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**レンジャー連邦日誌:食糧増産作戦
レンジャー連邦日誌『食糧増産作戦』
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「今度は食糧増産ですって?なんでよ!?」
ここは藩王執務室。
戦時供出金のやりくりに何とか成功し、一息つきかけたレンジャー連邦藩王蝶子は、摂政である砂浜ミサゴの言葉に反駁した。
「いえ、ですから。先ほども申し上げましたように、今回の出兵につき、食料の充実が不可欠です、と。それで、概算で見積もった結果15万tは増産しないとならない計算になります。これは、共和国からの通達とも一致します」
「う、うん。分かった…けど、どうするの? ウチとこは砂漠だよ?これ以上の増産と言ってもー。一日で砂漠は緑化しないんだよ?」
まるで拗ねる子供のように、だがその思いは、真に国民をこそ心配してのものだった。
これまでの動員でも、既に国民に負担を強いているのだ。これ以上の負担を、かけたくない。だが。
「ですが、できないからといって国がお取り潰しになるのもまた、国民に負担をかけることになります。これまで藩国を守り立ててくれた国民が、それで納得してくれますでしょうか?」
「あう…」
痛いところをミサゴに突かれ、口篭もる蝶子。
そこへ。
「藩王様、お茶にしましょう?小奴ちゃんが天領からお土産もって来てくれたのー」
藩王ラブなのんびり屋、浅葱空が執務室の扉を勢いよく開けて入ってきた。
「ミサゴさんも、一息つきませんか?あまり根を詰めても仕方ないですよ」
後ろから、マグノリアもお茶の支度をして入ってきた。
「どうですか、状況は?また、共和国からいろいろ通達があったみたいですが」
出仕を終えたばかりの小奴もやってきた。
「うーん…」
「そうですね。せっかくですから、休憩を入れましょう」
渋る蝶子だったが、珍しく今回はミサゴが休憩を勧めてきた。
「ミサゴちゃん…?」
「今は、みんなでお茶しながら相談しましょ。きっと、いいアイディアが出てきますよ、蝶子ちゃん」
「そうだよ!苦しいときは分け合わないとだよ!」
浅葱が相槌を打つ。
「小奴さん、お砂糖は?」
「マグさんありがとう。うー、今日は疲れてるからひとつちょうだい」
これはマグノリアと小奴。
既にお茶の準備は整っている。
「…よし。じゃ、休憩!ここで作戦考えて、そのあとでみんなに連絡しよう!」
こうして、レンジャー連邦食糧増産計画は開始した。
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「こんにちは!藩王、食糧増産の件ですが。この私のアイディアを生かすチャンスだと思いまして参上仕った次第!」
どさり、と藩王の机上に山のようなレポートが置かれる。
「こ…これは?」
目を丸くする蝶子。
ミサゴも、少なからず驚いているようだ。
「これは、私がこの国を調査して計画していた食糧増産計画です。いやぁ、学生時代からなんとかして農地拡大を図れないかと考えていたものですから」
「へえー、すごいね!アスカロン!」
感動する蝶子。
その脇で、レポートにざっと目を通したミサゴが驚きの声をあげた。
「こ、これは…!アスカロンさん、確かにこの計画はすごいと思います。ですが農家の賛同が得られるかどうか…」
「ああ、大丈夫ですよ摂政殿。その点については抜かりなし!」
と、そこに青海正輝が入ってきた。
「青海さん、それは一体どういうことですか?」
「それはだね…」
ミサゴの問いに、青海が答える。
それによると、どうもアスカロンが学生の時分に、西の都で実験的に実地の研究を進めていたらしい。
もともと農業に対して思い入れの強い西の都
の民たちは、アスカロンの話を積極的に聞いてくれたのだ。
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話はアスカロンの学生時代に戻る。
アスカロンは、大学に協力してくれている農家の方数人を集め、自らの研究を実証すべく協力をしてもらう為の説明会を、村の集会所で開いていた。
「…と言うわけで、この方法が成功した場合、今までの1.5倍…いやむしろ倍の増収が見込めるようになるはずです。もちろん、先にあげたようなリスクはあります」
しん、と静まり返る集会所。
『…私は、本職の農家の方々に対し、えらそうなことを言ってしまったのかもしれない』
プレッシャーに潰されそうなアスカロンだったが、意を決して言葉を続けた。
「それで、いかがでしょう?協力してはいただけないでしょうか…」
「よし、じゃあやるか!」
「うん、やろう!」
弱腰なアスカロンに対して、農家の人たちはあっさりと快諾した。
「いやあ、学生さんが国の為になる話を持ってくるなんてな!将来有望だよアンタ」
「うまくいけば俺達の収入も増えて、国も潤うんだろ?言うこと無しじゃねぇか!」
この調子である。
「え、でも、失敗するリスクもありますし。骨折り損のくたびれもうけって事にもなりかねないと、先ほども説明を…!」
「兄ちゃん、この都のモンはな、こと畑仕事に関しちゃあ失敗は恐れないのさ。伝説の、あの二人の名に恥じないようにな」
それは、西の都郊外の農地に立つ像のモデル、マットとフライのことである。
「あの人たちががんばってきてくれたおかげで、いまの俺達がある。その俺達が、失敗を怖がって農地拡大に手を出さないなんてことはありえないのさ」
ニッカリ笑って、誇らしげに地元の先人の話をする農夫。
「あ、ありがとうございます!」
アスカロンは心から、農家の方々に感謝の言葉を述べた。
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「…というやり取りが昔あったらしくてな。向こうで増産はさほど問題じゃない。問題は…」
