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なのはvsセイバー完結編 - (2008/05/21 (水) 03:21:54) の編集履歴(バックアップ)


??? ―――

――― コクリ、、

誰かが唾を飲み込む音がした

それだけ

彼女らの発した…… 否、
発する事の出来た音はそれだけだった

誰もが口を利く事はおろか
計器を弾く指の動きすら凍結させて
画面に釘付けになっていた

こんな事ではいけない…
自分達は物見やヤジ馬気取りの観戦者ではない
このフィールドで今行われている戦いを正しくモニターし
監視しなければならない

だのに、、その思考がなかなか動いてくれない

画面や計器がガタガタと震えているのは
監視機器、計器等が対応しきれず
動作不良を起こしているのだろう

だが―――誰も気にも留めない

それはそうだ
だってもはや計器など――何の役にも立たない
データや既存のステータスなど何の目安にもならないのだから

猛り狂う竜と化した白銀の騎士
その剣の英霊が叩き出す数値の悉くが「測定不能」

そしてそのデータ通りにいくならば
目前で対峙する哀れな犠牲者は
たちどころに倒されていなければならない

なのにその相手――エースの中のエースと呼ばれた魔道士は
基礎数値やスペックからは考えられない性能を叩きだし
振り絞るようにその竜に食いついていく

呆然と、眺めているしかない……

彼女達は戦闘機人
戦うためにこの世に生を受けた存在
銃弾飛び交う地にて駆け、襲い来る敵を打破する事にかけては特化した存在

だのに、、

それなのにその自分らが今、目にしている…
眼前で行われている闘い――

そのレベルが一体 
「どれほどの高み」に位置しているのか、想像すら出来ない

何故、あそこで立ち上がって巻き返せる…?

制空権を取られているのに、ほぼ直撃無しで逆に相手を引き摺り下ろした!?

何故避けれる……? 何をした…?

視認不能なあの6連撃を、見切ってかわすなんて……想像も出来ない


彼女らの不明を本来なら嗜めるはずの長女ウーノでさえ
厳しい顔でその画面を凝視している

各々の胸中には――
驚愕であり、恐怖であり、自分では到底届かない、という不甲斐なさであり
様々な思いが綯い交ぜになっていたであろう

だが、皆一様に感じていた事がある
戦いを生業とする者ならば誰もがそれを持っている

遥かな高みに位置する者同士の、死力を尽くした果し合い
戦場を駆け抜ける二匹の美しきケモノ達の
剣と魔法の終わりなき舞い

それに胸が……踊らないわけがない―――


早い話が

言葉を失い、見入っていたのだ

彼女達全員が――その

――― 剣と空が織り成す 戦いという名の輪舞に ―――

――――――

剣と英霊と空の英雄
そのいつ果てるとも知れぬ邂逅が――
今度こそ終わりを迎えようとしている

何よりも誰よりも対峙する二人が…
その終局を敏感に感じ取っている

いまや5枚の天井を隔てた先にしか相手の様相を感じ取る事が出来ない
故に互いの表情、意思の疎通が行われるはずもない

だが、それでもこの二人には分かるのだ
互いに全力を尽くし、肌を斬りあい、血を混ぜ合いながらその身をぶつけあった
決して平和とは言えぬ血生臭いまでの濃密なコミュニケーション
その果てに舞い降りる、、終局

次で―――終わる

次の攻撃で間違いなくどちらかが動かなくなる

セイバーは動かない
その最後の一手を打つにあたり
致命的なまでに出遅れた、その時間を取り戻そうと
全霊を以って「それ」に没頭する

対する高町なのは
デバイスの電子音によるカウントはきっかり10秒――その工程を完成
相手を屠り去る、その準備を相手より先に終わらせていた

利き腕を震わせる程に極限まで溜められた――魔力の塊
それがフロア全体を軋ませて唸る

まるで蜃気楼のように周囲を歪ませて
眼下の騎士に下されるであろう
あまりにも巨大な鉄槌――

―――― 集束砲 

周囲に散乱する魔力の残滓をその身に集め
自身の限界出力を遥かに超えた砲撃を行う超高難度の術式
それは個人の行使出来る魔法の出力では
間違いなく最強の部類に入る技

だがそのあまりの威力に反比例するかのように
術者の負担や安全性の欠落が付きまとうこの術は
当然の事ながら――それ相応の覚悟、技術、経験を伴わねばならない

大き過ぎる力には常にリスクが伴う

何せ自分の限界を超えた出力を捻り出すのだから
集めた魔力の制御を失敗して暴発させれば
間違いなく、、術者自身を消し飛ばすであろう諸刃の剣となる

故に集束砲は
広大な時空管理局の魔道士の中でも
特に使い手が限られている荒業なのだ

その、決して使い手の多くない術式を―――

とある少女は――――9歳にして編み上げた

かつて少女だった、その娘は言う

自分には才能なんて無い
これしか出来ないからと
これに特化しているだけと

だが並の人間には御するどころか集める事すら至難な量の魔力を
難なく集め、自在に編み上げるその姿が――――
才能でなくて何であろうか?

本人がどう言おうが間違いなく 彼女は、、

――― 天才だったのだ

――――――

??? ―――

「…………」

異界からの客人である黒衣の神父が
腕を組み、その今まさに終わりを迎えようとしている戦いを
黙って見つめている

「ふふ………どうしたんだい? 綺礼」

その姿を横から無遠慮に覗き見る科学者
狂気の笑みを常に絶やさないその表情は
見方によってはどこか享楽的で憎めない

「……何がだ?」
「いやね、死んだ魚のようだったキミの目に心なしか光が灯ったように感じられたのでね」

…………

どうやらこの遊戯に自分がまるで興味を示してない事はバレバレだったようだ
ふん、と小さくため息をつく言峰綺礼
科学者も、道化のようでいて……なかなかに鋭かった

「退屈をさせてしまって申し訳なく思っていたのだ
 何せ客を招き入れた事自体が初めての体験でねぇ…
 どのようにもてなして良いのやら困っていたところさ」

「かまわん……取りあえずは目新しいものばかりで退屈も不自由もしていない
 お前の娘が持ってくる―――犬のエサ以外は、な」

脇の袖でガシャン、と皿の割れる音がした

ジェイルスカリエッティが、チラリと…
横目でその音がした方向を見やる

言峰からは丁度死角になって見えない、その袖の裏で
銀の髪の少女が悪戦苦闘している姿が見えた
恥辱や、神父の心無い言葉に晒されながら
一生懸命、たった今ぶちまけた皿の後片づけをしている

「んん、、まあ、そこも大目に見てやって欲しい…
 あまりうちの娘をイジメないでやってくれ
 娘にしても、客人に料理を持成すのは初めての体験なのだ……フフ」

軽口も早々に科学者は彼に本題を促す
その興味は今、この来訪者の様相に注がれている
招聘されて以来、この男は
異次元世界の存在を知っても
ロストロギアの英知を見せても
まるで眉を動かさなかった

それが今になって―― 
一体、何に興味を引かれたというのだろうか?

言峰綺礼は答えない 
答えないままに――
その目を画面上に向ける

そのモニター上には、白い外袴を翻して英霊と戦う魔道士
異世界の魔法使い―― 高町なのはの姿が映っている

男の視線は、その彼女に注がれているのだ

言峰から見たその戦いは、ヒトを超えた英霊と優れた兵器の戦いであった
故に英霊の相手はその兵器であり
トリガーを引くだけの者でしかない術者に
今まで、まるで関心を示していなかったのだ

何せ対峙するのはサーヴァント
いくら特異な力を持つとはいえ、所詮は人間でしかないその女が
英霊に比べれば取るに足らぬ存在であるのは明白だろう

確かにその力は、卓越した兵装と相まって凄まじいものだ
だがセイバーを凌駕するまでには至らない

故に、元より勝負にはなるまいと踏んだのだ

あくまでこの女を英霊と並ばせているのは武器

だから、その兵器の性能を英霊の力が上回った時点で――
装備の強さに支えられていた単なるヒトに過ぎぬこの魔法使いとやらは
容易く崩れ堕ちる

人間が銃の通用しない獣にくびり殺されるのと同じ
性能の優位を剥がされては、ヒトと英霊が勝負になる筈がない
為す術もなく打ち倒されるのは時間の問題と―――そう踏んだ

だが、戦いを見ているうちに分からなくなる……

一見すれば何の変哲もない、と言うべきか
傍から見ると戦いを生業にする者にすら見えない
おっとりとした空気を醸し出している女であった

それが闘神と化したセイバーを向こうに回して
為す術もなく潰れるどころか
少なくとも互角に競り合って見せているのだ

事に先程……相手をその砲撃で撃ち倒す時に見せた双眸は――

まさに戦鬼のそれ

その、あまりの変化に驚いた

少なくとも戦いを至上の喜びとする戦闘狂には見えない
初めから自分の命を捨てている、屍人じみた精神の持ち主というわけでもないだろう
己の身を削りながら正義に殉ずるかの如き存在、にしては
この女の目には奴ら独特の、磨耗した空気というものがない

