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俺がモデルになれるわけがない!! 9 - (2011/12/23 (金) 19:50:40) の1つ前との変更点
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「兄貴!、暇だしトランプの相手しなさい!!」
行き成り立ち上がり俺を指差しながらそんな事を言ってくる桐乃。
お前はどこかの団長様か?。なんてことを考えながらも有言実行として今の言葉を照れ隠しとして脳内変換してみる『と、トランプを一緒にしたいんじゃないんだからねっっ!」(ツンデレ風)よし、変換完了。続いてそれを脳内保管。
…ふむ、可愛いやつめ。ぬふふ。
「よし分かった、お兄ちゃんに任せなさい!!」
「キモ。何か背中を悪寒が走り抜けたんですけど」
そんな言葉でさえも脳内変換で「なんかゾクッとしちゃった(ハート)」にしてみるとかなり可愛げがある。
俺は顔に力を入れてニヤけるのを何とか止めて桐乃から渡されたトランプを無心になって繰りはじめる。邪念よ去れ!。
悟りを開こうとせんばかりに俺が己の中の邪念を振り払っていると、何を思ったのか皆も口々に参加の意を唱え始めた。
まぁ確かにこんな旅行気分にトランプは付き物と言っていいがそこまで目を血走らせなくてもいいんじゃないかな、と俺は思うのですよ。楽しくいこうぜ。
どうする?皆も混ぜる?、という言葉を乗せて桐乃に視線を送るが、何故かつっけんどんとしていてそっぽを向いてしまった。これは俺に判断を任せていると判断していいのだろうか。
もしそうなら俺は皆を混ぜて楽しくする方を選ばせて頂き等ござる。
ちょっと間俺は桐乃に対して以心伝心を試みていたが、どうやら反応を示す気は無いらしい。
しかたがないので繰り終わったトランプを皆に配り始める、どうも桐乃の不機嫌度が大幅上昇した気がしてならないが今更配ったカードを集める様な度胸は残念ながら俺には無いのでそのまま続行。
ちょっと間経って配り終わるがそこで大事な事に気がついた、遅かった気もするが。
「これってよく考えたら何をするか決めてなかったよな」
そう肝心な事を失念していたのだ、いくらトランプを配り終わってもやる事を決めていなかったらトランプなんて物は何の役にもたたない紙屑に過ぎない、むしろツルツルしているので紙屑にも劣る、そんな劣化製品へと変化を遂げてしまうのだ。
さぁ、このトランプ達が俺の汗ばんだ手の中で無用の異物となる前にこいつらの存在意義を見つけ出してやろうではないか。
無意味な事に気合を入れて握り拳をつくる俺。
だがここでも一つの問題に気がつく、そう、自分自身の問題に。
俺は皆から顔をそらして雲を見ながら爽やかに笑った。
ははは。
……俺ってそんなに種類しらないんだよねっ。えへっ。
ってなもんである。我ながら情けない。
俺が知っているとすれば、まぁ代表的な物だとババ抜き、ジジ抜きあたりだろう。そして俺が唯一知っている皆が知らなさそ~な奴といばページワンぐらいだろうか。
無知な自分が憎いぜ。
これは誰かに意見を求められる前に自分から何か簡単な物を言った方が良さそうだな。わざわざ待って自分の無知を晒す事もあるまい。
そう考えて俺は「ババ抜きでもしよーぜー」なんて軽い乗りで言おうとしたら、どうしたのか、ブリジットちゃんが珍しく自分の意見を言おうと挙手していた。
ここは学校じゃないんだからそんな挙手しなくてもいいよー、なんてツッコみをしてしまうところだったが相手はまだ幼い子なんだ。わざわざそんな事を言わなくてもいいだろうという俺の理性が何とか開きかけた口を止めてくれた。
さて、話が脱線して地球の裏側に行きそうな勢いで暴走しかけたがそれを力尽くで引き戻して話も元に戻そうではないか。
まぁとにかく俺が何を言いたいかと言うと、折角ブリジットちゃんが勇気を出してんだ、見届けてやろうぜ。って事だ。
だが、しかし、しかしだ、このままブリジットちゃんを放っておいていいんだろうか?大丈夫なんだろうか?
