だよなぁ」 ただ互いの関係を、、 改めて認識する事になったのみ――― ―――――― 臍の横の深い傷から止め処なく溢れるモノを右手で押さえ 拭っても拭っても一向にそれは止まる気配さえ無い それでも烈火の将は剣を構える 敵が起き上がってくるのを眼下に見据えながら その口から漏れる軽い舌打ち 魔道士のあの砲撃を食らってなお立つ耐久力は見ていて嫌になるほどだ だが、いくら何でもダメージがゼロであるとは思えない ならばすぐさま追い打ちをするのがセオリーであるのだが―― 「シグナム……ひとまず待って下さい」 いつもなら迷い無く踏み込み一気に制圧するこの場面で 踏み込もうと追い足に力を篭める将に制止をかけるフェイト 「詰めの好機、、奴らの体勢が整ってからでは遅い  せっかくのお前の砲撃が無駄になってしまうぞ?  それとも……何か考えがあるのか?」 「それは私達も同じです  こちらのダメージも重い…今、闇雲に攻めても攻め切れずに  先の二の舞になる可能性が高いと思います」 降って湧いたようなチャンスにおいそれと飛びついて それでどうにかなる相手で無いのは疑いようも無い事実だ さっきはそれであわや敗死の憂き目にあった パートナーの片方が死に掛けたのだから 今は平静を装っているフェイトが慎重になるのも当然である だが、どうする―――? このまま馬鹿みたいに指をくわえて待っていて 敵を立ち直らせてしまっては元も子もない ここは一刻も早く攻勢に出ねばならない場面なのだ 「コンビネーション」 「?」 思案に耽る事、一秒―― 眉をしかめて一瞬考え込む仕草をしたフェイトが 現状を打破すべくぽつりと呟いた一言がこれだった 「敵は非常に強力で危険な相手です  悔しいけれど一対一でまるでアドバンテージを取れない以上  1on1は一度封印して常に二人で仕掛けるべきです」 一対一ではアドバンテージを奪えない―― 言い放つフェイトの言葉に内心、複雑な表情を見せるシグナムである 屈辱的な意見だ ―― 一騎打ちでベルカの騎士に負けは無い ―― そう称されるほどに彼女らヴォルケンリッターは白兵戦に絶対の自信を持っている あの高町なのはでさえ、封鎖領域のドッグファイトでは6:4でシグナム相手に分が悪いほどだ それがこの体たらく…… 裂けたBJから露出した肉体に数々の裂傷や腫れを覗かせる二人 相棒にこの言葉を吐かせてしまったのも納得であろう 赤く腫れ上がった口元を拭う この剣にて守るべき隊長、フェイトテスタロッサの全身に無数に刻まれた蹂躙の跡 手にも足にも胴にも、そして顔にも傷が覗き 西洋人形のように整った容姿に痛々しい痣が残っている 己が目の届く内にありながら 友をこれほどまでに傷つけさせてしまったという事実を前にして自身の誇りなど小さな事だ 今はそんなものを封印し、事態の打開に当たるべきだろう 「だがそれでは一対一が二対二になっただけだぞ  数の有利が働くわけでもあるまい?」 「それなんですが……気に掛かる事があるんです」 フェイトが敵から視線を外さずに、 「…………彼らは本当に味方同士なんでしょうか?」 「何だと?」 内に抱いた疑問を口にする 目を白黒させる騎士 「馬鹿な……共にこちらに攻撃を仕掛けてきたのだぞ?  それが味方同士でないなら何だ?」 「確かに二人とも私達の敵である事は間違いありません  ですが、それが=味方同士であるとは限らない  利害の一致か、状況によって仕方なく手を組んでいるか……  そういう成り行きで組まされてしまう事は珍しい事じゃない、、」 「……」 確かに敵の内情によってそういう事もあるだろうが―― フェイトの横顔を改めて見守るシグナム どう考えてもその理論は唐突過ぎる様に見受けられるが 彼女の瞳には少しも臆したところはなく、冷静な司令官の顔が戻っている 「さっきの敵の連携の乱れでそう思ったのか?  あれだけで判断するのは性急過ぎないか…?」 