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学園開校に寄せて - (2007/02/21 (水) 02:41:37) のソース

「物語とは運命に抗うことから始まる。その意味で言えば、これまでに僕が書いたものの中で運命に抗っているものなど一つもない。考えたことを書いているうちはどれだけ上辺で取り繕ってみせても二流だ、感じたことを書ければそれだけでどれだけ稚拙な語彙と物語であろうと一流だ。それが心の営みを成す文族というものの仕事だよ。それが心の営みというものを鏡に映してみせる文族というものの仕事なのだ。その意味においては僕は全然まったく文族ではない。完全まったく表装的で表層的な、うん、そうだね、まさに着ているアイドレスにふさわしく、吏族で、護民官で、あと、ついでにまあ、猫士を大人しくやっているに過ぎない。勘違いしないでくれたまえよ、吏族は立派だ。自分を含めて立派だとか、そういうことを言っているんじゃない。一般的に立派だというのだ。一般的な定義は自分にもあてはまる。自分にもあてはまることをわざわざあてずはめずに外して捨てるような人間とは、君、付き合うのはよしたがよい。なぜかって?それは自己満足に過ぎないからだよ。自分を卑下して得られるものなど何ほどのものでもない。自分を過大に評価するよりは、そりゃもちろんいいがね。あれだよ、ほら、帯びに短したすきに長し。違った、これじゃまるきりさかさまだね。過ぎたるは及ばざるが如し。大は小を兼ねないし、柔よく剛を制したりもしないよ。人はただ人の形をした心のままにしかいられない。それ以上やそれ以下に騙して見せて得られるのは、真正面なものではない。もちろん真正面なものがみなすべからくよいとは限っていないよ。なぜかって?そりゃあもちろん、時には騙さなければいけない時があるからさ。騙すことをすら必要ないというのは、丁寧に丁寧に癖を消して、真っ直ぐに型を育てて、そうやって得た立ち姿を持っている人だけの特権なんだよ。そうでない人間は、大抵、騙したり騙さなかったり、騙そうとしなかったり騙されようとしなかったりで、なんとかやっていくしかないんだよ。やりなおしはもちろんきくけどね。一旦巻き戻してから録画しなおすようなもので、そりゃもう手間がかかるもんさ。思われているほど大変なことではないよ。巻き戻しは確かに先送りより時間がかかるけれど、録画しなおす分には普段どおりのものさ。書き直し手直しの類ならば、一度書いたことがあるわけで、違うものを書かなきゃいけないとは言っても、そりゃ、うんざりすれば別だけど、それだけの量を既に書いてきている経験があるわけだから、前の時よりはずっと早く済む。うん?なんだって?例えが古い?もう今はDVDの時代だ?あははあ、光学ディスクの類が磁気テープのそれより随分と案外持たないということを知らないんだね。あるいは知っていても映像の美しさ精密さ総量の大きさで、そんなことはどうでもいいと思っているんだね。それは間違いだよ。時を永く留めるというのはそれだけ偉大なことなのだよ。考えてもみたまえよ、君、僕らはどこに立っている。三次元だろう。その上はなんだね。そうだよ四次元だ。僕らが生きている領域内というのは四次元だ。ならば三次元的な美しさ精密さ大きさというものは、所詮四次元的な性能の前にはへでもない。おっと、へでもない、などと、つい言葉に品がなくなってしまったかな。ともあれ、そういうわけだから、うん、違った、やり直しはいつでもきくだなんてそんな青臭いことを話してまとめるつもりではなかったんだがな。いかんね。ついつい話が長くなるのが悪い癖だよ。本当は文族というのはとてもおしゃべりなんだ。唇で話すかわりにその指で話す。近所のおばちゃんの井戸端会議なんか目じゃないさ。それこそ益体のない話は情報交換として共同体同化の作業として素晴らしいものかもしれないが、情報同士の密接な連携というものについては、君、目じゃないんだよ。なぜなら、新しい情報同士がつながりあって育っていくのがおばちゃんたちの井戸端会議ならば、僕らのする会話というのは君、なんといっても、同じ唇の中から出て、同じ唇の中に帰る、精緻な蜘蛛の巣の如きものだよ。そうだよ蜘蛛の巣とはよく言ったものだね。さよう、格好をつけるならば、僕らの吐く言葉は、おっとここでも綺麗につながった、蜘蛛の糸の如きものなんだよ。それは軽くて粘り気があって、その癖とても切れやすく、目に見えづらく、ひっかかるものは必ずしも美しいとは限らないし、生きるために吐き出すものだから、当然とらえたものを食わねばならない、そう、今、僕がこうして文章を吐き出してその代価にアイドレス世界で代償を得ようとしているのと同様にね。それにしたって、まあ、たまにはいいこともするもんさ。見たまえ、雨が降れば蜘蛛の巣だって美しい。張るところさえ間違えなければ、そうそう疎んじられるものでもないし、所詮、そう多くの人の目に、なかなかとまるものではないんだよ。雨が降れば、風が吹けば、こんなもの、いともたやすく千切れて飛んでいってしまうからね。