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『死の恐怖』は知っていますか? - (2013/11/01 (金) 02:07:04) の1つ前との変更点

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「こんなん見たってな……」 ハセヲは提示されたアイテム一覧をスクロールしながら眺めていた。空に浮かぶウィンドウに指を走らせることで画面もスライドしていく。 レオに言われた通り、ショップにやってきたはいいが一文無しの身ではこれ以上何もすることができない。 表示されたアイテム名も知らないものばかりである。少なくともThe World出典のものは見当らなかった。一応効果説明で内容を確認することもできるので、レオに報告する為に幾つかメモしておく。 内訳のほとんどは武器か回復アイテムであり、ランダムアイテムと特に変わりはなかった。 武器装備制限を解除できるようなものもあったが、今のところ特に必要とは思えない。まぁ買おうにもポイントとやらがないのだが。 値段の傾向としては回復アイテムは総じて高く、逆に武器は安価に設定してあるように思えた。これもバトルロワイアルを加速させるための策だろう。 また目を引くのは【参加者名簿】だろうか。これだけは入手しておいた方がいいかもしれない。 あとで報告してくべきだろう。既に自分は揺光と志乃がこの場にいることを知っているが、他の知り合いが居ないとも限らない。 と、一先ず賞品の調査を終えたハセヲはその場を後にすることにした。時間にそう余裕はない。 ヒグレヤ、という看板が掛かったショップから出ると、ハセヲは駆け出した。 立ち並ぶどこか近未来的な日本家屋を横目に南へと向かう。 移動短縮手段が何もない以上走っていくしかない。アリーナのゲートを使うというのも考えたが、それよりも道中での情報収集を優先したかった。 PCのままということもあり、長時間走ることに対する肉体的な疲れは少なかった。 だがそれ故に退屈に近いものを感じ、ハセヲは歯噛みした。早く他のエリアに辿り着かねばならないというのに。 「……落ち着け」 自分自身に対し、ハセヲはそう語り掛けた。 ただ闇雲に急ぐばかりじゃ駄目だ。そのことを、彼は既に学んでいる。 時間があるのなら、また別のことに目を向けるべきだろう。例えばシステム的な面だ。The Worldとは違ったシステムが動くこの場では、先のレオがやってみせた画像の外部出力のように自分の把握していない機能がある。 それが盲点となって足元をすくわれかねない。今の内に把握しておくべきだろう。 ハセヲは走りながらも、メニューウィンドウを開き【設定】の項目をざっと確認してみた。 色々と開いていると、途中【使用アバターの変更】という項目に行き着いた。 そこでは【ハセヲ/1stフォーム】【ハセヲ/2ndフォーム】【ハセヲ/3rdフォーム】という表示されている。 現在の設定は言うまでもなく3rdフォームになっている。任意変更可であるらしく、ハセヲは試しに【ハセヲ/1stフォーム】に切り替えてみる。 「っと、なるほどな……」 すると3rdフォームの黒く刺々しい鎧は消え去り、代わりに肌の露出の多い1stフォームが現れた。ベルト状の装飾具がガチャガチャと腕に絡まる。 ログインしたばかり、まだ旅団に居た頃の姿だ。あるいは蒼炎のPCに初期化された直後か。 確認すると装備画面から[大剣]と[鎌]の項目が消えていた。ご丁寧にもその当時の性能を再現しているらしい。これは2ndフォームでも同様だった。 (こんな機能もあるのか……まぁ俺には意味はないけどな) 現状ただ武器の選択肢が減るだけで、1stフォームや2ndフォームを使う意味は全くない。 恐らく八咫のように複数アカウントを持っているのならば意味がある機能なのだろうと当たりを付ける。 そうしてこの項目の確認を終えようとしたのだが、 「ん、まだあるのか?」 そこでハセヲは【使用アバターの選択】にまだ選択肢があることに気付いた。 初期に表示された【ハセヲ】の選択肢の「上」にまだ何かあったのだ。スクロールさせると、そこには 【楚良】 そうあった。 「何だこれ……?」 見たことのないPC名だった。この欄にあるということは自分が使ったことがあるということなのだろうが、身に覚えがない。少なくともThe Worldでは使ったことはない筈だ。 何か他のゲームで自分が使ったのを忘れただけだろうか。 (楚良……ソラって読むのかこれ? 多分これ曾良のことだよな) 河合曾良という松尾芭蕉の弟子が居たことを思い出す。 彼自身、松尾芭蕉は好きだった。【ハセヲ】というこのPC名も元は芭蕉の名から取ったものだ。 そういう意味では自分が付けそうな名ではあるのだが、しかし全く思い出せなかった。 不思議に思いつつも【楚良】を選択してみると、<This avatar is protected>と表示され何も起こらなかった。 変に思ったハセヲが色々と弄ってみるも、何も変わりはしない。 (榊の仕掛けか? だとしても俺じゃどうしようもねえが……) あとでレオに報告すべきかもしれない。そう考え、彼は一先ず項目を閉じた。 しかし自分の身体に、素性のしれない名が重なっていると思うと、何だか気味が悪く思えた。 と、そうこうしている内に日本エリアの端まで付いたことに気が付いた。 日本系の家屋が途切れ、向こう側には風そよぐ草原が広がっている。 エリアの境目はすぐそこだ。さっさとエリアの外に出ようとした彼であったが、 その前に、一通のメールが彼の下に届いた。 アイテム欄が強制的に開かれ、着信を告げるメッセージが表示されている。ハセヲは足を止め、そのメッセージにしばし注視した。 既に榊の悪意の混じったメールを貰った身であるハセヲは、それを見た瞬間思わず顔を顰めた。 碌でもないことが書かれていることは見るまでもなく明らかであった。しかし無視する訳にもいかず、悪態を吐きながらメニューから着信したメールを開いた。 案の定そこには見たくもないことが書かれていた。 GMからのメールを模した悪趣味な文体で脱落者や幾つかのルールの追加が書かれており、一つ一つが彼を不愉快にさせる。 中でも12人の脱落者が出たことに、ハセヲは何も言うことが出来なかった。彼はこれまでまだ危険なPKと遭遇していない。 レオたちと思いのほか円滑に交渉できたことでどこか気が緩んでいたが、こうして数字を見せつけられるとこの状況の危険さが分かってくる。 自分がかつて失ったものを想起し、彼は拳を力強く握りしめた。 そして見たくないと思ってはいても脱落者のリストだけは何度も読み直し、自分の探す者がないことを確認すると少しだけ息を吐いた。 「しかしバルムンク、か」 心当たりがあるのはその名前だけだった。あの謎の羽男の名前がそれだった筈だ。 かつてはハセヲが三爪痕と誤認した蒼炎のPK、そしてその同系列と思しき不気味なPCたち。未だ正体不明の彼等もこの場に居るのだろうか。 最も同名のPCであるだけ可能性は十分にあるが。何か元ネタがあった筈だし、別のゲームでそんな名前のPCが居たとしてもおかしくはない。 自分の知る名はそれだけだ。あとはどれも見たことがない。 かといってそれがPC名である以上、知り合いでないという保証はどこにもないのだ。 事実ハセヲは知らない。リストにあった【ワイズマン】の名が、彼の知る誰であるかを。 自分が知らないからといって、本当に関わりがないとは言えない。 @ ハセヲが立ち止まっていた時間はそう長くはない。 思う所はあったが、それでも歩むことを止める訳にはいかない。そのことを彼自身知っていた。 身を苛む焦燥を抑えつつ、彼は迷うことなく駆け出した。 (マク・アヌ……見えてきた) ファンタジーエリアにハセヲは遠くに見慣れた煉瓦造りの街を見て、奇妙な心地になった。 見慣れているが故に、草原と地続きという妙な構造に違和を覚えるのだろう。この感覚はしばらく付いて回りそうだ。 だが街に入ればより迅速に動けるだろう。危険者との接触も有り得る中で、集中して動かなくては。 そうして街へ向かっていたハセヲだが、ふとそこである音を聞く。 ハ長調ラ音。 ぽーん、という音が場に響いた。 その音は彼にしてみれば非常に馴染み深く、そして危険な音である。 憑神、蒼炎のPC、AIDA……The Worldで発生するイリーガルな現象の前触れとして、必ずその音が流れるのだ。 何故かは知らない。だが、その音を間近で聞いたハセヲは半ば反射的に目を見開き音へと振り返る。 「な……!」 そこで彼が見たものは、彼が良く知り、しかし知っているからこそあり得ない筈の存在だった。 「スケィス……だと?」 草原を駆ける巨大な存在にハセヲは愕然とした。 ぬっぺりと白い彫刻のような外観のそれは、細部こそ違えどハセヲの憑神である筈の『第一相・死の恐怖:スケィス』だった。 しかし勿論今の自分は憑神を発動などしていない。発動したとしてもこうして対峙することなどあり得ないというのに。 