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    <title>みんなで中二設定持ち寄って、一つのストーリー作ろうぜ＠wiki</title>
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      *みんなで中二設定持ち寄って、一つのストーリー作ろうぜ＠wiki

**1 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします：2009/09/21(月) 17:00:10.43 ID:wCdOcMpqO
**&amp;space(8)もしもしからですいません

この発言から全てが始まる―――。

****方向性
　　 …体裁としてはシェアワールドだが、正史となるメインストーリーを一本、作成する予定。
　　 　 シェアの内容は、設定を共有し、時系列はとくに縛られない。各話は同じ作者で完結する。

****まとめ役：◆ZCIC6RQQFo氏
****wiki編集者：VIPPERの方々
****考案者：VIPPERの方々



-避難所(パー速)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1265200299/l50

-小説、キャラ投下はこちら（したらば）
http://jbbs.livedoor.jp/internet/6216/

-過去スレ
part1　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253520010/
part2　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253536631/
part3　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253565067/
part4　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253673154/
part5　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253831888/
part6　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253967176/
part7　http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1254621595/
part8　未定
part9　未定
part10 未定

-過去スレ（パー速）
http://ex14.vip2ch.com/part4vip/kako/1253/12538/1253812956.html
http://ex14.vip2ch.com/part4vip/kako/1255/12558/1255865146.html


- 最近、腕のあたりの第三の目が痛いです。助けて。  -- 名無しさん  (2009-09-24 19:41:51)
- 波ーーーーーーーーーーーッ！！！  -- 名無しさん  (2009-09-24 19:45:06)
- ↑Tさん、ありがとう  -- 名無しさん  (2009-09-24 19:45:21)
- Tさんは間違いなくSランク  -- 名無しさん  (2009-09-24 20:23:37)
- ＳなんてもんじゃないＳの上に存在する究極のランクだ  -- 名無しさん  (2009-10-01 17:29:53)
- つまりはSを超えるT！　Tランクだ……！  -- 名無しさん  (2009-10-01 17:30:27)
- みんな！Tさんが学園都市に侵入してるって噂が・・・  -- 名無しさん  (2009-12-23 11:36:03)
- Tさん本編ﾏﾀﾞｰ  -- 名無しさん  (2009-12-29 10:54:31)
- ↑Tさんが圧倒的すぎて戦闘シーンが淡泊になるだろ  -- 名無しさん  (2009-12-30 11:36:03)
- イヤッホォォゥゥゥ！！　俺は7777人目の閲覧者だァァァ！！  -- 名無しさん  (2010-04-06 01:29:26)
- ここのコメント機能意味ねえなァ  -- 名無しさん  (2010-08-05 06:37:36)
- 編集乙  -- 名無しさん  (2011-09-27 01:26:28)
- (´・ω・｀)  -- 名無しさん  (2014-07-20 07:31:36)
#comment()    </description>
    <dc:date>2014-07-20T07:31:36+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/104.html">
    <title>したらばＳＳ作品　恋バナ的な◆r77gGG6uoY　第二話「恋の迷路」</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/104.html</link>
    <description>
      　第二話　「恋の迷路」　五番町空繰の転機

　今日も朝から蒸し暑く、窓を開けると温い空気が部屋を占拠しようと一気に雪崩れ込んできた。エアコンによって快適な温度まで冷やされていた室内の空気が逃げ惑い霧散していく。その圧倒的火力による一方的な暴虐を肌で感じながら空繰は曇天を見上げた。梅雨が明けたというのに季節が戻ったような天気だ。昨日の夜までは星光が見えるくらいの快晴だったのだが、今日は一転、どんよりとした白鼠色の雲が空一面に広がっている。もしかしたら雨も降るかもしれない、空繰は胃の辺りを擦りながら傘を持っていこうか悩む。
　最近、何だか食傷気味だ。実際の食べ物ではなく感情食の。
　食べた感情は胃で消化するわけではないので意味は無いと思うが、何となく胃を擦って労わってみる。形の無いもので不調を来しているのなら、その治し方も気分が大切なのだ。しばらく、そうしていると何となく楽になってくる。そう、この感じが大切。あとはもう大丈夫だと思いこめばいい。要は、気の持ちようだということ。さて、感情を食べるのもいいが普通の食事も取らなければ。感情をいくら食べても身体の栄養にはならないのだ。
　空繰は欠伸を一つすると朝食の準備のため部屋の中へと戻っていった。

　この学園都市における高等部の授業カリキュラムは、その他の学校のそれとは多少、異なる。
　午前中の半分は特殊能力に関する授業となる。特殊な能力を扱う能力者ではあるが、その強大な力に振り回されてしまう者も少なくない。自らの能力を理解し、それをコントロールする。これが能力者としての一歩目となる。次に能力の理解。アクターなどは強くなることを目標に日々、努力しているものも多いが、学園としては能力強化は推奨していない。教えるのは能力の在り方と使い方。そして、能力者としての生き方。
　能力者というのは、自分が周りと違う力を持っているからかどうかは分からないが「自分が最も強い」とか「自分こそ至高の存在」とか過信した上で、歪んだ思想を持っている者もいる。そういった残念な能力者にさせない為に、この学園は造られたともいえる。能力者は全世界人口の０，００１％にも満たない貴重な存在。世界の宝とも呼ばれている。だからこそ、その能力は有意義に使う義務があるのだ。
　残りは興味学習といって、各々、好きな分野の勉強を高いレベルで深く行う。これは現在の日本の教育要綱にも記されており、全国の学校で広く行われている授業方法だ。
　人口減少が顕著になりつつあった２１世紀中頃から終期にかけて、日本の教育体系は崩壊した。学校に意味が無くなり、教育の効果は薄れて消えた。その時点で学校という場所は、ただ通過するのを待つだけの刑務所に変わり果てた。ならば、そこに収容される子供達の無限の可能性を秘めた貴重な刑期が少しでも有意義であるようにしなければならない。そこで、当時の大人達があれやこれやと悩んだ結果、生み出されたのが興味学習である。
　結局のところ子供(というか人間)は自分の興味のあることにしか、やる気が出ない。それなのに全体を薄く撫でるような教育をしていても意味が無いのだ。時間の無駄である。その子が全く関心を抱かない分野の知識をいくら詰め込んでも将来、役に立つ確率は低い。過去の教育では、自分で考えることが出来ない、応用が効かない、自己判断が出来ない、上っ面の知識だけが豊富で賢く見えるだけの馬鹿が量産されるだけだった。それならば、好きなことをとことんやらせるのだ。教師が教えるのではなく、生徒が自ら学んでいく。これでようやく「学習」というものに意味が生まれる。世は何にでも応用の効くマルチタイプの人間を必要とはしなくなった。多くの才能を持って生まれてくる人間はいるが、多くの才能を開花させる人間は殆どいない。それに人は気付いただけでもある。その授業法も８割はディベートやディスカッションを主体としており、自ら考え意見できないものは生き残る事ができないだろう。

　時計の針は１２時を回り、１２時２０分。午前のカリキュラムを消化し、環凪島もお昼休みとなる。
　がやがやと騒がしくなる教室の一角で、空繰は鞄から弁当を取り出す。空繰は食事は一人で済ませる派である。というか食事中に喋る事が出来ないのだ。別に、口にモノを入れたまま喋るんじゃない。とか言うつもりはないし、友達同士、楽しく話しながら昼食を取る、というのも学生らしくていいと思うが、空繰的には食事は黙って済ませるものなのだ。友達との談笑は食事後でも十分である。
　空繰が弁当を半分ほど食べたところで、教室の開け放たれたままのドアから真っ黒の謎の物体が侵入してきた。
　それは黒。
　黒というより漆黒である。頭から墨汁を被ったように、まるで影が実体化したかのように真っ黒な何か。そして、その上に誰かが乗っていた。真っ黒の何かとその上に乗っている誰かは教室で平和な日常を謳歌していた生徒の視線を集めながらも気にする様子は無くゆっくりと進む。そして、黙々と食事を続ける空繰の前で止まった。
　空繰と親しい友人は空繰が食事中は話さないというスタイルを知っているので基本的には話しかけてこない。つまり、普段はあまり接点の無い人物ということになる。
　空繰の前まで来ると「ちょっといいかな？」と声がかかる。静まりかえった教室に女性特有の高いソプラノが響いた。
　少女は真っ黒な何かから降りると空席になっている空繰の前に座る。肩まで伸ばした黒髪、色白で背は女子にしては少し高く、空繰と大差ない。あまり生気が無いというか生活感の無い部屋のような、人形みたいな雰囲気の美少女。キチンと整えられた真っ白なＹシャツの襟には空繰と同じバッジが付いている。空繰はしばらくモグモグと口を動かしていたが咀嚼が完了すると飲み込み、箸を置くと「なに？」と簡潔に返した。
「今日の放課後、付きあってほしいの」
　教室に激震、走る。
　要点だけを伝えたその言葉に、教室中が度肝を抜かれた。空繰は相変わらずの仏頂面で、しばらく止まっていたが「構わない」と静かに伝えた。美少女は「そう」と少しだけ微笑み「じゃあ、放課後にまた来るから」と言い残すと、来た時と同じ様に真っ黒な何かに乗り教室を出て行った。その後姿を見送ると「さぁ、空繰君。どういうことか説明してもらおうか」と友人たちが詰め寄る前に、空繰は箸を取った。駆け出そうとしていた男子生徒は腰を浮かせたまま、つんのめる。箸を取ったという事は食事再開の合図。こうなると食べ終えるまでは空繰に話しかけても無駄だ。
　体よく窮地を切り抜けた空繰は、この後、津波の様に押し寄せる質問をどう、かわしていこうかと考えながら卵焼きを口に運ぶ。うむ、我ながら美味い。彼女がつけていたバッジは『風紀委員』のもの。となれば、十中八九『仕事』だろう。それも普段とは違うものだ。なんせＡランクのアクターが伝令として借り出されるくらいなのだから。委員長直々の特命か、五賢帝の勅令か。どちらにせよ面倒事には変わりないだろう。
　今後、自身の身に降りかかるであろう厄介事に一瞬、気が沈むが冷静を取り繕い食い潰す。空繰という能力者にとって「未来を憂う」ということは一番やってはいけないことだ。起こるかどうかも分からない事にまで気持ちを左右される。そんなことをしていたら、いくら他人の感情を食べても追いつかずに空繰の心の天秤は傾き続けてしまう。それにマイナス方向に心が傾くという事は、他人のプラスの感情を食べなければいけないということ。これは人の幸せを奪う事に等しい。幸福感や愛しさといった感情を奪ってしまう事はそのまま人格や人間関係の破綻にも繋がる。だからこそ空繰は自身の心を精密に制御し続ければいけない。それが五番町空繰という特殊能力者に与えられた義務であり運命であり日常。
　不幸なことなのか幸せなことなのかは置いといて。
　箸は置かずに、目を閉じ自分の心を観察する。大体のマイナスは潰した。空繰の心は今日も深い森の奥に佇む湖畔の様に穏やかである。ただ一つ、いつもと違う部分がある。昨日から海底火山の様にブクブクと沸き続ける感情。勢いは大したことは無いので、問題ないが。好奇心・情景・親近感・愛しさ、この四つが安定しない。原因は分かっている。タイミングから考えても間違いないだろう。雅綺麗煌。この不安定な状態が続くようなら一度会って話してみる必要があるかもしれない。
　パックのお茶を飲み、一息ついたところで箸を置く。と同時に背後に気配。取り押さえられる。思考の海に飲まれていたのですっかり忘れていた。まさかの奇襲に空繰の身体は追いつかない。空繰の自由を拘束しようと無数の手が伸びる。と、そこで昼休みの終わりを告げる鐘。「チッ！」っと舌を鳴らし、今世紀最大の大物を取り逃がしたかのような顔で男子生徒が散っていく。
　危なかった。久々に冷や汗というものを感じた気がする。空繰は安堵のため息を吐くと午後の基礎学習の準備を始めた。

----------

　第二話「恋の迷路」　雅綺麗煌の難題

----------

　寝不足だ。テンション上げすぎて全然寝れなかった。
　美姫に叩き起こされ、美姫の用意してくれた何かを朝食として食べ、ドアを開けた瞬間の熱気で卒倒しそうになり、曇り空に愚痴を言い、９時開始の１限の応用学習は気が付いたら終わっていた。
　時刻は１０時５０分。２限が始まる。因みに高等部以上の１コマは９０分である。
「今日は前回の超能力系の続きから。自然能力系。１１８ページからになる」
　先生の声に合わせてブックＰＣの画面を弾く。ページが(画面内で)めくれていく。
　このリアルにページがめくれるという機能はいるのだろうか。多分、いらない機能だ。２限は特殊学習。特殊といっても特殊能力のことである。
「えー、自然能力系とはその名の通り自然界に存在する現象を操る能力だ。木火土金水(もっかどこんすい)の五行に基づき無能力者が操る事が出来なかった偉大なる自然界の力の一部を借り、その身に宿し能力とする」
　この環凪島で自然能力系といえば、風紀委員の五賢帝だろう。
　ぶっちゃけ、アクターとしての戦闘能力の高さならば自警団の十王の面々の方が上だし、当の五賢帝が全員、自然能力系で木火土金水の能力者が一人ずついるわけではない。っていうか、現在の五賢帝で自然能力系の能力者は２人しかいないのだが、とにかく自然能力系といえば風紀委員というのが環凪学園の常識である。何故かは知らないけど。
　因みに、超能力系といえば我らが生徒会であり、構成操作系といえば自警団である。とはいえ、そういう風に分かれている訳ではない。生徒会にも自然能力系や構成操作系の能力者はいるし、自警団にだって超能力系も自然能力系もいる。自警団の団長は超能力系だし、十王の半数近くは実は自然能力系なのだ。でも、自警団といえば構成操作系なのである。
　結局のところ理由は不明。
　だけど、生徒達の間では当たり前の事として認知されている。
　誰も理由は答えられないのだけれど。
　環凪学園の七不思議の一つと言えるかもしれない。
　ホントなんでなんだろう？　各組織の結成当時に秘密が隠されていたりするのだろうか。
「五行思想、及び五行相生・五行相剋に基づいており、木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ずる。また、水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ。という関係も確認されている。まぁ、相剋についてはランクが異なる場合、一概には言えない。強力な炎に水をかけても消えないように、大量の水は植物を枯れさせるように、強固な岩盤には植物の根が広がらないように反剋が起こる。さらにその逆となる相乗も起こりえることが確認されている」
　『反剋』とは相剋の逆位置にあるものである。通常の五行相剋であれば、火は水に弱く、水は木に弱い。
　だが、弱い立場にあるものでも、それ自体が強烈な力を持っていれば相性の悪さなど吹き飛ばすのだ。
　能力者で言えば、ランクが目安となる。基本的に同ランクであれば、優位に立っている者の方が勝つだろう。ランクが１つ違うと反剋が起こる可能性がある。２つ以上の差がある場合は殆どの場面において反剋が起こるだろう。
　Ｓランクにおいては、そもそもが別格であるからして、同じＳランク以外の能力者は相手にしないのが得策と言えよう。Ａランク以下の能力者がどれだけ足掻こうと無駄に等しい。
「…では、『木』の説明から入ろう」
　いいなぁ、手から火やら水やら出たら楽しそう…。
　…。
　……。
　………。
　…うへ。
「『木』という性質は気学では、四緑を風、三碧を雷とし、その他の性質も併せ持つ。とはいえ、それらは中間性質に近く、一様に『木』の性質を持つかと言えばそういう訳ではないので戦闘を行う際には注意が必要だ」
　誰一人、綺麗煌の脳内異変には気付かない。
「この性質での純粋なＳランクはいないが、もし生まれれば間違いなく最強の能力の一つと呼べるだろう。なぜなら『木』の本来の性質は、生命や存在そのものだからだ。火の能力と相性が良く、金の能力と相性が悪い。続いて…、」
　…うふふ。……おぉ。…うふふふ。
　綺麗煌が脳内で『魔法少女キラキラ』のＯＰムービーの制作に没頭している間も授業は進む。
　そして、そのまま１２時２０分を向かえ授業は終わった。
　脳内ＯＰムービーに関しては改心の出来である。正直、映画化したい。そしてノート用のＰＣの画面は真っ白である。 
「綺麗煌ー、さっきの授業のさー…、…アンタ何してたの？」
　授業が終わると美姫が駆け寄ってきたが、真っ白な画面を見るなり、怪訝な表情へ変わった。
「…え？」
「いや、いいや。Ｓランクの説明のとこ聞こうと思ったんだけど、アンタまた夢の世界へ行ってたみたいね」
「Ｓランクの…、どこ？」
「ん？　あぁ、神代の炎のとこ」
「全部じゃん。えー…っと、ねぇ。神代の炎ってのは、自然能力系Ｓランク『愛宕 輝彦(あたご てるひこ)』さんって人のこと。
　『事象操作能力』『絶対能力』についで最も希少なＳランク系統で特殊能力者史上、現在まで彼を含め３人しか確認されていない『神代の能力』を持つ能力者よ。
　火を操る能力者の一人なんだけど、地上の火を自由自在に操るのは勿論、彼自身が生み出し身に纏い操るのは『神代の炎』ってやつ。『神代の炎』ってのは即ち、神の火、又は命の炎。これほどの熱量を誇る火は今やこの地上には存在しないし、灯すのも消すのも彼にしか出来ない。
　神の火は敵に対しては、その者の存在と命を燃料に変え、その全てを灰燼に帰すまで喰らい尽くす獰猛な化け物として暴れまわるの。身体を、魂を、命を、存在全てを生きながらに燃やされる苦しみはまさに焦熱地獄といえると思うよ。優位に立てる水を扱う能力者だって迂闊に近づいたらダメ。中途半端な水の能力なんて反剋で喰い潰されちゃう。その火は、まだ天と地の境が今よりも曖昧だった時代に神々が魔を滅ぼす際に使っていた武器だから、ね。
　因みに神の火は陰陽五行における神道との関係で炎帝(カグツチ)を火行の神として置いてるのが元ね。愛宕さんの能力も火之三神と通じる能力らしいし…、」
　愛宕輝彦。火系能力の頂点に立つ能力者。先祖返りの現人神。
　彼の名字である『愛宕』とは、火伏せ・防火に霊験のある神である愛宕大権現に由来する。
　名前である『輝彦』。輝(てる)は、輝く、という意味。古くは『拡(かか)』という字を書き『迦具(かぐ)』とも同じ意味をもつ。彦(ひこ)は男性であることを示すもの。神と同じこの名を持つ愛宕輝彦が『火之三神(火之夜藝速男神・火之拡皛顛澄Σ佛群犇馘攷)』と通じたのも必然といえば必然なのかもしれない。
　名は形を持たない神にとって何物にも変えがたい大切なものである。自らのソレを証明する重要な要素なのだ。だからこそ人が神と通じるには、同じ名を持つ、ということが重要となる。それだけで神と通じられる訳ではないが、同じ名を持っていなければ、その神へと至る最初の一歩を踏み出す為の鍵が無いに等しい。
　そして、その先で神にたどり着くことが出来れば、神の力を得ることが可能である。
　神の力は須く絶大である。愛宕輝彦個人で言えば、神火状態の彼の得意技『炎天』。「炎天来迎」の一声と共に、空を貫くような巨大な火柱を立て、その炎が空一面に広がり全天を包む技である。まさに神業。空一面、見渡す限りの天空が燃え上がるという、この世の終わりのような光景を見せ付けられた者はその殆どが力の差を思い知り、地に膝を付く。
　だが、これは彼曰く、威嚇でしかない、らしい。その状態で戦闘が続いた場合(まぁ、十中八九無いが)、彼が次に起こす神業は『火の雨』である。空一面を覆い尽くす炎が地に降り注ぐのだ。通常の自然現象を超越した神話の再現。ちなみに、神話の再現をすると彼がその能力を貸してもらっている神たちが喜ぶそうだ。
　彼の能力は『神代の能力』である。要するに神の力を扱う。そして、世界中に存在する数多の神たち。その神には各々に神話が用意されている。神の特徴は、その神話に由来する。
　どういうことかというと、もし、Ｓランクの能力者、現人神、愛宕輝彦の弱点を知りたければ、日本神話を読み漁るのが最も早いだろう、ということ。神話において彼の神が苦手としたこと、彼の神が嫌ったこと、彼の神が負けた相手や原因、彼の神を殺した方法、などだ。神話の神々は過去の存在であるからして、進化することはあり得ない。昔の弱点を、そのまま持っている。当然、その力も神話のままだ。
　ちなみに『火の雨』を防ぐ方法は『岩の家』である。神の力は絶大ではあるが、その力は神話以下にならない代わりに神話以上になることもない。過去にそれを防いだ方法が、そのまま通用するのだ。
「…。…相変わらず意味不明な記憶力と知識量ね…」
「そうかにゃー？」
　雅綺麗煌。環凪学園定期試験における学年別総合ランク、第３位。
　本人は特に思うところは無いようで、熱心に勉学に励んでいる様は見受けられない。 

