この感情は一体何だと言うのだ。 怒り?悲しみ?憔悴?失望?絶望? 何でもいい。この世に存在する、ありとあらゆるネガティブな感情を、全てお得(?)なセットにしたような。 そんな気分だ。…と言うのも。 高校に入って最初の健康診断で計った俺の身長は、176cmだった。 平均身長を数cm上回る身長は、俺のちっぽけな自尊心を満たす数少ない要素の一つだった。 そのまま順調に伸びれば180cmの大台も夢ではなかっただろう。 それが、たったの、たったの…!145cm、だと…ッ!? 今朝初めてベッドから起き上がってみたら、見る物全てが大きく見えた。 朝から付き添ってくれている両親のうち、母さんと目線が同じだった時点で、嫌な予感はしていた。 その予感が明確な数字となって俺を襲っている。 何故俺がこんな目に合わなきゃいけないのか。思わずorzとなってしまう。 思い返してみると、昨日の涼二のクソ野郎が言っていた、姓名判断の話がフラグだった気がしてならない。 あの野郎ォォッ!明日会ったらぶん殴ってやる…ッ!! どんよりとした俺を気の毒に思ったのか、すかさず親父がフォローを入れてくれる。 「…まぁ、小学生からやり直すと思えば良いんじゃないかな?」 「フォローになってねええ!そこのロリババァを棚に上げてんじゃねーよ!これ以上伸びる見込みがあるのかよ!」 次の瞬間、ロリババァのアイアンクローが俺の顔面に食い込んだ。 「随分失礼な娘になっちまったもんだな。女体化の後遺症か?それとも躾が足りてねぇのか?おォ!?」 「ははは、姉妹喧嘩みたいだね」 「ぎェッ、痛、痛ぇええ!わ、笑ってないで止めろォーッ!」 「っと、僕はそろそろ仕事に行かなきゃ。秋代、後は頼むよ」 「あぁ、そういやアンタは午前半休だったか」 ようやく開放され、再びorzになる俺。今度は肉体的な意味で。 「さて、もう一通り終わったからな。あとは退院して買い物行くぞ」 これから母さんと、今後の生活に必要となる物を買いに回る事になっている。 取り合えず着替え、と言う事で母さんの服を拝借しているが、これまた丈がジャストフィットでイラッとする。 「いってて…車はどうすんだよ?」 「今日は2台で来てるから問題ないさ」 「2台って…げぇ、アレかよ」 「なんだぁ?アタシのマジェに不満があるってのか?」 「普通の人間がアレに乗ったら不満しか出ねぇだろ!」 母さんの車はクラウンマジェスタだ。車の事は良くわからんが、15系とかいう型?らしい。 高級車だが、数世代前の型の中古車は値落ちが激しいらしく、ごく一般家庭の西田家でも買える金額だそうな。 型落ちの中古とは言え、クラウンは良い車だ。 …それが、あんなDQN仕様でなければ。 鬼キャンとか言うらしいが、タイヤが「ハ」の字になっていて、地面は友達!と言わんばかりの、地を這うような車高の低さ。 普通に走っているだけでも路面のちょっとした凹凸で跳ねまくるわ、エアロや下回りを擦るわで最悪の乗り心地に、全面フルスモーク。 高級車の良いところをことごとくスポイルした下品な仕様だ。 一応ご近所に気を遣っているらしく、爆音マフラーは付けていないが…言うまでもなく違法改造車両である。 そこらのDQNが乗っている車にしか見えない。 「まぁ確かに、すぐサツに止められるからうぜぇんだけどよー」 「大人しくノーマルで乗れよ!」 「お前なぁ、『車高の低さはプライドの高さ』と言う格言があってだな…」 「…。」 「車高の低さは知能の低さ」の間違いだろ。と、心の中で突っ込んでおく。 「…またアイアンクローの刑に処されてぇか?」 「俺の心を読むなぁーッ!」 「お前が中坊になってタッパ伸びてからは手ぇ伸ばしても届かなくなったけど、今なら届くからな。愛のムチがし易くなるってもんだ」 「ムチって言うか万力なんですけど!?