死に至る病(ツンデ霊ハンター)


「そう、虚数素子。つまりあらゆる場所に『存在しているかも知れない可能性』を持つ素子。それこそが霊体を形成する」

彼、玉葱教授が2年前に私に言ったセリフだった。
そして昨日、私の許に届いた手紙を改めて読み返す。
『我が悲願、達せり。』

狂人の戯言だ。
無視するのが良識的と言うものだろう。
しかし、どうにも気に掛かる。
それはおそらく2年前に続けられたあの言葉が未だ私の記憶に残っているからだ。
「…虚数素子を電子化して制御出来れば…
つまり!幽霊を
捕らえる事が出来るのだよ!!」

私は導かれるように手紙に書かれていた教授の研究所に向かう。

「よく来てくれたね。五年ぶりかな、運動場君?」
「ええ、玉葱教授。あなたが学会を追われて以来ですよ。で、わざわざ私を呼び出した用件はなんです?」

「君に私の研究を手伝ってもらいたいのだ」
「研究?妄想の間違いでは?」

だが教授は私の皮肉を悠然と無視し卓上の装置を指し示す。

「虚素子荷電装置がついに完成したのだ! 
すでに十分な臨床段階実験も済んでいる!
視てみるかね…?
我らがあれ程望み、求めたツンデ霊を!!」

私は自分の喉がゴクリとたてた音を聴いた。

「見たまえ、これらが全てツンデ霊だよ!」
数百はあるゲージが並んでいる。

「こ、これは…?」
「ふふ、それはついさっき捕らえたばかりでね。固体名、美和さんだ。
ま、いまいちツンは足りんがね」
「おぉ!こ、これは」
「さすがにお目が高い。幾多の猛者を萌え震あがらせた銅タンだよ」
「そ、そしてこっちには!」
「そう、伝説の300番!ミレレイだ!」

「す、すごい」
「ここにはあらゆるツンデ霊がいる。実義を問わず妹から姉、地縛から部屋憑き
同級生から先輩から
タクシー霊、そして魚類までだ!」

「このゲージには?」
からからと車を回すハムスターとゾンビ、あとよく分からない邪気をまとった女がいた、背中に範馬の刺繍が入っている。

「止したまえ、そこは黒歴史だ」
玉葱教授は顔を逸らしながら答えた。

「とにかくだ、君が協力してくれるなら報酬も用意している。
…お狐さまをあげよう」
「あ、あのツンデレ最高位の狐神様を!?」
「そうだ。狐ミミからモフモフも思うままだよ、君」
「モフモフし放題!?」

「どうかね?色よい返事を聞かせてはくれないか?」 
メフィストテレスじみた教授の誘惑…
しかし私は振り切り毅然と答える。

「お断わりします」

「なぜ!?」
「教授、あなたは間違っている!

いつかツンデ霊に巡り合う、その日々を放置プレイが如くハァハァする
それこそがツンデ霊ハンターの神髄でしょう!」

「き、君!止めたまえ!そのレバーは…!」
ゲージ総解放とおぼしきレバーを迷いなく倒す。

「…そうか…君は生粋のMなんだな…」
解放されたツンデ霊の一群が迫る轟音が近づいている。

「さぁ、教授…間もなく彼女等はここに来ます。どうするか、お分りですね?」
「ああ、分かったよ。せめて最後ツンデ霊ハンターらしく…」

『ツンデ霊キタ―――(゚∀゚)―――!!』
最終更新:2010年02月01日 21:16