島崎藤村の『落梅集』に収録されている作品。
民俗学者の柳田國男が渥美半島を旅した際に椰子の実を拾ったという話に感動して作った詩だといわれている。
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の實(実)一つ
故郷の岸を離れて
汝はそも波に幾月
舊(旧)の樹は生ひや茂れる
枝はなほ影をやなせる
われもまた渚を枕
孤身の浮寢(寝)の旅ぞ
實(実)をとりて胸にあつれば
新なり流離の憂
海の日の沈むを見れば
激り落つ異郷の涙
思ひやる八重の汐々
いづれの日にか國(国)へ歸(帰)らむ