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リトル・エクステンド - (2009/04/19 (日) 23:53:01) の最新版との変更点

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   1-1  困惑の急接近  進め(あう♪) 進め(あう♪) われら雛見沢~ぁ ちっちゃい者倶楽部!!  入道雲の空の下、村にセミの合唱と共に、ちいさき者たちの掛け声が流れていた。 「ぜんたぁ~い、気をつけろ。なのです」  込み入った所を抜け、畑の広がる見通しのいい場所に着くと、先頭を行く梨花がくるりと振り返って緩い警戒を呼び掛けてきた。すると皆の歌声がぴたりと止み、それから富田と沙都子の表情が引き締まったものになっていく。 「そしてよーい、ドン☆ なのですー」 「ほほ……! そう来ると思いましたわ!」  そして不意に駆け出す梨花とほぼ同時に、しんがりの沙都子が飛び出し……。 「……えっ? 北じょ、わわっ!」  追い越し様の彼女に、一つ前にいた富田は手をぎゅっと掴まれて――「富田さんは羽入さんの手を。羽入さんは岡村さんの手をお掴みになって!」――「う……うんっ! 羽入っ!」――「あう! がっちりきゃっちなのです。岡村ーぁ、おーてーて~、つーないでぇ~♪」――「はい、羽入ちゃん」 「そして私は…………それっ!」――「みぃ……っ?!」  仲間たちが手に手を繋ぎ合っている最中、沙都子はウエストポーチから取り出したなわとびを梨花に向けて放った。するとグリップが分銅として働き見事、梨花の左腕を捕らえた。 「みぃ。このままじゃボク、沙都子に調教されちゃうのです~☆」 「おーっほっほっほっ! でしたらお望み通り、私が梨花を立派な競走馬に調教してさし上げますわー!」  たぶん沙都子と梨花の「調教」の意味は似て非なるものなのだろうなと、くねくねと悶えながら走る梨花を見ながら富田は思った。  そんな調子で練り歩くちいさな一団に、通りすがりの村人があいさつをして寄越す。その都度、天敵であるレナの情報を聞き、もしくは向こうから教えてきてくれたりした。  話が済むと、村人の股下を這って潜り抜け、そしてレナの居ないと思われる方へと向かう。  雛見沢ちっちゃい者倶楽部と竜宮レナ。  この二つは相容れない関係であり、それは正確に、かつ簡潔に「獲物と捕食者」と言い表せた。とはいえ、捕まったりしても実際はレナといっしょに遊んだり、家でお菓子をご馳走されたりと、実にほのぼのとした関係なのだが。それでも部員もとい子供たちは遊びの天才ゆえに、レナの魔手から真剣に潜り抜けていた。  入部資格は小柄であること。飛び入りも可。  あの部活メンバーの活動とは別物で、雛見沢ちっちゃい者倶楽部(以降『雛クラ』と略)の活動内容は、村のあちこちにある「潜れそうなもの」を、部長を先頭に潜って行くというもの。  普段は月一回。夏休み等、長期の休みには部長の呼び掛けで倶楽部活動が行われる。  部活メンバーに罰ゲームがある様に、雛クラにも似たものがある。それは可愛らしい倶楽部名らしからぬ厳しいものだった。  部長の潜れたものが潜れない場合は退部。  これは創立者にして初代部長である魅音が作ったもので、それは部長といえども適応された。  去年の七月。創立第一日目にして早々と、部長の座がうっかり魅音からちゃっかり梨花へと受け継がれて一年あまり。  現在の部員構成は、現部長の北条沙都子を始め、副部長に富田大樹。古手梨花に岡村傑、そして古手羽入を新たに加えた計五人。  これまでの日々に各人、劇的なできごとがあったり、その身の上に波風とまではいかないまでもさざなみが生じたりもした。  夏休みも二週間が過ぎ、親密な関係になった組は当然、濃密な時間を。まだそうではない、擦れ違う者たちにも兆しが芽生え、想いの波紋を伝えんと、その手を伸ばしたのだった。 「……羽入。ボクと並び順を交換こするのです」  緊張状態に飽きてきた梨花が悪い癖を出し始めた。 「あぅ……。梨花の前は嫌なのです。レナが来たら絶対、突き飛ばす気なのです」  前部長の態度に、現部長は大きな目を細め寛容に微笑んでいた。ならば自分は副部長として一応の義務を果たそうと、富田は眼鏡に手を添え、遠くを見据えた。 「ほほ……。真面目さんがいますわ」 「…………? もしかして、僕のこと?」  沙都子は頷いて、前の三人を見る。  梨花・岡村・羽入の並び順は梨花が下がったことで、ぐだぐだに横へと広がる感が見えていた。  女性陣は頭にそれぞれ、つばの大きな麦わら帽子とサンバイザー。野球少年たちは言わずもがなの野球帽を。手には仲良く、赤に青の水着入れが握られていた。  沙都子から掴まれた手と手はそのまま、富田と沙都子を繋ぎ、ふたりを歩ませていた。 「……前はあのひとたちに任せて……私たちは後ろに気をつけていればよろしいんですのよ」  そう言って沙都子は手を引いて、歩調を緩めだした。 「……骨はちゃんと、拾って上げますのですよ」 「あぅ……梨花がひどいのです……。岡村~ぁ、僕を助けてなのです~」  羽入は綿菓子を思わせる甘く、やわらかな声を上げて岡村の腕にしがみついた。後ろからでもわかるくらい、親友の腕に押し付けられて歪み、大きく形を変える羽入の脇乳に、自然と目が釘付けになっていた。 「……岡村。ボクを敵に回したら……くすくす。どうしてあげようかしら」  岡村の首に、白蛇を思わせる手がしゅるりと巻かれ「がおー」と、そのぽにょぽにょした首筋を甘噛みする。 「り……っ、梨花ちゃんも羽入ちゃんも、仲良くしなくちゃダメだよ……っ」  岡村はどちらの少女に花を持たせるべきか、いつもの様に二人の間で困っていた。 「…………岡村さんが、羨ましいですのね……」 「え……っ?!」  沙都子に突然話しかけられて、富田は顔を引き攣らせた。 「……ずっと、見てましたわよね……」 「っ……?! ごっ……ゴメンッ!」  有無を言わずに謝る。しかし沙都子は聞く耳を持たず、その先を言い放った。 「大きくてやわらかい、羽入さんの胸を」 「ぅ……ぁ……。ごめん…………」  軽蔑のまなざしと妙な言い回しに、富田は縮こまって呻いた。 「今日から僕も、雛クラに入ることになりましたのです。みんなについて行ける様にがんばりたいと思いますのです。あう!」  沙都子の誕生日の翌日。  未だ興奮の覚め遣らぬ雛クラ部員に梨花のきまぐれ招集が掛かり、半ドンの昼下がりの境内にて、羽入の入部式が行われていた。 「……そのたれぱいじゃあ、魅音の二の舞になるのが落ちなのです」 「あううーっ! たっ、垂れてなんかいないのですっ!!」  梨花の毒を含んだ嫌味に、羽入がたぷたぷんっと猛抗議をする。 「ほんと?! 羽入ちゃんっ!」 「あうう――っ?! 岡村の目は節穴なのですか~ぁ――っ!!」  岡村の間の悪い食い付きに、羽入がぶるんったぷんっと猛抗議をする。 「ほらほら富田! 羽入ちゃんのおっぱい、ぶるんぶるんっだよ!」 「そ……そんなの、見ればわかるよ……っ!」 「……いやらしいひとたちですこと……っ!」 「ちょっ?! 北条ーっ?! ごっ……誤解だよ! おっ、岡村も何とか言えよーっ!」  腰の引けた富田も一緒くたにして、沙都子が胸を隠して嘆息する。 「違うよ~沙っちゃん。  僕と富田が言ってるのはねー。羽入ちゃんも、雛クラに入ってくれて良かったねってことなんだよ。ねっ、富田!!」 「うをわっ?! ちょっ、おま……っ! 羽入もやっ……止めれぇ~」 「あうあう♪ あうう♪ あうう♪ あう☆ あう☆」  岡村と、いつの間にか機嫌の直った羽入は富田を巻き込んで、くるくるとはしゃぎだした。 「おほほ。雛クラもいよいよ賑やかに…………えっ、ちょっと?! わ、私もですのぉォォおーッ?!」  哀れ、なかよしトリオを楽しげに眺めていた沙都子も巻き込まれる。 「くすくす。いつもより余計に回って、実に楽しそうなのです」  賽銭箱の前に座り、梨花はひとり、笑壷に入っていた。 「みーみみみみみ。けいちゅ~、けいちゅ~。そしてこれから言うボクの言葉に傾聴してほしいのです」  ひとしきりふざけあった挙句、疲れてへたり込み、てんでんばらばらに倒れている一同。  梨花はその愛しい仲間たちにぱんぱんと手を叩きながら歩み寄る。そのうちの、尻を上げて突っ伏している羽入の尻を引っ叩き、ついでに汚れを掃ってやる。 「これからは沙都子。貴女に雛クラを、引っ張って行って欲しいのです」  そしてもう片方の手を沙都子に差し出して、梨花は滑らかに宣言した。 「でかぱい沙都子が潜れるものなら、岡村とうし女もモーまんたいなのです」  梨花の言う通り、沙都子を先頭とした二人は水を得た魚の如く、とまではいかないまでも選定され、だいぶ楽になった障害物を次々と潜って行った。それでもレナには敵わず、羽入とセットでちょくちょくお持ち帰りされていた。  そんな和やかな時間を、しかし富田は少しだけ心配していた。  羽入が入部してきてから、雛クラの雰囲気が緩んできた。  たかが遊び、されど遊びの雛クラにも真剣に取り組んできた沙都子。  彼女は部長でありながら障害物の選定は梨花、もしくは副部長の自分に任せる様になる。  歯応えが無さ過ぎるからだと沙都子は言って、梨花に申し訳なさげに顔を伏せた。  そんな真面目な性挌ゆえ、沙都子は少し口うるさくなりがちなところがある。