ある日の比呂美9

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ある日の比呂美9 - (2008/06/08 (日) 01:09:20) のソース

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(危ないところだった) 
比呂美が行為を中断してくれなかったら…… その先を考えるとゾッとする。 
どこまで堪え性が無いんだ、と自分を内心で罵倒しつつ、眞一郎は比呂美を刺激することに意識を集中させた。 
比呂美から見て右側に身体を横臥させ、指の腹で陶磁器のような肌の感触を味わう。 
「……ん……んん……」 
瞼を硬く閉じたまま、右へ左へと顔を動かして身悶える比呂美を観察する。 
鎖骨や腰骨のような『飛び出た部分』に触れると、彼女の身体は強く反応するようだ。 
逆に腰より下、まだショーツに覆われている局部に刺激が近づくと、恥ずかしさからか理性が回復するらしい。 
太腿の前面から内側に手をスライドさせると、比呂美はパチッと眼を開き、自分を見つめてくる。 
怒っているとも懇願しているとも取れる眼差し…… 
眞一郎はそれを、「順番が違うでしょ」という意味だと解釈した。 
右手の位置をゆっくりと上半身に戻し、まだブラに包まれたままの乳房に狙いを定める。 
眞一郎の指は腰からわき腹を通り、浮き出た肋骨を弾きながら下乳に達した。 
乳房を形作るラインを中指でスッとなぞってから、ブラの上に覆い被せるように手の平を置く。 
二日前の失敗を繰り返さないように慎重に加圧していくと、比呂美の喉が「んんっ」という快楽の音を鳴らした。 
(……) 
比呂美の艶かしい反応と、乳房が返してくる反発力、そしてその量感…… 
ゴクリと大きな音を立てて飲み下さねばならないほどの大量の唾液が、舌下からこんこんと湧き出す。 
(……ひ…比呂美……) 
野獣になれたら、どんなに楽だろう…… 刹那、そんなことを考える。 
邪魔な布切れを剥ぎ取り、乱暴に美肉を貪って、突き入れ、そして吐き出す…… 
………… 
(するもんか、そんなこと。絶対にしない!) 
相手の気持ちを無視した交わりに、一体どんな意味があるというのか。 
動物的な欲望を満たしたいのなら、自慰でもすればいい。 
…………比呂美に『したいこと』……『してやりたいこと』は、そんなんじゃない………… 
フーッと大きく息を吐き、邪悪な妄想を振り払ってから、眞一郎は再び右手の触覚に意識を向ける。 
全体を軽く揉み込んでいくと、球体の中心に硬い物が生まれる感触が、ブラの厚い布越しに伝わってきた。 
何だ?と思い、視線を比呂美の目に向けると、彼女はそれを受け止めず、プイと横を向いてしまう。 
(…………あぁ、そうか) 
手の平を押してくるコリッとしたモノの正体に、眞一郎は気がつく。 
そして、『出っ張り』が弱点なら『ここ』はどうなのだ?という疑問が頭の中に浮かんできた。 
ブラの上からなら少し強くしてもいいだろう、と思い立ち、中指の爪でピンッと弾くように刺激を加えてみる。 
「くッッ!」 
電気ショックでも浴びたかのように、比呂美は軽い叫びと共に、首を仰け反らせた。 
左手でシーツをギュッと掴み、眞一郎の身体を抱えるようにしていた右手は、その背中に爪を食い込ませる。 
「…………」 
背面の皮膚にチクリとした痛撃を感じながら、眞一郎は思った。比呂美は感じやすい体質なのではないかと。 
痙攣、とまではいかないまでも、身体全体を小刻みにくねらせている比呂美の痴態。 
その姿が、眞一郎に次なる疑問を呼び起こす。 
…………直接触ったら……どうなる?………… 
思いついたら、もう止められない。……それに…………比呂美の胸を……見たい…… 
………… 
