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ファミリーシミュレーション EP21 思い出 - (2011/05/07 (土) 14:22:21) の編集履歴(バックアップ)


 

まだ空が明るくなり始める時間、モモは既に目を覚まして自室のベッドの上でごろごろしながら考えていた。
美柑さんがあんな風になるなんて…
ヤミを落としてハーレム計画に障害は無くなったと思っていたモモにとっては完全に誤算だった。
ため息をひとつつき、上体を起こす。
考えてみれば、今まで誰が一番長くリトのそばにいたのだろう。
今まで誰が一番長くリトのことを好きでいたのだろう。
今まで誰が一番リトとお互いを支え合ってきたのだろう。
「…馬鹿ね、私…」
美柑がリトのことを好きなのは知っていた。
だがそれが仇となり、今や自分の計画も空中分解しそうになっている。
リトが美柑のことで立ち直れないようならばもうどうしようもない。
「…ふう…朝食の準備をしよう…」
しばらく頭を悩ませていたモモだが、時計を見て一階に下りていった。
モモが階段を下りると、キッチンには既に人がいた。
モモが覗いてみると、林檎が朝食の用意をしているところだった。
「…お母さん…」
「あら、おはよう」
林檎はモモに笑いかけた。
「おはようございます…」
モモは挨拶だけして目を伏せてしまう。
リトと美柑をあの状況に追い詰めた元凶は自分、彼らの親に会わせる顔などあるわけがなかった。
林檎もモモの気持ちを察したのか、それ以上は何も言わなかった。
 
 
夕方、ララは美柑の部屋をそっと覗いてみた。
今日も美柑は必要な時以外は閉じこもったまま、林檎の用意した食事も齧る程度にしか食べていなかった。
だがそれはリトも同じだった。
ララはキョーコからもらったチケットをリトと美柑に渡そうとも考えていたが、美柑の様子を見る限りでは今それをやるのは逆効果な気がした。
「…美柑…」
ララはそっと美柑の部屋のドアを閉め、リトの部屋に入っていった。
「リト…」
「ララか…」
リトはぼんやりとした目でララのほうを見た。
ララにとっても今のリトを見ているのは辛かったが、リトに少しでも元気になってもらいたかったララはリトをライブに誘うことを決心する。
「ねえリト。ルンちゃんとキョーコちゃんから二人のライブのチケットもらったんだ。今夜なんだけど、一緒に行こ?」
ララは必死に作った明るい笑顔で言った。
「…そっか。でも俺は…」
リトは断ろうとした。
だがララはリトからの返事を待たずにリトの手を取ってリトを部屋から連れ出そうとした。
『ごめんリト。私これ以上このままのリトを見てられない…』
ドタドタとけたたましい音がしてララとリトが下りてきた。
「ララさん?」
「いったいどうしたんだ?」
その様子に驚いた林檎と才培がララに声をかけようとするが、ララは玄関で靴を履いてリトにも靴を履かせた。
「ごめんリトママ、リトパパ!今日はルンちゃんとキョーコちゃんのライブに行くの!帰りは多分遅くなる!」
一目散に駆け出すララを林檎と才培は呆気に取られた様子で見つめていた。
 
 
 
同じ頃、場所は変わって彩南公園、春菜はマロンの散歩のためにこの公園に来ていた。
リトと美柑がどうなったのか気にはなっていたが、美柑の前でリトとの4Pを繰り広げた一人である自分が結城家に直接様子を見に行くのは気が引けた。
あのときの美柑のショックを受けた目と絶叫は今でも強烈に心に焼き付いている。
浮かない顔で歩く春菜の目に、公園の木陰のベンチで本を読んでいる少女の姿が映った。
「…ヤミちゃん…」
「あ、こんにちは」
挨拶をしたヤミは春菜が浮かない顔をしていることに気付いた。
「…どうかしたんですか?なんだか浮かない顔をしていますが…」
「そう見える?」
春菜はとぼけて笑って見せたものの、ヤミは以前里紗に言われたのと同じ台詞を言った。
「…作り笑いしたってわかりますよ…」
「そっか…、そうよね…」
春菜はそのままヤミの隣に腰を下ろす。
自分でもどうしていいのかわからなかった春菜はついヤミにリトと美柑のことを話してしまった。
ヤミは自分が恐れていたことが現実になったことを知り、手に持っていた小説を地面に落した。
「…私たちがいくら電話してもリトくんは出ないの。きっと美柑ちゃんに何かあったんじゃないかと思うの…」
ヤミは一度ララの発明で美柑と人格を入れ替えたことがある。
そのときのリトを見ていれば美柑がいかにリトに大切にされているかわかる。
そして美柑もリトを大切に思っていることも。
「…行かなきゃ…」
ヤミはぼそっとそう呟いて立ち上がった。
「ヤミちゃん?」
「…教えてくれてありがとうございました…」
ヤミは春菜に背を向け、結城家に向かって走り出した。
 
 
「来るかなあ、リトくん…」
ステージ衣装に着替えたルンは控室でそわそわしていた。
「ルン、気になるのはわかるけど、今はステージに集中しないと。ララちゃんを信じよう?」
同じく控室にいたキョーコもそう言いながらも落ち着かなかった。
気になって居ても立ってもいられないルンはバッグからケータイを取り出してリトに電話をかけた。
会場の前のベンチに座っていたララは、隣に座るリトのポケットのケータイが鳴っていることに気付いて声をかけた。
「リト、ケータイ鳴ってるよ」
「…」
リトは出る気はないようだった。
「…もう!」
ララはリトのポケットからケータイを取り出す。
ララがケータイを開いて発信者を確認すると、それはルンだった。
「あ、リトくん?」
「ごめん、ルンちゃん。私だよ」
ララの声を聞いてルンは安心したような、ちょっとがっかりしたような複雑な気持ちになる。
「あ、でもリトもちゃんと一緒だから」
「そう…。あのさ、ララちゃん、ライブ終わっても帰らないでいてくれるかな?リトくんに会っていきたくてさ…」
「…うん。わかった」
「ありがと」
ルンはそう言って電話を切った。
「…リトくんに会うの?」
電話を終えたルンにキョーコが話しかけた。
「うん…」
「…私も会ってみていいかな?」
意外なキョーコの言葉にルンは少し驚く。
「今日ライブに誘ったことでちょっとでも元気になってもらえたかどうか知りたいしさ…」
キョーコは自分のしたことの結果を見届けたいらしい。
「そうだね…。二人で会いに行こう」
ルンは控室の時計を見て立ち上がる。
「そろそろ始まるよ、キョーコ」
「うん!」
二人のライブが始まる。
「ほらリト!始まるよ!」
ライブ会場にリトを連れ込んだララが明るい声を捻り出す。
派手なライトとホールの中いっぱいに響く曲、二人の少女の歌声、それを盛りたてるオーディエンスの歓声、リトにとってはまるで遠いどこかの出来事のようだった。
 
