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【もっと食べたい(藤田鈴花、佐々木操、坂井涼)】 - (2014/09/18 (木) 01:10:58) のソース

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|もっと食べたい|[[藤田鈴花>藤田鈴花(ふじた すずか)]]|[[佐々木操>佐々木操(ささき みさお)]]|[[坂井涼>坂井涼(さかい りょう)]]|
**怪異のはじまり
     ここは市内の中華料理店。
     個室に通された4人。
     一人は、眼鏡をかけた髪の長い女性。
     やや童顔だが、身のこなしはしっかりしている。
     法律事務所の職員でもある藤田鈴花。
     その後ろから入ってきたのは、明朗快活そうなショートヘアの少女。
     髪飾りが特徴的な、サーカス団員の佐々木操。
     続いて入ってきたのは目つきの鋭い銀髪の少年。
     藤田鈴花の後輩で、佐々木操とは高校の同級生の坂井涼。
     最後に入ってきたのは、ラフな格好の男性。
     フリーのジャーナリストでもある菊池陽介。
     4人は食卓を囲んだ。
     普段、菊池が法律関係で世話になっている鈴花にご飯をご馳走するついでに、操と坂井も付いて来た形だった。
|CENTER:&image(中華料理店01.jpg,,x330,,)|
菊池   坂井君は何の勉強をやってるの?
坂井   何の勉強だろ・・・テキトーになんでもいいなって、心理学とかやってます。

     ぶっきらぼうに答える坂井に操がフォローする。

操    年上の方なんだから、もうちょっと言い方が・・・
鈴花   まあまあ、坂井くんはこういう人ですから・・・

     鈴花も、やれやれといった感じだ。
     菊池も察して、操に話題を切り替える。

菊池   そういえば、次のサーカスの公演はどこでやるんですか?
操    今度は、東京の方でもやるんですよー
菊池   象にも乗るんですか?
操    象、乗りたーい!!超カワイイのwwwww

     すかさずツッコむ坂井。

坂井   佐々木、空中ブランコだったんじゃ・・・
操    空中ブランコ専門だけど、象も好きで、ペットみたいなもんだからww

     しかし、雑談しつつも鈴花と坂井は菊池の顔色が悪いのに気づいた。
     操はメニューを眺め始めた。
     そこに店員が注文を聞きにきた。

店員   いらっしゃいませ。ご注文はいかがしましょう?

     条件反射的に坂井が答える。

坂井   きつねうどん!!
鈴花   坂井くん、うどんは中華屋にはありませんよ。私は回鍋肉定食ご飯少な目で。
操    エビチャーハンとカニ玉と餃子と回鍋肉と食後に杏仁豆腐お願いします!!

     2人のやり取りをよそに次々と注文を始める操。

鈴花   相変わらず良く食べますねww
坂井   オレはラーメンの定食で・・・

     一通り注文が通ると、意を決したかのように菊池が口火を切った。

菊池   実は、相談があるんですよ・・・
鈴花   あら、一体なんでしょうか・・・?
菊池   今、あるコトを取材しているんですが、実は俺も“ソレ”になってしまったみたいなんです・・・
     いわゆる、「摂食障害」ってヤツで、俺自身気づかないうちにモノを食べて、ひどい時には油とか醤油とかまで飲んでしまっているんです・・・
坂井   あぁ、うん・・・

     突然の告白に一同も口ごもる。
     摂食障害とは、過食症や拒食症の事で、ひどいものになると生命に関ることもある。
     ダイエットなどが原因で、女性が多く掛かったりする精神疾患だ。

操    せっしょく?触るヤツですかー?
鈴花   菊池さん、まさかダイエットに失敗したんですか?
菊池   ・・・ホントに苦しんでるんです・・・
鈴花   すいません、場を和ませようと・・・

     そうこうしていると、店員が料理を運んできた。

店員   お待たせしました~

     テーブルの上には中華料理の香ばしい香りを放つ料理が並べられた。
     料理が運ばれてくると、菊池の様子が豹変する。

操     いただき・・・

     ガシャン!!ガツンッ!!!
     やつれていたはずの菊池の瞳は食欲でギラつき、操の前に置かれた料理を奪って貪り食い始めた。
     ガツガツ、ムシャムシャと、菊池は料理だけでなく、果ては割り箸や紙ナプキンまでも口にしだした。
     一同は、その異常な行動に、あっけにとられていた。
     やがて、さらなる異常事態を目にすることとなる。
     菊池の足がなくなっていた。
     正確には、太腿の辺りまで身体の中にめり込んでいた。
     不思議なことに血は一滴も出ていない。
     菊池は、そんな事など意に介さず食べ続ける。
     もはや重力など無視して身体が浮かんでいる。
     胸、腕、首とめり込んで、最後には剥き出しの口のみになった。
     その口は、突然、坂井の方めがけて飛び掛った。
     そして坂井は謎の言葉を聞く。
     《ウガ・・・クトゥ・・・・フ・・・》

坂井   ひぃwww

     しかし、その口は、坂井の眼前で消え失せてしまった。
     菊池だったものは、最期に言葉を搾り出した。

菊池   もっと・・・食べたい・・・・・・

鈴花   菊池・・・さん・・・?
坂井   消え・・・た?

