英霊ナノハに関する第一回報告書第三次中間報告 制作者『調べ屋』アマネ 関連項目 ナノハとなのはの関係 『ナノハ』この名前が最初に出たのは、聖王統一戦争後期である。 それ以前の歴史には名前が出てこず、出現して十年の時を境に、一切名前が出てこない事から、 『幻の英雄』とも呼ばれており、実際僕もそう思っていた・・・ 『高町なのは』の存在を識るまでは・・・ 『ナノハ』と『高町なのは』は余りにも似ていた、『ナノハ』は数少ない伝承によれば 桜色の魔力光を持ち、一度砲撃を放てば聖王が持つ『聖王の鎧』すら撃ち抜いたという 言うまでもなく、聖王とは古代ベルカ時代の王であり、ベルカ自治区では今尚信仰の対象である。 そして古代ベルカといえば、知っての通り近接特化の術式である。(例外はいるが。) 伝承の記述「砲撃で撃ち抜いた」では、近接主体の古代ベルカに、 砲撃魔法の使い手がいたことになり、更には魔力量が低いとされる古代ベルカに、鎧を撃ち抜くほどの 大魔力容量の持ち主がいたことになる。これは魔力量が低い為、 それを補うためにカートリッジシステムをデバイスに装備したという 歴史を持つ古代ベルカでは考えづらく。 よしんば居たとしても、何故砲撃魔法を使っていたのかが分からない。結局僕はこの調査を保留にしていた。 だが、新暦75年、いわゆるJS事件で興味深い事が分かった。 その事件で聖王のクローン体である。『ヴィヴィオ』が聖王と化し、聖王の鎧を発動させたが、 そのヴィヴィオの仮の母、『高町なのは』が聖王の鎧を撃ち抜き、ヴィヴィオを助けたというのだ。 高濃度のAMF下での聖王の鎧を撃ち抜く程の大出力砲撃、 しかも、高町『なのは』の魔力光は桜色だという、更に『ナノハ』には 『聖王の義母』の名でこの時代に伝わっている。 僕はこの奇妙な一致に興味を覚え、調査を見直すことにした。 まさか数百年も後に、この報告書が役にたつとは思わなかったが、 いや、人間長生きはしてみるものである──。 ──真夜中の公園、どことなく危ない雰囲気が漂うこのフレーズだが、 今現在、それは紛れもなく真実であった。何しろ──霊長の守護者達が四体、一堂に会しているのだから。 「へへっ。楽しそうなことやってるじゃねぇか。」 そう言うのは蒼い槍兵──ランサーである。手には既に朱い魔槍──ゲイボルクが握られており、 その気になれば、直ぐにでも戦闘を始められるだろう。 「──何用ですか、ランサー。」 相手を仕留められるところを邪魔された為か、不機嫌を隠そうともせず、ランサーに問うは、 同じく蒼装束の女騎士──セイバーである。 その傍らにいる赤い外套の騎士──アーチャーと、 ランサーが声を掛けセイバーの動きが止まった瞬間、一気に間合いを放した 白い外套の女──ナノハは共に無言で出方を伺っている。 「いやなに、そこの白いのと、さっきまで殺りあってたんだが──」 そんな不機嫌はどこ吹く風とランサーは続ける。 「途中で逃げられてな、気になって探してたんだが、 ・・・そうかマスターの危機だったか。それなら納得だ。 主を守るのはサーヴァントの務めだものな。・・・さて、今度はこっちの質問に答えてもらう。」 それまでの飄々とした雰囲気は消え去り、 「さっきも言ったがよ、──女一人に二人掛かりとは何事か。」 一変して厳しいものになる。 「その女、侮れないのは事実だ、しかし主の身を第一に考え、己が身を犠牲にすることも厭わぬ 紛れもない英雄に対し、二人掛かりで挑むとは・・・、セイバーのクラスも堕ちたものだな。」 「黙りなさい。紛れもない英雄?無関係な街の住人を犠牲にするような外道がか? ・・・ランサー、貴方は誤解している。このような外道に払う敬意などはありません!」 