他人の心を看破しその傷を切開するという起源を持つ男――言峰綺礼

その彼が、画面越しとはいえ第一印象を見誤り
未だその者の底にある起源が読めない

傍目に見ればどこにでもいる凡庸な女としか思えない
その器に内包された、英霊に匹敵するほどの修羅を、鬼を、
アクマの如き戦意を秘めた歪な存在―――

この不可解な女は 、一体どのような人生を経て此処に至ったのか…

この女の体を
その奥にある心を開くと――

「高町なのは、か……」
「ん?」

「……果たしてナニが―――這い出てくるのだろうな」

まるでショーケース上に展示してある
新しい玩具を見る子供のような光を目に宿しながら
黒き神父は――

舐め付けるように
その魔道士の女の姿を見つめていた

――――――

そう……彼女は天才だったのだ――

齢20にしてトップガンの称号を獲るほどの不世出の天才魔道士

本来が争いを嫌うはずの少女だった―――

父と母の経営する喫茶店を継いで
平凡で、平和な人生を歩むはずだった少女は
その力に出会った事によって、別のモノに変質する

あまりにも特化した魔法戦闘の素質
それは彼女を加速度的に屈強の戦士へと成長させてゆき
その内に眠る闘いの才能が――

相手を打倒する事に特化した――――1人の撃墜王を作り出す

天より与えられし皮肉な贈り物

言峰がそれを見誤るのも無理はない
何という歪な、神の悪ふざけとしか思えない組み合わせだろう
こんなにも脆く儚く虚弱な器に――
砲撃魔法と空を飛ぶという
最も苛烈で危険な力を詰め込んだのだ

今にも壊れそうな肉体に巨大過ぎる力を宿し
今日も彼女は空を飛ぶ

その在り様は、不可解を通り越して歪

まさにヒトが常に心の奥底で忌避する
進化の頂に達したが故に、己をも滅ぼす
手に余る、過ぎた兵器そのものの姿ではなかろうか?

だが、、、

忌まわしき兵器を連想させる身でありながら……
あまりの破壊力、戦闘力で
戦場に恐怖と絶望を振り撒く存在でありながら……

その姿が―――何でこんなにも美しい?

体を削り、血肉を犠牲にして
どこまでも高く飛ぶ女神
その儚さと雄々しさ、美しさに――

空の人間は皆、心を奪われる――

あれがエースオブエース
ミッドの空の誇りだ、と

皆が仰ぎ見るほどに高く、高く
誰よりも輝かんとする彼女の力は故に―――

――――― 星の光と称された ――――

The light of star ――― 

8階部分
今ここに、フィールドに残っていた全ての力の残滓が集う

いつの間にかセイバーの周りを散開していたスフィアも無く
それどころか騎士が気を抜くと
白銀の鎧の魔力まで持っていかれそうになる

戦場に点在する魔力と呼ばれる全てのモノを貪欲に貪り喰う
巨大なマモノがそこにいた

「―――――― !」

トランス状態に入っていたなのはが
自身を取り巻く魔力の渦を
その奔流を―――完全に制御する

人体に多大な負荷をかける集束砲 
そのマックスまで溜めた魔力は
従来のソレすらも逸脱したものに姿を変え――

恐らく現存するミッド式魔法の中でも最大クラスの破壊力を秘めた術式に変貌していた


其は ―― スターライトブレイカーEX ――

次元を隔絶する結界すら紙のように消し飛ばす悪魔の閃光
その小さな身体にあまりにも不釣合いな力を
魔力の綿飴のように編み上げ、己の懐に内包し

彼女は凱下の騎士を見る

未だ檻の中―― 動く気配すら感じない相手を見やり

「―――いける………」

未だ形を為さぬそれを
愛杖レイジングハートの砲身に集め
眼下の騎士に向ける

「……今度こそ」

それは伝承や神話などを全く介さぬ力
ヒトの叡智の結晶であるその力――
余計なものなど一切無い
圧倒的な出力、火力のみを追求したそれを以って――

神秘の具現たるサーヴァントを
跡形も無く消し飛ばそうと鎌首をもたげさせる

「全力……全開」

暴れ狂う破光を力となし
極限まで高めて今、、、、

明星の破滅の光が――

「スターライトォォ――――」

彼女の手から――解き放たれる

「――――ブレイカァァァァァァァッッ!!!!」


―― ソレが7Fを犯す ――

騎士の六感
その危機回避能力が総動員で警鐘を鳴らしていた

もはや何をしても回避不能な何かが来ると――


―― ソレが6Fを犯す ――

でありながら凱下のセイバー

未だ動かず

彼女もまたトランス状態
6感どころかその視覚や聴覚……
5感全てをシャットアウトし
ひたすらソレに魔力を注ぐ――1つの機能と化していた

ソレは爆発的な速度を叩き出すために全てを犠牲にしたドラックカーと同じ
純粋で高濃度のガソリンを大量に注ぎ込まねば
その暴れ馬は起き上がってさえくれない


―― ソレが5Fを犯す ――

高層ビル――

巨大なコンクリートの建造物であるそれが今
圧倒的な質量を内包した袋のように――
苦しげに悶え、胎動する

先程のエクセリオンバスター掃射の轟音もまた
天を劈く落雷の如き凄まじいものであった

だが、それと比べてすら……

今まさに上から降ってくるモノはあまりにも異質


―― ソレが4Fを犯す ――

空想上の巨大な生物を想像してみると話は早い

雲を突き破るほどに巨大なそれは
進路上の全てのものを蹴散らし飲み込みながら
うねるように前進してくる――

あまりにも大きいそれを前にしては
ちっぽけな人間がいくら抵抗しても無意味

口を空けて、ズズズ、、、と前進してくるそれに
為す術もなく飲み込まれていくしかない

そしてソレが通った後には
肉片どころか草一本、何も残らない……

そんな圧迫感と共に―――

―― ソレが3Fの天井を犯し ――

ついに、、、騎士王の前に姿を現す

―― スターライトブレイカー ――

頭上の天井を抜いてきた規格外のバケモノ
星が落ちて来たと錯覚させるほどの破光が
騎士の小さな身体に降りかかる

だがこの状況下でもし騎士と同じ立場に立ったとして
その現実を正しく認知出来る人間が果たしているだろうか?

目の前に現れたのは砲撃でも魔術でもない

それは視界いっぱいに広がる光――

大きい――――あまりにも

砲撃魔法であるとか高出力の魔術であるとか…
そのような常識的な言葉ではとてもソレを表せない
そんな可愛いモノでは……断じてない


降り注ぐ破壊は、もはやどこへ回避しても意味を為さず
フロア全体を余さず包み込みアリの子一匹通す隙間も無い

どこまでも極大な――それはまさに、、光の滝であった


この英霊の回避力がいかに存外であろうとどうにもならない
眼前の滝に飲み込まれるより他に術が無い

互いに死力を尽くした一戦

魔道士の切り札
最後の決め手の一撃はあまりにも強大で理不尽――

一方的に全てを飲み込む星の光の一撃を以って

その勝負の全てが、今 決まる――


………………………

「タカマチ―――ナノハ」

逃れえぬ滅びを前にして……騎士が口を開く

彼女は顔を伏せたまま動じない
否、初めから彼女は何も見ていない

初めに直感が告げたのだ――
次の攻撃は防御も回避も不可能、と
故にその時からセイバーは……目の前のものになど眼中にない

一心不乱に、己が半身に語りかけた
それだけに没頭した

全ては時間との勝負
ソレが間に合わねば終わり
諸共に滅び去り、彼女の聖杯戦争はここで終わる

だが、、、

間に合ったその暁には――――

騎士はゆっくりとその目を開き


「私の―――勝ちだ」

己が勝利を――――確信す

――――――

幾多の敵を問答無用で打ち倒してきた魔道士の切り札

スターライトブレイカー

そのフルチャージの一撃をまともに受ければ
いかな強大な敵と言えどひとたまりもない
流石に万策尽きたのか、敵の騎士はピクリとも動かない

勝った、と思った
そのなのはの背筋が、、

――― 私の―――勝ちだ ―――

、、確かに凍る

「―――――、ぁ……」

全身が総毛立つ感覚と共に
確かになのはは敵の騎士の言葉を聞いた
勝利を掴んだと思った瞬間に浴びせられる冷水の如き悪寒

なのはにはセイバーのようなスキルとしての直感は無いものの
戦場を常に広い視野で捕らえる研ぎ澄まされた感覚は
常人の及ぶところではない

この戦いにおいては、その敏感なセンサー、先読みの技能のせいで 
かえってセイバーの殺気や戦意をモロに受けてしまい 
今まで苦しめられてきたのだが――

たった今、なのはのセンサーに叩きつけられたモノこそ最悪

其は言うなれば「神威」 

神の如き脅威

古の戦場を駆け抜けた伝説の騎士の王

―― その真の姿 ――

今までの万夫不倒の姿ですら比べ物にならないナニカが
3F部分に降り立ったのを感じ取ったのだ

(…………、、、う、ぅ………)

下半身から背骨を競り上がってくる感覚
凱下に広がる、見えぬはずの黄金の光を
彼女は確かに見た

高町なのははここまで
この騎士の少女に対しいくつかの誤算をし
その都度、窮地に立たされてきた

身体能力、跳躍力、その神聖、等等―――

それらは全て魔道士にとってあまりに埒外なもので
とても計り切れるものではなかった


だが、ここでまた彼女は――
この闘い最大の誤算をしてしまう

思い違いをしていたのだ
その剣について

騎士の得物はその「不可避」こそが最大の武器だろうと、、
視えない事によって防御を困難とする事が
相手の武器の最大の機能であると

最悪の……見解違い

それは―――騎士にとっては鞘に過ぎなかった

その隠された刀身が真に姿を現した時こそ
敵の身に――つまりは自分の身に――
逃れられぬ破滅が降り注ぐという事に――

高町なのはは―――気づくのが遅すぎた

――――――

The sword of a shining ―――

騎士の総身から押さえ切れぬ程の青白い魔力が放出される
そして風の鞘から解き放たれたソレが――
見事な金色の光を放ち、その身を表した

勝利の鍵と呼ばれた白き魔道士の代名詞たる極大集束魔砲
文字通り、勝利の扉を強引にこじ開けようとするその眼前に――

約束された勝利の剣が立ちはだかる

間に合わない……
そんな道理など初めから無かったのだ

喜び、悲しみ、辛さ――
死する時までついに誰にも理解されなかった孤高の騎士王
その、一人の少女の一生

その栄光と滅びを
一番近くで見守ってきたのだ

常に最期まで騎士と共に在り続け
死してなお――その右手に携わる彼女の半身

ソレが 、、、

聖剣エクスカリバーが―――


彼女の期待を裏切る筈が無い!!!