操    私の飯がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
     まだ食べてないのにいいいいいぃぃぃぃぃぃ

     目の前の異常事態に操の思考が付いてこなかった。
     菊池が消えた事実を認めたくないかのように、料理がなくなった事を叫び続けた。
     その叫び声を聞いた店員が、個室を覗いた。

店員   お客様、何かありましたか?
鈴花   お騒がせしてすいません、もう大丈夫ですので・・・
店員   そうですか、何かありましたらお声おかけください。

     店員が戻っていくと、一同は改めて現状認識に努めた。

坂井   えっと、菊池サンどこ行った?
操    私の料理・・・
坂井   いや、それはオレに言われてもwww
鈴花   取り敢えず、電話してみましょう。

     鈴花が菊池のケータイに電話をかける。
     すると、部屋の中にコール音が響く。
     そこには菊池の鞄があり、その中から鳴っていた。
     改めて自宅に電話しても勿論出ない。

操    鈴花さん、菊池さんの名刺持ってるなら住所とか分かります?
坂井   ってか、そのケータイに何か手がかりとかないかな?
     食事の前に相談されてたじゃん。
     消えた原因が分かるかも・・・
鈴花   そうですね。

     3人はケータイを確認した。
     しかし、特に目ぼしい情報は得られなかった。

鈴花   ほかにメモ帳とか・・・

     鞄を探ると、菊池の取材手帳のようなものが出てきた。
     その手帳には、先ほど相談を受けた「摂食障害」に関する取材の内容が書かれていた。
      
鈴花   この荷物には、そこまでの情報はないみたいですね・・・
     名刺の方には自宅住所が書かれているので、そちらに向かってみましょうか?
坂井   まあ、ここでこのまま解散って訳にもいかないよな・・・
操    取り敢えず、行ってみる?

     3人は菊池の自宅に向かうことになった。
     鈴花は、菊池の鞄を持ち、支払いはこっそり菊池の財布で済ませた。
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**菊池の足取り
     中華料理店より1時間ほど、菊池陽介の自宅。
     菊池の鞄の中には自宅の鍵もあったため、そのまま自宅に入っていった。
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     部屋は小奇麗に片付いていた。
     見渡すと、ノートパソコンが置かれていた仕事机、資料の並んだ本棚、原稿らしきものの捨てられたゴミ箱などがある。
     坂井は、おもむろにノートパソコンを開いた。

坂井   仕事といえばパソコンだろ・・・
      ・・・・・・・・・・・・・・・

     坂井は延々とパソコンと格闘するが、全く何も見つけることが出来なかった。
     鈴花は、本棚を調べていた。
     本棚には、摂食障害に関する書籍、摂食障害患者の日記やブログなどをプリントアウトしたものがある。
     そして柴崎佳苗というカウンセラーの記事をまとめた資料があった。
     雑誌のスクラップとして『美人カウンセラーのカンタン食事節制』というものがあった。
     特に難しい事をせずに、お茶を飲んで会話するだけで過食症が治るというのだ。
     柴崎氏いわく、精神状態の安定を促すことが食事節制の第一歩とのこと。
     また、摂食障害カウンセリングに関して、菊池が取材・調査したのは主に3人だと分かった。
     摂食障害専門のカウンセラー・柴崎佳苗。
     製薬会社の社員・平木大悟。
     市内の高校に通う学生で、過食症に悩んでおり、柴崎のカウンセリングを受けた患者・浅沼ひより。
     一方、部屋の隅では、操がゴミ箱の中を見ていた。
     そこには最近の菊池の原稿が捨てられていた。
     摂食障害や薬物に関して書かれているみたいだ。
     その中に、妙に丸められた紙があることに気づく。
     操はその丸められた紙を取り出した。

操    藤田さん、こんなの見つけました。
鈴花   何ですかね、見てみましょう。

     2人が紙を広げると、そこにはスケッチが描かれていた。
     コウモリとヒキガエルを合わせた異様な生物の姿は、有り得ない生物にも関わらず現実味が強かった。
     坂井は相変わらず、ノートパソコンと格闘していた。

鈴花   坂井くん、なにか見つかりました?
坂井   う~ん、全然見つからないっす・・・
     センパイも見てくれます?
鈴花   そうですね、私も見てみましょう。
操    私も見せて~

     2人の間に入って操がノートパソコンを乱暴に扱った。
     次の瞬間、モニターがフリーズしたと思うと、ブラックアウトした。

操    えwwwww
坂井   ちょwwww
鈴花   ・・・取り敢えず、再起動してみましょうか・・・
操    こここ壊れたりしししてないよね。
鈴花   操ちゃん、もういいですから、そこで静かにしてて下さいね。
坂井   イジってパソコンがフリーズするって、中々ないからなww

     3人がノートパソコンの扱いにあたふたしていると、その脇に取材メモがあることに気がついた。
     それは手書きのメモで、柴崎、平木、浅沼に関することが書かれていた。
     どうやら、菊池は柴崎のカウンセリングは不法な薬物ではないかと調べていたようだ。
     3人の考えがまとまらないままでいると、突然、部屋の扉が開いた。
     とっさに操は隠れようとしたが、逆にゴミ箱に足をぶつけてしまい、中身をぶちまけてしまった。

坂井   おぉいwww!!

     現れたのは20代前半の女性だった。

鈴花   貴女は・・・
操    ドナタデスカ・・・?
鈴花   菊池・・・愛美さん。

     入ってきた女性は菊池陽介の妹でもある菊池愛美だった。
     鈴花は菊池愛美とも面識はあった。
     しかし、予期せぬ侵入者に菊池愛美は警戒した。

愛美   え・・・!?
     貴方たち・・・一体なんなんですか?
坂井   えっと、一緒に食事してたら、なんか急に菊池サンが消えムグゥッ!!

