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放課後SS第一部 - (2013/11/26 (火) 15:17:00) の1つ前との変更点

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【登場人物】 ・俺 20代前半の人間であり、「放課後のJOKER」という二つ名で恐れられる存在。 (本当は妄想なので俺の本名が入る) 圧倒的な戦闘力を持ち、その力の前では幻想郷の有力者の能力も無効化される。 数多の世界を渡り歩いて来たが、その強さゆえに人々から拒絶され、誰かの温もりを求めている。 おだやかな性格だったが、幻想郷でのとある事件がきっかけで復讐の鬼となる。 魔力はもちろん剣の腕も超一流だが、恋愛経験は全くのゼロ。 ・八雲藍 本作のメインヒロイン。 そんなに好きなキャラではなかったが、俺とラブラブする夢を見たことで萌え度が急上昇。 JOKERの強さは知っていても、それを恐れず良好な関係を築く。 ・八雲紫 表面上はJOKERと仲良くしているが、内心ではその圧倒的な強さが幻想郷のバランスを崩さないかと恐れている。 それゆえ、本作では凶行に走ることとなる。 ・レミリア 噛ませ犬。 ・その他幻想郷の面々 一部を除いて、JOKERと仲良くしている。 幻想郷。それは忘れ去られたものが集う世界。 そこは結界により外部と遮断されており、独自の文明が築かれている。 その世界のある晩、刀を持った一人の男が迷い込んだ。 男は望んで入り込んだわけではなかったが、そこは妄想なのでご都合主義である。 その男は圧倒的な戦闘力を持ち、ハルケギニアでもミッドチルダといった別世界でも敵う者はいなかった。 人々は彼を恐れ、こう呼んだ。「放課後のJOKER」と。 ―――――――――これは、一人の男と一匹の狐の恋物語――――――――― 俺「ここは……どこだ?」 JOKERは暗い森の中にいた。 今までいた世界と異なる世界に入り込んだというのは何となく分かっていた。 しかし、このような世界は渡り歩いたという記憶がない。 とりあえずこの森を抜けてからだな、とJOKERは考えた。 飛べば簡単に抜けられるのだろうが、飛ぶことが当たり前でない世界だったとしたら騒ぎになりかねない。 これ以上、拒絶されたくない。この世界ではおだやかに暮らしたい。 それゆえ、飛ぶことを我慢し、歩いて抜けることにした。 JOKERが歩いていると、突然ガサガサと上方から音がした。 ?「こんな時間に人間が一人で出歩くなんて……死にたいのかしら?」 その声と共に、一人の少女が降りてきた。 その姿を見てJOKERは確信した。この少女は人間ではない、即ちこの世界は人外がいる、と。 そして、目の前の少女はとても友好的な態度とはいえない、ということも。 俺「えっと……実は気付いたらここにいて困ってんだ。どう行けば外に出られるかな?」 揉め事はゴメンだ。できるだけ刺激しないように、笑顔で話しかける。 しかし返ってきた言葉は期待にそぐわないものだった。 ?「あら、外来人?それなら何の遠慮もなく血をいただけるわね。   このレミリア・スカーレットの一部となれることを光栄に思いなさい」 なるほど吸血鬼か、とJOKERは思った。 数多の世界を渡り歩いた吸血鬼を見たのも、JOKERにとっては初めてではない。 俺「えーっと……逃がしてって言っても駄目だよね?」 レ「駄目よ」 取り付く島もない。仕方ないか、とJOKERは溜め息をついた。 レミリアという目の前の吸血鬼は見たところかなりの強さである。 しかし、JOKERは全く恐れなかった。 俺「じゃあさ、取引をしようじゃないか」 レ「取引?」 