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アンダースタンド2 - (2007/12/23 (日) 19:55:27) の1つ前との変更点

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[[アンダースタンド1]]の続き ---- 「あ~、こんなことあったなぁ。懐かしい……」 結局、ズル休みすることにしたんだけど。 別に具合が悪いわけじゃないから、そうそう眠っていられるもんでもない。 あまりにも暇なので、押入れから子供の頃のアルバムを引っ張り出してきて見ているってわけだ。 「えっと、こっちが私で……こっちが詩音? 逆だったかな」 この頃の私たちは、当たり前のように入れ替わっていた。 私は詩音であり、魅音でもあった。 詩音は冷めてて怖いところもあったけど、本当に優しいお姉ちゃんで。 小さい頃は私がめそめそしていると、いつも慰めてくれたんだっけ。 ……もっとも、そんな楽しかった日々も長くは続かなかったわけだけれど……。 「魅音を頑張れ、か……」 一年前に詩音から聞いた言葉を反芻する。 ……本来、詩音に与えられるはずだった次期頭首の座。 それを……不本意な形であったとはいえ、私は奪い取ってしまった。 だからなんだろうか。 だから……私は詩音に対して遠慮しているのだろうか。 圭ちゃんに気持ちを伝えられないのも、それが原因……? …………違うでしょ。 そんなの言い訳でしかない。 ……ダメだダメだ。 自分の思い切りの悪さを、詩音のせいにするなんて……。 「ああ、もぅ……。またマイナス思考に陥っているな……」 ……焦る必要はないって。 だって、圭ちゃんも詩音も付き合っているわけじゃないって言ってたし。 ……ふたりはたった一度、過ちを犯しただけ。 それ以上の関係になんて、そう簡単にはならないって。 今までどおりに過ごしていれば、いつかは絶好の機会が訪れるはずだから。 「……よし。明日からはまた自分らしく……魅音らしく頑張っていこう」 言葉を口にすることで、決意をより強固なものにする。 自らに暗示を掛けるように、何度も何度も口にする。 魅音らしく魅音らしくピンポンらしくピンポンピンポンピンポン……。 「……うるさい……」 しつこいくらいに呼び鈴を押す音が聞こえる。 ……あー、そっか。 今日はお手伝いさんがひとりも居ないし、婆っちゃもお稽古に行っちゃってるんだっけ。 ……面倒くさいが、私が出るしかないのか。 もそもそと布団から這い出て、玄関を目指し歩き出す。 ……あれ、なんか天気悪いな? こりゃあ、ちょっと本格的に降りそうな感じだ。 さっきまで晴れていたんだけどなぁ……。 なんて考えている間に玄関へ到着。 「はーい。どちら様ですかぁ?」 「あ、お姉ですか?! 私です! 早く開けてください!」 「あれ、詩音!?? 待ってて、すぐに開けるから!」 急いで施錠を外し、戸を開ける。 「やっほー、お姉! 体調はどうですか? 心配で心配でお見舞いに来ちゃいました!」 「あ……あはは! うん、だいぶいいよ。熱も下がったし。そうだ! せっかく来たんだから、上がっていきなよ。今日は婆っちゃも出掛けてるから、ゆっくりできるし」 ……詩音が転校してきて以来、毎日のように顔を合わせているからだろうか。 たった半日会わなかっただけなのに、私は詩音に会えた事をとても喜んでいる。 ……お互いの立場が入れ替わってしまったとしても、やっぱり彼女は、私にとって甘えたい相手なのだ。 「う~ん、……せっかくのお誘いなのに申し訳ないんですけど、今日はパスってことで」 「え~、なんでよ? いいじゃん。今日はバイトのシフト、入ってないはずでしょ?」 「そうなんですけど。……でも、明日はどうしても休めませんから。今日は早めに床について、しっかりと体調を整えておきたいんです」 「明日? あ、そっか。明日ってデザートフェスタだっけ」 「はい。明日、……デザートフェスタの場で返事をもらうんです」 詩音が……妙に引っ掛かる言い方をした。 「……返……事……? 誰から……? …………何の?」 