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死者たちのネットゲーム - (2013/11/05 (火) 13:17:41) の1つ前との変更点

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今しがた見てきた大聖堂は中々に楽しく、回った価値があったように思う。 月明かりの下に浮かぶ聖堂は不思議と神秘的でただならぬ雰囲気があり、外観を見ているだけ荘厳な観光地を見てきたかのような気分になれた。 まぁ中に入ってみると、バグのせいか傷跡のようなグラフィック異常があり、ここがゲームだということを強調していていささか興ざめだったが、それでも面白い場所ではあったのだ。 そしてそれを堪能し、ユウキは次の場所へと向かっていた。 「さて、と。次はC-7の遺跡だけど、そろそろ見えてくるかな?」 開かれたマップと目の前に広がるフィールドを交互に眺めながらユウキは草原を飛んでいた。 妖精の羽を展開し、空を滑るように飛ぶ。風を切る柔らかな感触が心地よく彼女は笑みを浮かべた。 他の参加者に見つかることを危惧して高度はそこまでなく、感覚としては自転車に乗っているときとそう変わりはしなかった。 最も、そんなありふれたことでさえ、現実の自分には難しくなっていたのだが。 「うーん、位置的にはそろそろの筈なんだけど……」 そうぼやきながら飛んでいた矢先、それは不意にフィールドに浮かび上がってきた。 それは地上からまっすぐ伸びた巨大な塔であった。 根元には青白く光る水晶が乱立しその姿を浮かび上がらせており、逆に入り口付近は黒々とした闇で包まれていた。 そのどれもが、ユウキにとって見覚えのある造形であった。 「これだったかぁ……遺跡っていうよりは迷宮って感じな気もするけど」 ユウキの眼前にそびえ立つそれは紛れもなくかつて訪れたダンジョン――ALO27層迷宮区であった。 かつて《スリーピング・ナイツ》がその名を刻むために、たった七人でボス攻略に挑み、そして勝利した場所。 アスナと出会う切っ掛けにもなったこの迷宮を、ユウキは複雑な心境で見上げた。 「うーんでもここ知ってる場所だしなぁ」 観光目的。物見遊山の心地でいる自分としては、あまり見どころのある場所とは思えない。 いっそスルーしてしまおうかと迷ったが、 (まぁあの時のこと思い出すだけでも楽しいか) そう思い直したユウキは一度中に入ってみることにした。 どの道そろそろ設定された滞空制限に引っかかる筈なので、一度降りなければならない訳だし。 更に考えてみれば、こうして再びALOのダンジョンに足を踏み入れることができるだけで、十分貴重でおかしなことではある。 何故なら自分はもう死んでしまっているのだから。 「……さてと」 ダンジョン入り口の闇へと身を潜らせつつ、ユウキは剣の柄を握りしめた。 この場に先の女剣士のようなPKが潜んでいないとは限らない。それにないとは思うが、かつてと同じくモンスターが配置されている可能性もある。 別にそれほど生には執着していないが、だからといって黙ってやられる気はしなかった。 そう思いある程度の緊張を持って中に入ったユウキであったが、その心配は杞憂に終わった。 中にはモンスターは愚か、人の気配は全くなかった。少なくともこの入り口付近には他のプレイヤーはいないようであり、静かなものだ。 それを確認したユウキはふっと息を吐き、中を進んでいくことにした。テカテカと光る天然の回廊のを足音を立て歩いていく。 そうしていると、意外に新鮮な心地になれることに気付いた。 何度も訪れた場所であるが、それには必ずモンスターとの戦いが付き物であり(RPGなのだから当然だ)こうして完全に景色を楽しむという目的を持ってダンジョンを進むのは初めてかもしれない。 自然界の洞窟を模したダンジョンはひゅうひゅうと風が通り気持ちが良い。気づいていなかっただけでここも結構綺麗な場所であった。 (死んでからその素晴らしさに気付く、なんてちょっとセンチメンタルかな) ユウキはふふっと笑みを浮かべ洞窟を歩いて行った。 そしてしばらく続いた天然の洞窟が終わり、代わりに人工的な石畳に変り始めた頃、 「ん?」 彼女はふと何かを感じ取り、足を止めた。 それが何かは分からなかった。しかし、長年VR世界に身を置き続けた彼女は些細な違和感も拾い取ることができる。 どこから発せられるものか確かめる為、ユウキは目を閉じて耳をすませてみる。 「近くに誰かいる」 はっと目を開きユウキはそう呟いた。 そして慎重に足を進めながら、音がした方向へと近づいていく。 石造りの壁から、そっと顔を出してみると、そこには一人の女性が居た。 青い髪をした、眼鏡の女性であった。 アバターの外見設定はユウキより少し上だろうか。断言できないのは彼女のアバターがユウキのようなリアル等身でなく、所謂SD(スーパーデフォルメ)サイズのものだったからだ。 