俺「ああ、俺を見逃してくれれば代わりに……」 そしてJOKERは微笑を浮かべながら言った。 俺「お前のことは見逃してやるよ」 その言葉を聞いた瞬間、レミリアは激昂し、JOKERに飛び掛った。 人間風情が、吸血鬼である自分を見逃すと言った。 その驕り、死をもって償わせないと気がすまない、と。 一方JOKERは落ち着いて相手を分析した。 レミリアの戦闘力はかなりのものだ。並の人間なら一瞬でバラバラにされるだろう。 ただ、レミリアには唯一の誤算があった。 俺「悪いな……『並』じゃあないんだよ」 そう呟くとJOKERは脇に差した愛刀「贄殿遮那」に手をかけた。 レミリアは目を疑った。 刀の柄にかけたJOKERの手が何となく動くのは見えたが、その瞬間視界からJOKERの姿が消えたのだ。 慌てて立ち止まった時に初めて気がついた。自分の首に浅い切り傷がついていることに。 俺「だから言っただろ、見逃してやるって」 レミリアの背後から声がかかる。振り向くと、先ほどと変わらぬ様子のJOKERがいた。 そしてレミリアは何が起こったのかを理解した。 話は簡単である。 JOKERは襲い掛かってくるレミリアの目に止まらぬ速さで脇をすり抜けた。 そのすれ違いざまにJOKERの十八番、神速の抜刀術で首を一閃したというだけだ。 レミリアが真に驚愕したことは、その移動と抜刀の速度ではない。 JOKERがその気になれば、自分の首などわけなく落とせた。つまり、手加減されたのだ。 吸血鬼こそ最強だと信じて疑わなかった自分が、ただの人間に。 レ「そんな……そんな馬鹿なことあるはずがない!」 実力差を感じながらも、吸血鬼の意地でJOKERに襲い掛かろうとする、が。 俺「やめておけ、次は本当にその首跳ね飛ばすぞ」 再び柄に手をかけるJOKERを見ると、足がすくんで動かない。 レ(何なの……何なのよ、この人間は……!) この五百年で初めて味わう、真の死への恐怖がレミリアを立ち止まらせた。 冗談ではなくこの男は、その気になれば自分など簡単に殺せるのだろう。 人間などただの食料でしかないはずなのに。この人間は、私の理解を超えている。 JOKERはしばらく睨み合いを続けていたが、レミリアから戦闘の意思が失われたことを確認すると柄にかけた手を離した。 俺(今更森を出る道なんか聞いても答えちゃくれない、か) そう考えたJOKERはレミリアに背を向けて、再び出口を求めて歩き始めた。 その行為は力の差に打ちひしがれていたレミリアを更に驚かせた。 先ほどまで戦っていた、しかもほぼ無傷だと背を向けるなど戦いにおいては考えられないことだ。 このまま去っていくJOKERをただ見ていることなど、プライドの高いレミリアには耐えられなかった。 レ(背を向けている今なら……) JOKERのところまで一秒もかからない。飛び掛るためにレミリアはぐっ、と足に力をこめた。 この腕でその無防備な背中を貫いてやるつもりだった。 力をこめたその瞬間、JOKERが突然立ち止まり柄に手をかけるのを見るまでは。 レ「……あんた、何者……」 かすれた声でレミリアは尋ねる。 JOKERは振り返り、微笑んだ。 俺「放課後のJOKER」 再び去っていくJOKER。 今度こそ、レミリアには戦おうという気は起こらなかった。 その頃、二人の頭上には一人の少女が空を飛んでいた。 ?「あやややや…………これは大スクープですね」 これが後に幻想郷を大いに騒がせる男の物語の始まりだった。 八雲藍の朝は早い。 八雲家を実質取り仕切っている身としては、やるべきことは多々ある。 食事の仕度もそうだ。三人住んでいる上に橙は育ち盛りでよく食べる。 この日のように川で魚を取りにいくのは珍しいことではなかった。 小一時間ほど歩いたところで川に着いた。 何度も訪れている場所だが、その日はいつもと様子が違っていた。 