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鬼畜王K1 〜鬼誑し編・其ノ漆〜<反転> - (2007/10/09 (火) 14:47:34) の編集履歴(バックアップ)


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鬼畜王K1 〜鬼誑し編・其ノ漆〜<反転>

その31からその35まで収録




「…ごめんね、魅ぃちゃん。レナの用事で、部活が中止になっちゃって」
「あはは、そんなことないよ。部活は明日だって出来るけど、レナの急ぎの用事なら済ませてしまわないとね。
圭ちゃんも言ってたけど、今日の分を明日の部活で思いっきりやればいいだけでしょ」
「…うん、そうだね」
私は思わず、生半可な返事をしてしまう。
…ごめんね、魅ぃちゃん…心の中で、また魅ぃちゃんへ謝罪してしまう。
急ぎの用事なんて、嘘だ。家具を選ばなければいけないなんて、嘘だ。
…圭一くんが帰ったなんて、嘘だ。
圭一くんは、今頃学校の外で時間を潰し、しばらくしたらここに戻ってくることになっている。
その時までに、私が、魅ぃちゃんを…。
「どしたの、レナ?…なんか元気ないじゃーん?」
思わずビクリとする。魅ぃちゃんが、私の顔を覗き込んできたから。
「はぅっ、…そ、そんなことないよ~?レナはいつだって元気だよ、だよ?
これからかぁいい家具を選びに行くんだから、落ち込むわけないよ!はうぅ~☆」
私はかぁいいモード発動前を装う。
魅ぃちゃんはそれを見て、あははと声を上げて笑っている。
「それなら安心したよ。…でもさ、お店に行くまでちょっとだけ…いいかな?」
「はぅ?」
魅ぃちゃんが、急にふうっと息を吐き、視線を外した。
普段の魅ぃちゃんなら考えられないような、重い表情をしている。
机の上で両手を組んだまま、魅ぃちゃんが小さく呟いた。
「ねぇ…。レナは、圭ちゃんのこと…好き?」
「…ッ」
私は思わず、息を飲む。
「…え?」
…なんで、そんなことをいきなり言い出すの、魅ぃちゃん?
「…ちょうど、みんなもいないことだしさ…この際、はっきり訊いておこうと思って。
…これはレナを疑ったわけじゃないんだけど…もしかしたら、『今日これから買い物に付き添ってほしい』っていうのも、
ここで二人きりにするための方便なんじゃないかなーって最初思っちゃったりしたしね…」
…やっぱり魅ぃちゃんは、鋭いな。私がついた嘘を見抜いたんだ。『嘘も方便』っていうけど…嘘は嘘だもんね。
「あはは…やっぱり魅ぃちゃんは、さすがだね。…レナね、確かに嘘ついたよ。
…買い物なんて、嘘。…本当は、魅ぃちゃんと二人きりになりたかったの」
「…そうなんだ」
魅ぃちゃんは、私の向かいに座りながら、視線を外し続けている。
私は圭一くんの『秘策』を一度頭の隅に追いやり、魅ぃちゃんと向き合うことにした。
『レナは、圭ちゃんのこと…好き?』
…これは、絶対に素通り出来ない質問だから。魅ぃちゃんが、真剣に訊いているのが分かるから。
…同じ気持ちを持つ『女の子』として、答えなきゃいけない。
「好きだよ」
私は不思議と、良く通る声で言えた。
少し前までの私なら――綿流しの夜までの私なら――、ここまで大きい声で言えなかっただろう。
でも、今の私は、竜宮レナは違う。
綿流しの夜。不安に怯える私を救ってくれたのが、他でもない圭一くんだった。
そこで、私たちは…交わった。心と、そして身体で…。
それは夢のような時間だった。また、今でも続いている夢かもしれない。
でも、私は幸せ。
好きな人に愛され、抱かれ、必要とされている喜びを、幸せを、私は知っている。
だから、私は胸を張って言えるんだ。
「レナは、圭一くんのことが、好き」
もう一度、宣言した。
魅ぃちゃんが、そこで私と目を合わせた。
…口を真一文字に結んだまま私を正面から見据える魅ぃちゃんは、ある種の迫力があった。
それでも私は身じろぎもせず、魅ぃちゃんの目を見つめ返す。
「…魅ぃちゃんは、どうなの」
私は逆に、魅ぃちゃんに訊き返していた。妥協の許されない空気…みおん、じゃなかった、魅ぃちゃんなら、読めるよね?
「…私も、好きだよ。…圭ちゃんのこと」
魅ぃちゃんもまた、本心から宣言した。
「園崎魅音は…圭ちゃんが大好き。…これは、誰にも譲れない。…もちろん、レナにも譲れない。
でも…レナに伝えたいことがあるんだ」

