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夕昏(レナ×圭一) 前編」を以下のとおり復元します。
 夕昏 

俺は、一日中呆けていた。 
今日は魅音が居なくなってはじめての登校だった。 
そう、魅音は今、高校生になるための準備をしている。 
高校に本家から登校するために、原付の免許を取るんだとか。 
ヘリの操縦も出来るようなやつが今から原付かよ、と突っ込みたいところだが、 
その相手が今は居ない。 
 「圭一くん、さびしいね」 
「ああ」 
お互い、気の抜けた炭酸飲料みたいになっていた俺たち。 
梨花ちゃんも、沙都子も同じだった。 
部活が無い、魅音が居ない一日が、こんなにも寂しくて退屈なものだったとは、 
思いもしなかった。昔、馬鹿みたいに勉強していた自分を、ちょっと尊敬する。 
 「でも、ずっとこんなのじゃダメだよね?魅ぃちゃんい笑われちゃうよね?」 
「ああ」 
俺に精一杯元気を出してもらおうと、 
精一杯の笑顔を、レナは俺にくれた。 
それでも俺は、それに返事さえ出来ない俺は、 
気まずさで一杯で、生意気にもため息までついてしまった。 
 「レナは……すごいな」 
「なんで?」 
「いや、俺……なんつーか、笑ってたんじゃなくて、笑わせてもらってたんだなって、 
今思ったんだ。俺さ、昔……本当、笑い方も知らねえんじゃねえかっていうような奴だったから。 
笑う意味を考えてたんだぜ?」 
 はは、と苦笑いをする俺に、あ、圭一くんも笑った、とレナはつぶやいた。 
「レナも、圭一くんすごいなって思う時があるよ。勉強だって一番だし、 
面白いこと一杯言うし。圭一くんだったら、村ごと操れそうな気がするよ」 
「俺が村ごと? はは、いいなそれ、俺園崎家の次期頭首にでもなってみるか?」 
 「はぅ、それって、魅ぃちゃんのところに、お婿さんに行くってことなのかな? かな?」 
俺の冗談でレナを笑わせるのも、ほぼ一日ぶりだった。 
 「……圭一くん、レナが、もし……もしね、お嫁さんに行くなら、 
どんな人のところかな? 私が決めることなんだろうけど」 
「レナがお嫁さんに行くところ? そりゃあ、レナが望めばどこにだっていけるだろ。 
家事全般うまいし、いざって時は男の俺だって負けちまうその戦闘力。 
レナの旦那さんは、安心して働きにいけるだろうよ」 
「戦闘力って、圭一くんひどい」 
一緒に笑って、ずっといたかった。でも、一呼吸でそれは止まってしまった。 
息を止めてその時間が得られるなら、死ぬ直前まで止めてやる。そう思っていたのに。 
 「あのね、レナは……皆を引っ張ってくれる人がいいかな」 
「魅音みたいにか?」 
「ううん。魅ぃちゃんとはちょっと違うかなぁ。魅ぃちゃんはね、 
すでに出来上がってる大きな人の集まりの中だったら、 
いいリーダーになると思うけど…… 
そんなのじゃなくて、自分の周りだけでもいいから、引っ張ってくれる人。 
火をつけるための火種みたいな人。そんな人が……いいかな」 
 「ふーん、お、俺と正反対みたいなやつだな。どっちかという、レナみたいな。」 
「レナと圭一くん、正反対かな? かな?」 
レナが、少しだけうつむいた。その顔を上げるために、とっておきの冗談を言う。 
 「レナ、顔を上げてくれよ。」 
ここで、芝居がかった声に。 
「お前の笑顔が好きなんだ、だから、顔をあげて笑ってくれよ、あははは」 
さすがに最後は恥ずかしくなって、思わず自分で笑ってしまう。 
 「それは、冗談なの? 圭一くん?」 
「んー、ごめん、つまらなかったか」 
「そうじゃなくて……その、レナの笑顔が好きだっていうのは、本当なのかな?」 
 もう一度、かな? と言わずに、レナは俺の顔を見て…… 
自分の顔を赤くしていた。それは、西日の赤のせいじゃない。 
レナの中の血が、レナの顔を赤くしている。 
「ああ、それは本当だぜ」 
俺も、顔に血液が集まって、じんじんとしてきた。 