答えは否である。
このままだと何時まで経っても話し出さないのは目に見えているではないか。
さっき見届けると言ったばかりでなんだが、俺達の為にも、ブリジットちゃんの為にも少々力を貸してやろう。
そう考えると内心がちょっとだけ踏ん反り返って偉そうにしているのが分かったが俺は気にせずブリジットちゃんに一声かけた。
「はい、ブリジットちゃん意見どーぞ!!」
俺がそんな感じでおどけて先生風に言ってみるとブリジットちゃんはピクッと体を跳ねさせ「ひゃ、ひゃいっ!!」と奇妙な声を上げて席を立った。
緊張し過ぎだ。
「じ、じつは私………」
何故溜めるのか分からないが、その溜めがわざとだろうがなかろうが、どちらにせよそんな雰囲気を出されるとこちらも緊張してくるのは避けられない。
俺達はゴクリと息を飲み込んで先を促すようにブリジットちゃんを見た
「ババ抜きしか出来ないんです!!!」
この答えを聞いてずっこけた俺達を誰が攻められよう、そう、攻められるわけがない。ないんだ。
俺がやっと立ち直って自分の席に座り直すと、そんなに恥ずかしかったのだろうか。何やらモジモジしているブリジットちゃんがこちらの顔色を伺っていた。
はっはっは。そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫。俺も似た様なもんだからな。
そんな『お仲間だな』的な視線をブリジットちゃんに飛ばしていると何を思ったのかポッと頬を染めて指先をモジモジと絡め始めた。
「こ、今夜お待ちしていまス」
「ぶふふぉっふぁぁあ!!」
気道を通る筈の酸素が食道を無理矢理開いて乱入してきた。いや、この様子だと乱入どころか俺の喉でフィーバーダンスしていやがる。
思い切りむせて言葉にならない声が出てきた。でもそれだけでは食道に入った酸素は許してくれないらしい、俺は咳が止まらず口に手を当てるのが精一杯で、誤解を解く言葉を口にする事が出来ない。
な、何だ、一体ブリジットちゃんの中で何がどうなってそんな言葉が出てきたんだ?。
ブリジットちゃんの言葉を俺的に解釈したら今夜「ピーーーーーーーーッ」をしようと言っている様に聞こえたんだが。
……うん、いや、分かってるって。ブリジットちゃんがそんな行為を知っている筈が無いって。
きっと別の意味があるって。分かってんだよ。
でも、でもなぁ。
お兄さん、もうちょっと言い方を考えてほしかったかなぁ。
隣で拳を固く握り締めているリアと加奈子を涙目で見ていると、とうとう俺の頭は故障したのだろうか、何も考える事ができなくなり、何故か知らないが乾いた笑いが咳と共に出てくる。
「は……は、ケホッははは。ケホフッ」
ここまで来ると俺は諦めて、潔く目をつむる。
さぁ、ばっちこぉい。
心意気充分、何時でも来いと言わんばかりに目をつむって何処に攻撃が来るか分からないので全身に警戒信号を発令、危険度SSに指定して筋肉痛を恐れずに力の限り筋肉を酷使して肉壁による防御壁を展開した。
だが数十秒、数分間、かなり経っても全く来る気配が無い。どうしたのだろうか。
そろそろ全身に力を入れっ放し状態は辛くなってきたのでやるなら早くしてほしい、そしてやらないでいてくれるなら俺は更に嬉しい。
なんて淡い期待を込めてうっすらと目を開くと……
そこには加奈子の満面の笑顔があった。
「ババ抜きしようぜっ!」
キラッ、という効果音が付きそうな感じで加奈子がそう言う。ゾクリと背中を悪寒が走った。
なんか絶対裏があるっっっ!!。一体どんな悪巧みしてやがる!?、そんな事を考えながら慌てて周りを見渡してみるとどうだろうか、皆笑顔、超笑顔、ウルトラ笑顔。怖い。
そう思った俺を誰が攻められる?。想像してみてほしい、家で桐乃のジュースを思い切りこぼしてしまった時、桐乃が笑顔で「いいっていいって、兄貴!」なんて笑顔で言ってきてみろ?、俺はその夜、闇討ちが怖くて寝付けない自信があるね。
そのくらいの違和感があるのだ、今のこの状況は。
「ははははは、兄貴。早く手札出さないと始まらないよ?」
「サー・イエッサー」
即答、そして桐乃の目の光彩が消えている事を確認した。
もう嫌だあああああぁあぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁあああああああああああっっっ!!
