「……何だよ、誰かと思ったら岸波かよ」 会うなり吐かれた悪態を聞いた途端、奇妙な懐かしさがこみ上げてきた。 ああ……そうか、やはり彼もここに居たのか。 驚きはなかった。今まで出会った参加者の傾向から行っても、ここで彼が現れるのは寧ろ順当といえる。 森の中で隠れ潜んでいた参加者――それはかつて仮初の友人であり、そして一回戦の相手、間桐慎二であった。 彼は樹木にもたれ掛けるように座り込んでいる。 その近くにはところどころ煤の付いた鎧を身に纏った壮年の男性が立っていた。 慎二の同行者、ということだろうか。 「……ま、いいけどね、誰がここに来ようと」 しばらくの沈黙の後、慎二はそう言って疲れたように息を吐いた。 何だか変な感じだ。何というか、覇気がない。自分が知る間桐慎二はこんなにも大人しい性格ではなかった筈だ。 少し考えた後、メニュー画面から装備を変更する。 【女子学生服】を【男子学生服】に。 途端に小柄な女生徒であった[[岸波白野]]の姿が消え失せ、代わりに目元に髪が掛かった男性生徒の岸波白野が現れた。 「は? お前何やって……あれ、お前女だったっけ、いや男だったような」 それを見た慎二が目を丸くし、困惑したように頭を抑えた。 記憶を混乱させてしまったようだ。アバターを変えたことに別に他意がある訳ではない。 何となく、慎二とはこっちの姿の方が話易い気がしたからだ。 「はぁ、助けに来たら、待っていたのはこんなワカメでしたとは。全く持って無駄足でしたね」 霊体化を解いたキャスターが現れるなりそう溜息を吐いた。慎二をちらりと一瞥するなりげんなりと肩を落とす。 慎二が反射的に「誰がワカメだ!」と声を上げると、そこには別の声が挟まれる。 「いやいや、そう己を卑下するではないぞ。あれはあれで重要な食材であろう。 余のローマにはあまり馴染みのない品であったが、だからといって否定するほど余は狭量ではないぞ、うむ」 「確かにワカメは食物繊維、アルギン酸、フコイダンなどの栄養素を多く含み、日本食、特に味噌汁には欠かせない食材だが……少々フォローする対象が間違っているのではないかね? セイバー」 キャスターと共に霊体化を解いたセイバーとアーチャーだった。 彼らは口々に勝手なことを言っているが、慎二はその内容よりも彼らの存在の方が衝撃だったようで、あんぐりと口を開け「は?」と声を漏らした。 「ちょっとお前、これどういうことだよ。だってお前のサーヴァントは……うん、アレ? 何だっけ、そいつら全部お前のだったか? いや待てよ僕。そんな訳ないだろう。いやでも……」 記憶の混乱が慎二の処理を越えたのか、彼は頭を抑えながらぶつぶつと呟き始めた。 ……事前に説明しておくべきだったのかもしれない。正直、自分も何故こんなことになっているのかはよく分からないのだが…… 「は? サーヴァントとの三重契約? 色んな分岐の重なり合わせ? 意味わかんないですけど、というかズルいだろそれ! 一人だけ強くてニューゲームしてるみたいなもんじゃないか!」 一応事情を説明すると慎二はそう言った。その感想には同意するが、しかしこうなんだから仕方ない。 ……それに一見して反則のような強さに思えるかもしれないが、これはこれで大変だったりするのだ。戦闘指揮や魔力管理は勿論、サーヴァントとの関係も…… 「ほう、君は中々興味深いことになっているようだね」 慎二の同行者の男性が、説明を聞いてそう口を開いた。 少し気後れしつつも彼に向き直る。長身かつ剛健な、力強い騎士の姿をしたこの男性は、無言で立っているだけでも強い存在感を放っていた。 そして改めて相対して分かるが、やはりその外見だけでなく、立ち振る舞いや醸し出される雰囲気からして彼には何か近寄りがたいものがある。 自分の知る人物で言うのならばダン卿のような……いや、違う。彼よりもあのトワイス・ピースマンに近いものが―― 「気を付けてください。この人は……危険です」 胸元から鋭い声がした。ユイだ。 それは天使のような彼女らしからぬ、言葉の端に敵意の籠った口調だった。 「名前はヒースクリフ、または茅場晶彦。以前お話したソードアートオンライン事件の……首謀者です」 紡がれた言葉に、思わず身を固くする。後ろで[[カイト]]が双剣を構えるのが分かった。 情報交換の際、ユイが口にしていたデスゲーム――多くの人間たちをゲーム内に閉じ込め、そして死に至らせた凄惨な事件のことを。 目の前に居るこの男が、その首謀者。 いきなり警戒態勢に入った自分たちを、だがしかし当のヒースクリフはというと涼しい顔をして見下ろしている。 反応したのは寧ろ慎二の方で、カイトの禍々しい双剣を恐れたのか「ひっ!」と声を上げていた。 「武器を下ろしてはくれないかね。私はここで君たちと事を構えるつもりはないんだ」 ヒースクリフは悠然と述べ、そしてユイに視線を向ける。 