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*&u(){AIPSによる処理(5) 位相の較正}
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位相の較正には二つの目的があります。第一に、ビジビリティの位相は電波源の位置を反映するものなので、正しい天体の位置や構造を推定するためには、正しいビジビリティ位相が必要です。第二に、ビジビリティをコヒーレントに積分するためには位相が揃っている必要があります。
第二のポイントに着目してみましょう。ビジビリティの積分は信号雑音比を向上させるために必要ですし、ビジビリティをフーリエ変換して電波像にする操作だって積分です(フーリエ変換は別名フーリエ積分とも呼び、式からも分かるようにビジビリティのコヒーレントな積分です)。
位相が揃っていない状態でビジビリティを積分すると、コヒーレンス損失を起こして、ビジビリティ振幅が低下しています。コヒーレンス損失の概念については、こちらの[[アニメーション>http://astro.sci.kagoshima-u.ac.jp/omodaka-nishio/member/kameno/AIPS-Difmap/DA193/image/coherence.html]]をご覧下さい。
ビジビリティ位相が真の値からφだけずれていたとき、有効なビジビリティの値は真のビジビリティへの投影成分、つまりV cos φになります。位相φが標準偏差σでばらついているとき、ビジビリティ振幅は
#ref(image-1.png)
で与えられます。ここで、位相の確率密度分布p(φ)を正規分布だと仮定しました。例えばσ=1 radの標準偏差で位相がばらついていると、振幅は約40%も低下してしまうわけですね。これを防ぐために、位相の較正をきちっとおこない、位相を揃えた状態で積分することが肝要です。
&image(right,image-2.gif)位相の標準偏差とコヒーレンスとの関係。σ=1 radのときコヒーレンスは約0.6で、約40%の損失が発生する。
**&u(){1. フリンジフィット (FRING)}
*1.1 フリンジフィットはなぜ必要か
フリンジフィットとは、遅延時間残差や遅延変化率残差の補正を行って位相を揃え、ビジビリティをコヒーレントに積分できるようにする操作です。AIPSでは FRING という task を用いて遅延時間残差や遅延変化率残差の値を SN extension table に記録し、CLCAL によって CL extansion tableに適用します。
遅延時間残差とは、相関処理の際に追尾し切れなかった遅延のことです。観測局の時計オフセットや局位置の誤差, 天体位置の誤差, 大気の光路長などが原因で、相関器での遅延追尾はパーフェクトではありません。遅延残差をΔτ とすると、位相のズレは周波数νの関数で、
#ref(image-3.png)
となります。
遅延残差が時々刻々変化していくとき、その変化率を遅延変化率残差&ref(image-4.png)といいます。
#ref(image-5.png)
となりますね。ビジビリティをベクトルで、位相をベクトル矢印の向きで表すとすると、下図の左のような具合です。
#ref(image-6.gif)
左のように、遅延残差や遅延変化率残差によってビジビリティ位相が(時間-周波数)空間で揃っていない状態だと、積分したときにコヒーレンス損失が起こります。ビジビリティ振幅が低下してしまうわけですね。ではどうやって遅延残差や遅延変化率残差を補正したらいいでしょうか。それには、&ref(image-7.png)の空間においてビジビリティを積分し、その振幅が最大になるような&ref(image-7.png)を探すのです。いわば&ref(image-7.png)の絨毯爆撃。この操作をフリンジサーチといいます。
#ref(image-9.gif)
上図はフリンジサーチの例です。横軸が遅延残差 (Residual Delay), 縦軸が遅延変化率残差 (Residual Rate) で、グレースケールでビジビリティ振幅を表現しています。ビジビリティ振幅が最大になるのは遅延残差が0.081 μsec, 遅延変化率残差が-2.75×10-12のとき、ということがわかります。そのときの振幅が雑音レベルより有意に大きければ (SNR: 信号雑音比が大きければ)、「フリンジ検出」というわけです。
サーチを行う&ref(image-7.png)の範囲のことを、フリンジサーチ窓といいます。上図の表示範囲が「窓」ですね。
***1.2 FRINGの実行
それでは、fring という task を走らせてフリンジフィットをしてみましょう。
>&u(){task 'fring'} FRINGというtaskの使用宣言
>&u(){getn 2} カタログ番号2番のファイルを選択
>AIPS 1: Got(1) disk= 1 user=3018 type=UV BK084.MSORT.1
>&u(){calsou 'da193'''} 天体名がDA193のスキャンにおいてフリンジサーチ
>&u(){freqid 1} 周波数番号を1番 (15.4 GHz) に指定
>&u(){timer 0} 全ての時間範囲でフリンジサーチ
>&u(){docal -1} CLテーブルによる補正は適用しない