それは相手を思ってのことなのだが、はたして羽入が嫌がりはしないかと、富田は子供なりに気を揉んだ。  富田は二人の仲が険悪にならない様にと動いたりしてみた。だが沙都子と羽入はそんな気配は露とも見せず、むしろ梨花が嫉妬するほどの友情を示した。  これからの季節にと、沙都子は自分の麦わら帽子を羽入に贈り、また彼女の服を探しに二人で興宮に行ったり、裏山を案内してあげたり。  今日もその麦わら帽子と、沙都子と買ったという大きめのボーダーのTシャツを羽入は着てきた。他にもその他諸々、二人は仲を深め合っている様子だった。  そんな取り越し苦労も楽しい日々の下地となってきたある日。富田はその日々に自ら水を差してしまう。  若気の至り、というには彼には酷であり無常だと言えた。それでも――しかし――結果として――沙都子は富田と距離を置く様になる。  そうしたのは北条なのに……。なのに何だってまだ僕に、構ってくるんだよ…………ッ! 「あはっ。良かった……。ちゃんと冷えてますわよ」  沙都子が小川で冷やしておいたバナナを、水を切って手渡してきた。その眩しい笑顔に、思わず素直にバナナを受け取ってしまう。 「……僕のことはもういいから、北条は遊んできなよ」  富田はバナナに爪を立て、沙都子を三人の所へと進めた。  雛クラには退屈で危険な、とくに潜るものもない、だだっ広い通りを抜け、五人は休憩がてら、沿道の脇を流れる小川で水遊びをしていくことに。富田はそこで、川底の尖った石か何かで足の裏を切ってしまう。  富田はひとり、土手に歩きかけると沙都子がその肩を支えにくる。ケガの手当てをしてあげますわと、こちらの遠慮を押さえ込んで手際良く、富田の足に包帯が巻かれた。  沙都子はその後も富田のとなりで水の流れに爪先を遊ばせながら、水遊びに興じる三人を見つめていた。 「……今は、いいですわ…………。  それより今度は私が、富田さんの代わりに見張りを務めますわね」  たまには部長らしいことをしませんとねとはにかんで、かざす手でサンバイザーをちょこっと上げて、きょろきょろと見張り番を買って出た。 「……だったら座ってるより立って、見張ってた方がいいよ」 「ぁ……。そう、ですわね…………」  明らかに落胆の色を滲ませ、その夏空を思わせる顔容が曇ると、足の傷が痛んだ。  どういう訳だか、沙都子は自分に好意を寄せてきている様に思える。そう思う度に富田は自嘲で歪め、沙都子の気を無下にしてきた。  夏休みが始まり数日ぶりに会った沙都子はぼうと赤ら顔で。夏だから――少しだけ赤面気味なところ、そこがまた可愛らしく――とにかく、妙にそわそわしていた彼女が気になって理由を聞いてみるも何も話そうとしない。その内にふたりは口論となり…………。  それ以前にも、自分は沙都子の弱みに付け込んで似た様な、嫌がることをたくさんしてきた。  ゆらりと沙都子が立ち上がり、背を向けて離れて往く。 「っ……。ほうっ……っ」  見ない様にしていたのに、その背中を無意識に――眼――想いが追ってしまい、女々しい声までが喉から出掛かった。 「ほら! あなたたちも早く……って、富田! アンタなに暢気に座ってるのよっ!」  声のする方を見ると梨花と、早く早くと軽トラックの影から岡村と羽入も自分たちを呼んでいるのが見えた。 「……富田さん。立てまして……?」  そう言いながら立ち上がろうとする富田に近寄りまた、沙都子が手を差し伸べてくる。 「……僕はもういいから北条も…………さっさと隠れなよっ!」 「あっ……!」  その手を払い除け、富田は痛めた足を庇って歩いて行く。すると首を後ろから捕まれた。 「いっ?! いたっ! ……ほっ…………北条?! なな……何するんだよ!」 「……あなたは下に、行ってくださいましッ!」  それに手首まで、かなり強い力で捻られ、富田は問答無用で車体の下に押し込まれた。 「あぅ……。何だか、沙都子が恐いのです」  爪先で土を蹴散らかして、岡村の隣にしゃがみ込んだ沙都子に羽入が怯える。 「……沙っちゃん。富田がその……またヘンなコトをしちゃったのかな……?」  それに対して沙都子はとくに、何も答えなかった。なおも何か言おうとする岡村を、富田は金的を入れて黙らせる。苦悶の滲んだ非難とあうあうという声は無視。自業自得だぎゃッ?! 「……あんたはさっきからナニ沙都子を邪険にし・て・い・る・の・よッ!!」 「いだっ?! ちょっ……痛゛い゛! 痛゛だだっ!!」  野球帽を吹き飛ばし、眼鏡が壊されかねない膝の連打が、富田の顔面に打ち込まれだす。ついでにこれは岡村の分と、梨花は細い足首で富田の首を掴み、車体と垂直になる様、乱暴に促してくる。 「や……やめろってば! 何で…………お前だって北条のことあまり好く…………?」 「っ……。…………ふん」――「…………とにかく、古手には……関係ないだろ」  富田は半ばやけくそで叫び、しかし既に言葉をすり替えた。  場を考えてという理由もあったが、途中で梨花が表情を、くちびるを噛んで目を逸らしたから。だからそれ以上――それにその横顔がなぜかひどく切なく映り――梨花を、哀しませたくはなかった。でも……。  自分の、沙都子に対する態度を鑑みれば文句の一つ。それこそまたあの膝の一つでも、出してきそうなものなのに……。  まさかそんなにも梨花は、沙都子と羽入の仲を……。沙都子のことが嫌いになるほど、ふたりの仲を羨んでいるのだろうか。  もしそうだとしたら、さっきの機転はファインプレイだったかもしれなかった。 「富田さん、早く……。体の向きを、変えてくださいまし……」 「……あっ。う、うん」  頭をこっち側に……足は出ない様にと言われ、富田は大人しく従う。  状況がそうさせているのか、声の感じからいって、今の沙都子から不機嫌な気配は見られない。  何だかんだ言ってもやはり好きになった手前、沙都子に嫌われるのは避けたいのが本音だ。なのに慣れない意地を張って、沙都子と梨花の怒りを買った報いがこれなのだろうか……。  沙都子の言う通りにした――から――のに、梨花の白い足が目の前にきてしまっていた。しかも確実に約二名の視線も感じられ、これは幸か不幸か? はてはフラグなのか? 「…………大根足なんて思ってたら……」 「――っ?!」  ひとりは無言で見下ろしていたが、もう一人の方は違った。  ……何だか今日は女の子に驚かされてばかりな気がする。それは富田が悪いんだよ~と親友は言ってくれるだろう。それはさておいて、富田は目の前に突き出された膝をまじまじと見る。この足の、どこをどう見たらそう表現できるのだろうか。  白魚の指といい緑の黒髪といい、それらの持ち主に相応しい、綺麗でほっそりとした脚だった。それなのに何だってこんな、車の下になんて潜り込もうとするのか……。仲間たちの様に、車の……。そこで富田は野暮な考えを止めた。  梨花もやっぱり自分たちと同じだと。  オヤシロさまの生まれ変わりだと、大人たちからは大切にされているがひとたび……否。遊びや部活でも、それも最近になってからは猫を被らなくなっていた。むしろそのギャップを楽しんでいる様な…………やっぱり梨花は自分たちよりも少し、大人びた少女らしい。  ならばこちらも楽しむべく、脅しで突き出された膝を退かしつつ、舐める様に見入る。どうやら擦り傷の類は見られなかった。なぜだか少しほっとする。  さきほどの、膝の連打の際に見えた純白の下着。あわよくばと――魔が差して――つい、スカートの中をのごぎゃっ?! 「……富田ももっと足を引っ込めやがれなのです。沙都子」 「ええ…………。わかりましたわ……」  にぱー★ と嗤いながら再び富田の顔面に膝を入れた梨花は奥へと、羽入に引っ張られていく。手はしっかりとスカートを押さえていたりと、このへんのたしなみは持ち合わせているらしい。もっとも、岡村がそこを凝視しているところを見るに、あかんべをしている手の方はスカートがめくれ上がっているのだが。  それを横目に、自分も這って行こうとすると頭を掴まれぐいと、かなりの力で引っ張られた。どことなくその手からは怒りの様なものが感じられた。  今日の自分は女難の相があり、梨花に絡まれる原因の何割かは沙都子のせい、という免罪符の表情で正面に顔を向けると鼻先に、今にもくっつきそうなほどに、沙都子の股間が付き付けられていた。そしてそのまま…………え? ……う、うわっ?!  むぎゅ……。  なんと沙都子は、富田の頭に尻でのしかかってきた。  じゃり……がり、がりり……。ぎり、ギ……ジャリ…………。  そして、のしかかる尻がわずかに……沙都子の息遣いで揺れると眼鏡がにじられて、レンズの悲鳴がツルを伝わってきた。  なぜ沙都子がこんなことをしてくるのか……。それは自分を嫌っているからにほかない。でも、これじゃあむしろ……くっ! く、ぁ…………あッ……!  髪の上をすりすり……。不意にうなじをむにゅり……。  後頭部の上を揺れ動く尻に、脳ではなく直接触れている首の、その下の延髄から悦びの信号が出て、その刺激を受けた海パンの中のモノはすでに力強くいきり勃っていた。  しゃべることができないので何とかこちらの意思を伝えようと手を動かすも、うつ伏せでは肩がうまく動いてくれない。それでも無理矢理に動かすと、もがく手がぺちぺちと、となりの人肌を叩きだして、吸い付く肌触りに手が離れたがらない始末。 「ひゃんっ?!」  