「君のような存在も参加していたとはね……そちらの岸波君のことも含め、中々味な真似をしてくれるな、あの榊と言う男は」 そう口にするヒースクリフは、成程確かに敵意は感じられなかった。 そのことにやや拍子抜けしつつも、警戒は解かないでおく。 どうやらこの場でPKすることを是としている訳ではなさそうだが、しかしその真意が掴めない。 「しかし、まぁ信用できないというのも分かる。私はこのゲームを潰す為に動くつもりだが……ここで無理に協力しようなどと言う気はない。 だが、最低限の情報交換くらいはしようじゃないか。それとできればアイテムのトレードをお願いしたい。見ての通り、我々は今消耗していてね」 しばしの逡巡の末、結局ヒースクリフの申し出通り情報交換を行うことにした。 ユイはまだ何か言いたいことがあったようだが、しかし現状ヒースクリフが敵意がないのは事実であることもあり、複雑な顔をしつつも承諾した。 そうしてこれまでどこでどんなことがあり、どんな参加者たちと会ったのかを互いに告げた。 「ありすにダン・ブラックモア……か。どうやら岸波君は顔見知りに会う機会が多かったようだな。そしてカイト君やエンデュランスの居たと言うThe Worldというネットゲーム。 ――成程理解した。情報提供感謝する」 告げられた情報に、ヒースクリフは彼なりに思うところがあったらしく、そう言って腕を組み考える素振りを見せた。 だがそれよりも気になったのは、その向こうで座り込んでいる慎二のことだった。 「……何だよ」 その視線に気づいたのか、慎二はそう不機嫌そうに言った。 ヒースクリフの話を聞いて、慎二の様子にも合点が行った。 道中で襲われた黒いロボットのようなPKに、慎二はサーヴァントを奪われたのだという。 慎二のサーヴァントといえばあのライダーだろう。豪放磊落を絵に描いたようなあの女性と慎二は、何だかんだいって良いコンビだったように見えた。 そんな彼女を失ったとことは――慎二は決して認めはしないだろうが――彼にとってショックなことだったのだろう。 …………。 掛けるべき声が思い付かないでいると、慎二は視線を逸らしどこか遠くを見てしまった。 「では、今度はトレードだが、君たちの中に回復アイテムに属するものを持っている者は居ないかね」 そんな慎二を余所にヒースクリフが提案した。 何時のまにか会話の主導権を握られてしまった。彼はこの手の交渉に慣れているようだ。 だが……残念なことに自分たちは回復系のアイテムを持っていなかった。一応サーヴァントたちは各自回復系のスキルを持っているのだが、どれも自分自身を回復するもので他者を対象にすることができない。 「そうか。では仕方ないな。まぁ慎二君が持っていたアレだけでも良しとしよう」 そう告げると、ヒースクリフは特に落胆することもなくそう言った。 一応慎二が【リカバリー30】という回復アイテムを持っていたらしいが、一度の回復量が少なく何度も使わなくては効果が薄いらしい。 しかも一度使うごとにある程度インターバルを置かねば、再使用できないらしく、仕方なくこうして森に身を隠して地道に回復していたようだ。 「まぁアイテムの入手も急務と言う訳ではない。全回復には程遠いが、しかし戦闘が可能になる程度には回復できた」 そう言って彼はあっさりと交渉を切り上げた。そして背を向け去ろうとする。 「では、一通り情報交換も済ませた訳だし、ここで別れよう。 どの道私が居ても不和の原因となるだけだろう」 返答に詰まる。 これでいいのか、というのはある。ヒースクリフは恐らく本当にこのゲームには乗って居ない。 彼を味方に引き込むべきではないのか、という考えが脳裏を過る。 しかし、やはり彼を完全に信用できないのも事実だった。いや、信用と言うよりは、彼の底が見えなさを自分は恐れているのかもしれない。 ユイも同意見もようで、エンデュランスの時と違い引き留めようとはしなかった。 「で、慎二君はどうするかね? 個人的には私とはここで別れ岸波君と共に行くことを勧めるが」 ふと思い出したように、ヒースクリフはそう慎二に問いかけた。 問われた慎二は髪をぐしゃぐしゃにかき分け、 「別に放っておけばいいだろ、アンタも、岸波も、僕のことなんか放っておいていけばいい。 もう僕はこのゲームからは脱落したも同然の身だからね……はっ」 そう不貞腐れたように言った。 ……やはりおかしい。 ライダーを失ってつらいのも分かるが、それだけで慎二はこんなにも弱気になるのは少し違和感があった。 と、腑に落ちないものを抱えていると、慎二がちらりとこちらを見た。そして何かを言おうと口を開けたが、しかしどういう訳か何も言わないまま再び顔を俯かせ「クソッ」と一人吐き捨てた。 「もしかして貴方、ご主人様のサーヴァントを一つ分けて欲しいーなんて思っていません?」 ふとキャスターが言った。瞬間、慎二の肩がびくりと動いた。 「ははーん、どうやら図星だったみたいですね。全く海藻類の考えそうなことです。 ですがいくら人の良いご主人様でも、それだけはあり得ません。