見る者の心を震えさせずにはいられない黄金の波動
それは孤独であった騎士王を守護する最強の光

世界中に語り継がれる数多の聖剣、神剣伝説
其は間違いなく始まりの一振り 
原初の一つであっただろう

「往くぞ――我が聖剣よ……
 その真なる輝きを以って」

ヒトの想念――
積み上げられてきたあまねく願いの結晶はその大地たる星に宿り続けた
そして星は幾星霜の時を経て――
その蓄え続けた大いなるユメの形を――

―― 一つの剣としてヒトの世に送り出す ――

今宵、その大いなる夢の形に恥じぬ力となって現れたそれこそ――

―― 勝利をも約束された黄金の光 ――

「エクス―――」

セイバーが大いなる、その真名を紡ぎ出すと共に
ソレは目の前の破滅の光を前に潸然と輝き出す

その溜めに溜めた力の奔流が今、騎士の手によって――

「――― カリバァァァァァァァーーーーーー!!!!!!!!」

――――― 放たれた

――――――

勝利の二つ名を背負う魔道士と
勝利の剣を携える騎士

奇しくも互いに「勝利」の二つ名を冠し
否 背負わされれた者同士の邂逅

それは当然の成り行きで、もはや言うまでもない事だ

どちらかが「勝つ」以上―――
どちらかが「負ける」

ならば、その「勝利」の御名は
どちらか片方が偽者という事になる

故にそれらは貪欲に勝ちを主張し互いに譲らず
騎士の鼻先―― 3Fの天井部分で
牙を剥き出しにしながら、、、

―――― 激突した!!

「きゃう、うううッッッ!!!???」

高層ビル全体を揺るがす衝撃
膨大な魔力同士が衝突した鼓膜を削り取るような轟音

そして有り得ない手応えに苦悶の悲鳴を上げるなのは

全身を襲う反動
フラッシュバックしそうになる意識
これは断じて、、、 敵を撃ち抜いた時の感触ではない

「ま、、、まさ………か、、、!??」

これまでの戦闘から敵には遠距離攻撃は無いものと思っていた
だからこそ空の優位を保てたのだし
自らの遠距離でのアドバンテージだけは守れてきたのだ

それなのに、、、ここへきて――

撃ち返してきた!
SLBに匹敵する程の超々高火力の砲撃を!!

またも思考の上をいかれ、唇を噛むなのは

(くっ………な、何てこと……ッ!!)

その衝突の衝撃に、愛杖を取り落としそうになり
握る手に力を込め直すなのは

「レイジングハートッ!!! 行くよ!! 押し返すッ!!!」

そう、いくら埒外の事態が起きたとはいえ
ここまで来たら思惑が外れたなどと言っていられない

純粋な力比べをするしかないのだ

互いに放った、最強の決め技――

なのはの撃ち込んだ極大の光は、もはやフロア全体を押し潰す大瀑布となり
その階層全体を押し包むように容赦なく降り注いでいた

それに比べ、、、
セイバーの光の剣閃は細い――

圧倒的な質量を以って放たれたスターライトブレイカーと比較して
その太さは三分の一ほどである

こんなものでは、、、こんなものではない筈……
人類最強の聖剣がこの程度の火力であるわけがない

「……………」

セイバーはただ黙して剣の柄を握り締める
それは、この土壇場で自分の判断の遅れが招いた結果
あの咄嗟の発動で聖剣の起動にギリギリ必要な魔力しか提供できなかったのだ
本来、対城宝具であるはずのソレは
もはやギリギリ対軍に至る程度の規模にまで縮小されている

か細い直線状にま絞られた剣閃は、、目の前の脅威に比べ―――

何と頼りない事か……


そう、その時点で勝負は見えた―――
巨大な星の光が、その矮小な金の光を包み
飲み込むのも時間の問題―――

―――――――――

「、、、…!?? な、、…………う、そ………」

―――かに思われた

高町なのはの顔が蒼白になる
左手に伝わる手応えは依然変わらず
フルチャージの集束砲は更に激しく―――
最大出力で放たれている

だのに…………

それが押し返されて―― 否、、、中央から、、、


―― 斬り開かれていく ――

「……………」

(ナノハ………本当に、正直 
 貴方がここまでのものとは思っていなかった)   

容赦なくその手に握る剣に力を込めるセイバー
力を込めれば込めるほど――ギリギリ、ギリ、、と 
中央を掻き分けて進む黄金の閃光

(その力は間違いなく―――私に届いていた)

心中にて最大級の賞賛を送るセイバー
そう、、これは両者の切り札の威力差以上にその質の差――


対人レベルにすら落ちたと思われたエクスカリバー
本来の規模に到底届かない極小の剣閃
なれど、絞られたのはあくまでその規模のみであり……

威力そのものが減退されたわけでは決してない

奇しくも同じ、魔力を束ねて撃つ技であったが
付近一帯の魔力を集結させて撃つなのはの大砲は
確かに破滅的なまでに強大
だが、セイバーの放つそれの真髄は「大きさ」ではない
己が魔力を極限まで凝縮されて放たれる――圧縮された光

其は「集」束砲と「収」束剣の違い――

巨大な魔力をその一点に収め打ち出す
何物にも阻まれる事のない、超高々濃度の光の閃光

それが――エクスカリバーの正体

それに比べれば、いかに巨大ななのはの砲撃とて…… 

―― ただ大きいだけの代物に過ぎなかった ――

(もし貴方がその魔術を一点に集中させる形で撃っていれば――
 この結果にはならなかったでしょう)

無常なまでに容易く
星の光を勝利の剣が切り裂いていく

「……………ダ、ダメなの……これ、、でも……!?」

なのはが絶望の吐息を漏らす
4F部分が黄金の光に浸食されていく
それはまるで、巨大な滝を引き裂いて天高く舞い上がる黄金の竜

「終わりだ……タカマチナノハ―――見事なメイガスよ」

セイバーが止めとなる一刀を振り切ろうと、その手に力を込める

これで終わる―――
もはやセイバーは自分の勝利を信じて疑わない

ギリギリまで引き付けて放った聖剣の一刀が
3割、4割と相手の魔砲を斬り分け――
5割の辺り、、半分を押し返す

もはや時間の問題

心無しかその剣閃が減退を見せ
黄金の光の侵攻の勢いが弱まっている事があったとしても
セイバーは気にも留めない

――― 剣閃の勢いが弱まっている事など無い

――― そんな事はあり得ない

――― ここに来て、、、魔術の勢いが増している事など

あり得るはずもない――

――――――

Floor 8 ――

ガシャン、、ガシャン、、 

爆裂音がフロア全体に木霊する

「ッッッ!!!」

奥歯が砕けんほどに歯を食いしばる高町なのは


この力比べ――
フルパワーで撃ったスターライトブレイカー
それが押し返された時点で、高町なのはにもはや勝機は残されていないのか?

(止まってッ……)

否、、、

ガシャンガシャンガシャンガシャン

純粋な魔力の押し合い、ぶつけ合いで無類の強さを誇る
不世出の天才砲撃魔道士・高町なのは
その本領が発揮されるのはここからであった

「リロードッッッ!!!」

喉から振り絞るような絶叫を上げ
レイジングハートに新たな力を叩き込む

彼女のミッドチルダ式インテリジェントデバイスは特別性
通常、支給されるソレとは大きく異なる、謂わば高町なのはスペシャル

元々ピーキー過ぎて誰も扱う事の出来なかったインテリジェントデバイス・レイジングハート
その杖に更に様々なカスタマイズを施した―――化け物デバイスがそこにある

彼女の願い――
誰が来ても何があっても自分を……そして周囲を守れる力
どんな困難な壁が立ちはだかっても想いを貫ける力

その願いのままに形となった杖――

もはや使い易さなど度外視で火力と出力に特化した
なのはにしか扱えない、このデバイスこそ
魔道士高町なのはの左手に収まる愛杖の正体なのだ

その様々な付加効果――

オーバードライブ:ブラスターモード
リンカーコアと魔力回路を限界以上にまでフル稼動させ
その出力を数倍にまで高める自己ブースト

そしてミッドの魔道士として本来あり得ない仕様
ベルカ式カートリッジシステム:CVK-792A
儀式で圧縮した魔力を弾丸に込めてディバイスに組み込む
瞬間的に外部から魔力を得られる出力増幅装置

