俺には守護霊がいる。困ったことに、俺に話しかけてくる。 しかも、そいつは…おかっぱでいたずら好きの12歳の女の子だったのだ。


「俺と守護霊の微妙な一日」

5時14分。
 線香のにおいとラジオ体操のミュージックででおきた。 目を開けると、守護霊が自分で線香をたいて、ラジオ体操をしている。
 いつものことだ。寝なおす。
6時00分。
 すずめの鳴き声がする。また、えさをやっているのだろう。ふんの掃除を誰がすると思ってるんだ。
7時42分。
 時計をみて…飛び起きた。遅刻だ!! 守護霊はいない。
 「ちっくしょー、なんでおこさねぇんだ!!」 「うるさい。近所迷惑だ。静にしろ」リビングから、みのもんたの声と一緒に聞こえた。…朝ズバ…か。
8時00分。
 走ればまだ間に合う。俺はパンをくわえて、走り出した。 ズシッとした重みがあった。奴が乗ってきたのだ。
 「お前、宙にうかべるんだろ、何で体重かけてんだ」「獅子はわが子を千尋の谷につきおとすという」
 …もういい。かまわず走る。
8時15分。
 無常にも電車は行ってしまった。
 「…」「ふむ。鍛錬がたらんな」もう、声もでない。
9時23分。
 上司にしかられた。守護霊は俺のお茶をすすっている。
10時45分。
 書類に奴がコーヒーをこぼした。奴の姿は見えない。…泣けてきた。
13時45分。
 ちょっと用を足しにトイレに。奴もきっちりついてきた。
 「ここは男子トイレだ」「知ってる」「帰れ」「守護霊は離れられんのだ」
 こいっつ…。おれが用を足してる横で、ひゃぁ…だの、うわ…だの、小さいだの…。
 目を覆う振りをして、ちゃっかり指が開いてる。ちょっと泣けてきました。
15時42分。
 事務の女性社員が俺を夕飯に誘ってきた。いきなり、俺のベルトが切れてズボンが落ちた。
 女性社員は逃げてった。…死にたい。
17時00分。
 定時に仕事が終わる。くたくただった。電車は満員だった。奴は俺の頭の上に座ってる。体重はかけてないがうざい。
 なんだろう、民謡だろうか…誰かのヘッドフォンから、かすかに音楽が聞こえる。
 守護霊がいきなり、踊りだした。勘弁してくれ。頭の上でターンをした。
 俺はバランスを崩して目の前のケバイお姉さんに、ぶつかった。
 「ちかーん!!」おいおい。運よく、扉が開き、走って逃げた。
18時00分。
 夜の公園。
 「すまん。つい」「…」「許してくれんかの?」「…」「なぁ、明日は朝起こしてあげるから」「…」
 俺は怒りが収まらなかった。当分、あの電車は乗れないだろう。
 「なぁ、許し…」
 「うるさいっ!! お前なんかどっか行っちまえ」顔も見ずに言う。
 「ひっ」俺の声に驚いたのか、短い声を上げて、守護霊の気配が遠のいた。振り向くと奴の姿は見えない。
 せいせいした。肩のコリがなくなったようだ。
 …うん。せいせいした。「せいせいしたぞーーーー!!」大声で叫んだ。
 「うるさい!!」ちょっと怖めのあんちゃんにどなられた。

18時26分。
 石に躓いた。派手に転倒。いたい。
18時42分。
 財布を落とす。
18時56分。
 会社から呼び出し。戻る。
22時40分。
 帰宅途中、やくざに絡まれる…。
 ほうほうの体で逃げ出した。…なんだこりゃ。守護霊の大切さを実感し始める。
23時52分。
 コンビニで万引きと間違えらる。これが、とどめであってくれ…。
01時23分。
 無事釈放され家に到着。…味噌汁のにおい?
 テーブルには、味噌汁とご飯と秋刀魚が並び、湯気がたっていた。…そして…書置き。
 『ごめんなさい』文字がにじんでいる。
02時12分。
 俺のベッドで守護霊が寝てた。枕が涙でぬれてる。

 …ま、許してやるか。

 涙をそっとふいてあげて、俺は床で寝た。

08時42分。
 …遅刻。奴はよだれをたらして寝ている。

 …はぁ…
 まぁ、それでも、こいつがいてくれるほうがましか。
 おれは守護霊のぷにぷにしたホッペにひげを書いて家を出た。

 …いたずら書きに気づいた守護霊がどんな仕返しをしてくるか…考えたら、ちょっと口もとがほころんだ。

‐おわり‐
最終更新:2007年05月01日 03:50