辿り着いたのは丁度夜が明ける頃であった。 この空間は朝特有のこざっぱりした空気まできっちりと再現しているようで、校舎を見上げるハセヲの頬を幾分湿り気を含んだ風が撫でる。 うん、と伸びでもしたくなるような爽やかさだ。まるで現実に居る時と遜色がない。 だがそれ故にこうしてゲームのPCでいることへの違和が際立っているともいえる。 そんな複雑な心地を抱えながら彼が目の前に建つ校舎――月海原学園を見上げると、 「着きましたね! では今日も元気に登校しましょう」 前を行くレオがそう朗らかに言ってビシリと指を立てているのが見えた。 橙の制服に身を包んだ彼の顔には楽しげな微笑みが浮かんでいる。妙に楽しそうだ。 その後ろではガウェインが「はっ」と慇懃に答え、サイトウトモコは大きく頷いて赤いツインテールを揺らしてみせている。 「おや、ハセヲさん、返事がないですね。体調でも悪いのですか?」 「……あー、いや何でもない」 もしかして自分のノリの方がおかしいのではないかと一瞬疑ってしまったハセヲであったが、しかしそんな訳もないと思い直し、さっさと学園へと足を踏み入れることにした。 特段特徴もない校門を抜けた先にあったのは、やはり特に見るべき点のない学校風景であった。 そこそこ程度に広いグラウンドに、三階建ての校舎、奥に見える体育館らしき建物、と見覚えのある施設が並んでいる。 先の梅郷中学校のどこか近未来的なものと違い、その造りはハセヲの知るものと遜色ない。時間も相まって、本当に登校してきたと錯覚しそうである。 「ここがお前の知ってるっていう月海原学園なんだな?」 「ええ、僕の知る月海原学園に間違いないようです。ここで僕らは戦っていました」 そう語るレオの横顔には微笑みが浮かんでいる。その中に含まれた感情までは読めなかった。 (戦っていた、か) 学園へ到る道中、彼らは己の持つ情報を交換し合っていた。 この空間に呼ばれる前のことも含め、自分たちの置かれた状況を確認しなくてはならない。 レオの提案で行われた一連の情報交換であったが、その結果ハセヲの想像を越える事態が浮かび上がってきた。 (未来人……いや異世界人。マジかよ、それ) 話を始めた矢先、すぐに各人の持つ常識や知識に大幅な齟齬があることが分かったのだ。 ハセヲはレオの言う西欧財閥の存在など知らなかったし、トモコの言うニューロリンカーなどという技術は未だ実用化されていない筈だった。 語れば語る程、その齟齬は大きくなっていた。何より決定的なのは時代が違ったことだ。 ハセヲには理解ができない事態ではあったが、レオはしかし何か得心が行ったように結論を下した。 自分たちは別の世界から呼ばれている、と。 「まさかまたここにこうやってやってくることができるとは。 いやぁ、登校の喜びというものには青春を感じますね、青春」 レオは楽しげな様子で学校内を見渡しているが、彼にしてみればこの学園もまたバトルロワイアルと変わりない、殺し合いの場であった筈だ。 聖杯戦争の名を冠された128人のハッカーによる命を賭けたトーナメント。その決勝で敗れてこの場に呼ばれたというレオの話を、ハセヲは何と受け止めればいいのか分からなかった。 信じ難い、と思いはするが、それでも彼が嘘を言っているようにも見えないのも事実だ。それにその仮説ならば梅郷中学校の施設周りの妙な先進性にも納得がいく。 「ハセヲお兄ちゃん、行きましょう?」 下からトモコの声がした。 ハセヲは「ああ」と適当に返事をした後、レオとガウェインに着いていく。 その梅郷中学校に縁があるというトモコは、異世界だという話を聞いても一見して取り乱した様子はなかった。 そもそも理解が行っていないのかもしれないが、特に疑問を呈するということなくレオの話を呑みこんでいるようであった。 その落ち着きには三人の中で最も未来の時間軸であるということも関係しているのだろうか。各人の言う西暦が同じ西暦であるならば、という話ではあるが。 何にせよ、現時点ではどうしようもない話ではある。 後々重要になってくるだろうにせよ、今は深く考えることではないだろうとハセヲは思考を打ち切った。 今は分かること、できることから順次やっていくべきだろう。 「随分と荒れてんな。この中」 「そのようですね。どうやらここで既に一悶着あったみたいです」 校舎内に入ると、床にちらばった瓦礫やガラスの山が目に入った。 入り口近くの教室の窓は何かに爆撃されたかのように吹き飛び、その破壊の跡を晒している。 ハセヲは辺りを警戒し見渡した。事情は分からないが、とにかくここで戦闘があったことは確かなようだ。危険なPKがまだ近くに潜んでいるかもしれない。 レオやトモコもそれを察したのか、しばし緊張した沈黙が場に流れる。 「……どうやら近くにはいないようですね」 何も起こらなかったことを確認し、レオがそう漏らす。ハセヲもまたふぅと息を吐いた。 