草原を駆ける白いスケィスは、ハセヲの存在に気付くとぴたりと動きを止め、ゆっくりと首だけをハセヲに向けた。 その姿にモンスター特有の生気のない無機質さと同時に底知れない不気味さがあった。 (……榊がスケィスに似たモンスターを作って参加者をPKさせてるのか? とにかく人間が動かしてるアバターじゃないな) 佇む白いスケィスから視線を逸らすことなく、ハセヲは後ろ手で双剣を取り出した。 光式・忍冬を構え戦闘に備える。この白いスケィスが本物かどうかは分からないが、友好的な交流ができるとも思えなかった。 一瞬の静寂を経て、ハセヲは雄叫びを上げ白いスケィスに切りかかった。 対する白いスケィスは薄く光る赤いケルト十字を使い、その剣戟を受けていく。一撃二撃三撃、と攻撃を繰り返し、一通り双剣コンボが終了すると、ハセヲは一歩退き次なる展開に備えた。 攻撃に手ごたえはなかった。初撃なので何ともいえないが、やはりこの白いスケィスも他の憑神と同じ――こちらもスケィスとなって戦うべきだろうか。 白いスケィスは物言わず空中に佇んでいる。 ハセヲはそれを見上げながら、ふと妙な既視感に囚われた。 こうしてこの白いスケィスと対峙することは初めてでないような、そんな感覚が立ち現れた。 ハセヲとしてログインするずっと前、何時だったかこのスケィスに立ち向かい、そして―― (何だこれ……?) 断片の記憶が彼を苛み、掴もうとするとふっと消えてしまう。 ハセヲはこの奇妙な事態を呑み込めずにいた。 それを尻目に、白いスケィスは既に動き出していた。 身を翻し、まっすぐと草原を駆ける。ハセヲには一瞥もくれず。 「な……」 その姿に、ハセヲは再び声を失った。 無視された。戦っていた自分を放置し、どこかへ向かっていったのだ。 まるでより優先すべきものがあるかのように。 その事実にハセヲは困惑するしかなかった。 あの白いスケィスはただの似たモンスターでなく、明確な目的を持って動いている。 ではそれは何だ。自分でないもう一体の白いスケィスは、一体何をしようとしているのだ。 ハセヲは己の身体を見た。3Dポリゴンで描かれたこの身体には様々なものが宿っている。 碑文、楚良、スケィス……それらが実際何なのか、自分は実の所何も知らないのではないか。 そう思うと、心の底にひりつくような不安感が引っかかった。 [C-2/ファンタジーエリア・草原/1日目・朝] 【ハセヲ@.hack//G.U.】 [ステータス]:健康/3rdフォーム [装備]:光式・忍冬@.hack//G.U. [アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式 [思考] 基本:バトルロワイアルには乗らない 1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す 2:レオたちと協力する。生徒会についてはノーコメント 3:マク・アヌに向かう。 4:あの白いスケィスは…… [備考] ※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前 ※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、  現在プロテクトされており選択することができません。 【スケィス@.hack//】 [ステータス]:ダメージ(微) [装備]:ケルト十字の杖@.hack// [アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式 [思考] 基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。 1:アウラ(セグメント)のデータの破壊 2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊 3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊 4:自分の目的を邪魔する者は排除 ※プロテクトブレイクは回復しました。 ※どこに向かっているかは不明。 |053:[[now reading]]|投下順に読む|055:[[能美とライダー]]| |053:[[now reading]]|時系列順に読む|055:[[能美とライダー]]| |048:[[夜明けの生徒会]]|ハセヲ|061:[[Spiral/stairs to the emperor]]| |024:[[逃げるげるげる!]]|スケィス|061:[[Spiral/stairs to the emperor]]|