だからまたかな……と、覚悟を決めていた富田の脇腹にもれなく肘鉄が打ち込まれる顛末。その衝撃で体が跳ねると上から可愛らしい声が。しかしそれもすぐに、憮然とした声音に打って変わる。 「はぁ…………。  富田さんって……梨花とも随分、仲が…………よろしいんですのね……?」  ひとつ溜め息をつき、沙都子は腰を上げくすりと……獲物を捕らえた猫の眼って、見たことありまして……? と、目ではそう問い掛けてきている様に富田には感じた。 「沙っちゃん、しぃー。今そこに、竜宮さんが来てるから、しぃー」 「レナはおしゃべりしてても、僕たちには敏感だから気を付けないとなのです」 「ぁ……。ごめんなさいまし……」  口に人差し指を立てた二人に注意され、俯いた沙都子と目が合う。 「北条……。何でこんなこと、するんだよ」  仰向けになるよう促されていた富田は、眼鏡と息を整えながら沙都子に問い質した。 「…………富田さんはもう……こういうことをしたくは、ありませんの……?」 「こっこっ?! ……こういうこと……って」  耳が、膝の内側でぴったりと塞がれて……視界の端で腰がくねってユラメイて……野球帽が脱がされる。 「……やっぱりシたい、ですわよね」 「っ……アッ!!」  唐突に、根元から先端へと、富田の硬く反り返っているモノの腹が撫でられた。 「ぁ……っ? 北条……何を……?」  その指先が顔へ……眼鏡を取り上げて沙都子は、自分のシャツの胸元に引っ掛ける。 「……まったく。梨花にまでちょっかいをお出しになるなんて……」  深い胸の谷間で眼鏡が揺れ、微笑む口元からは八重歯が零れていた。 「…………もうお前に……」――そんなことを言われる筋合いなんてないだろ……。  そう続けようとした台詞は沙都子の笑顔に解かれ……そして、微笑みを浮かべてしまう。なのに彼女の微笑は妖しさを深めて、サンバイザーを目深に被り直してそれから……。 「……富田さんのスケベ…………ん……」 「んン……っ?! ウッ、ンンぅーッッ?!」  沙都子は再び、今度は富田の顔面目掛けて腰を下ろしてきた。その拍子にそこの匂いを思い切り吸い込み、だから意識がどこかへ跳びかけた。  洗い立ての洗濯物と、その家庭の匂い。それと、沙都子の香り。  凸と違い、凹である股間からは無粋な臭いなどはせず、その何ともいえない香りに心臓がどくどくと暴れだす。  その手の漫画に、ヒロインの股間に顔を埋め、そこの匂いを嗅いで悦ぶ男の気持ちがこのとき心の底から理解でき、共感できた。しかし…………。  降って沸いた悦びにより、小さくなりはしたが消えてはくれない沙都子への“疑”。  あの日。  心配するあまり、逃げる沙都子を捕まえて押し倒してしまい富田は沙都子にスケベ呼ばわりされた。  二週間前。  罰ゲームをしに、圭一の家から逃げる様に飛び出してきた沙都子。 「うンっ! あふぅ! ふっ……ふう……うふふ……」  苦しくも嬉しげに息を弾ませ、人の顔の上で腰をくねらせて、富田の鼻に股間を擦り付けている。そんな体勢だから顔の上半分は尻からはみ出し、おかげで視界が利いていた。  富田の胸に繊手が置かれ、まさに目と鼻の先で踊るヒップ。  軽トラックの荷台にぶつからぬ様、前屈みから思い切り反らされた背中。  短いながらも汗が、後ろ髪をうなじに張り付かせ、耳にまで散った紅葉。  昔は、いたずらをされると泣いて嫌がっていた沙都子。  今は、慕う男にいなくなった兄を重ねて、笑顔の絶えなくなった沙都子。  それなのに何故、こんなことを……。  そんなこと、決まってるだろ……っ?! 北条はもう…………くっ……そぉおおおおッ!! 「ひあっ……!!」  肉圧の下、富田は強引に大口を開けて、埋れ出た下前歯で股間に噛み付く。するとこりゅっとした歯ごたえに、上から高い声がした。  今のって……もしかしてくっ、クリトリスに……っ?! 「あぷっ!」  驚く富田の視界が再び尻で占められ、その谷間と鼻とがぴったりと隙間なく密着。鼻が尻に押し潰される。 「……そんなところに噛り付くなんて…………はぁ。富田さんも、デリカシーが、ぁー……うふふふ。なって、ませんわねぇ……。だから罰を……喰らいなさいましね」  それから口を磨り潰さんと、大胆な腰遣いでこにゅこにゅと、下半身でのフレンチキスが富田を戒め、罰し始めた。  顔面全体余すところ無く、尻が激しくいざり、にじられる。しばらくして、熱っぽい声が聞こえだし、沙都子は靴底を後頭部の下に入れ、足全体で包み込むとぎゅううう……と、頭を絞め付けてくる。  肩は膝で固められ、十指は繊手に絡め獲られ、形ばかりの抵抗が除々に圧殺されていった。  鼻腔といわず咽喉、気管、肺臓と、色香によって呼吸器が侵され、沙都子で胸がいっぱいになっていく。  確かに息苦しい。だがそれでも、自慰では感じたことのないほどの快楽に浸かって、「苦」は「楽」となり「快」へと変わっていく。  頭はとうに霞み、沙都子への疑問に憤りもここにきて、どうでもよくなってきていた。 「あう……。沙都子の腰遣いがすごくいやらしいのです…………」 「はっ、羽入ちゃん……っ。背中におっぱいが当たってる……っ! それに今は、竜宮さんを見張ってなくっちゃ……」 「…………それは梨花がやってくれていますですから……。だから、岡村の甘い精を僕に…………」 「うわっ! お、おちんちんまでいじられたらで……でちゃうよぅ…………」  どうやら自分たちの姿に、羽入が中てられたらしい。手玉に取られた岡村が嬉しい悲鳴を洩らし始めた。  親友の呟きに、二人の痴態を想像してその上、想いを寄せる少女の尻を顔面に押し付けられるという状況に、虚ろだった意識は次第と固まっていき、それはある形……本能を形作った! 「んん……ッ?! あは、はぁ……。やっとその気に……え、あんっ?! とっ……富田さ、ンあーっ!!」  沙都子の腰を浮かせる為、不意に自分から顔を動かして、その生まれた隙を突く。武器でもあり弱点とも言えるそこに富田が吸い付くと、沙都子が驚いて大きな声で鳴いた。それでも富田は怯まない。 「あっ……あッ! くぅ……ンンッ!! はぁあ! ふあっ……あンッ!!」  吸盤を――胸を吸う様を――イメージし、思い切り香気を吸う。  沙都子の反応の変わり様に味を占め富田は、股間の香りを夢中になって胸いっぱいに取り込む。 「やぁ……。そんなところの臭いをか……あ、アーッ! かっ……か、嗅がないで……」  今更ナニ言ってるんだよ……。  沙都子はなおも何度か訴えてきたが、富田はそのたびに嗤ってやった。  強さの内にある優しさと弱さ。  その弱さに付け込んでもっと、沙都子を泣かせたい。いや、鳴かせたい……。  泣かせた回数ならあの人には負けない。それにこれから自分も、北条の鳴き声を聴きながら、北条と前みたいに……いや。前原さんと北条がしている以上の事を……北条が鳴いて叫ぶくらいのコトをしてやる……っ!! 「ンあーッ! そ……そんな、おっぱいまで……あっ! いっア……っは……ああぁーッ!!」  今やふたりの攻守は完全に逆転していた。  富田は弱まった手を掴み返し、手と手を重ねたてのひらで、沙都子の双房を掴む。  前と、それと窄まりへの攻撃に加え、少女という器をはみ出し気味な胸を力を込めてぐにゅぐにゅと弄ぶ。そして肉の頂でつんつん、こにゅこにゅと自己主張してくる乳首を思い切り、ふたりの指でぐ……ぐっ、ぐにゅう……といざり、爪を喰い込ませる。 「んんッ……くぅぅ…………。う、うっ…………くっ、ぁっ……」  恥ずかしいのだろう、洩れ出る声を塞ごうと、何度か手を引かれた。そのたびに肉芽に噛み付いて腰砕けにし、大きく息を吸い込んで……。 「……あふうッ、ふぁ……あ、ああ……あはぁあアアア――ッッ!!」  熱い息を尻の穴に吹き込んで喝を入れた。 「は…………あ……ぁぁ……。はー……あ、ふぁ……」  そうして大人しくなった沙都子を、富田は本格的に味わいだす。 「あう……。富田がすごくてくにしゃんぽいのです…………」 「あう……ぅ! はっ、にゅうちゃ……んんっ!! む、胸までされたらもっ……もう、本当にっ!!」 「…………ちょっとあなたたち。少し、静かにしなさい。ハメ外し過ぎるとマジで、レナに見つかるわよ……?」  梨花の注意に一同が静まる。  確かに。このまたと無い機会をもっと楽しむ為にも、静かにシないと……。 「ふう…………はあ……ぁ。とみ……たさん、何を……? ぇぁ……っ、ふむううぅーッッ!!」  富田は、ふたりの手の内の片方を胸から上へと引き剥がし、吐息を感じるところに突き入れた。 「んっ……?! んんうぅッ?! ふぅンむっ……! ん、あー……! いっはっ……やあッ、んむッーゥゥ~ッッ!!」  ふたりの指で口の中を掻き回しだすとすぐに沙都子が激しく呻きだした。そのぐちゅぐちゅという音――悲痛な声――がイマラチオを連想させ、ペニスがどくどくどくっと、痛みを伴わせるほどの武者震いを起こす。そして巣の中の雛の如く、富田の一物は海パンの中からもっともっとと、手の動きを急かした。  胸にあったふたりで一対はシャツの内側に滑り込んで、手の動きでいっしょに揉む様に指示。戸惑う仕草を指をつねり、自らの胸をスク水越しにぐにっぐにゅっとめり込ませて屈服させる。それで素直になった沙都子の股間に、幾度目かのフレンチキスの愛撫を施した。 「……くウッンンッ?! アッ…………あアーッッ! あ……あはっ。