幸いにして自分たちは未だ危険人物と遭遇していないがこの場の危険性は理解しているつもりだった。 レオは破壊された教室の窓に近づき、跡を調べ始める。 「まだ僅かに熱が残っています。この破壊はどうやら少し前のもののようだ。 となると既に攻撃者が学園を去っている可能性もありますね」 一通り分析を終えたらしいレオは腕を組み考える素振りを見せた後、 「そうですね。とりあえず二階の図書室に行きましょう。施設機能的にも見ておきたい場所でありますし。 ――破壊されていなければ、ですが」 レオの言葉通り図書室に向かったところ、幸いにして特に荒らされた痕跡はなかった。 本棚が理路整然と並び、柔らかな絨毯が敷かれている。受付にはNPCだという生徒の姿があった。 置かれた本のオブジェクトは、内容データまでしっかりと用意されているらしく開けば現実と同じく読むことが出来た。 それらの山を横目に再び彼らは机を挟んで向かい合う。ガウェインは相変わらずレオの後ろに寄り添って立っていた。 「さて、とりあえずこの学園を当面の拠点としていく方針です。 配布されていたテキストによればもうすぐここは戦闘禁止エリアに指定されるようですし、突然襲われる心配もありません。 何より僕にとっては慣れた場所だ。状況が整い次第あれこれ弄ってみるつもりです」 そのことに異論はなかった。 条件的には確かにこの場が拠点として最良といえるだろう。 とはいえずっと閉じこもっている訳にもいかない。こちらから能動的にアクションを起こしていかなければ事態は解決しないだろう。 「で、俺は何をすりゃいいんだよ」 「流石ハセヲさん。雑用係の鏡です。仕事がしたくてウズウズしている顔をしていますね! 安心してください。まずはこの学園内の探索ですが、それが終わり次第貴方にはきびきびと働いて貰うつもりですから」 「…………」 もはや何も言う気にはなれなかった。慣れとは恐ろしい。 思えばG.U.でも八咫の無愛想な態度に何時の間にか慣れていた。あれはあれで大いに不満であったが、こうフランクに命令されるのも何だか厭なものだ。 脱力するハセヲを尻目にレオは話を続ける。 「ではまずこちらを見てください」 言って彼は手元に画像を出現させた。現れたのはハセヲにも配布されていた地図データだ。 「……そんな風に出力できたのか」 「ええ、【設定】で仕様を変えてやればできるみたいですよ。 そしてここからが見どころです」 そう言ってレオが何やらウィンドウを操作すると、地図上に奇妙なアイコンが現れた。 銀髪に黒い鎧、そしてこの世の何がそんなに憎らしいんだと言いたくなるようなキツイ目付き。 上手いんだか下手なんだか分からないタッチで描かれたそのアイコンは、どうみても二頭身にデフォルメされたハセヲであった。 「……何だコレ」 「はい、ちょっとデータを弄るのの練習台として試しに作ってみました。 どうです? 一作目にしては結構上手くできているでしょう! ワクテカアイコンです!」 「ええ、レオ。これは中々彼の特徴を捉えています。特にこの目元が素晴らしい」 言葉を交わす二人を前に、ハセヲは無言で机に突っ伏した。 隣りでトモコが噴出しているのが見えた。 「で、ハセヲさんには生徒会の雑用係として少し遠出してもらいます。 現在生徒会が出すことのできる唯一の戦力ですので、しばらくは忙しくなると思って下さい」 「お前は出ねえのかよ」 「ええ、僕は一先ず学園内にいるつもりです。ここでのシステム的な調査は僕が適任でしょう」 「それに力に劣る者が尖兵となるのは当然です」 ガウェインがさらりと厭味のようなことを言った。 悪気は別にないのだろうが、その爽やかな顔立ちから言われるとカチンと来るものがある。 レオもそのことを察したのか、ガウェインを軽く窘めた。かつての自分ならもしかしたら激昂していたかもしれないな、などと思った。 しかし実際の力量ではどうなのだろうか。先ほど一瞬だけ刃を交えたが、成程確かにその俊敏さ、剣の技には確かなものがあった。 それもその筈だろう。レオの言葉が事実ならば、彼はあのアーサー王の側近である。ゲームの設定などではなく、本物の。 「あー分かったよ。俺が出向きゃいいんだろ」 「はい。ハセヲさんには他エリアの探索と、生徒会役員の勧誘をやって貰います。 その際にルートとして考えられるのは2パターンあります。 まずは南下してファンタジーエリアを調査してもらうルート」 そう言ってレオが手元を動かすと、地図上に赤い矢印が出現し、マク・アヌ、F-4の小屋、を弧を描いて通り月海原学園へと戻ってくる軌跡を描いた。 示されたルートを目付きの悪いハセヲアイコンが辿って行く。その際にご丁寧にも滑らかな歩行モーションまで用意してあり、無駄なところで労力を感じさせた。 「このエリアは人が多いと思われるので、他の参加者との接触が必然的に増えるでしょう。それが友好的であれ敵対的であれ、ですが。 