河原の草地で、一人の男がすやすやと眠っている。 藍「信じられん……」 その言葉の真意は、野宿をしていることに対するものではない。 妖怪の棲む森の近くのこの場所で眠るなど、自殺行為でしかない。 そのようなことを知らない人間はこの幻想郷にはいないはずである。 呆れながら見ているとその男、放課後のJOKERがぴくりと動いた。 俺「ん……もう朝か」 段々頭ははっきりしてきて、小川のせせらぎも聞こえてくる。 確か自分は森を抜け出したあと、眠くなってそこの草地で………… 藍「目が覚めたのか?」 JOKERは目をこすりながら、声をかけてきた目の前の女性を見た。 整った顔立ちはもちろん、その九つの尾がとりわけ目をひく。 俺(まさか九尾の狐?伝説の妖獣だとばかり思っていたが……) 吸血鬼ならばレミリアのみならずいくつかの世界で見かけたことがある。 しかし、九尾の狐には未だかつて会ったことがない。 この妖狐もレミリア同様自分を襲いに来たのだろうかと一瞬考えたが、どうやらそんな雰囲気はなさそうなのでホッとした。 JOKERのことなど知る由もない藍は、疑問をぶつける。 藍「なぜ人間がこんな所で寝ているのだ?妖怪に襲われでもしたら助からないはずだが」 JOKERは昨晩の記憶をほじくり返した。 確かに眠っている隙をついて何回か妖怪が襲撃してきたが、その度に撃退した。 目の前の妖狐とは違い殺気を放って近づいてくる妖怪など、JOKERの力量では眠っていても気付かぬはずがない。 しかし、そのようなことを正直に話して騒ぎにされるのも好まない。 JOKERは適当にごまかすことにした。 俺「いや~いつの間にかこんな所にいて、眠くなっちゃって。   それにしても、この辺には妖怪とかいるのか?おお、こわいこわい」 ぶるぶると震えるJOKERを見て、藍は溜め息をついた。 何と運の良い人間、そしておそらく外来人だろうな、と。 この時の藍は、JOKERの圧倒的な強さには気付いていなかった。 俺「ところで、さ」 藍「何だ?」 何を聞く気だろうと藍が思ったら、JOKERのお腹がぐ~、と鳴った。 俺「何か食べ物ないか?」 これが、後に恋人同士となる二人の最初の出会いであった。 紫「それで連れてきたってわけね」 結局、藍はJOKERをマヨヒガまで招待した。 空腹なのを哀れに思ったわけではない。ただ、この通常と違う雰囲気の外来人が何か気になったのだ。 橙「うえ~、私この野菜嫌い…」 俺「こらこら橙、ちゃんと食べないと立派な大人になれないぞ」 橙「河原で寝てるような人に言われたくないですよぉ…」 俺「ははは、そこを突かれると痛いね」 橙とは早速仲良くなっている。 この放課後のJOKERという男は悪い人間ではなさそうだが、いきなり異世界に迷い込んだ割には飄々としすぎているように見える。 不思議な男だ、と藍は思った。 紫「昨晩から幻想郷に来た、って言ってたわよね」 俺「ああ、そうだよ」 紫「へえ、よく妖怪に襲われなかったものね」 俺「…………運が良かったみたいだな」 JOKERは昨晩のレミリアとの戦闘を思い出す。 圧勝こそしたものの、それは相手が悪すぎただけで過去にJOKERが戦った数多の敵の中でもトップクラスと言える強さだろう。 わざわざ暴露して警戒される必要もない。藍の時と同様、ごまかすことにした。 しかし。 紫「ところで、この新聞の記事に心当たりないかしら」    そう言って紫はJOKERに一枚の新聞を見せた。 文々。新聞号外 「紅魔館の悪魔、外来人に敗れる!」 ○月×日午前零時頃、(自称)最強の吸血鬼と名高いレミリア・スカーレット(推定500)が、紅魔館付近の森で外来人にコテンパンに負かされるという事件が起こった。 外来人は若い男で放課後のJOKERと名乗っており、刀を武器としていることと圧倒的な戦闘力を有していること以外は不明。 この事件により、ただでさえ崩壊気味だったレミリア氏のカリスマは一気に地に落ちるものと思われる。 俺「参ったな……」 どうやらこの紫という女には最初からバレバレだったようだ。 そして、この記事は藍と橙も今初めて目にした。 藍「そんな、まさか……」 藍は驚愕した。 レミリアの力はよく知っている。たとえ最強の妖獣である自分が戦っても、おそらく苦戦は必至だろう。 それを目の前の、冴えなさそうな一風変わった人間が打ち負かしたというのだから。 橙「JOKERさんって凄い人だったんですね」 俺「いや、まぁ……」 一方のJOKERは落ち込んでいた。 この様子だと、やはりこの幻想郷でも皆から恐れられてしまうのだろう、と。 相手などせずに、さっさと逃げてしまった方が良かったのかもしれない。 そんなことを考えていたが、その時紫からかけられた言葉は予想外のものであった。 紫「凄いじゃない、あのレミリアに勝つなんて」 俺「へ?」 予期せぬ反応が返ってきて、JOKERはポカンとした。 紫「たいしたものね。どんな世界にいたのかしら?」 俺「紫、お前は俺が怖くないのか?」 紫「怖いって?」 俺「その……俺の力が」 恐る恐る聞くと、紫はクスリと笑った。 紫「大丈夫よ。ここでは強い力を持つからって、特別扱いはないから」 俺「……そうなのか?」 紫「ええ、心配ないわ」 どういうわけか知らないが、助かったらしいということは理解できた。 まだ不安は拭えないが、とりあえずは安堵していいようだ。 そんなJOKERへ、紫がさらに尋ねる。 紫「せっかくだからさ、私と手合わせしてくれない?貴方の力、少し興味あるの」 俺「まぁご飯も食べさせてもらったし、別にかまわないが」 突然の提案に藍は驚いた。 JOKERに聞こえぬよう、小声で真意を探る。 藍(紫様、どういうおつもりですか?) 紫(強い外来人なんて興味あるじゃない。藍も気にはなるでしょう?) 藍(そ、それは……) 紫(軽い手合わせなんだから大丈夫よ。本気出したりしないから) 橙「うわぁ~、紫様と戦うなんて大丈夫なんですか?」 俺「心配無用、俺は女性には(少しは)優しいからな」 橙「いえ、JOKERさんに言ったんですけど……」 この紫の提案は本当に軽い気持ち、暇潰し程度のつもりだった。 確かにこのJOKERという男は強いようだが、レミリアより強い人間がいるとは思えない。 多少は腕が立つのかもしれないが、この記事はあの天狗が大げさに報道しているだけ、というよりほぼ捏造だろう。 適当に様子を見て、怪我をさせないよう適当に勝とうと考えており、自信の敗北などは夢にも思っていない。 それに関しては藍も橙も同様、勝負の結果など目に見えていると思っていた。 弾幕ごっこではない勝負で、八雲紫に勝てる人間などいるはずないと。 この時は紫は知らなかった。 自分など足元にも及ばぬような怪物の存在を。 食事を済ませた後JOKERと紫は、八雲家の庭で立ち会うことにした。 藍「それでは、始め!」 凛とした掛け声と共に、JOKERは贄殿遮那を抜刀し、ほんの少し刀身を傾け中段に構える。 お互い遊びのように思っているからか、緊張感をさほどない。 紫(まずは小手調べと行こうかしらね) すっと右手の人差し指を突き出し、魔力を込める。 その直後指先から目にも止まらぬ速さで一発の弾が放たれた。 弾はJOKERの顔の横、かなり離れた所へ飛び、すぐに彼方へ消えていった。 JOKERはそれを微動だにせずやり過ごした後、紫へ一歩じり、と近づく。 紫が再び弾を放つ。今度の狙いはJOKERの顔の横ギリギリの所である。 JOKERは顔色一つ変えず、弾が耳をかすめた後、再び一歩にじり寄った。 紫(へえ、思ったより出来るみたいね。それなら) 再び人差し指をJOKERに向ける。今度は、JOKERの右肩に狙いをつけた。 そして発射しようと魔力を込めたその時、JOKERの刀がすっと動き、紫の照準とピッタリ重なった。 紫「!」 発射された弾は刀身にぶつかり、跳ねて斜め後ろに飛んでいった。 紫は驚きながらも、さらに手足を狙って数発の弾を放つ。 しかし、それらも全てJOKERの刀に弾かれ、一発も当たらなかった。 橙「藍様、どうして当たらないんですか?」 藍「ああ、おそらく紫様の狙う先と目と指の動きを見て、弾が来る方向を予測しているんだ。   弾道さえ分かれば、あの刀で弾くことは可能だろう」 橙「でも、そんなに簡単に出来ることなのですか?」 藍「…………いや」 少しでも予測がずれると弾が直撃してしまうため、正確に弾道を測る技術はもちろん相当の度胸も必要となる。 理屈は簡単だが、実行は極めて困難。おそらく幻想郷一の剣の腕を持つであろう白玉楼の庭師ですら容易ではないはずだ。 それをこの放課後のJOKERという男は平然と、いとも簡単に成し遂げている。 藍「もしかしたら、レミリアに勝ったという話は……」 紫「大した人間ね」 紫は人事のように感心した。どこを狙っても、全てあの刀の前に阻まれる。 だが、それはあくまで紫の放つ弾が一発のみであるためだ。 紫「あなた、相当強いわね」 俺「そういうあんたこそ、俺が戦ったことのある相手の中では最強クラスだろう」 紫「あら、有難う。お礼に、ちょっとだけ本気を見せてあげるわ」 俺「…………」 JOKERがもう一歩、紫に近づく。 その瞬間、紫から大量の弾幕がJOKERへ向けて放たれた。 正面左右、上方からも様々な色の弾がJOKERへ襲い掛かる。 橙「うわぁ、凄い」 藍「って、さすがにやり過ぎです!」 あの量を刀一本で凌ぎ切るのはどう考えても不可能だ。 あくまで遊び、大した威力はないのだろうが、それでも生身の人間にはそれなりのダメージとなるはずである。 紫「さあどうする?これを全部落とすのは無理でしょう?」 この時、藍と同様紫もこれで終わりだと思っていた。 永遠亭の医師のところまでは送ってあげよう、などと考える余裕すらあった。 しかし、JOKERは紫の意表をつく行動に出た。 弾幕が放たれるとすぐに横に大きく旋回し、進路上の弾を刀で弾きながら一瞬のうちに紫との間合いを詰める。 そのまま刀を左下から右上に、逆袈裟に斬り上げた。 紫「なっ!」 紫が慌てて身を引くと、そのすぐ目の前をJOKERの刀が通過していった。 外れたことを確認すると、JOKERもさっと身を引き、再び紫との距離をとる。 その体には、あれほどの弾幕に晒されながら傷一つない。 呆然とする皆を尻目にJOKERは言った。 俺「さすがの反応だな。浅く斬りつけるつもりだったのに、服すら斬らせないとは」 紫「なんで……あれが避けられたの?」 俺「簡単なことさ」 JOKERは笑いながら答える。 俺「確かに全て弾くのは無理だろう。だが、よく見ると弾幕の密度にはばらつきがある。   弾幕の薄いルートを瞬時に判断して、そこを通過したというだけの話だ。   それなら弾くべき弾はずっと少なくて済むからな」 本当はより簡単で安全な手段もないわけではなかった。 それは自信の魔力で、迫り来る弾幕を全て吹き飛ばしてしまえばいいのである。 だが、そこまでして勝つ必要のある勝負ではない。JOKERはあくまで刀一本で戦うことにした。 紫「そんな難しいこと攻略法を一瞬で判断して、あまつさえ簡単……ね。   本当に大したものだわ。何者なの?」 俺「放課後のJOKER、ただの人間さ」 こともなげに答えると、再び紫に一歩近づく。 皆この頃になると、さすがにレミリアに勝ったという情報を疑わなくなっていた。 紛れもなく目の前のこの男は、人間の身でありながら人間離れした戦闘能力を持っている。 それは吸血鬼の身体能力を凌ぐほどであり、この幻想郷でも屈指のものなのだろう。 だが、それでも最後に勝つのは紫だという確信があった。 いかに優れた戦士でも、紫の力の前には手も足も出ないであろうから。 紫「あなたみたいな人間は初めてよ。でもね、私にも大妖怪としてのプライドってものがあるわ」 俺「…………」 紫「まさかこの力を使うことになるとわね。悪いけど、今度こそ終わりよ。   あなたとの勝負、とても楽しかったわ」 紫の力、それは境界を操る程度の能力。 主に移動手段として使用しているが、その能力は戦闘でも絶大な効果を発揮する。 例えば、行動の境界を操作して相手を動けなくさせるなどということも可能だ。 紫が右手を開き、JOKERの方へ軽く突き出した。 藍(終わった……紫様の勝ちだ。だが、胸を張っていいぞ) この反則的な力の前にはどうしようもないはずだ。 紫も藍も橙もその場の全ての者が、今度こそ決着だと思っていた。 紫が能力を行使した。JOKERが立ち止まる。 そしてJOKERは微笑し、紫へまた一歩近づいた。 何も起こらなかったかのように。 紫(そんな……馬鹿な!) 紫は目を疑った。 もう一度能力を行使した。JOKERは相変わらずの様子で、また一歩近づく。 橙「藍様、これって」 藍「ああ……紫様の能力が効いていない」 紫(なぜ!?外来人には効かないの!?いや、そんなはずは……) 藍(まさか、紫様の能力を無効化する能力でもあるのか?) 一瞬二人の脳裏に、ある一つの突拍子もない理由が浮かぶ。 そのあまりに現実離れしすぎた考えに、すぐに頭の中から追い出す。 しかし、現にJOKERには能力が効いている様子は全く見られないのだ。 紫の表情には、最初の余裕などとうに消え去っている。 俺「今何かしたようだが……まあいいか。んじゃ、そろそろ決着といこう」 JOKERが中段で構えていた刀を、上段に大きく振りかぶった。 そして踏み込み、一瞬のうちに紫との間合いを詰める。 速い、と紫が思った時にはすでに目の前に迫っていた。 刀が振り下ろされる。 紫の背筋に寒気が走る。気の遠くなるほど長い人生においてもほとんど感じたことのない本格的な恐怖。 久しく忘れていたその感情は、紫から正常な判断を奪った。 即ち、その一瞬だけ反射的に、紫は完全な本気を出してしまった。 紫「四重結界!」 紫の周囲数メートルの空間が、一瞬にして焼き尽くされた。 紫の奥義、四重結界。 弾幕ごっこでは主に相手の弾幕を消すために使用するものだが、今回はJOKERを攻撃する目的で、完全に本気で放ってしまった。 いや、放たざるを得なかった。幻想郷でも最強クラスの力を持つ紫をそこまで追い詰めるほどに、JOKERが紫に与えた重圧は大きいものであった。 藍「JOKER!」 藍が真っ青になって飛び出し、橙がそれに続く。 その声で、呆然としていた紫は我に返った。 紫(しまった!) 紫が本気で放つ四重結界は、妖怪すらも一瞬にして灰に帰す。 生身の人間であるJOKERが耐えられるはずがない。 何ということをしてしまったのか、と後悔にふける直前、紫は目を疑った。 俺「全く……とんでもない技を持ってやがるな」 四重結界のギリギリ射程範囲外に、JOKERは立っていた。 発動時には紫の目前に迫っていたはずなのに、いつもと変わらぬ飄々とした笑顔で。 紫はあまりの衝撃に、口に出すことができなかった。 ――――――なぜ、そこにいるの―――――― 橙「無事だったんですね、よかったぁ~」 俺「ああ、何かやばそうだったから慌てて身を引いたから助かったよ。   もう少しで黒コゲになるところだったよ」 ――――――身を引いた?あの一瞬で、そこまで?―――――― ――――――そんな余裕があるなら、私を切れたんじゃないの?