「それだけではありません  実は初めから……違和感を感じていたんです」 そう――初めから彼らはどこかおかしかった 轡を並べて現れた謎の怪人 だが険悪な空気というのは黙っていても滲み出てくるもの 当然、フェイト達には知る由もないが 目の前の相手は元は本来、命を削って殺しあう者同士 信頼や友好的な空気などを醸し出せる筈が無い それを、詳細は分からずとも彼女はずっと不思議に思っていた――― 執務官は戦闘において前線の兵士を統括し指揮する立場にある 当然、敵と真っ向からぶつかるだけでは被害が大きすぎて話にならない 故に人的損害を最小限にすべく、自ずと人を、戦況を、 場に渦巻く人の感情を読む能力に長けてくる 「あの二人……目を合わさないんです」 そのフェイトの洞察眼が捕らえた 敵の二人の間に渦巻く感情 目を合わせない―― 他の者が言ったのならば、そんな瑣末な事でと笑うところだが 他ならぬフェイトテスタロッサの言葉である この思慮深い執務官が何の確信も無い事を口に出すはずが無い 初めから言葉を交わしていながらあの二人はずっと目を合わそうともしなかった 野生動物が、目が合った瞬間に喧嘩が始まるが故に互いの目をおいそれとは見ないように ―――どこか壁を作っていた 「そして戦闘開始直後、すぐにこちらを分断して一騎打ちに持ち込んできた  当然、自分達の戦力に絶対の自信を持っての事でしょうけど、、」 一騎打ちでは負けないという自身の元にこちらを分断し、各個撃破しようと企む それ自体はいい、、間違った戦術ではない だが―――本当にそれだけであろうか? 単騎の戦闘に自信があるのではなく 単独で行動したい理由があるのだとしたら? 轡を並べて戦う事に何らかの抵抗を感じているのだとしたら? 先ほどこちらのチェンジに対応できず 一時は完全にペースを明け渡した事を見ても分かる 四者が集ったあの場にて、敵は互いをフォローしようとする動きさえなかった それどころか森から飛び出してきた自分らを見て明らかに強張った槍兵の様相を鑑みれば―― 微かにだがそこには確実に、混戦を嫌う感情が見え隠れしているのが分かる 「しかしな……初めに奴らが自転車に乗ってきたのはどう説明する?  仲の悪い者同士がああやって相乗りなどするものなのか…?」 「わ、私も……それは最後まで引っかかっていたんですが、、」 歴戦の貫禄を伴っていたフェイトの口元が少し引きつる 自身の理論を詰め切れない居心地の悪さを感じてしまう魔道士 こめかみに垂れる一筋の冷や汗――若干、弱気になりつつある瞳 あれだけが、、あれだけがどうしても説明出来ないのだ… 「………分かった」 しかし場に100%の理論などは無い 元より手詰まりのこの状況 こちらから動かねば話にならず、動くならば早い方が良い 「元よりこの剣はお前に預けた身だ  ライトニング2……隊長の指示に従おう」 「シグナム……ありがとうございます…」 信頼する友の出した答えに乗るのに何の不満があろうか ここは歴戦の執務官の観察眼と勘に全額賭けてみよう 「お前と肩を並べて戦うのは久しぶりだな  初期パターンはいつも通りで構わんか?」 「はい……ただし、くれぐれも気をつけて  初めは踏み込みすぎず、徐々にペースを上げて行きましょう」 「了解だ」 言ったが早いか―― 開けた視界にて今、空を取ったライトニング隊が左右に分かれ 見下ろすサーヴァントを中心に旋回を始める 中盤戦、第二幕――― 数々の苦戦に見舞われながらも今 空戦魔道士の本領を発揮出来る空にてサーヴァントと相対する二人 軋む肉体に鞭打って 滲む脂汗もそのままに 荒ぐ呼吸を整えながら 再び開かれる殺劇の宴に身を投じる――フェイトとシグナム ―――――― 「……面倒くせえ事になったぜ」 人知を超えた存在であるサーヴァントに対し 曲がりなりにも優位に立てるものがいるとするならば それは羽を有している者だろう ―――飛べる 当たり前過ぎる事だが空の優位性 敵の頭上を取れるという事の恩恵は計り知れず 高速で凄まじい膂力を振り回してくる彼らを相手にした場合 それは限界領域での攻防にそこはかとなく生きてくる 勿論、ただ宙に浮いているのではダメだ それでは叩き落とされるハエと変わらない あくまで空での戦闘を「モノにしている」事が絶対条件 ―― 即ち、「空戦」が出来るという事 ―― 当然、ランサーもライダーもあの敵を宙に上げる事のやっかいさは身に染みている