この二つの技術が融合したレイジングハートはまさに
超ド級の砲戦特化仕様

メカニックや他の魔道士は
その魔改造デバイスを振り回して平然と空を飛ぶ彼女の在り様を
恐れ無しには語れない

彼女がカートリッジフル装填・ブラスター3で放った
全力全開スターライトブレイカーの威力に―――上限は無いと言われている

語る術すら難しい、、
ソレを全力で撃ったらどうなってしまうのか…
どれほどの途方も無い威力を叩き出すのか、と――
皆が額に汗しながら予想する

ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン

「リ、リロー、、ドッッ!!!」

<master!>

「だ、大丈夫ッ! 制御……して見せるッ!」

だが、理論上は∞とまで評されるスターライトブレイカーにも弱点がある

いや……弱点と言って良いものか
それは―――当たり前過ぎるほど当たり前な事で
弱点と評するにはあまりにも馬鹿馬鹿しい事

―― 術者が人間であるという事 ――

その掛け値なしの全力全開の集束魔法は
確かに前人未到の破壊力を生み出すかも知れない

だが、彼女がそれを使うことは決してないだろう

その威力、限界を超えた反動に
術者であるなのは自身が耐えられないからだ

砲撃魔道士 高町なのは
彼女は自らの体が粉々に消し飛ぶほどの火力をその身に秘め
常にその危険なスペックと自らの限界との境界線を見極めながら
体内の火力を引き出して戦っているのだ

その危うい姿はまるで――
圧縮された核燃料物質の如き危険さを孕んでいた

そのキケン極まりないオーラを全身からはためかせ――
彼女は己の限界領域に――

一歩……足を踏み入れた

Floor 3 ―――

振りぬけない―――

信じられない事であるが……セイバーも既に気づいていた
敵の魔砲の威力が、ここに来て尻上がりに増加している事に

「…………」

であっても、相変わらず無言のセイバー
その集中力こそ驚嘆

まるで揺れない
平常心を崩さない
戦場にて無敗の存在であり続けた
騎士王の姿が―――確かに、そこにあった

敵の抵抗は確かに驚くべき事実ではあるが
だが彼女にとっては今更な事なのだ

敵が一筋縄で行かない事など百も承知

認めたのだ
この魔術師を自らと対等の存在である、と
あの者は――最後の最期
その血の一滴を出し尽くすまで抵抗をやめない
故にこれくらいの反撃はして当然、と

相手がどれほどの者であれ
元よりこの騎士がすべき事はただ一つ

―― その剣閃に全てを賭けるのみ ――


それに、確かに魔道士の砲撃の威力は上がり続け
それがエクスカリバーを減退させているのも事実

だが、、流石にそれが限界

減退はすれど止まらない
もしこの相手の魔砲がこの瞬間に3~4倍に増幅されるような事態になれば
あるいは騎士の黄金の光に届いていたかも知れない

だがそれがない以上
やはり騎士の持つ聖剣は最強であった

セイバーの勝利は揺るがない
原初の聖剣に比肩すものなど、、決して在りはしないのだ

――――――

Floor 8 ―――

ガシャン、、ガシャン、、、、

(止まっ、、てッ………)

自らの限界と迫り来る死の閃光との狭間で
高町なのはは今、究極の選択に迫られる

彼女が今、砲撃付加として行使しているのはカートリッジシステムのみ

今ここでブラスターモードを使うわけにはいかない……

自己ブーストの後遺症は決して軽くない
それはリンカーコアを削り、魔力回路を焼き付かせ、
使用後、術者の戦闘不能を余儀なくされる玉砕モード

使えば、例えここで押し勝てたとしても―――後に残るは地獄のみ
動けなくなったその身を敵地に晒し、あとは好きに料理されるだけだ

故にカートリッジ、、
外部増幅システムのみで
この力比べを制さなければならない

次々と叩き込まれていくカートリッジは既に14発――

なのはがその経験上安全圏と定めた
7発の枠の倍に達していた

「は、、、、ぁ………―――」

彼女の口から弱々しい嗚咽が漏れる
流れ込んでくる魔力で、身体が内側から圧迫される
砲撃の反動で利き腕から肩にかけての筋肉が断裂寸前まで伸びきり
傷から血が噴き出す

だが少しでも力を注ぎ込むのを止めればそれで終わり
黄金の剣閃は容赦なく彼女を飲み込み、全てを終わらすだろう

「お願、、ぃ……レイ、ジ、、、ハ………――」

<master! >

中指の爪にビシリッとヒビが入る
激痛に涙をにじませながら
彼女は己が身に魔力を叩き込んでいく

8階フロア
風を切り裂く撃鉄の落ちる爆音と
空薬莢が地面を叩く乾いた音が 、、規則正しく響き渡っていた

――――――

Floor 3 ―――

3階フロア
そこはまさに神話の如き光景

騎士の少女の頭上に叩き落される集束砲は
もはや滝などという生易しいものではない

――― それは津波

全てを切り裂き突破する聖剣の光を
あくまでその自重で押し潰そうとする大海嘯
もはや発射当初の2倍以上に膨れ上がったスターライトブレイカー

それを、、、この小さな少女が押し返している

その細腕が、その小さい肩が、その折れてしまいそうな下半身が
決して折れず曲がらず――
目の前の破滅を正面から受け止め、切り裂いていくのだ

かつて十戒を背負い、海を真っ二つに切り裂いた英雄がいたという
眼前にて繰り広げられる光景は、まさにそれに匹敵する奇跡の体現

黄金の光は既に7F部分――
なのはの足元にまで競り上がっている
もはや、いくら魔砲が威力を増しても間に合わない地点

やはりエクスカリバーを抜いたセイバーに対し、この地球上で拮抗出来る存在など無い
最強の幻想が彼女に負けを許さない
その対峙した障害を残らず掻き分け
眼前の相手をなぎ払うのみ―――

その剣の担い手たる彼女
絶対の勝利を確信していたセイバー

それが、、、、

「ぬ、、ううっ………!」

焦りの声を上げていた――――

不可解な騎士の憔悴
おおよそ勝利を身に宿した者にあるまじき呻き

ギリっと奥歯を噛むセイバー………

何と―――そのヒザがガクンと崩れそうになる―――

堪えるセイバー

この最終局面
もはや詰めに入るだけの状況にきて
まさかのセイバーの異変

魔力ダメージだろうか?
………………否
セイバーがクリティカルヒットを許したのは一回
初撃の、棒立ちで受けた砲撃のみ
あとはシューターを要所要所で受けただけで
残りは徹底して回避に専念したはず

故にセイバーにダメージはない

ならば――――何故?

<<ビシ  ビシビシ>>

突如として起こる歪な不協和音

それは―――――フロア全体からだった

そう、騎士に異変は無い
相も変わらぬその雄雄しき肢体で、剣を上空に掲げ
相手の膨大な魔力を押し返す姿に微塵も陰りはなく

両足は力強くしなやかに、そのコンクリートの床を噛んで―――

<<ビシビシ、、ビシ>>

その足元から、、、幾多もの亀裂音―――

つまり………崩れかかっているは
セイバーのヒザではなく―――

「まさか…………足場ごと、、、……、、」

その3Fフロア、、全体だったのだ―――

――――――

エクスカリバーとスターライトブレイカー

極小の出力にも関わらず、その聖剣はやはり強大だった
幾多のヒトの想念がカタチとなった力を前にして
いかになのはの力が強くとも、、個で太刀打ち出来るはずもない
圧倒的な存在感と力を以って聖剣は極大の集束砲を突破していく

魔道士の砲撃とて、完全な全開というわけではない
まだまだ威力を底上げする余地は残されていたし
この力負けを見て、全てのリミッターを解除すれば…と思わずにはいられない―――

だが、それは無意味な仮定

術者が―――生身の人間
それも脆弱な女性の身では、、
最強の威力を持つ宝具と相対する出力を捻り出した時点で……
その身が崩壊するは必定

故に話はここでおしまい
星の光は勝利の剣を押し留める事かなわず
剣の英霊によって魔道士は打ち倒されて終わり

―――の、はずだった………

先に記した事――
エクスカリバーの凝縮された力に比べれば
その集束砲とて、ただデカイだけの代物であると
その見解は今でも変わらない―――

だが、、、、

如何せん、それは―――

――――――― デカ過ぎた

エクスカリバーの光は止められない
その砲撃の中央を容赦なくブチ抜き 
今もなのはに向けて進行中

だが、もはやフロア全体どころか
巨大な高層ビルの階層にはちきれんばかりに降り注ぐ
スターライトブレイカーはもはや広域魔法のそれ

その全てを相殺するには――――

剣閃の範囲が、、、狭すぎたのだ

そして相殺出来ぬ魔力は当然
余波となって下方に叩き付けられ――

「く、、うぅッッ!!?」

その圧倒的な質量を受け止めるセイバーの足場が
コンクリートの床に埋まっていく

先のエクセリオンバスターの掃射で抜かれたダメージも生きて
本格的な崩落を始める3Fフロア

その只中で
おぼつかない足場を必死に踏みしめ
発動の体制を保つ騎士

全開のエクスカリバーなら……
対城宝具であったなら…………
このような結果にはならなかったのだ

セイバーが我が半身に語りかける

(お前の名が――約束された勝利の剣が辱められたわけではない――)

それは両者が切り札を撃つ際のほんの少しのタッチの差――
なのはの迅速な対応とシューターの撹乱によって
セイバーの聖剣発動が遅れた事

結局はそこに立ち戻る……
極限の勝負において、、その僅かな時間差こそが―――
この勝負の全てを決めたのだった

(全ては我が身の不明――、、だが………今一度ッ)