…確かに久々だったもんな…勘弁してくれ」 「ふん、精々努力するんだな。あぁそうだ、昼飯は家で良いか?ついでにシャワーくらい浴びたいだろ?」 「あぁ、家で良い。夕べ風呂入れなかったもんな」 「自分の身体に欲情する王道パターンだな」 「しねぇよ!」 退院手続きをし、駐車場で異様なオーラを放っていた噂の15マジェで帰路に着く。 相変わらず最悪の乗り心地だ。 気を紛らわせるために外の景色を眺める事にする。スモーク越しにだが。 俺の身体は変わったが、当然ながら窓から眺める風景は普段と何ら変わらない。 午後一は医者の診断書を持って役所に行くそうだ。小一時間で終わる手続きを経て、正式に俺は「女」になる。 この広い世界、毎日どこかで誰かが女になっていて。それでも世の中、平然と回り続けるのだ。 全て世は事もなし、か。 「名前、どうするか決めたか?」 俺がぼーっと厨二的な考え事をしていると、母さんが口を開いた。 女体化した人間は、通常より簡単な手続きで改名する事が出来る。 「母さんは、改名したんだよな」 「そりゃ女になって秋雄だなんて冗談じゃねぇさ。…ただまぁ、せっかく親がくれた名前を変えちまうのも気が引けてな。 『秋』の字は残したんだよ」 「なんか自分の名前が変わると、自分が自分じゃなくなる気がするんだよなぁ」 「んな事言ったらアタシは結婚して苗字も変わってんだから、殆ど跡形もねぇぞ」 「気の持ちようだとは思うけどさ…」 「どうするかは、お前に任せる。克己もそれで納得してるしな」 「…俺は、そのままでいい。忍って名前、嫌いじゃねぇから」 顔は外に向けたまま。 照れているのを気取られないように呟く。少し恥ずかしくて、尻すぼみに声が小さくなってしまった。 そっかそっか、と、母さんは少し嬉しそうだった。 ---- 幸い警察の世話になる事なく、無事家に辿り着けた。 自分の家のはずなのに、そこら中が違和感だらけだ。 自分が身長140cm台だった頃の視点なんて、当時はそれが当たり前だったはずなのに。 一度176cmを経験してから逆戻りしてみると、 かつては自分もこんな「見え方」だった頃があったのか…と、妙に感慨深くなる。 「昼飯、焼きそばで良いか?異論は認めねぇ」 くわえ煙草でエプロンを着けながら、母さんは理不尽な問い掛けをしてきやがる。 じゃあ聞くなよ。あと料理に灰は入れるなよ。 「作ってる間にシャワー浴びとけ。午後は忙しいから、時間は有効に使おうぜ」 「あいよ」 脱衣所で母さんに借りている服を脱ぎ、風呂場でシャワーを身体に浴びせる。 一応病院で、女になって初めてトイレに行っている。 無自覚に男子便所へ入ろうとしている所を看護士さんに止められるハプニングはあったが、 ともかく自分の、息子不在の下半身はその際にも見た。 多少薄くなったものの、毛は健在だったが。 改めて自分の身体を見下ろす。 小学生並の身長に、無駄に大きな乳。 はっきり言ってアンバランスな体型だ。こんなところまで母さんに似なくて良かったのに。 一定の需要は見込める体型だろうが、正直恥ずかしい。 …いやいや、需要って何だよ。嫌だぞ俺は。 しかしながら、この胸に備えたICBMが気になって仕方が無いのもまた、避けようのない事実である。 「ちょっと触ってみる、か…?」 これは決して欲情などではなく、自らの新しいボディに配備された新兵器のチェックに他ならない。 自分の身体の事は知っておかねばならないだろう。そう、必要な事なのだ。 いざ童貞男子の鋼の意思をもって、このけしからん乳に対する知的好奇心を駆逐せんと手を伸ばす。 「…やべぇ。普通すぎる」 気持ち良くも何とも無かった。普通だ。普通としか言いようが無い。 ぼよんぼよんとして面白いには面白いが、だから何だと言う話だ。 