     すかさず不用意な坂井の口を塞ぐ鈴花。

鈴花   (坂井くんは少し黙ってて!!)
     実は今日、一緒にお食事をしていたんですけど、急に席を立ってしまって・・・
     相談事もあったみたいだったんで、心配になって来たんです。

     元々顔見知りの鈴花の説得で、愛美は不信感を拭いきれないにしろ、話を信じようとした。

愛美   でも、法律事務所の藤田さんが言うなら・・・
     兄がいなくなったって言うのは、明日の事の準備とかでしょうか?
鈴花   明日のこと・・・ですか?
愛美   そうなんです。
     明日、私の後輩の浅沼ひよりって子が、治療を受けたっていうカウンセリングについて兄が取材する予定なんですよ。
     そのことで何か出払ってるんでしょうかね・・・
     もしかして、藤田さんたちも、それに関連してるんですか?
鈴花   えーっと、まだそこまではですね・・・
     因みに、菊池さんは摂食障害で何か悩んでたって心当たりあります?
愛美   なんだか最近、よくモノを食べてしまうみたいでした。
鈴花   後輩の浅沼さんには、どういった取材の予定だったか分かりませんか?
愛美   ひよりは、私の後輩だったので紹介したんですが。
     カウンセリングの内容を教えてくれたみたいですよ。
鈴花   どんな内容だったんですか?
愛美   普通のお茶会みたいなもので、普通におしゃべりするだけで気持ちが和らぐみたいですよ。
     なんなら本人に直接聞いてみたらどうですか?
     過食症とかで悩んでいる人がいたらオススメしたいって言ってましたしね。

     そこで、操が鈴花に耳打ちをする。

操    鈴花さん、やっぱり浅沼さんに会ってみた方が良いんじゃないですか?
鈴花   そうね・・・
     もし都合が付けば、私たちも浅沼さんって方にお話を聞いてみたいんですけれども・・・
愛美   良いですよ~

     そう言うと愛美はケータイでメールを打った。
     すぐに返信が来る。
     浅沼ひよりからで、元々、菊池陽介の取材を受ける予定だったので別に一緒で構わないとの内容だった。

鈴花   取り敢えず、これは菊池さんの荷物ですので持ってきたんですよ。
     置いて帰りますね。
坂井   あー、鍵は開いてましたよ。
鈴花   !!!??
愛美   そーですか・・・
     まったく、兄さんは無用心ね・・・
鈴花   (そんな馬鹿なww)

     菊池陽介は来ないかもしれないけれども、と付け加えつつ、翌日の昼に駅近くの喫茶店で菊池愛美を交えつつ、浅沼ひよりと会うこととなった。

鈴花   では、私たちはこれで失礼します。
愛美   じゃあ、また明日ですね。
操    お邪魔しました~
坂井   どーも。

     3人は菊池のアパートから出た。
     ひとまず戻ろうとした中で、鈴花だけは再び踵を返した。

坂井   え!?
鈴花   パソコン!!
     何も分からなかったでしょ?
     絶対、手がかりがあるハズ!!

     再び菊池のアパートに戻ってきた。
     もう、菊池愛美も帰ったようだ。
     もちろん、鍵は返したし、きちんと施錠されている。
     しかし、鈴花は全然困った様子は見せていない。
     おもむろに眼鏡を外すとフレームのネジを回し始めた。
     すると、針金のような物が分離する。
     いわゆるピッキングツールだ。
     それを使って、鈴花は鍵を差し込んだかの如く開錠してしまう。

鈴花   さあ、入りましょうか。
坂井   !?
操    !?

     鮮やか過ぎて言葉を失う2人。
     気を持ち直した操がノートパソコンを持ち出し、鈴花が元通りに施錠した。
     時刻は夕方過ぎ。
     3人は一人暮らしの鈴花のマンションに向かうことにした。

坂井   センパイ、作ってくれないんすか、手料理www
操    センパイの得意料理はなんですかぁ~?
鈴花   あのね、そんな事態じゃないでしょ・・・
坂井   だって、ご飯食い損ねてたんだもん。
操    そーだよ!!
鈴花   コンビニで買って帰りましょう。
坂井   センパーイ。
操    センパーイ。
鈴花   余裕ね・・・

     結局、食材を買って鈴花が料理を作ることに。
     その間に坂井と操は改めてノートパソコンを調べた。

坂井   ん、見つかった!!
操    ホントだ!!

     ノートパソコンの中にあった情報は、菊池の部屋で調べたものが大半だった。
     しかしその中に、ネットの交流サイトを発見した。
     柴崎の患者による交流サイトで、患者の経験談や柴崎への賞賛の声などが書き込まれていた。
     そのサイトには、ある文言が頻繁に書き込まれていた。
     《ウガァ・クトゥン・ユフ》
     坂井は、この言葉に不安感を掻き立てられる。
     と、不意に声をかけられる。

鈴花   カレーできましたよー

     2人は現実に引き戻される。
     ほどなくして、3人はカレーを食べながら、話を戻した。

鈴花   何か見つかりました?
操    患者さんの交流サイトを見つけたんですよー
     しかも、「ウガァ・クトゥン・ユフ」?って言葉が、挨拶みたいに頻繁に出てくるんですよー
坂井   その言葉って、菊池サンが消えた時に、聞こえたのと同じ言葉の気がするんすよね・・・
鈴花   取り敢えずYahooで検索してみましょうか・・・

     鈴花がスマホを取り出して検索する。
     すると、ある秘密結社の祈祷文がヒットした。
     しかし、マイナーなものなので、それ以上は分からなかった。

坂井   え、オカルト関連なんすか?
鈴花   詳しくは分かりませんが、この言葉を使っている限りだと、柴崎佳苗とその患者は秘密結社に関係あるのでしょうかね・・・?