そしてもう一つはこちら」 次に表示されたのは月海原学園近くのゲートを通りウラインターネットへと赴く矢印であった。 一通りエリアを回った後、同じゲートから学園へ戻ってくるようになっている。先と同様にハセヲアイコンがその道を辿る。 「ウラインターネット、と呼ばれるエリアを調査してもらうルートです。 ここは名前もですが他エリアと比べ位置的にも切り離され、少々特殊な立ち位置にあるようです。 その為、エリアの詳細な探索をお願いしたい。 ――とまぁ二つのルートを提示した訳ですが、ハセヲさん、貴方はどちらを先に行きますか?」 「そうだな……」 ハセヲは腕を組み、示された二つのルートについて考えた。 危険があるのはどちらも同じだし、そんなことは百も承知だ。 問題は、この選択が揺光や志乃と出会えるか否かに大きく関わってくるかもしれないことだ。 そう思うと判断が一瞬鈍らざるを得ない。選ばなかった方に彼女らが、という考えが脳裏を過る。 (落ち着け、これじゃ榊の思う壺だ) どうしても彼女らのことに意識が行く自分に気づき、ハセヲは内心毒づいた。 どうせ自分に知りようがないことだ。闇雲に動いても意味はないと振り払い、口を開いた。 「……一つ目の南下するルートで行く」 「ではファンタジーエリアに行くと?」 「ああ、マク・アヌもあるしな。色々と見てみたいところでもある」 そう言うとレオは鷹揚に頷き、 「分かりました。では準備が整い次第ミッションスタートです。 とりあえずの目安としては6時間程度でここに戻れるようにお願いします」 「分かった」 「あ、そうそう。途中、できればショップの調査もお願いします」 「ショップ?」 「ええ。マップ上に幾つか載っているアレですよ。あそこで何が売っているのかちょっと確かめて貰いたいんです」 そういえばそんなものもあったな、とハセヲは思い出し「了解」とぞんざいに答えた。 「もしそこで何か欲しいものがあれば言って下さいね」 「金持ってんのかよ」 「ええ、ちょっとここに来る前に稼ぎまして。 言って下さればハーウェイトイチシステムでお貸ししますよ」 レオはにっこりと笑みを浮かべた。 くれはしないのかと思ったが、その柔らかな微笑みの裏に何かただならぬものを感じたハセヲは曖昧に相槌を打つに留めた。大体なんだトイチシステムって。 とにかく安易にコイツに金を借りるのは止めておこう、と胸に誓っておく。 そうして一通り今後の方針を定めた後、レオはすっと立ち上がり、 「では生徒会活動を開始しましょう! まずは学校内の探索と掃除です」 そう宣言した。 その姿は先と変わらず溌剌とした、力強いものであった。 ◇ その後の調べを経て、学園内には危険はないことが分かり、 あとのことはレオに任せハセヲは満を持して出撃することになった。 先ずは近くのショップに向かい、次にファンタジーエリアのマク・アヌを目指すことになる。 早々に後にすることになった月海原学園の門を背に、彼は目の前に広がるエリアを眺めた。 他の参加者と同盟は組み、拠点を構えることには成功した。これで効率よく動くことが出来る筈だ。 あとはこの場にいるという志乃と揺光を見つけ出し、榊を倒す。 そう強く心に決め、ハセヲは一歩外へ踏み出した。 「今度こそ」 歩み始めた先には光が昇り始めた空が在る。このデスゲームにも朝は来た。 夜明けの眩い日差しの下、ハセヲは拳を握りしめ言った。 「今度こそ、取り戻すんだ――全てを!」 Mission Start ――Go to Dungeon―― 【B-3/日本エリア・月海原学園前/一日目・早朝】 【ハセヲ@.hack//G.U.】 [ステータス]:健康/3rdフォーム [装備]:光式・忍冬@.hack//G.U. [アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式 [思考] 基本:バトルロワイアルには乗らない 1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す 2:レオたちと協力する。生徒会についてはノーコメント 3:エリアを南下してマク・アヌ、小屋を通り仲間を集めつつ学園へ帰還する。 [備考] ※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前 ハセヲが去った後、レオは二階のとある教室に居た。生徒会室(予定地)である。 先ずはこの部屋をしかるべき形に作り変えねばならない。ネームプレートを変えるのは勿論、誰がどう見ても生徒会室に見えるように室内を改竄する。 図書室を代用するのはもってのほかだ。生徒会室は生徒会室でなければならない。 その為にはレオが今まで培ってきた霊子ハッカーとしての全技術をつぎ込むことも厭わない。 どのようなレイアウトが最も生徒会室的だろうか。