「学食行こーぜぇ、美姫ぃ」
「あー、ごめん。私ちょっと行くトコあるんだよね」
「えぇえぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇえええぇぇぇえぇええぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇええ」
「じゃ、そういうことで！」
　綺麗煌の必死の抵抗も虚しく、美姫はさっさと教室を出て行ってしまう。
「なんだよー」
　一人、ふて腐れるが、空腹には勝てない。ぽてぽてと廊下を歩く。なんかウインナー食べたいなぁ。ウインナーっていうか、お弁当が食べたい。卵焼きとか、そういうの。お弁当だと冷めたご飯が美味しくなる不思議。
　その途中、一人だし、ちょっと、あの人の教室でも覗いてみようかと思いつく。あの人のことを考えるだけで、気分が弾む、足も弾む、浮き足立つとは正にこのことか。
　方向転換。廊下を歩きつつ、途中、思わずスキップしそうになるが、我慢して歩く。
　いやー、ほら、私って、あれじゃん？　こういう風に普通に歩いてるだけでも、なんかモデル歩きみたいになっちゃうんだよねー。いや別に意識とかはしてないんだけどさー。なんて言うのかなー、身体に染み付いてるみたいなー。ははっ。
　うわぁ、今の脳内自分ウゼェ。モデル歩きとか出来ないし。ウザ可愛いみたいな感じの自分を妄想しようとしたら、ただウザいだけだった。
　そんなこんなで、あの人の教室前に到着。
　そのまま歩き続ける。たまたま通りかかっただけです、という雰囲気を装い、さりげなく横目で観察。歩調は変えずに、横目でチラリ。
　チラリ……、…！？。チラリーーーーーー…。
「……、え…？」
　なんか、あの人が女の子と一緒にお昼食べてた。
「……、えーっと…？」
　何が起きたのか説明しよう。
　チラリ……(←これは一度目のチラ見)、…！？(←ここで驚愕の事実に遭遇)。チラリーーーーーー…(←思わず二度見＆ガン見)。
　なんだあれ。っていうか、誰だアレ。数秒の映像を頭の中でリピート。リピート。リピート。
　クソッ、顔が出てこない。私の目は節穴か。
　断片的な情報を繋ぎ合わせる。黒のショートカット。色は白かったな、ちょっと不健康なくらい。細いし。あと、アレは何だったのかよく分からないけど、黒くてデカいのが、ね。なにアレ？　墨汁魔人？　墨汁の精？　じゃあ、なに、あの子は墨汁の能力者？　なんだそれ。
「うーー…」
　唸る。不透明な現状に。不明瞭な未来に。
「むーー…」
　考える。何を考えればいいのかもよく分からないが、何かを考えている振りをしていないと今にも脳内から不安と不満が溢れ出て爆発しそうなのだ。
　疑問は限りなく、不安は際限なく、湧き出ては消えていく。不安を見たくないので疑問で蓋をする。
　全ての疑問は最終的には「あの子は誰？」という一つの問いに帰結し、その解が得られない事で脳内会議は解散となる。解散と同時に、新たな切り口を模索し、再び会議は再開される。そして、また同じ問いで行き詰まり、終わる。
　そんなことを、そんな意味のないことを昼休みいっぱい続けた。空腹は、衝撃の事実があまりにも重すぎて胃袋の中にまで雪崩れ込んできたので消えてしまった。
　校舎の中をぐるぐると歩き、同じ事を考え、同じ問題で挫ける。
　先に進めなかったのではない。先に進まなかったのだ。
　そう、私は、雅綺麗煌は先に進むのが怖かった。意図的に現状を維持しようとした。
　答えを求めるのであれば、すぐにあの人に聞きに行けばいい。一緒にお昼を食べていた彼女でもいい。どういう関係なのかと聞けばいい。すぐに答えは提示される。
　私は反射的に、その答えを放棄した。答えを見たくなかった。答えを知ってしまうのが怖かった。それが、その答えが、もし、私の思い描く最悪の未来だったらと思うと、私の足は竦み、心は目を背けてしまう。
　早計だろう、と頭の片方は言う。最悪の未来を否定する。ただ、話しをしていただけだろうとも言う。
　しかし、不安は「なぜ？」と疑問を生み、疑問は「どうして？」と疑惑へ変化し、疑惑は「もしかして」と疑心へ堕ち、私の心は暗鬼に支配される。
　疑心暗鬼。暗い闇には鬼が巣くう。暗い心には鬼が巣くう。その暗闇には鬼はいるのだろうか。その深淵にいるかもしれない。その暗黒にいないかもしれない。いたとしたら、という不安。それとも、この闇こそが鬼なのか。
　そんな私の凍りついてしまったかのような色の無い昼休みは何かしらの解答を得られることもなく、午後の基礎授業の予鈴によって強制的に解凍された。 

　◆

　綺麗煌を半ば強引に振り切った美姫は、そのまま高等部の校舎を出る。
　エレベーターで３階へ、そのまま連絡通路を渡る。エスカレーターのステップをパタパタと鳴らし、全天候グラウンドで思い思いの青春を過ごす学生たちを横目に一路、中等部へ。
　高等部と造りは大して変わらない。美姫は目的地へと向かう。
　環凪学園中等部、特別棟。委員会や部活動等の活動でのみ使用される教室だけが集まった場所。
　放課後以外では、人もまばらなこの場所に人目を避け近づき、堂々正面から進入。特別棟、最上階を目指す。

　美姫は特別棟、最上階の一室でとある少女と出会った。その黒髪で長めのポニーテールという髪型の、一言で言えば素朴で可愛らしい少女はどのような理由で呼び出されたのかは分からないが、疑うということを知らないのか、怖いもの知らずなのか、美姫がその類まれなる容姿のせいで多少、有名だったのが幸いしたのか、笑顔で接してきた。　
　美姫は彼女と目が合った瞬間から、自らの能力を発動させていたという。その後の調査で、正確には、中等部に移動した時点で発動していたそうだ。
　美姫が一つのお願いをして、少女が首を縦に振るまでそう時間は掛からなかった。


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　第二話　「恋の迷路」　五番町空繰の失念

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　その日の放課後。２人の男女がとある無機質な建物の中を進む。
　デートのお誘いのような雰囲気で言われたが、そこに私情を挟むだけの余裕は感じられなかった。言葉でも行動でもなく、空繰は有無を言えずに強制的に連行されている。見えない鎖で引っ張られている気分だった。こういう人、というよりも能力の高いアクターは個人的に付き合いにくい人物だ。
「…、護衛…、か」
　空繰は唐突に振られた単語を相変わらずの仏頂面で復唱した。
「そう。護衛。まぁ、詳しい話しはあとで」
　そう言いながら空繰を教室から連れてきた、昼休みに真っ黒の謎の物体に乗ってきた美少女『影山 愛(かげやま あい)』は通路を進む。ちなみに現在は普通に歩いている。
　環凪学園、風紀委員会本部。
　巨大な生徒会本部に比べれば、その規模は小さい。旧、室内演習場を改修して建てられたもので建物としての強度だけなら学園内一を誇る。まぁ、意匠としては下の下。無機質で無骨。故に一部の女子生徒からは、すこぶる評判が悪い。空繰としては無意味にごちゃごちゃとしておらず、わりと好きな方なのだが。
　意匠としては低いが、改修済みである為、見てくれは真新しい。白を基調とした色使いは清潔さに溢れる。ただ…、こう、それ以外、何も無いのだ。
　そう。丁度、目の前を歩いている、この美少女のように。
「どうかした？」
「いや、なんでもない」
　少し視線を送っただけで、これである。僅かな気配の変化を感じ取って振り返った影山愛をやんわりと流し、空繰は心の中で小さなタメ息をついた。
　やはりＡランク以上で多くの経験を積み洗練されたアクターというのは自分のような一般人には付き合いにくい。そう再認識する。
　まるで病院のような廊下の突き当たりで影山愛は歩みを止めた。空繰も、それに倣う。
　ここへ入るのも久しぶりだ。
「…？　そう」
　影山愛は大して気にしていない様子で、目の前の扉を２回ノックし、開けた。
　環凪学園、風紀委員会本部、会議室。そこには、錚々たる顔ぶれが集合していた。風紀委員に所属する最高クラスの戦力、と言っていいだろう。
　長方形の長机が整然と並べられ、風紀委員の面々が座っている。皆、空繰たちにチラリと視線を向けたが、その視線はすぐに前方へと戻される。その前方には、風紀委員長『夕雁 紅葉(ゆうがり もみじ)』がいつになく厳しい表情で着席している。
　影山愛は涼しい顔で近くの席に着席する。空繰もそれに続く。着席し時間を確認すると腕時計の針は午後４時を差していた。
「時間よ。始めましょう」
　年に一度、出すか出さないかという真面目な声色で、凛と空気を震わせて夕雁紅葉が号令をかける。
　夕雁紅葉の号令に合わせて一人の女子生徒が壇上に立った。
　黒髪ロングヘア、メタルフレームの眼鏡に冷ややかな雰囲気の少女は一礼。
「高等部２年『椿 氷無(つばき ひな)』です。それでは、今回の警護任務についての説明を始めさせて頂きます」
　放たれた声色は落ち着いていた。慣れているのだろうか。スラスラと言葉を紡ぐ。
「既にご存知かと思われますが、１週間後、英国大使が日本に来日予定です。今回の来日の際、環凪島の視察も行われるとの事です。勿論、非公式に」
　やはり。と空繰は心の中で呟いた。言葉や態度には出さないが、他の何人かの風紀委員からも同じような空気を感じる。そして、隣からも。 
　この環凪島には世界中から能力者を募っている。そして、世界各国も能力者研究の主導を握っている日本に能力者を預けている。それは、勿論、最新の研究設備を誇る日本の環凪島に住まわせることで、世界各国の共通目標である『能力者の謎の解明』に一役買おうということでもあり、能力者自身にとっても、より良い環境で過ごして貰おうということでもある。表向きは。
　その裏では、各国の戦略が渦を巻いている。強力な能力者は、高い戦力から強力な兵器ともなる。
　能力者を他国に預けるということは、自国の戦力を他国の手中に預けるという意味でもあるのだ。故に各国は常に慎重に、日本の動きを、環凪島の動きをチェックしている。
　そして、他の理由で来日しては環凪島に自ら足を運び、自国の能力者が不自由なく暮らしているか、不当な扱いを受けていないか、などを細かくチェックしていく。
　そして、それさえも建前に過ぎない。環凪島に入る為の理由だ。日本は環凪島に関しては、その筋にはオープンな姿勢だが、肝心の研究成果や能力者の隠された部分に関しては全くといっていいほど外部に出していない。秘匿事項。他国の狙いは日本が会得している、その秘密。能力者が生まれる秘密。

　表向きには能力者の研究は、何故か能力者の発現が世界の中で桁違いに多く、その信頼に値する日本に一任している。ということになっているので、その凄惨な歴史や本当の目的も含め、各国は大っぴらに環凪島に関与することはない。その全てが非公式に。こっそりと行われる。
　日本としても能力者を環凪島に預けている国から視察の申し出があれば無下にすることは出来ない。それを断ってしまうと様々な疑惑と憶測が流れる。事は直ぐに軍事的な国際問題へと発展するだろう。
　環凪島へと理由を付けて、やってくる要注意人物。その人物を持て成し、警戒し、表向きの仕事だけをさせて追い返すのが環凪島の役目でもある。
　表向きに環凪島に足を運べないのは各国にとっても枷だが、それは日本にとっても枷となっている。事を公にできない以上、派手に軍部を動かすことが出来ないのだ。
　環凪島への訪問が非公式に行われる以上、各国も日本も、それについては素知らぬ顔で通す。もし、それが露呈すれば、すぐさま国際特殊能力者教育機関(International special ability educational institution、略称:ISAEI)からの視察を受けることになるだろう。
　もし、そうなれば日本は巧妙に秘匿し続けた機密を地球連合に提出せざるを得なくなり、各国も他国に先んじて享受しておきたかった情報を、あるいはISAEIに隠され、同じレベルでしか知ることはなくなる。万が一、能力者に関しての世界的な特権ともいえる日本の立場が弱くなってしまい、管轄が地球連合になどになってしまった場合は全ての国が損をすることになる。
　この日本にとって徳があり、世界の国々にも徳があるかもしれないという、奇妙なWIN-WINの成り損ないのような関係は環凪島が発足した頃から続いている。
　勿論、上記の説明だけが全てではないだろう。特殊能力の研究結果の横流しによる不正な取引が毎年、数百億ドル規模で行われているという噂も実しやかに囁かれ続けている。
　ともかく、金と商売と軍事に関して言えば、特殊能力及び特殊能力者は、今、世界で最もホットな商品にして兵器である、ということ。

　椿氷無の説明は流水の如く、澱みなく進行した。
　視察日時。各班への振り分けから、警護のポイントまで。
　警護と銘打ってはいるが、重要なのは要人の警護ではなく、要人への警戒である。不必要なことをさせない。不用意に出歩かせない。彼らは権威あるスパイなのだ。勿論、軍らが介入出来ない環凪島での要人の身の安全も両国の円満な関係には重要ではあるが、環凪島の機密を持ち帰られるくらいなら暗殺すら辞さないのが日本国政府の見解でもある。死因は事故死となるだろう。要人が環凪島に居ること自体が禁忌(タブー)なのだ。当然、そこでの出来事は有耶無耶にされ、両国の暗黙の了解の下、闇へと葬られる。
　元々、この仕事は生徒会が行っていたが風紀委員の独立時から風紀委員の管轄となり、現在では風紀委員会にとっても最も重要な案件の一つとなっている。 

　１週間後に迫っていた大仕事。その打ち合わせともいえる風紀委員会の特別会議はその後、４時間ほど続き、全体としての最終的な調整が終わった頃には時計の針は午後８時半を差していた。
　一段落したところで、結局、デスクの上に置かれていた枕に触れることが無かった風紀委員長、夕雁紅葉が壁に掛けられている時計を視線を向け「概ねの調整は済んだし、今日はここまでにしましょう」と、解散を宣言した。
　この人が４時間以上もだらけなかった、それだけでも事の重大さが伝わるというものだ。
　だが、ここで帰れると思ったら大間違い。これから振り分けられた各班の調整と当日までの準備期間に入る。失敗は許されないし、過去、失敗したことは無い。今回も失敗することは許されない。だからこそ、準備は怠らない。備えあれば憂いなし。それは、心の準備でもある。機密を盗まれるのも失敗ではあるが、機密を持ち帰られる事こそが失敗なのだ。
　そう。場合によっては、人を殺す準備も必要である。
　この事実は基本的に一部の生徒会役員と一部の風紀委員以外の生徒たちには知らされない。
　全員で身構えることではないし、味方が多すぎるのも問題だ。この案件は何事も無かったかのように終えるのが理想である。普段から環凪島には様々な大人たちが出入りしているから、そこに数人、見知らぬ大人が混じっていても誰も気にしないだろう。

　空繰は後方支援に回された。
　リフィターである点が一つ。そして、戦力を外部から強制的に殺ぐことが出来る点も一つ。
　万が一、戦闘が発生した場合、空繰は戦闘区域外から、その能力を使って敵の戦意を食べる。敵が何を目的に、どんな心情でやって来るか分からないが、空繰ならば、責任も欲望も憎悪も嫌悪も嫉妬も期待も怒りも怨みも、戦闘時の興奮すら含め、戦闘意欲に繋がる全ての感情を喰らうことができる。
　そして、後方支援を請け負った人物がもう一人。
「影山さん」
「よろしくね」
　そう言って隣に着席した美少女に、やはり空繰は少しの空虚感を感じた。彼女にはそういう雰囲気がある。

　影山愛。Ａランク(Ａ－１)。アクター。能力名『影戯人形(ドールズインシー)』
　空繰は彼女の能力をあまりよく知らない。だが、噂はよく聞いている。影を操る能力者だ。
　聞き及んでいる所では、人の影を奪い実体化させる。その影は自分と同じ能力を持って影山愛の支配下に置かれる。複数、時には十数もの影を同時に操る。など。
　彼女は一度、戦闘となれば手近な能力者から影を奪い、次々に自分の味方としてしまう。周りに能力者(影)がいればいるほど彼女の戦力は掛け算式に増え続ける。その様から付いた名が『虚人戦隊(シャドウ・ブリゲイド)』や『単独軍隊(スコードロン・ワン)』など。
　影山愛は特殊な状況下ではあったが、とあるＳランク能力者とも互角以上の戦いを繰り広げた過去をもつなど風紀委員会きっての実力者である。
　その強さは、直接的には相手の力を奪う、といったものだが、彼女自身の強みは、その確かな戦局の見極めだろう。盤上の全ての駒を把握し、そこから十五通りの戦局をそれぞれ十手先まで読む棋士のように、彼女は複数の影と複数の敵、さらにはその外側の状況まで読み、そこから考えうる限りの手を予測し全てに対し最善手を打ってくる。何も考えずに彼女と戦えば、一撃で仕留めない限り掌の上で弄ばれ、あれよあれよという間に危機的状況に陥ってしまうだろう。しかも、その時点で逃げ道は確実に潰されている。
　その容姿と雰囲気からは、あまり想像できないが、実は好戦的で、わりとＳらしい、影山愛。性格的な意味で。
　性格はさておき、そんなこんなで風紀委員長、夕雁紅葉からの信頼も厚い。風紀委員会での位置も比例して高く、時期『五賢帝』の座は確実とも称される。
　そんな彼女が後方支援として控えているのは前線の者たちにとって心強いものとなる。先に影だけを預けておけば、風紀委員の戦力は単純に２倍。頭の切れる彼女のことだ。２倍どころか４倍、８倍とその力を使いこなすだろう。 

　午後９時を回り、ちらほらと帰宅組みが現れる。
　空繰と影山愛を含めた後方支援組みも簡単な打ち合わせを終え、解散とする。
　後方支援組みのリーダーは満場一致で影山愛となった。正直な話し、影山愛が一人居れば後方支援など十分であるのも事実である。万能ではないが、彼女は指令官としての才能がある。そして、その才能を十二分に発揮することが出来る能力も併せ持っている。空繰を含めたその他は、おまけに近い。

　彼女は自分の力に対し、尊大な態度も取らなければ謙遜もしなかった。
　それは自分という存在を受け入れているようにも見えた。リーダーの話しの時も、それを承諾したときも。
　自信が無いようには見えなかった。自信に溢れているようにも見えなかった。

　そんな人を、どこかでみたことがあるような気がした。空繰は帰路に就きながら少し思索する。
　あぁ、そうだ。思い出した。Ｓランクだ。Ｓランクの能力者たちの態度だ。最高ランクという地位に立ちながら、彼らはそれを自慢することは無い。かと言って、その能力を卑下することも無い。
　彼らは努力という言葉を知らない。彼らは目標を持たない。
　生まれ持った異常は、与えられるべき普通を壊す。それは広義的な意味では全ての能力者に当てはまる。
　それの究極がＳランクの能力者たちのような、ある意味で達観したかのような態度なのだろう。
　そして、それが彼らの心に空虚感を生むのだろう。彼らは自らの能力に、どこか実質的な内容や価値を見出せていないのかもしれない。

　もし、自分の能力でそんな彼らの心を癒せたら…。

「無理か…」
　自分は食べる(奪う)だけだ。与えることは出来ない。
　空虚。その感情には本質が無い。事実上、何も無いに近い。そんなものに名前を付けて呼んでいるだけだ。名前が付いていることで、その感情を抽象的に捕らえられる。だから空繰は、空虚、という感情を食べることが出来る。
　空虚に満たされている心を食べれば、その先は本当に何もなくなってしまう。虚空から虚が消えて、空っぽ。０だ。
「何が？」
　帰り道。夜空から降る暗闇へ言葉を溶かした瞬間、突然、声をかけられた。
　空繰は振り返ってしまう。すっかり忘れていたもう一つの問題へと。