「……比呂美……あの……とっ…て……いいか?」 
顔を半分枕に埋めていた比呂美の瞼が薄っすらと開き、上半身を起こして覗き込む眞一郎に、視線が向けられる。 
「そ、そんなの………」 
恥ずかしいから訊かないで、と言外に眞一郎を非難する比呂美。 
ムードの無いことを口にしたなと反省し、「悪い」と謝罪しながら、したいようにさせてもらう事にする。 
カップとカップの間に止め具がある『フロントホック』のブラジャーを、比呂美は身に着けていた。 
(…………これ……どう外すんだ?……) 
『経験者』である眞一郎だったが、女性の衣服を脱がせたことは一度も無い。 
フロントホック・ブラの扱い方など、知るはずもなかった。 
止め具に手を掛けるものの、見当違いな方向に指を動かし、一向に作業が進まない。 
あれ?おかしいな……と一人ごちて焦る眞一郎に、比呂美は目を合わせないまま囁く。 
「……あの……上下に……」 
比呂美の言葉を聞いた眞一郎は、はぁー、と息を吐いて気持ちを落ち着かせてから、彼女のレクチャーを実行する。 
プラスティックが外れるカチッという音と共に、比呂美の双乳を包んでいた二つの椀が、少しだけ距離を離した。 

比呂美の乳房は標準よりは大きめだったが、ブラのカップを弾くほどではない。 
白い三角形の布は、重力に押されるかたちで、まだ比呂美の胸の上に鎮座している。 
(…………見られちゃうんだ……眞一郎くんに……) 
『止め具を外させる』という行為まで許しておきながら、比呂美の中で羞恥が大胆さを再び押しのけ始めた。 
成長した自分の乳房が、初めて異性の目に触れようとしている…… 
熱く注がれる視線が『仲上眞一郎』の物であるのは、とても喜ばしいことなのだが…… 
(……ッ!) 
ぎこちなく伸ばされる眞一郎の右手よりも早く、比呂美の左腕が乳房を防御するかのように動いた。 
「?!」 
え?なんで?という困惑の表情を浮かべる眞一郎の顔。 
触れてもいいのに、見てはいけないなんて…… ほんの少しだけ寂しげになった目が、そう訴えている。 
「ち、違うの…… その……やっぱり自分で……」 
胸を隠したまま、右肘を支えにして上半身を起こし、眞一郎と向き合う。 
「前でとめるブラって、寝たままだと取れないから……」 
もっともらしい理由を口にし、恥ずかしさを誤魔化す。 
だが、これでもう逃げ道はない。 ……自分で……眞一郎に乳房を晒すしかなくなってしまった。 
チラと視線を眞一郎に戻すと、彼の双眼はただ一点、自分の胸元に注がれている。 
鼻息も荒くなっている眞一郎を、比呂美は「あっち向いて」と小声で叱りつけた。 
「!! あ……ご、ゴメンっ!」 
眞一郎はあたふたと身を翻し、比呂美に背を向ける形で正座する。 
その様子……こちらを見ようとしていないか……を確認してから、比呂美は左腕のガードを外した。 
拘束を解かれたカップが乳房から離れ、柔らかな双乳が、重力に引かれて僅かに落ちる。 
肩紐を外し、その白い輪から両腕を引き抜くと、比呂美は手にしたブラを壁側に投げた。 
小さな布がシーツに触れて立てたパサッという音に、眞一郎の肩がピクリと反応する。 
今度は両方の手の平で乳房を隠すと、比呂美は「……いいよ」と眞一郎に声を掛けた。 
再びこちらに向き直る眞一郎の様子は、とてもぎこちない。 
回遊魚のように目線を泳がせるさまは、深いキスや巧みな指の動きで、自分を翻弄した『男』と同じ人間とは思えない。 
眞一郎の喉から、また唾液を飲み下す大きな音がした。 
(……緊張してる…… 緊張…………してくれている……) 
湯浅比呂美の乳房を初めて目にするという事は、仲上眞一郎にとって、大切な儀式なのだ…… 
そう理解することが、比呂美に勇気を奮い起こさせる燃料になった。 
「眞一郎くん…………見て……」 