人通りの多いところに巣を張れば、それだけ誰かが悪戯に触ったりする機会が増えて、あっという間に死んでしまうからね。だから、この糸を吐き出して生活していくのはとても難しい。ほとんど至難といっても過言ではない。その意味で専門職の方々、こんな、文族なんて他愛のない族称かつ俗称ではない、本物の文筆家、文章家さんたちには頭が下がるし、無論文豪なんてものに対しては顔も足も向けられないので、どうするよおい、結局立ってるしかないじゃないか。立ってりゃあ、まあ、そこが人の墓の上っていうんでもなければ、足蹴にして踏みつけにしているとはいえないからね、うん。でも、それにしたって恐れ入る言葉じゃないか。文豪だぜ文豪。文の、豪だよ豪。どんだけすごいんだよ豪って。響きが土台たくましいよな。そんなわけで、文族なんてものは、所詮文に属しているだけの存在だよ。そうありがたがられるほどのものでもない。僕から見れば技族のほうがよっぽど偉い。なに、これは単なる個人的なコンプレックスから来る話題だがね。だって技族に属するような方々は、みんな決まって言葉ではうまく思ったことを表現できないとか、そういうような言葉をおっしゃってくださるんだぜ。いやいや恐れ入るぜ。これは皮肉じゃない。皮肉じゃないと言って皮肉に皮肉するような皮肉でもない。そんなことをするほどには、僕には皮も肉も何にもないからな。はは、うまいこといった。そうだ骨もないんだよ。何せここは情報世界で情報宇宙のアイドレスだ。電網適応アイドレスだ。電気信号で構築されてるから電網っていうのかな。量子コンピュータとかの時代になったら一体なんていうんだろうね。うん?その頃は、あれか、もう、ネットの中に住むなんて、今やっているほど稚拙じゃなくても住むか。違ったははは、済むか。素晴らしいことだよね。隅々と澄み渡っている。人類の未来は明るい。科学万歳、科学に栄光あれ。あ、これ、科学万能主義じゃないよ。人間が、世界を識ることを、選り分けることをして科学と呼ぶのなら、それは人の生きることのそのものであり象徴であり模倣でありサンプルだよ。だから僕が今しているのは、何、なんのことはない、人間賛歌なんだよ。素晴らしきかな人間。万全なるかな人間。おお、そはいかずちを以て己をもろともに焼かんとする心と力と意識をもちうる、どこにでもありふれたどこにでもあるような命の塊なり。別に自殺なんてマクロ的な視点から見たらどんなものだってやってることだよ。命は滅ぶからこそ命と呼ばれるのだ、エロスと呼ばれるのだ。ん?ここはもっと格調高く、エロースと伸ばしたほうがよかったかな。まあそんなものはどうでもいい。命は、世界は、存在は、タナトスの無から生まれて来たものだ。元々が死ぬように出来てるものだ。己を殺すように出来てるものだ。それがええとなんだっけ、トランジスタシスとホメオスタシスだっけ、ともかく、そのせめぎあいこそが、ほら、いってみれば世界の醍醐味なんだからさ、どうだいそれを考えてみれば人間、なんてダイナミズムに溢れた命であることか!人間なんてと嘆かずに、たまには違うところで読点を区切ってみるのもいいだろうと、文族の端くれである僕なんかは是非ともにもみんなに提案してあげたいね。何?いつもとキャラが違う?そりゃ当たり前だろう。生きた人間なんだ。生きた人間であろうとするキャラなんだ。生きた人間であるべしと模倣されて出来た人格なんだ、たまには一人称だって違えば抱き枕を変えたくなる日だってあるさ。ああナイトキャップはつけないぞ、念のためにいっておくが。僕はパジャマ着ない派なんだ。ああ、だからといって着る人たちのことを否定するわけではないよ。なんというか、あれを着て寝ている人たちのことを見るのは、よい。やすらいでいるな、やすらごうとしてるな、そういうくつろぎ感が出ていて、とてもよい。で、なんだっけ。大分話が本題から遠ざかったね。何、気にすることはない。話なんてものは、気が向いた時に書けばいいのと同じように、気が向いた時に戻ってくればいいだけのことなのさ。不自然に、あ、ここはここまでちゃんと戻らなくちゃ!とか、やっているほうがもどかしいむずがゆいつまらない、いやさむしろ逆に、つまってる。理屈はつまっているし、おまけに話の流れもつまってつかえて進まなくなる。君、文章とは心だよ、心。どれだけかっこよさげに難しい語彙を並べ立てて難しいことを話して見せたって、それが何ほどのものだというんだね。誰にでもわかることを誰にでもわかる言葉でするのは、それは会話だ。だが、誰にでもそうわからないことを、誰にでもわかる言葉で伝えて見せることこそが、君、文章の醍醐味ってもんだろう。七面倒くさいパターン学習なんかどうでもいい。頭で考えて、頭で組み立てて指が滑るなら苦労はしないよ。いやいや、そういうやり方が本当はどこかにちゃんとあるのかもしれないが、とにかく俺は駄目なんだ。あ、一人称戻ったね。俺に戻った。まあ、そんなことはどうでもいい。ここまで延々と四千百字以上もの時間と労力と感動と無感動を積み上げて、俺が言いたかったことは、だよ」