い……イイ、ですわぁ……」  あわよくば、とでも思ったのだろう。  富田はそれで、沙都子がどんな声を出してくれるのか、無意識に指を引き、沙都子の口に隙間を作る。すると「イイ」と返ってきたではないか……!  でも……。  それは決して「富田大樹は北条沙都子が好き」への答えなどではない。それでも最後に、想いを寄せていた少女の、女の声を自分が引き出した。今はもう、富田にはそれで満足だった。ただそれは、富田の真心だけのこと。無念のすべてを包み、癒すには至らなかった。  本能は無念の欠片を劣情へと変えて、真心に忍び寄る……。  魔獣の如く涎を滴せるそれの胴体が、獣欲になりかけの無念によってより太く猛り、首を伸ばし、開放の出口を求め荒ぶりだす……。  沙都子との魅惑の顔面騎上位という状態が続いた為、富田は酸欠を起こし掛けていた。だから体も頭も楽な方、楽な方へと行きたがってきた。  すなわち、このまま沙都子を貫き、串刺しにする。  今は周りにニンゲンが居るが、この熱が冷めない内に……。それとは別に頭の真ん前で、天使と悪魔の格好をした梨花と羽入が手を繋ぎ、なにやらこちらに囁きかけていた……。 『くすくす……。我慢なんて体に毒よ。さっさと押し倒して、ヤるコトやっちゃいなさいよ。まったく、じれったいわねぇ……』――『あうあう~♪ みんなで沙都子を輪姦しっこなのです~♪ あうー♪♪』 (チョっ……フタリとモ。僕の、沙都子ヘノマ心ヲ聴いテなカッタのカよ! ソレと羽入っ! 僕の沙都子をソンなメで見るナーッ!) 『「僕の沙都子」って……それも二回。キモ。それと沙都子は基本的に私のだから。まったく、図々しいわねぇ……』――『あうあう~♪ みんなで沙都子を輪姦しっこなのです~♪ あうー♪♪』 (そっ、そレハ…………言バノ文ってやつダよ……! それと、イっ回目の「僕の、沙都子」にはちゃんと句点がハイってるだろ。だーかーらー羽入! 沙都子に輪姦しっこユーな!!) 『男のくせに言い訳ばかりして……。何が「僕は鉄壁」よ。鉄壁なのはあそこだけじゃない。まったく、このふにゃチン……!』――『あうあう~♪ みんなで沙都子を輪姦し』――『いいかげん黙れ、この淫魔……!』  羽入のボケに、梨花がツッコミの掌底を入れて、脳内コントにオチが付く。でもこれじゃあ、悪魔の梨花が勝っちゃったってことは……。あと「僕は鉄壁」ってナニ?  ついさっきまで悪鬼じみた欲に駆られていたというのに、二人の身勝手な言い分に…………あっ……っ!  はたして、富田がソレ等と自分とが同じだったと気付いたのが先か、伸びていた羽入が起き上がったのが先か。  彼女は立ち上がると、富田の頭上のずっと高いところを指し示した。  頭の中の映像はここから現実に切り替わる。 「はっはっ……ッ! ン……ン…………くンっ?! ンっはぁ…………ンっ、ンンッ!」 「……いたっ!!」  軽く達したのか、荷台に額を当て、沙都子が控えめに嬌声をあげた。 「僕の声が……届いてしまったのですか…………?」  肩で息をしている沙都子から目を外し、羽入を見上げる。その表情は目に見えて翳っていた。声色もどこか、普段が普段なのでその差異は大きく目立つ。 「……あれって……。うあ……っ」  口を開くと、未だ荒い息遣いの沙都子の尻に撫でられ、思わず声が上擦る。 「……沙都子は特に、やさしくしてあげないと……あむ、なのですよ。う、んむ……ちゅぴ……」  言っていることはまっとうだが、岡村から搾ったモノを啜りながら言われても……。滅多に見せない憂い顔が台無しだ。それよりも富田は再度、羽入に訊ねるべく口を開きかけた。 「…………おふたりとも、おしゃべりはダメ、でしてよ……」  しかし沙都子のヒッププレスに邪魔をされてしまう。 「これからは富田も、前みたいに『沙都子』って、呼んであげるといいのです。あうあう! ……あう。それはともかく。  狂気、じゃなくて、僕電波での梨花は魔女らしく『ベクトルアロ→』でツッコむのがお約束なのに……。でも、鬼神の僕には効かないのです~」  どきりとすることを言われた。  突然の羽入の言葉にはぐらかされて、言葉を失ってしまった。それでも、やるべきことはやらないと。  羽入とのおしゃべり――内に芽生えた沙都子への不安――想い――少しだけなつかしく、苦い記憶――は、今は置いておく。  富田は、沙都子の芳香を胸いっぱいに吸い込んでぷぅーっと噴き込む。  攻めるでもなくいじわるでもなく、対話への息吹。対して沙都子は小さく声を漏らし、そして背中が美しい弧を描いた。さらに夏空の天辺からの日差しがサンバイザーで弾けて七色にきらめいた。  ……あ、あれっ?! 指が……抜けない?  下からの行為に、沙都子はおもむろに尻をずらし、富田の口を自由にした。そして富田も沙都子の口から完全に指を引き抜こうとしたのだが……。  富田が沙都子の口に指を入れてしばらくが経つと、沙都子はふたりの指を噛んだりしてきた。痛くはあったが富田には甘噛みに感じられ、むしろ心地良いくらいだった。 「…………どう、でふの……? 富田さんもき……気持ひ、イイ……?」 「……くっ、ううゥ!!」  羽入のあの、精液に濡れた顔が目蓋をちらつき、沙都子のこの、明らかに発情した声が耳をくすぐる。そして極み付きの、視界零の顔面騎上位。  扱かれずとも――指先ひとつ、ひと撫でで――いや、何もしなくても――もれなく、親友の後を追えることだろう。 「ほらぁ……気持ひイイって言いまへんほぉ……まぁーた、おくちほ塞ひじゃい、まふあよぉ……? ほらぁ……あはは……。あはははっ!」  ぷちゅっ……くにゅ、くちゅう……っ。こりゅこにゅちゅっ! こちゅっ……こにゅちゅぷ……。 「ぷあっ……うぷっ! さ……さとっ、ぷゅぱあっ!」  柔の断罪ともいうべき猛攻が下され、富田は地上に居ながらに溺れ掛けた。……やっぱり怒ってるよな……。指、噛りついたまんま、ぜんぜん離してくれないし……。  それも一つの謝り方かと、沙都子のなすがままを受け入れても良かったのだが……指が、痛い。もう甘噛みとはいえないくらい、痛い。それにこの痛みは沙都子も感じているはず……。  間隙を突けば、何とかしゃべることはできる。だからちゃんと謝って、この虎鋏じみたトラップを解く。それから精意…………じゃなくって。せ……せい、意……。誠、意……そ、それ! 誠意を見せないと……!  今や上も下もぐちゃぐちゃのぬちゃぬちゃ。  そんなオツムとムスコでは、少し前だったなら誠意も沙都子も何もかもを白く、塗り潰しかねなかった。だけど今は大丈夫、だと思う。さっきの羽入のおかげかもしれない。  富田は口の中から引き抜くのではなく、沙都子の指を庇おうと動いた。しかし噛む力が緩むときを見計らうも、ふたりして同時に仕掛けたらしく、絡み合った指と指は再びひとつに組み合わさってしまう。 「ごめん北条。その……僕が悪かったから本当にごめん。だから、指を噛むのは止めよう……? お前だって、痛いだろ?」  いつも通り、沙都子を苗字で呼んでしまったことを、富田は密かに悔やんだ。それはそうと、沙都子は態度を変えずに、さらに腰の動きを加速させだした。 「あぁ……くっ! あ、あともう少しでもっと……ンンっ! ……ですから富田さんも……い、いっしょに……っ! ンッ……ふぁあッッ!」  ふたりの指は沙都子の口の端、葉巻の様に咥えられもう、動かせそうにない。  抜けた口調は戻り、口の中で悩ましく踊っていた舌と指とがさらにさらに熱く戯れだす。  沙都子がそう望むのなら富田はもう、その悦びの声に報いることに決めた。  沙都子をこんな風にしたのが圭一だとしても……。それでも今は…………今だけは僕があッッ!! 「沙都……子ぉお――おオオッ!!」 「え……っ?! きゃんっ!!」  沙都子の行為によって次第に富田の体が車体下からずれ出てきて、沙都子もそのまま出るに任せていたらしい。それを富田は、岡村と羽入の位置が自分から幾らか離れていることから気付く。  元々自由だった両足で富田は沙都子の首を掴み、なるべくそうっと、上体を引き寄せた。 「……硬くて……それにすごく熱いですわ……。は、んうっ、ウンッ!! ふあっ……あんっ。はああぁ……」  驚いたのは始めだけだった。沙都子は富田の意図を察し、自然とシックスナインの体位になる。  富田は潰れテントにほおずりと、夏よりも熱い吐息を服越しの股間で感じた。直接喰らいたい悔しさを、真心に包んでじゅちゅ……ぢゅちゅうーぅと、滲み出てくる蜜を吸うことで晴らした。 「あう……。ふたりとももう赤くはないのに、あう……すごいのです。そのまま、ふたりとも仲良く……なのですよ。あうあう♪」 「はあっ……! 羽入ちゃ、あんっ! そっ……こお尻ッ! アっ……あっ、またっ! ……ああーっ。いッ、イクイクーうゥゥ~……ンア――ッッ!」 「…………アンタたちねぇ……」  梨花のぼやきは突然の、鉄のいななきによって掻き消された。 「……え……何……? うっ、嘘、で……い゛っ、イ゛あっ゛?! ア゛が……あ゛っ!!」  雛クラ部員が隠れ蓑にしていた軽トラック。そのエンジンが三度咳き込み嘯いて、サイドブレーキが落とされ……次いで悲鳴と、べきりという音。 「りッ……?! 梨花ああぁーッ!!」 「羽入ちゃんは離れて……!!」  そんな仲間たちのやり取りのすぐ傍で、富田と沙都子はお互いの首に足を絡めて抱き合い、絶頂に体を震わせていた。   [[リトル・エクステンド 1-2]]へ続く    &counter(today) &counter(yesterday)