侮蔑の言葉を切って捨てるセイバー、その言葉に大体の合点はいったが、しかしランサーは敢えて語らず 「・・・そうか、だが二対一とは、やはり気に食わん。俺はナノハにつかせてもらう。」 「・・・そうですか。クー・フーリンとも在ろう者が、 その様な外道に肩入れするとは・・・正直、幻滅です。」 「ふん、どうとでも言え。」 共に言葉は尽き、最早語るは魔槍と聖剣のみである。 「────鋭ッ!」 「─────応!」 ──そして、蒼の英雄は同時に地を駆けた── 一方こちらは外套の英雄──アーチャーとナノハである。 二人は共に無言のままだがナノハには青筋が、アーチャーには冷や汗が 額にくっきりと浮かび上がっていた。 「────」 「────」 「──────」 「──────」 「────────」 「────────」 (なんなのだ、この息苦しさは!) (アーチャー、あんた何とかしなさい。) (なっ、バカな凛、君は噴火しかけている火山にむかって火をくべろと!?) (いいから、このままじゃこっちの心臓が保たないわ。) そう言われると、アーチャーとしては話し掛けるしかない。 「(──よし。)あー、キャスター。」 「──うん?なにかな?」 恐る恐る話し掛けるアーチャーにナノハは物凄く良い笑顔で応えた。 「こ、こちらもそろそろ始めないか?」 おもいっきり腰が引けてるアーチャーの提案に、ナノハはやけに上機嫌に笑いながら 「フフフ、そうだね。そっちを無力化した後でランサーさんに抗議することにしようか。」 ・・・訂正、上機嫌ではなく怒り狂っているようだ。 口調まで変わって(というより素になって)いる。 だがアーチャーはこの言い草が気に障ったのか 「──ほう、軽く言ってくれるな。ならばその自信、試させてもらっても構わんな?」 「試すも何も、先に問答無用で切り掛かってきたのはそっちでしょ。」 さっきの態度は何処へやら、アーチャーはすっかり元の調子を取り戻す。 「成る程。先程のいきなりあのような魔術を放つのは 問答無用とは言わないのか。いや、一つ賢くなったな。」 「自分のマスターがサーヴァントに囲まれていたら、普通は撃つと思うけどなぁ。」 「「・・・・・・・・・。」」 そこで二人は口を閉じ・・・ 「─────覇ァ!」 「─────疾ッ!」 魔弾と矢の応酬を開始した! ──ちなみに先程ナノハが額に青筋を浮かべていたのは── (──ランサーさん?) (──ん、おうナノハか。これ(念話)、便利だよな。) (さっきのはどういう事かな?) (・・・さっきのって何だ?) (だから、何で誤解を解いてくれなかったの!) (それは・・・アレだ、そこまでする義理は・・) (この戦いに乱入してきた時点で 『義理は無い』なんて言い訳通ると思う?) (・・だってよぉ、教えないほうが面白いじゃねぇか。) (こっちはマスターの命が掛かってるんだけど?) (ああ、もう始めるから、またな。) (ちょっと、ランサーさん!?・・一瞬でも感謝した私がバカだったのかな・・・。) ──などという念話があったからである。いやはや。 ──朱い魔槍に不可視の聖剣、駆ける色は共に蒼。 絶え間なく繰り出される朱い軌跡は、令呪の縛りが取れた現在、 最早英霊にすら視認するのも困難な速度である。 対する不可視の聖剣はそのことごとくを防ぎ切る。だが、先の傷と槍の高速化、更には── 「───ッ!」 ガゴン! やおらセイバーは向きを変え、飛んできた岩石を打ち砕く。 ・・・そう。このように、ときたまナノハからの攻撃がくるのである。 最も・・・ 「───っとぉ!」 それはランサーも同じくことなのだが。 お互い妨害を受けながらも戦闘は加速していく── ──己のマスターを守るため、足を止めての射ち合いを競う二体のサーヴァント、 それは早撃ちと、精確無比な撃ち落としの連続であり、もし撃ち落とし損なえば、 言うまでもなく串刺しになること請け合いである。 