恥ずかしさで思わず視線を横に逸らしながらも、比呂美は震える両腕をゆっくりと下ろしていく。 
押さえ付けていた乳房が元の形に戻る感覚と共に、視界の外にいる眞一郎が息を呑む気配が伝わってきた。 
(……変じゃないかな……私の胸……) 
平均よりも、ボリュームはやや大きめ。小ぶりな乳首と乳輪は若干上向いて頂上に鎮座し、色素沈着も薄い。 
美の女神すら嫉妬する完璧な乳房を比呂美は持っていたのだが、本人はそれに気づいてはいなかった。 
いや、神様や世界中の男たちが賛辞を送ったとしても、比呂美にとっては無意味だっただろう。 
……眞一郎が気に入るかどうか…… 比呂美の価値基準は、その一点のみである。 
(…………眞一郎…くん……) 
反応を返してこない眞一郎…… 正直、不安になる…… 
チラと目線を戻し、眞一郎の様子を伺うと、彼はまるで天使にでも出くわした様な顔で一言、呟いた。 
「…………きれいだ……」 
ようやく開かれた眞一郎の口から、漏れ出した感嘆の声。 
驚きとも感動ともつかない……その二つが入り混じった言葉。 
眞一郎が気に入ってくれた…… 眞一郎が褒めてくれた…… その感動が、比呂美の『前へ進む力』となる。 
「……触って…………いいよ……」 
そう言って比呂美は眞一郎に、三度目の接触を許可した。 
許しを得た眞一郎は、またゴクリと生唾を飲み下してから、今度は両腕をゆっくりと伸ばしてくる。 
ブラという壁の無い『直接』の接触…… 更なる快楽を期待して、比呂美の鼓動は高まった。 
そして、眞一郎の両の手の平が柔らかな乳房に軟着陸を果たした瞬間、比呂美は喉を突き出して僅かに仰け反る。 
ピリッとした快美感が胸から発生すると、脊髄を抜けて脳と下腹部に到達し、性感を高揚させていく。 
「……んん……眞一郎…くん…………して……」 
悦楽を制御しようと腹筋を緊張させた比呂美の声は、途切れ途切れになってしまう。 
眞一郎は無言で頷くと、比呂美の求めに応じて、再び指技を施し始めた。 

吸い付くような肌、とうい表現がある。 
比呂美の肌は、まさにそれだなと眞一郎は思った。 
サラッとした皮膚の表面が、どういうわけか自分の手の平にピタリと追随してくる感覚だ。 
「……んん……ふぁ……ふ……はぁ……」 
噛み殺すようにしていた比呂美の声が、徐々にではあるが解放されてきた。 
段階的に激しくなっていく呼吸に合わせて、比呂美は唇を閉じておくことが出来なくなってくる。 
正座を崩さずに、両腕を上体の横に張り付かせ、眞一郎に乳房を突き出す体勢。 
その特異な状況もまた、比呂美の心を昂ぶらせるスパイスになっているようだった。 
「痛かったら…言えよ」 
また二日前の失敗が頭をよぎり、眞一郎は比呂美を気遣った。 
「……うん……大丈夫」 
そう言って微笑みを返してから、比呂美は小さく「気持ちいいよ……」と付け加える。 
比呂美にとっては何気ない……小さな仕草が、眞一郎の胸に杭を打ち込まれたような衝撃をもたらす。 
…………鼓動と……興奮が高まっていく………… 
(……比呂美……もっと良くしてやる…… もっと…もっと気持ち良くしてやるよ……) 
眞一郎は左右から乳房を挟み込んでいた手の平の位置を変え、正面から押し当てる体勢をとる。 
そして指先を軽くめり込ませて全体を掴むと、ゆっくり円を描いて乳房を動かし始めた。 
手の腹は桜色の突起に触れるギリギリの距離を保ち、その表面だけを撫でるように刺激していく。 
「……ふぁ……んん……」 
比呂美の嬌声が新たな刺激に対応して、別の……更に官能的なものへと変化する。 
瞼を見開いたかと思うとすぐに閉じたり、身悶えたかと思うと硬直したりと、刺激に対する反応が激しくなる比呂美。 
そんな中、眞一郎は比呂美の視線が、瞬間的に『ある部分』を見つめて静止している事に気づいた。 
(……比呂美……『俺の』を見てるのか?) 
