『いっしょにごはんたべよ!』 -ある国民の言葉 /*/ ◆序文にかえて 会場は人込みで溢れていた。 どこへ行こうか、不思議と顔は皆一様にいきいきとしていながらも、人々の足元では、ゆったりと焦らない、鷹揚でどこか気持ちの大らかな足音足取りばかりが重なって、歩く流れは、寄せては返す、さながら打ち寄せる大海原の潮騒のようである。 波打ち際の岩場のごとく、彼らを迎えて散り散りにさせる海岸線は、軒を並べる出店の数々。自然の岩に同じ形がないように、いずれもユニークな装いや店構えでながみ藩国の収穫祭に訪れたニューワールド各国からの来客を待ち受けていた。 いつもと違うのは、明らかに異国の風情があちこちから漂っている点だ。 「ね、ぜんぶ回ろ、ぜんぶ!」 はしゃいで袖を引っ張る友人に、困りながらもまんざらではない笑顔を返すのは誰か。 「だって、せっかく集まってくれてるんだもん、行かないと損だよ!」 手は隣の袖を引きながらも、目を、それこそ皿のように広げて、ちょっとでも興味を引く料理が視界を無断で横切らないか、彼女は五感をフルに活躍させていた。 すれ違う人々の持つドリンクや軽食の類、あるいはこうして立ち止まっていればいくらでも耳を通り過ぎる、メニューの品評をする楽しそうな口コミ、十国を超える出店が行われた、食の博覧会と銘打たれた今回の祭りには、どんな食いしん坊が挑戦しようと生半では制覇出来そうにない、各国腕によりをかけたとりどりの食文化がひしめいているのだ。 今も、目の前には三角形を描くようにして集められた三つのお店がおいしそうな匂いと入れ替わるお客を吐き出している。あまりスペースを直線的に使いすぎて見るものの神経を疲れさせないような配慮だろう、軒先の床が、丸く道へと迫り出していた。順番待ちの列や、どんな店かを立ち止まって覗いてための、ちょうどいい小さな空間を作り出しているらしく、道行く人の往来も妨げないよう、円弧は会場の道順に向かって鋭角気味に狭められている。 のぼりには、『レンジャー連邦INながみ藩国・収穫祭!』と、ピンク地の派手な布に白で太く書かれていた。 「どうぞ、家に帰って読んでみてくださいね」 スタッフらしいポニーテイルの女の子が、目を迷わせていた二人を見るや、にっこりとそばまで寄ってきて小冊子をそれぞれに手渡し、さっとまた元の位置まで退いていく。見れば、皆に配っているもののようだ。いかにも人懐っこそうな、それでいてうるさくない仕草であった。 10ページに満たない程度の薄い冊子だった。 すべて赤い上品なワインレッドの紙で出来ており、表紙には、食卓に着く家族の姿が愛らしげなタッチで描かれている。タイトルは、『みんなで囲もう おいしいごはん』。 めくると最初の見開きには、四隅と上下を銀色の枠で飾られた、短い簡単な文章が細い女性的なフォントで印刷されていた。 /*/ ★『食いしん坊のひとりごと』 アイドレスはゲームです けれど私達はやっぱりごはんを食べます 生きている限り、大事なこと アイドレスは心に服を着るゲームです 心においしいものって、きっとどこでも変わらない 家族や友達、気になるあの人 誰かと一緒に他愛のないことをしゃべりながら食べるごはん 一生懸命育ててもらった食べ物を、選んで、下ごしらえして みんなで頑張って育てた素敵な料理 いただきますを言って ご馳走様を言う、たったそれだけのことは おいしいごはんを作ってくれた、みんなの心にお礼すること みんなでごはんを食べませんか? 新しい味と出会うのは 新しい人のつながりを持つのときっと同じ 知り合いましょう 新世界(ニューワールド)で、まだ知らない誰かと出会う、そのために 私達は今日もおいしいごはんを食べるのです まる /*/ ○西国料理屋台『いーすと・にゃんこ』 最初に訪れた店は、屋台仕立てだった。用意されているメニューも食べ物3、飲み物3と、極めてシンプルだ。屋根からは、目にも涼しげなカラーリングをした航空機の小さなマスコット人形がつりさげられている。 #image(http://www25.atwiki.jp/tosyoshitsu?cmd=upload&act=open&pageid=432&file=miniture.jpg) 南国であるながみ藩国と同じ、暑い国といっても、こちらは西国からの出店のこと、へそだしの民族衣装を身にまとった銀髪の青年店員が、でんと長い串に貫かれ無数に重ねられた肉の塊を、ナイフで切り出す姿など、実にエキゾチックな雰囲気をかもし出している。