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ふぁいと ―stay hinamizawa― - (2007/05/03 (木) 01:53:48) のソース

沙都子ちゃんは、あまりの痛みに身をこわばらせていた。 
「ゃぁぁああッ! ぬ、抜いて、抜いてくださいまし、抜いてくださいましぃぃ!」 
「大丈夫ですよ……沙都子ちゃん……まだ、始まったばかりですから」 
自分が自分で嫌になる。 
沙都子ちゃんが好きだというのに……いや、好きだからこそやっているのだが…… 
とにかく私は、抽送を続ける。 
「やっ、やっ、やですぅぅ、ぬ、ぬぃてぇぇ! ふわぁああああああん!」 
「沙都子ちゃん、もうちょっとだから、もうちょっとだから、我慢して!」 

私もつらいというのは、たぶん自分を誤魔化すための言葉だ。 
事実私は、辛くないのだ。 
それどころか、愉悦の笑みさえ浮かべてるではないか。 
そんな自分の内なる暴力性に気付き、 
うろたえ、蔑み、嫌っていようと…… 
私は続けるのだ。 

「沙都子ちゃん、これで、最後だから」 
これを突き入れれば忘れてしまうのだから。 
沙都子ちゃんに贈る、私からの、最初で最後の花束。 
ひょっとすると……私は沙都子ちゃんの事が 
…………………………………好きだった。 
(もうオチは分かっているでしょうが、続きを読むには「リテ・ラトバリタ・メイド」と唱えてください。) 


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「はい、もう終わりですよ、沙都子ちゃん」 
「う、うう……酷いですわ、監督……」 
そう、これで何もかも終わりなのだ。 

雛見沢症候群は、たった今より、急速に撲滅される! 

沙都子ちゃんは、そのための実験台だった。 
一度そう思ってしまうと、こんな職業をやっているというのに心が痛む。 

「よかったですね、沙都子ちゃん」 
「何がですの……三本もお注射を打たれて、何が良かったんですのよ……」 
沙都子ちゃんはぐったりしてしまっているけれど、 
薬の副作用ではないだろう。 
たしかに沈静の作用はあるが、ここまで強力じゃない。 
さっきまで泣き叫んでいたせいだ。 

「これで……もう少しすれば……お別れかもしれませんね」 
「? 何を言ってますの?」 
「いえいえ、こちらの話ですよ……沙都子ちゃんは、悟史くんが帰ってくるとしたら、 
まずどうしてあげたいですか?」 
「ま、ますます意味がわかりませんわ。支離滅裂でしてよ」 
そういいつつも、真剣に考え込む沙都子ちゃんをかわいいと思う。 
一時は本当に、自分の家の子供にしたかったぐらいなのだから。 
「……とりあえず、挨拶しますわ」 
「はは、そうですね。挨拶は大切です。 
でもですね、私が聞いているのはそういうことじゃありません。 
……何度も言っているように、私は沙都子ちゃんの幸せを願っています。 
もし、再会がどんな形であっても……沙都子ちゃんは……受け止められますね?」 
「な、なんですの? もしかしてわたくしの体が目当てですの?」 
沙都子ちゃんが左右の腕を掴んで、身を固めた。 
何か勘違いされたようだ。 

「ふふ……単刀直入に言いましょう。 
悟史君は生きています。そして……私は居場所を知っています」 
「知ってますわ」 
「へ?」 
即答だった。 

「にーにーも……同じ病気なんでしょう?」 
「な、なぜ?」 
「分かりますもの。兄妹をなめないでくださいませ……っていうのは嘘ですわ。 
詩音さんも案外間抜けなんですのね。 
あんな浮かれた顔していましたら、誰でもわかりますわ」 
沙都子ちゃんは、そう言って笑った。 
その端には涙があった。 
本当は、信じきれなかったのだろう。 
詩音さんのことだって、確証ではないのだから。 

「悟史君は寝たきり生活だったので、まずリハビリを始めなければなりません。 
若いので筋組織の回復は早いと思いますが……後遺症は考えられます。 
今までどおりの生活が保障されるとは限りません……が、中にはそういう状態から回復するどころか、 
以前より増強されたという例もありますから」 
「に、にーにーが筋肉ムキムキになって帰ってきますの?」 
「ええ、そうかもしれませんね」 
私は冗談用の微笑を、沙都子ちゃんに投げかけた。 
沙都子ちゃんは一緒になって、笑ってくれる。 
この一瞬だけ……いつも、時が止まった気がする。 


「みー、沙都子、いっぱいお注射されてかわいそかわいそなのです」 
「梨花? 居ましたの?」 
「さっき来たばっかりなのです。もうお注射が終わったから、 
入っていいといわれたのですよ」 
そういいながら、梨花ちゃんは沙都子ちゃんに抱きついて、 
頭を撫でていた。 
微笑ましい光景だ。 
ずっとずっと見ていたい。 
でも……それも……雛見沢症候群が根絶されれば…… 

「入江も、かわいそかわいそなのです」 
「へ? あははは、嬉しいなぁ」 
突然の梨花ちゃんの手に、私はくすぐったいものを感じたけど、 
それを受け入れた。 
「いっぱいいっぱい撫でてあげますから」 
「ありがとうございます」 

「だから、泣くのはやめてほしいです。いい大人がみっともないですよ」 
ドキッとした。 
自分が涙を流していることさえ、気付かなかった。 

「い、いえいえ、ひ、雛見沢症候群の、根絶は……私の、夢でしたから」 
涙を流したことが分かったとたんに、 
私の声は涙声になってしまう。 
何とも不思議な体だった。 
「だったら、笑うですよ。にぱー☆」 
「に、にぱー☆」 

「……入江、もう決まっていたことなのですよ」 
「何がですか?」 
私は涙をぬぐって、梨花ちゃんの顔を見た。 
不思議と、十歳は大人びて見えた。 

「入江が必ずすると念じたことは、入江は必ず成すのです。 
だから……どうか、念じてください。 
お魎が入江をどこかには行かせないのです。 
お魎だけじゃない。雛見沢の皆が、入江をこれからも必要とするのですよ。 
走って転んだときは、誰に言えばいいですか? 
お風邪を引いたときは、誰に言えばいいですか? 
もし……誰かが大怪我をしたとき、神様に祈れとでも言いますですか? 
神様は居ますが、成すのは人間なのですよ。 
神様は最後の最後に、人差し指でほんの一押しするだけなのです。 
特にここの神様は……生意気ですから」 
そうして梨花ちゃんは、にっこり笑って言うのだ。 

「ふぁいと、おーなのです」 
「あはは、ふぁいと、おー」 
私も同じように、やった。 

ふぁいと -stay hinamizawa- ―完―