だが、期せずして訪れた敗北の影に怯える騎士ではない
最後の最後まで――その手に収まる聖剣の力を信じて念ず

「レイジング、、、ハートッ…………」

「聖剣よ―――――」

高町なのはが、セイバーが
その自らのパートナーの名を
噛み締める様に呼び―――

「撃ち抜いてえぇぇぇぇぇッッッッ!!!!!!」

「薙ぎ、払えぇッッ!!!」

魂すらも揺さぶる、最後の咆哮を上げる
それに総身を振り絞るように応える彼女らの半身

エクスカリバーが魔道士ごと、その眼前の星を凪ぐ
スターライトブレイカーが身を凪がれながらも 
騎士を、その立つ大地ごと圧殺する

――――――

高町なのはの細い肩がビクン、と痙攣する
口が何かを求めるようにパク、パクと開かれるも――発するはずの言葉が音にならない
限界まで見開かれた目尻からドロリと……血の筋が滴り落ちる

2回のリロード込みで―――16発
そのカートリッジの高速運用によって
なのはの体が限界を迎え、その機能を停止させるのと――

膨れ上がった集束砲がセイバーごと
その3F凱下を押し潰したのが――ほぼ同時

そして両者の魔力が激突した舞台
その爆心地となった4F~7F間に生ずる莫大なエネルギー

衝突の軋みと熱量、空間の歪みが
行き場を失い一気に開放され

桃色と黄金の魔力は―――
その広範囲を巻き込む、、、
魔力による大爆発を起こしていた


次元を統括する時空管理局のSランク魔道士と
ガイアに刻まれた英霊

その二つが本気でぶつかればどうなるか―――
一つの答えがここにある

スターライトブレイカーとエクスカリバーの至近距離での正面衝突

その惨状は―――
あるいは必然であったのかも知れない

不謹慎な例えをするならば
それは無差別テロの被害にあったビルの様相を思い起こさせる

超ド級の魔力波同士の追突が生むエネルギー
その破砕された魔力が爆光となって周囲を薙ぎ払う
激突の中心地であるビルの4~7Fが
黄金と桃色の混ざり合った爆風に飲み込まれ
まるでポッカリとその存在を虚空に消し去られたように完全消滅した

魔道士の超規模で放たれたスターライトブレイカーは
自重の全てをかけて3Fから下を完全に押しつぶし
その全てを元の面影すら無い瓦礫の山とする

そしてそこまでの威力を叩き出した集束砲ですら
騎士の放ったエクスカリバーを相殺する事はかなわず
黄金の剣閃は圧倒的質量を誇るなのはの砲撃を貫通し
9Fから上方を真っ二つにし―――天空を切り裂いた

高さ100m 
27階建ての超高層ビルが―――
まるでダルマ落としのように下半身を抜かれ
その上半身部分が空中で唐竹割りにされ
重力の名の下、、、倒壊し落下したのだ

その被害は推して知るべし―――

巨大な建造物が何の頚木も無しに
自由落下のままに地面に叩きつけられた

被害は地下にまで及び
地盤沈下を起こし、辺り一帯を巻き込む

その崩壊がビル一つで済めばまだよかった
だがここは、、、高層ビル「街」なのだ……
両者の激突が、、その倒壊が、、、
付近のビルに影響を与えないはずが無い

爆発は縦方向はおろか横にまで広域に広がり
地面の崩落も手伝って、その付近のビルの下層を
まるで歯の根元に出来た虫歯のようにこそげ取る

結果、足場の支えを失ったビル郡は
まるでドミノ倒しのように横倒しになり共に崩壊し

それは一つの―――天変地異のような惨事を引き起こした

セイバーと高町なのはの戦いの余波は
その高層ビル10棟にも及ぶ崩落という未曾有の大惨事として、、、
この地に消えない傷跡を残したのである

――――――

崩れ落ちていくビル
建造物内は誰が用意したか 
ご丁寧に様々な食品、加工品、薬品、趣向品等が詰め込まれている
無人のゴーストタウンだというのに大したオブジェだと感心したものだが……
それらが混ざり合い、粉々に粉砕されて粉塵や破片、岩礁となり
その周辺一帯に広がり――
覆い尽くした様は悲惨の一語に尽きる

もはや立派な災厄となったフィールド

その大崩壊の中心から少し離れた地点、、、
生きとし生けるものの存在を許さないかのような大災害の中にあって―――

仰向けで、、、倒れている者がいた

白い法衣をまとったその姿はススと埃にまみれてボロボロ
肢体を地面に投げ出し、力無く横たわる彼女―――
時空管理局・航空魔道士 高町なのはである

先の膨大な魔力同士の激突において
上方を取っていた彼女は、その大規模な破砕に巻き込まれるも 
爆風によって吹き飛ばされ、舞い上がり
結果、窓から投げ出される形になった

そして幸運にも
聖剣の光に薙がれる事も瓦礫の下敷きになる事もなく、、、
崩落の惨事から逃れていたのだ

度重なる偶然
セイバーの幸運とは違うが、その偶然をこうして手元に引き寄せるのもまた
奇跡のエースと呼ばれる彼女の力なのかも知れない

「…………」

杖を片手に立ち上がろうとし――
ズシャリ、と 糸の切れた人形のように崩れ落ちる彼女

「う、―――――けほっ、、、ごほっっ、、、」

不時着という形で地面に叩きつけられたなのは
最低限のリカバーが間に合ったとはいえその衝撃は凄まじい
彼女は、その胃液からこみ上げるものを必死に堪えねばならなかった

「い……痛、、、」

呟くように一言……
それだけでも、今の彼女にとっては重労働である

全身が鉛のように重い
自身の損傷を一つ一つチェックする

利き腕、いや………
左半身に、、力が入らない
カートリッジの酷使による反動で、彼女の体のところどころが
動作不良を起こしマヒ状態になっていた

<master... your condition is...>

「うん…………だい、じょうぶ、、だよ……」

掠れる声でなのはは、その相棒に自らの無事を伝える

「ちょっと、、体が、ビックリしてるだけ――」

気丈にそう答えるなのはだったが…

一時的なマヒ状態―――
それどころの話ではなかったのだ
デバイスに組み込んだ簡易治療魔法が発動するが
とてもすぐに動ける状況ではない

外部からの過度の魔力供給
増幅器のリミットを超えた使用

それは即ち、風船に限界以上の空気を吹き込む行為に似ている

間違いなく、、
あと一発か二発で彼女の体は砕け散っていた
そんな状態だったのだ

両手を開け閉めして徐々に体に血流と感覚を促していく

(リハビリを思い出して―――ちょっとイヤだな……これ)

とある事故の事を思い出して陰鬱な気分になるなのは
泥のように地面に埋まっていくような疲労が全身を支配する
本当はこのまま眠りに落ちたい衝動に駆られるが――

未だ付近の倒壊は収まる事を知らない
少し離れているとはいえ、ここも十分な危険区域なのだ

「ん、―――うぅ、、………ハァ、、、ハァ、、……」

つまり、地面に寝たまま
ゆっくりと回復を待っていられる状況ではない
動かぬ体に鞭打つようにフラフラと立ち上がる
足を引き摺りながら、とにかくその場から離れようとして―――


―――ふと後方を見やる

目の前の惨事………
その只中にいた騎士の事を思う


彼女はどうなったのだろうか?

無事に抜け出した?
自分と同じで外に投げ出されて――
この付近を彷徨っている?

―――それは万が一にも有り得ない事…

自分とはまるで状況が違う
その撃ち合いの際、下方に陣取った彼女は 
砲撃や瓦礫に押し潰される形でビルの崩壊に巻き込まれたはずだ
スターダストフォールで窓を塞がれ、ほぼ密室状態 
運良く出口から投げ出されるという奇跡は起こらない

(あれじゃ…………助かりっこない、、)

そう……助からない
窓は、他ならぬ自分の手で塞いだ
自分が殺したようなもの――

自分は、、、人の命を――奪った

彼女自身が選んだ道なのだ
奇麗事だけで渡れる道ではない
いつまでも、、、魔法少女ではいられない

必死だった
手加減など出来る相手ではなかった
不可抗力と言ってしまえばそれまでの事

それでも―――
今にして思えば、相手の騎士の少女には……
随所にこちらの命を奪わぬ配慮があった
いや、命を奪わぬというのかどうかは分からない
その殺気は紛れもなく本物であったのだし
自分はその殺意を真っ向から受けながら、、必死なって戦ったのだから