   1-1  困惑の急接近  進め(あう♪) 進め(あう♪) われら雛見沢~ぁ ちっちゃい者倶楽部!!  入道雲の空の下、村にセミの合唱と共に、ちいさき者たちの掛け声が流れていた。 「ぜんたぁ~い、気をつけろ。なのです」  込み入った所を抜け、畑の広がる見通しのいい場所に着くと、先頭を行く梨花がくるりと振り返って緩い警戒を呼び掛けてきた。すると皆の歌声がぴたりと止み、それから富田と沙都子の表情が引き締まったものになっていく。 「そしてよーい、ドン☆ なのですー」 「ほほ……! そう来ると思いましたわ!」  そして不意に駆け出す梨花とほぼ同時に、しんがりの沙都子が飛び出し……。 「……えっ? 北じょ、わわっ!」  追い越し様の彼女に、一つ前にいた富田は手をぎゅっと掴まれて――「富田さんは羽入さんの手を。羽入さんは岡村さんの手をお掴みになって!」――「う……うんっ! 羽入っ!」――「あう! がっちりきゃっちなのです。岡村ーぁ、おーてーて~、つーないでぇ~♪」――「はい、羽入ちゃん」 「そして私は…………それっ!」――「みぃ……っ?!」  仲間たちが手に手を繋ぎ合っている最中、沙都子はウエストポーチから取り出したなわとびを梨花に向けて放った。するとグリップが分銅として働き見事、梨花の左腕を捕らえた。 「みぃ。このままじゃボク、沙都子に調教されちゃうのです~☆」 「おーっほっほっほっ! でしたらお望み通り、私が梨花を立派な競走馬に調教してさし上げますわー!」  たぶん沙都子と梨花の「調教」の意味は似て非なるものなのだろうなと、くねくねと悶えながら走る梨花を見ながら富田は思った。  そんな調子で練り歩くちいさな一団に、通りすがりの村人があいさつをして寄越す。その都度、天敵であるレナの情報を聞き、もしくは向こうから教えてきてくれたりした。  話が済むと、村人の股下を這って潜り抜け、そしてレナの居ないと思われる方へと向かう。  雛見沢ちっちゃい者倶楽部と竜宮レナ。  この二つは相容れない関係であり、それは正確に、かつ簡潔に「獲物と捕食者」と言い表せた。とはいえ、捕まったりしても実際はレナといっしょに遊んだり、家でお菓子をご馳走されたりと、実にほのぼのとした関係なのだが。それでも部員もとい子供たちは遊びの天才ゆえに、レナの魔手から真剣に潜り抜けていた。  入部資格は小柄であること。飛び入りも可。  あの部活メンバーの活動とは別物で、雛見沢ちっちゃい者倶楽部(以降『雛クラ』と略)の活動内容は、村のあちこちにある「潜れそうなもの」を、部長を先頭に潜って行くというもの。  普段は月一回。夏休み等、長期の休みには部長の呼び掛けで倶楽部活動が行われる。  部活メンバーに罰ゲームがある様に、雛クラにも似たものがある。それは可愛らしい倶楽部名らしからぬ厳しいものだった。  部長の潜れたものが潜れない場合は退部。  これは創立者にして初代部長である魅音が作ったもので、それは部長といえども適応された。  去年の七月。創立第一日目にして早々と、部長の座がうっかり魅音からちゃっかり梨花へと受け継がれて一年あまり。  現在の部員構成は、現部長の北条沙都子を始め、副部長に富田大樹。古手梨花に岡村傑、そして古手羽入を新たに加えた計五人。  これまでの日々に各人、劇的なできごとがあったり、その身の上に波風とまではいかないまでもさざなみが生じたりもした。  夏休みも二週間が過ぎ、親密な関係になった組は当然、濃密な時間を。まだそうではない、擦れ違う者たちにも兆しが芽生え、想いの波紋を伝えんと、その手を伸ばしたのだった。 「……羽入。ボクと並び順を交換こするのです」  緊張状態に飽きてきた梨花が悪い癖を出し始めた。 「あぅ……。梨花の前は嫌なのです。レナが来たら絶対、突き飛ばす気なのです」  前部長の態度に、現部長は大きな目を細め寛容に微笑んでいた。ならば自分は副部長として一応の義務を果たそうと、富田は眼鏡に手を添え、遠くを見据えた。 「ほほ……。真面目さんがいますわ」 「…………? もしかして、僕のこと?」  沙都子は頷いて、前の三人を見る。  梨花・岡村・羽入の並び順は梨花が下がったことで、ぐだぐだに横へと広がる感が見えていた。  女性陣は頭にそれぞれ、つばの大きな麦わら帽子とサンバイザー。野球少年たちは言わずもがなの野球帽を。手には仲良く、赤に青の水着入れが握られていた。  沙都子から掴まれた手と手はそのまま、富田と沙都子を繋ぎ、ふたりを歩ませていた。 「……前はあのひとたちに任せて……私たちは後ろに気をつけていればよろしいんですのよ」  そう言って沙都子は手を引いて、歩調を緩めだした。 「……骨はちゃんと、拾って上げますのですよ」 「あぅ……梨花がひどいのです……。岡村~ぁ、僕を助けてなのです~」  羽入は綿菓子を思わせる甘く、やわらかな声を上げて岡村の腕にしがみついた。後ろからでもわかるくらい、親友の腕に押し付けられて歪み、大きく形を変える羽入の脇乳に、自然と目が釘付けになっていた。 「……岡村。ボクを敵に回したら……くすくす。どうしてあげようかしら」  岡村の首に、白蛇を思わせる手がしゅるりと巻かれ「がおー」と、そのぽにょぽにょした首筋を甘噛みする。 「り……っ、梨花ちゃんも羽入ちゃんも、仲良くしなくちゃダメだよ……っ」  岡村はどちらの少女に花を持たせるべきか、いつもの様に二人の間で困っていた。 「…………岡村さんが、羨ましいですのね……」 「え……っ?!」  沙都子に突然話しかけられて、富田は顔を引き攣らせた。 「……ずっと、見てましたわよね……」 「っ……?! ごっ……ゴメンッ!」  有無を言わずに謝る。しかし沙都子は聞く耳を持たず、その先を言い放った。 「大きくてやわらかい、羽入さんの胸を」 「ぅ……ぁ……。ごめん…………」  軽蔑のまなざしと妙な言い回しに、富田は縮こまって呻いた。 「今日から僕も、雛クラに入ることになりましたのです。みんなについて行ける様にがんばりたいと思いますのです。あう!」  沙都子の誕生日の翌日。  未だ興奮の覚め遣らぬ雛クラ部員に梨花のきまぐれ招集が掛かり、半ドンの昼下がりの境内にて、羽入の入部式が行われていた。 「……そのたれぱいじゃあ、魅音の二の舞になるのが落ちなのです」 「あううーっ! たっ、垂れてなんかいないのですっ!!」  梨花の毒を含んだ嫌味に、羽入がたぷたぷんっと猛抗議をする。 「ほんと?! 羽入ちゃんっ!」 「あうう――っ?! 岡村の目は節穴なのですか~ぁ――っ!!」  岡村の間の悪い食い付きに、羽入がぶるんったぷんっと猛抗議をする。 「ほらほら富田! 羽入ちゃんのおっぱい、ぶるんぶるんっだよ!」 「そ……そんなの、見ればわかるよ……っ!」 「……いやらしいひとたちですこと……っ!」 「ちょっ?! 北条ーっ?! ごっ……誤解だよ! おっ、岡村も何とか言えよーっ!」  腰の引けた富田も一緒くたにして、沙都子が胸を隠して嘆息する。 「違うよ~沙っちゃん。  僕と富田が言ってるのはねー。羽入ちゃんも、雛クラに入ってくれて良かったねってことなんだよ。ねっ、富田!!」 「うをわっ?! ちょっ、おま……っ! 羽入もやっ……止めれぇ~」 「あうあう♪ あうう♪ あうう♪ あう☆ あう☆」  岡村と、いつの間にか機嫌の直った羽入は富田を巻き込んで、くるくるとはしゃぎだした。 「おほほ。雛クラもいよいよ賑やかに…………えっ、ちょっと?! わ、私もですのぉォォおーッ?!」  哀れ、なかよしトリオを楽しげに眺めていた沙都子も巻き込まれる。 「くすくす。いつもより余計に回って、実に楽しそうなのです」  賽銭箱の前に座り、梨花はひとり、笑壷に入っていた。 「みーみみみみみ。けいちゅ~、けいちゅ~。そしてこれから言うボクの言葉に傾聴してほしいのです」  ひとしきりふざけあった挙句、疲れてへたり込み、てんでんばらばらに倒れている一同。  梨花はその愛しい仲間たちにぱんぱんと手を叩きながら歩み寄る。そのうちの、尻を上げて突っ伏している羽入の尻を引っ叩き、ついでに汚れを掃ってやる。 「これからは沙都子。貴女に雛クラを、引っ張って行って欲しいのです」  そしてもう片方の手を沙都子に差し出して、梨花は滑らかに宣言した。 「でかぱい沙都子が潜れるものなら、岡村とうし女もモーまんたいなのです」  梨花の言う通り、沙都子を先頭とした二人は水を得た魚の如く、とまではいかないまでも選定され、だいぶ楽になった障害物を次々と潜って行った。それでもレナには敵わず、羽入とセットでちょくちょくお持ち帰りされていた。  そんな和やかな時間を、しかし富田は少しだけ心配していた。  羽入が入部してきてから、雛クラの雰囲気が緩んできた。  たかが遊び、されど遊びの雛クラにも真剣に取り組んできた沙都子。  彼女は部長でありながら障害物の選定は梨花、もしくは副部長の自分に任せる様になる。 歯応えが無さ過ぎるからだと沙都子は言って、梨花に申し訳なさげに顔を伏せた。  そんな真面目な性挌ゆえ、沙都子は少し口うるさくなりがちなところがある。それは相手を思ってのことなのだが、はたして羽入が嫌がりはしないかと、富田は子供なりに気を揉んだ。  富田は二人の仲が険悪にならない様にと動いたりしてみた。