「こんなん見たってな……」 ハセヲは提示されたアイテム一覧をスクロールしながら眺めていた。空に浮かぶウィンドウに指を走らせることで画面もスライドしていく。 レオに言われた通り、ショップにやってきたはいいが一文無しの身ではこれ以上何もすることができない。 表示されたアイテム名も知らないものばかりである。少なくともThe World出典のものは見当らなかった。一応効果説明で内容を確認することもできるので、レオに報告する為に幾つかメモしておく。 内訳のほとんどは武器か回復アイテムであり、ランダムアイテムと特に変わりはなかった。 武器装備制限を解除できるようなものもあったが、今のところ特に必要とは思えない。まぁ買おうにもポイントとやらがないのだが。 値段の傾向としては回復アイテムは総じて高く、逆に武器は安価に設定してあるように思えた。これもバトルロワイアルを加速させるための策だろう。 また目を引くのは【[[参加者名簿]]】だろうか。これだけは入手しておいた方がいいかもしれない。 あとで報告してくべきだろう。既に自分は揺光と志乃がこの場にいることを知っているが、他の知り合いが居ないとも限らない。 と、一先ず賞品の調査を終えたハセヲはその場を後にすることにした。時間にそう余裕はない。 ヒグレヤ、という看板が掛かったショップから出ると、ハセヲは駆け出した。 立ち並ぶどこか近未来的な日本家屋を横目に南へと向かう。 移動短縮手段が何もない以上走っていくしかない。アリーナのゲートを使うというのも考えたが、それよりも道中での情報収集を優先したかった。 PCのままということもあり、長時間走ることに対する肉体的な疲れは少なかった。 だがそれ故に退屈に近いものを感じ、ハセヲは歯噛みした。早く他のエリアに辿り着かねばならないというのに。 「……落ち着け」 自分自身に対し、ハセヲはそう語り掛けた。 ただ闇雲に急ぐばかりじゃ駄目だ。そのことを、彼は既に学んでいる。 時間があるのなら、また別のことに目を向けるべきだろう。例えばシステム的な面だ。The Worldとは違ったシステムが動くこの場では、先のレオがやってみせた画像の外部出力のように自分の把握していない機能がある。 それが盲点となって足元をすくわれかねない。今の内に把握しておくべきだろう。 ハセヲは走りながらも、メニューウィンドウを開き【設定】の項目をざっと確認してみた。 色々と開いていると、途中【使用アバターの変更】という項目に行き着いた。 そこでは【ハセヲ/1stフォーム】【ハセヲ/2ndフォーム】【ハセヲ/3rdフォーム】という表示されている。 現在の設定は言うまでもなく3rdフォームになっている。任意変更可であるらしく、ハセヲは試しに【ハセヲ/1stフォーム】に切り替えてみる。 「っと、なるほどな……」 すると3rdフォームの黒く刺々しい鎧は消え去り、代わりに肌の露出の多い1stフォームが現れた。ベルト状の装飾具がガチャガチャと腕に絡まる。 ログインしたばかり、まだ旅団に居た頃の姿だ。あるいは蒼炎のPCに初期化された直後か。 確認すると装備画面から[大剣]と[鎌]の項目が消えていた。ご丁寧にもその当時の性能を再現しているらしい。これは2ndフォームでも同様だった。 (こんな機能もあるのか……まぁ俺には意味はないけどな) 現状ただ武器の選択肢が減るだけで、1stフォームや2ndフォームを使う意味は全くない。 恐らく八咫のように複数アカウントを持っているのならば意味がある機能なのだろうと当たりを付ける。 そうしてこの項目の確認を終えようとしたのだが、 「ん、まだあるのか?」 そこでハセヲは【使用アバターの選択】にまだ選択肢があることに気付いた。 初期に表示された【ハセヲ】の選択肢の「上」にまだ何かあったのだ。スクロールさせると、そこには 【楚良】 そうあった。 「何だこれ……?」 見たことのないPC名だった。この欄にあるということは自分が使ったことがあるということなのだろうが、身に覚えがない。少なくともThe Worldでは使ったことはない筈だ。 何か他のゲームで自分が使ったのを忘れただけだろうか。 (楚良……ソラって読むのかこれ? 多分これ曾良のことだよな) 河合曾良という松尾芭蕉の弟子が居たことを思い出す。 彼自身、松尾芭蕉は好きだった。【ハセヲ】というこのPC名も元は芭蕉の名から取ったものだ。 