だとしても、初めの剣戟や密室でのやり取り等
確実に仕留められる機会においてその少女は
こちらにわざわざ反撃の余地を残すやり方をしていた

――― 名前を教えて欲しい ―――

少女の澄み渡った声が脳裏に響く
かつて自分が戦いの際、金髪の親友に送った言葉と同じ

状況的にも精神的にもそんな余裕がなかったのだとしても、、
決して悪い人ではなかった、、
月並みだが、もし違った出会いをすれば友達になれたかも知れない

そんな相手の命を……奪ってしまった
悔恨を抱かずにはいられない――

「ごめん、、…」

天を仰ぎ、唇を震わせる

もしかしたら瓦礫の隙間に挟まって助かっているかも知れない
救助活動をすれば、もしかしたら命を救えるかも知れない

だが、再三にも記すが――ここは敵地
未だ魔道士の危機は払われてはいないのだ

これが被災者の一般市民の救助であったのなら話は別だが――

自分は傷ついた自身の体調を少しでも回復させ
来るであろう敵の追跡を振り切って
仲間との通信手段を見つけ、合流しなければならない

ゆえに敵であったものを救うためにここに残り
みすみす無駄死にするつもりはない

だから、、見殺す―――

殺した重責を、、 
見殺しにした罪悪感を背負い、、
ゆっくりと踵を返し、、

その場をあとにする彼女―――

<<<  ガシャン   >>>

………………………………
………………………………
………………………………

建造物と地上が崩れ落ちる轟音は未だ止まない
そんな中、、、鼓膜に直接響くように

なのはの耳にはっきりとソレが聞こえた

………………………………
………………………………
………………………………

立ち去ろうとする彼女の背後に現れる
今日、散々に命を脅かされた相手の――
見紛い様も無い気配

………………………………
………………………………
………………………………

災厄による粉塵は未だ収まらず
相変わらず目視では前方3m先の様子すら分からない
そんな中で他ならぬ、なのはの耳に届いた音

―――――― 甲冑の擦れる音

それはすぐ後方
この騒音激しい中ではっきりと聞き取れるくらいの―――そんな距離
つまり完全に自分の背後を取れる位置から聞こえた、という事になる

………………………………
………………………………
………………………………

きゅっ、と唇を引き結び―――目を閉じるなのは

(抜けて来たんだ………あれを)

どこまでも…どこまでも埒外の相手
驚きを通り越して呆れてしまいそうになる

そんな中
今、高町なのはの胸に去来するものは何だったのか

――― 不思議な感覚だった

絶望感や恐れか――
あまりにも桁が違う相手に対する驚きや尊敬か――
命を奪ったはずの相手が生きていてくれたという安堵感もあったのかも知れない――

ともあれ今となっては……
自分にあの騎士を打倒する手段はほぼ無い
しかも背後を取られている

今度こそ――――終わりかも知れない

でも、、それでも―――

(諦めない……まだ、、負けたと決まったわけじゃない―――)

最期の最期まで抗って飛ぶのだ
それが彼女の―――不屈のエースたる所以なのだから

互いの気配
その戦意が再び高まる
と同時に両者の姿が掻き消えたように弾ける

「テイクオフッ!!」

なのはが前方にブーストをかけながら反転し
相手に杖を向けつつ飛行態勢に入るのと――

白銀の騎士がその粉塵を切り裂き、なのはの視界
その鼻先の間合いにまで侵入したのがほぼ同時――

(でももし、、、それでもダメだったら……)


止まらぬ大破壊
ビルが倒れ、その隣のビルを巻き込み
惨状がまた新たな惨状を生み出していく
その只中―――

もはやこれ以上の記述は意味は無く
その後どのような戦いが為されたか語る必要もない

最強の剣の英霊・セイバーと
無敵のエースオブエース・高町なのは

その力、その魂、相譲らず
いつ終わるとも知れなかった闘いの決着が――

(ごめんね――ヴィヴィオ……)

――ここに、ついていた

――――――

その大地全体を覆う地響き
倒壊した高層ビルは10棟を超え
周辺被害はおよそ想像もつかない

その未聞の倒壊が―――ようやく収まる

その最中―――

瓦礫と岩礁が散乱する一帯の
比較的開けた地帯の中央にて――

銀の甲冑を纏った少女が上、
白い法衣を着た女性が下、

甲冑の騎士がその法衣の魔道士を地面に押し付け
押し倒す形で……押さえ付けていた

騎士の名はサーヴァントセイバー

彼女は、その魔道士の上に馬乗りになり
両ヒザを彼女の胴にガッチリと食い込ませ、抵抗を許さない
そして身動きの取れない彼女の喉元に剣を突きつけている

「ぅ、…………」

呼吸を圧迫され、苦しげな呻きを上げる魔道士

だが魔道士――高町なのはの方も負けてはいなかった
完全に下になりながらも、その左手から伸びた杖
否 槍の穂先が騎士の首を掻き斬れる位置にしっかりと伸びていた

そしてその騎士の後方
いつの間に張ったのか、10足らずの桃色のスフィアが点在し
いつでも騎士の後頭部や背中を撃ちぬけるように待機している

「「、、ハァ ――― ハァ ――― ハァ――― ハァ、、」」

静寂を取り戻した大地において
互いの息使いだけが激しくも艶かしく
風に乗って聞こえてくる

BJの自浄作用と簡易ヒーリングによっていくばくかの回復しているとはいえ
それすらも追い付かないほどに汚れ、傷ついた魔道士の有様は酷いものだった

だが、、、

高町なのはの頬にポタリと血が落ちる
それは彼女の血ではない

これは、、そう、、
セイバーのこめかみから止め処なく滴り落ちるものだった

たった今、なのはを押さえつけ上になっているセイバーの有様こそ
なのはに輪をかけて凄まじいものだったのだ

あの倒壊
スターライトブレイカーと頭上の瓦礫が降り注ぐ中
フロア崩壊時に窓を塞いでいたバリケートが崩れた
その僅かな生還の糸を手繰り、ビルから飛び出したセイバー
だが、なのはに遅れて脱出した彼女の眼前には
幾重にも倒壊し、のしかかってくるビルの群れと魔力の爆光

それらを全て 掻い潜り、、否 蹴散らして
一直線に安全地帯まで駆け抜けてきたのだ……この剣の英霊は

コンクリートの塊が、鉄筋が、ガラスが
頭に叩きつけられ、顔を傷つけ、身体に振りかかろうが
一切お構いなしで――

そして今、肉を切られ、血を流しながらも
まるで何事も無かったようになのはに剣を突きつけている
その端正な顔、腕、鎧に覆われていない部分が
擦過傷や裂傷などで傷だらけになっている

だが、どれだけ傷が付こうと血を流そうと――

その肢体の力強さはまるで衰えず――
その存在感はまるで揺るがず――
その美しさに微塵の曇りも無い――


人間では届くべくも無い座にその身を置いた神域の存在
その強靭な生命はとても………
ヒトが拮抗出来る存在ではなかった


現状、この二人の体勢――

普通に考えれば上になっている騎士が圧倒的に有利である
セイバーはなのはを完全に押さえ付けて、その身に剣を突きつけ
身動き一つさせようとしない

だが、もし二人同時に動いた場合 
騎士の剣が魔道士の肌に触れようとした瞬間に
防護フィールドが発動する

つまりは同時に動いた場合、下から突きつけ返している
なのはのACSドライバーの刃が先にセイバーに届くのだ
そして行動開始と同時に襲う後方からのシューターの雨

という事は、下にいながらも――
まだ、なのはが若干有利といえる現状……

(………)

否、、、 なのはは既に分かっていた

今度こそ………
本当にどうにもならない事に
もはや有利も何も無いのだという事実に

あらゆる可能性を模索はした

この痺れて半分以上感覚の無い左腕一本で
下から相手の首を掻ききれるか?

無理だ そんな事を許すレベルの相手じゃない


ならば相手の剣がフィールドに阻まれている間
背後からシューターを打ち込むか

無理だ 今更シューターの数発で昏倒させられる相手じゃない


イチかバチかこの騎士を振り落とす勢いで離陸し
最大出力で飛んで引き剥がすか

そんな事をすれば上から剣戟を叩き落されて終わり
地面に押さえ付けられて力の逃げ場の無い状態でアレを受ければ
今度こそ無事には済むまい……
一撃でBJごと骨まで断ち切られて終わりである


空を取ってさえ、その圧倒的有利にいた高町なのはに
全く付け入る隙を見せなかった――この英霊の身体能力と体術

そんな相手に押し倒され
密着されたこの状態は――既に

完全な詰みの形だったのだ


「………っ――――――」

だが、未だなのはは視線を逸らさない
決して左腕の槍を下ろさず、セイバーをキッと睨み据える 
自分が負けている事を―――相手に悟らせない

まだ武器がある…… 
自分には牙が残っている……
そう相手に思わせるために……


どんな時でも絶対に諦めない 
例え一秒後に、その剣が自分の体に突き込まれるとしても
諦めなければ………次の瞬間何が起こるか分からないのだから

「………………」
「………………」

いつ果てるともない沈黙を破り――

「――――タカマチナノハ………貴方は、、、何者だ?」

先に口を開いたのは、セイバーだった

「貴方は――何だ……」

あまりにも率直な、正直な疑問
だが、他にどう言えば良いのかも分からないと言った風に
セイバーは、相手の魔術師に問うていた

「……………分かってて襲ったんでしょう?」
「…………」

ああ、分かっている
聖杯戦争の参加者――
7人の敵のマスターのうちの一人であると

しかし、、

「だが、貴方は…………強すぎる――」

なのはの眉がやや歪む
彼女とて、この相手にだけはそんな事を言われなくはないだろう
航空隊では既に無敵と言われて久しいその身が
まるで歯が立たず、終始押されっぱなしだったのだ

