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「になし藩国戦後復興支援:準備編」
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人間は負けるように造られてはいない
人間は殺されるかもしれないけれど
……負けはしない
―ヘミングウェイ「老人と海」より抜粋
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「煮干しが半分ふっとんだにゃ!!」
「―は?」
政庁に仕える黒色猫士 夜星の突然の乱入と訳の判らん台詞に、会議中だった連邦民一同は頭上にはてなまーくを浮かべて固まった。
「ポチがパレードで穴から怪物がうわーってなって煮干しが半分吹き飛んだんだにゃ!!」
夜星、ぐるぐるのあまりよく判らない事を叫ぶ。
唖然とする一同。
「なんだって!」
そんな中、夜星曰く『僕の子分』である小太り文族 双樹 真が夜星の言いたい事を理解したのか驚いて立ち上がる。
「え?え?なにがどーしたんですか?」
やわらかな雰囲気を纏った女性、マグノリアがいきなり立ち上がった双樹に驚きながら尋ねた。
「…わんわんのになし藩国が根源種族に襲われて国の半分が焦土と化したそうです。」
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それから一時間をかけて夜星の報告を解読した一同はあまりの凄惨な事態に愕然とした。
「ひど過ぎるよ…」
大族である山下 大地が、心の痛みに天使のような顔を歪ませてつぶやいた。
「たった一人に…それだけの力を持つものか…オーマかも知れんな」
研ぎ澄まされた刄のような雰囲気を漂わせる自称剣神族の青年、アスカロンが悲痛な面持ちで頷きながら言った。
オーマ…その一言で会議室に沈黙が満ちた。
たった一人で国の半分を吹き飛ばす敵。
根源種族。
ポチの死。(この時点でポチの冷凍睡眠は知られていない)
連邦民全員が夜の到来を感じはじめていた。
ぱん
暗い何かを払うかのように響く一拍の手拍子。
「はい、みんなそこまでー!」
しなやかな腕を腰に当て、その端正な顔に笑みを浮かべて、藩王である蝶子が明るい声で暗い思考を打ち切った。
「藩王…?」
最近レンジャー連邦にやってきた、サクが不安そうな顔で藩王を見る。
「サクさんもそんな顔しないの!」
蝶子はサクの肩を軽く叩き全員に見える位置に移動する。
「少なくとも今考えるのはオーマへの脅威でもポチ姫の死でも無いわ。ポチ姫の事は残念だったけどまだ、考えなければいけない事があるはずよ」
「考えなければならない事…そりゃ、いったい何なんです?」
七色の戯言使い、虹ノ七色が言う。
「になし藩国への支援の仕方です!」
会議室に再び沈黙が満ちる。
ただ先程と違うのは、今度は単純に困惑によるものだということだが…。
「でも、になし藩国はわんわん帝国でござる。ただ行くだけでは利敵行為とみなされて捕まってしまうでござるよ?」
怪訝そうな顔で武人のような雰囲気を持つ妙齢の男性、ビッテンフェ猫が言った。
「そうかも知れません。確かにリスクは伴うでしょう…でもね」
ほほえむ蝶子。
「この国は愛を理想と掲げているわ。他人への友愛、友情、憧れ、自分への、他人への愛。でも、理想は理想。現実とは違うでしょう」
真っすぐに全員を見渡す蝶子。
「でも、違うって言うのはそうなれないって事じゃない」
この言葉が皆の心に届きますように。
そんな思いを言葉に乗せる。
「理想と現実は一緒じゃないけど、理想への道は辛いものだと思うけど、」
言葉に力を込めて
「だからどうした!倒れようが朽ち果てようが私は私の行動で、愛も希望もそこら辺に落ちていて無価値になるかも知れないくらいに溢れているって事を示すの!」
数秒間を置いてつい昂ぶったた気持ちを落ち着ける。
「万難を排して届く善意なんてね、涙なんか誘わない当たり前の事にしたいの」
あの星に恥ずかしくないように。
その言葉を飲み込む。
「だから…駄目…かな?…支援」
恥ずかしくなったのかしゃがみこみ、鼻から上だけで周囲を伺う蝶子。
「えっと、それならやっぱり変装が必要ですね…何がいいかしら?」
頬に手をあてて、うーんと考える摂政 砂浜 ミサゴ。
「ミサゴさん!」
