「峠にて」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

峠にて - (2008/04/07 (月) 02:27:18) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

夜、オレは車で田舎の山道を暴走気味に走っていた。 仕事で些細なミスをし、それに気づかなかった自分に嫌気がさしていた。 上り下りを何往復しただろうか、疲労感を覚え山頂付近の展望台に車を止める。 車を降り、街の夜景を見下ろし息を吐く。 吐き出した息は白く、数秒で虚空へ消えていく。 しかし、自分へのやるせなさはまだ胸に溜まったままだ。 ”ガン・・ガン・・” 静かな空間に金属を叩くような音が響く。 辺りを見渡すが、音の出所は見つからない。 ”ガン・・ガン・・” また響いた。 車の近くから聞こえるようだ。 オレはゆっくりと車に近づき、死角になっている反対側に回り込んだ。 そこには、少し屈んだ状態でタイヤのホイールを蹴っている女性がいた。 女性は肩まで伸ばした髪と今の時期にしては薄着だった。 「なに・・してンですか?」 オレは少し怒りを含んだ口調で問いかける。 女性がゆっくりと振り向く。 失礼ながら仏頂面という言葉がぴったりだと思った。 「それはこっちのセリフ」 どうやら彼女も怒っているらしい。 「こんな時間にうるさいったらありゃしない。  ゆっくり眠れないから出てきたワケ」 「うっ・・」 オレは言葉に詰まる。 いい訳にしかならないが、車には多少手を入れてあるものの、 迷惑にならないよう騒音には気をつけていたつもりだった。 「それに、なにこの車・・」 彼女はオレを尻目に言葉を続ける。 「ムダにゴツいというか、もっとスタイルのいい車とかあるでしょうに。  走りにも向いてなさそうだし・・」 その言葉にカチンときた。 「ちょっとまて、確かに音で迷惑をかけた事は悪かったと思う。  しかし、車にケチつけられる筋合いは無いと思うが」 「ふん、わたしは思ったままを言っただけ。  車の悪口を言ったつもりはないわよ。  それとも、突っかかってくるんだから、自覚してんじゃないの?」 彼女は嘲笑するように言った。 オレはその言葉に大人気なく熱くなってしまった。 数十分だろうか、時間はよくわからないが、 罵詈雑言も含め彼女と車について言い合った。 気づけばお互いが肩で息をしている。 ――何やってんだ、オレ。 「ふ、ふふふ・・・」 なぜか笑いが込み上げてきた。 「ちょっと、なに笑ってんのよ・・気持ち悪い」 彼女が怪訝な顔でこちらを見ている。 「・・ああ、悪い。なんかどうでもよくなってな」 笑いを噛み殺して答えた。 「どうでもよくなったってなによ?」 オレは彼女にここにきた理由・・仕事でヘマをした事、 ヘコんで山を走っていた事を説明した。 「キミと言い合ったおかげですっきりしたよ。  ありがとう」 彼女を見つめ心から礼を言った。 「ちょ・・なんであなたにお礼を言われなきゃならないわけ!?  べ、べつに・・嬉しくとも、な、なんともないんだからね!!」 さっきとは打って変わって、彼女はそっぽ向き視線を泳がせている。 暗くて良くわからないが、頬が少し赤いような気がする。 彼女は気まずそうに言葉を続けた。 「わ、わたしは・・あなたがうるさかったから出てきただけで、  決して励まそうだなんて、これぽっちも思ってないんだから!」 「ああ、迷惑をかけてすまなかった」 オレは素直に謝り、軽く頭を下げた。 「わ、わかればいいのよ。  今回だけは・・許してあげる」 「ありがとう」 オレはもう一度、礼を言った。 彼女がたじろぐように、一歩後ろに下がった。 「も、もう用はないんでしょ?  早く帰ったらどうなの?」 彼女の言葉にオレは腕時計で時間を確認する。 深夜を少し過ぎた辺りだった。 「そう・・だな。明日も仕事だし。  キミも帰らないとダメだろ?家まで送ってくよ」 オレは彼女を車に乗るように促す。 「・・・私は」 彼女は言葉に詰まった。 オレはなんとなくその理由がわかっていた。 一応この辺は地元で、近くには民家がない事は知っている。 そして、彼女の服と『眠れない』『出てきた』という言葉が引っかかっていた。 「私はいいの、一人で帰れるから・・」 彼女は俯きながら答えた。 「そうか・・気をつけてな」 オレは車のドアを開けてから問いかける。 「また、ここに来てもいいかな?」 彼女は驚いたように顔を上げた。 「なっ、なにばかなこと言ってるのよ。  わたしもヒマじゃないんだし、いつ来るかわからないあなたを  待ってるワケないじゃない」 オレは間髪いれずに返答する。 「じゃ、今週の土曜。夜8時頃来るから」 言い終わると同時に車のエンジンを掛ける。 「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ!  わたしは待つとは言ってない・・待っててなんかあげないんだから!」 彼女は言葉とは裏腹に笑っていた。 オレは笑みを返し手を振ると車を発進させる。 バックミラーで確認した彼女はどこか透けて見えた。 「さて、安全運転っと」 そしてオレは遅い帰路についた。
