「リト×唯」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

リト×唯 - (2008/04/09 (水) 18:43:36) のソース

6時間目の授業が終わり、一気に開放感が広がる教室内。<br />
帰りのホームルームを前に、仲の良い友人どおしが集まって<br />
今日どうする?<br />
カラオケでも行こーよ<br />
などと楽しげな会話が教室中で展開されている。<br /><br />
ある一角を除いて―――<br /><br /><br />
「結城君!あなたって人は、また授業中居眠りして!!」<br /><br />
声の主は、古手川唯。<br />
もう少しで腰にまで届こうかという長く美しい黒髪。<br />
整った顔立ち、細く長い脚。<br />
美少女揃いと評判の二ーAでもトップクラスの美少女だ。<br />
しかしこのクラスのいったい何人が彼女の美しさに、<br />
いや、かわいさに気づいているのだろう。<br />
つまり唯はクラスの男子からウケが悪いのだ。<br />
曲がったことが大嫌いでな性格で、風紀にうるさいことから<br />
男子は皆唯を避けている節があり、いつも明るく元気なララや<br />
おっとりした西蓮寺春菜を好みのタイプとしてあげることが多い。<br /><br />
そして唯は今日も今日とて男子に向かって怒っていた。<br />
顔をやや紅潮させ、身を乗り出すようにして声をあげているその先で、<br />
怒鳴られ役の結城リトはぐったりと机に突っ伏していた。<br />
「5時間目は耐えたじゃねーかよ・・・」<br />
「何時間目かは関係ないの! だいたい結城君は―――」<br /><br />
一週間前の席替えで隣どおしになって以来、毎日こんな調子だ。<br />
授業中いつも居眠りしてしまうリトを叱る唯。<br />
「・・・居眠りくらい他のやつもしてるだろう?・・・何で俺だけ?」<br />
リトは不満げというよりも、眠くてしょうがないといった様子で弱弱しく言葉を返す。<br /><br />
リトの言い分は、生徒として正しいかどうかは別だが事実ではある。<br />
授業中に寝るものなど一クラスに数人は確実にいるし、<br />
昼食後ともなればその数は増加するのが普通だ。<br />
「そ、それは、あなたがわたしのとなりの席だからよ!」<br />
少し詰まりながら、唯は理不尽極まりない言い分をリトに返す。<br />
ふぁぁ、と大きく一つ欠伸をして、リトはようやく顔を上げ唯に目を向ける。<br />
「そんな顔真っ赤にして怒らなくても・・・」<br />
「な、、何言ってるのよ、結城君!赤くなんてなってないわ///」<br />
ますます頬を染めながら、叫ぶように唯は言う。<br />
寝起きのリトには、そのボリュームはちとキツく、思わず顔をしかめる。<br />
「悪かったよ。これからは寝ないように気をつける」<br />
これ以上怒られるのは遠慮したいし、相手は正しいわけだから素直に降参する。<br />
「分かればいいのよ///」<br />
唯はまだ少し赤い顔をぷいっとリトから背けて、<br />
つぶやくように言うと教室を出て行った。<br /><br />
(やっぱ俺って古手川にとっては未だに問題児なのかなぁ。<br />
最近はだいぶ打ち解けてくれたと思ったのに。ま、オレがわるいんだけどさ)<br />
また怒られてやんのー、とからかいに来た猿山を華麗にスルーしつつ<br />
リトはぼんやりとそんなことを考えていた。<br /><br />
一方唯はというと、教室を出たものの特に行くべき場所があるわけではない。<br />
階段の踊り場で手すりに軽く寄りかかり、ハァ、と物憂げなため息を一つ。<br />
(またやっちゃった・・・)<br />
誰が見ているわけではないが、バツの悪い表情になってしまう。<br />
「何で俺だけ?」<br />
リトのその問いに、唯は無理矢理な答えを返すしかなかった。<br />
実際、リト以外のクラスメートだったら、小声で注意くらいはするだろうが<br />
あんな風に毎日大きな声をあげたりはしないだろう。<br />
ましてや、リトは漫画家である父親の手伝いが<br />
忙しいのであろうことも察しがついているのに。<br />
そして、どうして怒ってしまうのか自分ではわかっていなかった。<br />
(わけがわからないわ。これって一体何なのかしら///)<br /><br />
唯はリトと隣の席になってからのこの一週間、<br />
自身の心の異変に動揺しっぱなしなのだった。<br /><br />
リトを見るたびにドキドキする―――。<br /><br />
出会った頃は風紀を乱すものとして、嫌悪感すら抱いていたのに。<br />
その後時間を共有する機会も多くあり、少なくともリトが<br />
風紀を乱そうと思って乱しているわけではないことは理解した。<br />
そしてリトが、とても優しい男の子だということも。<br />
一緒にいると怒ってばかりだけれど、怒った後にはいつも<br />
なんとなく嬉しいような、優しいような気持ちになることも。<br /><br /><br />
「結城君か・・・」<br />
唇に人差し指を当て、足元を見つめながら唯は無意識に呟いた。<br />
「リトがどうかしたのー??」<br />
ビクッと体が震えてしまう。<br />
見ると授業終了と同時に自動販売機へと向かったらしいララ、春菜等<br />
リトを除くお馴染みのメンバーたちが階段の上ってくるところだった。<br />
「べ、べつに何でもないわ///」<br />
唯は意識して不機嫌そうな声を出す。<br />
「さてはまた結城と喧嘩したなー」とリオ。<br />
「喧嘩って言うより、一方的だけどね」とミサ。<br />
「あはは・・・」いつものように苦笑の春菜。<br />
「ゆいー、リトのことあんまり怒らないであげてね。<br />
お父さんの手伝いでつかれてるんだよ」<br />
「それは結城君次第よ。さ、ホームルームの時間よ」<br />
「あ、待ってよー」<br />
スタスタと足早に歩いていく唯を小走りに追いかけるララたち。<br />
(きっとこれは一時の気の迷いなんだわ。結城君なんて、ハレンチだし///)<br /><br /><br />
唯が自分の気持ちに気づくことになるのはもう少し先の話―――<br /><br />