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私のほうが - (2007/09/01 (土) 01:00:02) の1つ前との変更点

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私は誰よりも美しい。 今日、私は学校を休んだ。 別に具合が悪かったわけではない。 両親が仕事で東京に行っているのをいいことに、そのままズル休みをしたのだ。 学校には風邪だと連絡した。 電話口でちょっと咳をしたら、あの人の良い先生はあっさりと騙されてくれた。 とても美人で、生徒達にも尊敬されている教師……千恵留美子。 だが所詮、彼女も女としては甘いということだ。 私の嘘にあっさりと騙されるあたり、やはり浅はかだと言うほかあるまい。 もっとも顔だけ見れば、この雛見沢の中でも数少ない美人に入る部類だとは思うが……。 私だってあのくらいの年になればもっともっと美しくなっているはず。 むしろ若さを兼ね備えている分、彼女よりも遥かに私は「上」なのだ。 たとえ「本物」ではなくとも、「本物」を越えることはできる。 それを私はこの雛見沢で証明して見せるのだから。 現に今の私はこんなにも輝いている。 こうして道を歩いているだけで、村人の誰もが振り返るほどだ。 まだ年端もいかない少女、少年。 青春真っ盛りの青年。 そして今、真横をすれ違っていった老獪なご年配の方々ですら。 「あんれまぁ~一体どこの子だろうねぇ。 あんな可愛いらしい子、村におったっけ?」 「あ~ほれほれ、あの**さん家の娘さんじゃないかい? にしてもほんと綺麗じゃねえ……」 そんなヒソヒソ声を聞くたび、私の中にとめどない優越感が沸いてくるのだ。 今日は学校を休んでほんとによかった……。 でなければこうして「この格好」で村を歩くなどできなかっただろうから。  さっき偶然会った鷹野さんですら、私を見て 「あらあら可愛い子ねぇ♪ 見ない顔だけど、どこのお家の子だったかしら?」 などと話かけてきたほどだ。 人口二千人にも満たないこの雛見沢では、私のような見たことのない「美少女」はさぞ珍しいのだろう。 つまり今の私は、誰の目から見ても「どこかのお家の女の子」というわけだ。 「……まあ、当然か♪」 田んぼに挟まれたあぜ道を歩きながら、おもわずそんなことをつぶやく。 こうなってくるとやはり、あの両親には感謝しなければならないだろう。 私をこのすがたへと目覚めさせてくれた、あの人達……。 私はこんなにも素晴らしい「美少女」へと昇華してくれた、お父様とお母様に……。 「……へ? 仕事の手伝いだって?」 ある日、俺は家で両親に声をかけられた。 父の仕事の資料でどうしても女の子の被写体が必要だから……「これ」を着てくれないか? と。 そうして両親が差し出してきたのは、生では初めて見るものだった。 まるでドレスのような感じのデザインで、全体に黒を基調としているお洋服……。 父の持っていた雑誌で見たことがあるが、いわゆるそれは「ゴスロリ服」と呼ばれるものだった。 上下の装飾にはレースやフリルがたっぷりと使われており、いかにもお嬢様が着るものといったゴージャスな雰囲気がしていた。 おまけに、手首、胸元、首などには小さな黒いリボンが付いていて、少女(ロリータ)という意味を象徴する装飾がいくつも施されていた。 スカートの丈の方もかなり短く、少しかがむだけで下着が見えてしまうんじゃないかというほどだった。 そしてその短いスカートを引き立てるように、同色のニーソックスまでもがしっかりと膝上までを覆い尽くせるほどの長さで用意してあった。 部活の罰ゲームで、たしか梨花ちゃんが似たようなデザインのものを着ていた記憶があるが……。 これを……男である自分に着ろと? 「あ、あんたら正気か!? お、お、おおお俺は男だぞぉーーーっ!?」 