いわゆるドネル・ケバブという奴だろう。 シシ・ケバブとどう違うのかをふと尋ねたところ、見てのとおりドネル・ケバブは薄い肉を重ねたものを回して焼くけど、シシ・ケバブはもっと普通の串焼きのことなんだよという小話を、肉をパンに挟む間に店員さんが話してくれた。ちなみにケバブは焼肉、ドネルは回す、シシは串という意味らしい。 「はい、ケバブ2人前です、お待ちどうさま。ソースはこちらでかけますか?」 「あ、お願いします」 「ヨーグルトソースとチリソースの2種類がありますが」 「じゃ、1つずつ」 「かしこまりましたー」 知らない料理を食べる時の味付けは、まずは相手に全部委ねてみた方が楽だ。 店員も慣れているのだろう、器用に片手で二つのケバブを支えながら、踊るような手際で二つのソースをボトルから降り注ぐ。 「店内にあるソースはお使いになられても構いませんので」 「ありがとうございます」 代金と引き換えに、紙包みに挟み込まれたドネル・ケバブを手渡される。 いそいそと早速構内にしつらえてあるベンチに急ぐ二人。 「いーにゃん、よかったねえ」 「いーにゃんいーにゃん!」 入れ替わりのお客が満足げに喋りながら帰っていくのが聞こえた。 どうやらこのお店のことらしく、いーすと・にゃんこ、略していーにゃんということらしい。 単純な駄洒落だなあと思いながらもベンチに座る。 かじってみると、シンプルに肉の味が出ているところにソースが絡んでなんともたまらない味がした。小麦を練って焼いただけのパンは、テイクアウト用というだけでなく、そっけないくらいの口当たりでこの肉とソースの味の濃さを程よく中和してくれていた。途中二人で交換して、両方の味を楽しんだ。 付け合せに添えられていた玉ねぎが、爽やかな甘みと歯に心地よい感触を残す。 |↓お品書き↓|値段| |ドネル・ケバブ(チリ/ヨーグルト)|4にゃんにゃん| |栄養満点・豆の煮込みスープ|2にゃんにゃん| |魚フライの冷製ソース漬け|2にゃんにゃん| |ラスターチカ完成記念黒生ビール『燕(つばくろ)』|2にゃんにゃん| |たっぷりヨーグルトジュース|1にゃんにゃん| |トルコ式珈琲|2にゃんにゃん| /*/ ○海の家『れんじゃあ』 「わー、かわいいー!」 次のお店でまず真っ先に目に飛び込んできたのは、コスプレ姿のウェイトレスだった。 #image(http://www25.atwiki.jp/tosyoshitsu?cmd=upload&act=open&pageid=432&file=240.jpg) 「いらっしゃーい!」 明るい声で迎えてくれるのは、青い綺麗な服の上からエプロンをつけた女の子。先ほどのお店にも記念商品の出ていた、最近レンジャー連邦で完成したという航空機を模したコスチュームらしい。 海の家風に仕立てられたお店には、小さな鉄板つきのテーブルが狭い中にいくつもひしめいており、雑多な雰囲気の割りに、誰も皆上機嫌そうなのが印象的だった。 「2名様でーす!」 「はいはーい、お通ししてー!」 店長らしき人物の返事は意外とすぐそばから返ってきた。 どうやらもんじゃ焼きが初めての人に、焼いてあげていたようだ。彼女がよそ見をしている間にも、手許では小さな金属製のヘラがカシュカシュと目にも止まらぬ速さで捌かれている。 「ふえー…すごいですねえ」 「もんじゃならまーかせて! 空さんが焼いちゃうから!」 狭いお店なので相席だったが、解放感とアットホームさを重視した、気兼ねないお店の雰囲気作りのせいだろう、初対面同士でもすぐに打ち解けあうことが出来た。 「レンジャーなら魚とフルーツ、それに最近は豆ですね」 そう、ラムネ片手に淡々と熱く語ってくれたのは、西国人の若い夫婦のだんなさんの方だった。 「あまり牧畜に向いていない風土だから、肉のかわりにタンパク質を取れる豆の栽培が盛んなんですよ。お肉も観光客が増えて需要がそれなりに高まってきたから、藩国船の新しい層で育て始めていまして」 聞くと、なんでも彼はレンジャー連邦の観光課に勤める職員だという。博覧会には仕事も兼ねて遊びに来た、そのついでに自国の店舗のリサーチも、というわけだった。 「新規顧客はこういうところからも見込めますからね。ちゃんといい仕事をしているようで、安心しました」 ひとしきりもんじゃをつつきながらそこまで話を聞き終えて、枝豆をつまむ。 