     改めて交流サイトを見てみるが、その文言以外に怪しさは感じられない。
     オープンな感じで、オフ会も頻繁に開かれているみたいだった。
     幸運なことに、明日もオフ会が開かれるようだ。
     浅沼ひよりと会った後でも充分間に合う時間だった。

鈴花   参加者に“ひよりん”とかいないよね~

     と、オフ会の詳細を調べる。
     場所は、市内のファミレス。
     参加者は、サイトの管理人の絵都さん、アッキーさん、輪廻さん、ぴよ☆りんさん。

一同   wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
鈴花   えぇッwww!!?
     これってもしかして・・・
操    坂井、これってフラグが立ったと思わないか?
坂井   おおぅwww
鈴花   もしかして・・・ぴよ☆りん・・・
     どう思います?
     これって、浅沼さん・・・ですよねwwww
坂井   う~ん。
操    まぁ~
鈴花   ぴ・・・ぴよwwwww
操    浅沼さんだと思いま~す。
鈴花   逆に・・・ですけど・・・・・・
     明日、浅沼さんに集会があるなら参加してみたいですって話で持っていった方が良くないですか?
坂井   3人で聞くよりも、1人で中に入っていった方がいいかも。
     参加者全員女の人だよね。
     その中に男子が1人入っていく訳にはいかねーからww
     近くの席に座って話を聞くとかさ。
鈴花   うーん、私が行くべきですかね・・・
     ただ、午前中に浅沼さんと会ってたら、隣の席にいてもバレますよね・・・
操    あぁ~
鈴花   やるなら盗聴器的なモノが必要ではないかと・・・
坂井   ナルホドな。
     じゃあ、2人がオフ会に参加して、オレはどこかで盗聴器を聞くとかかな。
鈴花   午前中に3人いて、その後2人になるのも不自然な気がしますけどね・・・
     1人だったら、話を聞きにきました的な感じになりませんかね。
操    じゃあ、私たちは・・・
坂井   ケータイ持って、いつでも動けるように外で待機かな。
操     鈴花さん、ファイト!!

     結局、オフ会への参加表明はせずに、翌日、浅沼ひよりに直接交渉することに決まった。

坂井   そーいや、センパイの家に泊まってっていいの?
操    お邪魔なら帰りますけど?
鈴花   まあ、泊まっていっても大丈夫よ。

     翌日の合流を考えて、3人は鈴花の部屋に泊まることにした。
**深夜の狂気
     その日の夜。
     坂井は鈴花の部屋の洗面台の前に立っていた。
     少々の気持ち悪さと共に眩暈に襲われていた。
     眩暈はすぐに治まったが、目の前の鏡に映る自分の姿に、坂井は目を疑った。
     そこには爪を齧り、呆然としている自分がいた。
     慌てて口を止めるが、口の中には噛み千切った爪の破片が不快感と共に下の上でざらざらと踊っている。
     口内の異物を吐き出すと、何度も水で口を濯いだ。

坂井   (なんだコレ・・・!?)

     坂井の脳裏にひとつの言葉が浮かぶ。

坂井   (た べ た い ・ ・ ・)
     (肉が・・・ヒトの肉が、食べたい・・・・)

     正常な思考は麻痺し、異常な食欲に支配される。
     ふと、坂井は隣の部屋に人間が居るコトを思い出した。
     一歩、また一歩とゆっくりと歩き出す。
     その足音に操が目を覚ます。

操    う~ん・・・坂井・・・?
坂井   操・・・食べたい・・・

     操の寝込みを襲い、噛み付こうとする坂井。
     しかし、バランスを崩して脇に倒れこんでしまう。

操    坂井!?
     どーしたの、寝ボケてんの!?
坂井   ガルルルルルル

     坂井の目は焦点が合っておらず、歯はむき出しになっている。
     その物音に、鈴花も目を覚ます。

鈴花   え!?
     一体なにが?
操    ベランダの外に飛び出して逃げます?
鈴花   無理無理無理無理wwww
操    じゃあ、こうなったら、坂井ごめーん!!

     操は襲い掛かる坂井に向かってパンチを繰り出す。
     しかし、坂井は痛みを感じていないように見える。

鈴花   坂井くん、しっかりしなさい!!

     鈴花の静止を振りほどき、坂井は操に組み付く。

鈴花   し・っ・か・り・しなさーーーーーい!!!!

     鈴花の渾身の拳が坂井のアゴを捉える。
     その一撃は、坂井の身体と意識を吹き飛ばした。
     最終的に坂井は女子2人にタコ殴りにあって沈んだ。
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鈴花   取り敢えず、意識が戻ってもそのままだと怖いので縛り上げときますか・・・

     坂井は簀巻きにされて、風呂場に転がされることとなった。


     翌朝・・・
     鈴花と操は布団の中で気持ちよく目を覚ます。
     坂井はボロボロのまま簀巻きの状態で浴槽の中で目を覚ます。

操    おはよーございますー
鈴花   おはようございます。

     風呂場から声が聞こえる。

坂井   痛いんだけどーーー
     ナニこれー!?動けねーーー!!
操    あ、起きたみたい・・・

     鈴花と操は風呂場に様子を見に行く。

鈴花   目は覚めましたかー?
坂井   覚めたヨーーー!!
操    坂井、昨日の夜のこと覚えてる?
坂井   いや、なに?なにー!?
鈴花   2人に何か言うことは?
坂井   ・・・・・・
     オハヨー
操    何も覚えてないみたい。
鈴花   じゃあ、このまま閉じ込めておきましょう・・・
坂井   ちょっとコレ解いてくれよー!!