だが沙都子と羽入はそんな気配は露とも見せず、むしろ梨花が嫉妬するほどの友情を示した。  これからの季節にと、沙都子は自分の麦わら帽子を羽入に贈り、また彼女の服を探しに二人で興宮に行ったり、裏山を案内してあげたり。  今日もその麦わら帽子と、沙都子と買ったという大きめのボーダーのTシャツを羽入は着てきた。他にもその他諸々、二人は仲を深め合っている様子だった。  そんな取り越し苦労も楽しい日々の下地となってきたある日。富田はその日々に自ら水を差してしまう。  若気の至り、というには彼には酷であり無常だと言えた。それでも――しかし――結果として――沙都子は富田と距離を置く様になる。  そうしたのは北条なのに……。なのに何だってまだ僕に、構ってくるんだよ…………ッ! 「あはっ。良かった……。ちゃんと冷えてますわよ」  沙都子が小川で冷やしておいたバナナを、水を切って手渡してきた。その眩しい笑顔に、思わず素直にバナナを受け取ってしまう。 「……僕のことはもういいから、北条は遊んできなよ」  富田はバナナに爪を立て、沙都子を三人の所へと進めた。  雛クラには退屈で危険な、とくに潜るものもない、だだっ広い通りを抜け、五人は休憩がてら、沿道の脇を流れる小川で水遊びをしていくことに。富田はそこで、川底の尖った石か何かで足の裏を切ってしまう。  富田はひとり、土手に歩きかけると沙都子がその肩を支えにくる。ケガの手当てをしてあげますわと、こちらの遠慮を押さえ込んで手際良く、富田の足に包帯が巻かれた。  沙都子はその後も富田のとなりで水の流れに爪先を遊ばせながら、水遊びに興じる三人を見つめていた。 「……今は、いいですわ…………。  それより今度は私が、富田さんの代わりに見張りを務めますわね」  たまには部長らしいことをしませんとねとはにかんで、かざす手でサンバイザーをちょこっと上げて、きょろきょろと見張り番を買って出た。 「……だったら座ってるより立って、見張ってた方がいいよ」 「ぁ……。そう、ですわね…………」  明らかに落胆の色を滲ませ、その夏空を思わせる顔容が曇ると、足の傷が痛んだ。  どういう訳だか、沙都子は自分に好意を寄せてきている様に思える。そう思う度に富田は自嘲で歪め、沙都子の気を無下にしてきた。  夏休みが始まり数日ぶりに会った沙都子はぼうと赤ら顔で。夏だから――少しだけ赤面気味なところ、そこがまた可愛らしく――とにかく、妙にそわそわしていた彼女が気になって理由を聞いてみるも何も話そうとしない。その内にふたりは口論となり…………。  それ以前にも、自分は沙都子の弱みに付け込んで似た様な、嫌がることをたくさんしてきた。  ゆらりと沙都子が立ち上がり、背を向けて離れて往く。 「っ……。ほうっ……っ」  見ない様にしていたのに、その背中を無意識に――眼――想いが追ってしまい、女々しい声までが喉から出掛かった。 「ほら! あなたたちも早く……って、富田! アンタなに暢気に座ってるのよっ!」  声のする方を見ると梨花と、早く早くと軽トラックの影から岡村と羽入も自分たちを呼んでいるのが見えた。 「……富田さん。立てまして……?」  そう言いながら立ち上がろうとする富田に近寄りまた、沙都子が手を差し伸べてくる。 「……僕はもういいから北条も…………さっさと隠れなよっ!」 「あっ……!」  その手を払い除け、富田は痛めた足を庇って歩いて行く。すると首を後ろから捕まれた。 「いっ?! いたっ! ……ほっ…………北条?! なな……何するんだよ!」 「……あなたは下に、行ってくださいましッ!」  それに手首まで、かなり強い力で捻られ、富田は問答無用で車体の下に押し込まれた。 「あぅ……。何だか、沙都子が恐いのです」  爪先で土を蹴散らかして、岡村の隣にしゃがみ込んだ沙都子に羽入が怯える。 「……沙っちゃん。富田がその……またヘンなコトをしちゃったのかな……?」  それに対して沙都子はとくに、何も答えなかった。なおも何か言おうとする岡村を、富田は金的を入れて黙らせる。苦悶の滲んだ非難とあうあうという声は無視。自業自得だぎゃッ?! 「……あんたはさっきからナニ沙都子を邪険にし・て・い・る・の・よッ!!」 「いだっ?! ちょっ……痛゛い゛! 痛゛だだっ!!」  野球帽を吹き飛ばし、眼鏡が壊されかねない膝の連打が、富田の顔面に打ち込まれだす。ついでにこれは岡村の分と、梨花は細い足首で富田の首を掴み、車体と垂直になる様、乱暴に促してくる。 「や……やめろってば! 何で…………お前だって北条のことあまり好く…………?」 「っ……。…………ふん」――「…………とにかく、古手には……関係ないだろ」  富田は半ばやけくそで叫び、しかし既に言葉をすり替えた。  場を考えてという理由もあったが、途中で梨花が表情を、くちびるを噛んで目を逸らしたから。だからそれ以上――それにその横顔がなぜかひどく切なく映り――梨花を、哀しませたくはなかった。でも……。  自分の、沙都子に対する態度を鑑みれば文句の一つ。それこそまたあの膝の一つでも、出してきそうなものなのに……。  まさかそんなにも梨花は、沙都子と羽入の仲を……。沙都子のことが嫌いになるほど、ふたりの仲を羨んでいるのだろうか。  もしそうだとしたら、さっきの機転はファインプレイだったかもしれなかった。 「富田さん、早く……。体の向きを、変えてくださいまし……」 「……あっ。う、うん」  頭をこっち側に……足は出ない様にと言われ、富田は大人しく従う。  状況がそうさせているのか、声の感じからいって、今の沙都子から不機嫌な気配は見られない。  なんだかんだ言ってもやはり好きになった手前、沙都子に嫌われるのは避けたいのが本音だ。なのに慣れない意地を張って、沙都子と梨花の怒りを買った報いがこれなのだろうか。  沙都子の言う通りにした――から――のに――、梨花の白い足が目の前にきてしまった。しかも約二名の刺す様な視線も感じる。この状況は幸といっていいものか、それとも不幸――はてはフラグ――なのか……。 「…………大根足、なんて思ってたら……」 「――っ?!」  ひとりは無言で見下ろしていたが、もう一人の方は違った。  ……何だか今日は女の子に驚かされてばかりな気がする。隣にいる親友なら「それは富田が悪いんだよ~」とでも宣ってくれそうだ。それはさておいて。  富田は目の前に突き出された膝をまじまじと見る。この足の、どこをどう見たらそう表現できるのだろうか。  白魚の指といい緑の黒髪といい、それらの持ち主に相応しい、綺麗でほっそりとした脚だった。それなのに何だってこんな、車の下になんて潜り込もうとするのか……。仲間たちの様に、車の……。そこで富田は野暮な考えを止めた。  梨花もやっぱり自分たちと同じだと。  オヤシロさまの生まれ変わりだと、大人たちからは大切にされているがひとたび……否。遊びや部活でも、それも最近になってからは猫を被らなくなっていた。むしろそのギャップを楽しんでいる様な…………やっぱり梨花は自分たちよりも少し、大人びた少女らしい。  ならばこちらも楽しむべく、脅しで突き出された膝を退かしつつ、舐める様に見入る。どうやら擦り傷の類は見られなかった。なぜだか少しほっとする。  さきほどの、膝の連打の際に見えた純白の下着。あわよくばと――魔が差して――つい、スカートの中をのごぎゃっ?! 「……富田ももっと足を引っ込めやがれなのです。沙都子」 「ええ…………。わかりましたわ……」  にぱー★ と嗤いながら再び富田の顔面に膝を入れた梨花は奥へと、羽入に引っ張られていく。手はしっかりとスカートを押さえていたりと、このへんのたしなみは持ち合わせているらしい。もっとも、岡村がそこを凝視しているところを見るに、あかんべをしている手の方はスカートがめくれ上がっているのだが。  それを横目に、自分も這って行こうとすると頭を掴まれぐいと、かなりの力で引っ張られた。どことなくその手からは怒りの様なものが感じられた。  今日の自分は女難の相があり、梨花に絡まれる原因の何割かは沙都子のせい、という免罪符の表情で正面に顔を向けると鼻先に、今にもくっつきそうなほどに、沙都子の股間が付き付けられていた。そしてそのまま…………え? ……う、うわっ?!  むぎゅ……。  なんと沙都子は、富田の頭に尻でのしかかってきた。  じゃり……がり、がりり……。ぎり、ギ……ジャリ…………。  そして、のしかかる尻がわずかに……沙都子の息遣いで揺れると眼鏡がにじられて、レンズの悲鳴がツルを伝わってきた。  なぜ沙都子がこんなことをしてくるのか……。それは自分を嫌っているからにほかない。でも、これじゃあむしろ……くっ! く、ぁ…………あッ……!  髪の上をすりすり……。不意にうなじをむにゅり……。  後頭部の上を揺れ動く尻に、脳ではなく直接触れている首の、その下の延髄から悦びの信号が出て、その刺激を受けた海パンの中のモノはすでに力強くいきり勃っていた。  しゃべることができないので何とかこちらの意思を伝えようと手を動かすも、うつ伏せでは肩がうまく動いてくれない。それでも無理矢理に動かすと、もがく手がぺちぺちと、となりの人肌を叩きだして、吸い付く肌触りに手が離れたがらない始末。 「ひゃんっ?!」  だからまたかな……と、覚悟を決めていた富田の脇腹にもれなく肘鉄が打ち込まれる顛末。その衝撃で体が跳ねると上から可愛らしい声が。