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　第二話「恋の迷路」　雅綺麗煌の難題

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　今のように能力者が統制される前の段階ではもっといた可能性は否定できないが、日本国政府及び特殊能力対策局においては特殊能力者が世界で始めて発現してから現在までで『神代の能力』を持つ能力者は３人、確認されている。
　一人は現代に生きる現人神(あらひとがみ)、愛宕大権現の正統直系、神炎三帝こと『愛宕 輝彦(あたご てるひこ)』
　一人は大戦後に生まれた禍神(まがつがみ)、まつろわぬ蝦夷の神人、大夜凶神こと『波羽木 客人(ははき まれびと)』

　そして。
　一人は大戦時に生きた戦神(いくさがみ)、創造神にして黄泉津大神、死海鉄神こと『波羽木 誘那(ははき ゆうな)』

　過去、世界的に隠蔽され続けた特殊能力者の人間としての権利を求め、僅か１３人の軍勢で世界に対し攻撃を仕掛けた者達『１３人組(パラディン)』の一人。
　ただ、波羽木誘那自身が世界的に隠蔽され続けた特殊能力者の人間としての権利を求めていたかは不明である。その所業からは、人を救うという意思が希薄だった。むしろ、人を滅ぼすような勢いで暴れていたという。
　資料によれば、その能力は『創造』。詳細は不明である。
　だが、創造神としての、さらに、太陽神をも上回る、強大すぎるほどに強大な神格を兼ね備えたその能力は人を、国を、世界を滅ぼすに値する力だったことは確かである。器が人間でなければ、あの大戦で、日本どころか世界ごと滅ぼされていただろう。
　その神格の名は、伊邪那美命(いざなみのみこと)。
　伊邪那美命。天地開闢において神世七代の最後に伊邪那岐命(いざなぎのみこと)とともに生まれた。国産み・神産みにおいて伊邪那岐との間に日本国土を形づくる多数の子をもうけ、八百万の神々を生んだ神。日本列島の母にして、森羅万象の母でもある。日本という国、そのものの母と言っていいだろう。
　そして、そんな創造神である伊邪那美のもう一つの顔は、日本最強の死神。
　一日で地上から千の命を奪う、死神にして祟り神もまた、伊邪那美である。

　そんな神が人知れず、科学の力をもって、――再降臨していた。

　環凪島。研究所。第十五科直属地下研究棟特Ｓ級実験生物管理室。
　環凪島の中心部に学園は大学部と一部を併設した施設。研究所。世界中から各部門トップの研究者が集められ、日夜、能力者の謎の解明に勤しんでいる。
　そこは存在自体が秘匿された場所。
　表向きには研究所には第九科までしか存在しない。
　表向きには研究所の地下、地下１階から地下３階までは資材置き場となっている。

　地下５６６階。地上から１７００ｍほど掘り下げた場所に、その場所は存在する。
　そこは地上のどんな生物よりも危険な能力を扱う場所。
　そこは地上のどんな物質よりも危険な能力を扱う場所。
　そこは地上のどんな能力よりも危険な能力を扱う場所。
　存在自体が禁忌であり、一度でも表に出ようものなら、そのまま世界を滅ぼしかねない、奇跡であり呪いのような能力を扱う場所。
「あぁ、完成したよ」
　そんな外界とは完全に断絶され、展望すれば小さな都市のような真っ白な空間。いくつものドーム状の建物が並ぶ巨大な空間。そこには地下都市空間(ジオフロント)が広がっていた。
　ドーム状の建物の一つ『ＳＳＳ-１』と番号が振られた建物の中に一人の男がいた。
　何やら通信機器を用いて、どこぞの誰かと会話をしている。
　男の外見は、一言で言えば、どこにでもいそうである。誰もが来ていそうな服装に、白衣と肩口まで伸ばした長髪。
　極力、人目に付かないことを考慮し〝創られた〟どこにでもいそうな外見の男の名は『月居 龍彦(つきおり たつひこ)』。
　この研究所の所長である。
　まぁ、所長という肩書きだけを持つだけで、所長らしい仕事は殆どしていない。事務作業など気紛れに判を押すくらいである。自分もまた研究者なのだ。寝食を忘れ研究に没頭し、他のどんな欲求よりも知的好奇心を優先させる研究者なのだ。事務作業などに割ける時間は無いに等しい。ただ、研究所の最高権限でもって好き勝手に資源と金、時間を使えているので、この役職に不満は無い。
　寝食を忘れ、と言ったが、事実、月居龍彦は３週間ほど眠っていない。眠らなくても大丈夫なように創り変えたからだ。食事は身体を維持するための必要最低限のものだけを取っている。自由に身体を弄れるといっても、無から有は産み出せない。煩わしいことこの上ないが必要なものは必要である。
　無から有を産み出せるのは、この世でただ一人。
　環凪島、引いては世界最強、完全無敵の能力者。前代未聞にして、解明不可。この世の理を無視する能力者。質量無視の彼女だけだろう。本気を出せば天地創造すら可能なのではないだろうか。アレも十分すぎるほどに禁忌のレベルだ。本来ならば『ナビゲーター』のように封印の対処をするべきだが、能力自体が強すぎて、存在自体が反則すぎて対処のしようがないのが現状である。無限を無限のまま扱う彼女の能力は、科学者からしてみれば宇宙そのものに等しい。この全宇宙を解明でもしない限り彼女の能力の説明はつかないだろう。
　まぁ、あそこまでぶっ飛んで桁違いならば、悪用したい方も、そもそも悪用の仕方が分からないので問題ないと言えば問題ない。
「しかし、どうやって手に入れたんだい？　戦犯、波羽木誘那の脳など。しかも完璧な状態で」
　口元を歪めながら月居龍彦は問う。しかし、期待した答えは無い。というか、返事が無い。無言。ノーコメント。
　無用な会話はしないということか。お互いがお互いの真意を謀る時間。わずかに数秒。
　仕切り直したのは月居龍彦だった。
「完成度は７２％から８１％というところだね。十分にＳランク相当は有している。１００％の復元は何故か出来なかったよ。その辺はまだまだ研究の余地があるかな」
　誰かと会話をする月居龍彦の背後には、小柄な女性が立っていた。
　身長は１５０ｃｍにも届かない。その姿は、有り体に、一言で言ってしまえば、不気味。血色の悪い色の継ぎ接ぎだらけの皮膚。比喩ではなく、死んだ魚のような目。今、墓から死体を持ってきて繋ぎ合わせた、と言えば誰もが信じるであろう、かのフランケンシュタインの怪物のような外見。フランケンシュタインの怪物とは違い見た目や顔立ちが整っている分、その美しさが怪物とは違う不気味さを引き立てている。美しい人形に呪いをかけて、腐らせたような雰囲気。
　そして、異様なのは、その装備にもある。いや、装備と言っていいのかも分からない。短刀が刺さっているのだ。刃長１０ｃｍほどの小さな短刀が背中から両肩、両腕にかけて、和装の上から。首と頭にも刺さっている。頭に刺さっている短刀は、さながら王冠の様にも見えた。実に１００本を越える短刀が彼女の身体に所狭しと刺さりまくっている。
　服装は何故か白無垢。短刀による傷口から血がポタリと滴り、純白をどす黒く汚していた。さらに血で汚れた部分は不自然に溶けていく、否、腐っていく。彼女に用意された一張羅は、着てからの数時間で、もう襤褸切れのようになっていた。
「クローンとしては完成体と言っていいだろう。…。あぁ、支払いの方は確認しているよ。３０００億ドル、確かにね」
　ここで相手が口を開いた。無機質な機会音声のような声が響く。
「クローン・ノカン・セイガモク・テキデ・ハ・ナイ」
　抑揚がおかしく、まともには聞き取りにくい。
「あぁ、勿論分かっているとも。手筈通りに。…では」
　簡単な挨拶で通信を切る。
　くるりと反転し、眼前の光景を再確認。死神の視線を受けて尚、その余裕は消えない。
「しかし、どこの国かは知らないが環凪島、いや、日本を壊滅させるつもりかな？　ユウナ・ハハキのクローンなど…」
　真っ白な和装、白無垢姿の波羽木誘那は、静かに死を瞳に湛える。
「元より、死を創造する能力者。指の一本、髪の毛一本でもあれば復活は可能か」
　そう言うと、月居龍彦は恭しく一礼し、ガラス細工に触れるように波羽木誘那の顎のラインを右手の人差指で、すぅ、と撫でた。
　ザラリ、と朽ちた人間の肌触りを一瞬だけ体験する。一瞬で十分だった。能力的にも、個人的にも。
　波羽木誘那の顎のラインを撫でた月居龍彦の人差指は速やかに腐食を開始する。腐っていく。これが波羽木誘那が現在、垂れ流し的に使っている〝死〟の能力。その一片。彼女に触れれば腐り死ぬ。この腐るという能力は、彼女の身体も例外ではない。自身の防衛という部分で耐性は非常に高いが、彼女の身体もゆっくりと朽ちていく。彼女の余命は、せいぜい一ヶ月と言ったところか。まぁ、余命とはいっても既に死んでいることに変わりは無い。
　この状態は、どうやら死後から始まったらしい。
　大戦時、即ち生前は周囲を無差別に腐らせることも、彼女自身が腐ることも無かった様だ。
　何故、彼女の死後から、このような状態になってしまったのか、未だに分かっていない。
　そもそも彼女の能力自体が謎だらけであるし、本人に聞こうにも、今のところコミュニケーション能力は皆無に等しい。何度か会話を試みたが、明確なリアクションは返ってきていない。目の前のソレが何やら動いている、くらいの顔だ。しかし、こちらの言葉の意味は多少なりとも理解しているようでもある。その理由もまた謎である。
　生前の脳を、そのまま使っているわけだから、その能力が復活してもいい筈だが…。
　脳の蘇生と身体のクローンは完璧に近い。事実、波羽木誘那はこうして生き返った。
　死神が生き返るなど、笑えぬ冗談だが。
　さて、と月居龍彦は腐り始めた人差指を切り落とした。見れば、いつの間にやら左手の指が鋭利な刃物のように形状を変えている。
「後で補肉剤を摂取しておかなければね」
　その行動を目の前で見ていた波羽木誘那に説明するかのような独り言と共に、ゴキ、メキと耳障りな音と共に月居龍彦の身体が変化し始める。骨格、血液、筋肉、脂肪。身体を構成する全ての成分を細胞レベルで変質させる。色が、形が、質が変わる。
　表れたのは２人目の波羽木誘那。白衣を翻し、波羽木誘那の姿をして、波羽木誘那の気配を纏い、波羽木誘那と同じ瞳で、波羽木誘那の声で月居龍彦は言う。
「――さぁ、行こう」


　◆


「ふぅ…」
　心ここにあらず、といった表情で、何度目か分からない雅綺麗煌のタメ息。
　午後の授業はいつの間にか終わっていた。なんか今日は大体の時間があっという間に過ぎている気がするのは気のせいだろうか。
　いつもと違う綺麗煌の雰囲気にクラスメイト達は、なんだろう、と首を傾げるが、深くは追求してこない。その原因は、綺麗煌の親友にしてルームメイトの東狐美姫の様子もいつもと違うからだ。
　彼女は思い詰めたような表情で沈んでいたかと思えば、ニヤニヤと笑ったりと、何やら傍目には情緒不安定な状態が続いている。美少女であってもその姿はけっこう気持ち悪く、誰も近づけない。美姫は美姫で存在など忘れてしまったかのように綺麗煌には近づこうともしない。
　二人揃って昼休み以降の様子がおかしいので、どうせ昼休みにどこかでケンカでもしたのだろうと回りは高をくくっていた。喧嘩するほど仲がいい、の言葉を体現するかのように二人のケンカはよくあることなのだ。

　もやもやと過ぎる午後３時。
　教室を出た綺麗煌は、その足で屋上へと向かった。
　美姫はＨＲ終了と同時に逃げるように教室を出て行ってしまったので、どこに行ったのかは分からない。
　ドアを空けた瞬間、吹き込む風に髪が遊ばれる。左手で暴れる前髪を押さえつけながら、屋上に設置されているベンチへ。
　暑いな。場所を間違えたか。でも今日は日差しもないし、風が強くて気持ちいいから良しとしよう。
　真夏に屋上に上がる物好きもいないのか、誰もいない屋上を占領する。
　ベンチに座って、見上げた空は一面が雲。締まらないなぁ。
　まぁ、それが私っぽくていいのだけど。
　んー、と伸びをした瞬間に突き上げるような突風。
　思いっきりスカートがめくれる。スカート逆立ち状態。なんと貧弱な防御壁だろうか。
「げ」
　純白のそれを慌てて隠す。屋上には自分一人。一人のはずだ。キョロキョロと見回して、ぼっち再確認。
　ヤバかった。見られていたら、あまりの羞恥心にそのまま屋上から飛び降りていたかもしれない。気分が落ち込んでいるときほど咄嗟の行動力が増すのは何故なんだろう。逆に心に余裕さえあれば、身体よりも頭が先に動くのに。
　なんだか、不毛な事を鬱々と考えながら、立ち上がりフェンスへと歩く。
　フェンスに体重を預けて見下ろす。眼下には、学生、学生、学生。当然だ。ここは人口の８割が学生で構成される環凪島は環凪学園。学生の島。
　環凪島。所属国、日本。面積、１２２．３平方キロメートルの半人工島。元々は小さな無人島だったものを、海底や本土から持ってきた土砂やらで盛り、人工フロートで固めて広げたのが、現在の環凪島である。そんな島に現在では１万人程の人間が暮らしている。
　実のところ環凪島は、既に『環凪島』という半特別自治区状態であるという話しを綺麗煌は前に聞いた。
　基本的な法律、貨幣、公用語においては、日本のものが、そのまま適用される。
　ただし警察はいない。『環凪総合警備保障』と呼ばれるものが警察の代わりをする。一言で言えば、能力者による警察、である。環凪総合警備保障は警察としての役割の他にも、消防や救急医療も兼ねており、１１０番と１１９番が一緒になったような感じだ。警察の代わりとは言っているが、学生能力者同士の小競り合いや問題を解決するのは環凪学園、生徒会や風紀委員会、自警団であることが多い。そこが学生が主体の環凪島の普通である。問題解決後の手続きなどは環凪総合警備保障が一括で請け負っている。
　環凪総合警備保障は基本的には学園３組織と共に学外を中心とした島全域の治安維持に尽力している。環凪島内においては逮捕権すら持っており、拳銃の所持も許可されている公的な組織だ。
　人類を越えた能力者にとっても未だに近代兵器や銃火器は脅威だ。Ｓランクくらいになると関係なくなりもするが、音速を超える速度で撃ち出される鉛玉に対抗できる能力となると数えるほどだろう。多くの能力者は拳銃を突きつけられて「手を上げろ！」と言われれば、黙って従うしかない。そんな科学の力で生み出された脅威が、今日も世界の平和を守り、今日も世界の平和を脅かし続けている。それは人類がどれほど進化しても変わらないのかもしれない。
　その環凪総合警備保障を雇い、環凪島の自治を行っているのが『ＧＭ７』と呼ばれる７人だ。ＧＭはゼネラルマネージャー(総支配人)ではなく、グレートマネージャー(偉大な支配人)の略らしい。『ＧＭ７』という言葉には二つの意味がある。一つ目は、過去に環凪島を一から作り上げた７人の能力者の事を指す言葉。二つ目は、現在の自治を担当している７人を指す言葉。現在の『ＧＭ７』の権限は極めて高く、時には日本政府と交渉すらしたりする。環凪島は日本から独立などはしていないが、環凪島外からしてみれば、一国の政府機関にも相当する組織が『ＧＭ７』である。

　因みに、過去に環凪島を一から作り上げた７人の能力者の名は５０音順で
　『五百雀　朱雀(いおじゃく　すざく)』
　『勘解由小路　左衛門三郎　秀義(かでのこうじ　さえもんざぶろう　ひでよし)』
　『京　清水(かなどめ　きよみず)』
　『雲春　立花(くもはる　りっか)』
　『獅子吼　王子(ししく　おうじ)』
　『南十字座　狂瑠璃(みなみじゅうじざ　くるり)』
　『月見里　万理(やまなし　ばんり)』
　の７人だ。テストに出るから覚えておくように。なんつって。