鏡を見たらレナみたいに赤くなっているのが見れたのかもしれない。 
こんな冗談言うんじゃなかった。 
気まずい。 
 「よかった。冗談じゃなかったんだね」 
「レナのこと、好き?」 
「き、嫌いじゃないな」 
しまった、嫌いじゃないとか、すげえ微妙なことを言ってしまった。 
「嫌いじゃない……かぁ」 
「あ、ああ、いや、好きだぜ」 
「本当に?」 
 ああ、なんでこんな会話になっちまったんだ。 
と、今さら後悔しても遅い。俺だって……レナは異性として好きだ。 
むしろ、大好きだ。それでもいえない。言ったら…… 
言って相手が自分ほど好きじゃなかったら、どうなる? 嫌いとは言わないかもしれない。 
でも、ごめんなさいなんていわれたら……俺はどうなってしまうだろう。 
もうレナどころか、皆とも顔を合わせられない。 
そうなれば昔に逆戻りだ。 
あんなこの世の地獄に、もう一度戻ってしまうなんて、俺は絶対嫌だった。 
「あ、あのさ、レナ……まだ日没まで時間があるだろ? ちょっとだけ宝探しに行かないか?」 
苦肉の策だ。俺はレナを自分から宝探しに誘ってみることにした。 
「うん、いいよ」 
 レナは案外普通に、宝探しに行くことを承諾してくれた。 
話を逸らされて機嫌が悪くなってしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしたが。 
俺たちはそれぞれの家にいったん帰って、いつもの場所で待ち合わせすることにした。 
レナは……いつもと違う、体操服に身を包んでいた。動きやすいように、ということらしい。 
「ちょっと……変かな?」 
「え……お、俺はいいと思うな、はは」 
とりあえず誤魔化しておく。 
 なんとか日が傾く前に、俺たちはゴミ捨て場にたどり着いた。 
レナは早速、ゴミ山を登っていっている。 
さっきの話なんかは、まるで覚えていないように。 
「よーし、俺もいっちょやるか」 
俺が自前のスコップを肩にやり、ゴミ山を登ろうとしたときに、レナの声が聞こえた。 
「圭一くーん、ちょっと重いものがあったから、こっちに来てー」 
「おーう、ちょっと待ってくれ」 
 ゴミ山の向こう側、丁度谷になっているところから、レナの声が聞こえる。 
崩れる山をなんとか登り、 
レナがどこにいるかわからないから、山を必要以上崩さないように慎重に降りていく。 
あまり急に動くと、崩れたものがレナにぶつかるかもしれない。 
 「圭一くーん、こっちこっちー」 
レナの姿は見えないのに、確かに声が聞こえてきた。 
谷の底にはゴミしか見えない。 
でも、確かにそこから聞こえてきた。 
とにかく俺は、谷を降りることにした。 
 「どこだ? レナ? 俺からは見えないんだけど……」 
「ここだよ、圭一くん」 
ゴミの中から、レナの手が伸びてくる。 
 「うぉ、びっくりした……」 
良く見るとそれは、ゴミでコーティングされた車だった。 
ゴミといっても、あんまり汚くないものが選別されていた。 
それでも迷彩としては立派なもので、一目見たぐらいじゃ…… 
いや、近づいたってなかなかわからないだろう。 
 俺が入った後に、スライド式のドアがレナによって閉められた。 
中は車である必要はないからか、車として必要でも、中に居るには邪魔なもの…… 
ハンドルなどは取り払われていた。 
そのせいか、ここは車の中ということを感じさせない。 
一つの部屋のようだった。 
「で、レナ、一体どこにその重い物があるんだ?」 
「嘘、だよ。だよ……」 
「嘘? 何でそんな」 
「さっきの話の続き、いいかな?」 
「さっきって……何の話だよ?」 
「その……圭一くんが、私のこと、好きかどうかって……そういうこと」 
 レナの怖いくらいの真剣な目で、冗談でもなんでもないことはすぐに分かった。 
「ああ……その事か」 
俺は、言ってはいけない冗談を言ってしまったんだろう。 
本当に俺は馬鹿な奴だ。 
 「ごめん……レナは、卑怯だよね?  