となると、日常生活においては邪魔なだけと言う結論に至る。 うむ、知的好奇心は満たされた。順調順調。 …涙は、シャワーに紛れて消えていった。 さて、問題は下だ。 昨日の今日で変な事をしようと思っているわけではないが、普通に洗おうにも扱いが分からない。 とりあえずボディソープを泡立たせたナイロンタオルで、普通にゴシゴシしてみる。 「~~ッ!?」 超痛ええぇッ! どうやらこの洗い方はマズいらしい。 勢い良く、その…突起の皮を捲ってしまい、ナイロンタオルで引っ掻いた格好になってしまった。 それに、ボディソープが「中」に沁みて痛い。 どうすりゃいいんだ。 こんなこと恥ずかしくて母さんには聞けない。後でGo○gle先生に聞くとするか…。先が思いやられる。 風呂から上がると、既に昼食は出来上がっていた。 「案外なんともねぇもんだろ?これ」 そう言いながら母さんは、組んだ腕を持ち上げて胸を強調してみせる。 「…し、知るかっ」 「照れんなよ。女体化した野郎の誰もが通る道なんだよ!ただまぁ、ガキに乳やる以外に役に立ないかと言えばそうでもねぇ」 「何だよ?男を誘惑でもするのか?俺はやりたくもねぇけど」 「それもある。他はお前もそのうち分かるさ」 いつものニヤニヤとした表情から、どうせろくでもない事だろうと予想はついた。 「さて、さっさと食うか。ちなみにマヨネーズ盛りまくるのは禁止な」 「なんでだよ。今朝まで味気ない病院食だったから、こってりした味で食いたいのに」 「マヨ盛りで食って美味ぇとか、そりゃマヨネーズが美味いだけだろうが。作った側は面白くねぇんだよ」 「そーっすか。…んぐ、まぁそのままでも十分美味いな」 「ったりめーだコラ。お袋の味ナメんじゃねーぞ?お??」 よくわからんが、これは美味いと言われて喜んでいるのだろうか。 「午後はどこを回るんだ?」 「んー、まずは市役所行って、その後に衣類だな。服と下着、靴とか。間に合わせだから全部イ〇ンでいいだろ? もっと洒落たのが着たけりゃ後々自分で店ぇ探せや」 「そんな気持ちが芽生えるかは怪しいところだわ…」 「んでその後は女モンの制服取りに行って、最後にアタシがいつも行ってる美容院、予約してあるから。そこで髪を切る、と」 「髪?そっか、伸びまくってボサボサだもんな…さっきも洗うの大変だったし」 今の俺の髪は母さんと同じくらいの、セミロングと言ったところだろうか。 女からすれば珍しくもない長さだろうが、男でここまで伸ばすヤツはあまりいない。 当然俺もこんなに長いのは初めてだ。邪魔で仕方ない。 母さんもそうだが、何故か少し色が抜けてしまったらしく、地毛なのに若干茶色い。 女体化時にはよくある事らしいので、学校でとやかく言われる心配は無いと思うが…。 ちなみに母さんはゆるめのパーマをかけた髪をハーフアップにして、トップで団子状にまとめている。 オトナっぽいだろう?とはしゃぎながら自慢してきた事が以前あったが、 (胸以外の)全身から滲み出る幼いオーラを打ち消すには至っていない。 そもそも髪型変えてはしゃいでいる時点でガk…おっと、これ以上は心を読まれそうだから止めておこう。 「事情は話してあるからテキトーにやってくれるだろ」 「はぁぁ!?なんで勝手に話してくれてるんですかァ!?恥ずかしいわ!娘がいた事にすりゃあいいじゃねーか!」 「あぁ?女のイロハも知らねぇ野郎が天然女性のフリしたってすぐにバレるんだよ。だったら先に言っといた方が不都合がねぇだろうが」 「うっ…それはそう、か…」 「さて、飯も食ったし行くとするかね」 そう言いながら、食べ終わった皿を下げ手早く洗っている。 素行や言動はともかく、こういった家事全般のスキルに関しては、完全に主婦のそれだ。 