…その瞬間。なぜか、私の中で、ゾワゾワと沸き立つモノを感じた。

「レナが圭ちゃんのことが好きなのは…薄々だけど気付いてた。
もちろん、その気持ちを止めて欲しいなんて言わないよ。
…でも、私も同じくらい圭ちゃんのことが好きだから…レナの気持ちが分かるんだ。
だから、今の私たちって…分かり合えないところが出てくる。お互いが譲れないから…。
でも、仲間として、ずっとそういう状態で居続けるのも辛いから…私は、思いきって踏み出した方がいいと思うんだ。
でも、出し抜くような卑怯者にはなりたくないから…レナには言っておくね。」

ゾワゾワとしたモノが、私の中で蠢いているのが分かる。はっきりと、確実に。

「…私。今度、圭ちゃんに想いを打ち明けようと思うんだ」

…ナンダカ。クビノアタリガ、 カ ユ イ 。 

魅ぃちゃんと、少しの間、見つめ合った。
お互い譲れない…譲りたくない気持ちがある。だからこそ、理解し合える。だからこそ、理解し合えない。
二人はいつまでも友達だよ…だけどね。圭ちゃんの隣にいるのは一人でなきゃいけない。
いつか、どちらかが幸せを掴む。いつか、どちらかが幸せを失う。それは分かりきっていること。
…だけど、ごめんね。魅ぃちゃん…。
レナは、これから幸せになりたいの。圭一くんと、幸せになりたいの。
二人の幸せはね…もうとっくに決まりきっていることなんだよ…。
そう、私たちを引き離すモノなんかいないんだ…魅ぃちゃんにも無理だよ…そう、オヤシロさまだって…!
…あは、あははは、そうだよ…魅ぃちゃん、教えてくれたよね?
『今年もオヤシロさまの祟りは起きたんだ』って!
最初聞いた時は、頭がぐらりとしちゃったよ。何の冗談、って思ったよ。
村のみんなが知らないことなのに、魅ぃちゃんはよりにもよって私に教えてくれて!
なんでかな、かな!?なんで私なのかな!?
まさかと思うけど、レナがオヤシロさまの祟りが恐いのを知ってて、驚かせようとか思って言ったんじゃないだろうね!?
それとも、私を怖がらせて、脅えている隙に圭一くんと仲良くなろうとしたとかじゃないよね!?
あははは、どっちにしろ、レナにとって良い話じゃないね!なのに魅ぃちゃん、レナに喋っちゃうなんて、どういうつもりなんだろうね!!
あああもう、なんかかゆいなあもう。
だけどね、魅ぃちゃん!レナはね、レナはねぇ、もう圭一くんとねぇ、
あはははははははははははははははははははは
ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆ

「ど、どうしちゃったのレナ!?
なんで、なんでそんな、首ひっかいてるわけぇ!?」

魅ぃちゃんの声で、我に返った。
恐る恐る手を見ると、爪の先に少しだけ血が滲んでいる。
そこでズキリと首筋に痛みを感じ、手の平で押さえた。
…ズキズキと、喉が痛い。深くはないけれど、爪で掻きむしった分、引っかき傷が出来ていた。
「あ…うぅ…」
「レナ、レナ!!…大丈夫!?痛くない!?あ、お、おじさん絆創膏持ってるから、ちょっと待ってな!!」
魅ぃちゃんは慌ててポケットからハンカチを取り出し、水道水で濡らして傷口を拭いてくれた。
それからカバンの中の絆創膏を取り出し、私の首筋にいくつかペタペタと貼ってくれた。
「…ふぅ。とりあえずこれで、傷口にばい菌が入ったりしなければいいかな…」
絆創膏を貼り終えた魅ぃちゃんは、大きく息を吐きながら椅子に座った。
…その間、私は茫然としながら、魅ぃちゃんを見つめていた。
何が起きたんだろう。…私は、何を…したんだろう。
「…レナ…、レナ?ねぇ、大丈夫、だよね…?」
魅ぃちゃんが目の前で手を左右に振っている。…病人の意識があるかどうか、医者が確認するような仕草だ。
「…あ…う、うん」
私は魅ぃちゃんの問いに反応する。声は出るけど、まだ意識ははっきりしていない。
「…反応は、出来るみたいだね…。…良かった。いきなりレナが喉ひっかき始めたから、おじさん大慌てしたよ」
「喉、を…?」
私は自分の爪を見た。…爪の間に、渇いた血がこびり付いている。
ということは、やはり…私は、自分自身で喉をひっかき始めたらしい。
さっきまでの記憶が本当に少しだけの間抜け落ちているが…その間に、私は常軌を逸した行動をしたのだろう。
「…わ、私、は…自分で、その、喉を…?」
「…うん。急に俯いたと思ったら、なんかブツブツ言ってて、そのうちガリガリ爪で引っ掻きだしてさ…。
最初は蚊にでも刺されたのかと思ったんだけど、あんまり激しくガリガリやり出したから…」
やはりさっきの私は、正気ではなかった。
「…ごめんね…」
私はポツリとだが、口に出して言った。
「レナ、自分でも…さっきまでそんなことしてたなんて、覚えてないの…本当に…。
…魅ぃちゃんをびっくりさせて、不安にさせて…ごめんなさい…」
頭を下げ、魅ぃちゃんに謝罪する。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
自然と涙が溢れてきて、泣きじゃくりながら謝った。魅ぃちゃんを怖がらせたのは…私なんだから。
「い、いいって!レナが無事なら、おじさんはそれでいいから!そんなに謝らなくても…。
あ、そうだ!その指、洗ってきなよ!そのまんまじゃ汚れが落ちなくなるから、水道で洗ってきなよ!」
魅ぃちゃんは、廊下を指差す。
確かに魅ぃちゃんの言う通り、まずは爪を洗い流すのがいいだろう。
私はふらふらとした足取りで教室の外に出て、水道で手を洗った。
…冷たい水のおかげで、少しは冷静な気分になってきた。
そう、思い出してきた。私は、魅ぃちゃんの言葉を聞いて…逆上したんだ。
圭一くんと私の幸せを、邪魔するモノだと…魅ぃちゃんを敵視したんだ…。
その気持ちで私はいっぱいになって、あんな行動を取ってしまった。
正気の沙汰じゃない…。確かに竜宮レナは、狂ってしまったんだ。…愛情と、友情と、憎しみで…。
ごめんね、魅ぃちゃん。怖がらせて…。でも、レナは、レナは…。

…冷たい水が、私の思考を研ぎすませていく。
…魅ぃちゃんも、圭一くんが好き。それはもう、どうしても止められないんだ。
いずれ近いうちに、魅ぃちゃんは圭ちゃんへ想いを打ち明けるだろう。
でも、私も、圭一くんが好きで好きでたまらない…。
だったら…

