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「悲しい涙は最悪の調味料(一)」
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(一)
白く綺麗な研究室。そこは壁の汚れや棚の埃など全く無い、清潔感溢れた研究室だった。ただ一つ。培養槽のなかにいるモノを除けばであるが。そのモノはこの研究室に似合わぬおぞましい生き物であった。
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「はぁっはぁっ」
路地裏を疾走する一つの影。その影をもう一つの影が追う。
「くそっ!まだ追ってくる!」
追われている影はある組織の末端の構成員。組に入れる資金作りの為に日夜強盗を働く子悪党だ。今日もいつもの様に店を襲い、売上を奪う。何回も繰り返しやってきた事で手慣れたものなのだが、今日はそうはいかなかった。
ゴミ箱を倒し、木箱を倒し、追跡を阻害しようと試みるも、差は縮まる一方だった。
カッ!!!
突然目の前に突き刺さる剣。全力疾走していたため巧く避けることが出来ずに派手に転倒してしまった。
「もう逃げられぬぞ。大人しく成敗されるがよい。」
突き刺さった剣を引き抜きゆっくりと近づいてくる。その姿形はヒーローそのものなのだが、黒いその衣装はこの子悪党の目には死神の様に見えた。
「う…あぁ…」
今まで受けたことの無いような殺意。
死ぬ。俺、ここで死ぬ。嫌だ。嫌だ。
しかし、余りの恐怖で後退る事も声を出す事も出来ない。目の前の死神はゆっくりと剣を構える。
「ハッ!」
無情にも頭上に剣が振り降ろされようとしたその時。
「待った待ったっ!ブラック!!お前それやりすぎだろ!!!」
赤いヒーロー衣装を纏った男が止めに入った。剣を持った方の手を後ろから抑え、余った手を胴に回して身動きができないようにする。
「レッド!?邪魔をするな!」
「邪魔するなって、殺す気か!?」
「そうだ!」
「まったくお前は。いくらセメントだろうとも殺しは駄目だ!」
「甘いことを!そんな事では悪は滅ぼせぬわ!」
「何を!」
薄暗い路地裏で男と女が揉み合っている。状況を把握している読者の皆さんはわかるだろう。しかし、まったく何があったか知らない人が見たらどう思うだろうか?
「な、何をしてるの・・・?」
ひょいっとピンクの衣装の女の子が顔を出す。心無しか顔が赤い。
「おぉ!ミハ、じゃなくて、ピンク!丁度い・・」
二人を交互に見るピンク。さらに顔が赤くなる。
「あー、そう!なるほどね。そりゃあエトさんの方が綺麗だしスタイルもいいだろうさ!でも・・・だからって任務中にチチクリ合うことないんじゃない!?」
「何言ってんだ?」「何言ってる?」
「もぅいい!私わかってるんだから!」
「お、おい!違うぞ!俺達犯人つかまえて、それで色々あって・・・」
「嘘つき!二人っきりじゃない!」
見渡すとさっきの犯人は居なくなっていた。レッドとブラックが揉めている内に我に帰って逃げたのであろう。
「レ、レッド!貴様のせいで逃げられたではないか!」
「俺のせいか!?」
「フン!そうやって誤魔化してればいいよっ!もぅ知らない!」
泣きながら全力走りで去るピンク。薄暗い路地裏に取り残される(見ようによっては抱き合った)二人。究極にまで高まった気まずい雰囲気であった。
(空馬)
最終更新:1970年01月01日 09:00