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序章・始まりの闘い 白銀の騎士王中編」を以下のとおり復元します。
??? ―――

次元の狭間にて――――
 
鈍色の光沢を放ちながら、たゆたい胎動する
此度の神の遊戯の心臓部となるであろう揺り篭。 
その内部。計器やモニターがせわしなく動く一室で所狭しと働いている少女たちがいる。 

彼女たちはナンバーズ。 
無限の欲望が生み出し戦闘機人。 
狂気の科学者ジェイルスカリエッティの娘たちである。 
しかし12体で対を成すはずの彼女たち姉妹も、No2ドゥーエは先の大戦で戦死。 
半数は異なる道を見つけ袂を分かった。 
スカリエッティは彼女らに対し共に来るよう強要も強制もしなかった。 
創造物でありながら造物主に全てを依存しない彼女たち。 
それはまた、彼の愛した「生命の揺らぎ」。その在り様そのものなのである。 

結果としてスカリエッティの逃亡に付き従ったのは5体。 
No1ウーノ。No3トーレ。No4クアットロ。No5チンク。No7セッテ。 
あくまでも己の意思で、たとえ死すとも最後まで博士と共にあろうと決意した者たち。 
現在、彼女達は父親であるスカリエッティの<遊戯>―――そのデータ収集に当たっているのだが… 

「どうしたクアットロ?手が止まっているぞ。」 

3女トーレが妹を嗜める。 

「……………」 

先程からどこか上の空でモニターを凝視している妹を訝しげに思うトーレ・ 

「クアットロ。」 

「…………トーレ姉さま」 

口を開く4女。 
その口調にはいつもの慇懃さがなく、どこか鬱蒼とした響きが含まれる。 

「何だ?」 

「前の戦い、姉さまはフェイトお嬢様と闘いました。」 

JS事件―――― 
博士と自分たちの理想の世界を作るため 
そして博士を利用し弄んだ時空管理局へ鉄槌を下す正義の戦いは――
彼女らの無残な大敗に終わった。 

「どうでした?」 

「……………」

どうもこうもない。 
AMF内に引き込み、十分な勝機を持って望んだにも関わらず 
自分ら戦闘機人は機動6課のエース級魔導士に手も足も出なかったのだ。 

「私を嬲る気か?クアットロ。」 

「そんなつもりはありませんわ。
 いいからお答え下さい。」 

いつになく強引な妹。その双眸に少々気おされる。 

「バカが……今更、語る事などあるものか。 
 No2が不在だったあの時………実行部隊では私が長だった。」 

噛み入るように語るトーレの口は重い――― 

「その責務と重みを背負って事に当たって、挙句があのザマだ。 
 プライドをズタズタにされた………あの結果が全てという事だ。」 

端で聞いていたNo7セッテも口元を引き結ぶ。 
フェイトTハラオウンのオーバードライブの一撃を彼女は一太刀すら受け切れなかったのだ。 

「その程度ですか。」 

「………何だと」 

妹のあまりの言い様に気色立つトーレ。 
だが、すぐに妹の不自然な態度に首を傾げる。  
この妹は人を小馬鹿にしたような性格ではあったが
このように目上の自分に食ってかかるような口を利いた事は今まで一度もなかった。 

「………私にそこまで絡むとは
 何か大層な言い分でもあるのだろうな?」 

と言いつつも、トーレは何となく気づく。 
4女の目は眼前のモニターで繰り広げられている光景に釘付けだった。 
その一つの結果に―――恐らく妹は心揺り動かされているのだろう。 

「トーレ姉さま。あの時…………
 ディエチちゃんが何て言ったか教えて差し上げますわ。」 

―――― こいつ……本当に人間か ―――― 

そう、トーレが機動6課の両翼であるフェイトを相手にしていた時 
クアットロとディエチが迎えた敵こそ―――あの管理局のエースオブエース。 

「私は博士の生み出し戦闘機人。ナンバーズの4、クアットロ。  
 死番を賜りしは悪の華。博士の夢を叶えるため世界に反旗を翻した時から…… 
 いつでも死ぬ覚悟は出来ておりました。」 

その心胆に刻まれた忌まわしき記憶―――聖王の揺り篭・最深部。 

「その私が……恐怖に打ち振るえ、悲鳴を上げて、許しを請うように逃げ惑った。」 

網膜を焼いた断罪の桃色光。
4女の口調は次第に熱を帯び――― 

「必勝の布陣に引き込み、娘と殺し合わせ、仲間の窮地を見せつけ…… 
 ありとあらゆる方法で揺さぶりましたわ! だのに………
 あの女はまるで揺れず動じず、任務遂行のみを優先する冷徹な思考と、そして……」 

ついにはヒステリックな声へと変貌していた。 

「こちらの戦略を根底から覆す馬鹿げた戦闘力を持って! 
 私たちを薙ぎ払いましたの………ゴミのように。  
 まさにバケモノ………いえ、アクマじみた強さでしたわ。」 