料理も何気に上手いのは違和感ありすぎだろ。 俺もいつかはあんなふうになるんだろうか? DQN車、再び。 役所で小一時間程度の手続きを終わらせ、今はイ○ンへ向かっているところだ。 俺達の前後の車が必死で車間距離を空けようとしているのがよくわかる。 中にどんな人間が乗っているかも分からないのだから、その気持ちは理解出来る。気の毒に。 その中の人はと言うと、煙草をくわえながら片膝を立て、爪に緑のペディキュアを塗った小さな左足をシートに載せて運転している。 AT車なら右足だけで事足りるからだそうだ。そりゃそうかも知れんが…。 情けないことにペダルへ足が届かないので、シートは一番前がベストポジションのようだ。 「誰が短足だオイ」 「またか!また俺の心を見透かすのか!」 「母親には隠し事が通用しねぇのがこの世の常だろ?」 そういう次元じゃねーよ。 「さぁ到着っと。チッ!この入口の段差がうぜえ!バリアフリーがなってねぇぞクソッ!」 「車高上げろよ…」 「このくらい気合いで何とかなるんだよ!」 イ〇ンに着いたのだが、入口の段差でエアロや下回りをガリガリ擦っている。 こんな車のためにバリアフリーが云々などと、理不尽極まりない。 「平日は駐車場が空いてて助かるぜ。立駐なんざいくら気合い入れても無理だしな」 「車高を上げろォーッ!」 「絶対にッ!い・や・だッ!」 車を停めて店内に入るが、やはり平日だからか人は少ない。 母さんは手際よく商品を選んでいく。女物の服はよく分からないので正直助かる。 間に合わせと言いつつ、「あんまりダセぇ格好されるとアタシが恥ずかしい」とか言う良く分からない理由で、 何気に真剣に選んでくれているのは有難いやら迷惑やら。試着を何度もさせられるのは疲れるんだよ…。 「よっし、あとは下着だな。ブラは店員にサイズ測ってもらえ」 「え、母さんと同じくらいだろ?わざわざ測らなくてもいいんじゃね?」 「こればっかりは大体で済まさない方がいいんだよ。店員さーん、この子のサイズ測ってもらえます?初めてブラ買うんですけど…」 出ました「よそ行き」モード。家族+昔からよく知ってる涼二以外と話す際には、この状態が基本形だ。 お上品と言うわけではないが、随分と柔らかい口調に変わる。 あんな車に乗っているくせに近所付き合いが良好なのは、これに起因するようだ。 応対してくれる店員さんに連れられ試着室へ。薄着にはさせられたが、一応脱がずに測ってくれた。 「G65くらいで良さそうですね!」 「じ、GってGカップ!?そんなにあるんすか!?」 「えぇ、トップが88cmで、アンダーが63…」 「あー、えっとその、昨日女になったばかりで全然意味が…」 昼のシャワーの時に、無駄に大きい…と思ったのは事実だが、Gだって?何かの間違いじゃないのか? 母さんの話を思い出し、正直に元男の旨を伝える。 「そうだったんですか~!ではサイズについて簡単にご説明しますね!」 慣れているのだろう、深く突っ込まれる事無く説明に入ってくれた。 全ては理解出来なかったが、ブラのサイズはアンダーバストとトップバストの差で決まるそうだ。 アンダーが65前後だと、身長がそこそこある場合はGカップでもそこまで大きく見えないものらしい。 Gカップと言うと爆乳なイメージしかないが、アンダー次第って事か。 ただし俺の低身長な体型に置き換えると、結局は相対的に大きく見えてしまうんだそうな。奥が深い。 「ウエストも細いですし、薄着になるとかなり目立つかと」 「…いざ女になってみるとあんまり嬉しくないっすね…」 「贅沢な悩みじゃないですか!さて、G65ですと…この辺りになりますが、どう致しましょう?」 