もちろん俺は即座に断わった。 いくら家計を支える父のためであっても、こんなドレスのようなものを着るのは男としてのプライドが許さなかったからだ。 何よりこんなものを自分の息子に着せようなどと、この両親は本気で変態ではないかと疑ったものだ。 そうして俺は何度も断わったのだが、彼らはそう簡単には折れてくれなかった。 「はっはっは、照れ屋さんだなぁ圭一は~♪ ほんとは着てみたいんだろう?」 「だ、誰が着てみたいんだよ、この変態親父がっ! おふくろも何か言ってくれよ!」 「まぁまぁそんなこと言わず、おねがいよ圭一。 お父さんを助けると思って……ね?」 そうしてお袋は俺に何枚かのお札を差し出した。 これを着てくれたら、なんとバイト代まで出すと言っているのである。 その具体的な金額を見て……少しだけ心が揺らいだ。 「ちょっとこれを着るだけで……そ、そんなにくれるの? むむむ……」 女装することと金額を天秤にかけ、それを頭の中でクールに判断していく。 よく考えてみれば、普段からこういった女の子の服は罰ゲームで着せられている。 魅音やレナはそういった女装系は俺を狙い撃ちしていて、メイド服やセーラー服といった恥ずかしい格好はけっこう頻繁に着させられているのだ。 おまけにその格好のまま下校までさせられるのだから、すでに俺は村中の人間に「そういった趣味」があるものと勘違いされていてもおかしくない。 ならば今さら両親二人に見られるぐらい、どうでもいいことなのではないか……? もっとも血の繋がった人間に見られるのはまた別かもしれないが。 それさえガマンすればこの破格のバイト代がもらえるのだから、別にかまわないかなとも思った。 「…………わかった、いいぜ」 そうして俺はその服……。 ゴスロリ服を着ることを承諾した。 女の子の洋服。 おまけにこんな特殊なものを着た経験がない俺は最初とまどったが、おふくろがわざわざ着させてあげると世話をしてくれた。 「お、おいおふくろ! ちょっとやりすぎじゃ……」 「いいからいいから♪ いや~前々からこんな女の子が欲しかったのよね~♪」 その時のおふくろはとてもノリノリで、実の息子である俺を女装させていった。 写真に写るため本物の女の子に見えなければいけないらしく、なんと俺の顔に化粧まで施していったのである。 そしてあらかじめ用意していたのか、ロングの綺麗なかつらまでかぶせられ……。 もはや俺はおふくろ専用の着せ替え人形と化していた。 「はい、完成♪ とっても可愛いわよ~圭一ぃ♪」 「ば、ばか何言ってんだよ! ったく……」 「はっはっは、照れるな照れるな♪ ほんとに可愛いぞぉ、お父さん辛抱たまらんなぁ!」 「死ね変態親父! さ、さっさと終わらせようぜ!」 そうして俺は親父のアトリエで写真を撮られることになった。 そこの壁にはしっかりと白いカーテンが張られていて、その前にはアンティークなイスが用意されていた。 親父はこういった撮影には慣れているようで、女装した俺はそこでさまざまな要求をされていった。 イスに座り、指を噛みながら甘えるような表情をさせられたり、下着が見えてしまうだろうという女豹のポーズをさせられたりと……。 正直ものすごく嫌だったが、これもあの金額のためと黙って従っていった。 そうして長い長い時間が過ぎ、ようやく親父のフラッシュの音が止むと俺の屈辱のバイトは終わった。 そして親父は取り終わった写真を現像すると、すぐに俺とおふくろに見せてくれた。 一体どんな変態女装男が写っているのかと思いながらそれを見ると、そこに写っていたものは……。 「へ…………これが俺?」 そこには、生まれてこの方見たことの無いほどの「美少女」が写っていた。 ニコっと可愛く笑顔を振りまきながら、首をかたむけてイスに座っている女の子……。 おふくろの化粧が上手かったのか、それとも俺の「才能」のなせる技なのか、そこに写っている女の子にはまるで違和感が無かったのである。 