     鈴花と操は朝食を食べ始める。

坂井   何で何で?
     何でボロボロになってここにいんのー?
     開放してよー!!

     しばらくして、坂井の意識が正常なことを確認して風呂場から開放される。
     さらに鈴花は、昨夜の坂井の蛮行を包み隠さず坂井に話した。

鈴花   ・・・という訳で、一切の躊躇なくボコボコにしました。
坂井   あわわわわ
     そんなコトがあったなんて、すいませんでしたーーーー
鈴花   本当に覚えてないんですか?
坂井   夕べ、洗面所で自分のツメ噛んでたのは覚えてるけど、それから、お腹空いて・・・
鈴花   それって、菊池さんと同じような感じじゃないですか・・・?
操    口だけになっちゃうの?
坂井   念のため、自分でもいつ暴れるか分からなくて怖いから手でも縛る?
鈴花   もしもの時は2人で全力で止めますから。
**信奉者たち
     朝食を済ませた3人は菊池愛美と浅沼ひよりに2人と合流して、喫茶店に入った。
|CENTER:&image(カフェ01.jpg,,x330,,)|
鈴花   おはようございます。
坂井   どーも。
操    おはよーございます。
愛美   どうも、おはようございます。
ひより  ウガァ・クトゥン・ユフ・・・
     おはようございます。
     どうも、はじめまして。
鈴花   菊池さんは、やはり今日来られないみたいですね・・・
ひより  そーなんですか。
鈴花   こう言ってはなんなんですが・・・

     鈴花は坂井を指さす。

鈴花   最近、彼が変なんです。
     そこで、ウワサに聞いた柴崎先生の話とかも聞けたらいいなって思って。
ひより  そうなんですか!!
     実は私もチョット前まで過食症で悩んでたんですけれども、柴崎先生のカウンセリングを受けてからウソのように良くなってるんですよ。
     良かったら、貴方もどうですか?
     男の人の過食症も珍しいですけどね。
鈴花   彼、こう見えても女の子なんですよ~
坂井   ファッッッwwww!!!
鈴花   ってのは冗談で、具体的にどんなコトをするんですか?
ひより  柴崎先生のカウンセリングを受けると、本当にウソのように食欲を感じなくなるんですよ。
     例えるなら、誰かが代わりに食事をしてくれているような・・・
     でも、効果は3週間くらいしか続かなくて、またお腹が空いてくるんですよ。
鈴花   今でもカウンセリングは受けているんですか?
ひより  はい、ひと月に1回くらいのペースで。

     浅沼ひよりの話を聞く限りでは、本当におしゃべりをしているだけのようだ。
     薬物を使う治療なども表向き行なわれていない。

鈴花   お茶会って聞きましたけど、お茶とか飲むんですか?
ひより  先生が淹れてくれるお茶を普通に飲みます。
     お茶菓子も先生が用意してくれたり、患者さんが持ってきた物を頂いたりしていますね。
鈴花   不安なので、ほかにも似たような患者さんがいれば、参考にお話を聞きたいんですけどね~
ひより  そうなんですか?
     実は、今日このあと柴崎先生の患者さんたちとオフ会があるんですよ。
鈴花   (あぁ~、やっぱりwww)
ひより  良かったら、そっちにも参加されますか?
鈴花   そうなんですか~
     あ、でも彼、人見知りで初対面の人が大勢いる場だと発狂(?)してしまうので、代わりに私が話を聞きたいのですが、だいじょうぶですかね?
ひより  全然、参加してみてもらっても大丈夫ですよ~

     菊池愛美は話の内容もよく聞かずお茶を飲んでいる。
     鈴花は愛美に目線を移して、ひよりに話した。

鈴花   菊池さんとは、どんな関係なんですか?
ひより  菊池先輩は高校の部活の先輩なんです。
鈴花   そのご縁で、菊池陽介さんの取材を受けたんですか?
ひより  そうです。
     先輩に柴崎先生のカウンセリングを受けたって話をしてたんですが、お兄さんが取材したいって言ってきたんです。
     記者さんなんで、柴崎先生の記事を書いてもらえると思ったんです。
鈴花   どんなことを取材されたんですか?
ひより  さっきも言いましたけど、カウンセリングの内容です。
鈴花   菊池陽介さんは、その時どんな反応をされてたんですか?
ひより  先生を疑っていたみたいです。
     でも、実際に受けてないから仕方ないですよね。
     私も半信半疑でしたから・・・

     こうして、鈴花は浅沼ひよりとオフ会に参加することになった。
     坂井と操はここで一旦、別行動となる。

     市内のファミレス。
     “ぴよ☆りん”こと浅沼ひよりが事情を説明して紹介してくれた。
     テーブルの奥からサイトの管理人である絵都さん、アッキーさん、輪廻さん。
     見た感じ、全員20代から30代の女性だ。

鈴花   はじめまして、今日は突然押しかけてしまってすいません。
     実は友達で過食症の人がいて、柴崎先生に興味があってお話を伺いたいんです。
     名前は・・・HNですよね。
     えーと、鈴子で・・・ 
絵都   そうなんですか。どうぞどうぞ。