越えてはならない一線という奴です」 「うむ、余も貴様の保護くらいならしてやらんこともないが、奏者の下を離れる気は一切ないぞ。 もしそんなことを言われたら泣くぞ、泣くからな!」 セイバーとキャスターの突き離すように言う。 ……確かにその言葉通りだった。サーヴァント三騎というのは、正直手に余る力であるように思う。 協力体制が取れるのならば、それこそ慎二のような手の空いたマスターにサーヴァントの指揮を任せるべきなのかもしれない。 しかし、自分のサーヴァントはどれも唯一無二なのだ。 セイバーも、キャスターも、アーチャーも、過去がいくら分岐していようが、あの聖杯戦争を共に勝ち抜いたことは確かで 凛の存在と同じか、あるいはそれ以上に岸波白野(じぶん)が自分である為に必要な存在だ。 別れるつもりは、なかった。 その意図を告げるまでもなく、慎二は「分かってるさ、そんなこと!」と悔しげな叫びを上げた。 「分かってる……分かってるさ。それにそんな、恵んでもらうような真似、頼まれたってやるもんか。 僕のゲームチャンプとしての……いや、ゲーマーとしてのプライドが許さない。 たださ……悔しいんだよ。あんな、ゲームそのものをを侮辱してるような奴に負けたのが」 ライダーを奪ったという黒いロボットのことだろう。その言葉は悔しさを痛切に滲ませていた。 慎二は顔を俯かせたまま、そこで小さく笑って見せた。 「まぁでも僕も大概舐めたプレイングしてたか……電脳死なんて有り得ない、か。ははっ、見っともないね全く」 ……そうか。 慎二がああも堪えていた理由。それが今分かった。 彼は他の多くのマスターと同じく。聖杯戦争をあくまでただのゲームとして捉えていた。 命懸けの闘争などではなく、死んでも取り返しの効くゲームとして彼は一回戦を戦っていた。 しかし慎二はもう気付いたのだろう。これが、ただのゲームではないと。 …………。 一回戦敗退直前の、慎二の断末魔が脳裏に蘇る。 あの時の悲痛な叫びを、自分は―― 「やれやれ、仕方ないな」 様子を見かねたのか、それまで黙っていたアーチャーが口を開いた。 彼は慎二を見て苦笑を浮かべつつ、 「マスター、私の方から提案がある」 ◇ 結局、岸波たちはヒースクリフと別れることにした。 やはりヒースクリフを信じ切れなかった、というのが理由だろう。それにヒースクリフ自身も単独行動をしたがっていた節があった。 一応月海原学園に行くことは告げたようで、後々協力体制を取れれば、程度には思っていたようだ。 そして彼、間桐慎二はというと―― 「……お前、何で来たんだよ」 『なに、先程述べた通りだよ。君の言う黒いPKを野放しにしておく訳には行かないからな。 道中で無力化するに越したことはない』 赤衣のサーヴァント――岸波白野が連れていたアーチャー――と共に森の中を歩いていた。その手には岸波から借り受けた一画の令呪が灯っている。 一先ずの目的地はE-5。ロボットと一戦交えた場所である。 そこであの敵を探し出し雪辱を果たす、というのが彼の当面の目標であった。 「そんだけの理由かよ。 それともなに、お前のあの小うるさいキャスターとかうざったいセイバーと違って岸波のことそんな好きって訳でもないってこと?」 『まさか。マスターへの忠誠心なら誰にも負けてなど居ない。これが合理的だと判断だとしたまでのことだ。 それに君も分かっているだろう、これはあくまで仮契約。力を貸しているに過ぎない』 「そりゃそうだけどさ……」 慎二は微妙に腑に落ちないものがあったのか渋い顔をしていたが、 「まぁいいさ。とにかく今はアイツを……あの黒い奴から令呪とライダーを取り戻すんだ。 そしたら岸波にお前を返して……その後は一回戦の続きをしてやる。見てろよ、ゲームチャンプの僕が本気を出したらお前らなんかけちょんけちょんにしてやるからな!」 『やれやれ、そのねじ曲がった悪態さえなければもう少し人当たりも良いだろうに』 「う、うるさいな。僕のことをロクに知りもしないで分かったような口叩くなよ。 全く何で僕のサーヴァントはこう、うるさくて赤い奴ばっかりなんだ」 『ふむ、確かにそうだな。今のは失言だった。 しかし名前の縛りの強さとは怖いものだ。全く関係のない筈の存在を、こうまで結びつけるのだから』 アーチャーはふぅと息を吐く。 疲れている、という訳ではないだろう。アーチャーとしては今の状況に何か思うところがあるらしい。 『全く……本当に因果な話だ。こんな形で共闘が成立することになるとはね。 まぁそれも本来は関係のない、全く別の物語からくる因果なのだが』 【E-6/ファンタジーエリア 森/1日目・朝】 【岸波白野@Fate/EXTRA】 [ステータス]:健康、魔力消費(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター [装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA [アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式 [思考] 基本:バトルロワイアルを止める。 