着ている服がゴージャスなせいもあり、深窓のお嬢様といった雰囲気も感じられた。 こんな可愛い女の子が道を歩いていたら、俺は間違いなくナンパする。 そんなふうに思えるほど「俺」は美しかった。 そしてその女の子を見たとき、俺の中でいままで感じたことのない感情が芽生えていった。 優越感や高揚感といった、そんなドクドクとしたものが胸の中で混ざり合っていく感じ……。 その感情が何なのか、その時の俺にはわからなかったが……とりあえず一つだけ確かに感じたことがあった。 「この子……あいつらより可愛いな……」 魅音、レナ、沙都子、梨花……。 俺が愛する部活メンバーよりも断然可愛い。 冷静に考えればそんなことは有り得ないのだが、その時の俺にはなぜかその考えが確実にそうだと思える自身があるのだった……。 それ以来、「私」はそのゴスロリ服をよく着るようになった。 父に部活の罰ゲームで使えそうだからと譲ってもらい、ほぼ毎日自分の部屋で身に着けるようになった。 鏡で自分の女装したすがたを見ると、私はますますその魅力を引き出したくなった。 すがた形だけでなく、立ち振る舞いや雰囲気も完璧な女の子になりたいと思うようになったのだ。 まずお化粧の仕方は母のしているところを見て学び、御気飲み屋で女性雑誌もたくさん買いあさった。 女性特有の歩き方や仕草も、雑誌や母を観察して身につけるようにした。 お料理も手伝いたいからという理由で教わるようになったし、洗濯や掃除も率先して自分でやるようになった。 その息子の「親孝行」に、母はとても喜んでいたが……はっきりいってそれは的外れだった。 でも別に罪悪感とかは感じなかった。 母だって娘が欲しいと言っていたし、そもそも私はこんなにも可愛い「女の子」なのだから、それをより完璧にすることの何がいけないというのか。 こんな山奥の田舎に、こんなにも素晴らしい「美少女」がいる。 それを世間に知らしめないなんて、この雛見沢にとって何よりの損失だろう。  ……そう思うようになっていた。 そうして日々女の子の格好をし、女の子の仕草を勉強していくと、私はもうすっかり心まで女に染まっていた。 もはや女装しているという考え方がなくなったし、むしろ普段のあの前原圭一が仮のすがただと言えるほどの考えに至っていたのである。 「……だけど……まだ足りない」 学校へと続く並木道を歩きながら、そう呟く。 こうして身も心も女になり、女の気持ちが身近に感じられてくると……。 ずっと一緒に過ごしてきたあの子達のことが、特に気になるようになったのである。 ……悪い意味で。 園崎魅音、竜宮礼菜、北条沙都子。 ……そして古手梨花。 今ならあの部活メンバー四人が、どれほど素敵な女の子であるのかがよくわかる。 それぞれが女の子としてとても魅力的な部分を持っていて、それでいてそれに驕るような仕草は微塵もみせない。 男であったときは、彼女達に性的な欲望を感じることすらあったのに……。 今の私は、むしろ彼女達を疎ましいとすら思うようになっていた。 「魅音……レナ……沙都子……梨花っ!」 四人の顔を思い浮かべ、ギュっと唇を噛み締める。 あの子達さえいなければ、この雛見沢でもっとも美しいのは私なのに……。 村で権力のある家系だかなんだか知らないが、こんなにも美しい私なら村中の人間の心を掌握することなど容易い。 たとえ人の嘘が簡単にわかる女だろうがなんだろうが、この私の本当のすがたまで見破れるわけがない。 トラップ? 罠だとぉ? そんなチンケなもので、このクールな頭を持った私を止められるものか。 たかが高貴な家系に生まれ出でたというだけで、村人にチヤホヤされまくっているあの女も同じこと……。 オヤシロ様の巫女? 生まれ変わりだぁ? 馬鹿を言うな、オヤシロ様はこの私だ!!! あんな女が神などであってたまるものかっ!!! あー憎い憎い憎いあの女達が憎い! あいつらさえいなければ、あいつらさえいなければ! アノコタチサエイナケレバ……ワタシガイチバンカワイイノニ……。 &counter()