互いに見交わした顔が屈託なく笑っていた。 |↓お品書き↓|値段| |もんじゃ焼き(プレーン/もち明太子)|4にゃんにゃん| |焼き鳥2本組み(塩/タレ/ピーナッツソース)|1にゃんにゃん| |豆コロッケ|1にゃんにゃん| |山盛り枝豆|2にゃんにゃん| |俺星ビール|2にゃんにゃん| |オアシス特選水のカキ氷&BR()(イチゴ/メロン/レモン/練乳/宇治金時)|2にゃんにゃん| |新鮮フルーツのミックスジュース|2にゃんにゃん| |ラムネ|1にゃんにゃん| |駄菓子セット(ふがし・あんこ餅・etc)|1にゃんにゃん| /*/ ○バタフライアイス・出張店 「ばたふらーい、ばたふらーい、おいしいおいしいばたふらーい」 若夫婦との別れを済ませたところで、店の裏手から滑らかな歌声が響いてきた。 リンリンとハンドベルの澄んだ音がそこに重なる。 人の流れに沿って、会場の出口側へと動き出せば、そこには目にも鮮やかなアラビアン衣装の、踊り子風の美しい金髪の女性が立っていた。眠るような目付きとは裏腹に長身、グラマラスで、はてない国のようないわゆる洋風ファンタジーとはまた異なった独特の文化の空気を感じさせる。 にこりとその目がこちらを向いた。 「どうですか、ばたふらい」 「え」 ぐい、と横から袖を引かれる。友人の目が、輝いていた。 「食べていこー」 それまでの二つの店舗の軒先とは違い、床はきゅっと突き出て丸く三角形を作っている。あまり広めにスペースを取らずに済んでいるのは、テイクアウトが大半のアイスという商品を扱っているためだろう。 人いきれで少し暑いくらいだったので、二人はその場ですぐにアイスを口にした。 濃密な冷たさと、負けないくらいの軽い口当たり。 たっぷりと空気を含んだおかげで、この上なく甘いのに重たくなくて、満腹のおなかにもすこぶるやさしい。 「毎度ありー」 手を振る踊り子に見送られ、やがてゆっくりと歩き出す。 気がつけば、広場に設置されている時計の短針は、来た時よりも90度ばかりも動いていた。 「今度はおなかすかせてパフェにも挑戦しよーね!」 彼女に腕に抱きつかれ、困ったように、だが、笑う。 博覧会はまだまだ続く。今日味わうことの出来なかった藩国の出店は両手に余り、メニューに至ってはその何倍か。 二人もまたいつの間にか、周りの人たちと同じように、鷹揚で、大らかな足音足取りとなっていた。 リー…ン。 ハンドベルの涼しげな音色が、二人を送る。 また客寄せの歌声が、響き出す。 |↓お品書き↓|値段| |お祭り限定30種乗せマーベラス連邦諸島パフェ|40にゃんにゃん&BR()#30分以内完食無料!(カップル可/10分以内)| |各種フレーバー30種(カップ/コーン)&BR()(ヨーグルト/チョコ/ミント/デーツ/オレンジ/バニラ/塩キャラメル/フレッシュパインetc)|2にゃんにゃん| /*/ ●後日談 ああっと二人は振り返った時に驚くことになる。 「はーとの形ー!」 小高い場所から眺めれば、最初はただ三つのお店が背中あわせに固まっているだけのようにも思えたレンジャー連邦の出店たちが、綺麗なハートを描いているのがよくわかった。 「このために床をデザインしてあったのか……」 人の流れにあわせ、左右にそれぞれ偏って丸みを帯びさせていた『いーすと・にゃんこ』『れんじゃあ』の軒先は、するりと『バタフライアイス』の鼻先で合流して、1つの記号を象っている。 さらに、彼らが今日出会った人の中にまぎれていた、意外な相手に気付いて驚くのは、もう少しだけ後のお話……。 /*/ Staff -総文章:城華一郎 -挿絵:豊国 ミロ、むつき・萩野・ドラケン -企画会議参加:砂浜ミサゴ、浅葱空、城華一郎、豊国 ミロ、むつき・萩野・ドラケン -各店舗の店員(設定上): --『いーすと・にゃんこ』 ---PLAYER参加:城華一郎(青年店員) ---協力猫士:にゃふにゃふ、ヒスイ(未登場) --『れんじゃあ』 ---PLAYER参加:浅葱空(店長) ---協力猫士:愛佳、じにあ(未登場) --『バタフライアイス』 ---PLAYER参加:砂浜ミサゴ(未登場) ---協力猫士:マーブル(未登場)、ジョニ子(踊り子) --特別ゲスト ---素顔のレンレンジャー(2名) #レンレンジャーはレンジャー連邦の新規イグドラシル『レンジャー』にて登場予定の設定上のキャラクターです