しかしそれもすぐに、憮然とした声音に打って変わる。 「はぁ…………。  富田さんって……梨花とも随分、仲が…………よろしいんですのね……?」  ひとつ溜め息をつき、沙都子は腰を上げくすりと……獲物を捕らえた猫の眼って、見たことありまして……? と、目ではそう問い掛けてきている様に富田には感じた。 「沙っちゃん、しぃー。今そこに、竜宮さんが来てるから、しぃー」 「レナはおしゃべりしてても、僕たちには敏感だから気を付けないとなのです」 「ぁ……。ごめんなさいまし……」  口に人差し指を立てた二人に注意され、俯いた沙都子と目が合う。 「北条……。何でこんなこと、するんだよ」  仰向けになるよう促されていた富田は、眼鏡と息を整えながら沙都子に問い質した。 「…………富田さんはもう……こういうことをしたくは、ありませんの……?」 「こっこっ?! ……こういうこと……って」  耳が、膝の内側でぴったりと塞がれて……視界の端で腰がくねってユラメイて……野球帽が脱がされる。 「……やっぱりシたい、ですわよね……」 「っ……アッ!!」  唐突に、根元から先端へと、富田の硬く反り返っているモノの腹が撫でられた。 「ぁ……っ? 北条……何を……?」  その指先が顔へ……眼鏡を取り上げて沙都子は、自分のシャツの胸元に引っ掛ける。 「……まったく。梨花にまでちょっかいをお出しになるなんて……」  深い胸の谷間で眼鏡が揺れ、微笑む口元からは八重歯が零れていた。 「…………もうお前に……」――そんなことを言われる筋合いなんてないだろ……。  そう続けようとした台詞は沙都子の笑顔に解かれ……そして、微笑みを浮かべてしまう。なのに彼女の微笑は妖しさを深めて、サンバイザーを目深に被り直してそれから……。 「……富田さんのスケベ…………ん……」 「んン……っ?! ウッ、ンンぅーッッ?!」  沙都子は再び、今度は富田の顔面目掛けて腰を下ろしてきた。その拍子にそこの匂いを思い切り吸い込み、だから意識がどこかへ跳びかけた。  洗い立ての洗濯物と、その家庭の匂い。それと、沙都子の香り。  凸と違い、凹である股間からは無粋な臭いなどはせず、その何ともいえない香りに心臓がどくどくと暴れだす。  その手の漫画に、ヒロインの股間に顔を埋め、そこの匂いを嗅いで悦ぶ男の気持ちがこのとき心の底から理解でき、共感できた。しかし…………。  降って沸いた悦びにより、小さくなりはしたが消えてはくれない沙都子への“疑”。  あの日。  心配するあまり、逃げる沙都子を捕まえて押し倒してしまい富田は沙都子にスケベ呼ばわりされた。  二週間前。  罰ゲームをしに、圭一の家から逃げる様に飛び出してきた沙都子。 「うンっ! あふぅ! ふっ……ふう……うふふ……」  苦しくも嬉しげに息を弾ませ、人の顔の上で腰をくねらせて、富田の鼻に股間を擦り付けている。そんな体勢だから顔の上半分は尻からはみ出し、おかげで視界が利いていた。  富田の胸に繊手が置かれ、まさに目と鼻の先で踊るヒップ。  軽トラックの荷台にぶつからぬ様、前屈みから思い切り反らされた背中。  短いながらも汗が、後ろ髪をうなじに張り付かせ、耳にまで散った紅葉。  昔は、いたずらをされると泣いて嫌がっていた沙都子。  今は、慕う男にいなくなった兄を重ねて、笑顔の絶えなくなった沙都子。  それなのに何故、こんなことを……。  そんなこと、決まってるだろ……っ?! 北条はもう…………くっ……そぉおおおおッ!! 「ひあっ……!!」  肉圧の下、富田は強引に大口を開けて、埋れ出た下前歯で股間に噛み付く。するとこりゅっとした歯ごたえに、上から高い声がした。  今のって……もしかしてくっ、クリトリスに……っ?! 「あぷっ!」  驚く富田の視界が再び尻で占められ、その谷間と鼻とがぴったりと隙間なく密着。鼻が尻に押し潰される。 「……そんなところに噛り付くなんて…………はぁ。富田さんも、デリカシーが、ぁー……うふふふ。なって、ませんわねぇ……。だから罰を……喰らいなさいましね」  それから口を磨り潰さんと、大胆な腰遣いでこにゅこにゅと、下半身でのフレンチキスが富田を戒め、罰し始めた。  顔面全体余すところ無く、尻が激しくいざり、にじられる。しばらくして、熱っぽい声が聞こえだし、沙都子は靴底を後頭部の下に入れ、足全体で包み込むとぎゅううう……と、頭を絞め付けてくる。  肩は膝で固められ、十指は繊手に絡め獲られ、形ばかりの抵抗が除々に圧殺されていった。  鼻腔といわず咽喉、気管、肺臓と、色香によって呼吸器が侵され、沙都子で胸がいっぱいになっていく。  確かに息苦しい。だがそれでも、自慰では感じたことのないほどの快楽に浸かって、「苦」は「楽」となり「快」へと変わっていく。  頭はとうに霞み、沙都子への疑問に憤りもここにきて、どうでもよくなってきていた。 「あう……。沙都子の腰遣いがすごくいやらしいのです…………」 「はっ、羽入ちゃん……っ。背中におっぱいが当たってる……っ! それに今は、竜宮さんを見張ってなくっちゃ……」 「…………それは梨花がやってくれていますですから……。だから、岡村の甘い精を僕に…………」 「うわっ! お、おちんちんまでいじられたらで……でちゃうよぅ…………」  どうやら自分たちの姿に、羽入が中てられたらしい。手玉に取られた岡村が嬉しい悲鳴を洩らし始めた。  親友の呟きに、二人の痴態を想像してその上、想いを寄せる少女の尻を顔面に押し付けられるという状況に、虚ろだった意識は次第と固まっていき、それはある形……本能を形作った! 「んん……ッ?! あは、はぁ……。やっとその気に……え、あんっ?! とっ……富田さ、ンあーっ!!」  沙都子の腰を浮かせる為、不意に自分から顔を動かして、その生まれた隙を突く。武器でもあり弱点とも言えるそこに富田が吸い付くと、沙都子が驚いて大きな声で鳴いた。それでも富田は怯まない。 「あっ……あッ! くぅ……ンンッ!! はぁあ! ふあっ……あンッ!!」  吸盤を――胸を吸う様を――イメージし、思い切り香気を吸う。  沙都子の反応の変わり様に味を占め富田は、股間の香りを夢中になって胸いっぱいに取り込む。 「やぁ……。そんなところの臭いをか……あ、アーッ! かっ……か、嗅がないで……」  今更ナニ言ってるんだよ……。  沙都子はなおも何度か訴えてきたが、富田はそのたびに嗤ってやった。  強さの内にある優しさと弱さ。  その弱さに付け込んでもっと、沙都子を泣かせたい。いや、鳴かせたい……。  泣かせた回数ならあの人には負けない。それにこれから自分も、北条の鳴き声を聴きながら、北条と前みたいに……いや。前原さんと北条がしている以上の事を……北条が鳴いて叫ぶくらいのコトをしてやる……っ!! 「ンあーッ! そ……そんな、おっぱいまで……あっ! いっア……っは……ああぁーッ!!」今やふたりの攻守は完全に逆転していた。  富田は弱まった手を掴み返し、手と手を重ねたてのひらで、沙都子の双房を掴む。  前と、それと窄まりへの攻撃に加え、少女という器をはみ出し気味な胸を力を込めてぐにゅぐにゅと弄ぶ。そして肉の頂でつんつん、こにゅこにゅと自己主張してくる乳首を思い切り、ふたりの指でぐ……ぐっ、ぐにゅう……といざり、爪を喰い込ませる。 「んんッ……くぅぅ…………。う、うっ…………くっ、ぁっ……」  恥ずかしいのだろう、洩れ出る声を塞ごうと、何度か手を引かれた。そのたびに肉芽に噛み付いて腰砕けにし、大きく息を吸い込んで……。 「……あふうッ、ふぁ……あ、ああ……あはぁあアアア――ッッ!!」  熱い息を尻の穴に吹き込んで喝を入れた。 「は…………あ……ぁぁ……。はー……あ、ふぁ……」  そうして大人しくなった沙都子を、富田は本格的に味わいだす。 「あう……。富田がすごくてくにしゃんぽいのです…………」 「あう……ぅ! はっ、にゅうちゃ……んんっ!! む、胸までされたらもっ……もう、本当にっ!!」 「…………ちょっとあなたたち。少し、静かにしなさい。ハメ外し過ぎるとマジで、レナに見つかるわよ……?」  梨花の注意に一同が静まる。  確かに。このまたと無い機会をもっと楽しむ為にも、静かにシないと……。 「ふう…………はあ……ぁ。とみ……たさん、何を……? ぇぁ……っ、ふむううぅーッッ!!」富田は、ふたりの手の内の片方を胸から上へと引き剥がし、吐息を感じるところに突き入れた。 「んっ……?! んんうぅッ?! ふぅンむっ……! ん、あー……! いっはっ……やあッ、んむッーゥゥ~ッッ!!」  ふたりの指で口の中を掻き回しだすとすぐに沙都子が激しく呻きだした。そのぐちゅぐちゅという音――悲痛な声――がイマラチオを連想させ、ペニスがどくどくどくっと、痛みを伴わせるほどの武者震いを起こす。そして巣の中の雛の如く、富田の一物は海パンの中からもっともっとと、手の動きを急かした。  胸にあったふたりで一対はシャツの内側に滑り込んで、手の動きでいっしょに揉む様に指示。戸惑う仕草を指をつねり、自らの胸をスク水越しにぐにっぐにゅっとめり込ませて屈服させる。それで素直になった沙都子の股間に、幾度目かのフレンチキスの愛撫を施した。 「……くウッンンッ?! アッ…………あアーッッ! あ……あはっ。い……イイ、ですわぁ……」  あわよくば、とでも思ったのだろう。  富田はそれで、沙都子がどんな声を出してくれるのか、無意識に指を引き、沙都子の口に隙間を作る。