私は誰よりも美しい。 今日、私は学校を休んだ。 別に具合が悪かったわけではない。 両親が仕事で東京に行っているのをいいことに、そのままズル休みをしたのだ。 学校には風邪だと連絡した。 電話口でちょっと咳をしたら、あの人の良い先生はあっさりと騙されてくれた。 とても美人で、生徒達にも尊敬されている教師……千恵留美子。 だが所詮、彼女も女としては甘いということだ。 私の嘘にあっさりと騙されるあたり、やはり浅はかだと言うほかあるまい。 もっとも顔だけ見れば、この雛見沢の中でも数少ない美人に入る部類だとは思うが……。 私だってあのくらいの年になればもっともっと美しくなっているはず。 むしろ若さを兼ね備えている分、彼女よりも遥かに私は「上」なのだ。 たとえ「本物」ではなくとも、「本物」を越えることはできる。 それを私はこの雛見沢で証明して見せるのだから。 現に今の私はこんなにも輝いている。 こうして道を歩いているだけで、村人の誰もが振り返るほどだ。 まだ年端もいかない少女、少年。 青春真っ盛りの青年。 そして今、真横をすれ違っていった老獪なご年配の方々ですら。 「あんれまぁ~一体どこの子だろうねぇ。 あんな可愛いらしい子、村におったっけ?」 「あ~ほれほれ、あの**さん家の娘さんじゃないかい? にしてもほんと綺麗じゃねえ……」 そんなヒソヒソ声を聞くたび、私の中にとめどない優越感が沸いてくるのだ。 今日は学校を休んでほんとによかった……。 でなければこうして「この格好」で村を歩くなどできなかっただろうから。  さっき偶然会った鷹野さんですら、私を見て 「あらあら可愛い子ねぇ♪ 見ない顔だけど、どこのお家の子だったかしら?」 などと話かけてきたほどだ。 人口二千人にも満たないこの雛見沢では、私のような見たことのない「美少女」はさぞ珍しいのだろう。 つまり今の私は、誰の目から見ても「どこかのお家の女の子」というわけだ。 「……まあ、当然か♪」 田んぼに挟まれたあぜ道を歩きながら、おもわずそんなことをつぶやく。 こうなってくるとやはり、あの両親には感謝しなければならないだろう。 私をこのすがたへと目覚めさせてくれた、あの人達……。 私はこんなにも素晴らしい「美少女」へと昇華してくれた、お父様とお母様に……。 「……へ? 仕事の手伝いだって?」 ある日、俺は家で両親に声をかけられた。 父の仕事の資料でどうしても女の子の被写体が必要だから……「これ」を着てくれないか? と。 そうして両親が差し出してきたのは、生では初めて見るものだった。 まるでドレスのような感じのデザインで、全体に黒を基調としているお洋服……。 父の持っていた雑誌で見たことがあるが、いわゆるそれは「ゴスロリ服」と呼ばれるものだった。 上下の装飾にはレースやフリルがたっぷりと使われており、いかにもお嬢様が着るものといったゴージャスな雰囲気がしていた。 おまけに、手首、胸元、首などには小さな黒いリボンが付いていて、少女(ロリータ)という意味を象徴する装飾がいくつも施されていた。 スカートの丈の方もかなり短く、少しかがむだけで下着が見えてしまうんじゃないかというほどだった。 そしてその短いスカートを引き立てるように、同色のニーソックスまでもがしっかりと膝上までを覆い尽くせるほどの長さで用意してあった。 部活の罰ゲームで、たしか梨花ちゃんが似たようなデザインのものを着ていた記憶があるが……。 これを……男である自分に着ろと? 「あ、あんたら正気か!? お、お、おおお俺は男だぞぉーーーっ!?」 もちろん俺は即座に断わった。 いくら家計を支える父のためであっても、こんなドレスのようなものを着るのは男としてのプライドが許さなかったからだ。 何よりこんなものを自分の息子に着せようなどと、この両親は本気で変態ではないかと疑ったものだ。 