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Miwotsukushi2 - (2007/09/26 (水) 18:04:47) の1つ前との変更点

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<p>レナと魅音は結局帰ってこなかった。<br> 知恵先生には梨花ちゃんが適当に話を繕い、午後の授業が開始。<br> 当然半ば自習状態の学習に身が入るはずもなく、俺は窓の外と教室の扉を交互に目を配らせた。<br> 小一時間首が百八十度の運動をし続けたので、若干首の根本に違和感がある。</p> <p>「圭一、今日は一人で帰るのです」<br> 終業のベルが鳴ってしまい、どうしたものかとうろたえていると、梨花ちゃんの助け船がやってきた。<br> 探すな、とレナに言われていることもあり、俺は大人しく家路に着くことにする。<br> 沙都子は少しだけ悲しい顔をしながら俺の顔を見据えたが、俺が頭をぐしゃぐしゃに撫でてやると顔を和らげた。<br> 俺がずっと押し黙って、レナも魅音も居ないわけだから、沙都子には今日はつまらない日だったのだろう。<br> 最低限俺は大丈夫だ、と言うことを、俺は頭を撫でてやることで表現した。<br> 「圭一さん、明日は魅音さんを泣かせてはいけませんことよ」<br> 年下から説教を喰らってしまい俺は苦笑してしまったが、梨花ちゃんが真剣な眼差しで俺を直視していたので、敬礼の合図で応える。<br> それを良しとした所で、梨花ちゃんと沙都子は夏真っ盛りの太陽の方向へと走り出していった。<br> 俺もそんな二人を視界に入れながら歩き出す。<br> 校門……とは呼ばれてないが、道と敷地とを隔てる場所まで来て、一度校舎の方に体を返した。<br> 緑色の髪をした委員長が、置いてきぼりを喰らったことに腹を立てながら走ってくるじゃないかと。<br> ちょっとした希望めいたものに体が反応して、俺は魅音の姿を一通り探してみた。<br> だが俺の視界には元気よく走り回る男の子たちの姿しか確認できない。<br> 謝るのは明日になりそうだな、とぼやきつつ、俺は再度自宅へと足を踏み出した。</p> <p> </p> <p>「やっぱり遭遇率が異常に高いと思うんだ、俺は」<br> 「ふっふー、神様の赤い糸が圭ちゃんには見えませんかー?」<br> 勘弁してくれ、とばかりに俺は両手で降参のポーズをする。<br> 目の前には明らかに雛見沢では異端の黒塗り、しかも恐らくは外国製の高級車だ。<br> 今日の問題の原因とも言うべき詩音が、俺が帰りだして約三分の所で会う羽目になったのは、もはや偶然とは言わないだろう。<br> 「昼休み来なかっただろ……、沙都子心配してたぜ」<br> 病気でわざわざこっちの診療所まで来たのか、と直感が走ったが、顔色を見る限りそうでもなさそうである。<br> 体調を崩したわけでもないのに、しかも俺の前で元気そうな振る舞いをすることが、逆に不安を募らせる。</p> <p>こいつはきっと……、また無理をしている。</p> <p>根拠はないけど、その根拠のなさだからこそ信じれるものがある。<br> 第六感だから見抜けるモノがある。<br> もちろんそれだけじゃ生きていけないんだけど、逆に理屈だけじゃ俺らは【進めなかったんだ】。<br> この初夏を最高の仲間で迎えられたのは、絶対に社会の大人の頭では出来ないこと。</p> <p>全員の意志が結晶して打ち破った輪廻からの脱出。</p> <p>梨花ちゃんの言っていた言葉が思い出される。<br> 「今日うちの学校期末試験だったんです。さすがに留年はまずいんで、今日は行けませんでした」<br> 苦笑しながら詩音が俺に応える。<br> 不自然じゃない。筋が通る理由だ。魅音と違っていつもの表情と全く同じ顔である。<br> だからこそ、その不自然の無さが不安を駆り立てる。<br> 「それで詩音、今日はどうしてこんな時間に来たんだ?」<br> 思い当たる節はあるものの、俺はあえて詩音に理由をしゃべらせた。<br> こちらで勝手に選択肢を設けてしまっては、詩音の胸の内が読みにくくなると考えたからだ。<br> 「診療所です」<br> 一度俺の中で否定された可能性。それを詩音は口にした。<br> 俺は詩音に、具合が悪いのかと問うたが、詩音は即答せずに俺の目を見続けた。<br> まるで何か値踏みしているような、疑り深い瞳で俺の顔をえぐる。</p> <p>「圭ちゃんは……私をどう見ていますか?」<br> 「へ?」<br> 素っ頓狂な声を出してもおかしくない詩音の質問だ。<br> 確かに数秒前までは、詩音が雛見沢が来た理由の会話だったはずなのだが。<br> ここで突然のボディーブローに、しばらくパニックになる。<br> 「に……濁すなよ、詩音」<br> 「濁してるのは圭ちゃんです。大事な質問なんです。応えてください」<br> 更に鋭く切り返してきたことで、俺は完全に面食らった。<br> まさかこんな状況で告白タイムを作って、俺の恥を増やすわけでもあるまい。<br> 何よりも詩音の表情が真剣で、今日幾重の起きたことが重なって、今が大きな分岐点であることを想起させる。<br> 意図は読めない。考えたくはないが、本当に詩音が俺を茶化してるだけなのかもしれない。<br> しかし、もし【そうじゃなかったら】の比重を考えれば、俺は真面目に応えるしかないだろう。<br> 俺は顎に手を置いて、自分が今考えているのを詩音にアピールした。