「○○くん…、どうしたのこんなところで?」 屋上のフェンス際に座ってぼんやり下を見ていると、後ろから声を掛けられた。 「Tちゃんこそ、どうしたんだ?」 質問に質問で返す。いまは昼休み、だけどこんなに真冬の曇ってて寒い屋上には俺とTちゃんしか居なかった。 俺が『女体化』したのは、二週間前。つまり男友達とバカをやれてたのも二週間前までだ。 「○○くんが、なんか変だったから」 思わず立ち上がってしまった。クラスの誰にも気付かれていないと思っていた。 「なんかふさぎこんでるみたいで…」 女になってもほとんど身長が変わらなかった俺は、Tちゃんの小さな頭の茶色いつむじに見下ろす。 言われて、ああその通りだ、と納得できた。 女に変わっても温かく迎えてくれた奴ら。けれど俺は勝手に壁を感じて、どうしても教室に居続けるのが辛かった。だけど…。 「大丈夫?」 ぐりぐりとした大きな目で、心配げに覗き込んでくる。 しかし、見上げながら首をかしげるっていうのは反則じゃないか? 「大丈夫大丈夫、Tちゃん、ありがとな」 何かむらむらとわきあがってくるものを抑えつつ、Tちゃんの頭を撫でると、それが気に食わなかったのか、唇を尖らせながら俺の手を外そうと躍起になるTちゃん。 それでもその唇にほんのりと笑みが浮かべられて、心臓がわし摑みにされた。 「…あ~も~、かわいいっ!!」 「ふぇ…? うわあぁっ!?」 がばっとTちゃんの頭を抱き寄せると、女になった俺より高いんじゃないかと思うような悲鳴をあげるTちゃん。 「かわいいな~、Tちゃんはっ!」 「○○くん…っ、ちょ、放してっ」 誰がそんな事聞いてやるもんかと思ったが、あんまり抵抗になってない抵抗に心を打たれて、ひとしきり頭をなでまくった後に解放してあげた。 「○○くんの、バカぁ!」 真っ赤になって、しかも涙目で怒鳴るけど、やっぱり迫力がない。そういえば、Tちゃんの頭の位置って、俺の胸辺りだな。 「ごめんね? これあげるから許して?」 腰を曲げてTちゃんと同じ目線で謝ると、Tちゃんはそのままコクリと頷いて、俺が渡したものを受け取った。 Tちゃんが好きな缶の紅茶。もちろんあったかいやつだ。俺の飲みかけだけどな。 だけどTちゃんは疑うことなく、いつものように小さな手を両方使って缶を持って。 そしてそのまま両手で紅茶を飲みだす。 制服の間から見える、色が白くて細い喉をこくこく鳴らしているのが、また妙にツボって。缶を置いたTちゃんをもう一度抱きしめてしまったのは言うまでもない。 誰だってそうするだろうからな。
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