……間違いなかった。空中を彷徨う視線が、何度も自分の股間に向けられている。 
しかも、性感の高揚に比例して、回数も増え、見つめる時間も長くなってきているようだ。 
(……それなら……) 
比呂美に見せよう。比呂美を欲しがっている牡が、どんな形になっているのか見てもらおう。……そう眞一郎は考えた。 
………… 
激しかった眞一郎の手の動きが、ピタリと止まる。 
「……?……どう…したの?」 
快楽を中断された比呂美が、少量の不満を混ぜた視線を眞一郎に向ける。 
「比呂美、俺……全部脱いでもいいか?」 
「え?!」 
素っ頓狂な声を上げる比呂美に構わず、眞一郎はトランクスに手を掛けた。 
「ちょっ……待って眞一郎くん。……その……心の準備が……」 
紅潮した顔を手で覆いながら恥じらいを見せる比呂美だったが、その瞳に興味と期待が宿っているのは確かだ。 
「お前のそんな姿見たら……俺、もう苦しくってさ」 
眞一郎はそう言って中腰に立ち上がると、比呂美の目の前で、中心が粘液で汚れたトランクスを脱ぎ捨てた。 
「!!!!!」 
目線の高さに戦闘態勢の男性器を晒され、比呂美の呼吸が止まる。 
生まれて初めて目にする『牡そのもの』に、比呂美は視線を縫い付けられてしまった。 
「そんなに……ジッと見るなよ」 
そう言いながら、眞一郎は股間を隠す事はせず、あぐらを掻いて再び比呂美の前に座る。 
「え……えっと……その……あ、あの……」 
激しく動揺しながらも、『男』への好奇心は抑えられないのだろう。 
熱く自分の勃起を凝視している比呂美に、眞一郎は言った。 
「……触って…みる?」 
「えええぇぇぇ???」 
驚いているのか嬉しいのか、嫌がっているのか喜んでいるのか分からない比呂美の声。 
眞一郎としては、比呂美が拒絶するなら無理強いするつもりはなかった。 
まだ二人の愛の営みは始まったばかり…… 慌てて今日、そんな事をする必要は無い。 
ニッコリとした笑みで見つめる眞一郎の眼を、比呂美は口を尖らせて見つめ返す。 
「……眞一郎くん……時々、意地悪だよね」 
「あ……はは……ゴメン」 
まだ早かったか、と反省し頭を掻く眞一郎の耳に、「いいの?」という消えそうな比呂美の声が届く。 
恥じらいとの闘いに忙しく、それ以上喋れない比呂美に向かって、眞一郎は無言で頷いた。 
「…………」 
長く短い逡巡の末、羞恥に打ち勝った比呂美の好奇心は、ゆっくりと彼女の右腕を操り始めた。 

(……?……濡れて…る?) 
比呂美から見て右側から差し込んでくる月光が、眞一郎自身に反射して、先端を光らせている。 
男も濡れるとは聞いていたが、なるほどこういう風になるのか、と比呂美は納得した。 
(なんか……かわいい……) 
初見で受けた猛々しい印象も、慣れてしまうと何ということもない。 
むしろ、眞一郎の身体の一部だと思うと、愛おしさが止め処なく湧き出してくる。 
チラと眞一郎の眼を見て「いいよね?」という意志を示すと、彼は軽く頷いて了承してくれた。 
(…………よし……) 
慎重に右手を近づけ、人差し指で亀頭にチョンと触れてみる。 
「うっ!」 
ほんの僅かな刺激に反応し、眞一郎は呻きを上げた。 
反射的に収縮した括約筋に連動して、上下にお辞儀をするように動く陰茎に、思わず見入ってしまう比呂美。 
(うわ……動くんだ……) 
何度か指先での『突っつき』を加えて眞一郎の悶える姿を楽しんだあと、比呂美は素朴な疑問をぶつけてみる。 
「横には動かないの?」 
「…………んなこと、出来るわけないだろ」 
眉間にシワを刻み、困り果てる眞一郎を見て、比呂美はおかしくなってしまった。 
ククッと声を殺して笑い出す比呂美に釣られて、眞一郎の口からも笑いが漏れる。 
「……ふふ…フフフ…」 
「はは………ハハハハ」 
二人の間にあった『緊張』という氷が溶けていくのを、比呂美は感じた。 
裸を相手に見せ合う状態にも、もうほとんど抵抗を覚えない。 
笑いが治まると、比呂美は腹ばいになって、あぐらを掻いている眞一郎の膝に、自分の肘をもたれさせた。 