>&u(){doban -1} BPテーブルによる補正は適用しない
>&u(){outn ''} 出力のための新しいファイルは作成しない(既存ファイルのextension に書き出す)
>&u(){outcl ''} 出力のための新しいファイルは作成しない
>&u(){outs 0} 出力のための新しいファイルは作成しない
>&u(){outd 0} 出力のための新しいファイルは作成しない
>&u(){refan 9} 基準局としてアンテナ9番(PT)を選択
>&u(){solin 2} 2分毎の積分で遅延残差, 遅延変化率残差を求める
>&u(){inv -1} 天体の構造モデル (CC extension table) は使用しない(点源と見做す)
>&u(){flagv 1} フラッギング情報としてFG version 1を使用
>&u(){search 0} 基線サーチの順番は特に指定しない
>&u(){dofit 0} 全てのアンテナ番号について遅延残差, 遅延変化率残差を求める
>&u(){aparm 2, 0, 0, 0, 0, 2, 5, 0, 1, 0} 5番目はIF毎にサーチ, 6番目は途中経過を表示, 7番目は検出限界のSNR閾値
>&u(){dparm 0, 400, 100, 0} 2番目はサーチ窓の遅延残差範囲, 3番目は遅延変化率残差範囲
>&u(){snv 3} サーチ結果の遅延残差, 遅延変化率残差を書き出すSNテーブルのバージョン
>&u(){bchan 2} 周波数積分の分光チャネル範囲
>&u(){echan 63} 周波数積分の分光チャネル範囲(両端は捨てています)
>&u(){inp} パラメーターの一覧を表示して確認します。
[[(fringのパラメーターの一覧はこちら)>http://astro.sci.kagoshima-u.ac.jp/omodaka-nishio/member/kameno/AIPS-Difmap/DA193/AIPSMEMO/step31.fring.prm.txt]]
goと打って実行します。このtaskは実行に結構長い時間を要します。メッセージウィンドウに[[fring実行時のメッセージ>http://astro.sci.kagoshima-u.ac.jp/omodaka-nishio/member/kameno/AIPS-Difmap/DA193/AIPSMEMO/step31.fring.msg.txt]]が表示されますので、進捗状況を確認しましょう。R= と書かれたのが遅延変化率残差(
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*&u(){AIPSによる処理(5) 位相の較正}
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位相の較正には二つの目的があります。第一に、ビジビリティの位相は電波源の位置を反映するものなので、正しい天体の位置や構造を推定するためには、正しいビジビリティ位相が必要です。第二に、ビジビリティをコヒーレントに積分するためには位相が揃っている必要があります。
第二のポイントに着目してみましょう。ビジビリティの積分は信号雑音比を向上させるために必要ですし、ビジビリティをフーリエ変換して電波像にする操作だって積分です(フーリエ変換は別名フーリエ積分とも呼び、式からも分かるようにビジビリティのコヒーレントな積分です)。
位相が揃っていない状態でビジビリティを積分すると、コヒーレンス損失を起こして、ビジビリティ振幅が低下しています。コヒーレンス損失の概念については、こちらの[[アニメーション>http://astro.sci.kagoshima-u.ac.jp/omodaka-nishio/member/kameno/AIPS-Difmap/DA193/image/coherence.html]]をご覧下さい。
ビジビリティ位相が真の値からφだけずれていたとき、有効なビジビリティの値は真のビジビリティへの投影成分、つまりV cos φになります。位相φが標準偏差σでばらついているとき、ビジビリティ振幅は
#ref(image-1.png)
で与えられます。ここで、位相の確率密度分布p(φ)を正規分布だと仮定しました。例えばσ=1 radの標準偏差で位相がばらついていると、振幅は約40%も低下してしまうわけですね。これを防ぐために、位相の較正をきちっとおこない、位相を揃えた状態で積分することが肝要です。
&image(right,image-2.gif)位相の標準偏差とコヒーレンスとの関係。σ=1 radのときコヒーレンスは約0.6で、約40%の損失が発生する。
**&u(){1. フリンジフィット (FRING)}
*1.1 フリンジフィットはなぜ必要か
フリンジフィットとは、遅延時間残差や遅延変化率残差の補正を行って位相を揃え、ビジビリティをコヒーレントに積分できるようにする操作です。AIPSでは FRING という task を用いて遅延時間残差や遅延変化率残差の値を SN extension table に記録し、CLCAL によって CL extansion tableに適用します。
遅延時間残差とは、相関処理の際に追尾し切れなかった遅延のことです。観測局の時計オフセットや局位置の誤差, 天体位置の誤差, 大気の光路長などが原因で、相関器での遅延追尾はパーフェクトではありません。遅延残差をΔτ とすると、位相のズレは周波数νの関数で、
