(群論に限れば右作用が好まれる。)
単に作用といえば左作用が普通である。群Gの集合Xへの左作用とは以下の条件を満たす写像 σ: G→(X→X) をいう。
紛らわしくないときに σ(g)(x) = gx と書けば見かけ結合律が成立して便利である。
X*をXからYへの写像の集合とし,GのX*への作用を σ*(g)(f)(x) = f(gx) で定義しようとすると
となって具合が悪い。この場合は σ*(g)(x) = xg と書けばよく,右作用という。
或いは σ′(g)(f)(x) = f(g−1x) とすれば左作用になる。
GがYにも作用するならばGのX*への作用として σ″(g)(f)(x) = gf(g−1x) も考えられる。
さて,ここで実はX=Yであり,X*=σ(G)であるとしてもよい。そうするとGはG自身へ作用することになる。
これらが左作用の定義に適うことを確認するのは易しい。最後の形は共役作用と呼ぶ。
σを群Gから群Vへの右作用とする。 習慣的にvg=σ(v,g)と書くが、この記法は共役作用を意味するものではない。Vが群であるときは,v1=vとv(gh)=(vg)hに加えて(uv)g=ugvgが暗黙に仮定される。
Vの部分群UがGの任意の元gにつきUg=Uであるとき,UはG不変であるという。Vが非自明な不変部分を持たないとき,GはVに既約に作用するという。V上の恒等写像に対応するGの元を作用の核という。核がGの単位元のみであるとき,GはVに忠実に作用するという。
GはVに素に作用するとは,GがVに作用し,|G|と|V|が互いに素であることをいう。但し,GかVの一方が可解であることを仮定として要求することがある。
◇ XとYをGの部分群とし,Yは正規であるとする。|X|と|Y|が互いに素であれば,
である。但し,X又はYが可解であると仮定するか,若しくはトンプソンの奇数位数の定理を予め認めるものとする。
∵ 各式の左辺が右辺を含むことは明らかである。 gY∈NG/Y(XY/Y)であればXg≤XYである。XgとXは共にXY/Yの補群であるから,分裂定理により,Xgh=Xとなるh∈Yがあり,gh∈NG(X)であるからgY=ghY∈NG(X)Y/Yである。 特にgY=ghY∈CG/Y(XY/Y)であれば任意のx∈Xにつき[x,gh]∈Yであるが,gh∈NG(X)であるから[x,gh]∈Xであり,|X|と|Y|が互いに素であるから[x,gh]=1であり,gh∈CG(X)である。 最後の式はZ(G/Y)=CG/Y(GY/Y)から明らかである。
◇ 群Aが群Xに作用し,Xの正規部分群YがA不変であり,|A|と|Y|が互いに素であるとき,CX(A)Y/Y=CX/Y(A)である。
∵ G=AXとする。YはGの正規部分群であり,上の補題からCAX(A)Y/Y=CAX/Y(AY/Y)であり,辺毎にX/Yとの共通部分を取ればCX(A)Y/Y=CX/Y(AY/Y)となる。YがXの正規部分群であるから(xY)aY=xYは(xY)a=xYと同値であり,CX/Y(AY/Y)=CX/Y(A)である。
◇ AがXに素に作用していればX=[X,A]CX(A)である。 また,[X,A,A]=[X,A]である。
∵ Y=[X,A]とする。YはAXの正規部分群であり,AはX/Yに自明に作用する。上の補題によりX/Y=CX/Y(A)=CX(A)Y/Yであり,対応原理によりX=CX(A)Yである。 また,[X,A]=[CX(A)Y,A]=[Y,A]=[X,A,A]である。
◇ AがXに素に作用しているとき,AがXのフラッチニ剰余群X/Φ(X)に自明に作用すればXにも自明に作用する。
∵ AがXのフラッチニ剰余群に自明に作用すれば[X,A]≤Φ(X)である。 X=CX(A)[X,A]≤CX(A)Φ(X)≤XであるからCX(A)Φ(X)=Xであるが,フラッチニ部分群の元は非生成元であるからCX(A)=Xである。
◇ AがXに素に作用しているとき,YをXの正規部分群とし,AがYとX/Yに自明に作用すればXにも自明に作用する。
∵ AがYに自明に作用すれば[Y,A]=1であり,Y≤CX(A)である。また,AがX/Yに自明に作用すれば[X,A]≤Yである。 従い,先の補題によりX=[X,A]CX(A)≤YCX(A)=CX(A)である。
◇ AがXに素に作用し,Xの正規部分群YがYの中心化群を含むとき,AがYに自明に作用すればXにも自明に作用する。
∵ AがYに自明に作用すれば[Y,A,X]=[1,X]=1である。また,YがXの正規部分群であれば[X,Y,A]=[Y,A]=1である。従い,三部分群補題により[A,X,Y]=1となり,[A,X]≤CX(Y)≤Yであるから前条に帰着する。
◇ Aが有限冪零群Xに素に作用し,Xの部分群YがYの中心化群を含むとき,AがYに自明に作用すればXにも自明に作用する。
∵ Xが冪零群であるからYの正規化群NX(Y)はYより真に大きい。任意のa∈AにつきNX(Y)a=NX(Ya)であるが,YがA不変であるからNX(Y)もA不変である。従い,上の補題により,AはNX(Y)に自明に作用する。帰納法により,AがXに自明に作用する。
◇ Aが有限可解群Xに素に作用しているとき,AがXのフィッティング部分群F(X)に自明に作用すればXにも自明に作用する。
∵ フィッティング部分群は正規部分群であり,その中心化群を含むから前条に帰着する。