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~レンジャー訓練記 サバイバルレース大会編(中編)~」 から 次の単語がハイライトされています :


海と砂漠に挟まれた道をひたはしる、12組24名の若者たち。

「がんばってー」

軍用ジープに乗り、その脇をバインダーに挟んだ紙へチェックしながら並走するマグノリア。

レンジャー連邦サバイバルレースは、中盤戦に突入しようとしていた。

 * * *

~第二区画・北都―東都コース 判定使用値:走力A(筋力・敏捷力/2)~

 * * *

「楠瀬、ペース落ちてる!」
「わかってる、わかってるけど…!」

前方を走っていたはずの虹ノ・楠瀬ペアと並ぶようになって、半ば驚きながらじにあは声をかけた。もともと短距離に強いペアではないので、ふとしたきっかけで乱れると、ダメージは大きかった。

そのペースが乱れるきっかけを作ったのは、おそらく…

「ふはははは悪いね楠瀬さんじにあちゃん虹ノさんドランくん!
 さーあ、ジョニ子ちゃん、れーっつ・しんぐ・あ・そーんぐ!!」
「♪」

彼らの真後ろについていた華一郎・ジョニ子ペアの突然のアタック。

ここまでの区間のペースが嘘のように足を溜めていた彼らは、技の反動か、うまくペースが上がらない愛佳・マーブルペアを抜いて、一気に中盤まで踊り出た。

「楠瀬さん、今は落ち着いていきましょう」
「ああ」

虹ノが落ちこむ楠瀬を慰めた。

一方トップ集団でも、激しい順位争いが繰り広げられていた。

「にゃふにゃふくん、もうしばらくの辛抱だから…!」
「ミ、ミサゴさん…」

むしろミサゴさんこそ落ち着いてくださいとにゃふにゃふは、その眠たげな目つきで慌てていた。

「フゥハハハハハー、摂政!! あなたのソックスはかぐわしかったですなぁー!!」
「おのれソックスブルージャスティス…!!」

わけのわからない出目のよさで再び僅差の首位に踊り出た青海・ハニーペアを前に、普段は温厚なミサゴの手がうずく。

「ミサゴさん、顔がこわいこわい」
「ご、ごめんねハニーくん、ハニーくんには何の恨みもないの。ただ…」
「……」

その名の通りにこの国では稀有なことにも甘やかなブロンドをした美少年は、サバを履いた靴下から生やした隣の男を見た。

重厚な機動音、歩兵としての鍛え抜かれたダンディズム薫る皮膚感覚、硝煙と油の匂いを立ち込めさせる、その男。

「ん…? 君も、靴下のよさにめざめたかね?」
「う、ううん!」

慌てて首を横に振る。今日ばかりはいつも付きまとう愛佳ちゃんがいてくれたらなと思わずにはいられない、王猫ハニーであった。

そして華一郎・ジョニ子ペアの猛追をさらにかわして上位戦線に食い込んだのは、サク・マキアートペア。隠しルールの絆ポイントが早くも発動し、ブーストがかかっていた。

「このペースなら、藩王ペアももうすぐだよ、マキアートくん!」
「フン…別に君との相性がよかったわけじゃない、勘違いしないでくれよ」

美形青年猫士・マキアートのツンデレフラグも、ついでに立った。

「やるわね、サクさん…さすがヤガミ妖精の同志!」
「ここは焦らず力を蓄えましょう、蝶子さん」
「うん。チャンスはまだある!」

東都に広がる広大な飛行場とハンガーが、彼らの目の前に、もう、すぐだった…

 * * *

「こちらCポイント、いよいよ出番来たよ!」
「O~Kぇ!
 マグノリアさん、司会席どうぞ!」
「はい…わあ、ここからだとよく見えますね」

ぐぉん、ぐぉん。巨大な影が、犠牲者を求めてそのあぎとをついに振りかざし始める。

人影がいくつもせわしなく走り回り、いよいよその姿を現わそうとしていた。

 * * *

~第二チェックポイント 判定使用値:アクション(体格・筋力・敏捷/3)~

 * * *

「な、なんだここは…!?」

真っ先にそのステージへとたどり着いた青海は、普段見慣れていたはずの光景が一変していることに、思わず素に戻って戸惑いの声を上げた。遅れて駆け込んでくるミサゴたち後続。

「じゃーん!
 どっきどきアクションステージ・Ranger!!
 今宵その牙城に挑むのは12組24名の戦士たち!!
 果たしてあの頂きにたどりつき、完全制覇するのは誰か!! …ですー」
「マグノリアさん!?」

