326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 20:11:59.76 ID:NUG4wRzK0 [26/43]
  • 筋肉フェチだった尊さん

 高校二年になる私の甥が、私好みだった。
 …いや、ちょっと待って欲しい。画面を閉じないでほしい。私の話を聞いてくれ。

 私は坂上尊、女子大に通う三年生だ。
 私には別府タカシと言う甥がおり、高校二年で演劇部に在学している。
 もちろん、以前まではあいつにそんなよこしまな思いを抱く事は無かった。
 自分で言うのもなんだが、気のいいお姉さんのような、そんな立ち位置だった筈なんだ。

 事件は、一か月前のあいつの家で起こった。
 ふとした事故から、風呂上がりのあいつの上半身を見てしまった瞬間───。

「うわっ!?…あれ、尊ねーさん?」

 一目惚れ、だった。
 前から可愛い顔立ちだなとは思っていたが、なにしろ背が低くひょろっとしているので、
 まかり間違っても私のストライクゾーンに入る事はないだろうと思っていたのだ。

 なんというか、腹筋が割れてた。
 大胸筋や上腕二等筋までもが、押し付けがましくない程度にしっかりつ肉付いていたのだ。

327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 20:12:56.80 ID:NUG4wRzK0 [27/43]
 思わずその胸に頭を埋めてしまいたい衝動に駆られたが、必死に踏み止まった私の理性を私は高く評価したい。
 私はタカシに訝しまれながらも、ひとまず「気のいいお姉さん」を保つ事に成功したのだ。

 惚れたら一直線とは言うが、全くその通りだと思う。
 あいつの腹筋から始まった私の恋心は、会うたびに加速していき、今となってはあいつの身体も心も、私は全て愛しくてたまらなくなってしまっていたのだ。

 病気だな、と自分でも思う。
 しかしあえて言わせてもらおう──無防備なあいつの筋肉が悪いのだ。

 叔母様に聞けば、あいつが筋力をつけ始めたのは最近の事だと言う。
 剣道をやっている私の逞しさ、凛々しさに憧れて、という事だった。
 …私が罪悪感のあまり寝込んでしまったのは、言うまでも無い事だろう。

 しかし、後にこの理由は私の「好き」を更に加速させるスイッチになってしまう。
 あの可愛らしい腹筋が私のために作られたものだなんて、なんというか、その心がいじらしくて可愛すぎる。…そう、私には不相応なほどにな!

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 20:13:32.91 ID:NUG4wRzK0 [28/43]
 さて、そんな彼は今どこにいるかというと、まさかの私の家にてくつろいでいたりするわけである。

 タカシは時々私の部屋を勝手に訪ねてくる。以前なら親密な証拠だと笑い飛ばせたが、今は洒落にならない。
 なにかと理由をつけて部屋に入れないようにしていたのだが、少し前から無理にでも押し入るようになってしまった。
 なんなんだお前は、そんなに私の部屋がいいのか。ああもう可愛いなこのやろう。

「尊ねーさん、ジュース貰っていい?」

 ベッドに腰掛けて本を読んでいたタカシは、そう言って無遠慮に飲み物を要求する。

「…知らん、自分でやれ」
「えー、少し前までOKだったのに」

 ぶつくさと文句を言いながら、冷蔵庫を開けるタカシ。
 夏だからか、その日の服装は薄手のTシャツ。私は理性を保つべく必死に心を落ち着かせていた。

「ええと、ジュースは…」
「…こら、冷蔵庫をあまりジロジロ見るな」

 恥ずかしいだろ。

329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/07/31(日) 20:15:06.87 ID:NUG4wRzK0 [29/43]
 タカシはジュースを片手に、こちらへ何か言いたげな目を向けた。

「尊ねーさん、なんだか最近冷たくない?」

 逞しい上腕を晒しながらタカシは尋ねる。
 仕方ないだろう、甘えたら歯止めが利かなくなりそうなのだから。
 …なんて、言える筈もなく。

「知らん、いつも通りだ。…お前こそ、いい加減に姉離れしたらどうなんだ?」

 一生甘えていて欲しいくせに、そんな台詞が口を出る。

「今の所その予定はないね。もう少しお世話になるよ、ねーさん」

 軽口をたたく調子で、そんな嬉しい事を言ってくれるタカシ。
 私は思わずほっこりとした笑みを浮かべ、そして彼が振り向く前に慌てて消した。

 あの日から、私の中で色々なものが狂ってしまった気がする。
 前の私はもっと自分に素直で、単純で、楽に生きていた。
 今はずっとひねくれて、複雑で、自分の思いをひた隠して過ごしている。
 生きにくいとは思うけど、戻りたいかと聞かれれば、答えはNOだ。

 楽しい事ばかりではないけれど──恋する乙女の世界は、なんだかんだでこんなにも、ぴかぴかに輝いているのだから。
最終更新:2011年08月05日 16:58