「圭ちゃんから。付き合ってもらえるかどうかの」 「………………。………………え?」 詩音のあまりに唐突な発言に、思考が付いていけなかった。 付き合う……? 詩音が……圭ちゃんと……? 「お姉にも見せたかったなぁ。圭ちゃんの嬉しそうな顔。そばに居たレナさんも、顔を真っ赤にして照れてましたし」 「…………え? ………………え、……な、なんで……?」 「ん? 何がです?」 「……付き合うって、……な、なんで、急にそんな……」 「…………急に……? …………それ、本気で言ってるの? ……ねぇ、…………魅音?」 「……えぅ……?!」 詩音の、本来のお互いを強く意識した呼び方に、思わず狼狽してしまう……。 その声は、感情の昂りを抑えるように、低く……暗い声だった。 「私、あんたに何度もチャンスをあげたよね? 学校でだって、夏休みの時だってそう。何度も、あんたと圭ちゃんが二人きりになれるようにしてあげた」 「……え、あ、それは……」 「だというのに、あんたがしたことは何? ……他愛の無い世間話をしてただけだってね。知らないとでも思った? 私ね、ちゃんと圭ちゃんに確認してるんだよ?」 「……だ、だって……だって……!」 「……あんたは、圭ちゃんに想いを伝える百億の瞬間を見過ごした。それがあんたの罪。その罪が今日という日を招いた。……明日になれば、圭ちゃんは私と付き合うことになる。そうなれば、圭ちゃんはあんたの気持ちになんて、永遠に気づいてくれないよ?」 「そ、そんな……?! ま、待ってよ! ……そんなの…………そんなのやだよ……」 「どうする? まだ一晩の猶予があるけど。……でも、それも無駄かな。どうせあんたは、少しでも先延ばしにして、圭ちゃんから逃げ続けるだけ。…………それじゃお姉。私は帰りますね。葛西を待たせてますし。……まぁ、せいぜい頑張ってください」 ……詩音は一方的にまくしたてると、小走りに去っていった。 私はしばらくの間、どんどん小さくなる詩音の後ろ姿を、ぼんやりと見つめ続けていた……。 ---- 「……………………ふぅ」 ……お袋が作っておいてくれた夕飯を食べ終え、食器を洗いながら物思いにふけっている。 さっきから落ち着こうと何度も深呼吸しているが、これっぽっちも落ち着けない。 「……くそっ! やっぱり舞い上がっているな、俺。…………でも、しょうがないよな……?」 だって……やっとだぞ?! 明日になれば、やっと詩音と付き合える。 そりゃあ、何が変わるってわけじゃないだろうけど、……やっぱり気持ちの上では大切なことだ。 『……今日、ずっと考えていたんですけど。……いつも圭ちゃんが言っているように、私たちの関係は、もっとはっきりさせておくべきだと思います』 レナには一緒に居てつらいときがある、なんて言ったけど。 それでも、俺が詩音を好きなことに変わりはない。 『明日、返事をください。デザートフェスタに招待しますから、その場で』 わざわざ返事を明日にしてくれだなんて、詩音も人が悪い。 俺の答えなんて、とっくに分かっているだろうに。 「……落ち着けって。焦ったところで、時計の針が早く進むわけでもないんだし」 悶々としていてもしょうがない。 風呂にでも入って、さっさと寝ることにするか。 明日は日曜っていっても、寝過ごすわけにはいかないし。 拭きおえた食器を片付け、浴室へと向かう。 浴槽には既に水が張られているので、あとは沸かすだけだ。 「これでよし、っと。…………ん?」 なんか呼び鈴が聞こえた気がする。 ……こんな土砂降りの夜に来るヤツなんて……ひとりだけいるな。 とはいえ、このタイミングで詩音が訪れるとは思えない。 いったい誰だ……? 「……って、何度も何度も鳴らすなよ! ちゃんと聴こえてるって」 ピンポンピンポンと子供が駄々をこねるように、その音が繰り返される。 急いで玄関に向かい、ドアノブを開け……我が目を疑った。 「はーい、どちらさま…………で……。…………なに……してんだよ……?」 「あ、っはは、はは……。……圭ちゃん、出てくるの遅いって……」 ……全身ズブ濡れの魅音が、力無く笑っている。 傘は……持っていないようだ。 …………ちょっと待てよ。 風邪を引いたから学校を休んだんだろ……? ……馬鹿じゃないのか、こいつ……!? 「……あはは。結構、風が強いね。傘、飛んでいっちゃったよ。……え!? け、圭ちゃん……?!」 俺は無言で魅音の腕をつかみ、家の中へ引き入れた。 そのまま、つかんだ腕を放さずに洗面所まで歩き出す。 「……け、圭ちゃん、その……」 「話は後だ。洗面所にバスローブがあるから。タオルで身体を拭いて、それに着替えろ。そのままじゃ、風邪がこじれるぞ」 「……えっと、風邪は引いてないんだけどな……。……うん。ありがと。そうする」 「……俺はリビングに戻ってるから。着替えたら、魅音も来てくれ」 「……うん……」 ---- 「それで。こんな夜にわざわざ来るなんて、何があったんだ?」 俺は、向かい合って座っている魅音に話を切り出した。 ……魅音はうつむいたまま、何も話そうとはしてくれない。 それどころか、せっかく出してやったココアにも手をつけないし。 「……甘いのって苦手だったか? ココアがダメなら、コーヒーを淹れるけど」 「あ、いや、そんなことはないよ?! ……いただきます」 ……沈黙が重苦しい。 俺の方から言うことは何も無いので、魅音が口を開くのを待つしかないのだが……。 ここに来た理由は話しにくいようなので、別の話題を振ってみる。 「……お前、どうやって帰るつもりなんだよ? 服はしばらく乾きそうにないし。雨も降り止む気配すらないぞ」 「え、っと……。…………け、圭ちゃんの家に泊まるってのは…………ダメ……?」 「……別にいいけど。それなら客間を整えてくるから、ちょっと待ってろ」 俺は席を立ち、リビングから客間へ移った。 ……まぁ、整えるって言っても、布団を敷くだけなんだが。 客間の扉を開け、普段は決して立ち入らない部屋の中に入る。 押入れから布団を取り出し、床に敷いていたら、……ふと背後に気配を感じた。 「魅音か……? わざわざ付いて来る必要は……なっ?!?!!」 言いながら振り返った瞬間、……胸にどさ、っという衝撃を受けた。 ……魅音が、いきなり俺に抱きついてきたらしい。 俺は、魅音にしがみつかれた格好で座り込んでしまった。 「ちょ、……なにするんだッ!? どういうつも……り…………。……魅音……?」 とっさに引き離そうとして…………魅音が泣いていることに気づいた……。 「……どうした? なにか……あったのか……?」 「……うっ……く……、……うぅ……。…………やだ……」 「やだって……。……何が嫌なんだよ……?」 「…………詩音と…………付き合っちゃ……やだ……」 「………………」 そっか……。 詩音か、それかレナから昼間の話を聞いたんだな。 ……俺の胸で嗚咽を漏らす魅音の肩を、そっと抱いてやる。 肩幅は狭く、やっぱり魅音は女の子なんだと、……あらためて思った。 「……なんでダメなんだよ?」 「……え……? ……な、なんでって……」 「俺と詩音が付き合うと、魅音は何か困ることでもあるのか?」 「…………」 ……当然、俺は魅音の気持ちを知っている。 それでも、魅音の口からはっきりと言われなきゃ、その気持ちを受け入れることも……拒むことすらできやしない。 「俺と詩音が付き合うと困る、って言うのなら、理由を教えてくれよ。そうでなきゃ納得できない」 「……だって……だって! …………私も……………………圭ちゃんが好きだから…………」 消え入りそうなほどに小さな声だったが……確かに聞こえた。 俺を好きだと。 初めて…………魅音が自らの言葉で示してくれた。 「……そう……か…………」 「圭ちゃんは……圭ちゃんはどうなの?! ……圭ちゃんは詩音を…………どう思ってるの……?」 「……俺は…………。……俺は詩音が好きだ。…………だから……詩音と付き合いたいし、魅音に対してどうこうしてやるってのは……出来ない」 「…………。……そっか……。……やっぱり圭ちゃんは……詩音が好きだったんだ…………」 「………………」 「……ねぇ、圭ちゃん……。なんで詩音なの……? ……私と詩音って、どこが違うの……? 私だって詩音だよ?! …………私が……詩音なのに……」 ……魅音は少し混乱しているようだった。 