     促されて席に着く鈴花。
     テーブルの下では外で待つ坂井のケータイと通話状態にしている。

絵都   では、みなさん集まったようなので始めましょうか。

     絵都がそう言うと、全員があの言葉を唱え始めた。

参加者  ウガァ・クトゥン・ユフ、ウガァ・クトゥン・ユフ、ウガァ・クトゥン・ユフ。
鈴花   !?
     ・・・みなさん、先生のカウンセリングを受けてらっしゃるんですか?
絵都   ええ、そうですよ。
アッキー 先生のカウンセリングは素晴らしいですよ。
ひより  効果抜群ですもんね。
輪廻   ホント悩みが解消されましたよ。
鈴花   えーと、交流サイトとかでも書かれていたみたいなんですが、みなさんが始めに唱えていた呪文みたいなのって何なんですか?
絵都   アレは、“おまじない”みたいなものなんですよ~
輪廻   言うと落ち着くんですよ。
アッキー はじめは変な言葉って思ったんですけど、フランス語?らしいですよ。
鈴花   へぇ~、そうなんですね。

     鈴花は参加者たちの機嫌を害しないように相槌を打って話を合わせる。
     その後も、柴崎を賛美するような会話がなされていた。

鈴花   じゃあ今度、友達もオススメしようかしら・・・
絵都   それなら、柴崎先生に紹介しましょうか?
鈴花   ・・・・・・・
     すごくありがたいです。
     でもその友達がすごく人見知りなんですよ。
     お気持ちは大変ありがたいですありがとうございます!!!
絵都   そ、そうですか・・・

     女子会のようなオフ会は進むが、鈴花はおかしな事に気づく。
     テーブルの料理が多めなのだ。
     過食症が治ったと言っているのにも関わらず食事の量は多いままのようだ。
     よくよく見ると、みんな肌のツヤなどが良くない。

     一方のファミレスの駐車場。
     坂井は不意に眩暈を感じる。
     しかし、坂井は自我を保ちつつ空腹感に苛まれただけだった。

     鈴花も話をしつつ、お手洗いに行ってきますと席を立つ。
     トイレに入ると、通話中だったケータイで坂井に呼びかける。

鈴花   坂井くん、聞こえます?
     どうでしょうかね?
坂井   う~ん・・・
     あの人たちもどこまで本心なのか、ですよね・・・
     リラックスさせるためにお香とかないですか?
     薬を混ぜて催眠状態にしてるとか?
鈴花   確かに、口にする物ばかり気にしてましたね・・・

     大した時間をかけずに席に戻ってきた鈴花を誰も疑う様子はなく、雑談していた。
     そこで鈴花が切り出す。

鈴花   因みにですけど、カウンセリングでお香とかって焚かれます?
     友達は以前アロマのお香とかに拒否反応が出ちゃったみたいなんですよね~
ひより  先生もアロマやったりしてるんで、アロマオイルとかお香を焚いたりもしますよ。
鈴花   そうなんですね。
アッキー 苦手な人もいますもんね。
鈴花   今日はありがとうございました。
     色々参考にさせていただきます。

     こうしてオフ会は、何事もなく終了し解散した。
     鈴花は、参加者が去るのを確認してから駐車場で待っている2人の元に行った。

坂井   お疲れ様でしたー
操    ありがとうございました。
坂井   お香は、常には焚いてないのか・・・
     でも洗脳的なコトはありそうなんだけどな・・・
操    本当に、実際は治ってるのか?ってトコだよね。
     治ってなさそうに見えたんだけど・・・
鈴花   確かに肌荒れもひどかったし、料理の注文も多かったですしね。
     もしかして、操ちゃんって過食症なのかな・・・って。
坂井   そこ!?
操    私ですか!?
     私・・・過食症・・・!?
     でも気にしないー!!
鈴花   ともかく、お香とか食べ物とかが怪しいですけどね。
坂井   じゃあ、オレが柴崎さんに会うしかないのかな?
鈴花   極めて胡散臭いですけど、そうするしかなさそうですね・・・
坂井   菊池サンの事も聞いてみる?
操    何て言えば・・・
坂井   菊池が・・・消えたんです・・・?
鈴花   菊池の口が消えたんです?
操    キクチの“クチ”が消えたので、“キ”だけになりましたwww
鈴花   なぞなぞ!?
坂井   よし、オレが行くよ。
鈴花   私も話を色々聞いた手前、保護者的な立場で同席しますね。
操    私はどーしよう・・・
鈴花   クリニックの向かいにラーメン二郎があるらしいですよww
操    何だってwww!?
鈴花   サーカス団員なんですから、外壁を登って窓から侵入とかwww?
操    犯罪者じゃないですかwwwww
鈴花   3人で押し入って組み伏せてる間に物色するとかwww
坂井   強盗ですねwwwww

     鈴花が柴崎メンタルクリニックに電話をする。
     数回のコールの後に通話状態になる。

電話口  はい、柴崎メンタルクリニックです。
鈴花   すいません、紹介を受けてそちらで診療を受けたいのですが・・・
電話口  でしたら、本日は予約もないのでいついらして頂いても大丈夫ですよ。
鈴花   じゃあ、1時間後くらいでいいですか?
電話口  はい、こちらも準備してお待ちしてます。
     えーと、お名前を伺っても宜しいですか?
鈴花   付き添いで2人ほど一緒ですが・・・
     坂・・・坂口涼一でお願いします。