―――――― 俺「でも、さすがにもう降参だな。   これ以上やってたら、命がいくつあっても足りそうにない」 藍「ああ、その方がいいだろう。正直、ここまでやるとは思ってなかったぞ」 ――――――私がこんなに追い詰められたのに、そんなに平然として―――――― 俺「ところで厠ってどこにあるかな?   いや~久々の勝負で緊張して、もよおしてきたみたいで」 藍「やれやれ、緊張感のない奴だ……橙、案内してさしあげなさい」 橙「はーい」 ――――――この男は、一体―――――― 藍「紫様、どういうおつもりなのですか!?」 JOKERと橙がいなくなってのを見届けた後、紫を睨みつける。 藍「あの四重結界は本気で打ったように見えました。   JOKERが避けていなかったら、どうなってたかお分かりでしょう?」 紫「…………打つつもりはなかったわ。多分、打たせるように彼に仕向けられた。   彼も避けるか、別の手段で防げると織り込み済みだったと思うわ」 藍「紫様、何をおっしゃっているのです?」 紫「つまりね、彼の目的は私に勝つことなんかじゃなかった。   あの戦いぶりは、まるで私の力量を測っているようだったわ…………」 藍の目が驚きで見開かれる。力量を測るなど、とても格下の発想ではない。 相手と同格か、それ以上の者でないと不可能だ。 ましてや相手が幻想郷最強クラスの八雲紫ともなれば。 藍「そんな……それではまるで、JOKERが紫様に匹敵する力を持っているかのようです」 紫「彼の力が私に匹敵する?そんなわけないじゃない。   思い出しなさい、あの弾幕や四重結界を余裕で回避した時のことを。   そして、私が『境界を操る程度の能力』を行使した時のことを」 紫がそう言い、藍が記憶の糸をたぐりよせる。 あの時、紫が能力を行使したにもかかわらず、JOKERにさしたる変化は起こらなかった。 藍「そういえば、JOKERには紫様の能力が通じていないようでした。   一体なぜなのでしょうか?」 紫「…………これは私の勝手な推測だけど、多分間違っていないと思うわ。   結局のところ、私の能力はあくまで境界を操る"程度"のものだということよ」 程度、という言葉を強めて紫が言った。 藍「…………まさか…………」 藍が絶句する。 可能性の一つとしてあげながら、あまりに現実離れしていて切り捨てた考えが再浮上する。 そしてその考えは――――――紫の結論と一致していた。 紫「ええ、そうよ。私の能力はあくまで"程度"、つまり」 紫がゆっくりと、口を開く。 紫「自分より圧倒的に強い相手には、通じない」 俺「それじゃあ、世話になったな」 紫との戦いが終わり、JOKERはマヨヒガを出ることにした。 横に藍をたずさえ、八雲家の門のところに立っている。 俺「でも本当にいいのか?藍がいないと色々不便だろ?」 紫「数日くらい大丈夫よ。橙も少し家事が出来るようになってきたしね」 橙「お任せください!」 藍は紫の命で、数日間だけ幻想郷に不慣れなJOKERと行動を共にすることにした。 しかしそれは表向きの理由であり、真の目的はJOKERが幻想郷に災厄をもたらす人物かどうかの監視役。 そのことはJOKERにはもちろん、橙にも知らされていない。 何も知らずに喜んでいるJOKERを見て、藍はいたたまれない気分になった。 俺「じゃあな、紫、橙」 藍「では、数日の間だけ失礼します」 紫「ええ、またいつでも遊びにいらっしゃいね」 橙「さようなら~!」 八雲家に背を向け、共に歩き出すJOKERと藍。 その背中を、紫は険しい目で見つめていた。 俺「……なぁ、藍」 しばらく歩いたところで、JOKERが立ち止まった。 藍「何だ?」 俺「実際のところ、俺の力についてどう思ってるんだ?」 じっと藍の目を見つめて言う。 