『…三人で楽しい「部活」にしようぜ、レナ』

不意に思い出した、圭一くんの言葉。ああそうか、それが答えなんだ…!
私はポケットの中にあったハンカチを取り出し、手を拭く。
同時に、ポケットの中に仕舞い込んだもう一つのモノ――圭一くんが預けてくれた小さい瓶――のキャップを開く。
瓶の中の液体をハンカチに染み込ませ、それを仕舞って教室に戻った。
魅ぃちゃんは、さっきと同じように机の上で両手を組んだままの姿勢だった。
「魅ぃちゃん」
私は魅ぃちゃんの横に立ち、声を掛ける。
「…レナ。…ちゃんと洗ってきた?」
「…うん」
「そう。…で、気分は落ち着いた?」
「…うん」
「良かった。…じゃあさ、これから…のこと、なんだけど」
「…魅ぃちゃん」
「ん?…ふわぁッ!?」
私はガバっと魅ぃちゃんを抱き締めた。魅ぃちゃんの頭が私の胸に当たる格好になり、いきなり抱きしめられた魅ぃちゃんがモガモガ言っている。
「ふぐっ…ん…ちょ、ちょっとレナ…いきなりどうしたの!?」
「ごめんね」
「え?」
「怖がらせて、ごめんね」
「そ、そのことはもういいって…」
「ううん、やっぱり謝る。レナはね、一瞬、魅ぃちゃんを憎んでしまったの」
「え?」
私は抱き締めたまま、魅ぃちゃんの髪の毛を撫でる。綺麗な髪の毛だ…同じ女の子でも、惚れ惚れしちゃう。
「…圭一くんを好きだって魅ぃちゃんが言った時…レナ、魅ぃちゃんが憎くなってしまったの。
私だって、圭一くんが好き。圭一くんを、渡したくない。圭一くんは私のモノ…」
「…」
「そういう気持ちでいっぱいになって、魅ぃちゃんを憎み、同時にそんな厭な気持ちを抱いた自分を憎んだ。
だから傷つけたんだと思う、自分自身で」
「…レナ」
「…でも、落ち着いて考えて、もうそういう気持ちは捨てたよ。
…魅ぃちゃんも圭一くんが好きなのを、レナは認めなきゃいけない。
魅ぃちゃんだって、レナが圭一くんを好きなのを認めているんだから…お互い、認め合わなきゃ」
「…レナ…レナぁ…」
魅ぃちゃんは、私の胸の中でヒックヒックと泣き始めていた。
私は魅ぃちゃんの頭を撫でる。
「泣かないで、魅ぃちゃん?私たちはね…幸せなんだよ?
圭一くんっていう素敵な男の子と出会えて、好きになって…それは女の子として、とても幸せなことだと思うの。
もちろん、『仲間』として大切でもあるけど…圭一くんは、それ以上の存在なの。
レナにとっても、魅ぃちゃんにとってもね…」
「うん…そう、だね…そうだよね…!」
「…もしかしたら、魅ぃちゃんも、恐いんじゃないかな?…想いはあるけど、その想いを打ち明けた瞬間、
今までの『仲間』としての関係が壊れるんじゃないかって」
魅ぃちゃんは、こくりと頷いた。
「うん…!それが怖いの…!今までの最高の『仲間』としての関係が、みんなとの関係が、
圭ちゃんと一緒になったら全て壊れてしまうんじゃないかって…!
レナたちも大切だけど、圭ちゃんも大切…両立出来ないなんて、そんなのって、そんなのって…!」

…私の口元が、歪み始めたのが分かった。
そうだろうね、魅ぃちゃん…。確かに、このままでは、私たちの関係は壊れてしまうよね…。
…でもね。
たった一つの冴えたやり方…それを教えてくれたのも、私たちが大好きな圭一くんなんだよ…だよ?

「でもね、魅ぃちゃん…もし、圭一くんと結ばれて、レナともずっと仲良く出来る方法があるとしたら…どうする?」
「…ふぇ?」
「圭一くんにも愛されたまま、レナとも仲間とも一緒にいられて…それはとてもとても気持ち良いことだと思わない?」
「…そ、それは…そうだけど…」
「その方法をね…圭一くんから教えてもらったの」
「…!け、圭ちゃんが…?」
私は魅ぃちゃんに気付かれないように、そっとポケットからハンカチを取り出す。
「レナと一緒に…圭一くんに、いっぱいいっぱい『ご褒美』もらおうね、魅ぃちゃん」
「…レナ!?…ふぐぅっ!」
言葉と同時に、ハンカチを魅ぃちゃんの口に押さえつける。
魅ぃちゃんは私の身体を引き剥がそうとするが、すぐにぐったりと動かなくなった。
…圭一くんの持ってきた睡眠薬の威力は、凄い。
魅ぃちゃんは、すぅすぅと寝息を立てて私の腕の中で眠っている。
…その寝顔が、あまりにも美しくて…私は初めて、『女』に対して欲情してしまったようだ。
股間がムズムズしてたまらない…あ、今、ちょっとだけオマンコ汁が流れちゃった…☆
「…はぅ~☆魅ぃちゃんの寝顔、かぁいいよう~☆お、お、お、お持ち帰りぃ~!」
かぁいいモードで叫んでみたが、どうも気分が違う。
…あは、そうだね。かぁいいモードのレナなら、オマンコなんて言わないよね。
そうだったそうだったあはははは、今はかぁいいモードなんかで誤魔化すことないんだったあははははははは。
「…魅ぃちゃん…圭一くんが帰ってくるまで…レナ、魅ぃちゃんで遊んじゃうからね…
あはは、あははははは、あはははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」


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