内心絶叫、今、恐怖のババ抜きが始まったのだった。
「ん、兄貴の番」
本来なら楽しい筈のトランプ、だが今私達がやっているのはそんな甘ったるい物ではない。
何故ならこれには今夜の兄貴の所有権がかかっているからだ。
そのせいか皆の顔は暗く、何時にも無く真剣だ。多分私も同じ様な顔をしているだろう。
何故こうなった?、それを説明するにはほんの少し時を遡らなければならない。そう、それは兄貴が攻撃に備えて全身に力を入れまくっていた時の事だ。
その時私は兄貴のお仕置きは前の二人に任せて、心を痛ませてブリジットちゃんに詰問していた。
「こ、ここ、今夜ってなに!?、何なの!?、私の京ちゃんをどうするつもりなのぉおお!?」
少々壊れた地味子と一緒に。
「ちょっ、桐乃さん!麻奈実さん!、やめて、そんなに振らないで!?」
「ならちゃっちゃと白状しなさい! どうしてこうなったかを!!」
声に少々の怒気を含めながらそう言う。
ブリジットちゃんは最早サラババ(よく知らないけど使ってみたかったんだよね!)を踊っている様だ、首をカックンカックンさせながら「ちょ、は、はな、話しま、すからぁ、離してぇえ」と言っている。ちょっと面白い。
私と地味子が肩を離すと、目が回ったのだろうか、ブリジットちゃんは頭をクラクラさせながらフラフラしている。
擬音だらけで訳が分からなくなってきたが、簡単に言うとブリジットちゃんが倒れかけって事だ。
「さ、どうやって京ちゃんを垂らしこんだか白状して!、ムフン!!」
さもないともう一回するよ!、と言わんばかりに腕を組む地味子。
「マ、マネージャーさんが直接言っていたんじゃないんですけど、そ、その、目がそんな感じの事を言っている気がしたんです」
ガクッ。
まるで漫画かアニメの様に私の体は椅子から落ちた。
な、何よそれ、絶対勘違いじゃない。第一あいつが視線で語るなんてそんな器用なまねできる筈が無いのよ。もしくはやろうとしても勘違いされてお終いなのよ!。
「違うよ!、それは私に京ちゃんが目線で語ってたんだよ~」
「それ間違ってるから!?」
何をサラリと言っているんだこの地味子は。
「いや、よくよく考えたら拙者にだった様な気がするでござる、京介氏が拙者に目線で結婚してくれと言っていたのを今さっき思い出したでござる!」
あんたは絶対にありえないでしょ!?、後ろ向いてた兄貴がどうやって前にいるあんたに視線で語るのよ!!。
「そ、そういえば加奈子だった様な気が……する様な」
「ふふ、皆さん何言ってるんですか!、私なんか視線でどころか口で何回も結婚してくれと言われてますよ?、だから今回もきっと私に違いありません!!」
「皆勘違いやさんだなァ、キョウスケおにいちゃんは私に言ったンダヨ!!」
「先輩は…私に…ウフフ」
なにやら皆が口々に好きな事を言い始めた。
こ、ここ、こここ、こうなったたら私も言うしかなくなるじゃん!?。
「何言ってんのよ!、兄貴はシスコンなのよ!?、私に決まってんじゃん!!!」
「ムフフ、ならば丁度良いでござる!、トランプで今夜の京介氏の所有権を決めましょうぞ!!」
まるで計算通り!、と言わんばかりに用意した様な言葉を口にする沙織。今思えばもうこの時には沙織に私達は嵌められていたのだ。
『上等!!!』
私達は声を揃えてそう叫ぶと手元のトランプを勢い良く掴み取ったのだった。
そして現状に至るのだ。
沙織に乗せられた事には気づいているが今更引き返す事など出来る筈もなく、私は負けない様に今までで一番真剣にババ抜きをしている。
ちなみにババ抜き用の席順はこんな感じだ。
あやせ ブリジット
桐乃 麻奈実
リア 加奈子
沙織 黒猫
京介
席は回転して動かす事が出来るタイプなので自由に移動できる、なので今回は皆が向かい合う形になり兄貴はまるで社長の様な位置に座っている。
決め方は相も変わらずくじ引きだ。
ある時、一人の男が自分の席へと舞い戻った。
