夕暮れ。下校途中の路地。
カラスの鳴き声と近くの公園から聞こえてくる子供達の声に混じり
響く着信音。見知らぬ電話番号。
「もしもし?」
「わたしっ!メリーさん!!今、あなたnあうっ・・・ツー、ツー」
切羽詰ったような声の電話。それが途切れると同時に、後ろから「ゴン」
という鈍い音が聞こえてきた。
振り向くと、おでこを押さえてうずくまる女の子。その足元には野球ボール。
キャッチしようとして失敗したらしい。



「・・大丈夫?」
よろよろと立ち上がり、ケータイを開く女の子。同時に響く着信音。
目の前の女の子がかけているらしい。出てみる。
「わ、私、メリーさん。大丈夫なの。これくらい痛くないの」
おでこにボールのあと。涙目。
「・・・・」
「ほ、本当に痛くなんてないの。・・・ぐす」
「あー・・・」
もしかして、飛んできたボールから守ろうとしてくれたのだろうか。それを聞く前に彼女が口を開く。
「い、言っておくけど、別にあなたを守ろうとしたんじゃないの。か、勘違いしないでほしいの」
 ・・どうも、そうらしい。



「ありがとう」
「だ、だから、違うの!私は『メリーさん』だから後ろに立っただけなの!そこに、たまたま
ボールが飛んできただけなの!」
言う頬が赤い。夕日のせいだけじゃない。しかし、そう、彼女はメリーさんなのだ。
「あの、ところで、俺、振り向いちゃったんだけど・・・」
「?」
「いや、ほら、メリーさんに振り向いちゃヤバイって・・」
「!」
とたん、目を大きく開き、アッというように口を開く。
 ・・・忘れてたのか?
「きょ、今日のところは、見逃してあげるの!」
捨て台詞のよう言葉を言い残して、彼女は走って言ってしまった。
なんとなく、その後姿を見送ってしまう。
ボールを探しに来た子供に、足元のボールを放ってやると「ありがとうございます」と頭を下げて
戻っていく。少しして、またも響く着信音。出る。
「ほ、本当に勘違いしないでほしいの・・・・・プツン、ツー、ツー、ツー」
「・・・・・帰るか」

後日、もっと、ちゃんと振り向かせるためだからと、頻繁に電話がかかってくるようになるのだが、
それは、また別の話。
最終更新:2011年03月04日 10:19