「うーん、可愛らしい柄が入ってるのとか、飾りがついてるのは…まだちょっと恥ずかしいですね」 最低限の要望だけ伝え、店員さんにブラとショーツを3セット適当に見繕ってもらう。 女の子っ!と主張し過ぎない、無地で比較的大人し目の物を選んでくれた。 色はまぁ…ふんわりとしたパステルカラーのピンクやら水色やら、だが。 確かにこの辺りが一番無難だろう。これでいいか。 あの迷彩柄のやつなんかカッコイイんだけどなぁ。 俺の体型では似合わないのは自分でも分かるので、仕方あるまい。 持ってきてもらったブラを試着する。…と言うか、着け方を教えてもらう。 結局脱ぐんじゃねーか。恥だ。 店員さんに礼を言い、待っていた母さんに精算してもらう。 「サイズ、どーだった?」 「えーとG65?とか言われたけど」 「なんだ、結局アタシと同じかよ。測らなくても良かったかもな」 「色々勉強になったから結果オーライだよ」 そのまま店を出て、今度は制服を取りに行く。 また試着かよ。もううんざりだ。 一日でこんなに試着なんて、そう滅多にある事ではない。 試着室で母さんに手伝ってもらいながら制服を着て、鏡の前で自分と向き合う。 明日からこれを着て…学校に通う。そう考えるだけで、気分が滅入る。 僕は童貞でしたーっ!今は処女でーっす!と大々的に宣言するのと大差ないという事もあるし、 いくら女体化が一般的な現象だと言っても、変貌した姿に多少なりともリアクションがあるのは避けられないからだ。 クラスの先人達も、最初は好奇の目で見られたものだ。 まぁその頃は俺も、見ていた側なんだけどな…。 …ダメだ。ネガティブになったらダメだ。 騒がれるのは数日だけ。世間の関心はその程度。 人の噂も75日と言うが、そんなに待つ必要はないのだ。 落ち着きさえすれば平穏に暮らせる。 まぁ事あるごとに女体化ネタで弄られるのは御愛嬌だが。ソースはうちの母さん。 その後は美容院に移動した。 母さんは美容師さんに挨拶だけして、「切ってる間に夕飯の買い物してくらぁ」と言い残して去っていった。 「こんな感じが良いとか、希望はあります?」 「全然分かんないのでお任せでいいっす。丸刈りにされても文句は言いませんから」 「う~ん、学校があるから派手なパーマはまずいかな。 折角癖のない髪なんだし、内巻きに短めでカットして重めのボブにしてみます?結構ガッツリ切るけど平気かな?」 「は、はぁ…じゃあそれで」 よく分からんが結構切るようだ。 さらばロン毛。丁度丸1日くらいか、短い命だったな。 形がおおかた出来上がってみれば、所謂おかっぱ頭に毛の生えた…いや、毛は生えてるか。 もとい、おかっぱを今風にした感じと言えば良いだろう。 「女体化しちゃったコはこんな感じにする事が多いんだよね~」と教えてくれた。 確かにこのくらいならそこまで邪魔ではない。 女体化野郎の定番というのも納得だ。 最後の微調整をしているところで母さんが迎えに来た。 「あ、西田さんお帰りなさい!もうちょっとで終わるんで、座ってお待ちくださいね」 「ただいまー。随分バッサリ切ったんだねぇ」 「西田さんに似て素材が良いから、とっても可愛くなりましたよ~」 「またまたそんな事言って!」 母さんと美容師さんのやり取り、世辞とは分かっていても…容姿を褒められるのに免疫が無いのでテンパってしまう。 免疫があるくらいだったら女体化なんてしなかっただろうし。 さて微調整も終わったようだ。これでやっと、長い一日から開放される。 「…今はアタシも専業主婦だからこれがフツーなんだけどさぁ。こうして学校サボってぷらぷらしてんのって、 悪い事してるみたいでワクワクするだろ?」 帰りの車中、母さんが薮から棒に喋り出す。つーか… 「いや、これはサボりじゃないだろ…」 「そりゃそうか。