俺は気持ちを落ち着かせるために、魅音の背中を擦ってやる。 「落ち着けって。お前は魅音だろ……? 双子っていったって、詩音とは違う」 「………………。……そうだよね。…………ごめん」 「……なぁ、魅音。俺は魅音を……親友だと思ってる。一緒にいると楽しいし、他の誰よりも心を許せる相手だ」 「………………」 「それはレナや、……詩音にだって真似できない、特別な関係だと思う。それじゃ……ダメなのか……?」 「……うん。ありがとう。嬉しいよ。私も圭ちゃんを親友だと思ってる。……でもね、圭ちゃん。それでも……私は圭ちゃんが好き…………」 魅音が、またその言葉を口にした。 ………………。 俺は……どうすればいいんだろうか……? いままで、魅音が俺と詩音の仲を祝福してくれるのだと……ただ漠然と、そう思っていた。 魅音の気持ちを知っていたのに……魅音の気持ちなど、これっぽっちも考えていなかった。 ……今日のことだってそうだ。 魅音が風邪で休んだってのに……お見舞いに行こうなんて、全然考えていなかった。 詩音に付き合ってほしいと言われて、ひとりで浮かれていた。 ……なんなんだよ、俺は……。 馬鹿じゃないのかよ!!? ……誰かを好きになったくらいで、……たったそれだけで、周りが見えなくなるのかッ?! …………俺は…………俺は……ッ!! 「ごめんね、圭ちゃん」 「…………魅音……?」 「わがままだよね。もう、圭ちゃんの気持ちは決まっているんだもの。……それなのに、こんなことを言っちゃダメだよね」 「…………」 「……ちょっとだけ……昔の話をしてもいいかな……?」 「…………ああ」 「昔ね。圭ちゃんが雛見沢に引っ越してくるよりも、ずっとずっと前。…………好きな人がいたんだ」 「……そっか……」 「……うん。……でもね、その人は好きになっちゃいけない相手だったの。だから、その人を好きだって気持ちを、忘れようとした……」 「…………」 「そしたらね、……忘れちゃったんだよ。好きだって気持ちだけじゃなくて、好きだったことまで……。……最近になって、ようやく思い出した……」 ……それは、どんなに悲しいことなのだろう。 誰かを好きだった事実を忘れ去ってしまうってのは……。 それは……好きだった相手を殺してしまうのと、同じくらい残酷なことなんじゃないだろうか……? 「…………圭ちゃんが詩音と付き合うっていうのなら、仕方ないよ。諦める。……でも、圭ちゃんを好きだったことまでは……忘れたくない……。……だからね、私を……私と……」 「…………」 ……魅音の言いたいことが、なんとなく解った。 それは以前、詩音が俺に哀願したのと同じこと。 俺との関係を台無しにするかもしれない、口にするには、とてもとても勇気のいる言葉。 だから俺は、魅音から必要の無い勇気を奪ってやった。 「……分かった」 「………………えっ!?」 「いいよ。……それで魅音の気が済むのなら。……でも、これっきりだからな?」 「え、あの……ホントにいいの……? ……っていうか、ちゃんと分かってる!? 私が言いたいのは……」 「抱いてほしいんだろ?」 「えぅ?! そ、その……。……そう……だけど…………」 魅音は顔を真っ赤にして、縮こまってしまった。 ……うーん、こんなんで大丈夫なんだろうか……? …………。 ……ま、なるようにしかならないか。 「さ、始めるぞ。……ほら、こっち向けって」 俺は、うつむいている魅音のあごを片手で掴み、顔を俺の方へ向けさせた。 魅音の顔は相変わらず赤く、緊張した眼差しで俺を直視している。 ……心なしか震えているようだ。 「おい、大丈夫か? ……もしかして、キスするのも初めてなのか?」 「……う、うう、うん。はは、初めてだけど、だだだ、だいじょぶ……」 ……いくらなんでも緊張しすぎだろ。 ……でも、俺の初めての時と大差ないから、人のことは言えないな……。 ……しかし、この状態だと、舌を入れたら卒倒するんじゃないか……? しょうがない……。 「ほら、魅音。恥かしいなら目をつぶれよ。悪いようにはしないから」 「え!? ……でで、でも……」 「……俺が信用できないのか?」 