　『ＧＭ７』の名は『１３人組(パラディン)』に次いで有名だ。『１３人組(パラディン)』と違うのは、特殊能力者からも、無能力者からも賞賛を勝ち得ている点だろう。特殊能力者の楽園、箱庭を造り、無能力者からしてみれば人災の隔離に尽力した７人の名は、環凪島の歴史に、日本の、世界の歴史に刻まれている。
　現『ＧＭ７』による環凪自治組合は環凪島の自治だけではなく、新たな取り組みとして、環凪ブランドの作成に余念がない。環凪島を売り出そう、と言うのだ。特殊能力者だから出来ること、特殊能力者だから作れるもの、というのは少なくない。そういったもので、社会貢献などを行い、未だに特殊能力者を恐れている無能力者たちとの心の溝を埋めようとしている。人気がないので発行部数は極めて少ないが、環凪島を紹介したパンフレットを配ったり、環凪島はこんな島、みたいな雑誌を作ったりもしている。ゆくゆくはメディアを招いての取材なども視野に入れているとか何とか。流石にそこまでいくとなると環凪島最大にして唯一のスポンサーである日本政府にお伺いを立てる必要が出てくるが。
　日本政府が環凪島に対して行っている巨額の投資、現在の日本は不景気ではないが、好景気でもない。それでも、毎年、国家予算の８分の１程の金額を環凪島に次ぎ込んでいる。そのような予算は割けないはずなのだが…。そのカラクリについては、またの機会にでも。
　ぼーっと校舎を眺める綺麗煌の、空繰レーダーが突然、反応した。
　無数にある窓のうち、一つの窓を注視する。そこを過ぎった姿は間違いなく、というか見間違える筈もない、五番町空繰の姿。一瞬の歓喜。だが、その隣には件の墨汁能力者。墨汁らしきものは見えなかったが。
　流れていく二つの影を見ながら、綺麗煌の足は既に動いていた。滑るように階段を降り、流れるように二人の背後を取る。
　スニーキングミッション。こっそりと後をつけ、何処に行くのか確認後、可能であれば潜入する。スニーキングミッション、という名のストーキングミッションである。
　そして、そのミッションは風紀委員会本部という壁に阻まれて、あえなく、あっけなく終了した。
　何故か、今日の風紀委員会本部は立ち入りが制限されており、風紀委員でもなければ入る理由も無い綺麗煌は門番のように立ちはだかる風紀委員に取りつく島もなく追い返された。
「中で一体、何が…？」
　呟きながら本部裏手へ、速やかに移動。別に特殊部隊の本拠地でもなければ要塞でもない風紀委員会本部の敷地内への侵入は容易いものだった。景観用に設えられた木に身を隠し、窓から本部内を覗く。
　空繰と件の少女がやってきて、２、３言葉を交わしながら歩いていく。お互い楽しそうな雰囲気ではなさそうだ。と、なると風紀委員の仕事だろうか。っていうか今、気づいたけど中にいるってことは、あの子も風紀委員会のメンバーだったのか。
　足りない頭をフル稼働させて現状把握。あれ。私、ストーカーっぽい。ヤバイ。今の時点では恋する乙女では弁明できない気がする。相手に一切、非が無い。脳内選択肢は速やかに退却せよ、と警鐘を鳴らしている。
　それでも視線は歩いていく２人から離せずにいた。少しでも見ていようと死角から身を乗り出そうした瞬間、件の墨汁少女が振り返った。呼吸が止まる。ばれたか？
　たっぷり１０秒ほど呼吸を止め、私は木、私は植物、と頭の中で３回ずつ言ってから、ゆっくりと身を乗り出す。既に２人の姿は無かった。姿勢を低くしながら、こそこそと建物に近づき窓に張り付く。あの２人の姿を探そうとした瞬間「おい」という声と共に、右肩に手が置かれた。
　ひっ、と息を飲み、反射的に右側に回る首。視線は下から上へ。健康的な太もも、緑色のプリーツスカート、白いＹシャツの胸元は二つの膨らみが控えめに主張している。そして、特徴的な円形のカラフルバッジ。緋色のセミロングの髪が風に揺れる。そんな特徴だらけの少女の顔は、私がよく知る顔だった。
「おぉぅ、なんだクリスか。脅かせないでよー」
「なんだ、じゃねーよ、なんだじゃ。テメェここで何してやがる。あと、その名前で呼ぶなっつってんだろーが！」
　小さい子がみたら確実に泣き出すマフィア幹部みたいな凶悪な視線で吼えるクリス。元々の顔立ちが童顔で可愛らしい分、その三白眼気味の鋭い眼光が放つ違和感は強烈だ。
「クリスは可愛いなぁ、小鳥さんみたい」
　クリスが喚き散らすときの擬音は、ピーチクパーチクだ。私の中で決まっている。
「ぶっ殺すぞ、綺麗煌！人の話を聞け！」
　言葉遣いも粗暴。ホント黙って微笑んでいればお人形さんみたいなのに。ちっちゃい身体で全力で主張してくる、その姿は愛くるしくて、もぅ、たまらんわこれー。
「あ、私、お菓子持ってるの！一緒に食べよ？」
「ぶっ殺す！」
　出会って１０秒で私がキレさせたのは、クリス。もとい『茨城 野薔薇(いばらき のばら)』という名の同級生。
　身長は１５５ｃｍ弱くらい。女子の中では背の高い私から見ると、とても撫でやすい位置に頭があるので、よく撫でる。撫でる度に怒鳴られるけど。あとクリスがむぎゅー、ってなるのが面白いのでよく抱きつく。抱きつく度に殴られるけど。女の子のお腹を殴るのは良くないと思います。どうしてお腹をピンポイントで殴るのか前に聞いたら「顔に届かないから」とか言ってたから、可愛くて再度抱きついたら、振り解かれて背中を蹴られた。背骨が砕けたかと思ったね。ちっちゃいのに力あるんだよ、あの子。
　クリスの特徴といえば、ちっちゃくて可愛い、以外にもある。最も特徴的な、緋色の髪。少しオレンジよりの赤い髪。これはクリスの地毛だ。能力者の極一部だけど、特殊能力による身体の変化が見られる。これが人類の進化系と呼ばれる要因。クリスの場合は、髪の毛の色だ。身体にまで影響を受けている能力者は、その殆どがＡランク以上の高位能力者。表面上にまで現れてしまう、身体を構成するＤＮＡにまで影響を及ぼしている、というのは、それだけ、その能力が強力であることを示しているみたい。クリスもＡランクだしね。
　そして、このクリスは風紀委員会に所属しているのだけど、意外や意外。あの名高き『五賢帝』の一人なのだ。『薔薇園の女王(レーヌ・ロザリィ)』と言えば、知ってる人も多いんじゃないかな。まぁ、クリスは女王様ってよりは王女様って感じだけど。
　あ、そうそう、大事なこと。なんで『クリス』って呼ばれてるかってことなんだけど。クリ…、野薔薇ちゃんは、とにかく緑色が好きみたいなんだよね。だから持ってる服とか小物も緑色が多いんだよ。去年の冬。１２月半ばも過ぎた頃に野薔薇ちゃんは深緑色のコートで学校に来たんだ。そしたら、その時偶然出会った風紀委員長の夕雁紅葉さんが「野薔薇ってクリスマスツリーみたいだな」って教室の真ん中で本人に向かって堂々と言ったんだよね。確かに、赤い髪と緑のコートでクリスマスカラーだった野薔薇ちゃん。その話はあっという間に駆け回って、数時間後には、クリスってあだ名が定着していたんだ。野薔薇ちゃんは怒ってたけど、まぁ、あんまり嫌そうでもなかったかな。人の噂も７５日って言うけど一度、定着してしまうと、払拭するのは難しいよね。今では野薔薇ちゃんと特に親しい数人だけが呼ぶ感じかな。その事件以来、野薔薇ちゃんの緑色信仰は少し落ち着いたみたい。本当に少しだけだけどね。
「で、テメェは何してたんだよ」
　なんだかんだで私の差し出したポッキーをカリカリポリポリしながら落ち着いたクリスが再度、聞いてくる。
　あぁ、リスみたい…。かわゆすかわゆす。抱きしめたいけど、抱きしめたら腹パンだから我慢。差し出された食べ物には弱いところも相まって見事に小動物系女子のクリス。そのうち悪い人に連れて行かれるんじゃなかろうか…。おっと、この話題はダメだ。基本的にうっかり屋な私だとしても、絶対に口には出せない。何故ならクリスは過去に本当に、誘拐され拉致され監禁され暴行され殺されかけたのだから。
　クリスの身体にはＧＰＳ発信機が埋め込まれている。これは現在の日本で行われている刑罰の一つだ。主に凶悪犯罪者や性犯罪者に対して取られる処置。
　クリスは過去に殺人を犯している。人を殺害している。それは不幸な事故等ではなく、明確に過去のクリスが意思を持って行った犯罪行為。クリスが殺したのは、自らの親を殺した上に自身の尊厳を踏みにじった誘拐殺人犯。例え被害者であっても、思春期の女の子なら誰もが死にたくなるような、言葉にするのも憚れる様な酷い事をされたとしても、自分が犯した罪は消えない。クリスは確実に一つの命を奪っている。当然、裁かれた。そして、情状酌量の余地とか何とかいろいろと言われてクリスは殺人犯にしては短い刑期を終えた。
　日常に戻る前にクリスの身体には、再度、傷が付けられた。そして、日常に戻ったクリスに居場所は無かった。だけど、クリスは負けなかった。本当に強い子だ。心が強い。ダイヤモンド並の強度だ。私だったら死んでる。誘拐犯に、日本の法律に、日常に殺されてる。殺されなかったとしても自殺してる。クリスの心はダイヤモンド。絶対に砕けない心。だから、その心はキラキラ光って、とても綺麗。私の名前が霞むくらいに。
　なんだか、思い出したくない話を思い出した。顔には出ないようにして、私は答える。
「スニーキングミッションだよ」
「ダンボールも持たずにか？」
「ダンボール？」
　脊髄反射で聞き返す。
「…なんでもねぇ」
　やっぱ通じないか。みたいな顔でクリスがカリポリ。クリスはたまに変なことを言う。話を切り出したのは私。
「ところで、風紀委員って今日何かやってるの？」
「会議だ」
　切り伏せるような即答。余計なことは言わないぞ、と口調で釘を刺された。まだ、何も言ってないのにー。
「へぇ…、会議、ねぇ。クリスは出なくていいの？　『五賢帝』なのに」
　仕方なく話題を逸らす。
「今日、俺は警備役だからな。テメェみたいなのをとっ捕まえて追い返すのが仕事だ」
「えへへ…」
「褒めてねぇよ」
「クリスに捕まっちゃった…」
「その名前で呼ぶなって…、なんで照れるんだよ！」
　気持ち悪い、とクリスが毒づく。
「責任…」
「あ？」
「責任、取ってよね…！」
「なんのだよ！！」
　頬を染めて、いやんいやんと恥じらいたっぷりで言う私に、クリスが全力で突っ込んでくる。あぁ、やっぱクリスと話してると楽しい。
「…で、極々原の差し金か？」
　仕切り直しとばかりに緋色の少女は胡乱な感情を込めて私を睨めつけた。
「いや、そういうのじゃない」
　断言する。やっぱ話は誤魔化せないか。
　というわけで、正直に話す。これ以上、変な風に誤魔化し続けると、本当に曲者を思われそうだし、私個人の問題ならまだしも生徒会に容疑が掛かるのは筋違いだ。
　黙って真剣に私の恥ずかしい話を聞いてくれたクリスは、ポツリと呟いた。
「――恋、ねぇ…。好きな人…。俺にはそういうの分かんねぇや」
　クリスは男性恐怖症だ。まぁ、当然と言えば当然。危害を加えられたのだから。だけど、表には億尾にも出さない。怖くて仕方ないはずなのに。自分の事を「俺」なんて呼ぶのも、男っぽい口調も、そこら辺に原因があるのだろう。
　そして、クリスは『心的外傷(トラウマ)』という言葉が嫌いだ。理由を聞いたら「便利だから」と答えられた。私が思うに、クリスは過去を許せていないんだと思う。だから、あの痛みを、苦しみを、怒りを、怨みを、悲しみを『心的外傷(トラウマ)』なんていう一言で片付けてしまう便利な言葉が嫌なんだろう。
「五番町空繰、ねぇ、――そんな奴、ウチにいたっけ？」
「いるよ！超いるよ！」
「俺は人の顔と名前を覚えるのが苦手だからなぁ」
　クリスが覚えないのは男だけだ。恐らくクリスの中では、男＝害敵、と脳内変換されているはず。だから、男の顔や名前を覚えられない。誰だって敵の名前なんて一々覚えない。
「全くクリスは仕方がないんだから」
「その名前で呼ぶなっつってんだろーが」
　お決まりのツッコミを言って、不機嫌そうに口を分かりやすく、への字にするクリス。そして、何か思いついたようにニヤリと笑った。
「でも、その墨汁の女ってのは分かるぜ？」
「ホント！？」
　期待の眼差しを向ける私に対して、クリスはまるで自慢するように、その子の事を教えてくれた。。
「あぁ、そいつは墨汁の能力者じゃねぇ。っつーか墨汁ってなんだよ。あいつ名前は影山愛。影を操る能力者で、実力なら三役レベル。ウチの主戦力の一人だ」


　◆


　その後、クリスは私が墨汁使いと勘違いしていた影山愛さんの事や『五賢帝』の新事実を聞いてもいないことまで一方的に教えてくれて、仕事があるから、とクリスが言ったのでお開きとなった。結局、不法侵入については不問となり私はお咎め無しで開放された。っていうか、クリスが忘れていただけかもしれないけど。
　影山愛。相当な実力者だった。
「三役、かぁ」
　三役というのは、生徒会十二席、風紀委員五賢帝、自警団十王、の三つの役職の総称。つまりは１組織において幹部レベルの実力者だということ。
「勝ち目が、無いなぁ…」
　いや、別に勝負はしていないんだけども。そもそも、あっちは私のことなんて知らないんじゃないか。私も知らないことはたくさんあった。風紀委員に『序列』なんてものがあったことも。

――「でも、影山さんって、時期『五賢帝』は確実なんでしょ？」
――「そうなんだが…、――そもそも、風紀委員会に『五賢帝』なんてものは存在しねぇんだよ」
――「え？」
――「あぁ、すまん。正確には『五賢帝』という名前の役職が無い、ってことになるな。周りが勝手にそう呼んでいるだけだ」
――「そう、だったの」
　その後の野薔薇の説明を含め、環凪学園を取り仕切る３組織の概要を説明しよう。
　先ずは、生徒会。
　生徒会の役員席は、全て投票。選挙という形で決められる。各部署の代表から生徒会長に至るまで全て。各部署の細かい振り分けも基本的には全て選挙方式だ。共和制、と呼べるだろう。いかに実力が高かろうと、本質的な人徳が無ければ役職に付くことはできない。
　次に、自警団。
　自警団長においては選挙方式が採用されている。その団長の両翼を担う『十王』であるが、自警団長による指名制度が採用されている。
　団長の一存で全て決めるのだ。君主の決定は共和制だが、君主が決まると君主制へと変貌する、王家の断絶をきっかけに中世のドイツやポーランドやハンガリーで行われていた選挙王制のような特殊な形態である。
　暴君を選べば、それだけで自警団が壊滅しかねない。逆に名君を選べば、それだけで自警団は進化できる。団員の心眼が試されているのだろう。
　最後に、風紀委員。
　委員長の選定においては他の２組織と同様の選挙方式。副委員長においても選挙方式となる。
　そして、ここからが重要なのだが、風紀委員には名目上、役職は、委員長と副委員長の２名分しかないのだ。『五賢帝』などという役職などは存在しない。
　ただ、風紀委員には特殊能力に限らず、その人の全ての能力を総合的に見た場合での『序列』が存在する。特殊能力、運動能力、思考能力、学内での定期考査の結果も判断材料に含まれる。さらには人柄や、性格などまでが序列には関係してくる。これは風紀委員内だけで通用するものだ。発足当時から残る伝統、とでも言うべきか。
　いつの頃からか、その序列の上位５名のことを、１世紀末から２世紀後期に在位したローマ帝国の５人の皇帝、またその在位した時代に準え『五賢帝』と呼ぶようになった。ローマ帝国始まって以来の平和であった、パックス・ロマーナと呼ばれる時代の一角をなしていたことも、平和を守る風紀委員会には響きの良いものであったのもあるだろう。
　ちなみに、序列上位５名の中に委員長、若しくは副委員長がいた場合でも委員長と副委員長は『五賢帝』には含まれない。例えば、委員長が序列１位だった場合は『五賢帝』は序列２位から６位のことを指す言葉となる。３位に委員長、４位に副委員長がいれば、序列１位と２位、そして５位から７位の計５名が『五賢帝』と呼ばれることとなる。
　言葉を繰り返すが、風紀委員会に『五賢帝』という役職は無い。皆が勝手にそう呼び、いつの間にやら定着してしまったものだ。
　今となっては『五賢帝』は学園の平和の象徴となっている。
　ぼーっと、クリスの話を思い出しだしながら、当ても無く学内を放浪するように歩いていた私が、そろそろ暑いからどこかに非難しようかと思ったとき、向こう側から人影。
「美姫ちゃん！」
　大きな声に気づいたのか、私に向けて手を振るのは東狐美姫。
　あ、なんかいつもの美姫ちゃんっぽい。なんか今日の午後はテンションおかしかったけど、治ったのかな？
　２、３言葉を交わした結果、分かったことがあります。

　美姫ちゃんがおかしい。

　何がどうおかしいかは説明できないんだけど、なんかおかしい。
　現実世界と瓜二つのパラレル時空に迷い込んだ感じというか、美姫ちゃんそっくりの偽者が完璧に美姫ちゃんの振りをしているというか。なんだか、よく分からない違和感。
　ショックと違和感でグチャグチャになって、言葉少なになった私を気遣ってくれる美姫ちゃん。
「どうしたのよ綺麗煌」
「ううん。なんでもない」
　笑って誤魔化す。無理。全然、誤魔化しきれてない。ダメだ。
「そんな事言ったって、アンタ世界の終わりみたいな顔してるわよ？　大丈夫なの？」
　大丈夫じゃないよ。美姫ちゃんどうしちゃったの？
「大丈夫だよ」
「…。」
「…。」
　にへにへ笑う私の心を見透かすみたいに美姫ちゃんの瞳が私の瞳を覗く。
　じーーー。
「一緒に帰る？　なんか放っといたら倒れそうだし」
　ふるふると首を振るのは私。
「ごめん。このあと生徒会に行かないと…」
「休みなさい」
「行かなきゃ…」
「ダメ」
「行かない、と」
「私の言うことが聞けないの？」
　瞬間、美姫ちゃんから、弾けるような威圧感。
「――っ！」
「ん、――ごめん」
「え？　何、今の、美姫ちゃん？」
「ごめん、綺麗煌。先、帰るわ」
「え、美姫ちゃん？　ねぇ！　――…。」
　振り返ることも無く歩いてく、美姫ちゃんの後姿を眺めていることしか出来ない私は、この時、彼女の身体に一体何が起こっているのか知る由もありませんでした。    </description>
    <dc:date>2012-11-24T17:40:52+09:00</dc:date>
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    <title>SS暫定まとめ</title>
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      ※上からしたらば初投下順

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[[したらばＳＳ作品　◆IPU8SGkvmQ　前編&gt;したらばＳＳ作品　◆IPU8SGkvmQ 1]] / [[中編&gt;したらばＳＳ作品　◆IPU8SGkvmQ 1-2]] / 後編

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    <dc:date>2011-09-26T23:30:51+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/141.html">
    <title>したらばＳＳ作品　ID:VBhB5PbM</title>
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    <description>
      会長（金髪の孺子役）「…残存戦力は何隻だ、角松！」
角松（赤毛の男役）「はっ、艦隊の損耗率は80％を超過。現存艦は数にして204、全滅目前です」
会長「チィ…あの男さえ居なければ！」

吉良（要塞役）「ここでやっとビーム系能力が評価された訳だね。でも僕のフリーダムなら、もっと（略」

一戸（不敗の魔術師役）「敵はほぼ壊滅…ローエングラム公にしては愚かな突撃をかけたものだ。
…いや、これも戦略の一端…まさかな」

突如要塞(吉良の体内？)メインスクリーンに現れる画面一杯の会長。

会長「いきなり渡された台本通りに艦隊を動かせ、と言われても無理だ！」
一戸「ちょっと、いきなり台本無視しないでよ！」（ほぼ同時に）

会長「大体なんだこの映画は！能力適正ガン無視の配役は！」
一戸「私だって、会長が銀河一の美男子役なのは今でも納得がいかない。
…あ、カメラ止めて！」


ナレーション「ただいまの演目は、生徒会役員による銀河ヒーロー伝説でした。
続きまして、初等部生徒によるフルメタルジャケットです…」 

つづかない     </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:21:10+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/140.html">
    <title>したらばＳＳ作品　　無題　◆r77gGG6uoY</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/140.html</link>
    <description>
      　・８月９日　２０時５３分

　ビーーーーー！！ビーーーーー！！ビーーーーー！！

　環凪島の中心部に位置する研究所内で警報がけたたましく鳴り響いている。

「…おい！おい！起きろ！」
「…、…んぁ？　…何だ…？」
「何だ？　じゃねぇ！とっとと起きろ！」
「ふぁ…、うっせぇなぁ…」
「起きろ！立て！逃げるぞ！」
「…はぁ？　なんで？」
「聞こえないのか？　非常事態だ」
　仮眠を妨害された男は所内に鳴り響く警報と共に流れる機械音声に不機嫌な顔で耳を傾ける。

『…繰り返します。第十五科直属地下研究棟特Ｓ級実験生物管理室にて異常。所内の全職員は直ちに退避して下さい』
『…繰り返します。第十五科直属地下研究棟特Ｓ級実験生物管理室にて異常。所内の全職員は直ちに退避して下さい』

「特？　Ｓ級実験生物…？」
　意味も分からず呟く。男の顔から血の気が失せ、瞬間、嫌な汗が噴き出た。
「行くぞ！もう待てない！」
「あ！待てよ！」
　男は飛び起きると先行する男を追いかける。繰り返し鳴り響く警報に急かされるように二人は研究所の外へ向かい走る。
　既に所内に人の気配は無い。走りながら、ふとガラス張りのとある研究室を見れば、照明やＰＣ画面は付いたまま、散乱した書類、倒れたままの椅子、誰かの飲みかけだったのだろうマグカップが床に転がり、絨毯が敷かれた床にコーヒーの染みを作っていた。
　ようやく緊急事態なのだと頭が理解し始める。
「第十五科？　地下研究棟？　特Ｓ級実験生物管理室？　何なんだよ？　一体。地下に研究棟なんてあったのか？」
「知るか！とにかく総員退避だ！今までどんな事故でも総員退避なんて事態は、無かった…！」
「…。…警戒レベルは？」
「８だ」
「８？　警戒レベルは７がＭＡＸだろう？」
「そのＭＡＸじゃあ、足りねぇってことさ」
「……スーパーウルトラハイパーやべぇって事か。まいったね…」
　巨大な迷路のような研究所内をひたすらに走る。
「ハァ…！ハァ…！…！あそこだ！『隔離門』まで突っ切るぞ！」
「おうよ！、…俺達が最後か！？」
「分からん！だが、これ以上の猶予は無い！」
　息を切らせて『隔離門』と呼ぶ場所を駆けぬける二人。先行していた男が《緊急》と書かれた壁の一部に触れると、小さなシャッターが開いた。中には１０キーとレバー。シャッターが開くと、男は流れるような手付きで１６桁の暗証番号を入力し、レバーを９０°回して思いきり引いた。
　瞬間、設置されていた上下左右、計８つの送電機から攻撃にも転化可能な強力な電磁シールド、通称『電脳魔方陣』が５ｍの間隔を空け、通路のこちら側と向こう側を遮断するように二重に展開。続いて厚さ５ｍはあろうかという特殊な金属で構成された壁の一部が左右から迫り出し重音と共に閉じ始める。
　特殊な攻撃も物理的な攻撃も遮断する門。Ａ級能力者でも突破には１日はかかる。非常事態時には外へと繋がる研究所内各所の門を閉じる手筈になっていた。
「これで、一安心か」
　肩で息をしながら、門の正面、通路の真ん中で腰を下ろす男。
「死亡フラグ立てんな。お前が勝手に死ぬ分には構わんがな。ほら、いくぞ」
「はいはい。しかしなんでお前だけ？」
「あ？　…あぁ。お前を置き忘れてきたのを思い出してな。それで死なれても寝覚めが悪いから引き返して来た」
「そっか…、ありがとな」 