まぁ折角だ、一本いっとけよ」 そう言いながら、セブンスターの箱から煙草を一本取り出して自分の口にくわえ、残りをこちらに向けてくる。 「これこそ悪い事じゃねーか!」 「んー?去年くらいだったか?妙に煙草の減りが早い時期があったんだけどなぁ??」 …バレてたのか。 「…ほんと、隠し事は出来ないもんだな」 どうせこの車はフルスモだ。外からは見えない。 まぁ、折角だしな、頂くとしよう。 煙草とライターを受け取り、火をつける。 「…あー。なんか美味いかも。前はそんな事思わなかったのに」 むせるかと思ったが、新しい身体は意外とすんなり煙を受け入れた。 ニコチンが五臓六腑に染み渡り、疲れた身体をリラックスさせてくれる。…気がする。 これで身体に害が無ければ最高なのにな。 「勧めといて言うのもアレだけど、今後も吸うなら家の中だけにしとけよ? 学校で吸うのはナシだ。面倒事起こされたらたまんねぇからな」 分かってるって。DQNになりたいわけじゃない。 ただこの、学校をサボって悪いことをしているワクワク感ってのは分からなくもない、かな。 こちとら女体化で色々大変なのだ。このくらいなら罰は当たらないだろ。 …なんだかベッドが大きく感じる。 今は夕食と風呂を済ませ、自室でごろごろしている。 自分の部屋なのに妙に落ち着かない。 本棚の上の方に置いてあるマンガとか、どう考えても取れないよな…。 あそこに置いた過去の自分をぶちのめしたいんだが、何か良い方法は無いだろうか。 そんな事を考えていると、すっかり携帯の存在を忘れていた事に気付く。 見ると涼二からメールが来ていた。 『体調はどうだ?明日は学校行けるのか?行けるんならいつもの時間に迎えに行くから待っててくれwwwwww全裸で。』 うぜええ!最後超うぜええぇ! 「えー『明日は学校行ける。お前には特別にJKの登校に随伴する許可をやろう。 妙な事しやがったら、助けて犯されるーッ!って泣き叫んで性犯罪者のレッテルを張ってやるからな!』、送信っと」 他にも何人か、クラスの連中から「心配してるよ」的なメールが来ていた。 女体化は誕生日の朝に自然と女になっているのが普通なのに、 俺は皆の前で突然のたうちまわりながら女体化したのだから、身体に異常があると思われても仕方ないだろう。 あんな不気味な光景、見た側はトラウマになってもおかしくないのに。皆良い奴だなぁ。 返信返信っと。 藤本からは…メール、来てないな。 …むしろメアド交換すらしてないんだけども。 む、涼二から返信だ。 『なにそれこわい。まぁ元気そうでなによりだwwwwんじゃまた明日な!あ、ツレなんだから乳くらい揉ませてくれるよな?(チラッチラッ)』 だから最後がうっぜーんだよ!無視だ無視! その後もクラスの連中からの返信に対応しているうちに、なんだか眠くなってしまった。 まだ22時前だけど…寝るか。今日はホントに疲れた。 317 名前: ◆suJs/LnFxc[sage] 投稿日:2011/11/13(日) 02:22:50.58 ID:Kmr64UlX0 [11/12] 今回は帰宅+生活準備編でした。 ブラジャーのくだりについては、自分で調べた勝手な解釈なので間違ってるかもしれませんorz 前回投下分を読んで下さった方、マジでありがとうございます。 しかしDU-02氏からレス頂けるとは思いませんでした! 最近見掛けなかったので心配しとりましたwwwwww 当方、安価『ファミレスとコーヒー』の井上先輩が大好きなのです。 にょたロリビッチは至高と考える自分は少数派なのでしょうかね。 書き溜めが若干心許なくなってきたので、暫く書き溜めに入りたいと思います。 通勤時間や昼休みにもしもしでぽつぽつ打ち込んだ物をPCに送って編集してるので遅筆でして…。 ではでは、もっと人が増える事を期待しつつ。 ----