夜、オレは車で田舎の山道を暴走気味に走っていた。 仕事で些細なミスをし、それに気づかなかった自分に嫌気がさしていた。 上り下りを何往復しただろうか、疲労感を覚え山頂付近の展望台に車を止める。 車を降り、街の夜景を見下ろし息を吐く。 吐き出した息は白く、数秒で虚空へ消えていく。 しかし、自分へのやるせなさはまだ胸に溜まったままだ。 ”ガン・・ガン・・” 静かな空間に金属を叩くような音が響く。 辺りを見渡すが、音の出所は見つからない。 ”ガン・・ガン・・” また響いた。 車の近くから聞こえるようだ。 オレはゆっくりと車に近づき、死角になっている反対側に回り込んだ。 そこには、少し屈んだ状態でタイヤのホイールを蹴っている女性がいた。 女性は肩まで伸ばした髪と今の時期にしては薄着だった。 「なに・・してンですか?」 オレは少し怒りを含んだ口調で問いかける。 女性がゆっくりと振り向く。 失礼ながら仏頂面という言葉がぴったりだと思った。 「それはこっちのセリフ」 どうやら彼女も怒っているらしい。 「こんな時間にうるさいったらありゃしない。  ゆっくり眠れないから出てきたワケ」 「うっ・・」 オレは言葉に詰まる。 いい訳にしかならないが、車には多少手を入れてあるものの、 迷惑にならないよう騒音には気をつけていたつもりだった。 「それに、なにこの車・・」 彼女はオレを尻目に言葉を続ける。 「ムダにゴツいというか、もっとスタイルのいい車とかあるでしょうに。  走りにも向いてなさそうだし・・」 その言葉にカチンときた。 「ちょっとまて、確かに音で迷惑をかけた事は悪かったと思う。  しかし、車にケチつけられる筋合いは無いと思うが」 「ふん、わたしは思ったままを言っただけ。  車の悪口を言ったつもりはないわよ。  それとも、突っかかってくるんだから、自覚してんじゃないの?」 彼女は嘲笑するように言った。 オレはその言葉に大人気なく熱くなってしまった。 数十分だろうか、時間はよくわからないが、 罵詈雑言も含め彼女と車について言い合った。 気づけばお互いが肩で息をしている。 ――何やってんだ、オレ。 「ふ、ふふふ・・・」 なぜか笑いが込み上げてきた。 「ちょっと、なに笑ってんのよ・・気持ち悪い」 彼女が怪訝な顔でこちらを見ている。 「・・ああ、悪い。なんかどうでもよくなってな」 笑いを噛み殺して答えた。 「どうでもよくなったってなによ?」 オレは彼女にここにきた理由・・仕事でヘマをした事、 ヘコんで山を走っていた事を説明した。 「キミと言い合ったおかげですっきりしたよ。  ありがとう」 彼女を見つめ心から礼を言った。 「ちょ・・なんであなたにお礼を言われなきゃならないわけ!?  べ、べつに・・嬉しくとも、な、なんともないんだからね!!」 さっきとは打って変わって、彼女はそっぽ向き視線を泳がせている。 暗くて良くわからないが、頬が少し赤いような気がする。 彼女は気まずそうに言葉を続けた。 「わ、わたしは・・あなたがうるさかったから出てきただけで、  決して励まそうだなんて、これぽっちも思ってないんだから!」 「ああ、迷惑をかけてすまなかった」 オレは素直に謝り、軽く頭を下げた。 「わ、わかればいいのよ。  今回だけは・・許してあげる」 「ありがとう」 オレはもう一度、礼を言った。 彼女がたじろぐように、一歩後ろに下がった。 「も、もう用はないんでしょ?  早く帰ったらどうなの?」 彼女の言葉にオレは腕時計で時間を確認する。 深夜を少し過ぎた辺りだった。 「そう・・だな。明日も仕事だし。  キミも帰らないとダメだろ?家まで送ってくよ」 オレは彼女を車に乗るように促す。 「・・・私は」 彼女は言葉に詰まった。 オレはなんとなくその理由がわかっていた。 一応この辺は地元で、近くには民家がない事は知っている。 そして、彼女の服と『眠れない』『出てきた』という言葉が引っかかっていた。 「私はいいの、一人で帰れるから・・」 彼女は俯きながら答えた。 「そうか・・気をつけてな」 オレは車のドアを開けてから問いかける。 「また、ここに来てもいいかな?」 彼女は驚いたように顔を上げた。 「なっ、なにばかなこと言ってるのよ。  わたしもヒマじゃないんだし、いつ来るかわからないあなたを  待ってるワケないじゃない」 オレは間髪いれずに返答する。 「じゃ、今週の土曜。夜8時頃来るから」 言い終わると同時に車のエンジンを掛ける。 「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ!  わたしは待つとは言ってない・・待っててなんかあげないんだから!」 彼女は言葉とは裏腹に笑っていた。 オレは笑みを返し手を振ると車を発進させる。 バックミラーで確認した彼女はどこか透けて見えた。 「さて、安全運転っと」 そしてオレは遅い帰路についた。 ([[幸せですか?]]に続く)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: