着物の娘 『2話』


レインチルダ学院
「よぅ、着物は見れたか?」
席についた途端親友のホビット、ソルトに話しかけられる。
「いや、父さんは商談にでていて、着物を家で扱ってるか聞けなかったよ」
「そっか……じゃあ、転校生の着ている物を見て判断するしかないか」
僕の返答にソルトはそう言いながら席へと戻っていく。
鞄の中から教科書を取り出しながら、周辺に居る学友達の話に聞き耳をたてると、
やはり今日転校してくる着物の子についての話題で持ちきりのようだ。
「なあ着物ってどんなもんなんだろうなぁ?」
「俺たちの着ている服と、どう違うんだろう」
僕達が一般的に着ている服は、主に羊の毛やモンスターの体の一部を切り出して
加工したりしている。
他にも綿毛とか麻とか色々と服の材料はあると親に聞いた事がある。
「皆さん席についてください!転校生の紹介をしますよ」
教科書を机の上におき終えた途端に現れる教師。
僕と同じエルフである先生は、教室のざわめきが静まるのを待っていた。
「では、紹介します……この地より西方の島からやってこられた。
 獣人のミヤビさんです」
ミヤビと呼ばれた転校生が教室に入ってくると、僕はその異様な格好に目を奪われた。
彼女が身に纏っていた上着は、いままで僕が見たことのないような刺繍が施され、
服自体も胸の辺りは黄色いのだが、袖の部分にいくにしたがって紫に近い色になってゆく。
これは相当な身分の商人の子供がやってきたんだな……僕はそう思った。
何故なら、彼女が身に纏っている服は貴族の貴婦人が着ていてもなんらおかしくはない出来だからである。
もっともあのような服を身に着けて社交界に出席すれば、良い意味でも悪い意味でも人目を引くのだろうなぁ…