藍「…………人間としては、かなりのものではないのか」 俺「そうじゃない。本当に思ったことを、正直に言ってくれ」 凛とした声。 JOKERの表情には、普段の笑みはない。 その目も真剣そのもの、そしてどこか物悲しいものを藍は感じた。 少しの沈黙の後、藍はふぅ、と溜め息を吐く。 藍「おそらく、幻想郷最強の妖怪である紫様ですら足元にも及ばない。   私が知る誰よりも強いだろう。それも、桁外れに」 俺「…………そうか。やっぱり気付いてたか」 JOKERはどこか寂しそうに苦笑する。 俺「藍はいい家族を持ったな。橙は元気で楽しいし、紫は右も左もわからない   俺に親切にも藍を預けてくれる優しい奴だ」 それを聞いて、藍はいたたまれない気持ちになった。 本当は自分はJOKERの案内役などではなく、監視役だ。 そのことを知ったらJOKERは怒るだろうか、悲しむのだろうか。 俺「でもな、藍。俺が怖ければ無理して付き合う必要はない。   不便になるかもしれないが、俺はずっと一人でやってきた。   紫には俺から言えばいい。だから……一人でも大丈夫さ」 藍は察した。 今までJOKERは強すぎる力を持ったために、誰からも避けられてきたと。 本人にその気があろうが無かろうが、世界すらも滅ぼせる力を持つ者がいたら。 おそらく……危険視され、腫れ物に触るような扱いを受けるのだろう。 友人すら、一人も作れず。 藍「JOKER…………」 しかし、今自分の目の前にいる男はどうだ。 強い力を持っていても、ただの一人の寂しがり屋の人間だ。 藍「怖くなんか、ない」 だから、心の底からそう思うことができた。 俺「……え?」 藍「もし私とJOKERの強さが逆だったら、私のことを怖いと思うか」 JOKERはすぐに首を横に振る。 俺「まさか。どんなに強くとも、藍は藍だ。怖くなどあるはずがない」 藍「それと同じことだ」 藍はまっすぐJOKERの目を見て言った。 藍「確かにお前の力は凄まじい。使い方次第では恐怖の対象にもなるだろう。   だがな、私はお前が悪い人間だとは思えないんだ。   その力を間違ったことに使ったりしないと信じているから……怖くなんかないよ」 なぜ数時間前に会ったばかりの相手をここまで信用できるのか藍自身にもわからなかった。 だが、その言葉は藍の偽りのない本心である。紫はその力を恐れても、藍は恐れなかった。 JOKERは藍をじっと見つめた。再び後ずれた少しの沈黙の後、JOKERが口を開く。 俺「初めてだよ、そんなことを言われたのは」 藍「……辛かったんだな」 俺「…………ああ。でも、この世界は今までとは違うようだ」 JOKERにとっては、自分を恐れない者など今まで存在しえなかった。 自分の力を知ってなお怖くないと言う人物は、藍が初めてだった。 だからこの幻想郷での生活は、今までにない楽しいものになる予感がしていた。 俺「ありがとうな。ここに来て、藍と出会えて良かった」 真顔でそんな歯の浮くような台詞を言われたものだから、藍は動揺した。 藍「な、何恥ずかしいことを堂々と言っているんだお前は!」 俺「え?いや、思ったことを口にしただけだが」 藍「だからそれが恥ずかしいというんだ!全く、お前という奴は……」 顔を赤らめながら語気を強める。 しかし、藍は照れながらも、ほんの少しだけ予感がしていた。 この二人旅は、楽しいものになるのではないか、と。 俺「それじゃあ、行こうか」 藍「……ああ、そうだな」 JOKERが歩き出し、藍がそれに続く。 そして、幻想郷のあらゆる所で騒動を巻き起こすことになるのだった。 第一部 完
今にして思えば文章が稚拙すぎて 見ていられないので削除しました

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