みよきちへのラブレター

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みよきちへのラブレター」(2008/05/05 (月) 22:08:12) の最新版変更点

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話としてはサッカー観戦偏のすぐ後になります http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/285.html 時期的に言うと2年生の7月になります。  誰もいない教室。  廊下を歩く足音もない。  ガラッ  扉を開け、教室に入る影ひとつ。  コツ、コツ、コツ  席のひとつの前で足を止める。  しばしの沈黙。  机の表面の傷を指でなぞっていく。  やがて、彼女は意を決したように、何かを取り出し、机の中に滑り込ませる。  向きを変えず、バックで席からゆっくりと離れる。  ダンッ  ガララッ  タッタッタッタッ  誰もいない教室。  廊下を歩く足音もない・・・・。  三代吉が教室に入った時、まだ他には3人しかいなかった。 「お早ゥース」  口の中で聞き取りづらい挨拶をして席に着く。  カバンから教科書を出し、机の中に入れる。  カサッ 「ん?」  何か机の中に入っている。昨日は間違いなく空だった筈だ。  手探りで異物を探る。  封筒である。猫の写真が印刷された、一見して女子の好みそうなデザインだ。  三代吉は何気ない風を装い周りを見る。女子はいない。ついでに言うと、自分に関心 を持っている奴もいない。  身体の向きを変え、同級生に対し背を向ける姿勢をとる。  封筒を開け、便箋を取り出す。便箋も子猫だ。  再度周りを確認し、便箋を広げ、内容に目を通す――。 「おっはよぉ~う!諸君今日もがんばろぉ~!」  あらゆる意味で間違えたテンションの挨拶が聞こえ、反射的に封筒を机に突っ込む。 声の主を確認するまでもない。 「野伏君。今日は早いじゃない。何かあったの?」 「何もねえよ」  朋与の無遠慮な質問を適当にはぐらかして、三代吉は前を向いた。  まあいい、昼休みなら読めるだろう。  その後、登校してきた眞一郎らとふざけあいながら、午前中を過ごした。  『拝啓   野伏 三代吉 様   いきなりのお手紙で驚かれたと思います   ずっとあなたのことを見てきました   あなたの優しさが大好きです   放課後 海沿いの竹林でお待ちしています                             敬具』    昼休みになってから、この短すぎる手紙を何度見直しているだろうか。  名前はどこにも書かれていない。字にも見覚えはない。  可愛らしいレターセットと堅苦しい文面のギャップが妙におかしい。 「手がかりくらい残せよな。ったく・・・・」  三代吉は愚痴る。  今三代吉は鶏小屋の陰にいる。元々生物部からも忘れられた場所である。石動乃絵 も以前ほどにはここに来ていないようだ。渡り廊下からの視界に入らないようにして いれば、一人になるには格好の場所だった。 「全く心当たりがねえなあ・・・・」  もう一度、今度は封筒の方を見る。何の手がかりもない。  そもそも、三代吉は自分がもてるとは思っていない。他人からどう見られているか にも興味がないので、自分にこんな手紙が来る事自体が想定外だった。 「ったく相手選べよ・・・・」 「思ったより自己評価が低いのね」 「うわぁ!?」  三代吉が弾かれたように間合いを取る。  いつからいたのか、高岡ルミが手紙を覗き込んでいた。 「先輩。いいいつからそそそこに?」 「そうねえ、私が見かけてからでも、三代吉君その手紙を三回見直してるけど」 「・・・・・・・・」  つまりかなり長い時間観察されていた事になる。 「いい趣味じゃないぜ、先輩」 「もっと早く気付くと思ってたけどな。勘が鈍ったんじゃない?」 「勘なんてよくねえよ」  ルミはクスリと笑うと手を差し出す。手紙をよこせと言いたいらしい。 「人に見せるようなもんじゃないですよ」 「女の私なら気付く事があるかもよ?私を女と見れないなら仕方ないけど」  三代吉は手紙を渡した。愛子とも、比呂美、朋与とも勝手が違う。 「――ふーん。あまりこういう手紙になれてる人じゃなさそうね。