#ref(image-3.png)
となります。
遅延残差が時々刻々変化していくとき、その変化率を遅延変化率残差&ref(image-4.png)といいます。
#ref(image-5.png)
となりますね。ビジビリティをベクトルで、位相をベクトル矢印の向きで表すとすると、下図の左のような具合です。
#ref(image-6.gif)
左のように、遅延残差や遅延変化率残差によってビジビリティ位相が(時間-周波数)空間で揃っていない状態だと、積分したときにコヒーレンス損失が起こります。ビジビリティ振幅が低下してしまうわけですね。ではどうやって遅延残差や遅延変化率残差を補正したらいいでしょうか。それには、&ref(image-7.png)の空間においてビジビリティを積分し、その振幅が最大になるような&ref(image-7.png)を探すのです。いわば&ref(image-7.png)の絨毯爆撃。この操作をフリンジサーチといいます。
#ref(image-9.gif)
上図はフリンジサーチの例です。横軸が遅延残差 (Residual Delay), 縦軸が遅延変化率残差 (Residual Rate) で、グレースケールでビジビリティ振幅を表現しています。ビジビリティ振幅が最大になるのは遅延残差が0.081 μsec, 遅延変化率残差が-2.75×10-12のとき、ということがわかります。そのときの振幅が雑音レベルより有意に大きければ (SNR: 信号雑音比が大きければ)、「フリンジ検出」というわけです。
サーチを行う&ref(image-7.png)の範囲のことを、フリンジサーチ窓といいます。上図の表示範囲が「窓」ですね。
***1.2 FRINGの実行
それでは、fring という task を走らせてフリンジフィットをしてみましょう。
>&u(){task 'fring'} FRINGというtaskの使用宣言
>&u(){getn 2} カタログ番号2番のファイルを選択
>AIPS 1: Got(1) disk= 1 user=3018 type=UV BK084.MSORT.1
>&u(){calsou 'da193'''} 天体名がDA193のスキャンにおいてフリンジサーチ
>&u(){freqid 1} 周波数番号を1番 (15.4 GHz) に指定
>&u(){timer 0} 全ての時間範囲でフリンジサーチ
>&u(){docal -1} CLテーブルによる補正は適用しない
>&u(){doban -1} BPテーブルによる補正は適用しない
>&u(){outn ''} 出力のための新しいファイルは作成しない(既存ファイルのextension に書き出す)
>&u(){outcl ''} 出力のための新しいファイルは作成しない
>&u(){outs 0} 出力のための新しいファイルは作成しない
>&u(){outd 0} 出力のための新しいファイルは作成しない
>&u(){refan 9} 基準局としてアンテナ9番(PT)を選択
>&u(){solin 2} 2分毎の積分で遅延残差, 遅延変化率残差を求める
>&u(){inv -1} 天体の構造モデル (CC extension table) は使用しない(点源と見做す)
>&u(){flagv 1} フラッギング情報としてFG version 1を使用
>&u(){search 0} 基線サーチの順番は特に指定しない
>&u(){dofit 0} 全てのアンテナ番号について遅延残差, 遅延変化率残差を求める
>&u(){aparm 2, 0, 0, 0, 0, 2, 5, 0, 1, 0} 5番目はIF毎にサーチ, 6番目は途中経過を表示, 7番目は検出限界のSNR閾値
>&u(){dparm 0, 400, 100, 0} 2番目はサーチ窓の遅延残差範囲, 3番目は遅延変化率残差範囲
>&u(){snv 3} サーチ結果の遅延残差, 遅延変化率残差を書き出すSNテーブルのバージョン
>&u(){bchan 2} 周波数積分の分光チャネル範囲
>&u(){echan 63} 周波数積分の分光チャネル範囲(両端は捨てています)
>&u(){inp} パラメーターの一覧を表示して確認します。
[[(fringのパラメーターの一覧はこちら)>http://astro.sci.kagoshima-u.ac.jp/omodaka-nishio/member/kameno/AIPS-Difmap/DA193/AIPSMEMO/step31.fring.prm.txt]]
goと打って実行します。このtaskは実行に結構長い時間を要します。メッセージウィンドウに[[fring実行時のメッセージ>http://astro.sci.kagoshima-u.ac.jp/omodaka-nishio/member/kameno/AIPS-Difmap/DA193/AIPSMEMO/step31.fring.msg.txt]]が表示されますので、進捗状況を確認しましょう。R= と書かれたのが遅延変化率残差(&ref(image-4.png)に観測周波数νを掛けた値が表示され、単位はミリヘルツです)、D= と書かれたのが遅延残差(単位はナノ秒)です。SNR= と書かれたのが信号雑音比で、aparm(7)で指定した値を上回ればフリンジが検出されたものとして