 
「なあ林檎。おまえ、どうしてあのときリトに相手を誰か一人に絞って普通の恋愛しろって言わなかったんだ?」
結城家のリビングで才培はビールを飲みながら林檎に尋ねた。
「その質問、パパにもそのまま聞いてみたいわ…」
林檎は紅茶を一口飲んでふっと息をついた。
「…俺達ってさ、自分の好きなこと仕事にして、リトと美柑を家に置きっぱなしにしてたろ?二人が小さい頃は俺もちょくちょく様子見に家に帰ってたけど、最近は連載も増えてそういうことも少なくなってさ…」
林檎は才培の話を聞きながらもう一口紅茶を飲む。
「ララちゃんたちがやってきて、リトと美柑に友達…いや家族と言った方が近いかな、が増えて、この家はがらっと明るくなった」
林檎はララが自分たちを連れて来てくれた結城家のクリスマスパーティーを思い出していた。
あのときの自分の言葉、「美柑、いつも寂しい思いをさせてごめんね」…いったいどの面を下げてあんな言葉が言えたのだろう。
自分たちがちゃんと家にいれば状況をひっくり返すとまではいかなくとももう少し違った結果になっていたはずだ。
「そんなララちゃんたちを、そして美柑だけじゃなくリトだって寂しかったはずなのに、自分たちのこと棚に上げて一方的には責められねえよ」
才培の言うとおりだと林檎は思った。
だから今朝元凶であるモモに何も言わなかった、いや言えなかった。
モモの顔を見ると二人に対して本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
あれは本来自分たちにこそ相応しい顔だったのかもしれない。
「…そうね…」
林檎がさらに一口、冷めた紅茶を口にしたそのとき、結城家のチャイムが鳴った。
「誰かしら…」
林檎が玄関に出ると、そこにはヤミがいた。
「ヤミちゃん…」
自分を迎えたのが二人の母親だったことにヤミは驚きながらも言葉を発した。
「こんな時間にすみません…。あの…リトと美柑は…」
「リトはララさんと出かけてる。美柑は部屋にいるわ。心配して様子を見に来てくれたんでしょ?」
林檎はヤミを招き入れる。
「…すみません。お邪魔します」
ヤミは階段を上っていった。
林檎はヤミの後ろ姿を少し見つめてからふと夜空を見上げた。
「綺麗ね…」
今日も満天の星空だった。
だが今日の星空は昨日のそれとどこか違っていた。
 
 
 
 
ライブの終わった彩南ホール、ルンとキョーコは控室で私服に着替えていた。
「リトくん、ちょっとは元気になったかな…」
ルンは不安げに口を開く。
「リトくんって妹さんと仲良かったんだよね?」
キョーコは美柑に直接会ったことはなかったため、美柑に会ったことのあるキョーコに確認する。
「私は美柑ちゃんと話したことはあまりないんだけどね。でも傍から見てるだけでも超仲いいんだってわかるよ。リトくんから聞いた話なんだけど、
リトくんの両親って仕事で家にいないことが多くて、美柑ちゃんとずっと二人きりだったらしいよ。両親がいないから二人でずっと支え合ってきたんだと思う」
「そう…。二人三脚も同然で過ごしてきた兄妹か…」
二人三脚、これはリトと美柑の関係を表すのにもっとも適した表現かもしれない。
美柑が歩けなくなったらリトも歩けなくなる、その逆もまた然り、それだけの絆が二人にはあったのだ。
「行こう、ルン」
キョーコの声にルンは静かに頷き、控室をあとにした。
外のベンチに座っていたララとリトの姿を発見した二人は座っている二人に駆け寄った。
「リトくん!」
ルンの呼びかけに対するリトの反応は極めて緩慢だった。
「…ああ…ルン…」
「…これは想像以上だね…」
キョーコも人形同然のリトの姿に息を呑む。
「美柑が閉じこもってからずっとこの調子なの…」
ララにはもう明るい声を捻り出す余裕も無かった。
家には美柑がいる。
このままリトを帰してもここ数日の焼き直しになるのは目に見えていた。
「リトくん、ちょっとついてきて」
ルンはリトの手を引いて歩き出した。
今のリトを見ていられなかったルンはリトになんとしても立ち直って欲しかったが、彼にかける言葉は見つからなかった。
言葉は見つからないが彼のために何かしたい、その想いはルンをある行動に走らせる。
ララとキョーコはリトの手を引いて歩くルンを慌てて追いかけていった。
 
ルンがやってきたのはこじんまりとしたラブホテルだった。
「ルン…」
キョーコは驚きながらもルンの気持ちを察する。
リトを立ち直らせるためには彼の新しい支えが必要だった。
そのために、かける言葉が無いのなら体を差し出しても想いを伝え、彼の支えになろう、そう考えての行動だろう。
だがそれは今のリトには逆効果かもしれなかった。
 
 
 