「そ、そんなことないよ!? …………こ、これでいい……? …………んんっ?!」 ……それは、唇を重ねるだけの、小さな子供同士がするようなキス。 これから肌を重ねる者同士には、不釣合いなほどに幼い行為。 でもそれは……俺と魅音の関係を考えれば、もっとも適切な選択のように思う。 ……魅音の表情を見ると、緊張が幾分かやわらいんだのが分かった。 ……俺は、魅音のやわらかい唇を味わいながら、バスローブに手を掛ける……。 「…………ん……? ……ぁ、圭ちゃん!? 待ってッ!」 「…………どうした……?」 「その……せ、背中……。……聞いたことあるかもしれないけど、私の背中には……」 「…………」 ……どこで、誰に聞いたのかは、よく覚えていない。 ただ、俺は確かに知っている。 魅音の背中には、園崎家頭首の証である鬼の刺青がある、と。 ……好きな相手に、そんなものを喜んで見せるヤツなんて居ないだろう。 見せたくないのが常識的な考えだと思う。 ……当然、魅音だって…………。 「……あのね……。……私の背中には、お、鬼の……」 「知らない」 「…………えっ?」 「魅音の背中に何があるかなんて、知らない。知りたくもない。……仮に何かあるとしても、俺には見えない」 「……圭……ちゃん…………」 「それでいいよな…………?」 俺は、頭に描きつつあった幻想をかき消した。 ……そんなものがなんだっていうんだ……? 頭首の証だかなんだか知らないが、そんな下らない物が、俺と魅音の関係を変えるものであっていいはずがない。 そんなものがあったって、俺は魅音を見る目を変えたりなんかしない。 俺が俺でしかないように……魅音は魅音でしかないのだから。 「…………うん。ありがと。それでいいよ……」 「……よし。それじゃ、続け……る……ぞ…………?」 ……俺は魅音のバスローブを掴み、胸元をはだけさせようとした。 そしたら、その……胸の先端が見えるか見えないかの辺りで、……魅音が固まってしまった。 ……まだ緊張しているのか……? このまま胸を愛撫しようかと思ったんだが……もう少し緊張をほぐしてやらないとダメだな。 「……はぁ……。魅音。ちょっとジッとしてろよ?」 「う……うん……?」 俺は魅音の首筋に、……やさしく口付けした。 「ひゃっ?! け、圭ちゃん……??!」 「大人しくしてろって。……ちょっとくすぐったいかもしれないけど、我慢してくれ」 魅音の首筋を丹念に愛撫する。 初めは感覚の鈍い場所から、徐々に感度の良い場所へ。 時には舌を使い、少しずつ緊張をほぐしてやる。 ……昼間の教訓を活かし、キスマークを残すようなヘマはしない。 一通り愛撫し終えると、魅音の身体は雨によって奪われた体温を取り戻していた。 弱々しく熱い吐息を吐く魅音に、囁くように語り掛ける……。 「……魅音……。…………次はどうしてほしい?」 「ふぇ!? ぁ、……も、もういいよ……」 「………………本当にか……?」 「……え、っと。…………その……」 「……はぁ……」 俺は魅音の肩を掴み、その瞳を真っ直ぐに見据える。 「なぁ、魅音。俺とお前は親友だよな?」 「……う、うん……」 「お互いに遠慮なんか、一切しない関係だよな?」 「…………うん……」 「だったら、遠慮するなよ。……これが最初で最後なんだ。遠慮なんかしてたら、きっと後悔するぞ……?」 「…………」 「……もう一度聞く。次はどうしてほしい?」 「…………………………胸」 「……胸だな? 分かった。それじゃ、ちょっと失礼して、っと」 魅音の胸元に片手を忍び込ませ、乳房を下から持ち上げるように、やさしく掴んだ。 ずっしりと重量感のある乳房は柔らかく、それでいて程よい弾力がある。 手に少しだけ力を込めると、魅音の身体がピクリと動いた。 ……まだ羞恥心が残っているようだが、それ以上に快楽への好奇心が強いのかもしれない……。 「……魅音。悪いんだけどさ。ちょっと横になってもらえるか? そっちの方がやりやすい」 「……う、うん。……分かった……」 魅音は、俺が敷いた布団に仰向けになった。 俺は魅音の太ももの辺りに腰を下ろす。 ……そして、バスローブをはだけさせ、……魅音の胸を露わにした。 