すると「イイ」と返ってきたではないか……!  でも……。  それは決して「富田大樹は北条沙都子が好き」への答えなどではない。それでも最後に、想いを寄せていた少女の、女の声を自分が引き出した。今はもう、富田にはそれで満足だった。ただそれは、富田の真心だけのこと。無念のすべてを包み、癒すには至らなかった。  本能は無念の欠片を劣情へと変えて、真心に忍び寄る……。  魔獣の如く涎を滴せるそれの胴体が、獣欲になりかけの無念によってより太く猛り、首を伸ばし、開放の出口を求め荒ぶりだす……。  沙都子との魅惑の顔面騎上位という状態が続いた為、富田は酸欠を起こし掛けていた。だから体も頭も楽な方、楽な方へと行きたがってきた。  すなわち、このまま沙都子を貫き、串刺しにする。  今は周りにニンゲンが居るが、この熱が冷めない内に……。それとは別に頭の真ん前で、天使と悪魔の格好をした梨花と羽入が手を繋ぎ、なにやらこちらに囁きかけていた……。 『くすくす……。我慢なんて体に毒よ。さっさと押し倒して、ヤるコトやっちゃいなさいよ。まったく、じれったいわねぇ……』――『あうあう~♪ みんなで沙都子を輪姦しっこなのです~♪ あうー♪♪』 (チョっ……フタリとモ。僕の、沙都子ヘノマ心ヲ聴いテなカッタのカよ! ソレと羽入っ! 僕の沙都子をソンなメで見るナーッ!) 『「僕の沙都子」って……それも二回。キモ。それと沙都子は基本的に私のだから。まったく、図々しいわねぇ……』――『あうあう~♪ みんなで沙都子を輪姦しっこなのです~♪ あうー♪♪』 (そっ、そレハ…………言バノ文ってやつダよ……! それと、イっ回目の「僕の、沙都子」にはちゃんと句点がハイってるだろ。だーかーらー羽入! 沙都子に輪姦しっこユーな!!) 『男のくせに言い訳ばかりして……。何が「僕は鉄壁」よ。鉄壁なのはあそこだけじゃない。まったく、このふにゃチン……!』――『あうあう~♪ みんなで沙都子を輪姦し』――『いいかげん黙れ、この淫魔……!』  羽入のボケに、梨花がツッコミの掌底を入れて、脳内コントにオチが付く。でもこれじゃあ、悪魔の梨花が勝っちゃったってことは……。あと「僕は鉄壁」ってナニ?  ついさっきまで悪鬼じみた欲に駆られていたというのに、二人の身勝手な言い分に…………あっ……っ!  はたして、富田がソレ等と自分とが同じだったと気付いたのが先か、伸びていた羽入が起き上がったのが先か。  彼女は立ち上がると、富田の頭上のずっと高いところを指し示した。  頭の中の映像はここから現実に切り替わる。 「はっはっ……ッ! ン……ン…………くンっ?! ンっはぁ…………ンっ、ンンッ!」 「……いたっ!!」  軽く達したのか、荷台に額を当て、沙都子が控えめに嬌声をあげた。 「僕の声が……届いてしまったのですか…………?」  肩で息をしている沙都子から目を外し、羽入を見上げる。その表情は目に見えて翳っていた。声色もどこか、普段が普段なのでその差異は大きく目立つ。 「……あれって……。うあ……っ」  口を開くと、未だ荒い息遣いの沙都子の尻に撫でられ、思わず声が上擦る。 「……沙都子は特に、やさしくしてあげないと……あむ、なのですよ。う、んむ……ちゅぴ……」  言っていることはまっとうだが、岡村から搾ったモノを啜りながら言われても……。滅多に見せない憂い顔が台無しだ。それよりも富田は再度、羽入に訊ねるべく口を開きかけた。 「…………おふたりとも、おしゃべりはダメ、でしてよ……」  しかし沙都子のヒッププレスに邪魔をされてしまう。 「これからは富田も、前みたいに『沙都子』って、呼んであげるといいのです。あうあう! ……あう。それはともかく。  狂気、じゃなくて、僕電波での梨花は魔女らしく『ベクトルアロ→』でツッコむのがお約束なのに……。でも、鬼神の僕には効かないのです~」  どきりとすることを言われた。  突然の羽入の言葉にはぐらかされて、言葉を失ってしまった。それでも、やるべきことはやらないと。  羽入とのおしゃべり――内に芽生えた沙都子への不安――想い――少しだけなつかしく、苦い記憶――は、今は置いておく。  富田は、沙都子の芳香を胸いっぱいに吸い込んでぷぅーっと噴き込む。  攻めるでもなくいじわるでもなく、対話への息吹。対して沙都子は小さく声を漏らし、そして背中が美しい弧を描いた。さらに夏空の天辺からの日差しがサンバイザーで弾けて七色にきらめいた。  ……あ、あれっ?! 指が……抜けない?  下からの行為に、沙都子はおもむろに尻をずらし、富田の口を自由にした。そして富田も沙都子の口から完全に指を引き抜こうとしたのだが……。  富田が沙都子の口に指を入れてしばらくが経つと、沙都子はふたりの指を噛んだりしてきた。痛くはあったが富田には甘噛みに感じられ、むしろ心地良いくらいだった。 「…………どう、でふの……? 富田さんもき……気持ひ、イイ……?」 「……くっ、ううゥ!!」  羽入のあの、精液に濡れた顔が目蓋をちらつき、沙都子のこの、明らかに発情した声が耳をくすぐる。そして極み付きの、視界零の顔面騎上位。  扱かれずとも――指先ひとつ、ひと撫でで――いや、何もしなくても――もれなく、親友の後を追えることだろう。 「ほらぁ……気持ひイイって言いまへんほぉ……まぁーた、おくちほ塞ひじゃい、まふあよぉ……? ほらぁ……あはは……。あはははっ!」  ぷちゅっ……くにゅ、くちゅう……っ。こりゅこにゅちゅっ! こちゅっ……こにゅちゅぷ……。 「ぷあっ……うぷっ! さ……さとっ、ぷゅぱあっ!」  柔の断罪ともいうべき猛攻が下され、富田は地上に居ながらに溺れ掛けた。……やっぱり怒ってるよな……。指、噛りついたまんま、ぜんぜん離してくれないし……。  それも一つの謝り方かと、沙都子のなすがままを受け入れても良かったのだが……指が、痛い。もう甘噛みとはいえないくらい、痛い。それにこの痛みは沙都子も感じているはず……。  間隙を突けば、何とかしゃべることはできる。だからちゃんと謝って、この虎鋏じみたトラップを解く。それから精意…………じゃなくって。せ……せい、意……。誠、意……そ、それ! 誠意を見せないと……!  今や上も下もぐちゃぐちゃのぬちゃぬちゃ。  そんなオツムとムスコでは、少し前だったなら誠意も沙都子も何もかもを白く、塗り潰しかねなかった。だけど今は大丈夫、だと思う。さっきの羽入のおかげかもしれない。  富田は口の中から引き抜くのではなく、沙都子の指を庇おうと動いた。しかし噛む力が緩むときを見計らうも、ふたりして同時に仕掛けたらしく、絡み合った指と指は再びひとつに組み合わさってしまう。 「ごめん北条。その……僕が悪かったから本当にごめん。だから、指を噛むのは止めよう……? お前だって、痛いだろ?」  いつも通り、沙都子を苗字で呼んでしまったことを、富田は密かに悔やんだ。それはそうと、沙都子は態度を変えずに、さらに腰の動きを加速させだした。 「あぁ……くっ! あ、あともう少しでもっと……ンンっ! ……ですから富田さんも……い、いっしょに……っ! ンッ……ふぁ……ああッ!」  ふたりの指は沙都子の口の端、葉巻の様に咥えられもう、動かせそうにない。  抜けた口調は戻り、口の中で悩ましく踊っていた舌と指とがさらにさらに熱く戯れだす。  沙都子をこんな風にしたのが圭一だとしても……。それでも今は…………今だけは僕が……ッ!! 「沙都……子ぉお――おオオッ!!」 「……えっ?! きゃんっ!!」  富田は沙都子の首を両足で掴み、そうっと上体を引き寄せた。  沙都子の行為によって次第に富田の体が車体下からずれ出てきて、沙都子もそのまま出るに任せていたらしい。それを富田は、岡村と羽入の位置が自分から幾らか離れていることから気付いた。 「ぁ……。富田さんの……硬くて、それにすごく熱い……ですわ……はぁ……ん。ウっ……ンンッ!! ふあ……はあっ。ぁ…………あふぅ…………」  驚いたのは始めだけだった。沙都子は富田の意図を察し、自然とシックスナインの体位になる。  富田は潰れテントにほおずりと、夏よりも熱い吐息を服越しの股間で感じた。直接喰らいたい悔しさをじゅちゅ……ぢゅちゅうーぅと、滲み出てくる蜜を吸うことで晴らした。 「あう……ふたりとも、もう赤くはないのに…………すごいのです。  そのままふたりとも仲良く、なのですよ♪」 「はあっ……! 羽入ちゃ、あんっ! そっ……こお尻いっ! アっ……あっ、またっ! ……ああーっ。いっ……イクイクう~ゥあ――ッッ!」 「……アンタたちねぇ…………え……?」  また梨花のぼやきが始まる……そのタイミングに、鉄の嘶きが割って入ってきた。 「……うっ、嘘……でイ゛あ゛っ?! ア゛……ッがっがあ゛……っ!!」  雛クラ部員が隠れ蓑にしていた軽トラック。  そのエンジンが三度咳き込み嘯くと、サイドブレーキが落とされ、誰かの悲鳴が削られ、べきりという音がした。 「りっ、梨花ああぁーっ!!」 「羽入ちゃんは離れて……!」  そんな緊迫した仲間たちのすぐ傍で、富田と沙都子はお互いの首に足を絡めて抱き合い、絶頂に体を震わせていた。   [[リトル・エクステンド 1-2]]に続く &counter(today) &counter(yesterday)

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