「キョーコ、ララちゃん、ここからは私だけでいいよ」
背中越しに聞くルンの声にただならぬ想いを感じる二人、だがララはそれを聞いても引き下がらなかった。
「私も行く。私だってリトのために何かしたいもん」
ララはそう言って一歩前に出る。
キョーコは目を少し閉じて考える。
リトとまともに話をしたのは一回だけ、ルンが見栄を張ってリトを連れてきたあの日、トラブルに巻き込まれた自分を助けようと奔走してくれたのは彼。
痴漢に襲われそうになったときに後ろに隠れた彼の背中、あのときは頼もしさを覚えるほど大きく見えたのに今は消えてしまいそうなほど小さく見える。
こんな形は望んではいなかったが、ここで彼に抱かれても、少なくとも後悔だけはしないと言えた。
「好きな人のピンチに引き下がったら女が廃るでしょ」
キョーコはふっと笑って一歩前に踏み出した。
 
四人は部屋に入り、リトはその状況に少し戸惑いを覚えていた。
「ちょっと…」
リトが何か言いかけたが、ルンが有無を言わさず開きかけた唇をキスで塞いだ。
舌をねじ込み、強引に絡ませていく。
そのままルンはリトをベッドに誘導し、押し倒す。
すかさずララがリトのズボンとパンツを下ろし、まだ力の入っていないペニスを口に含んで刺激していく。
「んっ…んん…」
くちゅくちゅという唾液が混ざる音が聞こえ、ララの口の中でペニスが刺激されてリトの中の雄の本能が少しずつ目を覚ましていく。
そしてキョーコがリトの顔に自分の顔を近づけていった。
気づいたルンが唇を離し、キョーコの唇がリトの唇と重なる。
そしてルンはそのままララが舐めているリトのペニスの方に顔を近づける。
ララはルンが顔を近づけてきたのを見てペニスを口から離し、舌先で亀頭を左側を刺激していく。
そしてルンは空いた右側に舌を這わせる。
ララのフェラチオで半分ほど勃起していたペニスはルンからの刺激も加わってどんどん力を蓄えていく。
キョーコは唇を離し、リトと目が合った。
キョーコが優しく笑ったかと思うとルンがいつの間にか服を脱いでいて、リトのペニスを掴んで彼の上に跨り、自分の中に挿入しようとしていた。
「んっ…」
ルンの柔らかな膣にリトのペニスが呑みこまれていく。
数日ぶりのセックスにリトの体は反応し、美柑のことで不安定になっていた彼の精神は彼の本能を少しずつ暴走させていく。
リトのペニスにルンの愛液が絡み、ルンが腰を振るとぬるぬるとした膣内の感触がペニスから脳へ快感となって伝わっていった。
 