「雅と申します……こちらに来て日は浅いためよろしくお願い致します」
ペコリと頭を下げたミヤビは、先生に言われた席に向かい歩き出す。
そして僕はまたも衝撃を受ける。
彼女は、スカートを履いていないのだ……。
代わりに長めの上着が下半身を少し覆っているだけ。
もしかしたら彼女は露出癖があるのだろうか?
流石にそれはないと思いたいのだが……でも、彼女の履いているパンツは正直気になる。
やはりパンツも見慣れない(植物の葉?なのだろうか)刺繍が施してあるのだろうか?
「あの転校生すっげぇなぁ~なあコール、あの服はお前ん家で扱ってるか?」
「いや……僕は見たことがないよ、今日始めて見た」
ソルトの質問に、僕は素直に答えを返す。
物心ついてからあのような服は見たことがないと、言い切れるからだ。
「そっか、お前ん家でもないのか……」
「もっと上の商屋に行けば取り扱ってるかも知れないが……
 明らかに貴族や王族御用達レベルだね……とてもじゃないが、父の店では取り扱えないよ」
「って事はあの子はそんだけ格式高い商家の娘さんって訳か……」
「それとも、着物をこちらの貴族や王族に広めようと、西方の商人が態々ここまでやってきたのか……
 謎は尽きないね」
「態々やってきたとしたら、かなりの大金持ちになれるだろうなぁ……貴族ってのはああいう珍しい物が
 大好きな奴って多いし」
「それだけ金があるって事だろ」
僕の返答に、ソルトは小さく笑いながら頭をぽりぽりと掻く。
その拍子に僕の机の上に彼の茶色い髪の毛が2本落ちたが、僕は彼に気づかれないようにそれとなく
抜け落ちた髪の毛を床に払い落とす。
毛で思い出したが、僕はミヤビのような黄色い毛を主とした獣人を見たことがない。
というより彼女のような種族を見たことがない。
獣人の中には犬や猫、ヤギや羊、兎等色々な種族が居るのは知っているが、
彼女は一体なんという種の獣人族なのだろうか?
犬に近いのかな?とか僕は思考を巡らせる。
「ねーねー、貴女の履いてる下着ってなんていう名前なの?」
教室にいた獣人族の女の子がミヤビに下着の事を尋ねていた。
いつの間に下着を見たんだ!?とか思っていたが、椅子に座っているミヤビを見たら普通に見えた。
たしかにあのような下着は見たことがない……いや、ある水着にああいう似たような物があったな。
父さんが雇っているメイドにあんな感じの紐っぽい水着を着せていたっけか……
その後母さんに見つかって打ん殴られていたが。
「これは褌というものだ。こちらでいうパンツと同じ役割をするものだ」
「へぇ~そうなんだ」
「フンドシだってよ、面白い名前の下着だな」
「よくよく考えるとパンツも結構面白い名前だと思うけどね」
僕の返答に、ソルトはそれもそうだと小さく笑いながら言う。
それから1時間程は、教室内で彼女に対して自己紹介をしたりする時間が与えられ
僕もソルトも彼女に簡単な自己紹介をした。
自己紹介が終わる。
これでようやく授業が始まる。
そうすれば、私を見る幾多の二つの珠が少しは減るだろう。
「では、今日は135ページの『魔水晶』について勉強をいたしましょう」
魔水晶?初めて聞く名前だ。
私は急いでページをめくり、135ページに目を通す。
『魔水晶とは特別な水晶の中に魔力を閉じ込めた物で、宿した属性に従い色も変わる不思議な水晶である。
 たとえば、火属性を宿した水晶は赤くなり、水属性を宿せば青くなる。
 土なら黄、風なら碧、光なら白、闇なら黒と非常にわかり易い』
「では、先生が実物を使って水晶の力の極一部を御見せしましょう」
ページを読んでいると、教師が青い水晶を取り出した。
私はこれから何をするのか興味がわき、青い水晶を見つめる。
「では!」
教師の掛け声と共に水晶が薄く輝き始め、水滴が水晶から垂れ始める。
そして、垂れた水滴が教卓の上で氷の塊になっていた。
島に住んでいたため大陸の技術には非常に疎いが、こういった技術を見ると
大陸の魔術の発展は非常に進んでいると思う。
私も欲しいな……。
そんな事を思っていると、茶色い髪をしたホビットが教師に値段の質問をした。
「先生!それって幾らぐらいするんですか!?」
「そうですね、これは魔力を閉じ込めただけで一切加工はしてないので値段はつきません。
 というか市場には出回りませんが、加工をした水晶……『水晶具』は物にもよりますが
 一番安くて金貨20枚はしますね」
金貨20枚、高すぎる。私は最高で銀貨1枚を持った事しかない……。
仕方がない、水晶具は諦めよう。
それから教師は、水晶具の説明を始めた。
永遠に手にする事はできない代物だと思うが、説明自体は非常に面白かった。
「水晶具とは先ほどの水晶を加工して作られた代物で、一般的には指輪とか腕輪、
 剣の柄とかに埋め込まれています。
 高位の軍人さんの持っている剣の柄に綺麗な石がはめ込まれてるのを見たことがある人も
 いると思いますが、あれが水晶具です。
 次に、皆さんの中に将来水晶具を持つ事がある人が必ずいると思うので、水晶具の注意点も
 説明させていただきます。137ページを開いてください」
私は137ページを開き、目を通す。
「水晶具は、実は二つの物を身につけるが非常に難しいです。
 先天的に魔法の素質がある人は、二つの水晶具を身に着けて水晶具の力を引き出すことが可能ですが、
 素質のない人が二つの水晶具を身につけて力を引き出すと、お互いの力が反発し合い
 不発してしまうか、最悪水晶具が壊れてしまう事があります。極稀に成功する事がありますが、たいていは不発
 してしまうので、水晶具を身につけて力を引き出す際は注意してください。
 逆に先天的に魔法の素質がある人は、本人が魔法を扱うのが上手くても下手でも二つ操る事ができるんです。
 あ、ちなみに先生は素質がないです」
そう言いため息をつく教師。
なにも生徒の前で態々ため息をつかなくてもいいと思うけど、よっぽど残念なのだろう。
それから水晶具の歴史について講義が昼食の時間まで続いた。
昼食の時間は、私の生まれた場所や身につけている服等について色々と質問をされた。
大陸外からきた私が珍しいのだろう……。
やたらと質問攻めをしてくる彼等を少々うっとおしく思った。
そして同時に私の住んでいた島に彼がやってきた時、もの珍しさから様々な質問をしたのを思い出し
彼もこんな気持ちだったのだろうか、と思っていた。
……帰ったら聞いてみよう。

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最終更新:2011年07月20日 10:11
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