先ほど訪れた梅郷中学校の生徒会室を参考にするのも悪くないかもしれない。 「いやぁ、悩みますね」 そう笑みを浮かべていると、不意に教室の扉が開いた。 そこに居たのは赤いツインテールの幼い少女――サイトウトモコと名乗る人物である。 「レオお兄ちゃん」 「どうかしましたか?」 レオが微笑を張り付かせて尋ねると彼女は困ったように、 「人が落ちてるんです」 「人が……ですか?」 話を聞くに、今しがた校内に別の参加者が見つかったというのだ。 その男は学園内の庭園に横たわっていたのだとか。位置的に木に引っかかっていたらしく、先ほどの探索では見つからなかったという訳だ。 ダメージを受けた結果か彼は気絶しており、とりあえず教室に寝かせてガウェインが監視しているところだという。 「そうですね」 レオは少しだけ思案した後、 「保健室に運びましょうか。あそこなら施設が揃っていますしね。色々と」 【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・早朝】 【ジロー@パワプロクンポケット12】 [ステータス]:HP30%/現実世界の姿/気絶 [装備]:DG-0@.hack//G.U. (一丁のみ) [アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2(本人確認済み) [思考] 基本:殺し合いには乗らない 1:………… 2:『俺』が鬱陶しい [備考] ※主人公@パワプロクンポケット12です。 ※「[[逃げるげるげる!]]」直前からの参加です。 ※パカーディ恋人ルートです。 ※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。 『対主催生徒会』 会長: 【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】 [ステータス]:消耗(中)、令呪:三画 、528ポイント [装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、 [アイテム]:基本支給品一式 [思考・状況] 基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。 1:理想の生徒会室を作り上げる。 2:他の生徒会役員となり得る人材を探す。 3:ダークリパルサーの持ち主さんには会計あたりが似合うかもしれない。 4:もう一度[[岸波白野]]に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。 5:当面は学園から離れるつもりはない。 [サーヴァント]:セイバー(ガウェイン) [ステータス]:HP150%、健康、じいや [装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U. [備考] ※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。 ※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。 ※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。 副会長: 【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】 [ステータス]:健康/通常アバター [装備]:なし [アイテム]:不明支給品0~2、基本支給品一式 [思考] 基本:情報収集 1:一先ず猫被ってハセヲやレオに着いていく。 2:??? [備考] ※通常アバターの外見はアニメ版のもの (昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子) 会計:空席 書記:空席 庶務:空席 雑用係: 【ハセヲ@.hack//G.U.】 ※外出中 |047:[[霞む記憶の中に見上げた横顔――]]|投下順に読む|049:[[死者たちのネットゲーム]]| |047:[[霞む記憶の中に見上げた横顔――]]|時系列順に読む|049:[[死者たちのネットゲーム]]| |034:[[結成]]|ハセヲ|054:[[『死の恐怖』は知っていますか?]]| |034:[[結成]]|レオ・B・ハーウェイ|059:[[対主催生徒会活動日誌・1ページ目(準備編)]]| |034:[[結成]]|スカーレット・レイン|059:[[対主催生徒会活動日誌・1ページ目(準備編)]]| |039:[[隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編)]]|ジロー|059:[[対主催生徒会活動日誌・1ページ目(準備編)]]|