だが二体の英霊はここに来てある疑問を持ち始めていた。つまり、 (この女・・・タカマチ、タカマチか・・・ふぅん、) (なんかあの・・刀?に見覚えあるなぁ・・・この人、) 『何処かで会ったか(っけ)?』 である。疑問は未だ溶けないが、魔弾と矢の応酬は続く── その中で、ナノハの右腕のコンソールだけが怪しげに光を灯していた。 「───おっと!」 ランサーは飛んできた魔術を打ち払う。 その間に体勢を立て直したセイバー、都合何度目かの光景だ。 ──ランサーへの攻撃はアーチャーのマスター──遠坂凛の物である。 ランサーのスキル゛対魔力゛のランクはC、未だ未熟なツヴァイには、渾身の力を籠めなければ、 通らないが、遠坂凛ならば多少面倒だが、少し大掛かりな魔術を使えば、 十分突破出来るレベルである。しかも味方のセイバーの゛対魔力゛のランクはA、 遠坂凛に限らず現代の魔術師では、天地が引っ繰り返ろうが、 セイバーには魔術では傷一つ付けられないため、何の遠慮も不要ずに攻撃魔術での支援が出来るのだ、 対するナノハはランサーの位置を考慮して援護しなければならない この差が、危ういところで戦闘を膠着状態に保っているのであった──。 (くそッ!つまんねぇ戦いだ。) (──・・・ランサー、さん。) (何だ?こっちは今忙しい・・・) (共同戦線、張らない?) (あん?) (見たところ、あっちは攻撃こそしてないけど、 どうやら完全に手を組んている訳じゃないみたい。 こっちと同じ状況、というわけだね。) (・・・いいぜ、続けろ。) (そっちの目的は多分情報収拾でしょ。根拠は、あの時貴方は『八人目のサーヴァント』って言ったよね。 つまり、貴方は私と会った時点で、他の全サーヴァントと会っている事なるし、 今だって、一向に宝具を使おうとしない。つまりは勝負を付ける気が無い。 そして、今の情報収拾の対象は私でしょう?何しろ、ついさっき召喚されたんだからね。) (・・・正解だ。で?共同戦線を張るこっちの利点は?) (私の隠し玉を見せることと──魔力供給、じゃあダメかな?) (・・・魔力供給は魅力的だがまだ足りんな。) (むっ、失礼だね。・・・じゃあ、この目の詳細を。) (・・・よし、いいだろう。だが、そっちの利点は?) (・・・あまりのんびり戦っていると、こっちマスターが風邪をひいちゃうからね。) (は?、・・・さっきから随分マスターを気にしているが・・ひょっとして、生前の知り合いか?) (──さて、女性の過去を詮索するのはマナー違反だよ?──じゃあ。) それでランサーとの念話を切ると── 「──ビット・・・。」 『オプションビット』 先程から準備していたビットを打ち出した、それはアーチャーを掻い潜り・・・ 相手のマスター、衛宮士郎と遠坂凛を── 「バインド、空中へ。」 「「!?」」 「──!?、シロウ!」 捕縛し、空中へ持ち上げた。 「くっ、おのれキャスター!」 「別に危害を加える気はないよ?今のところ、だけどね。」 いきり立つセイバーを尻目に、いけしゃあしゃあと言い放つナノハ その両脇に先程『ビット』と呼んだ物が一つずつ、ゆっくりと並んだ。 「なんだ?その変なのがお前の隠し玉か?」 「うん、オプションビット。私の切り札の一つだよ。」 金色の二等辺三角の中心に紅い玉の入った(つまりはブラスタービットと同じ意匠) 小型兵器を従えた堂々たるその姿には、僅かだが確かに『英雄』に相応しいモノが見てとれた。 それは『高町なのは』にはなかったもの、自身に対する絶対の自負──。 「さあ、仕切り直しだよ。」 マスターを気にする必要が無くなった今、ここからが本当の勝負といったところだろう。 「・・・少し頭冷やそうか。」 今、四体のサーヴァントが激突する──。