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「アカダノサクヤの樹の下で」
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月の夜、桜の下。
戯れる二匹の猫士と、その隣で呆けたように桜を見上げる青年。
どこかから歌声が聞こえている。
「風流ですねぇ…」
大柄な青年、双樹が完全に緩みきった顔で呟く。
「確かにな…」
背中にぺったりと張り付くタンジェリーナに溜息をつきながらドランは呟いた。
「ふーりゅー?ねーねーしんにーちゃん、ふーりゅーってなぁに?」
聞き慣れない言葉に興味をそそられたのか、ドランの背中に張り付いたまま双樹を見上げて首を傾げるタンジェリーナ。
「うーん、風流って言うのはね、中世日本で発展した高揚した美意識の……って言ってもピンとは来ないよね。俺だってそうだもの。」
ぽへーと笑って言う双樹。
「俺は、贅沢で素敵な物って言う意味で風流って言葉を使ってるんだ。」
「ぜいたく?」
「そう。贅沢。例えば今の景色なら…」
双樹は目の前の景色に視線を移す。
「視界を覆う程の桜吹雪、綺麗な夜月。遠くからはジョニ子の歌声、ゆったりとした時間。」
双樹はドランとタンジェリーナに目を移し、ぎこちなくウィンク。
「可愛い戦友二人が傍にいるしね。」
そう言ってやりすぎたと思ったのか顔を真っ赤にして手で顔を扇ぐ双樹。
ウィンクはダメだウィンクはとか呟きながら頬をぺしぺし叩いている。
「にゃーよくわかんないー」
そう言ってぴたーとドランの背中に張り付くタンジェリーナ。
「気にする事はない。そのうち心が自然と理解するだろう。」
そう言うドランの言葉に頷く双樹。
「そうそう。まぁ今のタンたんにはこっちの方が判りやすいかもね。」
にこにこと横に抱えたバスケットから何かを取り出す双樹。
「にゃー!おだんごー!!」
ぴょんとドランの背中から飛び降りて、それに駆け寄るタンジェリーナ。
それは三色団子だった。
つるんと薄紅、緑、白に輝く団子が数本、お盆に載せられている。
タンジェリーナの尻尾がぴーんと天を指し示していた。
「ねぇねぇ!これ食べていいの?食べていいの?」
目をキラキラさせながら言うタンジェリーナに苦笑する双樹とドラン。
「いいよ。ただあんまり勢いよく食べすぎて喉に詰まらせないようにね。」
タンジェリーナはわーいと一本団子を抱えてかしかしと食べはじめる。
「花より団子とはまさにこの事だな。」
目を細めてタンジェリーナを眺めるドラン。
「時にはそれもまた風流なのかなって思いますけどね。ドランもどうです?桜、よもぎ、あんこ入りとちょっと凝ってみたんですけど。」
お盆をするするとドランに差し出す双樹。
ドランがふるふると身体を揺すらせると、そこに着流しを見に纏った男性が現れる。
「戴こう。花より団子もたまには悪くない。」
ドランはお盆から一本団子を摘みあげた。
「ずっと…こんな毎日が続けられたなら…良いんですけどね…。」
遠くを見るような瞳で桜を見上げながら双樹は呟く。
「それが叶わない事はお前達が一番良く知っている筈だろう?」
桜を見上げたまま、ドランは視線を逸らさない。
「えぇ。確かに今はその通りです。」
双樹はポットのお茶を湯呑みに注ぐと、タンジェリーナとドランに差し出した。。
「でも…それでも…未来がそうであるように。未来がそれを許容出来る場所になれるように戦う人達を俺は知っています。だから…!」
「…だったら」
ドランが双樹の言葉を遮った。
「…だったら、出来ることをするといい。目の前にある事。今のお前に出来ることを。背伸びの必要は無い。焦る必要も。」
お茶をすすり、苦笑するドラン。
「もう少し仲間を信頼してやれ。自分一人で何かしよう何て奴はただの傲慢だろう?」
その言葉に少し考える双樹。
さやざやとした桜のざわめきを伴奏に、ジョニ子の涼やかな歌声が辺りに響く。
「そうですね…もう少し周りを見られるようにならなくちゃいけませんね。」
笑って団子を摘みあげる双樹。
それを見てドランはまた桜に視線を戻した。
「ねーねーしんにーちゃん。」
二人の間で団子をかじっていたタンジェリーナがすでに串だけになったそれをふりながら双樹を見上げて言った。
「ん…タンたん、どうしたの?」
不思議そうにタンジェリーナを見る双樹。
「もういっぽん貰っていーい?」
両前足を合わせて上半身を傾けるおねだりタンジェリーナを見て笑う双樹。
「いいよ。今日は好きなだけ食べるといい。」
双樹はタンジェリーナのおでこをくしくし撫でると団子を載せたお盆を差し出してやる。
「わーい!」
早速団子を抱えるタンジェリーナ。
大きく口を開けた所でぴたりとその動きを止めた。
首を傾げる双樹。
「わかった!」
尻尾をぴんと天に延ばして双樹を見上げるタンジェリーナ。
「これがふーりゅーなんだね!おだんごたべほうだい!!」
そういうと満面の笑みで団子をかじりはじめるタンジェリーナ。
意味を捉えられずぽかんとする双樹。
「なるほど…贅沢で素敵な物には違いない。」
ドランがくっくっと笑いながら身体を揺らす。
「確かに…そうですね。」
ドランの言葉に双樹は必死に笑いを堪えながら涙を拭う。
「にゃ?」
首を傾げるタンジェリーナの両脇で抑え気味の笑い声はそれからしばらく響いていた。
月の夜、桜の下。
戯れる二匹の猫士と、その隣で呆けたように桜を見上げる青年。
どこかから聞こえてくる歌声に笑い声が重なって。
さやさやと散る桜吹雪が連邦の一夜を飾っていた。
(双樹真)
最終更新:1970年01月01日 09:00