その少女はダンジョンの壁に立ち、何かをしている。指元の動きを見るにウィンドウを操作しているようであった。 彼女はその作業に集中しているようでユウキの気配に気づく様子はない。 (そうだなぁ……) 少し悩んだ末、ユウキは青髪の少女に声を掛けてみた。背中越しに「こんにちは」などと挨拶してみる。 「え? あ、うわわっ!」 すると彼女は肩をびくりと震わせ、驚きのあまりか前のめりに転倒してしまっていた。 どーん、と鈍い音がダンジョン内に響き渡る。 「あのー大丈夫?」 どうやら驚かせてしまったようだ。ユウキは苦笑を浮かべながら、少女に手を差し伸べた。 対する少女もまた、口元を曖昧に釣り上げていた。 @ 「へえ……なるほど野球ゲームかぁ。デンノーズ、ね」 聞き出した話を咀嚼して、ユウキは不敵な笑みを浮かべ言った。 カオル、というらしい彼女がこれまでどんなゲームに身を置いて来たのか。そしてどんな人たちと共に居たのか。 そのことに関する好奇心は尽きず、互いに敵意がないことを確信した後、彼女はゆっくりと語り合ったのだった。 「はい……でも、私はチームの一員という訳じゃなかったんですけどね。ただ応援してただけですだから」 「いやそれも立派なチーム活動だよ。だってさ、要は野球部のマネージャーって奴でしょ?」 「そんな……私は大したことはしていませんよ。寧ろ迷惑さえかけてましたから」 そう語る彼女の顔にうら寂しい色が浮かんでいた。 まるで遠い過去のことを思い起こしているような、淡い切なさを感じさせる微笑みを彼女はふっと浮かべた。 どんな事情があったのか知らない。けれど、それは既に彼女の中では決着が付いた話なのだろう。 「それよりもユウキさん。貴方、ツナミを知らないんですか?」 「ツナミ……うーん、そんな企業は知らないなぁ」 頭を捻るユウキにカオルは目を丸くする。彼女が言うには「ツナミ」という超巨大企業があり、そのネットのアバターを伴ってこの場に呼ばれているのだとか。 だがしかしユウキはそんな企業は聞いたことがなかったし、その前身だという「オオガミ」や「ジャジメント」という名も覚えがなかった。 そう告げるとカオルはますます訝しげな顔を見せ、 「これはちょっと考える必要がありますね」 「そんなに大きなことなのかな? ねぇところでカオルはここで何をしていたの?  隠れたって感じじゃなかったけど」 「え? ああ、私はこの空間のデータの解析をしていたんです」 聞くにカオルは工学的な方面に造詣が深いらしく、この場から脱出するためのデータを集めていたのだとか。 その為に、初期配置から最も近い施設であるところのこの遺跡を訪れ、アバター及びエリアデータの解析を進めていたのだという。 「凄いじゃん! それができればここから脱出できるってこと?」 「ええ上手くいけば、ですが。でもまだデータが不足していて解析には時間が掛かりそうですね」 「うーん……そうかぁ」 ユウキは考えた。一瞬だけ思考を回転させた後、快活な笑みを浮かべカオルに告げた。 「じゃあさ。ボクと一緒に来ようよ」 「え?」 「カオルは解析したい場所にボクが連れていってあげるからさ。歩くより飛んだ方がずっと速いよ。  それに危ない奴が居ても大丈夫――ボクが守ってあげるから!」 そう言ってユウキはカオルの手を取った。 困惑する表情を浮かべるカオルに対し、朗らかな笑みを浮かべる。 「いいでしょ?」 「え、あ、はい。それはとても助かります。遺跡の解析もあと少しですし……」 「じゃあ決まりだね。それが終わったら一緒に外に行こう!  次はどこに行くつもりだったの?」 「そうですね。そんなに考えていた訳じゃないですけど……」 カオルは曖昧に言葉尻を濁らせた後、石で出来た天井を仰ぎ「野球場に行ってみたいです」と答えた。 「分かった野球場だね。じゃあアメリカエリアか。ここからならひとっ飛び……はちょっと難しいか。  まぁでもそんなに時間はかからないと思うよ。ボクが抱えていってあげる」 「あの……お気持ちは大変嬉しいんですが、その、大丈夫ですか?」 うんうんと頷くユウキに対し、カオルは不安げに尋ねた。 「さっきはちょっとボカしちゃいましたけど……私は死んでるんです」 「え?」 「信じられないかもしれません。けど、本当なんです。現実の私は居なくて、ここに居るのはただのデータの残滓なんです。  ――もう完全に人じゃなくなっちゃったんです、私」 カオルはユウキを見て、か細い声でそう言った。 対するユウキはカオルをまっすぐに見据えた。眼鏡越しに揺れ動く瞳の向こうに自分の顔が見える。 迷宮の奥に訪れた不思議な静寂の下、二人の視線が絡み合った。 「なあんだ。やっぱりそうか」 その沈黙を破るように、ユウキはニッと口元を釣り上げ、よく通る声でカオルに告げた。 「何となくそんな気がしてたんだ。同じだよ――カオルとボクは」 「え?」 「ボクも死んでるってこと。やっぱりボク一人じゃなかったかぁ」 困ったように目をぱちくりとさせるカオルを尻目に、ユウキは一人納得したように頷いた。 死者だってネットゲームくらいする。そういうこともあるのかもしれない。 @ 数十分後、データ解析が終わり、ユウキとカオルは揃って迷宮を出た。 ユウキはその手にカオルを抱き、羽を広げ東へと飛び去った。 二人の死者が目指すはアメリカエリア、野球場。 【C-7/上空/一日目・早朝】 ※遺跡は27層迷宮区@ALOでした。 【ユウキ@ソードアート・オンライン】 [ステータス]:HP90% [装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン [アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2個 [思考・状況] 基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。 1:次はアメリカエリアの野球場に行こう。カオルも一緒にね。 2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。 3:また会えるのなら、アスナに会いたい。 4:黒いバグ(?)を警戒。 [備考] ※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。 【カオル@パワプロクンポケット】 [ステータス]:HP100% [装備]:なし [アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3 [思考] 基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。 1:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。 2:デンノーズのみなさんに会いたい。 3:ユウキさんと一緒に行動。 [備考] ※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。 ※C-7遺跡のエリアデータを解析しました。 |048:[[夜明けの生徒会]]|投下順に読む|050:[[ヒロイックピンク インフィニティ]]| |048:[[夜明けの生徒会]]|時系列順に読む|050:[[ヒロイックピンク インフィニティ]]| |036:[[Sword Maiden]]|ユウキ|0:[[]]| |027:[[し あ わ せ]]|カオル|0:[[]]|
今しがた見てきた大聖堂は中々に楽しく、回った価値があったように思う。 月明かりの下に浮かぶ聖堂は不思議と神秘的でただならぬ雰囲気があり、外観を見ているだけ荘厳な観光地を見てきたかのような気分になれた。 まぁ中に入ってみると、バグのせいか傷跡のようなグラフィック異常があり、ここがゲームだということを強調していていささか興ざめだったが、それでも面白い場所ではあったのだ。 そしてそれを堪能し、ユウキは次の場所へと向かっていた。 「さて、と。次はC-7の遺跡だけど、そろそろ見えてくるかな?」 開かれたマップと目の前に広がるフィールドを交互に眺めながらユウキは草原を飛んでいた。 妖精の羽を展開し、空を滑るように飛ぶ。風を切る柔らかな感触が心地よく彼女は笑みを浮かべた。 他の参加者に見つかることを危惧して高度はそこまでなく、感覚としては自転車に乗っているときとそう変わりはしなかった。 最も、そんなありふれたことでさえ、現実の自分には難しくなっていたのだが。 「うーん、位置的にはそろそろの筈なんだけど……」 そうぼやきながら飛んでいた矢先、それは不意にフィールドに浮かび上がってきた。 それは地上からまっすぐ伸びた巨大な塔であった。 根元には青白く光る水晶が乱立しその姿を浮かび上がらせており、逆に入り口付近は黒々とした闇で包まれていた。 そのどれもが、ユウキにとって見覚えのある造形であった。 「これだったかぁ……遺跡っていうよりは迷宮って感じな気もするけど」 ユウキの眼前にそびえ立つそれは紛れもなくかつて訪れたダンジョン――ALO27層迷宮区であった。 かつて《スリーピング・ナイツ》がその名を刻むために、たった七人でボス攻略に挑み、そして勝利した場所。 アスナと出会う切っ掛けにもなったこの迷宮を、ユウキは複雑な心境で見上げた。 「うーんでもここ知ってる場所だしなぁ」 観光目的。物見遊山の心地でいる自分としては、あまり見どころのある場所とは思えない。 いっそスルーしてしまおうかと迷ったが、 (まぁあの時のこと思い出すだけでも楽しいか) そう思い直したユウキは一度中に入ってみることにした。 どの道そろそろ設定された滞空制限に引っかかる筈なので、一度降りなければならない訳だし。 更に考えてみれば、こうして再びALOのダンジョンに足を踏み入れることができるだけで、十分貴重でおかしなことではある。 