「んっ…あっ…」
リトがルンの腰を掴んで軽く腰を突き上げると、彼女の子宮にペニスが強く当たり、ルンが高い嬌声を上げる。
リトはベッドのスプリングを利用し、ルンの体を跳ね上げるような勢いでルンの中を突き上げていく。
「あっ!!きゃんっ!!」
ぎしぎしとベッドが軋み、その度にルンの子宮から強烈な快楽が彼女の脳に送られていく。
彼女の上げる嬌声がだんだん大きく、そして感覚も短くなり、リトは上体を起こして彼女を抱き寄せ、体を回転させて正常位に持ち込む。
ルンを強く抱きしめ激しくピストンするリト、彼の絶頂が近くなっていた。
ルンはリトが自分から離れないよう脚をリトの腰に絡め、彼が深くペニスを差し込んでくるのに合わせて腰を浮かせ、自分の一番奥で彼を果てさせようとする。
「きて…リトくん…私の中に…」
ルンがリトの耳元で囁くとリトはルンを串刺しにする勢いで最後のひと突きを繰り出し、そのままルンの子宮に大量の精液を流し込む。
ルンとリトはびくびくと体を震わせ、お互いの体をぎゅっと力いっぱい抱きしめ合った。
しばらくしてルンの体から力が抜け、それに合わせてリトはルンの体を離す。
リトは次にララの方を見る。
ララはリトが次は自分を抱くつもりでいることを察し、服を脱ぎ捨ててベッドの上に仰向けに寝転ぶ。
「いつでもいいよ…」
リトはララの脚の間に体を滑り込ませ、ララの膣口に亀頭の位置を合わせる。
「ふあっ…」
ララはここ数日彼と交わっていなかった。
だがそれまではかなりの頻度で彼と交わっていた彼女は、彼が自分の中に入って来る感触を随分と懐かしく感じた。
「あっ…リトぉ…」
愛しい彼の名を呼び、ララは彼の背中に回した腕に力を込める。
「んっ…んン…」
彼とキスをしながら正常位で中を激しく掻きまわされるララ、普段ならばリトと愛し合っている感じがしてララの大好きな行為である。
だが今日は違った。
リトの深い後悔、罪悪感、そのほか不安定になっているリトの心の中が伝わってくる。
いつものリトとのセックスならばどんなに激しくされても彼が自分を包み込んでくれるような優しさを感じ、安心と快楽に浸っていられるのに今日はそれがない。
別に肉体的な痛みがあるわけではないし、気持ち良くないわけでもないのにララはセックスの快楽に集中できなかった。
『でもリトが立ち直ってくれるなら私は…』
リトの自棄になったように腰を振る姿は見ていて辛かったので、ララはぎゅっと目を閉じる。
「いつでもこのまま出していいからね?」
ララはそう言って彼の動きに合わせて腰を浮かせ、ルンと同じく彼に中出しを促す。
「う…」
リトが一瞬呻くような声を上げたかと思うと、そのままララの膣内に彼の精液が注ぎ込まれた。
 
 
「は…あ…」
ララはリトの精液を膣内に受けて初めて虚しい気持ちになった。
だがリトはララのそんな気持ちに気付くことなくペニスを引き抜き、そのままキョーコのほうへ目を向ける。
「私ともしたい…?」
キョーコはそう言うと服を脱いで彼に近づいていく。
キョーコはリトの背中に腕を回して自分の方に抱き寄せる。
リトもキョーコの背中に手を回してキョーコを抱きしめる。
私のこと…ちゃんと見てくれてるのかな…
リトの心は今本当に自分の方を向いているのだろうか?
キョーコはそんな疑問を持った。
今のリトに支えが必要なのはわかっていたが、自分がリトと交わることは本当に彼の支えになるのだろうか?
キョーコはリトの唇に自分の唇を近づけていく。
二人の唇が重なると、リトは勢いでキョーコを押し倒した。
「!?」
突然のことにキョーコは驚いたが、リトはそのままキョーコの脚の間に陣取って挿入の体勢に入っていた。
キョーコの膣は十全に湿ってはいなかったが、リトのペニスにはルンとララの愛液がたっぷりと絡みついていたので特に引っかかることなくキョーコの中に呑みこまれていった。
「んっ…あ…」
初めてペニスを受け入れるキョーコの体に処女膜を突き破られる痛みが走る。
だがそれ以上に痛かったのは心だった。
リトくん…
今のリトの心が伝わって来る。
破瓜の痛みが消え失せてしまいそうな、それくらいの彼の心の痛みが伝わってくる。
私のことを見ていない…
キョーコはふと先ほどまでリトと交わっていた二人の方に目をやる。
二人とも不安そうな、心配そうな目でリトと自分の交わりを見つめている。
そうか…。リトくんはルンとララちゃんのことも見ていなかったんだ…
キョーコは少しでも自分の方を見てもらおうとリトの背中に回した腕に力を込める。
するとリトはまるで恐怖したように体をびくっと震わせた。
三人の女性と交わる、それは美柑に深い傷を負わせたときと同じ状況。
リトの心の中に巣食った怯えがだんだんと表に出てきつつあった。
だがそれと同時にリトは思い出していた。
彼女たちと一緒にいられるよう頑張ろうと決めたときのことを。
こんな自分を愛し、許してくれた彼女たちに今更だめだったなんて言えるわけがなかった。
それでも傷ついた美柑の姿が頭から離れない。
ジレンマに身を焼かれそうなリトは自暴自棄になってキョーコの中を突きまくった。
「あっ!?んっ…ぐぅ…」
キョーコが突然激しくなったリトの動きに驚くと共に、破瓜したばかりの膣内に痛みが走る。
リトはそれに気付くことなくキョーコの中に大量の精液を注ぎ込んだ。
「あ…」
キョーコは自分の中でリトのペニスがびくびくを脈打つ感触と、自分の愛液とは違う粘液の感触を感じる。
中に…出されたんだ…
膣内に広がる精液の熱がキョーコの心を虚しくする。
リトは荒い息をつきながらキョーコの中からペニスを引き抜いた。
「…嫌だな…」
キョーコはぼそっと呟いた。
 