上から降ってきた実況解説風のセリフに思わず見上げるミサゴ。

普段はアメショーや航空機を格納・整備している軍用ハンガーは、いまや一大アトラクションと化していた。

整備用の足場をベースにそびえ立つロッククライミング練習用のそそりたつ壁、その向こうには深々と泥水を張ったプールに高い丸太が何十本も立てられ、その上を太い丸太がぶん…ぶん…と、何本も行き交っている。それが終わると、じぐざぐと行き違いにスライドしてはそれを掴んで降りていくのだろう、機材運搬用チェーンが何本も少しずつ下へ下っていくように配置されており、最後には天井の梁組まで伸びた長い一本のロープ。

なんだか似たようなものをどこかで見ているような気もするが、気にしない。

「さあ、一組ずつ挑戦してください。こちらの手元で厳密にタイムキープさせていただいてますから、タイム順にまたここからスタートとなりますのでご安心を」
「ご安心をって、言われても…」
「どうします? ミサゴさん」

顔を見合す2人。だが。

「YES!! YESYESYESYEEEEEESSSSSS!!!
 これしきの障害物、かつてのYOUたちの仕掛けていたトラップに比べて造作もない!!
 さあ、行くぞソックススウィート!!」
「そ、ソックス…!?」

がびーんと、へんてこな呼び名がつけられたことに衝撃を受けながらも、パートナーが進み始めたので慌ててそのあとを追っかけていくハニー。

「む…」

ちょっとくやしくむくれ顔になるミサゴ。

「いいでしょう、待ってなさいソックスブルージャスティス、あなたを捕らえるためにこれしきの障害、必ずくぐりぬけてみせるわ!」

びしいっ!とポージングもばっちりに、かつてのレンジャー・グリーンの勇姿が、今、ここに甦った。

「それにしても、僕ら以外で一体誰がこんな仕掛けを…?」

火花散らす2人をさておき、にゃふにゃふは辺りを見回す。

と、すささっと人影がその視線から逃れるように、アトラクションの物陰に隠れた。

「んん…?」
「にゃふにゃふくん、何してるの!
 さ、早く追いかけるわよ!」

のそっと見に行こうとしたにゃふにゃふの腕を引っ張るミサゴ。

「は、はい」

気迫に押され、つい、口に出しそびれた。

今の服、舞踏子…?

 * * *

展開から言えば、このチェックポイントは猛然と進んだ。難易度3と高めの設定だったにも関わらず軒並み低い数値が連発するという驚愕のレンジャー連邦国民の強運ぶりが発揮され、ここで遅れが出たのは全ステージ中もっとも少ない三組という、実にしぶとい展開になった。

中でもこれまで目立たない動きを見せていた小奴・夜星ペアが1を叩き出しミラクルヒット。ジャンプアップが発生した。

「蝶子さん、ミサゴさん、愛佳ちゃん、マーブルちゃん、みんなみんな、待っててねー!」
「小奴さん、足、速すぎにゃー!?」

女性を見るとパワーアップする女性、それが吏族2級、尚書補佐の、小奴という人物であった。あらゆる障害をものともせずに、ひょいひょいするする、である。

まさに、愛ゆえに、であった。

依然として一位二位は変わらず、むしろ評価値において優位を持っていた青海・ハニーペアは、ここでも出目を首尾よく決めて、リードを広げていた。横殴りに降ってくる丸太をくねくねとかわし、丸太の飛び石道、大爆走。

「憎まれっ子世にはばかるのである。さあ、この調子でいざレンジャー砂漠横断だ、ソックススウィートよ!!」
「きー!!
 だからソックスなんたらとか、ハニー様につけるのやめてよー!!」