　気恥ずかしいのか左手だけで返しながら先に歩き出す男。腰を下ろしていた男は立ち上がる刹那ふと振り返ってしまった。なぜ振り返ったのかは分からない。虫の知らせか。男は見てしまった。閉じゆく門の隙間から。その通路の一番奥。

　いつから居たというのか。

　少女。
　美しい、少女だった。
　身長は１５０ｃｍ程度だろうか。処女雪のように白い肌。天性のものであろう金髪が蛍光灯の光を柔らかく反射している。黒と紫を基調とするショートラインのカクテルドレス。完璧に整えられた彫刻作品のような美しい顔には、あるはずのパーツが一つ欠けていた。右眼が無い。眼球があるはずのそこは空洞だった。左眼は対照的に採光が宝石のように赤く輝いている。
　宝石を宝石で着飾った西洋人形のような場違いな格好の少女。正面を向き、首だけが不自然に右斜めに傾いている。少女の左眼に魅入られた瞬間。男は言葉では形容し難い地獄のようなものを垣間見た。
　少女が嗤った気がした。
「ひっ…！」
　首だけが不自然に右斜めに傾いている少女の右手だけが動く。
　その手には何か木の棒の様な、細いものが握られている。
　男は声を飲み込むと同時に弾けるように立ち上がり駆け出そうとするが、足がもつれて転んでしまう。
　少女が何かを投擲する。
　重力に従い、転んだ男は前方の地面に吸い寄せられていく。
　少女が投擲した木の棒の様な、細いものは恐るべき速度で飛ぶ。
　Ａ級でも壊せないはずの強力な電脳魔方陣を容易く貫通し、ほぼ閉じた門の僅かな隙間をそれは高速で通過する。
　転んだ男の頭、数ｃｍ程上をそれは風切り音すら残さずに通り過ぎる。
　転んだ男の前方で、ボン！という何かが弾け飛ぶ音がした。

　重音と共に『隔離門』が完全に閉じたのと、電磁シールドが自動修復を開始したのと、転んだ男が地面に抱きつき目の前の下半身だけしかない、命の恩人にして親しい同僚だったはずの「何か」が崩れ落ちるのを血の雨の中確認するのは、同時だった。

　・８月９日　２１時２４分

　静寂に向かう夜の帳を無理矢理引き剥がすようなサイレンと共に、研究所から本国政府、及び島内全域へ非常事態宣言が通達された。    </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:19:46+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/139.html">
    <title>したらばＳＳ作品　◆IPU8SGkvmQ 1-2</title>
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    <description>
      学園祭を一週前に控えた朝の食堂で、晴海は持っていた箸を取り落とした。
　正面に座っていたルームメイトに「どうした？」と訊かれたが、答える余裕もない。
　メガホンを持った鎖々崎結と他数名が食堂の入り口側に陣取り、各自なにやら神妙な顔で構えていたのだ。
『ライブ告知ぃぃぃぃ！！！！！！！！！！！！！』
　鎖々崎は食堂が埋まるのを虎視眈々と狙っていたらしく、晴海が偶然それに気付いたまさに直後、ものすごい音量で叫びだした。
『朝からバカうるさくてほんとにごめんなさい！　知らない人はうるさい連中だって覚えておいてください！』
　数百人は居るであろう食堂はざわつきはじめ、時間も時間で文句を言いだす生徒も少なくなかった。それでもちらほらと良さげな反応があるところ、彼女達の知名度はやはり低くないらしい。
『Sound Wabe Burstです！　みなさん！　学園祭を控えた今、生活ボルテージあげちゃってますかー！』
　鎖々崎が食堂の半分ほどの注目を浴びているが、急すぎる上にアウェー感が強い。
　晴海の座っている席から二つ離れたテーブルには、観察するような視線を彼女達に向けている生徒もいる。
　これは厳しいな、と晴海が思っていると、
「そうでもないよー！」
　入り口の真反対にある席から女生徒の返事が来た。何故だかサクラ臭が尋常じゃない。
『な、なんだってぇー！！』
　茶番臭も並大抵のものではない。
『そんな調子じゃあ大変だ！　ってことはやっぱり！　その踏み台って必要じゃない！？』
「「いるいるー！」」
　声を揃えたこの反応。どこからのものかやはりサクラらしい。晴海は聞き耳を立てつつ、焼き魚を解体する。
『そこで！　私たちＳＷＢから！　重大な発表がございます！』
　鎖々崎はそれから、ざわつきの隙を探すようにすぅと息を吸った。
『――来週木曜！　学校祭開催直前の夜！　前夜祭ライブをやっちゃいまーす！』
　その瞬間、先程話していた生徒たちが立ち上がった。よく見ると制服の胸元にバッジをつけている。
　カラフルな七色ラインを見るところ、風紀委員のようだった。
『そういうわけで、詳しいことは私たちのＨＰか、練習場所まで直接来てきいてね！　さよならアディオス！　文句はライブ当日に聞こうじゃない！』
　鎖々崎達もそれに気付いたらしく、早口で言ってばたばたと後者の方に逃げていった。サクラはそれぞれ「へえ」とか「楽しみ」とか抜かしつつ、ナチュラルに食事に戻りだした。
「鎖々崎やるなぁ」
　ルームメイトは笑いながら呟いた。
「あんまり無茶すんのはどうかと思うな」
「そうかな。鎖々崎らしくていいよ、ああいうの」
「それは、まあ……」
　晴海ははっきり頷けないまま、箸で食器を突いた。 

◆

　結局昼休みになるまで、鎖々崎の姿は見られなかった。
　クラス内では早朝から「捕まって説教を喰らっているに違いない」という風説が流れていた。
　晴海もそうに違いないと頭の隅で思いながら、売店に昼食を買いにやってきた。
「カレーパンが売り切れなんて！」
「あたしのカレーパン！」
「カリカリの生地！」
「とろとろのルー！」
「カリカリとろのパン！」
「カリオストロの……」
　そこそこ人が並んでいる中、やかましい二人組がいた。
「あ」
　そのうちの一人が視界の端に異物を見つけたようで、勢いよく振りかえってきた。
「きょうごくん！」
「京極だよ」
　鎖々崎だった。
「なにしてるの？」
「こっちのセリフだよさっさと買ってくんないかな」
　鎖々崎と晴海の間にはまばらでも数人の生徒がいる。視線が痛い。鎖々崎の連れらしい女生徒も、彼女の急な反応に驚いたような顔をしていた。
「たしかに」
　鎖々崎たちは適当なパンを選び、最前列から外れる。
「あんぱんください」
　晴海も売店の列から抜けると、鎖々崎ともう一人が待ち構えるように立っていた。
「彼が例の人。例のアレだよ」
　鎖々崎が言う。
　隣のショートヘアの少女は、ふんふんと片眉をあげた。
「なるほど君が京極晴海かー……。思ったより背筋いいねー」
　どんな認識の上でそう言ってきたのかはわからない。
　晴海が不審そうに視線を返すと、
「――あー自己紹介。わたしはＳＷＢのドラマー、早矢止奈留（はやしなる）。よろしくするー？」
　早矢止は顔の横で掌をくるくると振った。
「まあ……よろしく。何故か鎖々崎から聞いてるみたいだけど、俺は確かに京極晴海だよ」
　あはは、と早矢止は歯を見せるように笑いながら、晴海が差し出した手を取った。大きくはないが、掌が少し固く、男っぽくもあるような妙な手だ。
「そーだ。せっかくだし一緒にご飯食べようか。わたし以外にもメンバー紹介したほうがいいんじゃないのー？」
　早矢止は鎖々崎にそう言うと、鎖々崎は晴海に向けて目をぱちぱちさせた。
「そうする？　みんな女の子だけど」
「遠慮しとくよ。別にメンバー紹介も必要ないんじゃないかな」
　晴海はあまりトゲのなさそうな言葉を意識したが、二人がどうとるかはわからない。
　鎖々崎は「そっか」とあっさり引き下がり、早矢止と共に校舎玄関のほうに歩いていった。
「はぁ」
　やはり何がしたいのかわからない。ライブ実施に関しての打ち合わせもしていないし、先日以上の話も鎖々崎からはされていない。
　いっそきっちり話をつけてしまうのもいいのかもしれないが、その労力も消費する気にはなれなかった。
「……あ？」
　鎖々崎達を見送っていた晴海に変な声がかかった。
「ん？」
「京極か。何だお前、ぼっちか」
「ああ、どうも……」
「よし。ちょっと面貸せ」
　背後に数人生徒を連れた、御神本紫鶴だった。 
　晴海は一階端の多目的ホールに連れていかれ、御神本に言われるがままに丸テーブルについた。
　対面には御神本が座り、右手側には先日の縁翠、左手側には顔に見覚えがある男子生徒、テーブルから少し離れた場所でガタイの良い生徒がつまらなそうな顔で腕を組んで立っていた。
「とりあえず、今回ＳＷＢのライブに直接手を貸すことになる面子だ。マネージャーだよな、お前」
「まあ……そうなんじゃないですか」
「なんだ、薄いな、反応」
　まあいい、と御神本は続ける。
「会場設営関係の人手は鎖々崎のほうで用意しているらしいから、俺たちがやんのは事前に言われてたらしい安全確認役を受け持つことになるんだが」
「俺もそれは聞いてましたけど」
「京極お前、部活とか課外活動とか諸々、最近なんか始めたか？」
　突拍子もない質問に晴海は首を捻った。
「え。やってませんけど、なんですか？」
「万が一に備えての話だ」
「……あー、風紀委員とかの関係ですか」
　既に自警団でライブを強行するという話に決まっているし、今朝の鎖々崎達の騒ぎで口コミも広がっているに違いない。
　単純に考えて、当日に生徒会や風紀委員の妨害に遭うのは目に見えている。
「そう。んで調べたがお前、Ｂランクアクターだよな」
　おい、と、そこで晴海は口走りそうになった。
「……もしかしてとか、そんなくだりも要りませんよね」
「京極、中々お前は理解が早くて助かるな」
　御神本は頬杖をつき、見下すような視線になった。
「自警団も人手が余ってるわけじゃない。無所属なら、自警団として仮に扱うこともできるからな。もしも責任問われたら、俺がなんとかしてやれるんで」
「…………」
「ちょっと力貸してくれよ、マネージャー」
　周りの人間ばかりが勝手に話を進めているこの状況に、そろそろ本気で文句を言ってもいいのではないか。
　このまま流されるがままに居続ければ、マネージャーの次には仮自警団となってしまうのだ。
　もう完全に、自分の立ち位置が迷走しまくっている。
「あの、「あんたさぁ」
　晴海が手を挙げようとしたところで、縁翠が睨むような目つきをして言った。
「ああ、あたし縁ね。覚えてる？」
「覚えてるよ、髪とか」
　今日は巻き髪が六つだった。
「髪って。……とにかくあんたさ、ぶっちゃけ鎖々崎結のマネージャーとかでもなんでもないんでしょ？」
「よくわかったね」
「即答するし……。鎖々崎結に何言われたか知んないけどね、どうせわざわざ付き合ってやんなくてもいい話じゃん。悪いこと言わないからさ、こういうこと、中途半端に関わらないほうがいいわよ。メリットないし、だいたい後悔するし」
　縁は吐き捨てるように言って、彼女の対面にいる男子生徒と目を合わせた。
「なんで俺を見る」
「似たようなヤツでしょ？」
「そんないい加減には生きてない」
　間接的に明らかに馬鹿にされ、晴海もうんざりした気分になる。 
　そこで見かねたように、御神本が両手を軽く上げた。
「まあ落ち着けお前ら。まだ京極は何も言ってないだろ？」
　晴海は目を細めたまま返事に窮し、改めて物を言うタイミングを失っていた。
「黙るのか？」
　すると横の男子生徒が言う。
「まあ、ついでに自己紹介をしておく。俺は富士野颯太（ふじの そうた）だ。一応同学年だし、顔くらいは知ってるよな、お互いに」
　正直うろ覚えだったが、晴海は軽く頷いておいた。
「そしてあっちで立ってるのが名取克己（なとり かつみ）。あいつも俺らと同じ二年だな」
　富士野は背後に指をさした。その先に立っていた名取という生徒は、ちらりと視線を向けただけで、特にそれらしい挨拶はしなかった。
「京極、一応先に言っておくけどな」
「先に？」
　富士野は頷く。
「……俺だって、別に例のバンド自体に何か思い入れがあるわけじゃない。極端な言い方をするなら、どうでもいいんだよ」
　ハァ、と、縁が深い溜め息をつくのがわかった。
「だけどな。だからって今回の話、知らぬ存ぜぬで蹴るわけにはいかない」
　晴海は目を細める。
「自警団だから？」
「それもあるけど、もっと俯瞰的な視点で」
「…………」
「俺たちが生活してるこの空間、環凪島はイカれちまってる無秩序にあるけど、住んでる人間は最低限の秩序だけは無意識的にでも守ってる部分がある」
「はあ」
「どんなことがあっても、自主的には島から出ようとしない。大半、おおよそ九割九分の生徒は、この小さな世界で無軌道に生活することを受け入れてるんだ」
「それで」
「隔離島だろうがなんだろうが、ここには俺たちのような連中のための施設やらなんやらが全肯定的に置かれてる現状がある。これが俺たちにとっての常識で、現実なんだからな」
　晴海は頬づえをつき、話半分に耳を傾ける。
「そのための環境で、そいつのために俺たちがいる。自分達が世間からあぶれちまってるから、あぶれるしかない連中が、周りの顔色伺わなくても過ごしていけるように、バランスとって過ごせるよう働きかける。それって当たり前だよな？　俺たちはここにいるしかない、この環境があまりにも心地いいから。だからこそどこかで折り合いをつけてこそ、関われなかったあぶれもの同士が関係を作っていけるような、そういう場所を持てるんだって」
「富士野さぁ、ハナシ長いのよ。暑苦しい」
　縁もうんざりしているらしい。
「だからＳＷＢはな。誰かにとっての偶像みたいな、外れ者だけの共通項みたいな、俺たちがこの島の中に居る中で、より良い環境を作るに十分な価値があるんだ。それに京極、知ってるか？」
「何を」
「あの鼓膜をぶち抜いて魂にまで響くような歌声がたまらない」
　晴海は凝視してくる富士野に眉をひそめた。
「あいつらが好きな生徒が言うんだよ。だからあいつらの声は、少なくとも誰かには確実に届いてる。隔離されて、小さい島に追いやられた、俺たちみたいな連中の胸に」
「……」
「それにあいつらだけじゃない。ここに居る奴らがここに居る奴らのために動くことってのは、あるべくしてあることだろ。それを俺たちはサポートして、たまには制御して、上手くやっていけることが一番正しいと俺は思ってる。その手伝いができるなら、いくらだって体を張れんだよ」
　そこまで言って、富士野は咳払いをする。
「……まあ俺は、あいつらの曲をまともに聴いたことはないんだけどさ」
　黙っていた御神本が、「締まらねえ」と笑った。 

◆

　明確な答えを出さないまま、晴海は食堂で一人夕食を摂った。混雑ピークには少し早い時間帯で、席もまばらにしか埋まっていない。
　ぼんやりしながらフォークでスパゲティを絡め取って、簡単に巻き込まれるもんだ、と口に含む。
　そこでふいに、べりべり、という音に気付いた。
　食堂の端の方からのもので、晴海はそちらをちらりと見る。
「こーか！」
「ちょっと傾いてる」
　等間隔に並んでいる窓際の円柱に、ポスターを貼っている女生徒二人組が居た。
　一人は結構な枚数の黒いポスターを抱えていて、もう一人は派手な頭と着崩した制服の上に、太いベルトをゆるく巻いて、そこにガムテープやらセロテープやらビニールテープなどを通してたくさん持っていた。
「うーん……つか紗莉は？　あいつこーいうの得意じゃねーの？　ぱぱぱーんってやつで」
「さぁ……。なんだか、納得いかないところがあるから練習するって、いってたかな？」
　聞き耳を立てるのも趣味が悪い。晴海はスパゲティをさっさと食べ終え、カウンターで食器を下げる。
　と、
「――はァ！？」
　食堂に大声が響いた。さらにばさばさとポスターが撒かれ、晴海は思わず二人組に振り返った。
「今回はそういうのじゃねーって散々話してただろ！　アホかあいつは！　そもそも開催できるかって瀬戸際でやってんのによ！　ちょっと連れてくるわ！　ポスター貼りやがれっての！」
　ベルトの生徒は血相を変えて校舎側の廊下へ早足で去って行き、もう一人を残して居なくなってしまった。
　残った生徒は無言でその場にしゃがみこみ、ポスターを拾い始める。晴海はさりげなく彼女に近づき、少し離れた位置からポスターを覗いた。内容はＳＷＢのライブ開催告知だ。黒ベースの紙の上部に大きなロゴが入っていた。そしてイラストと、右下には赤い判が捺してある。
　やっぱり、と思いながら、晴海も女生徒の前でしゃがむ。
「手伝う？」
　すると女生徒はびくついたように顔をあげた。
　掛けている丸眼鏡が特徴的で、他には取り立てて挙げる部分もない、はっきり言えば地味な生徒だった。髪ももたっとしていて、重たく見える。
　彼女が何も言わないので、晴海は弁解するように両手を小さく挙げた。
「あのー、別に変なアレとかじゃないよ。なんか俺と状況似てるっぽくて」
　晴海は彼女の返答を待たず、ポスターを拾い集める。
「……似てる？」
　訊き返されるが、晴海はとりあえず頷いて返した。
　はっきり言うと鎖々崎に変な話が通りそうで、無意味に警戒をしてしまっていた。
　おそらく君もＳＷＢに手伝いを要求された一人で、嫌々かは置いておくにしても、現在はある種被害を受けている仲間なのだ、と……。
　さすがに、言うに言えない。
「なんていうのかな。周りの人、すげー、みたいな？」
　晴海は苦笑しながら集めたポスターを差し出した。口調にカドが立たないように意識したが、どこか馬鹿にしたようなものになってしまっていた。
　女生徒はポスターを受け取って、「ありがとうございます」と頭を下げる。
「……確かに、すごいですよね」
　それから彼女はポスターに目を落としながら呟くように言った。
　こういうタイプの生徒にもバンドの影響力があると思うと、富士野の話にも説得力が出るような気がした。エネルギッシュな鎖々崎と彼女のような静かな生徒の間には、薄い壁のような境界が少なからずありそうなものだが、歌を通してしまえばそんなものは関係がなくなるのではないか。
　もっとも、晴海が実際にどうするかは別だ。
「私ももっと、みんなみたいにハジけたいとは、思ってるんですけど……」
「ハジけ……って、そうなの？　無理しなくてもいいと思うけど」
「いえ、無理じゃないんですけど……」
　晴海はなんとなく、じっと彼女の言葉を待った。
「……やっぱり、」 

「おいコラァ！」

　またも食堂におたけびのような声が響く。
　晴海と女生徒は肩を跳ねさせるように驚き、食堂に出口方面に素早く向いた。
　頭が花火のように炸裂した、先程のテープを大量に持った生徒。さらにその後ろにはひどく目つきの悪いロングヘアのが居て、二人は大股で晴海の方に接近してきていた。
「なんだてめえ、めんどくせえ系の野郎か？」
　晴海の目の前までやってきてから、派手な頭の方が下から持ちあげるように顔を近づけ睨んだ。
「俺は別に何も……」
　と、ちらりと眼鏡の生徒を見るが、刃のように鋭い視線のロングヘア女が立ちふさがり、視線を阻まれてしまう。助け船が出ない。
「島守、こいつは痴漢なのか」
　ロングへアが言う。
「痴漢だろ、知里狙いって大体ほぼ痴漢だからな」
　派手頭が晴海を睨んだまま応える。
「……痴漢じゃないよ。ポスター拾ってくれただけ」
　眼鏡の生徒は小声でフォローする。
「だけどそれだけか？　なんかこいつ、知里ガン見してたよな？」
「そうかもしれないけど……」
「どーせアレだよ、知里見てムラっと来てたんだよこいつはよ！　なぜならアタシも来るからな！」
　色々言いたいことが増えてきたが、晴海はまだ耐える。
「え……そうなのかな……」
「そうだな。私も知里はマズい。抱き心地がたまらん」
　ロングヘアまで妙な事を……。
　派手頭はたたみかけるように晴海の鼻先に指をさし、目をかっと開いた。
「ほらこいつ今！　わかるぅ～、って顔してたぞおい！　この野郎！　アタシと同じ趣味とは良い度胸だなコラァ！　誰がくれてやるか畜生が！」
「くく、やめておけ島守、知里は私のものだから、お前にもやらん」
「じゃあアタシたちのもんな！　こいつはそれを奪おうとした不届き者だ！　痴漢窃盗余罪何件！？」
　ロングヘアの陰から晴海を伺っていた眼鏡の生徒も、だんだんむっとした顔になり、