 
「…美柑…」
美柑の部屋に入ったヤミは屍のような彼女の姿を見てショックを受けた。
それだけリトのことがショックだったのだろう。
「美柑…」
彼女が寝ているベッドに腰掛け、ヤミは美柑に声をかける。
美柑からの反応はない。
心を完全に閉ざしてしまっているようだった。
ヤミには自分がここにいて美柑に支えになれる自信があったわけではない。
だが美柑が自分の声に反応しないからといって引き下がることもできなかった。
なんと声をかければ美柑の心に届くのだろう。
ふと、ヤミは美柑が部屋に持ち込んでいる飲み水が少なくなっていることに気づく。
ヤミは飲み水の容器を手に取り、一階に下りて飲み水を足しに行った。
「ヤミちゃん…」
一階に下りると林檎がヤミに声をかける。
「水道をお借りしますね」
ヤミはそう言ってキッチンの水道の水を容器の中に足していく。
「…美柑、酷い状態ですね…」
「…うん。でもリトも塞ぎ込んでてね…。ララさんが気を遣ってライブに連れて行ったんだけど、どうなるか…」
「そうですか…」
リトが塞ぎ込んでいる。
あの馬鹿みたいに優しくて考えるより先に行動するような彼が…。
きっと傷を負わせた相手が美柑だからなのだろう。
たった一人の妹だからこそ彼は臆病になっているのだ。
「…」
美柑を立ち直らせることができる人間がいるとすれば、それはリトだけだ。
ヤミは思った。
なら自分には何ができるのだろう?
あの様子だと美柑はリトも拒絶しているだろう。
友達の自分だからこそできること、それはなんだろう?
ヤミは水道の水を止めて容器に蓋をする。
もし彼女が今夜自分に一度も口を開かなくても、今夜はずっと彼女のそばにいよう。
ヤミはそう心に誓って再び階段を上っていった。
美柑の部屋に再び入ったヤミは飲み水を美柑のベッドの枕のそばに置いた。
そのときだった。
「…ありがと…ヤミさん…」
美柑がぼそっと呟くように言った。
今しかない。
ヤミは思った。
美柑が再び心を閉ざしてしまう前に自分の想いを美柑に伝えなければ。
でもどうやって?何と言って?
美柑が飲み水を少し口にし、再び目から光が消えそうになる。
待って、美柑…
ヤミは美柑の部屋をぐるっと見渡す。
ヤミの目に美柑と街で遊んだあの日のプリクラが留まる。
気がつくとそれが張られているのは美柑が用意した写真ボードだった。
そこにはあの日の二人の思い出だけでなく、たくさんの美柑の思い出の証が貼られていた。
「…リトとのこと、聞きました…」
ヤミが口を開いた。
 
 
 