机に予め用意されていた札を手に取り先に席に着いていた皆の顔を見回してきた、その中には私も混じっている。目が合う、鋭く、冷たい、そんな目が真っ直ぐ私に突き刺さる
私は目を逸らして赤くなった頬を誤魔化す様に男に向かって声をかけた
「お帰り…」
その言葉に対して男は微妙な、笑っているような、泣いている様な顔になると「ただいま」と返してくる。
この勝負で自分の運命が決まるというのになんなんだろうか、この男の表情は。
諦めているのではなく、失望しているのではなく、淡い期待に縋っている訳でもない、微妙な、表情。
そこで私はある考えに辿り着いた
「そうか」
この男は、全てを『受け入れた』のだ。もうどうにでもなれ、とかそんな感情では無い、それはどんな感情なのかは私には分からないが受け入れたのだ、この男は。
だからこんな嬉しそうで、悲しそうで、楽しそうで、辛そうな、そんな全てが混ざり合った様な表情を出来るのだろう。
「さ、続けようか。皆」
男………………………………………………………………っもう辞め!!、この乗り疲れた!!
私は勢いよく立ち上がり、今までの乗りを打ち消す様に頭を左右に振る。
するとどうだろうか、あやせ達は私の事を不思議そうに、兄貴は「え!?、何!?、俺なにもしてないよな!?」と言いながらこちらを見ている。
確かに考えてみると行動が奇抜すぎたかもしれない。
そう考えた私は誤魔化すようにニコリと笑う。
さ、兄貴、続きをどうぞどうぞ。
手を兄貴に向けて動作でそう言うと、私は座りなおして何事も無かったかの様にトランプと向き直ったのだった。
「さ、続けような、皆」
兄貴も仕切りなおす様に、若干弱気になりながらも切り出した。
今私の手元に死神はいない、という事は残りの八人の中に死神を手の中に持つ仲介人が居る。
まぁ今そんな事を気にしていても始まらない
私はあやせの手札から一枚手に取る、ハートの7、揃ったので真ん中の捨て札の山に向かって放り投げた。
次はリアの番だ、隣のあやせに見られないように気をつけながら手札をリアに向けて引くのを待つ。リアが引いたのはキング。揃ったのだろう、リアも揃ったカードを捨てた。
次は沙織の番だ、どうも手強い、何時も笑っていて表情は読み辛いし、あんなメガネをかけているから視線による観察もできない。これはかなりの武器だろう。
「ぬふふ」沙織はそう不気味に笑うとリアの手札から一枚を抜き取って自分の手札の一枚と合わせて捨て山の中へと投げ捨てた。
「よし、次は俺だな」
兄貴は強張った顔をしながら沙織の手札の中から一枚引き抜く、するとどうだろうか、表情が一瞬で変わって満面の笑みに変わったではないか。揃ったのだろう。
「分かりヤすっ!」
多分思わず口をついてしまったんだろう、リアがそう言うと兄貴は取り繕う様に揃ったカードを仏頂面で捨て札の山へと投げ捨てた。
よし、これで万が一にも兄貴が勝つ可能性は消えた。後は誰が一番最初に上がれるかって事だ。
今更言っちゃなんだが、ババ抜きなんてのは結局運だ。と私は思っている。他の勝負事も同様だ。
だからどうやって運をこちらに引き寄せるかが鍵になるのだ。たとえばババ抜きだとババを一枚だけ目立つように持つ、すると相手はこれがババかどうかを疑いだす。
そんな風に相手を騙し、騙されの繰り返しが賭けなのだ、相手が引っかかるかは時の運としか言いようが無い。
だが一つだけババ抜きにも出来る事がある、それは記憶力による相手の手札の読み取りだ。
相手が自分の手札を取って捨てなかった、となると相手は私の手札から取ったカードを持っていないという事になる。それの繰り返しで相手のカードを読み取り、奪い、上がっていくのだ。
まぁこの作戦を実践できる者は限りなく少ないだろう、さすがの私も無理だ、一体どんだけ記憶力がよかったら実践できるのだろうか、検討もつかない。
「次は私の番ね」
黒猫は兄貴の手札の一枚一枚に手を伸ばし兄貴の表情を見ている、すると、ある一箇所に黒猫の手が伸びると兄貴がまたもや満面の笑みになった。
こいつ死神持ってんぞおぉおおおおお!!