「……じ、じゃあ……この人、痴漢で」

「いやいやいやいや！！　ちょっと君、情報操作喰らってるって！　俺はどう見ても無実だよ！」
「だって……なんか、僕は君と同じだよ、ってにやにやしてたし……」
「そんなふうに取ってたの！？　違うよね、そうじゃなくてさ！」
　狼狽する晴海。一歩下がった空間には、派手頭はさらに踏み込んできた。
「じゃあなんだよ！　お前舐めてえんすかコラァ！　同じとかもうどんな趣味してんだよパねえな！」
「個人的には、そうだな。私もシンクロ的な感覚は良い……いや性的な意味ではなくな……。ああ、やるじゃないか」
　ロングヘアは派手頭の横にまで接近し、同じく晴海に詰め寄る形になっていた。
　晴海は両手を高く上げ、無罪を必死にアピールする。
「待て！　頼むから落ち着いてくれ……、脱線しすぎて俺無関係だろ、もう」
「でも、変態さんなんですよね？」
　確かめるように眼鏡の生徒は言う。
「いつの間にか昇格してるよ……。とにかくさ、違うんだって、聞いてくれ」
　少し相手方が収まったので、晴海は軽く息を吸った。
　ここではっきりさせておかなければ……。彼女達は非常に面倒くさいタイプの人種らしい、これはもう、全力を出して後退していく形を取らなければならない。
「俺がその子に似てるって言ったのは、ＳＷＢ関係の雑用のことだよ」
　晴海は柱に貼られたポスターを指差して言う。
「ちょっと俺も鎖々崎と色々あって、厄介に巻き込まれただけ。その子もそうだろ？　だからだよ、それだけ。本当にそれだけだから。これ以上の意味はないの」
　切れ切れにはっきりと言って、三人の顔色を確認した。
　だが三人の表情は静止し、晴海をじっと見つめている。
「なに」
　少しの沈黙。
「……俺も、って、どういう意味かな？」
　眼鏡はロングヘアを見る。
「さあ私は話が読めん。読む気もない」
　ロングヘアはじろりと派手頭を見る。
「……なるほど。そーか、お前が京極かぁ……」
　腕を組んでいた派手頭がにやにやと笑う。
「つまりこいつが結の言っていた男か？　むー、特筆すべき部分も感じないが……」
　ロングヘアは顎に拳をあて、観察するような視線を送る。
「なんだろう。怒らない、とか……？」
　眼鏡の生徒もフレームを両手で抑えながら首を捻っている。
「なんなんだ……。というか、俺の疑惑は晴れたのかな」
　そして彼女達はつまらなそうな表情を揃えて見せたあと、それぞれ別々の形で頷いた。 
晴海は眼鏡の少女と二人で歩く。ほとんど派手頭――島守ことりに強制される形だったものの、消灯時間まではまだ時間があるので、素直についていくことにした。
「杉並さん、どこ行くの？」
　前を歩く眼鏡の生徒に訊ねる。彼女は杉並知里という名前だという。他の二人の名前も、既に彼女のほうから聞いていた。
「ポスター取りに行くんです。さっきの分は二人に任せちゃったから」
「そっか」
　島守とロングヘアの坂堂紗莉は、先程の問答が終わると、食堂でまたポスター張りを再開した。それを見た晴海は自室に戻ろうとしたのだが、何故か杉並への付き添いを島守から言い渡されてしまっていた。
　断りきれる相手でもなさそうだったので、これは仕方がない。
「……あのー、鎖々崎は今何してるの？」
　無言を嫌って晴海は訊ねる。
「結は……まだ打ち合わせだと思います」
「当日の？　自警団と？」
「そう。でも自警団じゃなくて、機材の搬入のほうです。学校祭の日にも他のもの運ぶ業者さんだから、色々あるみたい」
「へえ」
「こういうこと初めてだから、あんまりはっきりしてないんです」
　晴海は首を捻った。
「どういうこと？」
「いつもは同じところで、あの、勝手がわかってる場所で、ライブしてるから」
「ああ、ライブはもっぱら同じとこなんだっけ」
　鎖々崎の声やらに対応できるような彼女達専用のライブハウスのことだ。もちろん晴海は知っているだけで、言ったことはない。外観すら知らない。
「だからみんな、浮足立ってる、って言うんですか、そういう状態で。私もなんだか、落ち着かないなあって気分です」
「大変だね」
「そうです」
　大変らしい。そして話題が尽きた。そのまま彼女の後ろについて、印刷室まで一緒に歩いてきた。
　杉並ががらりとドアを開ける。教室の壁に接するよう、大きめのプリンターが数台置いてあった。現在も生徒が何人か利用していて、作動音が忙しない。部屋の中心には作業用のものか長机が並べてあり、周囲にパイプ椅子も置いてある。
　机の上には紙の山がどっさりと乗っていた。様々なものがあり、学校祭用のものが大半だろう。その山から一枚ずつ紙を取り、座ったまま次々にハンコを捺し続ける女生徒がいた。
「奈留……も忙しいかな」
　杉並は部屋に入る。どこか呼びづらそうに早矢止の顔を見て、早矢止が積んでいく紙の山を静香に手に取った。
　すると、
「――はんっ！」
　早矢止は目を思い切り見開いて、回りをきょろきょろと見始めた。まるで後ろから脅かされたような反応だったが、杉並の姿を認めるとすぐに息をついた。
「ごめん、邪魔しちゃった？」
「いーや大丈夫。ルーチン崩しとはやるねー知里」
　ぬふふ、といったように笑って、早矢止は入り口付近に立っていた晴海に目をやった。
「あれ京極くんじゃん。なんで居るのー？」
「成り行き。早矢止さんはなにしてたの」
　面倒な時は相手に話をさせるべきである。晴海はとりあえず近づいて、早矢止の手元の紙を覗いた。
「工作だよ」
　早矢止は手に持っていたハンコを掲げ、誇らしげな顔をした。晴海が目を細めると、彼女はポスターの山から一枚を取り出した。
「学校のポスター類も生徒会、というか生徒指導部通してからじゃないと貼っちゃいけないしねー。もちろん企画自体が通ってないわたし達の場合は駄目だし」
　ポスターの右下にぽんと判を押しつけた。「生徒指導部」と変形した字が真四角に捺されている、ように見える。
「これで、外から見れば問題は無さそうに見えると」
「でもすぐバレない？　ハンコも工作バレたらやばいんじゃ？」
「判はよく見たら違うから大丈夫。それにこれは時間との戦いだし、バレるかどうかは問題じゃないよねー」
　早矢止はひらひらとポスターを乾かすように振って、机の上に置いた。晴海はそれを眺める。
「……これ、開催日が学園祭当日になってるみたいだけど」
「撹乱作戦？　まー口頭では前夜祭って言ってるしー、実際にやるのも前夜だし」
　色々と行き当たりばったりが過ぎるのでは、と晴海は思ったが、口にしないようにした。
　杉並はテープ類を探していたようで、ポスターの上にセロテープなどを乗せて突っ立っていた。
「そーだ、そろそろ貼りに行くー？」
　早矢止が杉並に訊ねる。すぐに頷いた杉並は、晴海の顔を見つめてきた。
「あの、京極くんも手伝ってくれませんか？」
「え？」
　早矢止も不思議そうな顔をして、晴海と共に杉並を見返す。
「せっかく、なので？　えっと、なんて言えばいいのかな……」
　異様なほど難しげな顔をしてから、意を決したように首を振って、
「……やっぱり、似てるのかもしれない、ので」
　思わず晴海が早矢止を見ると、彼女は口を縦に開けたまま、まるで呆けたように目を丸くしていた。 

◆

　釈晴彦がシスコンであることは風紀委員会での常識である。
「どういうことだよこれ！　これは生徒生活の風紀を乱している！　直ちに取り締まるべきじゃないのか！」
　委員会室で叫んでいる彼が手にしているのは、学園内で屈指の人気を誇るバンド、ＳＷＢのライブ告知ポスターだ。既に風紀委員でも何度か話題として取り上げているバンドで、何よりリーダーの鎖々崎結はここに数回顔を出していた。
　その上で「ライブの開催は許可できない」という結論を出している。これを無視して強行すれば停学は確定であるし、ライブ自体の協力者を得られるとも考えにくかった。
　だが、どう見てもやる気マンマンで迷惑千万も辞さないというスタンスである。
　夕雁紅葉は釈の掲げるポスターを眺めながら、面倒だな、とこぼしそうになった。
「晴彦って当日の仕事なに」
　夕雁は訊ねる。
「野外グラウンドの見回り。フットサル大会とか中心で」
「そ」
　適当に頷いて、夕雁は椅子にもたれて腕を組んだ。
　仮にＳＷＢが当日ゲリラライブを実行するとして、中止のために風紀委員の人員を裂くとするならどれくらい必要だろうか。手が余っている人間があまり思いつかない。学園祭の警備に関しては、トラブルに対して潤滑な対応をできるよう、相補的な助け合いができるような所定の位置をほぼ決めてしまっている。
　もしそれを無視してＳＷＢの対応のために人員をまわし、他のイベント会場で事故でも起きてしまえば、風紀委員の責任問題にも少なからず関わるだろう。そこを突かれて生徒会の傘下に置かれてしまう流れまで持ち込まれては、鬱陶しくてかなわない。
　だからといってライブを無視するというわけにもいかない。
「じゃあそこは鉄くんに任せるわね。どっちにしろ、そっちのエリアリーダーは彼だし」
　ならば信頼のおける人物の負担を増やせばよいのだ。
単純に委員長だけの信頼ではなく、他の委員からも一目置かれている相手に。
そうすれば嫌々だろうがサポートの意識は強まる。少なくとも指示待ちしかしない人間は少ないはずなので、多少首を閉めるくらいでもある程度は動けるだろう。
　そして負担の減った、さらに言えば「当日の仕事に期待をできない人間」に、割りを食わせてやればいい。やらない、やれない人間には、やらなければならない状況を乗せる。
「てことは、俺はライブ止める方に入っていいんだな」
「そうね。あとはあんたと仲良い小野くんと、」
「あいつは使えない！」
　釈晴彦は最近委員会に入ってきた小野運河とちょくちょく関わりがあるようだが、微妙に違うらしい。
「それに、俺がライブを止めたいのは妹がこれに興味を持ってるからで、公序良俗に反しかねないこいつを辞めさせるにはもっと信頼できる奴を――」
「わーかったわよ、もう。ほんとめんどくさい奴……」
　そう言いながら夕雁はポスターを奪いとった。
「とりあえず小野くんは確定……。使えないなら尚更ね……、あとは誰か……」
　ポスターを眺めると、生徒会の判が捺してあった。まさか生徒会からの承認を得られたとも思えない。それ以前に副会長の一戸遥から、「大きなイベントは風紀委員と自警団から既に承認を得たものしか通さない」というルールを今年は設定しているのだと聞いていた。
　であれば、これは勝手に行っているイベント告知である。
　一方、風紀委員は原則としてトラブルを起こした人間に対応する機関であるため、裏が取れるまで生徒に言いがかりをつけるような真似はしない。もちろん不正がほぼ確定的である状況で、今から生徒会に走ればすぐに摘発できる問題ではありそうなものである。
　しかしポスターが貼られている現状、下手にＳＷＢを止めてしまってこそ、学園祭前の風紀を乱してしまいかねない。どんな繋がりの上で彼女達はライブを開催しようとしてるのかをはっきりさせなければ、最悪有志の大半がボイコットしてしまう事態にもなってしまうかもしれない。
　夕雁は溜め息をついた。どうも、委員長として後手に回ろうとし過ぎてはいないだろうか。
「とりあえず暴徒に対応できる奴を貸してくれ」
「暴徒ってなんなのよ……」
「この件、自警団が絡んでいるとも噂で聞いてる」
「は？　なんで？」
「昨日の朝、ＳＷＢが食堂で騒いでたの知ってるか？」
「聞いてたような」
「その時奴らを止めようと動いたのは、こっちだけだったんだとよ」 
　だから？　と言いそうになったが、夕雁は少し考えた。
　自警団は罪のない生徒に襲いかかるくらいネジが吹っ飛んだ者もいる集団だ。確かにその時、すぐに抑え込みにかかるような生徒がいてもおかしくはない。
　さらに手元のポスター。晴彦がもってきたこれを自警団が見ていないわけもなく、そこからＳＷＢを止めないわけもない、ような気がした。もっとも承認を受けていると思っているのなら、そうはならないだろうが。
「……最悪ライブ止めるとなると、自警団とぶつかるってこと？」
「十分な対応を想定するなら、それも度外視はできない」
「そこまでひどくなったらさすがに各所から人員まわすわ」
　そこまでひどくならないようにするのが風紀委員の仕事である、ともいえる。
「じゃあそうね――」

「私が出ましょう委員長」

　いつから居たのかわからない、少女の声がふいに聞こえた。
「あれ？　いたの、経亜」
　左手の壁に影がある。一年の蛇迷寺経亜だ。手入れしているのか天然ものなのか、異様なほど真っ黒な髪が目立つ。
　彼女は夕雁のほうへすたすたと踏みこんだ。そしてテーブルに両手をつき、ぎっとした目つきを見せる。
「名前で呼ばないでいただけないでしょうか天下の委員長様このっ」
「名字長いからイヤ」
　即答すると、こほんと蛇迷寺は咳払いのような素振りをする。
「私、当日は暇になったので」
「いやあなたにも仕事あったわよね」
「大丈夫です」
「何が？」
「私の担当区域はみんなゲリラ辞退するので」
「中止、でいいよね。っていうか、どうしてわかるの？」
「局所的な豪雨が降るので」
「……降らせるの？」
「さぁ……私が担当すると、降るかもしれない」
「…………」
　視界の端で晴彦がイライラし始めているようだった。
「そ。とにかくあなたもそっちね」
「よろしくお願いします」
　彼女の意図は読めない。が、雨を本当に降らせることができるとしたら、困る。
「それから、誰がいいかなぁ……まだ三人……」
　蛇迷寺がそのへんの椅子についたところで、また夕雁は考える。晴彦はそわそわしはじめた。
「当日の個人スケジュールとか持ってないのかよ」
「持ってても悩むし持ってないし。副委員長が管理してるのよ」
「そうか……ならいい、けどさっさと決めてくれねえかな」
「あのねえ、六日前にこんな話もってくるからこうなるのよ？」
「この時期にやっと話がまとまったんだろ。そのせいで雨乃にも近況聞けてないし、友達にライブ誘われたってのも誰からは聞けてない！」
「あ」
　近況といえば、最近風紀委員会に所属が決まった生徒が居たことを思い出した。学園祭準備に忙殺されていたこの時期では、あまり印象に残せていなかったが。
　少し前までは能力が安定せず、暴走によって世界を妙な方向に持ちこんでしまいそうになった、ある種巨大な存在。
　高ランクの生徒はいかなる団体においても重宝されているため、名前だけでの所属でもマイナスにはなりえないのだ。
　先日に一度顔を合わせた程度であったが、仕事を与えてみてもいいかもしれない。
「せっかくだし……」
　言おうとしたところで、ノックが鳴った。
「入るぞ」
　同じ風紀委員、岡崎礼零那の声だ。
　まさに丁度のタイミング。彼が担当していた委員会（外部より）の仕事は護衛だったのだ。
　返事を待たずにがちゃりとドアが開く。そこに居たのは二人の生徒。
「観察期間が終わったから顔出しに。来てくれ、自己紹介でもさっくりと」
　一人は白髪の交じった、声の主である岡崎。身長は高く、髪のせいか微妙に大柄に見える。制服とは妙にマッチしていない風貌で、さりげない威圧感があった。
　そして彼のシルエットの脇から、半身程度しか見えていなかったその姿が現れる。
　その女生徒は暗藍色の髪をつまみ、どこか所在なさげに視線を落としていた。
　まるで自分は何もしていないのに、表彰台にあげられてしまったかのような表情である。
「入って。私は夕雁紅葉、一応、風紀委員長をやってるんだけど」
　席を立って声をかけるも、彼女は明確な反応を見せない。やはり、どこか遠慮してしまっているような。
「普通に言えばいい」
　岡崎は静かに言う。彼女の扱い方を多少なりともわかっているらしい。
　やがて少しの間をおいた後に、その女生徒は口を開いた。 
「……高等部三年、小林優です。よろしくお願いします」
島内にも数えるほどしかいないＳランク、「無効空間」の保持者であり、生徒として扱われる以前に研究所にて能力の暴走を起こし、島を一時混乱に陥れた彼女。
　去る五月四日。『明けない夜』を引き起こした、最大級の改変能力を持つ、風紀委員の肝となりえる存在である。

「よろしくね」

　――で、さっそく悪いんだけど……。
　　　　あなたとそこの岡崎に、ちょっとした仕事を与えさせてもらうわ。 

◆

「ちょっと会長、いいんですかこれ」
　一戸遥は狼狽した。なんだこれと。なにしてんのこれ、と。
「俺は生徒会企画で忙しい。なんだ、風紀委員あたりがなんとかするだろ」
　生徒玄関にびっしりと貼られたＳＷＢのライブ告知ポスター。もう幕でも被せたように真っ黒である。
　演劇の練習から帰ってきただけでこれだ。度が過ぎた連中は毎年出てくるものだが、本番三日前からここまでする輩も、一戸が高校生になってからは初めてのことかもしれない。
　しかし頭にライオンの被りものをした生徒会長は、いかにも興味なさげに「百獣のウォー！」と吠えた。
「笑えませんよ、ほんとに……」    </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:17:30+09:00</dc:date>
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    <title>したらばＳＳ作品　◆IPU8SGkvmQ 1</title>
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      「おはよー！」
　小柄な女生徒が鼻歌交じりで教室に入ってきた。
　毎朝あいつは調子がいいな、と晴海は机に頬杖をつく。騒がしいのは嫌いじゃないが、騒がしい個人は好かない。人間、常にスイッチを入れたままにするとろくなことがないのだ。
　何より疲れる。そういう無駄な疲労は人生において最も忌避すべきものである。彼が京極晴海である以上、それは間違えようのない事実だった。
「おはよう京極くん！　朝がやってきてよかったね！」
　こうして無駄にエネルギッシュな挨拶をするクラスメイト――鎖々崎結（ささきゆい）――とは、根本的に水と油の関係にあるに違いなかった。
「おはよう。っていうか……朝は来るって、普通に」
「どうかな、この島だったら来ないかもしれないじゃん。それに前にあったみたいだよ、『明けない夜事件』みたいなの」
　前の席についた鎖々崎は、学生鞄を机に引っ掛けながら言った。
「自転サボんなよ地球、やる気あんのか」
　ありとあらゆる異能異常を混濁異物にして雑多に放りこんでいる『環凪島』に限ってはあり得るのかもしれないが、晴海がやってきた三年前まで、そこまで凄まじい事件は起きていない、はずだった。
　常人では観測すら困難な人間、あるいは存在すら確認されているために、確定的なことがあまり言えない。三年居ても、わからないことのほうが圧倒的に多い。
「ちがうよ全然地球悪くないよ、地球ちゃんは被害球」
　たとえば目の前の鎖々崎が毎日飽きもせずにキャンキャン吠える理由も、よくわかっていない。
「被害球ね……そういうもんなのか」
「うん、そういうもんなんだよね」
　そして鎖々崎はくるんと前に向き直り、他の生徒と話し始めた。
　が、
「そうだ京極くん」
「なに」
　鎖々崎はまた晴海に視線を合わせると、唇をきゅっと閉めて息を吸った。バカでかい声をチャージングしてるのかと思い、晴海は耳をふさごうか迷う。
「今日の昼休みツラ貸してね！　大した話じゃないから！」　
「別にいいけど。言い方がヤンキーみたいだ」
　あはは、と鎖々崎は目を細た。
「なにそれ、私は清純青春ロッカーじゃん？　ヤンキーなんてもー面白くないツッコミだね！」
「面白くないね……ちくしょう……」
　エネルギー消費の多そうな笑顔に精気まで吸い込まれそうになる。
　何を言っても大体無駄そうなので、晴海は鎖々崎から視線を外すことにした。