嫌だな、キョーコは確かにそう言った。
リトは呆然とした目でキョーコを見つめる。
自分とのセックスが嫌だったということだろうか。
「…ごめん…」
リトの口から出た言葉にキョーコはため息をつく。
「…私が何に対して嫌って言ったかわかる?」
不意のキョーコの質問、リトは先ほど思ったことを口にする。
「俺と…その…セックスするのが…」
「違うよ。私、リトくんになら抱かれてもいいと思ってた」
キョーコが口にする否定の言葉はリトを混乱させる。
「じゃあ中に出したこと…?」
「それも違う」
リトはますます混乱する。
キョーコは自分と交わること、自分の精を膣内で受けることそのものは嫌ではないと言った。
ではいったい何が嫌なのだろう?
「…リトくんはどう思ってるか知らないけどさ、女の子にとってセックスって恋、愛におけるコミュニケーションのひとつなんだよ?」
キョーコが何を言いたいのかまだリトには掴めずにいた。
「だから、相手が自分を見てるかどうか、心を向けてくれてるかどうか、ちゃんとわかるんだから」
それを聞いてリトの心に衝撃が走った。
 
 
「美柑、ショックでしたよね…」
ヤミは心を閉ざしつつある美柑に言葉をかけ続ける。
リト…
美柑の心の中にリトが春菜、里紗、未央と交わっていたときの光景がフラッシュバックする。
二度と思い出したくない光景だ。
「…美柑はリトのことが嫌いですか?」
ヤミの言葉に美柑は心の中で答えを返す。
大嫌いだ。リトなんて。
「リトも塞ぎ込んでるんですよね…。でもそれは相手が美柑だからだと思います。相手が美柑じゃなきゃ彼はあんなに臆病になりませんよ…」
それは他の人ならすぐに優しい言葉をかけるってことでしょ?
「美柑だから、今以上傷つけないで済むにはどうしたらいいのか悩むんだと思います」
そんなの言い訳にすぎない。
「…美柑、リトのことは嫌いですか?」
また同じ質問、うんざりする。
ヤミは美柑の部屋の写真ボードに貼られている自分たちのプリクラを少し見つめて再び口を開いた。
「…私、地球に来て初めて思い出ができました」
思い出…?
 
心が向いてるかどうか…。
リトはキョーコの言った言葉の意味を痛烈に感じていた。
「リトくん、妹さんの…美柑ちゃんのことが頭から離れなかったでしょ?」
その通りだ。
「そんなに思い詰めるほど美柑ちゃんのことが大事なんだよね?」
そうだよ。でも美柑は俺を拒絶してる。
「だったらそれを美柑ちゃんに伝えなきゃ」
え…?
 
「思い出は記憶とは違います。思い出は絆です。思い出は一人ではできません。思い出にはかならず誰か大切な人がいます」
思い出は…絆…
 
「だからまた今度、やり直しね」
やり直し…?
 
「私の思い出に一番いるのは美柑です。それは私と美柑の絆です。でもきっと、美柑の思い出に一番いるのは私じゃないですよね?」
私の…思い出…
 
「そう、やり直し。ちゃんと心にケリをつけて、ちゃんと私たちに心を向けられるようになったらまた…ね?」
心…
 
「美柑の思い出に一番いる人って、誰ですか?」
 
「だからリトくんは行かなきゃ」
 
「あ…」
美柑の目から涙が一筋こぼれた。
私の思い出に一番いる人…
ヤミは写真ボードの写真を見渡す。
そこに一番多くいる、美柑の大切な人は…
「リ…ト…。…う…あ…」
美柑が声を上げて泣き始める。
ヤミは美柑を優しく抱きしめる。
大切な人が泣いていたら抱きしめる、これもヤミが地球に来て学んだこと。
体の芯まで突き刺さるような温もりに美柑の心が解き放たれていく。
「リ…ト…、う…ぐ…。リ…トぉ…、ううぅ…」
 