多分私と同じ事をここの兄貴以外全員が思っただろう。
一瞬、黒猫は兄貴に哀れみの視線を送る、だが勝負は勝負、やはりここで死神を我が身に宿すわけにはいかぬのだ。
「ごめんね、先輩」
黒猫はババの隣のカードを手にとって捨て札置き場へとカードを捨てた。
残念そうな顔をしていた兄貴は取り繕う様に引きつった笑顔を黒猫に向けた。全く取り繕えていないのは言うまでもあるまい。
次は誰だ?、加奈子だ。
加奈子も兄貴と同じタイプだから別に敵対視しなくても大丈夫だろう、ほら。
「ふおぉ」
加奈子は何をするつもりなのか、力を入れ過ぎて手がプルプルと震えている、やっぱり兄貴と一緒だ。
黒猫の手札の中から一枚カードを取った。すると揃わなかったのか加奈子は眼に見えてシュンとしている。
「ふっふっふ。加奈子め、表情でどんな状況なのか丸分かりだぞ?、ポーカーフェイスがカードゲームの鍵だというのに」
まるで自分が表情に出てないと思っているのか兄貴は加奈子を見ながらそんな事を呟いている。
多分ここに居る兄貴と加奈子以外は皆『お前が言うな』と思っただろう。当たり前だ。
「次は私の番だね、頑張るからね!京ちゃん!」
そう言ってニコッと笑う地味子
「おう、まぁ頑張れ」
それに対してはにかみながら笑い返す兄貴。………なんかムカつく。
さっきまでの緊張した空気こいつら独特のホンワカっていうかノホホンというか、そんな表現し難い空気に侵食されていくのが分かる。気に食わない、イラつく。
いつまでも笑いあっていそうな二人に私はちょっと怒気を含めた声で先を促した
「もういいからさっさとしてよ!」
「さっさとしろよな!」
「姉さん遅いです!」
「さっさとしないと私の魔術で暗黒街に叩き落すわよ」
「早くしてください!、私の番が回ってこないじゃないですか」
「麻奈実氏、早くしないと決着がつかないでござるぞ」
「キョウスケおにいちゃんに色目使っちゃ駄目だよ!」
どうやらこの空気が気に入らないのは私だけではなかったらしい。
皆の声が混ざり合って何を言っているのか全く分からなくなった言葉でも、何かしら感じ取ったのか兄貴は顔を逸らしてカードに目を向けた、地味子も「ご、ごめんね」と言ってブリジットちゃんに向き直る。
地味子は一度深呼吸したかと思うと「ゴゴゴゴゴ………とうっ」と言ってブリジットちゃんのカードを引き抜いた。揃ったカードを捨てる。
それを見た兄貴ははにかんで頬杖をついていた。多分和んでいるのだろう。
瞬発的に兄貴のスネを思い切り蹴る。
「ふぬぉぉおおお」
てめっ、何しやがる。と言わんばかりにこちらを睨んでくるが桃色の空気を量産していた兄貴が悪いので無視。
さぁ皆続きをしようか。
「次は私の番ですね!」
ブリジットちゃんはそう言うとあやせのカードを一枚引き抜いた、カードを捨て、特に何も無くブリジットちゃんの番は終了。
さて、ここからちょっと話を飛ばそう。このままずっと皆の番をやり続けたら切がないので、ここは一気に話を飛ばして最後の二人の状態からスタートだ。
「ふぅ」
ババ抜き開始時刻から早三時間、未だにあの二人の決着は見えない。
『どうしてこうなった』私がこう思っているように私以外も皆そう思っているだろう。
あの二人は永遠にババの受け渡しを繰り返す気だろうか。
あれから兄貴と加奈子はババの受け渡しをずっと続けていて、終わる気配が全く無い。今も加奈子が兄貴の表情を見て「ぬふふ」と笑ってカードを引き抜いた、当然ババじゃない。
その次の兄貴も全く一緒で加奈子の表情を見てほくそ笑んでババじゃないカードを引き抜く。無限回廊。
イッツァエンドレス。