     電話で診療の予約をすると3人は柴崎メンタルクリニックに向かった。
**危機との接触
     柴崎メンタルクリニックは住宅地の中にあるマンションの一室だった。
     マンションの入り口はオートロックになっている。
     予約したときに教えてもらった部屋番号を入力する。
|CENTER:&image(マンション01.jpg,,x330,,)|
柴崎   はい、柴崎です。
     ご予約の方ですか?
鈴花   はい、坂口です。
柴崎   どうぞ。

     そうするとマンションのドアが開く。
     3人は柴崎の部屋に向かう。
     出迎えてくれたのは美しい女性だった。
     彼女は柴崎佳苗と自己紹介をした。
     通された部屋は、女性らしい洒落た調度品や食器のある、雰囲気の良いアイランド型のキッチンダイニングだ。
     中央には4人が囲めるほどのキッチンテーブルがあり、綺麗に片付いており、食器棚には女性の好みそうな食器が並んでいる。
     そして、キッチンカウンターの上には紫色のビロードに覆われた物が置いてあった。

柴崎   あらためて、柴崎です。
鈴花   本日お世話になります坂口涼一です。
坂井   坂口です。
柴崎   そちら、お二方は?
鈴花   ・・・藤崎鈴子といいます。
操    もしかしたら、私も過食の疑いがある佐々木操と申しまーす。
柴崎   みなさんテーブルに着いて待っててください。
     今、お茶の準備しますね~

     そう言って、柴崎は紅茶の準備をして。
     お茶とケーキを出してくれる。
     そして、症状について尋ねる。

坂井   ここ3日くらいかな。
     気がついたら爪を齧って食べていたり、あんまり記憶とかもはっきりしないんすよ・・・
柴崎   じゃあ、自分でも自覚がない感じですね。
坂井   いつの間にか食べようとしてるっていう。
柴崎   あ、そ、そうなん・・・ですか?
鈴花   これ、過食っていうよりも、別のお医者さんですかねえ・・・
柴崎   普通に考えると、過食症だけじゃない気もしますけどね・・・
鈴花   そうですよね~
柴崎   しかし、過食症・拒食症に関わらず、精神疾患というものは抑圧された感情が暴走した結果ということも、よくありますからね・・・
鈴花   そうですよね。
     この子も家庭環境が複雑みたいで・・・
坂井   !?
操    www!?

     柴崎は、ほかにも普段の食生活や悩み事などを聞いた。
     雑談のような会話で時が過ぎていく。
     そして・・・

柴崎   まずは気持ちを落ち着かせる事が大事ですよ。
     そうだ。
     これは、おまじないの言葉なんだけど、「ウガァ・クトゥン・ユフ」っていう中世ヨーロッパの魔女の呪文なの。
坂井   (魔術きたか!?)
柴崎   ホントにただの“おまじない”ですよ。

     鈴花と坂井は、柴崎の言葉に胡散臭さを感じる。

柴崎   何も考えずに言ってみてもスッキリしますよ。

     なおも勧める柴崎に口ごもる3人。

坂井   魔女の呪文ってのが、ちょと・・・
     一体、どんなものなんですか?
柴崎   ああ、魔女の呪文って言っても、薬草を使ったりした美容の秘薬を作っていた人たちが使っていたおまじないらしいんですよ。
坂井   どこで、その呪文を知ったんですか?
柴崎   信じられないかもしれませんが、夢の中で聞いた言葉なんですよ。
     その言葉を調べてみたら、中世の魔女の美容の呪文だって分かったんですよ。
坂井   その中世の人たちは、ほかに呪いとかもやってたんですか?
柴崎   う~ん、私はその言葉を拝借しているだけなので何とも・・・
     昔は何でも魔女として火あぶりとかにされたりしてましたからね。

     柴崎との話をしていると、坂井の意識は朦朧となってきた。
     柴崎は、会話の中にも「ウガァ・クトゥン・ユフ」という言葉を織り交ぜていた。
     段々、坂井の目は虚ろになっていく。
     そして徐々に意識が遠のいていく。
     坂井は、沸き上がってくる空腹感に耐えられなくなってくる。

     だんだん・・・おなかが すいてくる・・・・・・

     だんだん・・・ちが みたくなってくる・・・


     不意に、坂井は手元にあったフォークで隣に座っていた操を襲った。
     突然のことだったが、操は軽い身のこなしでフォークを避けた。
     坂井はバランスを崩し、椅子から崩れ落ちた。
     その際に、自分の腕を切ってしまう。
     坂井の腕から流れた血は、明らかに不自然な飛び散り方をした。
     重力、物理法則を無視して紫のビロードに吸い込まれていった。
     鈴花と操は、その紫のビロードを見た。

操    あの中には何が!?

     なおも襲い掛かろうとする坂井に対して鈴花が組み伏せようとする。
     それを見た柴崎は「ウガァ・クトゥン・ユフ」と呪文を唱え続ける。
     すると、坂井の身体に異変が起きる。
     ガクンと動きが止まり、黒い謎の液体のようなものが口の中から大量に出てきた。
     ゴポゴポゴポ。

坂井   う、うええぇぇぇ
鈴花   ひいぃぃぃwww
操    きゃーーー

     その腐った沼のような悪臭を放つトロリとした液体は、黒曜石のような光沢を持っていた。
     床に流れ落ちた液体はひとつの塊となり、下腹部には何本もの足を生やし、蛇のように鎌首をもたげた。
     のっぺりとした黒い塊のてっぺんには、木の杭のような歯を生やした巨大な口が開き、体のあちこちにはギラリとした光を発する目が見開かれていた。
     バケモノは部屋のテーブルを、クッキーでも齧るかのようにバリバリと噛み砕いた。
     その隙に操が紫のビロードに包まれた物を抱え上げて窓の外に放り投げた。
     綺麗な弧を描いたそれは、地面に叩きつけられてガシャーンという音を響かせて割れた。
     しかし、その音を聞いた途端に、急に意識が暗闇に落ちていってしまった・・・


