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一話 - (2008/06/28 (土) 21:40:16) のソース

 蝉時雨、雲ひとつ無い晴天と呼ぶに相応しい空の下
しかしそんな出かけ日和であるのにも関わらず街は閑散として
人っ子一人見えない。

「…二駅も前でとまるとはついてないな」

 リニアの駅からでると、太陽が鋭い光を浴びせてくる俺はそれを遮るように手を翳す
ポケットから携帯を取り出して記憶した番号にかけて見るものの
聞こえてくるのは無機質な非常事態宣言の勧告のメッセージ 

「電話も通じやしないか」

 当然か、そもそも俺がこうして日の当たるところに居ることの方がよっぽど異常な事だ。
この周辺の半径5kmにも及ぶ地帯に住む人間は誰彼かまわず、一人残らず
地下約数十メートルの分厚い金属で囲まれたシェルターの中に居なくてはならない。

「…しゃあない、歩くか」

 本来なら俺だって乗ってるリニアがとまった時点でシェルターに非難すべき
だったのだろうけど……。俺はポケットの中で若干皺くちゃになった封筒を
多少の躊躇を交えて取り出す。

『とっとと来い  byハルヒ』


 ずいぶん前に引っ越し、しばらく音沙汰なしになっていた自分の友人からの
あまりにも理不尽な内容の手紙、俺はそれをみて大いにため息をつく

 変わってない事に安心したり、早々に面倒ごとに巻き込まれる予感に辟易したり。
しかし湧き上がった郷愁と一緒に入ってた片道切符に押されるように長期休暇を
利用して俺はここにきた。

「しっかし急がないと、待ち合わせの時間まであと1時間切ったか」

 つまりそれは目的地にそれまでにつかなくてはならないということ。
そして目的地はリニアで行くはずだった二駅先の第三新東京市
こうなるとこっちについてから昼食を食べるくらいの余裕を持って動いていたのが幸いか
走れば10分程度の遅れで済むだろう。

  パシュッ

 そんなまるで空気の漏れるような、なにか薄い軽いものが破裂したような
まるで拍子抜けするような音がした。といっても俺が音を認識するとほぼ同時に
俺の目の前を音の原因の鉄の塊が音速を超えて飛んでいった。それは兵器。

「ミサイル!?」

 音速を超えるということは物が通り過ぎてから音が来るということで
俺はなんの用意も無く、その轟音に身をさらす事になった。耳をつんざくようなという
形容がそのまま使われる場面を、俺はハルヒに怒鳴られること意外で初めて感じた 

 ビリビリとシャッターの閉まった商店街は衝撃に更に音を重ね
俺の頭上を飛んでいったミサイルはリニア駅の周辺で一番でかい
デパートの裏手の方で爆発をしたらしく建物の上から横から赤い炎と
黒い煙と灰が舞っていた。俺は頭を抱えていた両手を離して建物の裏に
ミサイルが向かった先に足を進めた。


「……なんだよ、あれ?」

 化け物、怪獣、モンスター。なんと例えてもそいつの一片を掠っていて
しかし全然本質を貫いては居ないよ自分でも確信できた。異様で異形な"者"
それがミサイルの雨のなか悠々と歩を進めている。

 そしてその周りには先ほどと同じミサイルを幾つも吐き出す最新鋭の戦闘機が
数十機と小蝿のようにそれに群がっていた。 
 頭も首も無く、人間なら胸の辺りになるだろう場所に
その大きすぎる体躯には似合わぬ小さな仮面のような顔が存在していた
戦闘機はミサイルを飛ばし、その全ては巨人の身体に打ち込まれて
周囲に粉塵と轟音をまいて爆発するが、しかし巨人に外傷があるようには見えない

「税金の無駄遣いか?」

 あまりにもあんまりな光景は一周して平静を呼んだのだろうか。俺は払ってない癖に
偉そうに行政に文句を呟いてみる。と戦闘機の一つが巨人の手によって軽く叩き落される
それはまるで蚊が飛んでいたのに気がついて追い払うような非常に人間的な日常的な仕草で
しかし億単位の値段の戦闘機があしらわれる。