え?なに?、一番最初に上がった人が兄貴を好きに出来るんだから別に二人の戦いなんかどうでもいいじゃないか?。そうだけど決着がつかなかったら次の遊びを兄貴と一緒に出来ないじゃないか。
ちなみに一番最初に上がったのは私。
そんな事を考えていると沙織から何やら殺気を含んだ視線を感じる。…
………ごめん、嘘。本当は沙織だ。沙織です。
残念ながら。
―――――とまぁ、現状はそんな感じなんだが、終わらないでほしいという気持ちもはっきり言って私の中には、ある。あっちゃったりする。
このままずっと決着がつかなかったら勝負が有耶無耶になってくれるかもしれないからだ。
有耶無耶になるなら現状も全然受け入れられる。なら無いなら次の遊びで兄貴と遊びたい。
そんな気持ちが今、私の中でひしめき合っているのだ。
「ねぇ、これって終わらなかったらどうなんの?」
「一番最初に上がった人が所有権を得るのに変わりは無いでござる」
まぁ聞いてみれば大体分かるでしょ。
という事で聞いてみたところ、今さっきの様に沙織の即答が帰ってきた。
やはり加奈子とかとは違って忘れたりはしないらしい。と言う事で早く終われ。そして私と遊べ兄貴。
「っふ、良い勝負だな」
「ほんとだなっ!」
何時終わるか分からない、低レベルな戦いを繰り広げているくせに何やら額に汗を光らせながら互いに笑い合っている加奈子と兄貴。
いや、こいつらには低という言葉すら生易しい、低いとかそんなレベルじゃなくマイナスなのだ。こいつらのバカさを高いとか低いで例えるのは不可能なのだ。何故なら掘っている内に何時の間にか地球の反対側に出てしまうのだから。
まさに底が知れないというやつなのだろう。
まぁとにかく、この何時終わるか知れないババ抜きをどうやって終わらすかを考えながら、ちょっとだけ感情を吐き出そう。
感情の篭らない呆れた、関白な息で、質素な目で、腹の底に溜まった感情を一気に息として吐き出そう。
さん、はい。
「はあぁ」
―――――――――到着。あれから何時間経ったかははっきり言って覚えていない。
唯一覚えているとしたらあたし、加奈子がかなりの高レベルの戦いを繰り広げた事だ。
意外に強かった加奈子の相手、クソマネ……いや、し、思考の中でぐらい名前で呼んでやらないと可哀そうだな。うん。
き、きょ、京介
加奈子はそこまで考えたところで頭から湯気を出てくる。
っつぁ、や、やっぱり辞め!、加奈子はやっぱりクソマネの方がしっくりしな!!
ちょっと話がずれたが、まぁ何が言いたいかというと加奈子とクソマネが伝説に残る程の名勝負をしたって事だ。
「なにぶつくさ呟いてんだ?加奈子」
加奈子が考えて一人悦に浸っていると、目の前にぬっと出てきた顔。
隣を歩いてたから聞こえてしまったんだろうか。
「なんでも無いっつ~の。それよりさ、今回決着つかなかったじゃん?、後でもう一勝負しねぇ?」
「よし、了解!、次こそは俺が勝つからな!!」
人がどれだけ気を引こうと頑張ってるかも知らないでクソマネは満面の笑みで嬉しそうに答えてきた。
さすがに夜になったら勝負に負けた加奈子は手が出せないけど夜までだったらいいよな。
加奈子はそう考えて苦笑い気味な笑顔をクソマネに向けたのだった。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/07/04(月) 19:57:01.27 ID:Lm0xLseAO
おっつー
仮にも主役のはずなのに、めっきり鈍感ヒロインポジを確立しつつある京介さんパネェ
ところでババ抜きってそんな延々と決着が先送りになるゲームだったっけ??