だがセイバーはそんな様子など構わず相手を見据える

そう、、確かに戦いの最中、彼女を好敵手として認めた
この相手は自分に拮抗し得る相手だと

だが………
自分はエクスカリバーを―――聖剣を放ったのだ
不完全な出力とはいえ、この自らの英霊としての一撃
それを出した以上……敵は倒されてなければならない

だのに、それさえも凌ぎ切った相手……
人間のしかも何の魔術的因果を含まぬ手法で
単純な出力で聖剣とあそこまでの鬩ぎ合いを見せた――

そんな人間の魔術師など、、、騎士の世界の常識では有り得ない

そう、ここに来てセイバーは――明らかに動揺していた
沸いては出る様々な疑問を矢継ぎ早に相手に投げつける

「貴方は……聖杯に何を望む?」
「??」

相手の戦う理由――
それはみだりに立ち入って良い物ではない

騎士はその行動を良しとしない
自身とて、その想いに立ち入って欲しくはないのだから

だが、サーヴァントである自分を相手に
ここまで戦えたのは単に力量だけのものではない筈――
余程の想い、余程の目的あっての事なのは間違いない

これは自分の流儀ではない
剣によって向き合った以上、、
最後まで剣によってその雌雄を決するのが騎士――

それでも……知りたかった
この相手が英霊を向こうにまわしてまで
何のためにそこまで戦うのかを

「……何の事、、? せい、、はい…?」
「っ…」

ノドに突き立てた剣に力を込める

「サーヴァントは――貴方のサーヴァントはどこにいる…? 
 クラスは? 何故この期に及んで出てこない?」

「―――サー、、ヴァント…???」

セイバーの想い空しく、対話は全く成立しない――
空回りする思いに臍を噛む騎士

(今更、、、、)

シラを切るのか、と……その表情に怒りが点る
だが――それを受けてかどうなのか

魔道士も口を開く

地面に引き倒された無理な態勢から
ようやっとの思いで紡ぎだす答弁は―――

「貴方たちこそ…………何を考えているの?」
「――なに?」

騎士の求めていた答えとは
まるで見当違いのもので――

「この街を、海鳴をこんなにしておいて、、」
「…………」

今、相手がしたように
お返しとばかりに
疑問の全てをまくし立てるなのは

「ここは本当に海鳴なの? ジェイルスカリエッティ……今更――」
「…………」

まるで刷り合わない論点
噛み合わない会話

「今度は一体……何を企んでいるの!?」

沈黙が流れる

「……………」
「……………」


「―――――― は?」

セイバーは呆気に取られて、目の前の魔道士を見た

――――――

戦場において互いに名乗りを上げ
十分な意を示した上で相手と対峙出来る事は少ない
現代においては―――皆無と言っても良いだろう

瞬き一つで勝負を決めてしまう技量の者同士の闘いにおいて、そんな事をすれば自殺行為だ
戦意を解いて話し合いを望んだ瞬間、撃ち抜かれる事など珍しくも無い

(―――――― まさ、か………)

故に、戦いの際
誤解に囚われたまま相手を殺傷してしまう例も珍しくはない

奇しくも両者はその性質
魂の在り様が似ていて――似過ぎていたが故に
まるで見えなかったのだ

戦い、斬りあう事に悦びを見出す凶戦士の性質を秘めた者同士なら
戦闘の最中、互いに激を叩きつけ合ううちに
その違和感に気づいたかも知れない

だがセイバーはその立場上 
軍勢を奮起させるために激を飛ばし、敵の売り言葉に応ずる事はあれ――
自ら相手に罵りを入れる類の剣士ではない

なのはに至っては、そのスイッチが入ってしまったらひたすらに寡黙…
己の性能を十全に引き出す事のみに全神経を集中する冷徹な魔道士となってしまう

つまりは――――
最悪の状況に最悪の組み合わせが重なり――

(そんな、、だって…)

この有り得ないほどのコミュニケーションの欠落が生まれた

セイバーの生きた時代は、互いに名乗り合う事が許された時代
もっとも彼女自身は自らの勇名を名乗るまでもなかったのだが

今でも、その様式に沿った一騎打ちを
好もしいと感じる騎士なのだ

だが現代――
サーヴァントとして現界した彼女には
名乗りが――相手との対話が許される事などほとんど無い

だから心を殺し、騎士道の範囲においては
その意にそぐわぬ決着をつける事もしばしばだったのだ

有無を言わせぬ瞬殺などがそれである

剣として自らを律し
マスターを守るため、時に非情に徹して敵を倒す事が
未熟なマスターの元で……この剣の英霊に課せられた使命だった

全ては聖杯戦争に勝つために――――

(まるで無関係の相手、などと……)


それが思いっきり―――裏目に出ていた

セイバーs view ―――

剣を握る腕が震えるのは
決してその身に負った傷のせいではない…

そんな………
そんな馬鹿げた話が―――あるはずが、、


無関係の人間を敵と誤り――
剣を振るい――
宝具まで使って手傷を負わせてしまった――

そんな新兵の如き考えられない失態を……自分が演じた?

だって――初期の尾行から始まって
こちらをまるで誘うかのような挙動は、明らかに罠のそれだった……

自分が姿を現した時……
何の疑いも無く迎撃体勢に入ったあの手際……

そして、、
私に対する (としか思えない) 数々の備え……

突如、転移させられた空間で――
初めに出会った者がここまでの手札を揃えて迎撃してきたのだ……

それら全てが全くの偶然だ、などと……あまりにも不自然過ぎる――

では私が早合点したとして、相手のあの闘志をどう説明する…?
身に覚えの無い襲撃ならば……
少しでもその素振りを見せても良いはず…

たまたま、全くの無関係の人間が
たまたま、異空間で出会い
たまたま、私と拮抗する力を持っていて
たまたま、何の疑いも持たずに迎撃を行い
たまたま、ここまで闘ってきたというのか……?

何だ……これは、、
行き違いでこんな事象が自然に発生するケースなど……

何が、、何だか……分からない――


狼狽を隠せず……私は敵―――
いや、敵だと思っていた魔術師に対し
完全に無防備になってしまう

――――――

「やあぁッ!!」
「ッッ、、つっ!?」

突如として訪れた
あまりにも不可解で大きな隙

なのはがその突きつけられた剣を払い、
返す穂先で相手の首筋に槍を叩きつけ 相手を薙ぎ倒す

そのまま後方に思いっきりバーニアジャンプ
背中がザリザリ、と地面を擦るのも構わず全開で飛び退る

馬乗りになってガッチリとなのはを抑えていたはずの騎士が
なんと簡単に彼女の脱出を許してしまうのだった

「………!!」

信じられない表情のなのは
まさかこんな感単に危機を脱する事が出来るなどとは
夢にも思っていなかった

刃の部分はかろうじてかわしたものの
首を打たれた衝撃で飛ばされ、後方によろめく騎士

戦闘開始から今まで一分の隙も見せなかった騎士が、、
今や隙だらけ、、

「エ、、エクセリオンッッッ!!」

戸惑いのままに、その体勢のまま抜き打ちの砲撃をセット
未だ動かぬセイバーに砲身を向け――

(!??)

相手の表情を見て、固まってしまう……

焦燥の極みにあり、今にも泣きそうな顔の少女――
これが先程まで自分を追い詰めていた騎士と同一人物なのか?

その丈が10倍以上に見える程の威圧感と存在感を醸し出し
エースオブエースを、その戦意だけで圧倒した騎士とは――

まるで別人、、

そう 目の前の騎士の少女は
見た目通りの―― 年相応の女の子に戻ってしまっている

「ま、待って、、くれ……」

口を開く騎士の声色は今にも消え入りそうで……
今や全く戦意は見られない
何より、その剣がこちらに向いていない

ここに来て、なのはもようやく事の異常に気づく

「……ぅ――」

騎士の身体がよろめく

(!!?)

またも信じられないといった表情で目を見張るなのは

たった今打ち払った首へのダメージ?
あれ程までに強靭で、自分の攻撃を悉く跳ね返した少女が――
もう何をしても倒せないとさえ思った 相手の騎士が――

あんな苦し紛れの攻撃で
こんなにも弱々しい姿を見せるなんて、、

それは、戦意が消えた事によって
セイバーの体内を巡り巡っていたモノ――
その超人的な強度を支えていた、膨大な魔力が収まった事による事態だった

「だ、、大丈夫っ……!?」

体を引き摺りながら、騎士に近づくなのは

大丈夫などと、聞くもおかしな話だった
自分はこの相手を生き埋めにしようとしたのだ
そして逆に、この危険な相手の凶刃に
今まで散々、自分の命を脅かされた相手でもある

そんな相手に無防備で駆け寄っていく
自身、その迂闊すぎる行動に驚きを感じる

心の奥で「キケン! トマレ!」と警鐘を鳴らすも、、、
今の騎士には、もう自分を害する気は微塵も無い――
なのはにはそう感じられた

駆け寄り、セイバーに肩を貸すなのは

「………!」

今まで戦ってきた相手が体を支えてくれた事に対して
微かに驚きの表情を見せるセイバー

剥き出しの闘志をぶつけ合い、命を削りあってきた――
散々睨み合ったその相手の顔が目の前にある

互いに互いの顔を見合わせ、、

剣士と魔道士は
ばつの悪そうな表情そのままに――

「「―――――――、あ、……」」

何を言おうと迷いつつ、、、

同時に口を開いていた

??? ―――

「決着つかず……いや、6:4で英霊、か」

「剣の英霊の勝利かと スターズの隊長にあそこから逆転する術は皆無でした」

「分かんないわよぉ? あのアクマの往生際の悪さといったら…」

次元の狭間にたゆたう揺り篭
その内部モニターを食い入るように見ていたナンバーズの姉妹達が
各々の感想を交じえて談話に花を咲かせている

皆、一様に精神が昂ぶり気味である
感情の稀薄なNo7でさえ、半トーンほど声色が上がっている

姉妹たちのダベリ場と化した計測室にて
一人こめかみに青筋を浮かべるウーノ

「貴方たち、仕事しなさい…」


今日、何度目かになる叱責の言葉を吐く彼女

だが……
そう言いつつも溜息一つ
これはしょうがない、と思い直す

一番初めの闘いにして
ここまで凄まじいものを見せられたのだ
興奮醒めやらぬのも無理はない

戦いに生きる者にとって
その想い 主義、主張で様々な意見はあれど
やはり良い闘い、術技の限りを尽くした
華々しい闘いは見ていて楽しい

自分ら戦闘機人には過ぎた感情ではあるが
それに愉悦を感じる事を博士は喜んでくれるだろうか?