こちらもタイムは悪くないのだが、青海たちに差を広げられ地団太を踏む愛佳。

「うーん…なかなか勝機が見えない」

じにあとドランは、その尻尾で見事にチェーンリアクションを次々と突破したものの、小奴ペアの躍進で逆に順位を落とす結果になっている。

梁の上までロープを昇り終え、もちろん疲れもあるだろうが、はぁ、とため息をついていたじにあの肩を、ドラン少年がぽんと叩く。

「まだ、折り返しだ。これからがあるよ」
「そう…そうだね」

そして下を見ると、

「楠瀬ー、このままだと本当に置いてっちゃうよー!」
「そんなこと、気にしてないで、自分たちのペアを優勝させるよう専念しろよー」

そんなパートナーのやりとりを微笑ましく見守る虹ノ。やがて彼らもロープを登りだす。

ちなみに最下位争いはというと…

「ぬおー! このままではまずいでござるよ浅葱殿!!」
「ちょちょちょ、揺さぶらないで、フェ猫さん落ちる落ちるー!?」
「ふー…」
「やっと最下位脱出だな」

浅葱・ビッテンフェ猫ペアと双樹・ヒスイペアが微妙に入れ替わっていた。

二本の丸太に両脚を置いてびろーんと足が広がりきってる浅葱を、後ろから今にも倒れそうなビッテンフェ猫がよりかかっており、その脇を、別のルートからすいっと双樹・ヒスイらが抜いていった。

「どんどんがんばろー!」
「仕方ないな…協力してやるさ」

ぐいぐいタイムを順調に伸ばしてきているのは、サク&マキアート。二位のミサゴ・にゃふにゃふペアの、背中が見えてきていた。

「ここからは長距離の、砂漠横断コースとなります。途中、補給ポイントを通過してください。うまく補給できないと、ここが勝負の分かれ目かも…?」

マグノリアのアナウンスが響き渡る。それぞれが、タイム順に出発するべく、再び足回りの柔軟体操を始めた…

 * * *

「ちっ」
「思ったよりやるわね…さすがというべきかしら」
「そのうち馬脚を現わすさ」
「そうでなかったら?」

…その時は。

ふっ、と、ハンガーの中から人影が消えた。

「こちらDポイント、ただいまより次のコースを開始する。準備どうぞ」
『こちらEポイント、了解した。たらふく食らわせてやる』
「期待している…それでは」
『ああ』

ぶつん。交信途絶。

 * * *

~第三区画・東都―西都コース前半 判定使用値:走力B(筋力・耐久力/2)~

 * * *

いよいよもっとも長いコースが始まった。これまでの2つの区画をあわせたより、厳しい道のりである。砂漠の道なき道を踏破し、果樹園生い茂り研究用のハウスが建てられている、レンジャー連邦本島西部地方へのロングランだ。

既に敏捷力は失われており、走力の判定使用値は一部変更になり、唯一のサイボーグ歩兵である青海・ハニーペアを除いて、ALL1で統一されている。途中での補給判定に失敗すると、この走力は回復しないままラストのコースへと挑まねばならない。

マグノリアの乗った先導車が出ているので道に迷う心配こそないものの、思った以上に早く第二チェックポイントを突破してしまった影響もあって、日はまだ当分ぎらぎらと照っているだろう。

早朝からずっと動き詰めの彼ら24名にとって、今日という日は、まだ、まだ、長かった。

 * * *

異変が起きていた。

アスカロン・豊国ペアの後退である。

「……」
「……」

アトラクションの時点とあわせ、一分近くの急激なペースダウンが出ているにも関わらず、謎の沈黙を保ったままだ。

序盤上位につけていただけに、その挙動は不気味だった。

一方愛佳・マーブルペアは、豪快にダイスで100を出して大ファンブル、砂丘を転げ落ちるという大技を披露していた。

「ひー!
 すみませんすみませんすみませーん!」
「あ、愛佳ちゃん、さすがに今はそれどころじゃないと思うの!」

ちっちゃな女の子2人が砂ダルマになって団子状態になっているのは微笑ましかったが、これはレースだ。

「ごめんねぇ~、藩王が私を待ってるのー!」

すぐ後ろにつけていた小奴・夜星ペアが容赦なくその上を飛び越えていく。

「今がチャーンス!」
「すまないな」

ドラン・じにあペアが、ずざざーと横を滑り降りた。

「よし! 最下位だけは遠のいた!」
「まだ油断はできないのにゃー」

もたもた立ち上がってるところを、双樹・ヒスイペアがかわしていく。

「行きましょうマーブル様、虹ノ・楠瀬ペアに追いつかれてしまいます!」
「愛佳ちゃん、仮想飛行士の人たちにさんづけ取れてるー」

余裕がなくなり一気にテンパる愛佳と共に、マーブルはえっちらおっちら走り出し始めた。

全体のペースから言えば、ここぞとばかりに体格の貯金を活かして追い上げにかかった双樹・ヒスイペア以外、技を発動させることもなく、着々と進んでおり、また、能力的にはアスカロン・豊国ペアと同じはずなのに、これまでダイス運のみで上位に迫撃していた蝶子・山下ペアにはさすがに翳りが見られてきていた。