飛び出す蝶子。
「長い付き合いですからね。さてと使える予算を計算しないと」
猫耳吏族 楠瀬 藍が眼鏡の位置を直しながら苦笑する。
アレがいい、コレがいいと各所で始まるアイディアの出しあい。
「うーんわんわんに潜入か…、なるべく不自然じゃない変装なら、僕はバトルメイドが良いと思うな!彼女達ならどの国に居ても不自然じゃない。」
なぜか懐かしそうに、神話研究家である 豊国 ミロが言う。
「メード!メードですか!あぅ~素敵ですねぇ~。メイドさん……私色々手伝いますよ!」
可憐にメイド服を纏った浅葱 空がメイドと言う言葉に反応した。
「だったらメイクも必要よね!私たち西国人の肌や髪はわんわんでは珍しいでしょうし…。うーん腕がなるわー!」
どこから出したのか、大きなメイクボックスを片手持った美女、小奴はやる気満々である。
あーそれいい!バトルメード!等とわいわいと変装会議に花を咲かせる女性陣を余所に完全に置いてけぼりを食った男性陣。
「いやぁ楠瀬さんは凄いねぇ。あの中でもしっかり材料費やらの算段を確認しているよ」
連邦一の文字使い 城 華一郎が呟いた。
「…フェ猫殿、わんわんにいけるかもしれないぜ?もしそうなら…」
やや太めのサイボーグ歩兵 青海 正輝が目を輝かせる。
「チャンスでござるな…少しお話が…」
ビッテンフェ猫も瞳を輝かせて青海を連れ立ってどこかへ歩いて行った。
「変装や潜入法は彼女達に任せておけばよさそうだな」
腕を組み頷く華一郎。
「さて、双樹くん。現状、俺たちには何が出来るだろう?」
華一郎は試すように問い掛ける。
分かり切ってるだろうこの国の民なら。
「えっと…やっぱり物資の調達ですかね。何をするにしても必要になりそうです」
答える双樹。
「ん、正解だ。とゆーわけで双樹くんは青海さんとビッテンフェ猫さん。それと冴木さんをつれて食料を集めてきてくれ」
「俺は大地くん、アスカロンさん、虹ノさんをつれて資材を集めてくる。たぶん楠瀬さんはあちらに必要だろう」
「わーん!みんな愛してる~!!」
着々と会議は進んでいく…。
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翌日
「…で…できたよ~!」
徹夜でぼろぼろの蝶子と小奴が執務室からあらわれた。
「一晩でですか!?」
驚いて立ち上がる双樹。
あれ、おかしいな…浅葱さんと楠瀬さんも手伝ってたはずだけど……?
「ふふふ~うちの連邦民を舐めちゃいけませんよ~」
ぐるぐる蝶子。
「メイクもばっちり!恐れおののくがいいのよ~」
ぐるぐる小奴。
みょーんみょーん等といいながらふらふらする二人。
「は、藩王、小奴さんもやすんでやすんで!」
炊き出し支援予算の捻出に成功したのか、会議室に来たミサゴは今にも倒れそうな二人を椅子に座らせる。
「ま~みてみてよ!もーすんっごいかわいーんだから!」
じたじたと手足をばたばたさせるぐるぐる蝶子。
「そうですよ!双樹くん!」
立ち上がり、ビシッと人差し指を双樹に突き付けるぐるぐる小奴。
「はい!?」
びびる双樹。
「君も着るものなんだから真面目にみないと駄目だよ!」
「…着る?」
そういや、変装って結局なんになったんだっけ…風を追うもの?いや、ちがうな…えっとえっと…
ぷすぷすと知恵熱を出し始める双樹。
ぐるぐる3人組に釣られてミサゴもぐるぐる仕掛けたその時、会議室の扉が開いた。
「みんな、大体資材の手配も大丈夫そうだ…ってどうしたんだ?…三人とも」
資材集めに連邦中を飛び回っていた城一行が会議室に目録を抱えてやってきた。
「あ、城さん!変装って結局何になったんでしたっけ!!」
飛び付くぐるぐる双樹。
「え、バトルメードだろ?」
「ばとるめーど…」
「戦冥土とは…わんわんには恐ろしいアイドレスがあるのでござるな…」
いつのまにか帰ってきていたビッテンフェ猫は集めた食料の目録に目を通しながら言う。
「なんか今、変換間違ってなかったか?」
青海は手を止めずに突っ込む。
役に立たないぐるぐる双樹はとりあえずおいておくとして、早く準備を進めなきゃイカン。
そうでござるな…未知の臭いが拙者達を待っているでござるよ。
フフフフフフ
目を合わせくらい笑みを浮かべる青海とビッテンフェ猫。
「さぁモデルさんのとーじょーなのよー!」
ぱっぱらぱーぱっぱっぱっぱっぱらぱー!