そういう意味では自分が付けそうな名ではあるのだが、しかし全く思い出せなかった。 不思議に思いつつも【楚良】を選択してみると、<This avatar is protected>と表示され何も起こらなかった。 変に思ったハセヲが色々と弄ってみるも、何も変わりはしない。 (榊の仕掛けか? だとしても俺じゃどうしようもねえが……) あとでレオに報告すべきかもしれない。そう考え、彼は一先ず項目を閉じた。 しかし自分の身体に、素性のしれない名が重なっていると思うと、何だか気味が悪く思えた。 と、そうこうしている内に日本エリアの端まで付いたことに気が付いた。 日本系の家屋が途切れ、向こう側には風そよぐ草原が広がっている。 エリアの境目はすぐそこだ。さっさとエリアの外に出ようとした彼であったが、 その前に、一通のメールが彼の下に届いた。 アイテム欄が強制的に開かれ、着信を告げるメッセージが表示されている。ハセヲは足を止め、そのメッセージにしばし注視した。 既に榊の悪意の混じったメールを貰った身であるハセヲは、それを見た瞬間思わず顔を顰めた。 碌でもないことが書かれていることは見るまでもなく明らかであった。しかし無視する訳にもいかず、悪態を吐きながらメニューから着信したメールを開いた。 案の定そこには見たくもないことが書かれていた。 GMからのメールを模した悪趣味な文体で脱落者や幾つかの[[ルール]]の追加が書かれており、一つ一つが彼を不愉快にさせる。 中でも12人の脱落者が出たことに、ハセヲは何も言うことが出来なかった。彼はこれまでまだ危険なPKと遭遇していない。 レオたちと思いのほか円滑に交渉できたことでどこか気が緩んでいたが、こうして数字を見せつけられるとこの状況の危険さが分かってくる。 自分がかつて失ったものを想起し、彼は拳を力強く握りしめた。 そして見たくないと思ってはいても脱落者のリストだけは何度も読み直し、自分の探す者がないことを確認すると少しだけ息を吐いた。 「しかしバルムンク、か」 心当たりがあるのはその名前だけだった。あの謎の羽男の名前がそれだった筈だ。 かつてはハセヲが三爪痕と誤認した蒼炎のPK、そしてその同系列と思しき不気味なPCたち。未だ正体不明の彼等もこの場に居るのだろうか。 最も同名のPCであるだけ可能性は十分にあるが。何か元ネタがあった筈だし、別のゲームでそんな名前のPCが居たとしてもおかしくはない。 自分の知る名はそれだけだ。あとはどれも見たことがない。 かといってそれがPC名である以上、知り合いでないという保証はどこにもないのだ。 事実ハセヲは知らない。リストにあった【ワイズマン】の名が、彼の知る誰であるかを。 自分が知らないからといって、本当に関わりがないとは言えない。 @ ハセヲが立ち止まっていた時間はそう長くはない。 思う所はあったが、それでも歩むことを止める訳にはいかない。そのことを彼自身知っていた。 身を苛む焦燥を抑えつつ、彼は迷うことなく駆け出した。 (マク・アヌ……見えてきた) ファンタジーエリアにハセヲは遠くに見慣れた煉瓦造りの街を見て、奇妙な心地になった。 見慣れているが故に、草原と地続きという妙な構造に違和を覚えるのだろう。この感覚はしばらく付いて回りそうだ。 だが街に入ればより迅速に動けるだろう。危険者との接触も有り得る中で、集中して動かなくては。 そうして街へ向かっていたハセヲだが、ふとそこである音を聞く。 ハ長調ラ音。 ぽーん、という音が場に響いた。 その音は彼にしてみれば非常に馴染み深く、そして危険な音である。 憑神、蒼炎のPC、AIDA……The Worldで発生するイリーガルな現象の前触れとして、必ずその音が流れるのだ。 何故かは知らない。だが、その音を間近で聞いたハセヲは半ば反射的に目を見開き音へと振り返る。 「な……!」 そこで彼が見たものは、彼が良く知り、しかし知っているからこそあり得ない筈の存在だった。 「[[スケィス]]……だと?」 草原を駆ける巨大な存在にハセヲは愕然とした。 ぬっぺりと白い彫刻のような外観のそれは、細部こそ違えどハセヲの憑神である筈の『第一相・死の恐怖:スケィス』だった。 しかし勿論今の自分は憑神を発動などしていない。発動したとしてもこうして対峙することなどあり得ないというのに。 草原を駆ける白いスケィスは、ハセヲの存在に気付くとぴたりと動きを止め、ゆっくりと首だけをハセヲに向けた。 その姿にモンスター特有の生気のない無機質さと同時に底知れない不気味さがあった。 (……榊がスケィスに似たモンスターを作って参加者をPKさせてるのか? とにかく人間が動かしてるアバターじゃないな) 佇む白いスケィスから視線を逸らすことなく、ハセヲは後ろ手で双剣を取り出した。 光式・忍冬を構え戦闘に備える。この白いスケィスが本物かどうかは分からないが、友好的な交流ができるとも思えなかった。 一瞬の静寂を経て、ハセヲは雄叫びを上げ白いスケィスに切りかかった。 対する白いスケィスは薄く光る赤いケルト十字を使い、その剣戟を受けていく。一撃二撃三撃、と攻撃を繰り返し、一通り双剣コンボが終了すると、ハセヲは一歩退き次なる展開に備えた。 攻撃に手ごたえはなかった。初撃なので何ともいえないが、やはりこの白いスケィスも他の憑神と同じ――こちらもスケィスとなって戦うべきだろうか。 白いスケィスは物言わず空中に佇んでいる。 ハセヲはそれを見上げながら、ふと妙な既視感に囚われた。 こうしてこの白いスケィスと対峙することは初めてでないような、そんな感覚が立ち現れた。 ハセヲとしてログインするずっと前、何時だったかこのスケィスに立ち向かい、そして―― (何だこれ……?) 断片の記憶が彼を苛み、掴もうとするとふっと消えてしまう。 ハセヲはこの奇妙な事態を呑み込めずにいた。 それを尻目に、白いスケィスは既に動き出していた。 身を翻し、まっすぐと草原を駆ける。ハセヲには一瞥もくれず。 「な……」 その姿に、ハセヲは再び声を失った。 無視された。戦っていた自分を放置し、どこかへ向かっていったのだ。 まるでより優先すべきものがあるかのように。 その事実にハセヲは困惑するしかなかった。 あの白いスケィスはただの似たモンスターでなく、明確な目的を持って動いている。 ではそれは何だ。自分でないもう一体の白いスケィスは、一体何をしようとしているのだ。 ハセヲは己の身体を見た。3Dポリゴンで描かれたこの身体には様々なものが宿っている。 碑文、楚良、スケィス……それらが実際何なのか、自分は実の所何も知らないのではないか。 そう思うと、心の底にひりつくような不安感が引っかかった。 [C-2/ファンタジーエリア・草原/1日目・朝] 【ハセヲ@.hack//G.U.】 [ステータス]:健康/3rdフォーム [装備]:光式・忍冬@.hack//G.U. [アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式 [思考] 基本:バトルロワイアルには乗らない 1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す 2:レオたちと協力する。生徒会についてはノーコメント 3:マク・アヌに向かう。 4:あの白いスケィスは…… [備考] ※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前 ※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、  現在プロテクトされており選択することができません。 【スケィス@.hack//】 [ステータス]:ダメージ(微) [装備]:ケルト十字の杖@.hack// [アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式 [思考] 基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。 1:アウラ(セグメント)のデータの破壊 2:腕輪の力を持つPC([[カイト]])の破壊 3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊 4:自分の目的を邪魔する者は排除 ※プロテクトブレイクは回復しました。 ※どこに向かっているかは不明。 |053:[[now reading]]|投下順に読む|055:[[能美とライダー]]| |053:[[now reading]]|時系列順に読む|055:[[能美とライダー]]| |048:[[夜明けの生徒会]]|ハセヲ|061:[[Spiral/stairs to the emperor]]| |024:[[逃げるげるげる!]]|スケィス|061:[[Spiral/stairs to the emperor]]|

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