陰茎のすぐ近く……臭いが感じられるほど近くに、顔を近づける。 
「……比呂美……」 
「じっとしてて」 
まだ舐めたりは出来ないけど、と前置きしてから、比呂美は眞一郎の『茎』に手を添える。 
自分の手ではない柔らかな圧力に包まれ、眞一郎はまた軽く呻いた。 
「…………上下に……擦ればいいんでしょ?」 
瞼を閉じて神経を局部に集中させている眞一郎は、「……うん……」と答えるのがやっとだった。 
比呂美の口角が少しだけ上がるのと同時に、眞一郎を握った細い指がスライドを始める。 
陰茎の先から零れる雫を拭うことなく行われる上下運動は、室内に粘りのある水音を大きく響かせた。 
淫靡な音と、陰茎から発生する性臭と熱…… それが比呂美の気持ちを加速させていく。 
「眞一郎くん……気持ちいい?」 
「…………」 
返事が無いので上目遣いに様子を確かめてみると、眞一郎は唇を噛み締め、襲い来る悦楽と必死に戦っていた。 
男のプライドだろうか…… 可能な限り声を出さないようにと下唇を噛んで、眞一郎は快感に耐えている。 
だが、比呂美のしなやかな指が繰り出す快楽は的確で、あっという間に眞一郎を限界へと追い詰めていった。 
「ひ…比呂美ッ……ちょ、ちょと待って」 
予想外に早く臨界点が近づき、焦りから声を上げた眞一郎を、比呂美は無視した。 
眞一郎の両脚にグッと深く体重を掛け、逃げられないようにして指技を続ける。 
上半身を仰け反らせ、身悶える眞一郎を見ながら、比呂美は口元を妖しく歪ませた。 
(眞一郎くん……見せて……私に……全部見せて……) 
……眞一郎が快楽の頂に達した時どうなるのか…… 比呂美は自分の目で確かめてみたかった。 
『男性』がではない。他の男など…どうでもいい。……『眞一郎』がどうなるかが見たいのだ。 
……『仲上眞一郎』が『湯浅比呂美』の導きで、どうなってしまうのか……それが知りたい。 
「比呂美ッッ!……だ、ダメだッッ!!!」 
眞一郎がそう叫ぶのと、握り締めた陰茎が震え膨らむのは、ほとんど同時だった。 
危険を知らずに、自分の顔へと向けていた眞一郎の鈴口がパッと開き、その中から何か白い物体が飛び掛ってくる。 
「ひゃっ!!」と小さな悲鳴を上げて顔を背けたものの、腹ばいの体勢では、それ以上の逃避は不可能だった。 
眞一郎が無意識に突き出す腰の衝撃に合わせて、次々と自分の顔に降り注いでくる生温かいモノ…… 
潤滑油に使っていた透明な粘液とは違う、強烈で刺激的な臭い…… 
(…………シャセイ……眞一郎くんが…射精…している…………) 
眞一郎の『生命力の噴出』を文字通り肌で感じた比呂美は、驚きや嫌悪ではなく、幸福でその身を満たしていた。 
……自分は愛する人を、生き物が感じられる至高の悦楽へと導くことが出来たのだ…… 
その思い……満足感と充足感が比呂美の胸に充満し、妖しげだった表情を徐々に恍惚とした物へと変えていった。 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」 
息など切らしている場合ではない。 
あろう事か自分は、比呂美に大量の精液をふり掛けるという愚行を犯してしまったのだ。 
薄目を開けて呆然としている比呂美の顔には、右頬を中心に何ヶ所も白い塊が張り付いている。 
ここ数日、事態が混乱していた事もあるが、眞一郎は何日もの間、自分が性欲の処理していなかったのを思い出した。 
約一週間分……物理的に蓄積された白濁の量は半端ではなく、濃度も臭いも濃い。 
(……早く拭いてやらなくちゃ……)  
自己嫌悪などに陥っている場合ではない。比呂美を……きれいにしてやらなければ。 
そう思って身体を動かし始めた時、眞一郎は比呂美の舌が上唇の端についた精液をペロリと舐めるのを目撃した。 
「! ば、バカ!なにやってんだよ!」 
精液の味に反応し、「うぇ」と舌を出している比呂美を見て、眞一郎は急いでティッシュに手を伸ばす。 