響くラッパの音。
扉の隣で豊国がトランペットを構えていた。
それに合わせて扉を開く、サクとマグノリア。
そこからあらわれたのは二人の美女。
片方は、犬耳、犬尻尾を装備し、ふくらはぎ辺りまでのロングスカートなメイド服を装備した浅葱。
わんわん潜入の為か、髪は黒く、肌は白くなっている。
それがまた、新鮮さを伴い、浅葱の魅力を引き出していた。
この時点で双樹は犬耳…犬耳もよい…とかいってへち倒れている。
もう一人は……
「誰だ?」
城が首を傾げながら後ろの大地に尋ねる。
「さぁ…あんな方いらっしゃいましたっけ?新人さんなのかなぁ」
腰まで届く黒い髪に白い肌。
すらりとしたファッションモデルのような長身。
かなり短めのスカートからのびるすらっとした足。
身に付けられた黒いストッキングがさらにそれを強調している。
そして、恥ずかしさから朱に染まる頬が何というか良い味を出していた。
「みなさーんちゅうもーく!!」
二人に見惚れる全員を見て、蝶子がぱんぱんと手を叩く。
「あのね、今回は二種類作ってみたんだ!ミニスカとロンスカ!」
「それでね~、西国人の肌と髪の色は目立つから染めるのとどーらんでごまかしてみました!」
小奴が大きなメイクボックスを片手に説明する。
「大体こんな感じだね~。後は各々支援に出る人員は好きな方を選んでくださいね~」
蝶子は満面の笑みで告げる。
「えっと…一ついいですか?」
最近レンジャー連邦に仕官した冴木 悠が、かなり嫌な予感を背筋にひしひしと感じつつも一縷の望みに賭けて聞く。
「男性の変装は無いんですか…?」
「え…冴木さん、何言ってるんですか?」
蝶子はきょとんと首を傾げる。
「目の前に男性のモデルさんが居るじゃないですか」
『…は!?』
その場にいた外回り組全員の声がハモった。
その視線が、なぞの美女に集中する。
「ねー、楠瀬さん」
『はぁぁぁぁぁあ!?』
目を白黒させて倒れる外回り組。
「え?え?みんなどーしたの!?」
あわてる蝶子。
「そんなに変でした?コレ…」
頬を朱に染めたまま自分の格好を眺める楠瀬。
「たぶん、逆じゃないかなぁ…ねぇ?」
小奴が周りを見回す。
頷く女性陣。
「そうですかねぇ…」
楠瀬は一人得心のいかない様子で首を傾げていた。
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その数分後いつのまに気が付いたのか、一人の小太りな男が気を失った華一郎を見下ろしている。
右手にはミニスカナース服。
左手には黒いガーターベルト。
そしてその回りには数人の女性。
「やっぱり城さんにはこの、高機動セットが似合うと思うんですよね…」
頷く女性。
「なんか、こー『城華一郎!夢の二十代!!突貫します!!』とかやってほしいとゆーか…」
頷く女性。
「やってもいーですか?」
激しく頷く女性。
その夜、政庁会議室に華一郎の悲鳴が響いたとか響かないとか。
それはまた、別のお話である。
(文責:双樹真)
最終更新:1970年01月01日 09:00