千葉カスタムルールとかかな
まぁ何にせよ、勝てなかったならドベ争いを楽しむってのも味があって良いね。
加奈子はそこまで計算しては…出来てはないようだけど
それから加奈子は手持ち無沙汰だったのでクソマネとなんか雑談でもと思って話しかけようととすると、加奈子の声に割り込む様に桐乃の声が聞こえてきた。
「ちょっと、何二人だけで決めちゃってんのよ。私もまざるからね!」
「だってよ、加奈子」
片目を瞑りながら笑いかけてくるクソマネ。たまにキザったらしい事をするから困る。
そんなクソマネにちょっと赤くなった顔で加奈子は笑い返す。
「わかってるって、旅館に着いたら皆でもう一回ババ抜きな」
「ん?、皆さん?、何言ってるんですか?。旅館についたら皆さんには早速リアさんと特訓してもらいますよ?」
―――――――?
今何て言ったんだ?、特訓って言ったか?
普通外国に行ったら時差とかもあるしちょっと休憩を入れたりするんじゃないのか?
もし本当にそんな事をするってなると加奈子の《昼間なのにウフフ計画》を実行できなくなる。それは大いに困る。
ここは加奈子の意地に賭けても阻止しなければ。
「ちょっと、それは無いんじゃね?。加奈子ってば~、時差とかでちょっと疲れちゃってるし今日ぐらい休憩入れた方が良いと思うんだよね~」
なんとか阻止しようとそんな事を言うが……ん?名前なんだっけ?
「ふむ、本当は筒賀 道程(つつが みちのり)と言うのですが。呼びにくい様でしたら京介さんの様にハンサムで結構ですよ」
笑ってそう言うハンサム。まぁ本人がそう言ってんだからこれでいいだろ。
ってそうじゃねぇ、危なく話を逸らされるところだった。
取り敢えず話を元に戻そうとし息を吸い込み言葉を発し様としたら、またも割り込む様にハンサムが言葉を紡ぐ。
「話を戻しても無駄ですよ。これはもう決定事項です。帰ったら皆で特訓ですからね」
決定事項らしい。
はあぁ、着いたら特訓か。はっきり言って全然やる気でねぇ、だって加奈子ってば体育もサボりがちだしよぉ。
やる気なんて出る訳ねぇだろ?
そんな事をグチグチ言っていると、余程しつこかったのか、ハンサムが「しょうがないですねぇ」と呟いた。
え?、なに?、もしかしてしなくてもいいわけ?
なんて事を考えて目を輝かせていると、ハンサムが続きを喋り始めた。
「そこまで言うなら致し方ありません。やりたくない方は参加しなくて結構ですよ。ただし、リアさんと京介さんは強制参加ですのであしからず。それでは、参加しない方はこちらにサインして下さい」
そうハンサムが言い終わり用紙らしき物を出すと、リアとクソマネ以外は皆サインしようと体を動かし始めた。
「あぁ、でもリアさんと京介さんが二人で特訓となると……どうなるんでしょうねぇ。輝く汗、透けるシャツ、荒い息、人気の無い隅の更衣室。ふむ、非常に官能的ですねぇ」
何を思っているのかハンサムは何時もよりニヤケ度が増した気がする笑みでそんな事を喋った。
するとどうだろうか、皆の動きが一斉にピタッと止んだではないか。
もちろん加奈子も動きを止めてハンサムの話に耳を傾ける。
そんな中、「京介さんは強制参加」と聞いてからボーっとしていたクソマネが独り言を喋りだす
「旅館って事は浴衣、かなぁ。もしそうだとしたら外国人の金髪美人と日本の浴衣の夢のコラボが……フッ」
声は小さかったが、注意を傾けたら小さくても聞こえてくる。ましてやあんな張り詰めた空気の中でそんな事を呟かれたら嫌でも聞こえてしまう。
ハンサムも聞こえてたのか苦笑いをしている。
あぁ、駄目だ、こんな奴とリアって奴が一緒に特訓なんかしたら絶対過ちを犯す。
初めてが更衣室なんて……じゃなくて、どうせなら加奈子と……、ってそれも違くて、過ちを未然に防ぐ為、そう、過ちを防ぐ為にも加奈子も参加しなくては。