ようやくここで、黒衣の男は息をついた。

「面白い物語ってなんだろうな?」

 * * *

ぱちぱちと爪を切りながら戻ってきたばかりの猫士たちが、にゃーとあくびをした。いや、これは人型だから爪を切っているのであって、もし仮に猫型の時であれば、間違いなく爪は研いでいたであろう。それも、黒衣の男、華一郎の大切なものを研ぎ代に使ったに違いない。華一郎の座っている、編み椅子を研ぐといういやらしい嫌がらせに転じていたかもしれない。あるいは華一郎そのものを知らん顔して研いでいたかもしれない。まあ華一郎も華一郎で、自分が研がれている程度のことだったらきっと、そ知らぬ顔してむしろ喜んで長たらしい講釈を続けていたに違いないだろう。

マゾだからだけではない。マゾなのか、というつっこみもさておき、その方が絵的にネタになるからだ。ネタになるならばこの男、とにかくなんでもやった。曰く、だってネタにならなきゃ話がそれ以上続かないじゃん、とのことで、まあ、ありていに言ってしまうとこの男、かなり身も蓋もない、実直というにもちょっとばかりひねくれすぎた性格を、していたのだった。

「華一郎の話って長いよねー」
「短いとつまんないし、長いと退屈だしで洒落にならないよねー」

花のように美しく華やいだ女性が2人、次々と口々にそんなことを言う。言われた本人、目の前である。ぎゃふん。

「陰口を叩かないというのは立派なことだが、爪の手入れに余念がないというのも、これもまあ、綺麗好きで肉食獣な女性かつ猫である君たちらしいといえばらしいのだが、君たちは君たちで随分身も蓋もないこと言うよね、あはは」