ロフトの隅に転がっている箱から数枚を手早く引き抜き、比呂美の舌と肌にこびりついた汚れを優しく拭き取っていく。 
「…変な味…」 
「当たり前だろ。口に入れる物じゃない」 
そう言いながら、朋与に飲み込ませた事は胸の奥に仕舞い込んで、清掃を続ける眞一郎。 
幸い、髪の毛には精液が飛び散っておらず、一分と掛からずに比呂美の顔から白濁を取り除くことができた。 
「ゴメン……出さないつもりだったんだけど」 
結構な枚数を使ってしまったティッシュを丸めながら、言い訳にもならない言い訳を口にしてみる。 
精液を閉じ込めたボールを弄びながら、眞一郎は、比呂美が早漏という単語を知っていたらどうしようかと心配した。 
比呂美は腰の引けてしまった眞一郎を包み込むように微笑むと、眞一郎の手にしている紙の球を取り上げる。 
そして紙の塊を鼻の前まで持ってくると、祈るような仕草と共に、そこから発する香りを肺一杯に吸い込んだ。 
「?」 
あまり良い臭いとは言えないそれを鼻に当て、比呂美はまだ静止している。 
「比呂美……何してるんだ?」 
掛けられた眞一郎の声を合図に、比呂美の祈りは終わりを告げ、紙の球は下の部屋に向かって放り投げられた。 
かなり離れたところにあるゴミ箱に、見事に納まるティッシュボール。 
「……さすが…」 
眞一郎の呟きに応え、比呂美はウインクをしながらガッツポーズを見せた。 
持ち上げた腕の動きに連動して、形の良い乳房が揺れ、また眞一郎の心臓をドキリとさせる。 
乳房を見つめる視線に比呂美は気づいたが、それには応じず、代わりに小さな声で先程の質問に答えた。 

「ゴメンねって言ってたの。……その……眞一郎くんの…赤ちゃんたちに……」 
「……え……」 
比呂美はそれ以上、何も話さなかった。……というより、彼女の中にも明確な答えは無かったのかもしれない。 
ただ、自分では気にも留めていない精液という物質を、比呂美が大切なものと感じてくれた事に、新鮮な感動を覚える。 
(…………子供……か…… そんな風に考えた事…無かった……) 
愛されているという確信が身体を吹き抜け、胸の中で燃えている炎が、更に勢いを増していくのを眞一郎は感じた。 
「……比呂美」 
目の前の愛を確認するように響きの良い名前を呼んで、大切な……とても大切な存在を抱きしめる。 
両腕に少し力を込めると、比呂美の腕も再び自分の背中に回され、同じ様に抱き返してきた。 
「……眞一郎くん」 
耳元での囁きと同時に、比呂美は身体を後方へと反らせ、眞一郎を誘うように布団へと倒れこんでいく。 
もつれ合いながら寝具の海に身を沈めた二人は、しばらくの間、何も考えずに互いの体温を貪った。 
相手の名を呼びあい、唇を求め、身体を……肌のきめを弄る…… 
そんな中で、眞一郎の指は、自然と比呂美の下腹部へと向かっていった。 
まだショーツに包まれている……比呂美の『女』の部分…… 
許可を得てから、などと小賢しいことを、もう眞一郎は考えなかった。 
本能に……自分の気持ちに正直に従えばいい…… 
時折見つめ返してくる比呂美の瞳と熱い肌も、「して」と言っているように、眞一郎には思えた。 
手の平を肉づきの薄い臀部から、徐々に薄布で守られた陰部へと移動させていく。 
中指を折り曲げ、溝に合わせて軽く滑らせてみると、そこはすでに粘度の低い体液が滲み、潤いを見せていた。 
指先に伝わる愛液の冷やりとした感触が、分泌されたのが今ではないことを物語っている。 
(……俺のを握りながら……濡れて……) 
眼の奥を覗き込む眞一郎の視線を避け、「…いや…」と枕に顔を伏せる比呂美。 
だが、その言葉は拒絶を意味するものではないと、眞一郎には分かっていた。 
腰骨の張り出し……その下にあるショーツの細い部分に、人差し指を引っ掛けて下へと引っ張る。 
比呂美は顔を伏せたまま、その行為を助けるように背筋を反らせて臀部を持ち上げた。 


つづく
[[ある日の比呂美10]]
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