その相手が―――――そう、再度モニターに目を落とすクアットロ。 
そこには彼女が「アクマ」とまで言い放った相手。 
エースオブエース高町なのはが為す術も無く接近を許し 
攻撃を防ぐ事も許されず、ものの数分で為す術もなく叩きのめされ敗北する寸前の光景が広がっていた。 

「お前……この魔導士を応援していたのか?」 

「ま・さ・か!」 

心外だとばかりにかぶりを振るクアットロである。 

「生きながらに五体を引き千切ってやりたい相手ですわ!
 今だって一言ザマーみろと言ってやりたい気持ちで一杯ッ!
 …………でも、ここまで一方的だと正直、複雑です。   
 じゃあ、それにプチッと潰された私達は何なんですの?という……」 

「二人とも無駄口を叩かない。作業に集中なさい」 

長女のウーノが嗜める。 気持ちは分かるが今は任務中なのだ。 

(しかし………これは確かに由々しき事態だわ。  
 英霊のデータを測定するのに十分な駒。
 こちらの最強のカードをぶつけたつもりが……) 

これでは<ゲーム>にならない。 
エースオブエースがここで屠られる事自体は歓迎すべき事なのだが、その先――――
埒外の力を制御するためには奴らのデータをあと少しでも引き出してくれなくては困るのだ。

「……………ウーノ。」 

そんな思案にふける長女のすぐ横に、いつの間にか立ちすくむ人影があった。 

「どうしたの? チンク」 

その眼帯の妹、チンクが―――何か神妙な顔でこちらを見ている。 
彼女は確か博士の客人をもてなすその準備で忙しかったはずだ。 

「姉………教えて欲しい。」 

沈鬱な面持ちのまま、意を決したように一言―――― 

「マーボー豆腐とは何だ?」 

今だ悪戦苦闘する、その強敵の詳細について頼れる姉に知恵を求めていたのだった。 


――――――

現在、フラスコの中にて交わる異なる世界――― 

その向こう側の人間。
ジェイルスカリエッティの案内人兼話し相手として招かれた黒衣を纏った人物。 
それが言峰綺礼である。 

「忠告した筈だが? この手の魔術師ではセイバーには歯が立たないと」 

「困ったねぇ………クク。 
 ウーノではないがもう少し頑張ってくれないと祭が盛り上がらないよ。」 

あくまで無表情の黒。コロコロと表情の変わる白。 
どこまでも対照的な二人の談話は続く。 

「ヒトの身が心血を注いだ程度で手の届く―――
 そんな領域にはおるまいよ………英霊という存在はな。」
 
ことにセイバーの対魔力は絶対―――
魔弾使いが、いかに策技を繰ろうとどうなるものでも無い。 
これは当然の帰結。そう言い放つ神父。 
しかしてその顔を科学者は悪戯っぽい笑みを浮かべて覗き込む。 

「ところが……実はそうでもないさ!」 

「?」 

「あれを見たまえ!」 

既に九分九厘、決まってしまった戦い――― 
そのモニター上で、今まさに異変が起ころうとしていた。 


―――――― 

「…………ぐ、ぅ…」 

そこには信じられない光景―――
あの不沈不屈と言われたエースオブエースが力無く膝をつき
苦悶に顔を歪ませ、地面に四肢を落とす姿があった。

それはセイバーの魔力の篭った渾身の一撃。 
剣の腹――刃の部分を使わない打撃であったが故に胴体が二つに分かれる事だけは免れたが…… 

(や、やられた……こんな、簡単に直撃を貰うなんて…) 

油断―――――否。
確かに故郷の惨状に対する動揺が、この教導官をして些か判断に陰りを見せた面はあるのだろう。
だがそれを差し引いたとしても、この魔導士の懐を易々と犯し、数撃で倒し得る芸当―――
そんな偉業を成し遂げられる者がそういる筈がない。
この目の前の騎士は、凄まじく強い……………途方も無く、途轍も無く!

声にならない嗚咽をかみ殺し、地面に爪を立てて必死に起き上がろうとする高町なのは。 
しかし右の脇腹は鍛え抜かれた屈強な男ですら一撃で昏倒する人体急所の一つ。 
気絶しなかっただけでもその胆力、精神力を褒めるべきではあるが
本能的に立ち上がろうとするも―――

(まずい………動けない…
 迎撃の体勢が取れるまでまだ時間がかかる……)

苦しげな呼吸をひり出す高町なのは。
蒼白を通り越して土気色に染まった顔はチアノーゼ症状。  
その姿を―――奢るでもなく誇るでもなく見下ろし、悠然と立つセイバー。 

(致命傷ではない筈………今回の企み。サーヴァントの詳細。
 そして―――我がマスターの所在。一切合切、吐いて貰う) 

歩を進める騎士。 
しかしてその視界が―――

「―――――え?」 

ガクンと唐突に――――落ちた。 

呆けた声を上げてしまうセイバー。 
当の彼女自身にも何が起こったのか理解できない。 

「……!??」 

まるで予想だにしなかった体の変調。痛みも損傷もない。 
傷すら負ってないその身が唐突に機能を停止し、突然ヒザをついていたのだ。 
それは奇しくも――眼前の敵と同じ姿勢。
不屈のエースと同様、戦いにおいて決して折れぬと謳われた伝説の騎士のまさかの痴態。