何故なら自分はもう死んでしまっているのだから。 「……さてと」 ダンジョン入り口の闇へと身を潜らせつつ、ユウキは剣の柄を握りしめた。 この場に先の女剣士のようなPKが潜んでいないとは限らない。それにないとは思うが、かつてと同じくモンスターが配置されている可能性もある。 別にそれほど生には執着していないが、だからといって黙ってやられる気はしなかった。 そう思いある程度の緊張を持って中に入ったユウキであったが、その心配は杞憂に終わった。 中にはモンスターは愚か、人の気配は全くなかった。少なくともこの入り口付近には他のプレイヤーはいないようであり、静かなものだ。 それを確認したユウキはふっと息を吐き、中を進んでいくことにした。テカテカと光る天然の回廊のを足音を立て歩いていく。 そうしていると、意外に新鮮な心地になれることに気付いた。 何度も訪れた場所であるが、それには必ずモンスターとの戦いが付き物であり(RPGなのだから当然だ)こうして完全に景色を楽しむという目的を持ってダンジョンを進むのは初めてかもしれない。 自然界の洞窟を模したダンジョンはひゅうひゅうと風が通り気持ちが良い。気づいていなかっただけでここも結構綺麗な場所であった。 (死んでからその素晴らしさに気付く、なんてちょっとセンチメンタルかな) ユウキはふふっと笑みを浮かべ洞窟を歩いて行った。 そしてしばらく続いた天然の洞窟が終わり、代わりに人工的な石畳に変り始めた頃、 「ん?」 彼女はふと何かを感じ取り、足を止めた。 それが何かは分からなかった。しかし、長年VR世界に身を置き続けた彼女は些細な違和感も拾い取ることができる。 どこから発せられるものか確かめる為、ユウキは目を閉じて耳をすませてみる。 「近くに誰かいる」 はっと目を開きユウキはそう呟いた。 そして慎重に足を進めながら、音がした方向へと近づいていく。 石造りの壁から、そっと顔を出してみると、そこには一人の女性が居た。 青い髪をした、眼鏡の女性であった。 アバターの外見設定はユウキより少し上だろうか。断言できないのは彼女のアバターがユウキのようなリアル等身でなく、所謂SD(スーパーデフォルメ)サイズのものだったからだ。 その少女はダンジョンの壁に立ち、何かをしている。指元の動きを見るにウィンドウを操作しているようであった。 彼女はその作業に集中しているようでユウキの気配に気づく様子はない。 (そうだなぁ……) 少し悩んだ末、ユウキは青髪の少女に声を掛けてみた。背中越しに「こんにちは」などと挨拶してみる。 「え? あ、うわわっ!」 すると彼女は肩をびくりと震わせ、驚きのあまりか前のめりに転倒してしまっていた。 どーん、と鈍い音がダンジョン内に響き渡る。 「あのー大丈夫?」 どうやら驚かせてしまったようだ。ユウキは苦笑を浮かべながら、少女に手を差し伸べた。 対する少女もまた、口元を曖昧に釣り上げていた。 @ 「へえ……なるほど野球ゲームかぁ。デンノーズ、ね」 聞き出した話を咀嚼して、ユウキは不敵な笑みを浮かべ言った。 カオル、というらしい彼女がこれまでどんなゲームに身を置いて来たのか。そしてどんな人たちと共に居たのか。 そのことに関する好奇心は尽きず、互いに敵意がないことを確信した後、彼女はゆっくりと語り合ったのだった。 「はい……でも、私はチームの一員という訳じゃなかったんですけどね。ただ応援してただけですだから」 「いやそれも立派なチーム活動だよ。だってさ、要は野球部のマネージャーって奴でしょ?」 「そんな……私は大したことはしていませんよ。寧ろ迷惑さえかけてましたから」 そう語る彼女の顔にうら寂しい色が浮かんでいた。 まるで遠い過去のことを思い起こしているような、淡い切なさを感じさせる微笑みを彼女はふっと浮かべた。 どんな事情があったのか知らない。けれど、それは既に彼女の中では決着が付いた話なのだろう。 「それよりもユウキさん。貴方、ツナミを知らないんですか?」 「ツナミ……うーん、そんな企業は知らないなぁ」 頭を捻るユウキにカオルは目を丸くする。彼女が言うには「ツナミ」という超巨大企業があり、そのネットのアバターを伴ってこの場に呼ばれているのだとか。 だがしかしユウキはそんな企業は聞いたことがなかったし、その前身だという「オオガミ」や「ジャジメント」という名も覚えがなかった。 そう告げるとカオルはますます訝しげな顔を見せ、 「これはちょっと考える必要がありますね」 「そんなに大きなことなのかな? ねぇところでカオルはここで何をしていたの?  隠れたって感じじゃなかったけど」 「え? ああ、私はこの空間のデータの解析をしていたんです」 聞くにカオルは工学的な方面に造詣が深いらしく、この場から脱出するためのデータを集めていたのだとか。 その為に、初期配置から最も近い施設であるところのこの遺跡を訪れ、アバター及びエリアデータの解析を進めていたのだという。 