「…っておいおいおいおい!」

 巨人がじゃまっけに思ったのは戦闘機だけでなく暢気に観戦していた俺も含まれるのか
叩き落された戦闘機はまるまま俺に向かって墜落してきた。

 鼓膜が破れると思った。顔に熱風と呼ぶには強すぎる風と
飛んでくる金属片が顔に切り傷を作る。…だがいくらまってもそれ以上の衝撃は来なかった。

「ん~、速く乗ったほうがいいと私的には思うのだけどどうだろう?」

 声が聞こえた。まったく聞いたことの無い声がいきなり前方から聞こえ
俺は強く閉じていた瞼を開き声に目を向ける。

 赤い車が運転席のドアを開けてそこに停まっていて、運転席には声の主だろうか
少し幼い感じのする女の人がドアに手を掛け俺に向かって困ったような笑みを浮かべていた。

「乗る?乗らない?」

 俺はそこでようやくポケットに入れていた封筒に手紙と共に入っていた写真に思い至り
近づいてくる巨人を視界に映して急いで車に乗り込んだ。

「泉こなたって言うんだけど…一応知ってるよね?」
「はい」

 助手席に身を埋めバックミラーで少しずつ遠ざかっていく巨人を確認しつつ
俺は答える、彼女は俺と今日待ち合わせしていた。ハルヒがよこした迎えの人だ
手紙と共に写真が入っていた。長い特徴的な青い髪、俺よりずっと低い身長に幼い顔
車を運転している以上俺より年下って事はないと思うんだが…

「泉さん聞きたいことがあるんですけど」
「ん? 呼び方はこなたでいいけど、年も大して変わんないしなに?」
「…いや、今まさに年に関して聞こうと思ってたんですけど」
「19」

 二つ上だった、いやまぁ順当なあたりだとは思うが。しかし外見からは絶対に判断できないだろう
…しかしハルヒがよこした人って事は関係者なのだろうか? 結局あいつは今一体何をしていて
なんのために俺を呼んだのか俺は知らない

「しかし、意外とマイペースだね。聞きたいことは他にある筈だろうけど」
「いえ、整理できてないだけです」

 大体あんなよくわからないいきなりの街中での戦闘に頭がついていってる筈が無い
下手に質問してもそれでまだ初対面の人間に俺という人間を判断する情報を与えてもつまらんし
聞いてもうまく理解できないだろうしな、当面は保留だ

「あれ?」

 離れていく巨人をもう一度確認しようとミラーを確認すると俺は違和感に思い当たり
無意識に声を上げてしまった。こなた…さん(これに関しても保留だ)は俺の声に反応し
前方不注意にならない程度に俺に顔を向ける。それに対して俺は違和感の理由をそのまま
彼女に教える。

「戦闘機が化け物の周りから居なくなってる」

 あんだけ無駄に弾薬をつかい攻撃を続けていた戦闘機が今は一機たりとて飛んでいない
あれほど執拗に飛んでいたのになぜ? と思う前に

「えぇ! うっそぉ!?」

 今度は確実に前方不注意になるだろう後ろを振り返って巨人を自分で確認して
その後に彼女は車を近くの丘の影に道路の中央分離体を乗り上げて車を勢いよく移動させた

「伏せて」

 と言おうとしたことはわかった。が残念なことにそれはまったく功を奏さず
俺と彼女は車ごと爆風と轟音と吹き飛んでくる多種多様なものに転がされた。
天井に頭をぶつけ、シートベルトに首を絞められ車が動きを止める頃には額から血がにじんでいた。

 会話をしていたわけではなかったので舌を勢い余って噛み切るようなへまはしなかったが
しかし車を一時的非難に使った場所は砂が多く服の中に入り口の中は切れてじゃりじゃりした
車はどうやら上下逆の状態で動きを止めたらしく頭が打撲とさらに血が降りてくることによって
やけに朦朧としている。

「大丈夫?」
「なんとか、一応、まがりなりに、奇跡的に、大丈夫です」
「結構やばい状態なのは理解できたよ」

 事故したときにシートベルトは場合によっては身体を拘束すると聞いたが
まさに今回がその通りで俺達は車を起き上がらせるために窓から出ようとしたのだが
実際に窓から出るまでに10分近く消費した

「いっせーの、せ!」

 車に背中を当てて足を踏ん張り起き上がらせるために
四苦八苦する俺とこなた(この時点でさん付けする意思はなくなった)だったが
しかし俺は運動不足の高校生、こなたは実年齢はともかくこの場合は身体の方が重要で
それに関しては絶望的で、従って車を起き上がらせるのは苦難を極めに極め。

