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…………。 熱いという言葉を、何と言い換えよう。 …………。 熱いという感覚を、何と取り替えよう。 …………。 ノ/…イズ/……混じり……/ノ……。 …………。 パルスが。-・―・――・――・――。 …………。 ザ ざザ ザざ ZAAAAAAAAA……。 …………。 明滅する。チカ・チカ・意識に火花が。 …………。 ど  く  ん。 体を内側から叩かれた音がする。 ど   く   ん。 体を内側から熱かれた音がする。 熱-音-熱-音-熱-熱-音-。 ざ ざザ ザざざ-・――・―・―――・Tiカ・チKa・ぴ・GAAAAAAA…………。 それが心臓であることを理解したのは、彼女が一面の灼光に目を圧されたからだった。 彼女が一面の灼光に目を圧されたから、それが心臓であることを理解したのはだった。 彼女は、それが心臓であることを、一面の灼光に目を圧された、ながらに、したのは。 …………。 音が物質化したかのような、カンとした衝撃に突然襲われる。 【*電網適応-ヲ-正常-ニ-開始-シマシタ*】 結晶化する破砕音が自分の中から聞こえてくる。 銀を掃いたような20,000ヘルツoverの金属音、に、耳ではないところの何かが、可聴域を超えた、高周波を、 捉えた。 銀色の髪。淡く波打つ。 波打つ。丁度、風と水とが海原を島に打ちつけて、力場をありあり示していく、その様に似た、力強い、命の美しさで、アイドレスは彼女に似姿を着飾り付けていた。 「…………。」 絡む耳元を、確かめるようにして、手で、撫でつける。 その振動が、頭骨を伝い、鼓膜を震わし、聞こえた。 気がつくと、絶え間ない、幾重にも織り上げられた波音……潮騒に、気づいていた。 どくん、どくん、どくん。 眩く放射される陽熱にも、負けじと早足に胸の内側から熱い血潮を伝える臓器がある。 平素よりは、1割ほどテンポアップしているだろう。 ぷつ、ぷつ、肌に、汗腺の押し開けられる、瑞々しい感触がある。 気温は30度を軽く超え、『生身』の慣れを超えたところに置かれているが、違和感こそ覚えども、体に掛けられている負担で鼓動が高鳴っているわけではなかった。 (……また、ここに来たんだ。) 巻き上がる風に膝元を押さえながら、品良く鼻の上に載せられている眼鏡越し、どこかを憂えたまなざしで、砂浜ミサゴは太陽を見上げた。 レンジャー連邦の空が、広がっていた。 /*/ 手の中には小さな包みがある。 銀紙の、厚くパリパリした型の感触が、持つ、指の腹には返っている。 潮風と熱で傷まないようにと、ふうわり、生地の薄い、青色の紙包みに収まっている、その中身は手製のマフィンだった。 砂踏む浅い細々とした足裏の沈みに、改めてミサゴは、今、アイドレスにいることを実感していた。 久方ぶりの適応で、そして、こうして密にニューワールドという世界を感じられるゲームの場は、今日が、初めてのことである。 指先にはプラスティックとゴムバネの押し返す弾力があると同時に、確かに別の、砂漠の島国であるところの、独特のねつい潮風に晒され、ほんのりとべとついた紙包みや、その中身の感触が、返って来ている。 両腕と脳とが直結し、まるで独立したもう一つの思考回路を形成してでもいるかのように、もう一人の自分を、モニターの向こう側、開かれたメッセンジャーウィンドウ上に、投射しているのだ。 緊張に、呼吸をすると胸が痺れるのは、きっと向こう側も同じだろう。 だったら、今から向こう側で会うのは、やっぱりこちら側で会うのと、同じなんだ。 【心】が、青く震えた。 等質の粒子を振り撒いて世界は彼女と呼吸する。 物質以外の何物も存在しない世界が、心を宿して、青く、輝く。 青き心の報せは彼女に世界を見せている。 「芝村 の発言:  OK  レンジャー連邦だからね  2分ほどお待ちください」 「砂浜ミサゴ の発言:  了解です。ありがとうございます。」 同じだが、違う世界を見せている。 「芝村 の発言:/*/」 モニターを彩る文字が消失した。 熱と鼓動が戻ってくる。 …………。 海辺を、やって来る。 (…………。) 小さな黒いシルエット。 「…………。」 やがてシルエットは、面長の頭部に比して、なお、横幅に張りがあり、太くスマートに引き絞られた肢体による、縦長の頭身を持つ、大柄な人物であることを、彼女の瞳に映していく。 オールバックに固めた金の髪。ゆったりとだが、無理のなく、均整の取れた歩幅で、長く伸びた脚部に相応しいストライドでやって来る足取り。彫り深い顔立ちまで、ああ、その目で認められる距離まで来てしまえば、彼が誰なのかは、今日という日を約束せず、語られずしてさえ、きっとミサゴには感じてしまえただろう。 火星で最初に出会ったその男と女は、世界を隔てて幾度も互いのために戦い、けれども、時と心に隔てられ ――――けれども、それでも、再会した。 赤い、恥らいの熱が、胸から顔へと、鼓動し、昇る。決して豪華とも、絢爛などとも呼べない、躊躇いに鈍った足の動きで、ミサゴは男に歩み寄る。 緊張に口元が硬くなる。 お腹の上、素肌のへそに抱え込むようにして、マフィンの包みを精一杯隠しながら、高い位置にある、その顔を見上げる。このニューワールドの、この国では、そこには愛が宿るのだったか。そんなこと、忘れるはずがない。この国は、私の国なんだから。この人は、私がずっと、大好きだった人なんだから。 ドランジさん。 「もう逢えないと、思っていた。」 男の、穏やかな、そして自分と同質の憂いを帯びた、その瞳に、心の中にしかないはずの世界と、物の中にしか存在しないはずの世界の胸とが、二つ、同時に痛切を覚えた。 私は、アイドレスに帰ってきたんだ。 (城 華一郎)

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