1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。 2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。 3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。 4:ありす達、ダンたちに気を付ける。 5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。 6:エンデュランスが色んな意味で心配。 7:ヒースクリフを警戒。 [サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前) [ステータス(Sa)]:健康 [ステータス(Ca)]:ダメージ(小) [備考] ※参戦時期はゲームエンディング直後。 ※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。 ※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。 【ユイ@ソードアート・オンライン】 [ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー [装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA [アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式 [思考] 基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。 1:ハクノさんに協力する。 2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。 3:また“握手”をしてみたい。 4:『死』の処理は…… 5:ヒースクリフを警戒。 [備考] ※参戦時期は原作十巻以降。 ※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。 【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】 [ステータス]:ダメージ(中) [装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U. [アイテム]:基本支給品一式 [思考] 基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。 1:岸波白野に協力し、その指示に従う。 2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。 [備考] ※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。 【間桐慎二@Fate/EXTRA】 [ステータス]:魔力消費(中)、令呪一画 [装備]:無し [アイテム]:不明支給品0~2、リカバリー30@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 [思考] 基本:ライダーを取り戻す。それから先はその後考える。 1:黒いロボット(ダスク・テイカ―)を探す。 2:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。 [サーヴァント]:アーチャー(無銘) [ステータス]:健康、魔力消費(小) [備考] ※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。 ※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。 ※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。 [[支給品解説]] 【リカバリー30@ロックマンエグゼ3】 自分のHPを30回復するバトルチップ。 回復量も少なく序盤以降は使うことは先ずなくなる。 岸波白野、間桐慎二らと別れたヒースクリフは一人歩を進めていた。 その歩みに迷いはなく、朝陽に照らされた涼やかな森の中を彼は悠然と通っていく。 今しがたの接触は中々の収穫だった。 装備が十全に整えられなかったのは残念であるが、それよりもずっと重視すべきものが手に入った。情報だ。 それは岸波白野のようなゲームを打倒しようとする勢力の存在が確認できたこと。 