今日は室内なのでトレードマークの帽子を脱いでいるが、それだけに、ミステリアスさの欠片もない素顔をさらし、ミステリアスさの欠片もない表情でぶざまに笑っている華一郎を、容赦なく、きっと四つの猫目が睨んだ。

「それは女性が肉食獣ということですか、それとも猫が肉食獣ということですか」

甘えた時の砕けた感じはとても可愛いのだが、こういう時まで普段どおりに丁寧きれいな言葉遣いをされるととてもこわいのが、猫士の一匹、じにあちゃんであった。

この藩国、レンジャー連邦は、猫士を可愛がることしきりであり、猫士が死んだら絶対国葬ものだとフィクショノートたちの間でしきりであった。もっとも、コ・パイロットの猫士が死ぬ時は絶対誰かフィクショノートも死んでるし、歩兵で誰かが死ななくてはならない時に、猫士を犠牲にしてまで生き残りたいかと言われたら、そりゃあ根源力などの問題があるので涙をのんで死んでもらうかもしれないが、それよりはやっぱり公平にくじとかあみだで決めたいよね、と思っている、連邦国民らしい、キャラの立たせ方がされているのである。

伊達に、愛ゆえに、が合言葉ではないということだ。

「いやほら言葉って曖昧なのがいいところじゃない?それそのものに意味が厳密に定義され続けていたり、使い方によって意味が完全にパターン化されていないところがいいわけじゃん。だから、その辺りも是非…」
「曖昧にしておいてほしい、と?」

にこー、と、笑顔の強い圧力をかけられると、弱い。

男尊女卑よりは男女平等よりは女尊男卑たれというのがこの男のモットーであったので、弱い。

それなら最初から不用意な発言をしなければいいじゃないと思う向きもあるかもしれないが、そこまで性格が紳士でもなければ、わがままに生きられないのもいやな人物であるので、なおさら始末に負えなかった。いや、始末はしやすいのだが、手にも、負えるといえば負えるのだが、どうしようもなかった。

どうしようもない、という形容詞で語られることほど情けないことはあるまい。女に手が早かったり上辺だけだったりしないのが唯一の救いだが、そうでなければそれこそ救われようがないからという理由だけに過ぎない。

「ほんと、華一郎ってどうしようもないよねー」

爪磨きをしながらこちらを見もせず冷めた目つきで言い放つのがまた可愛い女の子だから、救われない。

年長で、頭身も高く、ぱっと見にはどこにでもいそうな普通の女の子的特徴のなさをかもしだしている方がじにあで、今容赦のないとりとめもない身も蓋もない発言をした、これまた頭身は高いが背は高くないという、美少女を絵に描かずに文字で描いたような、白いワンピース姿が可愛い方を、愛佳と言った。

この2人、前者はまじめで几帳面であるにも関わらず、まあ、まじめで几帳面だからといって愛想がなかったり愛敬がなかったりしないように、茶目っ気たっぷりの性格をしており、さらに言えば気分屋だったりもしていたり、あまつさえ、バレンタインにお互い贈りあってたらホワイトデーにはどうすればいいのよなんて当人以外にはわりとどうでもいい悩みを乙女チックに抱いている最中だったりしているものだから、つっこみには容赦がなく、また後者はそもそもが美少女であるというだけで可憐だったり儚げだったりするわけがないように、溌剌として現金かつ現実的な性格をしていたりするわけであって、そんなわけだから、2人揃っていると、実にどうしようもないくらいにどうしようもない相手に対してはつっこみが容赦なかった。

「真実が人を傷つけるというのはよくあることだと思わないかい?」
「真正面がどうとかいう価値観を披露されていた人に言われてもねー」
「傷ついたのはあたしたちの方だと思いますよ」

つっこまれ、また、うっ、となる。

そもそも女性の口数に、それも2人も揃った女性の口数に、さらにいえば別に文学少女でも儚げな病弱少女でもない女性2人の口数に、男がたった一人で立ち向かおうという方が、どうかしている。その時点でこの男、とてつもなくマゾかった。