(ど、どうして………)

この脱力感――――覚えがある。 
聖剣使用時の際の魔力を急激に消費した時に起こる、魔力切れによる虚脱感に酷似したその症状。 
目線が下がった事で、眼前の魔導士と目が合う――― 

対して高町なのはの目は虚ろで未だ力はないが、意識がなかったわけではない。 
脳のダメージは意識をシャットアウトさせるが器官へのダメージは「苦痛」という形で逆に意識を覚醒させるからだ。 
今はそれが凄くありがたい………それが故に、今まさになのはは
セイバーの突然の昏倒をその眼にしっかり焼き付ける事が出来たのだから。 

――――そう、これは期せずしてなのはに与えられた離脱の機会 

「ぅうう……う、あ…………ああっ!!」 

それを取りこぼす彼女ではない。
今だ全身に力が入らない身でありながら杖を支えに立ち上がる高町なのは。 

(馬鹿な……今更立ち上がったところで―――) 

折れた足に力をいれ、騎士もまた再び歩を進める。 

「……貴方に何が出来る?」 

何ら余力を残さぬその肢体。
組み伏せるのは簡単だろう。もはや勝負はついたのだ。 
だが、突如として―――

「!!?」 

なのはの法衣が翻る。
目を見張るセイバー。 
目前の魔導士の魔力放出が起こす乱気流。 
その風に乗り、高町なのはは自らの翼を展開。 

(まさか飛行魔術!? しまったッ!) 

セイバーが与えてしまった一瞬の隙は、しかし離陸体勢を取るには十分。 
なのはに空へのエスケープの機会を与えてしまうのだった。 


―――――― 

魔力ダメージ―――― 
対象物に物理的な損傷を与えず、その内なる魔力のみを攻撃する 
「非殺傷設定」と呼ばれるミッドチルダ式魔法の技術である。 
本来ならば対象を殺害せずに相手を拘束する最良の手段として使われるこの技術は 
霊体であるサーヴァントにとってはこれ以上なく恐ろしい武器となる。 
何故ならば魔力を動力源とするサーヴァントがそれを抜かれるという事は  
人間の体内から血液を一度に抜くに等しい行為であるからだ。 

「ふむ……だがどういう事だ?」 

「そうだねぇ。そもそもミッドチルダの魔法は……… 
 おっと失礼、キミの世界では魔法と魔術は違うのだったか。」
 
ミッドチルダではそもそもそんな区別は無い。
神父が生を受けた世界の魔術・魔法とは術式、体系―――何もかもが違いすぎる。
それは単なる異世界同士の言葉遊びの類に過ぎないのか。 
それとも分ける必要の無くなった世界故の優越感なのか。 
魔法と魔術の区別とは即ち人の叡智による試行の届く世界か否かであり 
どんなに時間と資源をかけても決して至れぬ領域を言峰の世界では「魔法」と言う。 

その区別の必要が無い世界とは即ち――― 
異なる次元を渡り歩き、時空を支配し、条件さえ揃えば死んだ人間すら蘇生させる――― 
その在り得ざる領域にまで人の手が介入し、全てを理論で説明し尽くれている
そんな世界の事ではないだろうか? 

ならば―――確かに魔術師=魔導士にはならない。 

科学技術や人の叡智では決して届かぬ神秘に至ろうとするのが言峰の世界の魔術師だ。 
対し、科学技術や人の叡智が神秘を犯しつつある世界にてその力を行使する存在がミッドチルダの魔導士であるならば  
両者はまるで異質なモノ同士――――まさに真逆の存在なのである。 


―――――― 

空へ舞い上がろうとする高町なのは。
間髪入れずに襲い掛かるセイバー。
突然の昏倒を感じさせない凄まじい追い足! 

(離脱を、………!) 

セイバーの一瞬の隙に対し満身創痍の状態で立ち上がったなのは。
全身にバチバチと電流を流されたような痺れが走るが知った事ではない。
この期を逃がせば自分は為す術もなくここで倒されてしまうのだ!

「行かせるかッ!」 

吼えるセイバーが猛獣の如く飛ぶ鳥を追撃する。
現在、標的の高度10m強。 
そのまま敵が安全地帯に逃れるのを黙って見ている騎士ではない。 
サーヴァントの人間離れした身体能力を持ってすればそこはまだ十分な射程圏内だ。 
助走距離は3歩弱。白銀の肢体が地を蹴り、宙空に舞い上がる! 
そして騎士の飛翔が既に半死の魔導士を脅かさんと――― 

「堕ちろッ!!」 

「ぅ……!!?」 

ガォンッッ!と、魔力と魔力の激突する音が中空に響き渡る。
敵の剣に対し、最低限の急所をかばい体を丸めるように防御体制を取る高町なのは。 
  
<master!!!> 

復

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