魅音の乳房は大きく、それ以上に整った形をしているのが素晴らしかった。 ……魅音は顔を逸らし、布団のシーツを掴んでいる。 「……そんなに緊張するなよ。他には誰も見てないんだから……」 言いながら魅音の胸に口付けする。 そして、両の掌も使い、魅音の胸を弄ぶ。 ……ただし魅音が、一番気持ち良くして欲しいであろう場所は避けて、だが。 魅音の胸が、俺の唾液まみれになる頃には、……その部分が、まるでおねだりするようにピンピンに立っていた。 「……魅音。気持ちいいか?」 「……うん……。……き、気持ちいいけど。……その、ち、ち……」 「こうか?」 「んぁ!?」 魅音が言い終わる前に、乳首を吸ってやる。 ……俺が、ちゅうちゅうと魅音の乳首を吸っている間。 魅音は上半身を反らし、消え入るような喘ぎ声を上げ続けていた……。 行為を終え、魅音に視線を移すと、……その顔には恍惚の表情が張り付いていた。 ……吸い終えたばかりの乳首を、親指と人差し指で弄びながら、……魅音の下腹部に手を添える。 そのまま恥部まで手を這わせたが、気恥ずかしさが無くなったのか、魅音は抵抗しようとはしなかった。 「……魅音。痛かったら言えよ……?」 うなずくのを確認してから、魅音の脚を開かせた。 ……手探りで充血した突起を探り当てる。 経験が少なくとも充分な快楽を生み出す部位なので、必要以上に強い快感を与えないように……やさしく擦ってやる。 同時に魅音の中に指を滑り込ませ、内部の状態を確認した。 ……もう充分に濡れていて、俺を迎え入れる準備は出来ているようだ。 俺は破瓜の痛みを少しでも減らしてやる為に、魅音の中を丹念に愛撫してやる。 …………ただ、その……。 魅音の艶やかな肌や、遠慮がちな喘ぎ声のせいで……俺の理性が限界に近付いてきた……。 「……み、魅音……。その……そろそろ、いいか……?」 「……んっ! ……はぁ……んんぅ……。……そ、そろそろって……?」 「…………」 ……無言でジッパーを下ろし、ソレを取り出す。 それを見た魅音は、息を呑んで硬直してしまった。 ……普段は冗談半分で見せてみろ、なんて言っているが、実際に見せてやるとこういう反応を示すのだから面白い。 「魅音の方は、もう大丈夫そうだし。俺だってこんな状態だ。……それとも、ここまで来てやめるのか……?」 「……その……。…………うん。……やっぱりさ、やめよ……?」 ………………………………。 思考の死角を突かれ、頭の中が真っ白になってしまう。 否定させる為の否定の言葉を……こ、肯定されてしまった……。 ……魅音は起き上がり、バスローブを整え、……俺から距離をとる。 「やっぱりさ! ……こんなの良くないよ。…………詩音に悪いし」 「い、…………いまさら何を言ってんだぁああぁあああ!!? お前はそれを承知で頼んだんだろうがぁッッ!??」 「そうなんだけどさ……。冷静になって考えたら、やっぱり良くないかな、って……」 「…………ふ、ふざけんなぁああぁああああッ!!!!!」 我を忘れ、魅音に掴みかかろうとしてしまう。 そして、魅音に触れる直前に……魅音のつぶやきが耳に届いた。 「圭ちゃん…………ごめん!」 ……それは妙な感覚だった。 だって、魅音が逆さまに立っているように見える。 ……いや、そうじゃない。 そうじゃなくて、……俺が宙に浮いているのか……。 「――――ぐぇッ!!?」 背中から地面に叩きつけられたのかな……。 ……魅音が俺に何か話しているようだが…………。 意識が消え入ろうとしている俺には、どうでもいいことだった……。 ---- 「…………う……ん?」 えぇっと、なんで客間で寝ているんだっけ……。 ……確か、魅音と……。 「そうだッ!! 魅音は……!?」 とっさに身を起こし、周囲を見渡す。 魅音は…………居ない。 ……帰ってしまったんだろうか。 「……そりゃそうだよな。……あんな強姦まがいの事をしようとすれば、誰だって帰るよな……」 ……気まずいな。 明日は顔を合わせなくてもいいだろうが、月曜になったら……。 「…………とりあえず謝らなきゃな。俺も取り乱していたとはいえ……」 「あ、起きた? 