　昼休みに入った途端に、鎖々崎は振りかえった。
「本当に大した話じゃないんだけど。京極くんって暇だよね？」
「基本暇だよ。それで？」
　晴海は訊き返す。率直にささっと要件を終わらせて、昼食を食べ、静かに過ごす。それが無難だ。
　大した関わりもない相手だ、大した用事ではないに決まっている。せいぜい「掃除代わって」とか「ノート見せて」とか、とりあえず前者なら断る。
「文化祭のライブのことでさ、ちょっと手を貸してくれないかなーって」
「却下で」
「どうしてぇ！」
　問答無用で断ったのに脊髄反射レベルで訊ねかえされた。
「なんで俺がライブの手伝いなんだ。意味がわからない」
　そもそも鎖々崎結のライブといえば、ろくなものではない。


　※

　以下説明。キャラ設定＋αで長い。

　把握済みなら次の　「※」　まで飛ばすのもアリ。 


　彼女の所属するバンド「ＳＷＢ」。そのバンドの筆頭である彼女には、名前の通り「音（Sound）波で（Wave）炸裂させる(Burst)」性質があり、実際に物質を破壊させることができてしまう。
　通称『超振声爆発』という有象無象をバーストしていく彼女の声と、崩壊的でありながらエネルギッシュな曲調がその説得力を強め、本当の意味でのスリリングさをあわせ持った魅力的なバンドであると認識されている。

　だが、彼女の能力による「音波による破壊」は実害をもって証明された事実であり、被害が一切ないかと言えばそんなことはない。

　バンドの引き起こした実害、さらに言えば彼女達の名前が広まるきっかけは、昨年度の文化祭で鳴りもの入りで参加した体育館での有志ライブにあったのだ。
　昨年度の文化祭では、ゲスト参加で環凪島出身バンド「AZUMS FAMILY(ｱｻﾞﾑｽﾌｧﾐﾘｰ)」が演奏することになっていた。
　だが、そんな期待を反故にするように、前座で出演した彼女達「ＳＷＢ」のハジけた演奏によって機材が吹き飛び、続行は困難ということでゲストバンドのライブまでお流れになってしまった。
　その際に「ＳＷＢ」は厳重注意を受け、一週間の停学。ゲストの前座としてたくさんの聴衆を相手としていたため、その中のゲストバンドのファンは激怒し、後一カ月ほどいざこざが絶えなかった。

　けれど同時に彼女達は、島内研究施設での室内強度実験のサンプルとしても注目され、特注の機材と部屋を貸与されることになる。
　彼女の引き起こす「振動」の正体は何か、完成済みの精巧な機械が内部の衝撃で壊れてしまわないか、など、試せるだけの実験を行っていたらしい。
　もっとも全力での練習が行えるようになった彼女達にとって、そこは単純な意味でのユートピアだった。
　そして、さらに磨きをかけられた彼女達の演奏が研究施設内で話題にのぼるまで、そう時間はかからなかった。
　何がきっかけか研究施設の外部まで話は広がり、去年の演奏時点で彼女達に目をつけていた隠れファンも手を挙げ始める。

　やがて生まれた「誇張か虚像か本物か」という期待に対応するため、研究所の有志が作り上げたライブハウスで「ＳＷＢ」のライブを開催。
　結果には大喝采が返り、けが人や機材の破壊もなく、彼女達の素直な音楽が認められたという素晴らしい結果を得ることとなった。
　事件から一年が過ぎた現在では、「ＳＷＢ」のライブは定期的に開催される生徒達の娯楽の一つに昇格しており、生徒の間では知らないほうが少数派という、常識レベルでの存在感を獲得している。
　技術開発部より「爆発用」の機材も提供され、曲や歌声だけでなく、パフォーマンスもより過激な姿に成長してきた。

　だが、 

　※

　とにかく派手さを魅力としているので、演奏は研究機関が用意したライブハウスのみでの実施ということで限定されている。
　それ以外での演奏は「危険のため」、昨年度の学校祭以来、校舎内で行われたことはない。
「今年の文化祭には出演しようって話になってさぁ。色んなとこ掛け合ってみたら、全部自分達で準備するならオッケーだって言われたの」
　鎖々崎はふてくされるように口を尖らせて言った。
「全部って、どっからどこまでになんの？」
「機材の搬入とかさあ」
「とか？」
「うーん……。放送機材も体育館のスピーカーが壊れるようなら差しかえなきゃいけないし、体育館の窓とか壊れそうなら壊れない対策を講じなきゃいけないんだよ。とにかく歌での被害が出ないようにして、研究所のお墨付きももらって、企画部通してやっと合格」
「それでなんで俺に頼むんだ」
「周りの安全管理も有志でやらなきゃ駄目って話になってるの。一応、所定の場所に居ればオッケーってことになってるんだけど、ライブ興味ない人で、なおかつ暇な人が欲しいんだよ」
「いや……おいひでえ、ひでえよ今の……文化祭くらいこっちも普通に回るって」
　晴海が切なげな声で言うと、鎖々崎は首を横に振った。
　そして晴海に顔を近付け、口を小さく開く。
「……ううん。当日じゃなくて、前夜祭としてやる予定だから大丈夫。うちの学校クラス単位では企画とかやらないし、京極くんは有志企画もやらないよね？」
　晴海は頷いた。
「だから、前日の二時間、いや一時間半くらいかな？　それだけ時間をくれればいいの。だめ？」
　鎖々崎は距離を詰めたまま合掌し、上目遣いを送ってくる。晴海は鬱陶しいと思いながらも、体は逸らさなかった。
「まぁ……それなら、うん。わかったよ、それくらいなら別にいい。指定された場所にいればいるだけでいいんだろ？」
　すると鎖々崎はおもむろに立ち上がった。
「やったあナイス色仕掛け！　ありがとう！」
「ガッツポーズ……、少なくとも色気はないから勘弁してくんないかな」
「よっしゃーキュートさの勝利！　Ｓ・Ｗ・Ｂー！」
　さらにクラス全体に向けて鎖々崎は両拳をあげた。すると突然クラスメイトはスタンディングオベーションを始め、彼女の雄姿をたたえた。
「よかったね結！」「みんな結のラｲブ行きたいもんね！」「晴海も器がでかいなぁ！　もう校内じゃ見れないかもしれないのに！」
「楽しみだねー」「もしかしてこれで開催決定？」「やー！　京極がいなかったらどうなってたか！」
「Ｓ・Ｗ・Ｂ！」「Ｓ・Ｗ・Ｂ！」「わー」「わー」
　晴海は周囲を見渡してから、力なく首を振る。
「なんか、褒められてんのにうれしくねー……俺の感性が狂ってるのか……？」
　ライブなんて疲れるだけじゃないのか。そんな顔をして、そこそこ仲の良い男子生徒にぼやくように言ったが、にやにやとした笑みを返されるのみで。
「大丈夫！　お礼は絶対するから！　本当にありがとね！　えす・わー・びー！」
　そばに居る小柄なバーストボイスは晴海の手を握り、無造作にぶんぶんと振りはじめた。
「『ダブリュー』は『ワー』ね、うん……」
　文化祭まで後三週間はあるのに、教室内はすでにボルテージを高めている。
　昨年度もほとんど参加していなかった晴海にとっては、いまいちついていこうとは思えない雰囲気だった。 

そして次の週の朝。
「おはよう……」
　小柄な女生徒がため息交じりに教室に入ってきた。
　今日は珍しくテンションが低いな、と晴海は入り口のほうをちらりと見た。静かな空間は嫌いではないが、雑音が雑音然としていないというのも虫の居所が悪い。
「……おはよう京極くん。朝なんて来なきゃいいのにね」
　皮肉のような笑みを浮かべて鎖々崎は席についた。周りの生徒もどうしたのかとひそひそ話していて、彼女に何があったのか知らないようだった。
「鎖々崎？」
「なに？」
　鎖々崎は振り返らずに返事をした。頬杖をついて外を見降ろしている。憂いのこもった姿はやはり似合わない。
「なに、じゃなくて」
「ああ、そうだね」
　と、腰を回して晴海を見た。
「……この前話したお願いのこと、忘れて」
「ええええええええええええええ！」
　反応したのは晴海ではなかった。聞き耳を立てていたクラスメイトが、阿呆のように口をあけて驚いていた。
「ライブ中止になったの！？」
　その女生徒が言った。この反応で、クラスの視線が鎖々崎に向いた。
「なんかさ、生徒会から言われたんだよ」
　なんて？　と誰かが訊ねる。
「生徒会は企画書出したら受けるけど、バンド活動は学内学外にも関わることだし、風紀委員と自警団からも承認もらわないと開催はできないって。それで早速行ったのにさぁ……」
　鎖々崎の語尾が悔しそうなものになる。
「……委員長に突っぱねられたんだよねぇ」
　晴海は少し鎖々崎の席から離れつつ、クラスメイトが彼女から話を訊く様子を静観することにする。
「風紀委員って、夕雁先輩だよね？　あの人が断るって、結なにしたの？」
　夕雁といえば夕雁紅葉（ゆうがりもみじ）。環凪学園、現風紀委員長にあたる女生徒だ。生徒会と風紀委員、自警団はそれぞれ別の方面から生徒を支援する立場にあり、そのトップともなれば認知度は高い。
　大勢を掌握する立場である以上、それほど気難しい人物でもないと晴海も思っていたのだが、鎖々崎の様子ではどうも違うらしい。
「話聞いてもらっただけ。でも、忙しいのに完全な生徒運営の企画があると、切り詰めてくラインが多すぎる、企画自体も過激だし、何が起こるかわかるかわからないものを認めるわけにはいかない、って」
「そんなに厳密にやってる？」「そうでもないよねぇ、女子がドン引きするような企画とかあるし」
　そんなものがあったことを晴海は知らない。当日に漁ってみるしかないではないか。
　周りの呟きを無視して、鎖々崎は続ける。
「多分チェックも大変だし、当日に人員裂かなきゃいけないのが駄目なんだと思う。当日一番働くの、風紀委員だし」
　晴海の中等部時代からの文化祭を省みても、確かにその通りだった。そういう環境なのだから仕方ない。
「そんなぁ……」
　それからクラスは消沈してしまった。授業が始まる直前まで、見たかった、残念だ、と敗戦ムードに包まれ始めている。
　晴海としては、そこまで悲観することでもないだろう、と思っていた。 

「あのさ、鎖々崎」
　ホームルームが始まる直前、クラスメイトがいなくなってから晴海は声をかける。
　無言で振り返った鎖々崎は、むっと口をつぐんでいた。
「まだ自警団のほうには行ってないんじゃじゃないのか？　とりあえず相談してみたりは？」
「だって全部のとこからオッケーもらわなきゃいけないんだよ。もう無理だって、『門前払い』の人なんだし」
　『門前払い』は風紀委員長「夕雁紅葉」の通称で、武勇伝もいくつかある。確かに、単なるハリボテの立て看板ではない。
「生徒会からお墨付きもらって自警団にも了承してもらってから行けば、さすがに取り合ってくれるとは思う」
「でもなぁ。自警団の人達も受けてくれるか微妙だよ。去年の文化祭で迷惑かけたの、自警団の人たちなんだよね」
　ファンの問題だろうか。そのことについて晴海は知らない。
「いや正直ね、俺はどっちでもいいんだけどさ」
「…………」
「まあ個人的には……、ぶっちゃけうるさいの苦手だし、いや別に鎖々崎は嫌いじゃないんだけど」
「………むー？」
「でもそんなに無理してはしゃいで、後で疲れねーかな、とか」
「んー……」
「俺はどうしても興味もてないんだよね、そういうの」
「うーん……？」
「良いとか悪いとか以前に、ある意味すごいって思うよ」
　鎖々崎は目を細めた。
「……いやいやいや。なんで京極くんの腑抜け事情なんて聞かなきゃいけないの……」
　思わず晴海は噴き出した。
「腑抜け事情ね、確かに」
「まさか京極くんさ、それ炊き付け的な？」
「どうかな。火が付いたならそういうことにして」
「つかないよ、……なんか、だらしないし」
　鎖々崎は納得いかなそうに天井を見上げた。
「興味ないとかさぁ、ショックしか受けないしさ……。というか、なんでそんなこと言われないといけないのかなぁ……。みんな聞いてたよね？　ひどくない？」
　彼女が無駄に辛そうな声を出すと、周りはクスクスと笑った。
「京極くんはちょっとアレなの？」
「アレって？」
　晴海の言葉に鎖々崎は応じない。
「……んー、なんか癪。このまま自警団行ったら絶対あとで京極くんドヤ顔するよね。ほら行ったー、みたいな、わしがそだてた、みたいな」
「しないって。育ててもないだろ」
「そう？」
「そうだよ。それにさっきの話、割と本音だから」
　落ち着いた声で晴海は言った。
　すると鎖々崎は「え？」と本気で驚いたような顔をして、晴海の顔を確認するように覗きこんできた。
「ああ……なるほど、京極くんには個人的な教育が必要かもしれない」
　思わずたじろいだ晴海は表情を引きつらせる。
「一体何の話を……」 

「自警団員詰所」という呼び名だと、まるでプロ市民か何かが駐留しているかのように思えてしまう。
　晴海は鎖々崎に引きずられるように連れてこられ、訪問慣れしていない建物を見上げた。
「これ、前よりでっかくなってるのかな」
　学園から少し離れた位置にある、打ちっぱなしコンクリートの角ばったビル。どこぞの犯罪者収容所かと思わされる位に無骨で、愛想のかけらも感じられない。
　ここに自警団が詰めているのだと思うと、納得できないこともないのが皮肉っぽい。
「どこから予算降りてるんだろうね。ていうかこういう建物って増築できるの？」
　軽口を叩いて鎖々崎は建物の自動ドアへ向かう。晴海もその流れで後ろについていった。
　中は広々とはしていない。さっそく左右に廊下が枝分かれしていて、入り口の真正面には大きな電子掲示板がちかちかとしているだけだった。
「高等部の窓口ってどこだろ？」
　鎖々崎が手元の学生鞄を振りながら、掲示板にきょろきょろ視線を向けた。
　晴海も探そうと思ったが、面倒になってやめた。なんとなく入り口に振りかえると、左右に申し訳程度に観葉植物が置かれていた。入り口からすぐに壁というのも、ものすごい圧迫感がある。
「ストレス溜まりそうだ」
「なに？　無理に付き合わせたのやっぱり怒ってる？」
　微妙に不機嫌そうなニュアンスがこもっていた。
　今朝の話がきっかけか、何故か鎖々崎は自警団への訪問に晴海を誘いだしていた。理由は頑として言わないままで、本当なら無視してもよかったのだが、クラスの注目はかわしきれない。
　わざわざ対外関係を悪化させるのも頭が悪い。そう意気ごんでついてきたものの、既に晴海はこの同伴に後悔をしはじめていた。
「違う。詰所の内装だよ、もうちょい広いロビー作るとかさ」
「はてさて。私はこういうさっぱりしたとこ慣れてるから、普通」
　鎖々崎は電子掲示板を撫でながら言った。バンドの練習場所は打ちっぱなしに近いのかもしれない。
　それから彼女は右手側の廊下へ歩きだし、「こっちみたい」と手を軽く振った。まっさらな廊下をつきあたりまで進んで、左に折れる。するとまた真っ直ぐに通路が伸びている。
　晴海は素直に鎖々崎についていく。途中のドアに「文化祭相談」と張り紙がしてあり、鎖々崎はそのドアノブをさっと開いた。
「いらっしゃいますかー！！」
　前置きなしの声は大きい。
「はーい！　今行きまーす！」
　少女の声が返ってきた。しかし、姿は見えなかった。
　室内はローラー付きの壁で一時的に区画整理をしているらしく、入り口から見える景色はまたも狭苦しい。まるで迷路の入り口のようになっていて、身長がかなり高くないと部屋の様子は把握できないだろう。
「……来ないね」
　数十秒が経ってから、小声で鎖々崎が言う。座って待つようなスペースもなく、晴海もただその場に立ちつくした。
「ちょっと！　誰かいない？　あたしこういうの無理なんですけど！　待たせちゃってるんだけど！」
　壁の向こうで先の少女が叫ぶ。よく耳をすませてみると物音はしているのだが、それらが中断する様子はない。
　やがて、ぱたぱたと足音が聞こえた。
「すいません。いま人手が足りない感じで……」
　室内迷路の入り口から顔を出したのは金髪ロールの女生徒だった。手のかかりそうな髪の塊が四本、顔の横でびょこびょこと動いている。
「あ、翠だ！」
「なんだ、鎖々崎結か」
　知り合いらしかったので、晴海は一歩とりあえず引いた。
「何しに来たの？」と、女生徒は微妙につんけんしながら腕を組んだ。
「バンド演奏の相談みたいな。生徒会とはある程度話つけてるから、自警団と風紀委員にも承認もらう感じを、ね！」
「……ふーん。じゃあとりあえず中入って。そっちの人は？」
　と、晴海に視線が向く。
「そこのは京極晴海くん。わがバンドのマネージャー」
「あっそ」
　晴海が否定する間もなく、女生徒は部屋の奥に向かいだした。
「あの人は？」と晴海が小声で訊ねると、鎖々崎は「縁翠（よすがみどり）ちゃん。隣のクラス」と答えた。
　室内は細かく壁で分断され、それぞれで何やら作業をしたり、話を聞いたりしているらしい。
　海外ドラマのオフィス割りみたいだと晴海が考えていると、大きめのソファとテーブルが置いてある区画に辿りついた。
「代表呼ぶから待ってて。あんたが来たって言えば時間取らないとは思う」
「ほんと？　ありがとよろしくぅー！」
　縁という女生徒が去ってから、晴海は溜め息をついた。
「なんで俺ここまで来てんだろ……」
「いいじゃん。暇でしょ？」
　あからさまな横暴だ。 
「高等部代表、御神本（みかもと）だ。企画の相談らしいが」
　やがてやってきたのは晴海も名前を知っているくらいの人物だった。
　電磁界王（エレクトロイ）、御神本紫鶴。彼が代表であったことまでは知らないが、本人がそう言っているのだからそうなのだろう。
　長い黒髪がチャラチャラした印象を与えてきて、仕草もどこか軽薄に見える。御神本はやってくるまま、晴海と鎖々崎の向かい側の椅子に座り、テーブルに指先を軽く置いた。
「はい。私は鎖々崎結、ＳＷＢのリーダーやってます。だからライブについての話になりますけど、聞いてくれますね？」
　鎖々崎は鞄から既に綴じてある企画書を取り出しつつ、御神本を見つめた。
「その前に一ついいか」
　御神本は眉間に皺を寄せる。
「準備にしろ相談にしろ、二週間前ってのは遅すぎると思うんだが、そもそも生徒企画を監督してる生徒会とはある程度話がついてるんだろうな？」
「ついてます」
「ならよし」
　御神本は即座に頷いた。
「えっ、逆にそれだけですか？」
「ＳＷＢの話は一応聞いている。自警団を頼ることも伝わってたな。だからそう、今聞いたのは意思確認だ」
「あ、本当ですか？」
「ああ。そういうつもりなら、最初からそれ前提で話をしていい」
　晴海は二人の会話の意味がわからず首を捻った。
「なあ鎖々崎、なんの話？」
「いやー。生徒会の話。話ってやっぱ漏れてるもんだね」
「どういうことなのよ」
　ははは、と御神本が笑った。
「知らないのか、えっと……男子生徒」
「京極ですけど」
「そうか京極。それで、生徒会の有志企画の参加受付、いつまでだ？」
　そんなものは知らない。晴海は困って鎖々崎を見ると、何故かいやらしく彼女も笑みをつくる。
「へへへへ、今日の五時なんだよね」
「えぇ……」
「それも最終締め切りだから、事前に二回チェック通してオッケーもらわなきゃダメなんだけど……――今朝の二回目のチェック！　が！　ねぇ……通らなかったから。もう正攻法では無理でしょ、時間的に」
「じゃあ今朝の時点で完全にダメだったのかよ……」
　御神本もくくくと笑う。
「つーことはだよ、京極。これから企画をやるとなると、生徒会の承認無しのぶっつけ企画になる。まあゲリラ開催は多少黙認されるだろうが、こいつらは昔のこともあるし、話は全く変わってくるな」
「……それはまあ、そうですね。強行で中止させられるかもしれないし、処分もあり得ます」
「ああ。だからさっきのはその確認だ。鎖々崎は生徒会の承認があるとホラ吹いて俺ら自警団に話しつけようってんだから、やる気は買ってやれる。当日俺らが他の連中とぶつかろうが何しようが、ライブはやりたいってことなんだろうからな」
　はい、と照れ臭そうに鎖々崎は笑う。抗争の火種を撒こうとしたのに。
「俺個人としては、そういう気概は潰されるべきではない、と思うんだよ。ましてや生徒連中が待ち望んでる形でのライブなんだ、やったほうがいいって意見の方が明らかに多いよな？」
　教室の様子を見てもその通りではあるが、そんな問題で進められる話だとも思えない。晴海は合点がいかないままだったが、適当に頷いておいた。
「じゃあ……？」
　一方で鎖々崎は期待を込めるよう、胸に両拳を構えている。
「ああ。自警団として、俺、御神本紫鶴が足りない手を貸してやる。もちろん企画書のチェックは甘くはしないが、フォローはこっちがある程度できるようにしてやるよ。生徒会や、風紀委員に対しても」
「本当ですか！」
「俺はこの場で嘘はつかない。代表だぞ、一応な」
　すくっと鎖々崎は立ちあがった。
「ありがとうございます！　じゃあこの企画書、御神本先輩にお預けします！」
「よし受け取ろう。あと連絡先も教えてくれ。打ち合わせも必要になる」
「はい！」
　二人が話を進める横で、晴海はぼうっと座っていた。
（やっぱ、なんで俺は連れてこられたんだ……）
　ライブ開催が自警団の支援で決まったのはいいが、もしかすると自分は、もう頭数として入れられなくてもいいのではないだろうか。
「そうだ京極くん！　頑張ろうね！」
　何をだ、とは言えない。
　無駄に明るい相手には、黙しているのが一番だからだ。