     意識が戻り、視界が戻ったのは、白い骨が敷き詰められた空間だった。
     そして、どこからともなく、例の祈祷文が聞こえている。
     そこには、その祈りに包まれながら惰眠と人肉を貪る怪物がいた。
     邪悪さを放つ怪物は、見ているだけで魂が砕けるような恐怖を感じる。
     物憂げにこちらを見ているが、その気になれば自分たちなど簡単に滅ぼせるだろう。
     そんな恐怖に苛まれた。
|CENTER:&image(ツァトゥグア01.jpg,,x330,,)|
     恐ろしい怪物を目にして、身体が動かず、声も出ない。
     そんなこちらを物憂げに見ていた怪物は、ふと手元のものをつまみあげた。
     それは、裸体の女性だった。
     よく見ると、それは柴崎佳苗だった・・・
     ゆっくりと怪物の口に落ちていく柴崎。
     抵抗することもなく、美しかったその身体は、怪物の鋭い歯に引き裂かれた・・・
     気だるそうに咀嚼する怪物。
     そうしてゆっくりと、口の中のものを飲み込むと、こちらを見た。
     そして、柴崎を掴んだその手をこちらに伸ばしてきた。
     その手は、佐々木操を掴みあげた。
     瞬間、操は今まで感じたことのないような激痛と悪寒に襲われる。
     嫌悪感が全身を駆け巡る。
     すると、脳の中に何かが入り込んでくるような感覚を覚えた。

操    ・・・・!!!

     苦痛に耐えていると、ふいにヒキガエルのような女の悲鳴が響き渡った。
     そうして全員の意識は再び暗転した・・・


     その悲鳴は柴崎の悲鳴だった。
     3人は、元の柴崎の部屋に倒れていた。
     しかし、黒い液体のバケモノもそこに留まっていた。
     少しすると、うずくまっていた柴崎が、ぶつぶつと何かを呟き始めた。

柴崎   あ・・がぁぁ・・・・ぅぐううぅぅ・・・

     言葉にならないような唸り声を上げ続ける柴崎。
     よく見ると、その身体はやせ細り、骨と皮だけになり、拒食症患者のように見えた。
     ひどく痩せ細ってしまった柴崎、また、先ほどから苦しんでいる操。
     この様子を見るに、あの空間で起こった事が2人に影響を及ぼしているのは明らかだった。
     不意に、唸り続けていた柴崎の声が止まった。
     そして、ゆっくりと立ち上がった。

柴崎   ・・・ど・・・・して・・・

     そう呟くと、柴崎は突然、襲い掛かってきた。

柴崎   どうして!?
     どうして、食べてくれないの!!?
     あ、ああぁぁ・・・ウガァ・クトゥン・ユフ、うがぁ・くとぅん・ゆふ

     柴崎は、もはや正気ではないのか、祈祷文を唱えてバケモノを見ている。
     柴崎の祈りに反応するかのように、バケモノは柴崎めがけて襲い掛かった。
     そして、その巨体を柴崎の口の中にねじ込み始めた。
     入り込む容量に耐え切れず、柴崎のアゴががくりと外れる。
     しかし、勢いを失することなくバケモノは柴崎の体内に侵入していく。
     一分と経たずに、巨大なバケモノは全て柴崎の体内に収まってしまった。
     柴崎の腹は、餓鬼のように大きく膨らんでいる。
     みんなが見つめる中、柴崎はモゴモゴと口を動かす。
     そして、そのまま満たされたような表情で後ろに倒れた。
     すると先ほどまで膨らんでいた柴崎の腹は、嘘のように萎んでいた。
     そう、不自然なまでに・・・
     柴崎は、ぴくりとも動かなくなった。
     どうやら死んでしまったようだ・・・
     そして、部屋には静寂が訪れた・・・


     後に、摂食障害のカウンセラーが過度なダイエットによる餓死という記事が小さく報道された。

     因みに、柴崎の部屋から日記が押収された。
     以前の彼女は、重度の摂食障害で、過食嘔吐(物を猛烈に食べては嘔吐を繰り返す症状)に悩まされていた。
     ある時、骨董屋でホコリをかぶっていた像と巡り合う。
     妙に心引かれて購入したものの、その像を近くに置くと、食欲が嘘のようになくなった。
     そして、夜な夜な奇妙な夢を見た。
     コウモリのようなヒキガエルのような生き物が、柴崎の食欲を食べてくれるというものだ。
     さらに、その生き物は、そういう人々を連れてくるように柴崎に求めた。
     柴崎は、何かの啓示だと思い、摂食障害のカウンセリングを開業した。
     異常な効果を上げる柴崎の治療を、不審に思う人物が現れた。
     それが、菊池陽介だった。
     菊池は、麻薬などの薬物による不法な治療を疑った。
     何とかしたいと思っていたが、夢の生き物が使いを出してくれた。
     それが、黒い液体のバケモノだった。
     黒い液体のバケモノに取り憑かれた菊池は内側から喰われてしまった。

     そんな事が書かれていた。
     もちろん、警察は、そんな荒唐無稽な話は信じなかった・・・

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