「よし、ちょっと待ってて」

 しばらくしてこなたは額の汗をぬぐいながらそういって五分ほど場から離れ
そして、どっかから別の車を持ってきた。

「この車で引っ張って起き上がらせよう」

 そういって車のトランクからフックを引っ掛けて赤いひっくり返った車を起き上がらせる

「その車で行けばいいんじゃ?」
「ダメ、その車は私のマイカーなんだよ。ボロボロになったけどまぁ君を連れてくる道中だから必要経費で修理するの」
「そっすか」
「よし、改めて行こうか」

 すっかり無残な姿になった車に乗り込み誰も居ない道路をまた走らせる
俺は割れてミラーが使い物にならなくなったため、同じく使い物になっていない窓から
身を乗り出して先ほどの大爆発が起こったところを見やる。

 そこはまるで隕石でもぶつかったのかというような勢いで地面は抉れ
先刻まで俺がいた駅やその周辺の建物も根こそぎ消え去っていた
そしてその中心に腕が千切れて表面が溶けたような巨人が
しかし屹然と大地に立ち上がっていた。

「……さっきの爆発もあいつに対する攻撃だったのか」
「ま、そゆこと。国連の切り札だよ」
「ずいぶんとリスクのでかい兵器だな。しかも目標殲滅できずか」

 多少嫌な、皮肉な言い方になったかもしれない。だが自分達も一緒に殲滅されかけ
しかも結局効果なしでは恨み言の一つも言いたくなる。俺は車に身を戻し風でおかしくなった
前髪を手櫛で整えつつこなたに目を向ける。

 こなたは俺の言葉になぜか悲痛な面持ちで俺を見る

「………あれで倒せればよかったんだけどね」
「まぁそれなら簡単に済みますからね」

 なんとなくそんな表情が見たくなくて、適当に返す。しかしこなたの顔は更に暗くなり
ポツリと小さくつぶやく

「それも……確かにそうなんだけどね」

 それからなにも言わないまま、車を移動させるカートレインの入り口についた
いや、正確には色々言葉はあっただがあんなものは会話とは呼べない
互いに何か他に考えて意味もない言葉の応酬があっただけだ
まぁとにかくしばらく車を走らせカートレインに乗せて車ごと地下に潜る
確かジオフロントだったか、人間以外に作られた人工の巨大な地下空間。

「ここにハルヒが居るのか」

 小さく声が漏れる、自分にも聞こえるか聞こえないかの声量だったが
しかしそれを目ざとくこなたは拾い答える

「そうだよ、すぐには無理かもしれないけど会えるよ」
「えっと、こなた……さんも」
「こなたでいいって言ったじゃん」

 ……普通はそういう場合本当に呼び捨てで呼ぶってパターンはなかなか無いのだが
今回はまぁ例外だったらしく、俺の先ほどまでの脳内葛藤は無意味だった

「こなたはあいつと一緒になにをやってるんだ? あいつは俺になにをさせたがってるんだ?」
「ん~。それはなかなか卑怯な質問の仕方って気付いてる? 気付いてるんだろうね
 そうだね私はハルちゃんと”一緒に”なにかをしては居ないよ。だから君になにをさせたがってるのかは私は言えない」
「知らないじゃなく言えない?」
「そ」

 カートレインは音も無く、すべるように移動し、やがて橙に染まるジオフロントが見えた。

「これがジオフロント、名前は知ってるでしょ?」
「…あぁ、こんなに綺麗なんだ」

 夕焼けのような色合いがどこまでも続く広大な空間、地下とは思えない光景だった
だがそれに浸るほどの時間はなく、すぐにトレインのゲージが視界を遮った
金属同士が触れ合うガシャっという音がして動きは止まり一定方向にかかり続けていた軽いGが
車を降りてもまだ違和感として残り足がふらつく

「んじゃ車は後で申請書出して直してもらうとして…、私達は本部に向かうとするかね」

 俺は機械に飲み込まれ見えなくなった車を思い出し
直すより買ったほうが安いんじゃないかという言葉をギリギリで飲み込んでから
別の言葉を、質問を口にする

「本部って?」




「SOS本部だよ、キョン君」