彼らは出会ってすぐに協力体制を取ったと言う。全く見知らぬ他人であったにも関わらず、だ。 しかも単純に力があるだけでなく、情報処理に関しても秀でた者がその中に居た。 彼らのような勢力は恐らく他にも居る。そうでなくてはおかしい。GMの思惑は読めないが、たまたま力と意志のあるものが近い初期配置に出てしまった、などというミスは侵すまい。 にも関わらず彼らのような集団が出来上がったということは、元より参加者の多くが彼らのような「優秀」なプレイヤーであったからだろう。 それらが団結し、持てる力を合わせることができればゲームの打破も不可能ではないかもしれない。 このゲームはある意味であの浮遊城アインクラッドよりも過酷で無慈悲だ。そんな状況であることも、彼らにはプラスに働くだろう。 安全圏に引きこもり何もしないでのうのうと生き延びようとするような輩は、このゲームにおいてはまず淘汰される。 結果、出来上がるのはシステマティックかつ強力な勢力になるだろう。今はその勢力の誕生を待てばいい。自分がその誕生の邪魔になるというのなら、今は身を退くべきだ。 代わりに、勢力結成を邪魔しかねないレッドプレイヤーを処理する――それが今後の方針となる。 と、ここまでが【ヒースクリフ】としての思考だった。 「……岸波白野――完全なる知性を得たNPC、か」 何時の間にか、森から真紅の騎士は消え去っていた。 代わりに歩を進めるのは極めて軽い白衣に身を包んだ一人の研究者が居た。 ソードアートオンライン事件首謀者、天才科学者にして大量虐殺者、【茅場晶彦】その人である。 彼にとって今の接触は非常に興味深いものであった。 ユイ、カイト、そして岸波白野、彼らはみな人間ではなく、NPC――AIと呼ばれるものだ。 ユイのことは直接ではないが知っていた。アインクラッドのカウンセリング用人工知能【MHCP001】が偶発的に発展した形で誕生したトップダウン型AIの最先端である。 そして不気味に佇んでいたあのカイトというアバターもまた自律型AIであるという。 アレを作り上げたという、AIを越えた究極AI【AURA】というのも一科学者として非常に魅力的な話だった。 何より目を引くのがあの【岸波白野】という存在だ。 AIと人間の自意識の境界線、liminality。どこまでも近く、しかし遥か遠くにある筈のそれを越えて見せたという、完全なるボトムアップ型のAI。 慎二から聞かされたムーンセルの存在と併せて、茅場晶彦としては非常に興味を惹く存在であった。 そしてもう一つ。 このゲームは恐らく別の世界とでも呼ぶべき何かを接続した場だ。 慎二との接触でまさかと思っていたが、今の情報交換でそれは確信に到った。 これが並行世界論によるものなのか、デジタルデータによるものなのか、はたまたより思弁的な論拠なのか、何にせよここに【世界】がある。 夢にまで見た、あの【世界】が。 「さて」 思考を仕切り直すように言った。 既に【茅場晶彦】のはためく白衣は消え失せていた。 代わりに居るのは【ヒースクリフ】だ。 「ここで私は何を見るのか」 その答えは―― 【E-6/ファンタジーエリア 森/1日目・朝】 【ヒースクリフ@ソードアート・オンライン】 [ステータス]:HP60% [装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン [アイテム]:エアシューズ@ロックマネグゼ3、基本支給品一式 [思考] 基本:バトルロワイアルを止め、ネットの中に存在する異世界を守る。 1:一先ず身を隠せる場を探す 2:バトルロワイアルを止める仲間を探す [備考] ※原作4巻後、キリトにザ・シードを渡した後からの参戦です。 ※広場に集まったアバター達が、様々なVRMMOから集められた者達だと推測しています。 ※使用アバターを、ヒースクリフとしての姿と茅場晶彦としての姿との二つに切り替える事が出来ます。 ※エアシューズの効果により、一定時間空中を浮遊する事が可能になっています。 ※ライダーの真名を看破しました。 ※Fate/EXTRAの世界観を一通り知りました。 ※.hack//の世界観を一通り知りました。 |055:[[能美とライダー]]|投下順に読む|057:[[終焉トラジコメディ]]| |055:[[能美とライダー]]|時系列順に読む|057:[[終焉トラジコメディ]]| |047:[[霞む記憶の中に見上げた横顔――]]|岸波白野|064:[[月蝕の迷い家]]| |047:[[霞む記憶の中に見上げた横顔――]]|ユイ|064:[[月蝕の迷い家]]| |047:[[霞む記憶の中に見上げた横顔――]]|蒼炎のカイト|064:[[月蝕の迷い家]]| |038:[[慎二とライダー]]|間桐慎二|064:[[月蝕の迷い家]]| |038:[[慎二とライダー]]|ヒースクリフ|071:[[Oracle:天啓]]|