<br> 詩音も俺に追い打ちはかけず、俺が口を開くのを待つ。<br> 「詩音は俺にとって最高の仲間だよ」<br> いつも俺が、部活のメンバーについて聞かれた時に言う定型句。<br> だがそれは同時にいつも思っていること。<br> いつも思っているから確信を込められる。<br> いつも実感しているから本人にも言える。<br> それが最善の言葉なのかは分からないが、唯一の自分に正直な答。<br> 俺が口を閉じた後に、詩音が悲しそうな表情に変わったのは、気のせいではないように思えた。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p><br> やはり、が的中してしまった。<br> 少しだけ希望をかけてしまった自分を悔やむ。<br> 反対にただ本人の口から聞いて確定してしまっただけ。</p> <p>私は圭ちゃんにとって仲間以上の存在ではないんだって。</p> <p>テストの出来が悪いなー、と思って返ってきたテストが赤点だったのに似てる。<br> ただそのテストの内容が【私自身】なだけ。<br> それも圭ちゃんは私に赤点を与えたわけではない。<br> 最高の仲間……。きっとテストでは、合格点どころか八十や九十を超えるベストの成績だ。<br> クラスや学年でも数人にしか与えられない、誇るべき数字。<br> でも私が欲しかったのは百点だった。<br> 私はお姉たちのように常に生活を共にしているわけでもない。<br> 贅沢な悩みであることが、今の比喩で分かるというのに。<br> それなのに私は圭ちゃんに言って欲しかったんだ。</p> <p>お前は俺にとって一番大事な奴だ</p> <p>呪われた私にはあまりにも高望みのその言葉。<br> 自分で気付くことも出来ず、お姉の前で吐露して初めて気付いた感情だと言うのに。<br> 私には資格と言えるものが一つも揃っていないのに。<br> 何で私は求めてしまうんだろう。<br> 人一倍賢い気でいた数年前の私はどこに行ったんだろう。<br> いつから一人すら愛する資格がないくせに、違う人を愛するまで欲張りとなったんだろう。</p> <p>努力しなきゃ、百点なんて取れるはずがないのに。</p> <p>「葛西、ごめん出して」<br> 今圭ちゃんの前に居ることが耐えられなくなって、私は逃げようと葛西に告げた。<br> 葛西は無言で私に頷き、ハンドルに手をかける。<br> このままここに居ては、必ず無様な姿を見せてしまうことになる。<br> それは会話を有耶無耶にして逃げることに比べれば、遙かに私にとって許し難いことだった。<br> 「お……おい、詩音、待て!」<br> 開いていた窓から縁を掴んで、圭ちゃんは静止を促した。<br> 瞬間、止めようかと口を開きかけたが、ここで止めても自分の首を絞めるだけなので、私は口を結んだ。<br> 速度はどんどん上がっていき、エンジンの轟音が車内に響くようになる。<br> 「詩音さん、前原さんが……」<br> 葛西が言うものだから後ろを振り向いたが、ぞっとした。<br> 既にこの車は相当のスピードが出ているのにも関わらず、窓の所には未だ圭ちゃんの手がかかっていたのだ。<br> こちらを見つめながら、何かを告げるように口を開いている。<br> いくら対向から車が来ないとは言え、この道は舗装などされていない。<br> 足を取られて転倒しては、これだけの速度だ。下手をすれば骨の保障だって出来ない。<br> 今走っている最中でさえ、車輪に足を巻き込まれたらミンチになってしまうだろう。<br> 「け……圭ちゃん! 葛西、止めて!」<br> 半ば急ブレーキの停止に、圭ちゃんは勢いが余って地べたに転がり込んでしまった。<br> ブレーキがたてた砂埃に咳き込みながら、私はドアを開けて圭ちゃんに近づいた。<br> 擦りむけた膝から、次第に朱色の血がにじみ出してくる。<br> 「ザマぁねえな、こりゃ」<br> 汚れてしまった短パンやTシャツを払いながら、圭ちゃんは私に笑ってみせる。<br> 圭ちゃんにこうなった責任は欠片すらないのに、無垢な表情を私へと向ける。<br> あまりにも今の私には痛々しいはずの笑顔。自らの罪悪感が掻き立てられる天使の悪戯。<br> それなのに圭ちゃんの笑顔が温め、癒し、染み渡る。<br> 無知の子供が浮かべるとは正反対のもの。すべてを背負い、抱き、許す女神に相応しいものじゃないか。<br> 「け……けぃちゃぁん…………」<br> 発音もままならなく圭ちゃんの胸に私は沈む。<br> 圭ちゃんのことでもう泣くことはしないと決めた。だが一度堰を切った涙が止まるはずがない。<br> 寄りかかるように圭ちゃんの胸に自分の身を預け、道のど真ん中で私は園崎として許されない姿をさらけ出した。<br> ただの詩音と言う少女が、一人の男の子の胸で涙を流す。<br> 「お……おい、どうしちゃったんだよ……」<br> 会話を中断させ、車を発進させ、あまつさえ泣き出した私に、圭ちゃんは戸惑っているようだ。</p> <p>別に圭ちゃんは分かる必要はない。<br> 居るだけで私を引っ張ってくれるヒト。<br> だから……もう少しだけワガママさせてください。</p> <p>圭ちゃんの手が肩に置かれる。二三の言葉を掛けられたがよく聞こえない。<br> ここで一度私の記憶は分断された。</p> <p> </p>

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