だからこそ数々の予防線を張って彼女らを飛ばせないようにしてきたのだが… その行い空しく今、ミッド随一とも噂されるライトニング隊を中空に見上げる形となってしまったのだ 両翼に展開するように飛び こちらを挟み込みつつ機会を疑う剣士と魔道士 ―――術がないわけではない 羽持つ幻想種すら地に堕としてきた英霊達 対抗する術は十分に持ち合わせているのだが、 さて、、あの二人に対抗すべく宝具を全開にしてしまっても良いものか それをしてしまい 隣に侍る 「本当の敵」 に決定的な隙を晒してしまって、、 ――― 本当に良いものか…? ――― 高速で左右に分かれる敵が徐々にその輪を狭めてくる 今にも飛び掛って来ようと構える猛禽がニ匹 もはや秒の暇もなく戦闘は再開される こちらの損傷もまた決して軽くは無い これで動けなくなるほどサーヴァントはヤワではないが、 だが―――不安を抱えたままでは満足な戦闘は行えない 「――――、」 山なりに緩急をつけて距離を測るライトニング隊 ソレに対し迎え撃とうと鎖剣を構えるライダー 「っ、ぐ――!?」 その彼女の腕に突然―――衝撃が走った 予想だにしないところから来た、攻撃? 隣の男の紅い槍の穂先が ライダーの二の腕に思いっきり叩きつけられていたのだ 後ずさりする騎兵 効いたというより驚いて、その場につんのめる 「―――何のつもりですランサー」 「てめえはもういい………引っ込んでな  やはり信頼の置けぬ相手に背中を預けられねえ」 肩を並べる味方 (味方ではないのだが) の突然の申し出 暫くポカンとなった後、嘲りの視線を返す女怪である 「彼女達を一人で相手にすると?  音に聞こえしその槍とて、荷が勝ちすぎると思いますが」 「邪魔だから消えろと言っている  あまり俺に近づくと一緒に殺しちまうかも知れないぜ?」 外堀を埋め尽くす万の敵よりも天守に押し入った一人の刺客の方が遥かにタチが悪い 改めて敵を望むこの局面―― ランサーの下した決断がこれだった 「近づくなとはご挨拶ですね  私の背中にべったりと張り付いていた者の言葉とは思えない」 「おかげで安物のハブ酒みてえな匂いが染み付いて取れねえ…どうしてくれる?」 「――――安心するといい   洗っていない犬の匂いしかしませんから、貴方は」 両者は思い出したかのように氷のような殺気を共にぶつける まるであの冬木の地で遭遇した時のように、、 今、それを向けるは違う相手だというのにどうしても心情的に割り切れない 彼らは聖杯戦争のサーヴァントなのだから―― 「―――いいでしょう……私は私で好きに動かせてもらう  死ぬのは構いませんが、せいぜいサーヴァントの名に泥を塗らないように」 「名、だぁ?   英雄みてえな口利いてんじゃねえよ化け物が  ―――さっさと行きな」 「ふん……」 槍兵と騎兵、まさかの決別 短い会話がほどなく終わるのと 戦況が動き出すのが―――同時だった! 「おおおおあぁぁあっっ!!!」 吼え狂う烈火が円を描く軌道から一転 高速で上空より飛来した瞬間、 「ハッハァ!!!」 男が槍を翻してそれに答える 再び待ち望んだ瞬間に歓喜に震える騎士と槍兵 空を舞う猛禽と地を駆ける猛獣が再び相対し殺しあう そして騎兵は爆ぜるように後方へと飛び荒び―― 再び、森の中へと消えていったのだった ―――――― 獲物を狙って滑空する紅蓮の鷲が 地上を駆ける疾風の獣と再びの邂逅を見せる その形相は共に猛り狂った肉食獣のそれだ 双方、決して浅くない傷を負っているというのにそんな素振りは微塵も見せない いや――手負いの獣は恐ろしいという格言通りか 牙を剥き出しにして互いの喉笛を食い千切ろうと翻る肉体は見るものの心胆を凍えさせる事だろう その場で二人の戦いを見守るフェイトもまたその一人 明らかに自分とは違う、近接での「犯し合い」に冷たい汗が止まらないが… だが、そこで凍ってしまうような者に烈火の将が剣を預けるわけがない 槍兵が迎え撃つ剣士の脇から、新たに放たれる何かがあった 金色の細い短剣のようなそれが将に先行する

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