そうして俺は何度も断わったのだが、彼らはそう簡単には折れてくれなかった。 「はっはっは、照れ屋さんだなぁ圭一は~♪ ほんとは着てみたいんだろう?」 「だ、誰が着てみたいんだよ、この変態親父がっ! おふくろも何か言ってくれよ!」 「まぁまぁそんなこと言わず、おねがいよ圭一。 お父さんを助けると思って……ね?」 そうしてお袋は俺に何枚かのお札を差し出した。 これを着てくれたら、なんとバイト代まで出すと言っているのである。 その具体的な金額を見て……少しだけ心が揺らいだ。 「ちょっとこれを着るだけで……そ、そんなにくれるの? むむむ……」 女装することと金額を天秤にかけ、それを頭の中でクールに判断していく。 よく考えてみれば、普段からこういった女の子の服は罰ゲームで着せられている。 魅音やレナはそういった女装系は俺を狙い撃ちしていて、メイド服やセーラー服といった恥ずかしい格好はけっこう頻繁に着させられているのだ。 おまけにその格好のまま下校までさせられるのだから、すでに俺は村中の人間に「そういった趣味」があるものと勘違いされていてもおかしくない。 ならば今さら両親二人に見られるぐらい、どうでもいいことなのではないか……? もっとも血の繋がった人間に見られるのはまた別かもしれないが。 それさえガマンすればこの破格のバイト代がもらえるのだから、別にかまわないかなとも思った。 「…………わかった、いいぜ」 そうして俺はその服……。 ゴスロリ服を着ることを承諾した。 女の子の洋服。 おまけにこんな特殊なものを着た経験がない俺は最初とまどったが、おふくろがわざわざ着させてあげると世話をしてくれた。 「お、おいおふくろ! ちょっとやりすぎじゃ……」 「いいからいいから♪ いや~前々からこんな女の子が欲しかったのよね~♪」 その時のおふくろはとてもノリノリで、実の息子である俺を女装させていった。 写真に写るため本物の女の子に見えなければいけないらしく、なんと俺の顔に化粧まで施していったのである。 そしてあらかじめ用意していたのか、ロングの綺麗なかつらまでかぶせられ……。 もはや俺はおふくろ専用の着せ替え人形と化していた。 「はい、完成♪ とっても可愛いわよ~圭一ぃ♪」 「ば、ばか何言ってんだよ! ったく……」 「はっはっは、照れるな照れるな♪ ほんとに可愛いぞぉ、お父さん辛抱たまらんなぁ!」 「死ね変態親父! さ、さっさと終わらせようぜ!」 そうして俺は親父のアトリエで写真を撮られることになった。 そこの壁にはしっかりと白いカーテンが張られていて、その前にはアンティークなイスが用意されていた。 親父はこういった撮影には慣れているようで、女装した俺はそこでさまざまな要求をされていった。 イスに座り、指を噛みながら甘えるような表情をさせられたり、下着が見えてしまうだろうという女豹のポーズをさせられたりと……。 正直ものすごく嫌だったが、これもあの金額のためと黙って従っていった。 そうして長い長い時間が過ぎ、ようやく親父のフラッシュの音が止むと俺の屈辱のバイトは終わった。 そして親父は取り終わった写真を現像すると、すぐに俺とおふくろに見せてくれた。 一体どんな変態女装男が写っているのかと思いながらそれを見ると、そこに写っていたものは……。 「へ…………これが俺?」 そこには、生まれてこの方見たことの無いほどの「美少女」が写っていた。 ニコっと可愛く笑顔を振りまきながら、首をかたむけてイスに座っている女の子……。 おふくろの化粧が上手かったのか、それとも俺の「才能」のなせる技なのか、そこに写っている女の子にはまるで違和感が無かったのである。 着ている服がゴージャスなせいもあり、深窓のお嬢様といった雰囲気も感じられた。 こんな可愛い女の子が道を歩いていたら、俺は間違いなくナンパする。 そんなふうに思えるほど「俺」は美しかった。 