「凄いじゃん! それができればここから脱出できるってこと?」 「ええ上手くいけば、ですが。でもまだデータが不足していて解析には時間が掛かりそうですね」 「うーん……そうかぁ」 ユウキは考えた。一瞬だけ思考を回転させた後、快活な笑みを浮かべカオルに告げた。 「じゃあさ。ボクと一緒に来ようよ」 「え?」 「カオルは解析したい場所にボクが連れていってあげるからさ。歩くより飛んだ方がずっと速いよ。  それに危ない奴が居ても大丈夫――ボクが守ってあげるから!」 そう言ってユウキはカオルの手を取った。 困惑する表情を浮かべるカオルに対し、朗らかな笑みを浮かべる。 「いいでしょ?」 「え、あ、はい。それはとても助かります。遺跡の解析もあと少しですし……」 「じゃあ決まりだね。それが終わったら一緒に外に行こう!  次はどこに行くつもりだったの?」 「そうですね。そんなに考えていた訳じゃないですけど……」 カオルは曖昧に言葉尻を濁らせた後、石で出来た天井を仰ぎ「野球場に行ってみたいです」と答えた。 「分かった野球場だね。じゃあアメリカエリアか。ここからならひとっ飛び……はちょっと難しいか。  まぁでもそんなに時間はかからないと思うよ。ボクが抱えていってあげる」 「あの……お気持ちは大変嬉しいんですが、その、大丈夫ですか?」 うんうんと頷くユウキに対し、カオルは不安げに尋ねた。 「さっきはちょっとボカしちゃいましたけど……私は死んでるんです」 「え?」 「信じられないかもしれません。けど、本当なんです。現実の私は居なくて、ここに居るのはただのデータの残滓なんです。  ――もう完全に人じゃなくなっちゃったんです、私」 カオルはユウキを見て、か細い声でそう言った。 対するユウキはカオルをまっすぐに見据えた。眼鏡越しに揺れ動く瞳の向こうに自分の顔が見える。 迷宮の奥に訪れた不思議な静寂の下、二人の視線が絡み合った。 「なあんだ。やっぱりそうか」 その沈黙を破るように、ユウキはニッと口元を釣り上げ、よく通る声でカオルに告げた。 「何となくそんな気がしてたんだ。同じだよ――カオルとボクは」 「え?」 「ボクも死んでるってこと。やっぱりボク一人じゃなかったかぁ」 困ったように目をぱちくりとさせるカオルを尻目に、ユウキは一人納得したように頷いた。 死者だってネットゲームくらいする。そういうこともあるのかもしれない。 @ 数十分後、データ解析が終わり、ユウキとカオルは揃って迷宮を出た。 ユウキはその手にカオルを抱き、羽を広げ東へと飛び去った。 二人の死者が目指すはアメリカエリア、野球場。 【C-7/上空/一日目・早朝】 ※遺跡は27層迷宮区@ALOでした。 【ユウキ@ソードアート・オンライン】 [ステータス]:HP90% [装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン [アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2個 [思考・状況] 基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。 1:次はアメリカエリアの野球場に行こう。カオルも一緒にね。 2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。 3:また会えるのなら、アスナに会いたい。 4:黒いバグ(?)を警戒。 [備考] ※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。 【カオル@パワプロクンポケット】 [ステータス]:HP100% [装備]:なし [アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3 [思考] 基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。 1:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。 2:デンノーズのみなさんに会いたい。 3:ユウキさんと一緒に行動。 [備考] ※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。 ※C-7遺跡のエリアデータを解析しました。 |048:[[夜明けの生徒会]]|投下順に読む|050:[[ヒロイックピンク インフィニティ]]| |048:[[夜明けの生徒会]]|時系列順に読む|050:[[ヒロイックピンク インフィニティ]]| |036:[[Sword Maiden]]|ユウキ|062:[[死地へ]]| |027:[[し あ わ せ]]|カオル|062:[[死地へ]]|

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