　前編おわり    </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:13:26+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/137.html">
    <title>したらばＳＳ作品　ID:vEIEHpUA</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/137.html</link>
    <description>
      「此処ではだめか……」
つまらなそうに独りごちる男の周囲の光景は言うならば白い闇。纏う黒衣の輪郭すらぼかしてしまうほどの純白。
闇とは正反対の色でありながらどこまで目をこらしてみても一切の事象も物体も観測できない。ならそれは闇と同義ではないか？
「&quot;進化&quot;と言う名の真理を求め彷徨い幾星霜」
己の名も忘れ流離ううちにいつしか狂い人として人々から恐れられるようになった男。
数多の強者と対峙しながら唯々その他者の進化のために彼らを葬るという矛盾した世界の中で嗤い続けてきた彼が
今確かにその世界に絶望していた。この虚無の世界は男の絶望が染み出したものか、はたまた世界の虚無が男の心を侵したのか。
「もはやこの世界は閉じつつある。それが意味する所即ち&quot;停滞&quot;」
いつからだろう？ 此処に自分の求めるものは無いと分かってしまった。
「物語は終わらない……が、進みもしない」
「ならばそれは衰退ですらない。ただの停滞……我が忌むべき最たるモノだ」
進化の対極たる衰退ならば次の段階が存在する。言うなれば負の方向へと向かう進化と言えなくもない。
しかし停滞は駄目だ。全く駄目なのだ。ページをめくっても後にあるのは白い、ひたすら白い紙の束。
隆盛も衰退も退化も進化もないただの&quot;場&quot;としての世界。それは彼にとっては全くの無意味にして無価値。
「この世界にこれ以上進化を求められぬなら……なるほど未練など無い」
男の纏う黒衣の端がじわじわと背景の白に食われていく。
すでに限界が来ている。まもなく全ての存在は消失するだろう。もはやここには世界そのものを維持する力しかないのだから。
「ならば」
もう男は胸まで白に溶け込んでいた。闇に包まれていく男の貌に表情はない。ただ一言呟いた。
「世界よ、永遠(とわ)に在るが良い。&quot;在ること&quot;だけで貴様が満たされるならな」


なんとか白い世界は残った。残っただけだった。    </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:09:47+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/136.html">
    <title>したらばＳＳ作品　◆PGehGm5CiU</title>
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    <description>
      　環凪拘置所。
　島内で罪を犯した者などが、一時的に収容される場所である。
　コンクリートの床と鉄格子で仕切られた施設内の造りは刑務所のそれと遜色が無い。
　三階建ての広い建物の中は、いつも何処からか誰かの悲鳴や呻き声が響き、異様な雰囲気に包まれていた。

　そんな施設の一室で、ひときわ苦しみをあらわにする青年。

「ちくしょう……どうして俺が……」

　名は黎久井 画夢。
　ある理由で、見ず知らずの人間に能力で攻撃したため、昨日傷害罪の容疑で逮捕された。
　左手首には包帯が巻かれている。これは逮捕される数分前、被害者の連れに報復として斬られた頸動脈を覆っていた。

　現在時刻は丑の刻を過ぎた頃。黎久井は小さな四角い窓からぼんやりと月を眺めていた。

「なぜだ……。俺は何も悪くない。悪くないのに……」

　だが、その嘆きに応える者はいない。
　黎久井が眠れないと分かっていながらも横になろうとした時だった。

「貴様か。半端者は」

「ひっ！？」

　突然、鉄格子越しに声をかけてきた謎の影。
　消灯時間を過ぎているため顔は見えないが、その声からして男だという事は分かった。

「だ、誰だお前……！」

「半端者に名乗る名は無い」

　影はいやに尊大な、例えるならばそう、クラスに一人はいる嫌われ者のような不快な口調で黎久井に問いかけた。

「貴様は、二次元を愛しているか？」

「…………は？」

　理解が追い付かなかった。
　呆ける黎久井に、影は再び問う。

「二次元を愛しているかと聞いている！」

「しし、知るか！」

「現世(うつしよ)の哀しみを知る者よ……。三次元を捨てるのだ」

　何か勝手に喋り始めた。

「貴様が愚かな行為に走ったあの日、手にしていた物は何だ？」

「手にしていた物……？」

　どういう事だ？
　影に対して警戒は解かないが、とりあえず言われるがまま、黎久井は記憶を遡る。

　◇

　――リア充は爆発しろ。

　あの時、脳に直接届いた誰かのネットスラング混じりの囁き。他人には聞こえない、自分だけが認識できる声。
　その声に導かれるまま黎久井は手をかざし、周囲にまだ人が多い夜の往来で能力による爆発を起こした。
　攻撃の対象にした女は血を流して倒れたが、連れの男は勘が良かった。間もなく視線が合った黎久井を犯人だと見抜き、報復を開始した。
　そこから先は記憶がない。男の反撃で気絶していたからだ。

　目が覚めたのは、病院のベッドの上。
　起きた時には既に警察、風紀委員、自警団の連中がズラリと並んで自分のベッドを取り囲んでいた。

「まったく、気味の悪い絵だ。こんなのを趣味にしている輩に録な奴はいないな」

　そう言って、警察の男性は紙袋から冊子を一つを取り出した。
　それは黎久井の所有物。
　――思い出した。俺が持っていたのは―― 

　◇

「コミケのカタログ……？」

「思い出したか」

　ふんと鼻を鳴らすと、影は一呼吸置いて、

「貴様の事は知っている。貴様ほどの――コミケの度に30冊以上の薄い本を買ってくるような人間がなぜ、三次なぞに未練を残しているのだ？」

「……」

「答えぬか。良いか、黎久井画夢よ。貴様はもっと二次元を愛してこそ、輝きを増す男だ。それは自身が一番よく理解しているだろうに」

「……違うんだ」

「違う、とは？」

　ほんの少しの涙を浮かべて、黎久井は言った。

「……そもそもあの時攻撃したのは、本当は自分の意思じゃない。俺の能力――現実世界を謳う愚者を屠る魔弾（エクスプロード・オブ・フール　ザ　ワールド）は、俺の意思では発動しないんだ。
　現実世界を謳う愚者を屠る魔弾（エクスプロード・オブ・フール　ザ　ワールド）の発動条件は、ある『声』が聞こえた時。他の奴には聞こえない『声』が、俺を勝手に動かすんだ……。
　けど研究所は、その声の存在を証明できないと言う」

「……ほう」

「俺は確かに三次元も好きだ。だけど本当は二次元に染まりたいとも思っている。
　……もしかしたらあの『声』が、俺を三次元に繋ぎ止めているのかもしれないな……」

「なるほどな」

　得心した様子で、影は言った。

「――では貴様に、良い物をやろう」

「えっ」

　影はいつの間にやら持っていた紙袋から、土産の菓子程度の大きさの箱を取り出した。それを鉄格子越しに黎久井にそっと手渡す。

「ッ!!　こ、これは……！」

　受け取った黎久井は驚愕した。
　見た目はただのアダルトゲーム。だが知る人が見れば、それは喉から手が出るほど欲しくなるであろう価値のある物だった。

「――『ｍｅ・されろ』！」

「ほう、知っているか」

「当たり前だろう。数十年前、元々フルプライスで発売する予定だったものを途中変更し、無料でダウンロード配信され、まさに伝説のエロゲー……。
　そしてこれは、フィギュア付きで店頭販売された数少ないパッケージ版！　なぜこんな所に……！」

「上出来だ。……では、貴様にこいつをくれてやる。三次への未練、これで見事断ち切ってみせよ。そうすれば、能力に悩まされる事もあるまい。さらばだ」

　そう言うと背を見せ、歩き出す影。
　黎久井は慌てて声をかける。

「ま、待ってくれ。あんたは一体……」

「ふっ」

　最後に小さな笑いをひとつ漏らし、影はすうっと気配を消した。

「何だったんだあいつ…………ぐっ！」

　突如、激しい頭痛が黎久井を襲う。

「ぐああっ……！」

　助ける者はいない。
　黎久井はそのまま、ゆっくりと意識を手放した。

　◇

「はっ！」

　気がつくと、朝を迎えていた。

「夢だったのか……？」

　それにしては妙に現実味があった。
　ふと、昨夜影に渡されたゲームの存在を思い出す。
　探してみると、それはすぐに見つかった。

「あっ……」

　箱には、小さな手紙が添えてあった。

『大事に遊べよ(^ω^)』


　後に黎久井は「ｍｅ・されろ」にのめり込み、能力を克服した

　かに見えたが、隠しルートまでクリアすると、なぜか例の「声」が再び聞こえるようになりましたとさ。    </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:08:05+09:00</dc:date>
    <utime>1317046085</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/135.html">
    <title>したらばＳＳ作品　ID:T.FWDsq6</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/135.html</link>
    <description>
      当然の話だが、夜の十一時にもなると高等部の校舎は暗闇に包まれている。静まり返った校舎に響くのは、静かな足音だけだった。
まだ新品同様の女子用制服に身を包んだその転校生、神代刀夜が立ち止まったのは、コンピュータ室の前だった。
確信に近い直感が、一見すると少女にしか見えない少年の足を止めさせた。この部屋の中には、誰かいる。しかもその人物の心は、仄暗い感情に染まっている。
確信に近い直感だった。なぜここまで自身が持てるのかは、自分でも判らない。
第六感、とでも言えばいいのだろうか。
そこまで考えて自分で吹き出してしまった。そんな次元で収まる能力でないから、こんな異能者だらけの薄気味悪い島に送られてしまったのだ。
神代刀夜は唇の端を持ち上げながら胸のリボンを緩め、ドアをノックする。
「どなたかいらっしゃいますか？」
わざとらしいほど澄ました、女のような声で呼びかける。
馬鹿みたいだ、と微かに残存していた冷静な自分が脳内で呟く。窓から煌々と降り注ぐ月明かりが、彼の思考を完全に狂わせていた。
「そんなかしこまるなよ。俺は別に教職員じゃない」
無愛想な若い男の声が、室内から帰ってくる。
「失礼します」
相手の反応が見てみたくて、硬い態度のままコンピュータ室の扉を開けた。室内の照明は落ちている。デスクの上には例外なくパソコンが置かれている。
奥まった席では、制服姿の一人の男子がモニターを見つめていた。
「初めまして……で合ってますよね？」
神代はその男子の許へゆっくり歩みながら、尋ねる。少なくとも記憶にない顔だった。分厚い眼鏡を掛けた、痩せこけた男子。間違っても女子に人気が出るタイプには見えない。
「合ってるよ、神代刀夜」
マウスを右手に持ったまま、男子はモニターに焦点の合わない瞳を向けていた。
「私の名前をご存じなんですね」
「そりゃまあ、有名人だからな、あんたは」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「かしこまらなくていいって、今言ったよな」
「ごめんなさい。名前を教えて欲しいんですけど」
「小田」
短く答えた男は、ようやく神代の顔を見る。
「何やってんだよ、転校生」
その問いに、神代は満面の笑みを浮かべて回答する。
「夜の散歩が趣味なんです。まだこの学校にも慣れてませんし。小田さんは何をしてるんですか？」 
「サーバー吹っ飛ばしてんだよ。ったく……あいつらふざけやがって」
モニターを見てるだけでそんなことができるらしい。しかし後半は独り言だろう。自分はまるで興味が湧かないが、ネット上の喧嘩も最近では日常茶飯事だという。
「喧嘩は良くないですよ」
「まるで他人事だね。あんたも立派な被害者なのに」
「私が？」
意外な言葉をぶつけられた。幽鬼のような顔をした男子は言う。
「そうだよ。自分じゃ気づいてないのかもしれないけど、あんた本来なら、この世界じゃ一番スポットライトを浴びて然るべき[[キャラクター]]なんだぜ？」
「何を言ってるのか、良く判らないんですけど」
少し困った表情を作りながら、神代は続ける。
「それに私、充分目立ってると思うんですけど」
「判らないなら別にいいさ。でも俺は耐えられないね。ゴリラみたいな顔した生徒会長とか、女ったらしのキレやすい刃物男とか、天然パーマの器用貧乏が
観客の脚光を浴びている舞台なんて。だったら情報端末に触れるだけであらゆる情報を改ざんできる人間が第一線に立ったっていいと思わないか？」
何を言ってるのか良く判らない。気のない相槌を打つ。
「はあ……」
「本当に何も理解してないみたいだな」
小田は溜息と共に、マウスから手を離す。
「客席から見た舞台がどんなものなのか、少しだけ教えてやるよ」
小田の言葉が終わるのと同時に、神代の視界が硝子のように粉々に砕け散った。そうとしか表現できなかった。
一瞬後には、無数に砕けたコンピュータ室の破片が一つの光景を作りだす。
足元には遥か空の上から見たこの島――環凪島が映っていた。夜だ。
「これは……」
足場があることを抜け目なく確認しながら、神代は訊いた。
「これから始まるイベントの……そうだな、未来予想図ってところだ」
一瞬だけ言葉に詰まった小田は眼下に広がる、彼はまだ、椅子に掛けたままだ。
学園の裏に広がる真っ暗な山中で、赤い光が灯った。
「この距離じゃ見えないな」
再び粉砕された映像が、すぐに再構築される。いつの間にか神代と小田は、山の中に立っていた。
眼前では、巨大な獣が咆哮を上げていた。フィクションで良く出てくるドラゴンに似てなくもない。無数の牙が並んだ口から、炎を吐いている。 
「坂峰凛かな、これは」
小田の独り言にはついていけない。その坂峰某は有名人なのかもしれないが、なにしろこちらは新入りなのだ。
と、炎の中から人影が転がり出てきた。高等部の制服を着ている。神代も見覚えのある、癖毛の男子だった。
「おいおい、谷風とやってんのかよ」
ひどく愉快そうに小田が言った。
「彼は、私のルームメイトです」
「あ、そうなんだ。良かったじゃん。出番増えるかもよ」
またも意味不明なことを言いながら、小田は視線を谷風良に戻した。悲痛な表情で、巨大な獣に何かを呼びかけている。音までは再生されないので、何を言ってるのか判らない。
獣の前足が高々と持ち上がり、谷風に向かって振り下ろされる。轟音はない。が、地は大きく揺れ、木々が何本が倒れる。
神代のルームメイトは、意外なまでの機敏さで攻撃範囲から逃れていた。谷風はまた何かを叫んでいる。
「もういいかな、このカードは」
小田の声で場面が切り替わる。今度は街灯に照らし出された市街地だ。
カッターナイフを持った赤毛の男が、白髪の青年と向き合っている。白髪の周囲には、無数の透明なキューブが浮かんでいた。
赤毛の男は、その場で何度もカッターを素振りした。白髪の男は残忍な笑みを浮かべながら、キューブを展開する。
「続きが気になるか？」
小田の問いに、神代は首を振る。別に見ず知らずの他人同士の喧嘩などに興味がない。どうせなら、自分で身体を動かしたい。
そこで一つ、疑問が生まれた。
「私はこのイベントに参加してないんですか？」
もしそうなら、ぜひ自分の戦闘を見てみたい。夜間なら誰にも負けない自信がある。
「そう、俺が問題にしてるのはそこなんだよ」
指をパチンと鳴らした小田が、神代に人差し指を向ける。
「ついでだ、これも見とけ」
今度の光景は、殺風景な屋内だった。研究所だろうか。白い壁が四方を囲んでいる。高等部の生徒会長と、白衣を着た中年男が向かい合っている。
「あの生徒会長、すごく強いって噂ですけど」
「らしいけどな。まあおっさんの方も勝算があるんだろうよ」
小田が呟いた。中年の男が、白衣の内ポケットから小さな物体を取り出している。水晶のように見える、ごく小さな、紫色に煌めく結晶。 

と、視界が視界が砕けた。
「あ！　続きは気にならないんですか？」
「今のは単なる俺の予想っつうか妄想みたいなもんだから」
二人はコンピュータ室に戻っていた。
「何なんですか、今のは」
「俺の能力だよ。大したことない。ちなみに俺はＣランク」
「まあそれはいいですけど……そのイベントっていうのはいつ開催されるんですか」
「知るか。俺が訊きたいくらいだ」
小田の機嫌が急に悪くなる。
「はぁ……端役でいいから出てみたいもんだよ。あんただってたまには暴れたいって思うだろ」
素直に頷きかけたが、どうにかこらえた。
何も知らない小田が言葉を継ぐ。
「しかしあんたも災難だよな。そんな女みたいな恰好に改変されて」
「改変？」
昔からこんな外見だった、と思うのだが。
「ま、とりあえずお互い頑張ろうや。せっかくこの世界に現出できたんだ。少しでも目立たなきゃ人生損だろ」
未だに小田の発言は理解できないが……
「目立てばいいんですか？」
「埋もれるよりはずっとマシだと思うけど」
「生徒会長とか襲えば、目立てますかね」
「おー、チャレンジャーだね。アドバイスすると、あんたのルームメイトを襲うっていうのも、相当目立つと思う」
「なるほど……検討してみます」
どうせ朝が来たら、テンションが下がっているのだろうが。昔からそうだ。
夜にはしゃいで、朝には意気消沈している。遠足でも修学旅行でも運動会でもそうだった。
「小田さんは、まだサイバー攻撃を続けるんですか？」
「もういいよ。あんたと話して、少し気が晴れた」
マウスから手を離した男子が席を立つ。
「じゃ、俺は帰るから」
最後にそう言い残し、小田が姿を消す。テレポートにしか見えない素早さだった。
最前から思っていたが、彼がＣランクとは思えない。情報だけの世界ではほぼ全能、と言っていた気もするが……
「待てよ」
声は高いままだが、思わず男言葉が出ていた。
もしこの世界そのものが虚構なら、彼は最強なのか。そして恐らく、この世界は虚構。
舌打ちが洩れていた。惜しいことをした。どうせなら、彼と一戦交えてみたかった。

おわり     </description>
    <dc:date>2011-09-26T23:05:22+09:00</dc:date>
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