「戯れもほどほどにせんと阿呆が移るぞ」

ぬっ、と談話室に現れるなり、そんなことを開口一番に言ったのは、大族の雄、アスカロンであった。

この男もこの男で、何が楽しいのかわからないが妙に懐いてくる華一郎となし崩し的に距離を縮められてしまっており、つっこみには容赦がなかった。

「あら、アスカロンさん」
「今日は稽古なさらないんですの?」

露骨に口調が変わる愛佳を見て、むー、と、むに濁点をつけて唸りたくもなるのは華一郎。

このアスカロンという男、とにかく格好がよかった。

何が格好いいって、まず剣神族と名乗っているあたりがかっこいい。その上武人キャラで、好きなものはハッピーエンド、嫌いなものは竜とアンハッピーエンドと、真っ直ぐなところがなおさらかっこよかった。

一貫性のあるキャラクターというのは、こういう時にうらやましい。自分なら絶対どれか一つ混じってても受け入れられないよなー、と、ぶちぶち愚痴る華一郎。

「いいのさー、所詮書き手なんて、作中に登場する分には三枚目であるほうがむしろ好感度をもたれるものなのさー」
「何を言ってる」

せっかくの自分フォローも無碍にされる。

そんな華一郎を放っておいて、アスカロンはまた、いつものように遊びのない口調で3人にはっきり告げた。

「藩王が呼んでいる。すぐに会議室に集まってくれ」

 * * *

レンジャー連邦の王城は、砂塵舞う西国という設定だけあり、えらくきちんとカーテンがかけられるようになっていた。国政の大事を語る会議室ともなればその防音性・気密性・安全性たるや、言わずもがなであり、国民が増えても大丈夫なよう長く作られているテーブルに、ずらりと国民・猫士が勢ぞろいで着席している様は、なかなかに壮観なものがあった。

当初は仲間内で集まって建国された国、それも、思い思いに仲間たちが各国へ散った上で残った仲間たちで作り上げた国だけに、顔ぶれが今の人数に至るまで膨れ上がったことには、古株のメンバーの中には感慨を抱くものも、少なくなかった。

「本日の議題は」

凛とした表情の藩王・蝶子の様子に、みな、ごくりと息を飲む。

懸案事項は山ほどある。どれか。どれから一体手がつけられるのか。それともいっそひとおもいに全部か。どきどき。にゃあにゃあ。

各人が、つられて凛々しい表情をしたり、緊張のあまり尻尾を立てている隙に、蝶子は移動式の足がついたホワイトボードを、くるりと180度裏返らせた。

「私立レンジャー学園の創立についてです!」

どがしゃーん!!

まじめな顔したものから一気に崩れたものまで、みな一斉に椅子からこけた。

「私達西国人には、学生という選択肢がありません。また、あったとしても、基本アイドレスの選択にはもはや取り返しがつきません。けれど学園生活は楽しみたーい!
と、いうことで、私達、考えました」

ずる、と、あらかじめこの企画について知らされていてこけなかったものたちが、ホワイトボードの足元にある段ボール箱から計画書を取り出した。

「学園生活、勝手にやっちゃえばいいじゃない」
「は、藩王、それあまりにぶっちゃけすぎです!」

いつもなら、このようなつっこみは摂政たるミサゴがしていたところだったろう。

だが、今日は違った。違っていた。

いそいそと学園の設定などをホワイトボードに書いて、砂浜ミサゴ、年齢ピー歳、実にうれしそうであった。

ちなみに年齢を伏せたのには深い意味はない。みな国民設定の際にそこまで細かく決めてなかったので、今でも詳細不明なだけだ。断りを入れておくなら、彼女のプレイヤーはとても若い。

ほんとだよ。

「いいえ、いーんです!
そもそもが自主独立の精神のもとに、これまで国民達みんなで藩国を手作りし、課題をやっつけ、ここまで来てるんだから、それくらいの無茶やファンタジーやぶっちゃけありえないは、お遊びの範疇なら全然おっけーです!
むしろそれでこそアイドレス!!」