勝手にお風呂とバスタオル使わせてもらったよー」 …………。 声のした方を見ると、扉を開けた魅音がつっ立っている……。 「……み、魅音……。お前、帰ったんじゃないのか……?」 「へ、なんで? 帰られるわけないじゃん。服はまだ乾いてないし、雨も止んでないのに」 「…………そ、そうか……。……それもそうだな……」 ……さっきの事は全然気にしていないようだ。 魅音は呆けている俺に近づいて来る……。 そして、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。 「それよりさ。さっきの、大丈夫? 投げた時にうっかり手を離しちゃったからさ……」 「……あぁ、平気だ……」 「本当に? 首とか痛くない?」 「……平気だって」 「そっか。……あ、そうだ。お風呂、冷める前に入っちゃった方がいいよ? ほら、早く早く」 「…………分かった……」 ……なんか完全に魅音のペースになってしまったな。 魅音の言うとおり、さっさと風呂に入って寝た方が良さそうだ……。 ---- 「……魅音。俺は自分の部屋に戻って寝るからな。…………魅音?」 入浴を終え、客間に居る魅音の様子をうかがいに来たのだが……。 ……返事がない。 ……眠ってしまったんだろうか……? 世間一般では深夜と言っても差し支えない時間帯なので、眠っていてもおかしくはないが……。 俺は横たわっている魅音に、そろりそろりと近づく。 「……おーい、起きてるか? みお……ん!!?」 ……顔を覗き込もうとしたら、布団の中に引きずり込まれてしまった。 魅音は俺を抱きしめ、胸に顔をうずめている……。 「お、おい、どうしたんだ……?」 「…………寒い」 「は?」 ……その言葉の意味するところが、よく分からない。 確かに魅音の身体は冷えているようだが……。 「だから寒いんだってば。……私、こんな格好だからさ。寒くて。……だから……」 「……だから?」 「……圭ちゃんに……身体で暖めて欲しいなぁ、って……」 「身体でって……。……あのなぁ…………」 「…………ダメ?」 ……まぁ、バスローブしか用意できない俺も悪いといえば悪いか。 ……仕方ない……。 「……分かった。いいよ。……ったく、人を抱き枕にするなんて。とんでもないヤツだな」 「えへへ……。ごめんねぇ……」 ……布団を掛け直し、魅音の身体をしっかりと抱きしめてやる。 …………しかし、こんな状態で眠れるのか……? 明日は早起きしなくちゃいけないんだが……。 「……ねぇ、圭ちゃん」 「……なんだよ……?」 「……ちゃんと、朝まで抱きしめててね……。……それでさ。…………終わりに出来るから……」 「……終わり、って……」 「……圭ちゃんを忘れられるから。……圭ちゃんを好きだったことを、思い出にできるから……」 「…………」 「……だからね。今夜だけは、ちゃんと……」 「………………何を言ってるんだ……?」 「……えっ?」 ……なんか、魅音があまりに馬鹿げたことを言っているので……考えがそのまま口に出てしまった。 「な、なんで……? ……これが最後のお願いなのに……。……それさえもダメなの……? …………迷惑なの……?」 「だからなんだよ、それ。最後って。……魅音が俺を好きだと迷惑だって、俺がいつ言ったんだよ?」 「え、でも……。……だって、圭ちゃんは詩音を……」 「……確かに俺は詩音が好きだけど。でも、だからって魅音が俺を好きだと迷惑だなんて、そんな事は全然思わない」 ……今だって二人分の想いを受け止めているんだ。 それが三人分になったって、大した違いはないだろう。 「でもまぁ。魅音が俺を嫌いになったっていうのなら、それは仕方ないけど」 「そ、そそそ、そんな事はないよ?! ……ほ、本当にいいの……?」 「だからいいってば。……まぁ、こういう事をしてやれるのは、今夜が最後だろうけどな……」 「…………。……うん。ありがと。……それだけで充分だよ。………………大好き」 ---- 続く -[[アンダースタンド3]]

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