「俺は…」
キョーコはふっとリトに笑いかける。
「あ…あ…う…」
リトは自分の愚かさを悔み、彼の目から涙がこぼれる。
すかさずララ、ルン、キョーコの三人がリトを抱きしめた。
三人の温もりにリトはいかに自分が彼女たちから大事にされていたかを思い知り、後悔の涙の中に幸福の涙が混じる。
「美柑…きっと待ってるよ?」
ララはリトを抱きしめながらそう言った。
自分を大切にしてくれる彼女たちのためにも、美柑と向き合うことから逃げるのは許されない。
「ありがとう…皆…」
リトは泣きながら礼を述べる。
ふとここでリトはキョーコの膣から破瓜の血が流れていることに気づく。
「あ…キョーコさん、初めてだったんだ…。なのに俺…」
再びしゅんとするリトを見てキョーコは優しく言う。
「…いいよ。リトくんには前に助けられたし、今度は私の番」
キョーコの抱きしめる力が少し強くなった。
「…俺、行くよ」
リトはしばらくしてから涙を拭いた。
「うん。あ、これはうまくいくようにおまじない…ね?」
キョーコはそう言うとリトの唇に自分の唇を重ねた。
「「もちろん私からも」」
ララとルンが同時にそう言うとリトに順にキスをした。
 
 
リトは服を着るとホテルを飛び出していった。
俺はなぜあんなに臆病になっていたんだろう。
なぜ一度拒絶されただけで美柑に心を向けられなかったのだろう。
ララが家を飛び出した時は血眼になって駆け回ったくせに、自分が言葉をかけることで美柑をさらに傷つけるんじゃないかと足がすくんで…。
今は後悔は後だ。
リトは満天の星空の下、たった一人の大切な人のためだけに走った。
 
「美柑!」
結城家の玄関のドアが開くなりリトの声が聞こえた。
「帰ったのか、リト…」
才培がリトを迎えるが、リトは父親に構わず二階に駆け上がった。
美柑の部屋にいたヤミは、美柑を抱きしめながら笑っていた。
「…来ましたよ…」
ヤミは美柑の体を離した。
美柑の部屋のドアが開く。
リトが入ろうとするとヤミが目の前におり、リトは驚いてつまずきそうになった。
「ヤミ…」
「あとはあなたの仕事ですよ」
ヤミはそう言って一階に下りていった。
リトはヤミの後姿を見送ると美柑の部屋に入っていった。
「リト…」
「美柑…」
美柑の目に光が戻っている。
リトはほっと安心して美柑に声をかけた。
「美柑…、その…本当にごめんな…」
リトの口から出てくる謝罪の言葉。
「驚いたよな?俺があんなことしてたなんて…」
確かに驚いた。
女性に免疫の無かったはずのリトが複数の女性を相手に恋愛をしているなんて。
でも本当にショックだったのはリトに複数の相手がいたことそれ自体ではない。
リトが何人もの女性と関係を持っていることを自分に隠していたこと、それが幼少のころからお互いを支え合ってきた自分たちの絆を揺るがすものであったことだった。
一番長くリトと過ごしてきた自分が今のリトにとって邪魔に思われているのではないか?
美柑はリトが自分に秘密を打ち明けてくれなかった理由をそのように捉えてしまっていた。
だから美柑はリトに尋ねた。
「…リト…、リトにとって私は何?」
唐突な美柑の問いかけにリトは戸惑う。
でも美柑の目を見ていたら答えないわけにはいかなかった。
いろいろな言い方はあった。
出来の良すぎる妹、大切な妹、でもリトは敢えてその言葉を封印する。
リトは美柑をそっと抱きしめた。
幼いころからの美柑との思い出、美柑と過ごした時間、その全てを言葉にすることはできない。
リトは少し照れくさかったが、美柑に自分の想いを伝えることにした。
「俺をずーっと支え続けてくれた、たった一人の大切な人だ」
美柑はそれを聞いて安心する。
やっぱりリトはずっとリト、私の大好きなリトのままなんだな…。
美柑は目を閉じた。
 
「美柑…」
リトの私を声が聞こえる。
あれ…?体に力が入ら…
「美柑?」
リトは美柑の肩を揺さぶる。
美柑からの返事はない。
リトの顔から血の気が引いていった。
「み…美柑!!」