まあ、それを差し引いたとしても
自分らにとって有用過ぎる程のデータが手に入ったので
どの道、御の字なのであるが――

今はそれを―――良しとしよう………

(――――あら?) 

談話には加わらず
一歩引いた所から妹たちの様相を見守る長女ウーノが
とある違和感に気づく

「ねえみんな、………チンクは、、どこ?」

そう
一人足りないのだ
眼帯の妹、No5チンクの姿がない


クアットロが「んー?」と言った感じで唇に手を当てて答える

「ん、チンクちゃんなら一人で降りていきましたわよ?」

汎用性の高い初期型ナンバーズにして
責任感も強く、妹達の面倒見も良い彼女

それが故に今回―― 

最っ低の客の世話係に任命された
否 されてしまったチンク

「何でも―――豆板醤(トウバンジャン)はどこだ?とか言って…」

一人、中華の極意を求めて奔走していた

――――――

「ク、ククク……フハハハハハハハハ!!」

傷つき、血を流し、命を削って戦った――
誇り高き英霊と英雄

その行為が、全くの徒労………

行き違いであった事を認識した両者の
「何故、自分は……?」という 虚脱の表情

不可解にして不明瞭な疑問を
遥かな高みから眺め――

この世界の神が嘲う

狂神の宴に捕らえられ
手の平で操られるがままに踊る道化たち
無限の欲望の寡々とした嘲いはなおも続き、止まる気配が無い

「見たまえ綺礼! この瞬間の表情が一番の見物さ! 
 クク…自ら抗う術の無い力に縛られ 闘い、苦悩する……
 最強と呼ばれた者達のその姿は、最高の肴だと思わないかね!?」

剣の英霊が、空の英雄が、そのあまりの不明におたつく様――

「確かに滑稽だな  貴様の間抜け面と相まって見るに耐えん」
「酷いな綺礼! これでも造形には自信があるんだがねぇ! クク」


初期の配置
駒の感情を逆撫でするセッティング
様々なコーディネイトに
此度のサーヴァント達に作用する「ある」仕掛け

「いやはや、これだけの大仕掛け……
 どこかしら不備が出るかな、と冷や冷やしていたのだが
 気持ち悪いくらいに思い通りに踊ってくれたものだ……ク、クク」

科学者のこれ以上ない程の満悦の表情

歪なまでに無邪気なその眸は
野望とか、姦計とかそういうもの一切無しで
純粋な仕掛け人としての――

開幕の花火が綺麗に上がってくれたという
素直な喜びだったのかも知れない―――


盤上が急速に冷めていく―――

ロストロギア――神々の遊戯盤が
その遊戯の終了を宣告したのだ

ナイトとエースの駒は既に戦う意義を失い
戦意を収め、盤の上で互いに引き合っている

もはやこれ以上の発展が無い事は誰が見ても明らか

今宵はこれにて閉幕――

スカリエッティもナンバーズ達も
誰もがそう思っていた


「………………どうしたんだい? 、、、綺礼??」

娘達の様子でも見てこようかと席を立とうとした科学者が
ふと、その客人を見て――――首を傾げて尋ねる

「……………」

黒衣の神父は、既にその役目を終えた玩具――
その盤上の一点に注がれていた

男は――――哂っている

科学者のそれとはあまりにも違う、声もなく音もない
なのに地の底から競り上がってくるような、、

男の愉悦の気配――

見るものが見たら総身に怖気が走ったであろう――
それほどに不吉な神父の表情を前に
子供のようにキョトンとする科学者

「いや何―――」

男は答える

「貴様のくだらない駒遊びが――
 ようやく面白くなってきたので、な…」

それは今の男の偽らざる――正直な感想

「むぅ……ここに来て初めて笑い顔を見せてくれたのは嬉しいんだが
 分からないな………何がそんなに面白いんだい?」

「盤上を見てみろ―――」

そこには戦闘の空気が晴れて
向かい合うナイトとエースの駒――

「どうやら………まだ終わらぬようだ」

その、丁度 中央

まるで二つの駒を遮るかのように――

「……何だこれは?」

一つの駒が置かれていた


スカリエッティはこんな駒を置いた覚えはない
さっそく見覚えの無い駒――
その配置を直そうと手を伸ばし、、、

科学者が目を見開く

「…………触れない」

科学者の手が駒を掴もうとして――
まるでホログラムのように指がそれをすり抜けてしまったのだ

有り得ない事態だった

このロストロギアは所有者以外に触る事は出来ない
ナンバーズ達も言峰も、コレに干渉する権利を持たず
現在、所有権を認められたアンリミテッドデザイア――
ジェイルスカリエッティのみがそれと呼応し
進行を行う権利を有しているのだ

故に逆に言えば、盤上は全てスカリエッティの支配下にある
その彼が卓の上にて干渉できないものなど、、
あるはずがなかったのだ

心底、驚きを露にする科学者

「無理というものだな――無限の欲望よ」

黒衣の男が口を開く
その口調は禍々しくも
どこかなつかしいものに触れたかのような――

「ソレに首輪をつける……
 ましてや意のままに動かそうなどと、、
 本物の神ですら手に余る所業だろうよ」

そう―――
この盤上において、全ての所有権を持つ科学者に
干渉できないものなど――あるはずがない

「せいぜい気をつける事だ、ジェイルスカリエッティよ……
 ソレはな、自分の意にそぐわぬとあらば神すら殺し
 世界すら引き裂く――――そういうモノだ」

もし、そんなものがあるとするならば―――
そう、、、、

それはロストロギアの魔力が支配するこの世界で
その支配を受けつけず、所有者である彼の所有権を認めていない―――
そういう駒、という事になる

……………

「、、、は、、、、、はは………」

信じられない、といった表情のスカリエッティが
再びその口から愉悦の笑みを漏らす

「ふ、ふ、、はははははっ! そんな事が……
 そんな事が実際に起こるものなのか!?? 
 面白い…面白いよ綺礼!」

やがて男は堪えきれないといった呈で
その悦の笑いを、辺りはばからずに振り撒き続ける

「キミの世界は本当に凄いね!! 幾多の次元を跨いできたが―― 
 ここまで私を楽しませてくれる世界には、、
 とんと出会った事がないっ!」

踊るように手を広げながらくるくると回る――
白衣を翻しながら狂ったように――
体全体でその愉悦の感情を露にする無限の欲望――

その男の脇
此度、舞台となるその世界
その卓上には―――

ナイトの駒と、エースの駒の間に――
潸然と立ちはだかる「キング」の駒が置かれていた

――――――

これはとある狂気の科学者が仕掛けた
血みどろのバトルロワイアル

物語と呼ぶには
あまりにも突発的で
脈絡も無く
荒唐無稽極まりない

それはまさにゲームだった

後にその記述が残る事はない
ガイアの記憶にも管理局の記録にも残らない

そのゲームの初戦
二つの交わる世界にて
最強の者同士が向き合い
闘い、傷つけあい、その力を誇示し、刻み合った

それもまた仕組まれた事象
全ては無限の欲望と呼ばれた科学者の手の平の上だった

だが、、、、、

全てが管理されたその盤上に今――
ゲームマスターの科学者ですら制御不能な――
最悪のイレギュラーが――

フィールド上に降り立つ


呆然と見上げる二人
たった今まで血肉を削って戦っていた
銀の騎士と白き魔道士

決定的な行き違いがあった事はもはや疑いようが無い
今、魔道士がよろめいた騎士の体を支え
まさに互いに口を開こうとした、その場に――

――ソレがいたのだ

何の脈絡も無く――

今までどこにいたのか…
自分たちの戦いを脇から見ていたのだろうか?

否、、、ソレが近くにいたのなら
気づかないはずはないのだ――

そのあまりにも巨大な―――気配に

天と地にまるで唯一
その存在を許されたかのような
雄大な存在感

騎士と魔道士の戦いの余波で
この地は未だ、粉塵舞い上がる災地と化している

だのに、そのモノの周りだけがまるで別世界
塵芥が自ら避けて通っているかのように、、
ソレは誇り一つ被っていない

その光り輝く黄金の肢体を目にした騎士の――

―――全身が総毛立つ

その肩を抱いている魔道士の手に、、、伝わってくる

騎士の緊張、戦慄き、震え、

ただ事ではない………
自分が力の全てを以って攻め抜いて
微塵も揺るがなかったこの騎士が――

これほどの緊張を強いられているのだ

未だ状況の掴めぬ魔道士だが、知らず自身も身構える


まだ――――終わりじゃない……


沈黙は実際には数刻

その目の前の相手に対し、、
喉から搾り出すように――
剣の英霊は―――

「アー、、チャー……………」

その黄金の殲滅者の名を呼んでいた