「問題は、その統率力です」
青海の言葉をついで、アスカロンが言う。
「実は、彼らの意欲が高いのはいいのですが、各自のやり方、取り組み方に差は大きく、安定した生産状態にもっていけるかどうかが不安材料なのです」
唯一の不安材料を、アスカロンが沈痛な面持ちで伝える。
「じゃあ、あたし言ってお願いしてくる!」
あっさりと、蝶子は言った。
「…なるほど、藩王直々のお願いとあれば、国民への理解も早まるでしょう。分かりました。では、手配します」
ミサゴは何事か通信し、手配をはじめた。
「ああそれと青海さん。西の都の状況を、まとめてレポートしてください」
「おう、まかせな。今、北の港での話もまとめてるんで、そのあとでよければな」
青海の返事は横柄だが、彼はいつも仕事をきっちり仕上げる男なので、その点は問題にされていない。
「…よし、手配完了。藩王、お支度を。早速説明に向かいましょう」
「「「は、はやっ!?」」」
その手際の良さに、ミサゴ以外の全員が驚いた。
砂浜ミサゴ、伊達に摂政はやっていない。
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「藩王、藩王!食糧増産活動のレポート、まとめて見ましたので確認お願いします!」
そう言って執務室の扉を叩くのは、最近政庁に出仕するようになった双葉真である。
「はい、しんさん。分かりました…なるほど。よくできていますね。これからもこの調子で頼みますよ」
ミサゴが不在の為、藩王自らレポートをチェックし、その内容に満足する蝶子。
「あ、ありがとうございます!これからもがんばりますから!」
そういうと慌てて執務室を後にする双葉。
褒められて嬉しかったのか、目じりには涙が浮かんでいた。
感激屋の双葉は涙腺が緩く、ちょっとしたことでうるうる来てしまうのだった。
「あ!…行っちゃった。もっとゆっくりしてってくれてもいいのに。うー、藩王の仕事一人じゃさみしいよぅー!」
…我慢である。
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「…ねえ、僕たちこんなことでいいのかな?」
いままで延々と走らせていた筆を止め、山下大地が誰に言うでもなく言った。
「終わるまでさ。全てが、ね」
虹ノ七色は、嬉々として筆を走らせている。
時間が経てば経つほど調子が上がってくるタイプなので、もはや絶好調である。
「…まあ、それにしても一旦休まないと。編纂するだけでも一苦労なんだからなぁ」
ため息混じりの楠瀬藍の一言で、休憩となった。
「しかし、今更過去の資料を編纂しろだなんて、青海さんは何を考えているやら」
お茶をすすりながら、山下がぼやく。
「うーんと、何でもこの国の始まりからの農産物や農法を記したものを探し出して、それを現代に転用、適応させるって言ってたっけ」
練り菓子を切るのに苦戦しつつ、楠瀬が応える。
「温故知新、てえやつだな。あいつ、ああ見えて意外と基本に忠実だし」
これは別の作業をしながら七色。意外と器用な男だ。
「でも、果樹園の整備でメインは動いてるんだよね?だったらこれは必要ないんじゃない?」
いかにも不思議そうに山下が問い掛ける。
「大地さん、そうじゃないんだ。研究が進んでいて手っ取り早くはじめられるから、果樹園が先にスタートしたんだ」
楠瀬が答える。
「それに」
七色が後をついでこう言った。
「本格的な食糧増産は、藩王も懸念されているだろう。それを見越して、先人達の情報集めをしちゃおう、というのが今回の俺たちの仕事なんだよ」
「「なるほど」」
「いや、お前ら理解してから仕事しようぜ」
…ごもっとも。
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同日夜。
レンジャー連邦全土に、藩王蝶子からのメッセージが流れる。
「…というわけで、引き続き国民の皆様には負担をかけてしまい申しわけありませんが、なにとぞご協力をお願いするものであります」
燃え上がる国民。
みんな藩王のことが好きである。
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同日深夜。
「藍ちゃん、居るー?」
「ああああ、藍ちゃんはやめてくださいっていつも言ってるでしょう浅葱さん!」
仮眠室で寝ようとしていた楠瀬を、浅葱が訪ねてきた。
「で、なんです?私はこれから少し休もうと…」
「えっとね。じゃーん」
浅葱が取り出したのはテープレコーダー。
「これにね、執務室での出来事とか全部入ってるから、文字に起こして?」
「…はい?いまからですか?」
「うんそう。ダッシュで」
「…おれ、脳味噌うにになりそうなんだけど」
楠瀬の言葉遣いが素に戻る。
それを見逃さず、浅葱が畳み掛ける。
「もっとゆっくりでもいいけど、その場合はある事実がみんなに公表されちゃうんだけどなー」
懐から別のテープを出す浅葱。
「またまた。今度は騙されませんよ?」
「…ヒスイのブレスレット」
「え?」
硬直する楠瀬。
「じにあにヒスイのブレスレット、あげたでしょ?私見たんだー」
じにあはレンジャー連邦の猫士である。
「な、何の事やらさっぱり分かりませんな」
そっぽを向いて白々しく答える楠瀬。
口笛吹こうとして失敗しているあたりがまだまだである。
そうしている間にテープが入れ替えられ、再生される。
『あの、これ…この間のお詫び。お前に似合うと思って…』
『あ、あらそう…別にブレスレットなんか要らにゃいけど、お詫びって言うんだったら貰ってあげなくもないにゃ』
「わーわー!!やーめーてー」
わめいて音声をかき消す楠瀬。
「んふふ。じゃ、よろしくね?」
妖しく笑う浅葱。楽しそうだ。
「…はい」
そして、楠瀬の作業は翌朝まで及んだ。
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(約3020文字 文章:楠瀬藍)