そしてその女の子を見たとき、俺の中でいままで感じたことのない感情が芽生えていった。 優越感や高揚感といった、そんなドクドクとしたものが胸の中で混ざり合っていく感じ……。 その感情が何なのか、その時の俺にはわからなかったが……とりあえず一つだけ確かに感じたことがあった。 「この子……あいつらより可愛いな……」 魅音、レナ、沙都子、梨花……。 俺が愛する部活メンバーよりも断然可愛い。 冷静に考えればそんなことは有り得ないのだが、その時の俺にはなぜかその考えが確実にそうだと思える自身があるのだった……。 それ以来、「私」はそのゴスロリ服をよく着るようになった。 父に部活の罰ゲームで使えそうだからと譲ってもらい、ほぼ毎日自分の部屋で身に着けるようになった。 鏡で自分の女装したすがたを見ると、私はますますその魅力を引き出したくなった。 すがた形だけでなく、立ち振る舞いや雰囲気も完璧な女の子になりたいと思うようになったのだ。 まずお化粧の仕方は母のしているところを見て学び、御気飲み屋で女性雑誌もたくさん買いあさった。 女性特有の歩き方や仕草も、雑誌や母を観察して身につけるようにした。 お料理も手伝いたいからという理由で教わるようになったし、洗濯や掃除も率先して自分でやるようになった。 その息子の「親孝行」に、母はとても喜んでいたが……はっきりいってそれは的外れだった。 でも別に罪悪感とかは感じなかった。 母だって娘が欲しいと言っていたし、そもそも私はこんなにも可愛い「女の子」なのだから、それをより完璧にすることの何がいけないというのか。 こんな山奥の田舎に、こんなにも素晴らしい「美少女」がいる。 それを世間に知らしめないなんて、この雛見沢にとって何よりの損失だろう。  ……そう思うようになっていた。 そうして日々女の子の格好をし、女の子の仕草を勉強していくと、私はもうすっかり心まで女に染まっていた。 もはや女装しているという考え方がなくなったし、むしろ普段のあの前原圭一が仮のすがただと言えるほどの考えに至っていたのである。 「……だけど……まだ足りない」 学校へと続く並木道を歩きながら、そう呟く。 こうして身も心も女になり、女の気持ちが身近に感じられてくると……。 ずっと一緒に過ごしてきたあの子達のことが、特に気になるようになったのである。 ……悪い意味で。 園崎魅音、竜宮礼菜、北条沙都子。 ……そして、古手梨花。 今ならあの部活メンバー四人が、どれほど素敵な女の子であるのかがよくわかる。 それぞれが女の子としてとても魅力的な部分を持っていて、それでいてそれに驕るような仕草は微塵もみせない。 男であったときは、彼女達に性的な欲望を感じることすらあったのに……。 今の私は、むしろ彼女達を疎ましいとすら思うようになっていた。 「魅音……レナ……沙都子……梨花っ!」 四人の顔を思い浮かべ、ギュっと唇を噛み締める。 あの子達さえいなければ、この雛見沢でもっとも美しいのは私なのに……。 村で権力のある家系だかなんだか知らないが、こんなにも美しい私なら村中の人間の心を掌握することなど容易い。 たとえ人の嘘が簡単にわかる女だろうがなんだろうが、この私の本当のすがたまで見破れるわけがない。 トラップ? 罠だとぉ? そんなチンケなもので、このクールな頭を持った私を止められるものか。 たかが高貴な家系に生まれ出でたというだけで、村人にチヤホヤされまくっているあの女も同じこと……。 オヤシロ様の巫女? 生まれ変わりだぁ? 馬鹿を言うな、オヤシロ様はこの私だ!!! あんな女が神などであってたまるものかっ!!! あー憎い憎い憎いあの女達が憎い! あいつらさえいなければ、あいつらさえいなければ! アノコタチサエイナケレバ……ワタシガイチバンカワイイノニ……。 &counter()

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