加奈子は決心を決めると深く頷く。
「はは……まぁ京介さんの独り言はさておき。どうします?皆さん」
『参加します』
加奈子達は声を揃えて参加の意を唱えたのだった。
・・・・
「はっはっふー、はっはっふー」
知っている人が聞いたならそれは子供生む時の呼吸法だろ!、とツッコまれそうな息のつぎ方をしている加奈子。
他の呼吸法も試してはみたが、結果、この呼吸法が一番楽だったので実行している。
どんだけ走ったかは覚えていない、日頃授業をサボっているせいか加奈子とクソマネは息が上がるのが他の皆に比べてかなり早かった。
まぁクソマネに授業をサボる度胸があるとは思えないのでどうせ日頃の運動不足のせいだろう。
そんな事を考えて周りを見渡すと、そこには案の定クソマネの本日三度目の休憩をしている姿があった。
だらしなく足を伸ばしていかにもダルそうだ。
さ、さーて、加奈子もそろそろ体力の限界だし休憩しようかなぁ。
たまたま加奈子が体力の限界を迎えたので休憩しようと、そしてたまたま近くにクソマネがいたので、スポドリを分けてもらおうとクソマネの元に歩を進める。
クソマネの間接キッ……、もとい水分補給源まで、もう少し。後ちょっと。
よっしゃ到着!。
加奈子はそう思ってクソマネの隣に腰を下ろそうとするが、その動作を行う前に邪魔がはいった。
「加奈子ぉお!!、休憩?、だったらこれ飲みなよ!」
桐乃が必死な表情で走ってきたかと思うとそんな事を言い出したのだ。
くそぅ、もう少しのところで!!
加奈子は内心悔しさで一杯になりながらも何とか笑顔を作り出すと「ありがとう」と言おうと口を開こうとするが、加奈子が言う前にまたもや誰かが割り込んできた。
「えっ、いいなぁおい。俺のやつ切れちゃってさぁ、良かったら俺もくれよ」
そう、クソマネが割り込んでそんな事を言ってきたのだ。
数秒間加奈子達の思考が停止し、思考が一分後ぐらいにやっと作業を再開しだす。
作業を再開したと思ったら桐乃は顔を真っ赤にして「ふひゅー、ふひゅー」と過呼吸に陥っている。
そんな桐乃から加奈子はスポドリを無理矢理奪い取って一口飲む。
「そら、飲めよ」
そう言って加奈子がニコヤカにクソマネにスポドリを渡そうとすると、正気に戻った桐乃が正に鬼の形相で加奈子からスポドリを奪い取った。そして一口飲む。
「はい、兄貴」
「させるかぁ!!」
それを加奈子達が5・6回繰り返すとクソマネが呆れた様に「……お前ら何やってんだ?」と呟いた。
「それにもう無くなってんじゃねぇか」
太陽に透けて見えたのだろうか、専用の容器に入れられた飲料はもう底をついていていた。
それを見た加奈子達は二人揃って溜息をつくとクソマネの傍からトボトボと去っていったのだった。
あ、そうそう、いきなりこんな状況で説明が足りなかったな。わりぃわりぃ。ここは、え~と、何だっけ、何て名前かは忘れたけど……、まぁ簡単に言ってドームみたいな運動場、って所だ。
あれから旅館に行き、まぁ何かといざこざ(部屋割りとかご飯の時の席順など)はあったがなんとか無事終わり。今ドーム?で練習しているって訳だ。
クソマネの話だと社長さんはかなり無茶苦茶な奴らしいけど、さすがに今回はドームを貸切なんて事はしていなく、加奈子達以外もかなりいる。
それでもカメラとか撮影道具が揃っているとやはり人目につくらしく、加奈子達はかなり注目されている。
その中でも一際目立っているのはやはりと言うか何と言うか、クソマネだった。
「あれってCMに出てた京介さんじゃない!?」
「サインもらえるかな!?」
なんて声が聞こえてくるがクソマネは馴れたのかまともに取り合っていない。
まぁその視線に加奈子達も次第に馴れていって、冒頭の様な普段と同じ態度に戻ってきて現在に至るのだ。