こんなところに、圭一くんを追い込んで。 
この服だって、動きやすいからじゃないんだよ?  
圭一くんが……こんな服のほうが好きだとか、そんなことを思って…… 
着たんだよ? それに、私は……魅ぃちゃんが居なくなったから、落ち込んでたんじゃないの。 
圭一くんが、魅ぃちゃんのことばっかり考えてたから…… 
今こんなこと話してるのも、きっと打算の上。 
こうしたら嘘の罪がすこしでも薄れるんじゃないかって。 
嘘だって圭一くんが気付いたときに、少しでも嫌われないようにって……」 
「好きだよ」 
俺は、腹を決めることにした。 
もう関係が壊れるとか、壊れないとか、そんな段階じゃない。 
「きっと」レナが俺のことを好きなら、それだけでいい。 
俺だってつらかった。 
レナのことを考えるのが、つらかったんだ。 
好きな人を、本気で好きな人のことを考えるのが、 
こんなにつらかったなんて、思いもしなかった。
 「それは、愛してる……って取ってもいいのかな?  
友達として、じゃなくて、その、あの……恋人……として、取っていいのかな?」 
「……ああ、俺は、レナが好きだ。その、恋人として」 
 「じゃあ、その証……くれるかな?」 
「あ、証?」 
心臓が鼓動する音が、自分にも聞こえる。 
どくん、どくん。そのたびに、俺の顔が赤くなっていくのが、自分でもはっきりわかった。 
 「証……だよ。新郎新婦が、神父様の前でする……証、だよ」 
「レ、レナ、その、そういうのは、ちょっと早いんじゃないかな? かな?」 
 俺はちょっと混乱していた。 
まさか、いきなりキスを要求されとは、思ってもいなかった。 
突然、レナの顔だけではなく、今の状況の全てを意識してしまう。 
こんな密閉された空間で、体操服姿のレナと一緒で、キスを要求されている。 
「あ、レ、レナ、ぱんつはみ出してる」 
「え? え?」 
レナが下を見た隙に、俺はドアに手をかけた。 
が、空かない。 
「ムダだよ、圭一くん。中からは開かないの。 
レナがちょっと細工をしたんだよ……用意周到でしょう?  
こんな女の子でも……圭一くん、好きって言ってくれるかな?」 
 レナは、じゃらじゃらと鎖を掴みあげた。 
その鎖は天井から下がっており、おそらく外に貫通してこの車を一周ぐるりと取り囲んで、 
レナの手元の南京錠で結束されている。 
つまり、鎖を切断するか南京錠を開けない限り、この車からは出られない。 
「レナ……本当に、いいのか?」 
「圭一くんも……いいの?」 
レナが少し怖い。 
でも、俺はうれしかった。 
レナは、それだけ俺のことが好きだったから。 
俺も、それぐらいレナが好きだったから。 
「俺だって、レナが好きだった。 
こんなこと出来たなら、俺だってやってたよ。 
本当にやるところがレナらしいけどな」 
 俺は笑って、レナは赤面する。 
よかった、いつものレナだ。 
「どういう意味かな? かな?」 
 「レナ、俺に勇気をくれてありがとう。 
じゃ、じゃあ、その、歯磨きとか、してないけど……いいか?」 
「いいよ。圭一くん……して」 

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