ラブレターらしくない」 「やっぱり、そう思いますか?」 「うーん、あと、ずっと見てきました、とは書いてあるけど、そんなに三代吉君と近い人じゃ ないと思うな。あなたの事を本当に知っているのなら、自分から近づこうなんて思うとは――」  三代吉の眼が一瞬だけ剣呑にぎらつき、ルミはここで言葉を切った。 「気を悪くした?」 「いえ、事実ですから。つまり、俺がすぐに思いつくような奴じゃないって事ですね」  三代吉は容疑者リストから朋与と、他何人かを消した。 「可愛い娘かもよ?」 「やめて下さいよ。愛子が聞いたら気を悪くしそうだ」 「でも、気になるんでしょう?」 「先輩の言った通りです。俺に興味を持つ女ってのが想像つかないだけで」  ルミは、へえ、と言うように眉を上げた。 「・・・・ねえ、安藤さんの事、どこを好きになったの?一目ぼれとは聞いたけれど」 「ああ、それは」  三代吉が軽い笑い声を立てる。 「俺の親友の良さがわかる娘なら、悪い娘である筈ないと思ったんですよ」 「・・・・安藤さんが、仲上君のことを?」 「見てればわかるよ。初めて見掛けた時から、あいつの目は眞一郎を向いていた」 「それを知ってて、それでも告白したの?君の親友を好きなわけでしょ」 「眞一郎にその気がないのもわかってましたから」  だから眞一郎から紹介してもらえば、愛子が断れないだろうと言う確信はあった。卑怯 なやり方と言われるかもしれないが、きっかけさえ作ればその程度は後から挽回できる。 「でも、それなら、比呂美は?比呂美だって、仲上君しか見ていないという意味では同じ でしょう」 「湯浅の事は眞一郎がしっかりと見てたからね」  割って入る余地は元からない。眞一郎と争うつもりは全くなかった。 「とにかく、俺は愛子を裏切るつもりも、誤解を受けるような事もするつもりはないって事」  この話は終り、と言うように、三代吉が手を振る。 「・・・・それで?放課後行ってみるわけ?」  ルミも実務的に、本題に戻る。この冷静さこそがルミのキャプテンとしての最大の資質 だった。 「いや、やめとく。今言った通り、愛子に誤解されたくもないんで」 「でも、それじゃ相手が可哀想じゃない?待ちぼうけさせられるくらいなら、会ってはっき り断った方が――」 「先輩」  三代吉がルミを制する。 「俺の事を知ってんなら、俺がどこの誰かもわからない相手の気持ちなんて、考える男じゃ ないのもわかるでしょう?」 「・・・・それもそうね」  ルミは手紙を持ったまま回れ右をし、校舎に戻ろうとする。 「先輩、それ――」 「感謝しなさい。罪悪感一つ減らしてあげる。気持ちのこもった手紙なんて捨てづらいでしょ」  ルミはそう言いながら手紙をポケットにしまった。 「そりゃ、どうも」  三代吉は苦笑して見送った。  自室のドアを開け、中に入る。  ドサッ  電気も点けず、制服を脱ぐこともなく、ベッドに倒れこむ。  仰向けに寝転び、腕を目の上に置き、暫らくそのまま動かない。 「私じゃ、勝ち目ないのかな・・・・」  独り言を呟く。  レターセットなんて物を生まれて初めて選んだ。  どう書いていいのかもわからず、何度も何度も書き直した。  彼の机に入れる時、心臓が止まるほどの想いという物が実際にあるのだと初めて実感した。  カサッ  ポケットから、手紙を取り出す。 「でもまだ、やれる事はある筈・・・・」  高岡ルミは、手紙を見つめながら、自分に言い聞かせるように声に出した。                         了 ノート えーと・・・・ ここまで読んだ方ならお気づきと思いますが、サッカー観戦の時、ルミは初めから連れてくる彼氏などいません。 あの時のファッションは愛子がラフなユニで来る事を見越しての、三代吉に見せるためのチョイスです。前回もう気付いてた、て人いるかな? 三代吉は、目的達成の過程で誰かを傷つける事になっても、その事で苦しむ事はありません。だから、対極の価値観を持つ眞一郎が好きだし、眞一郎のためなら汚れ役も厭いません。 愛子には眞一郎と近い部分を感じて惹かれ、比呂美はむしろ自分に近い存在として認識しています。 ルミについてはこれから語っていくことになると思います。

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