「おのれ、あと少し…!」
「無駄無駄ぁ!!」

首位争いも、ミサゴ・にゃふにゃふペアが追いすがるものの、青海・ハニーペアがしぶとくなかなか落っこちてこない。

「それがしたちは果たして追い上げているのでござろうか…?」
「前の背中が近づいてきてるから、きっとそのはずですよー!」

最下位、浅葱・ビッテンフェ猫ペア、じわりなにげに堅調。

そして一方、ぐいぐいトップとの差を30秒差にまで詰めてきていたサク・マキアートペアは、先導していたマグノリア車がにゃーロード手前で止まるのを見て怪訝そうに首をかしげた。

「あれ、今朝はあんなところにテントなんて設営されてなかったと思うけど…」

がんばってー、などの、黄色い声も聞こえてくる。

謎だ。一体あれはなんだろう。

 * * *

~補給ポイント 判定使用値:補給(器用・知識・幸運/3)~

 * * *

テーブルの上に湿布やテーピング用のテープ、各種のドリンクが注がれたコップやバナナ、チョコ、エクレアなどの補給食が並べられている。

はて、おかしいなあ。こんなので補給判定になるんだろうか、簡単そうに見えるけど…?

「あーおなかすいた、やっとこれで一息だ」

ぱくりと鷲掴みにしたエクレアを食べた瞬間、双樹は吹いた。

「か、カラシィーーー!!?」

疲れて喉の渇いたところへこの仕打ち、思わず七転八倒だ。見ればあちこちで同様の悲鳴が上がっている。

「かはっ!!…く、ふ、不覚だ…!!」
「ま、まさか湿布にまで…いたたたたたー!!?」
「ミサゴさん、しっかりー!」
「にゃ…にゃふにゃふくん、なんであなたは平気なの…?」
「僕、からいの平気ですにゃ」
「ぐおおおー、オイルが、オイルが微妙に軽油になっとるー!!?」
「うわー!! ハチミツレモンかと思ったらー!?」
「……」
「ど、ドランくん、我慢しなくて吐き出してもいいと思うよ?」
「藩王、しっかりしてください~!?」
「な、なんでバナナの中に唐辛子が…」
「いやーんテーピングがなんかにちゃにちゃするー」
「お、おのれー…」

実に七組が判定失敗、残る中間判定三組も、何が出るかわからないという精神的負担をかけられ、外れは引かなかったものの思うように体力の回復ができなかった。

「これは…」
「ああ、今こそ再浮上のチャンス!!」

きらーん、と虹ノ・楠瀬ペアの目が輝いた。ちなみにここでまたサク・マキアート組、絆ポイント発動。危ういところをぎりぎり中間判定まで持ち込んでいる。

絵的には、

「危ない、サク、そのチョコはカレールーだ!」
「わっ!?(ばしっと払い落とされる)」
「…ふ、ふん、お前のためじゃない、お前に被害が出ると僕にまで影響が及ぶからだからな!」
「マキアートくん…」

と、いった感じである。

「それにしても…」

にゃふにゃふは、補給所にいる舞踏子や護民官たちを見て言った。

「まさか、君たちが今回の仕掛け人だったなんて…」

にやり、笑うと、彼らは悶え苦しむ一同をあとに、目の前で悠然と通信を入れながら歩き去っていった。

「こちらEポイント。してやったり! だ」
『こちらFポイント。いよいよここからが最後の詰めよ、気を抜かないでちょうだい』
「ラジャー、健闘を祈る」
『そっちもね』

ぶるるん、ぶるん…ジープがエンジンをかけ始めた。そこで偶然近くにいた楠瀬と虹ノは信じられないものを見る。

「マグノリアさん…!?」
「ごめんね、にゃふにゃふくん、みんな…さあ、行きましょう」

すまなそうにしながら彼らが乗り込んだジープを運転するのは、誰あろう、今回の審判役のはずのマグノリアだった。

「ば、馬鹿な…!!」

これも判定に成功していた、激しく動揺する華一郎。一人衝撃を歌にするジョニ子の奏でるメロディが、人々の心を一層不安と混乱にかきたてる。

よろよろと、西都へ向けて走り出すため、受けたダメージの余韻もさめやらぬまま立ち上がる、12組24名の戦士たち。

レースは今、予想外の展開を迎えて後半戦へ突入を開始した…

-The undersigned:Joker as a Liar:城華一郎

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最終更新:1970年01月01日 09:00