熱く語る藩王と、その横で、やたら瞳をきらきら輝かせている摂政にかかっては、もはやこの場は押し切られるよりほかなかった。

なにしろ国の二大巨頭である。偉いのである。ついでにいえば、この2人、今はこんなだが、いざという時にはとてもかっこいいのである。

その上この企画には、レンジャー連邦の祖とされる組織にもっとも重要な、ある要素があった。

萌えである。

「えー、あたしが中等部なんですかー?!」
「私なんて初等部じゃない!!」
「三年か…ふむ」
「わー、私一年生ですね」

萌えにはさとい国民達は、颯爽と態度を切り替え、早くも数々の萌えシチュエーションを、提示された設定から妄想し始めていた。

萌えこそ命、愛こそすべて。伊達に小国の癖に前回のアイドレス獲得時にACEユニットに票が集まっていたわけではなかった。

彼らは、本気だった。

「しつもーん」
「はい、なんでしょうフェ猫くん」

早くも役になりきって教師風びゅーびゅーの(というよりは教師っぽさを演じている姿が萌え萌えの)ミサゴが、これまた生徒になりきって挙手したビッテンフェ猫を指名した。お、指されたら立つのか。さすが年長じゃだけあって、礼儀正しい。

「あのあの、設定はどうやって決めてるんですかー?」
「うん、それはね、みんなで思いついた限りを適当に並べ立てて、妄想の限りで決め尽くしてるんです!」

ぐ、と瞳を輝かせたまま答えるミサゴ。この時ばかりは普段のまじめな雰囲気もどこへやら、熱血教師さながらの鼻息と意気ごみであった。

他にも、制服のデザインは任せてー、だの、部活だったらやっぱりこれだろ!だの、聞かれてもないのに次々手よりも先に声が挙がりだす。レンジャー連邦、恐るべし、であった。

「まったく、珍しく私達猫士まで呼びつけたから一体何かと思ったら」
「だが、いいではないか。これでこそ我が国、さ」

猫士・ドランがどこかで聞いたような口調で、これまた珍しくも口を開いた。ふ、と笑う姿が、彫り深くも、どことなく凛々しい。

猫士は猫士でまた、僕がこれやるだの、僕これやだーとか、学食はどうなってますかとか、屋上立ち入り禁止じゃないですよねとか、zzzとか、そもそも僕ら人間形態おんりー?とか、とりとめもない話が大爆発咲き乱れ百花繚乱状態。もはや会議はこうしたこだわりの萌えトークでは恒例のように、収拾がつかない状況に陥っていた。

「あ、あのー、華一郎さん!」
「あー、なんだ!!」

混迷の中、耳をふさぎながらテーブルの下をぬけてやってきたじにあに、周りの声に負けぬよう、同じく耳をふさぎながら声を張り上げて答える華一郎。

「こういうー、物語のー、時にはー!!」
「おお!!」
「どうやってー、抗うんですかー!!」

律儀にも冒頭の独白を覚えていたらしい。

華一郎は、それを聞くとにやりと笑った。わ、さすが文族、こういう物語のパターンも知ってるのねと、じにあがちょっとだけ見直そうとしたその時。

「抗うだけ無駄というものだよふはははは!」

すぱーん!

思わずハリセンが炸裂する。

青海がどさくさにまぎれてテーブルの下にもぐりこみ、そーっくす!と奇声を上げてみんなの靴下を狩り始めた。ミサゴがバズーカをどこからともなく取り出しぶっ放し、こは一大事!と意味なく青海に助太刀するビッテンフェ猫。楠瀬が立ち上がって反ソックス派に身を投じ、きらんとなぜだか他人の眼鏡を光らせる。がびーんとする一同、のそのそと枕を持って退避する猫士・にゃふにゃふ。虹ノが舞い、山下が吹っ飛ぶ。もはや会議は戦場であった。

ひゅるるる~、と、どこからか投げ込まれた手榴弾に吹っ飛ばされつつ、華一郎は笑う。

「ま、いいんじゃねえの?こんなノリの学園生活が、楽しめるっていうんなら、さ」

 * * *

―The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