「圭ちゃん。そろそろ大丈夫みたいです」 「そろそろって……? あ、ああ。分かった……」 俺はゆっくりと腰を動かし始める。 そして、そこから得られる快感に身震いした。 (これは……オナニーとは全然違うな) 己の肉欲を満たすために何度も何度も腰を振る。 そのたびにお互いの粘膜が薄いゴムを隔てて擦れあう。 にちゃ、にちゃ、と淫らな音を立てながら。 抱きしめた詩音の身体が火照っている。 そして、お互いの体温を感じることが、さらに情欲を深めていく。 ……もう……そろそろか……。 「詩音。そろそろ……」 詩音が頷いたことを確認すると、今までより深めに突き挿れる。 詩音を強く抱きしめ、何度も何度も突く。 そして最後に奥まで突いた瞬間にびゅる、びゅる!と白濁液を吐き出した。 「…………っはぁ……はぁ……ッ!」 詩音の中からずるりと引きずり出し、コンドームの先に溜まった精液の量に驚く。 これ……さっきより多くないか……? 二度目の射精なんだから、さっきより少なくて当然なんだが……。 「圭ちゃん……もう…………………よね……?」 「え、悪い。なんだって?」 意識が逸れていて、詩音の発言を聞き逃してしまった。 「もう一回くらい、できますよね?」 「なっ!? ちょ、待て。さすがに三度は……」 「そんなに出せるんだから大丈夫ですよ。いやだなんて言わせませんよ? さっきの約束があるんですから」 「馬鹿、ちょ、やめろ、そんなとこをさわ……いやぁあぁぁああぁああああああ!!!!!!!!!!!!」 「結局、葛西さんは飲み屋で酔い潰れてるって?」 おかげで俺は自転車で夜道を帰らなきゃならなくなったわけだ。 というか飲酒運転で送るつもりだったのか……。 「あはは、ごめんなさい。葛西は本当にお酒が大好きですから」 「それにしたって泥酔するまで飲まなくてもいいのにな。……っと」 足を止め、引いていた自転車のサイドスタンドを立てる。 「見送りはここまでで充分だ。ありがとな」 「どういたしまして。……今日は本当にありがとうございました」 「……気にすんなよ。それじゃ、またな」 「はい。おやすみなさい」 詩音は笑顔で手を振ると、俺に背を向け自宅へと歩き出した。 ……おい、いいのかよ圭一。 このまま詩音を帰したら……もう二度と……。 「詩音ッ!!」 思わず叫んでいた。 詩音は振り返り、キョトンとした表情で見つめている。 「どうしたんですか、圭ちゃん?」 「……いや、その……さ」 「……?」 詩音は心配そうに俺のそばへ歩み寄って来る。 「どうかしましたか?」 「……詩音。俺はさ……俺は……」 「圭ちゃんは……?」 「俺は……お前が…………!」 「魅ぃちゃん、かなり壊れてたけど、なんとか直しておいたから。……圭一くん? 聞いてる?」 「……え? ……ああ、聞いてる」 「圭一くんも元気ないね。……悩みごとかな? 私で良ければ相談に乗るけど」 「……いや、大丈夫だ。ありがとな」 俺は結局、詩音に…………フラれた。 (なんでだよ……) 痛い。 痛い痛い痛い。 肌を重ね合わせた時のどんな感触よりも……詩音に突き飛ばされた胸の痛みが心から離れない。 『…………ごめんなさい。……私のことは忘れてください……』 拒絶の言葉が胸にこびりつく。 (なんでだよ……) 俺だって、好きでもない相手とあんな事するのは嫌だったんだぜ……? それでも、断ったらきっと傷つくから……俺を好いてくれている相手を傷つけたくなかったから……身体を許したんだ。 そりゃ、あんな事してる最中に好きになるなんて、おかしいかもしれないけど。 だからって詩音のカラダだけが目当てなわけじゃない。 それなのに……なんであんな一方的に……。 「続けていいかな、圭一くん? ……魅ぃちゃんはね、昨日までの数日間のこと、なかったことにするから」 「なかったこと、って……」 「だからね! 圭一くんもなかったことにしてあげて。それで魅ぃちゃん、いつも通りだから」 「…………そんなこと……出来るわけないだろ……」 「えっ?!」 俺は昨日、初めて女の子と肌を重ね、好きになり、そして……フラれた。 こんな強烈な体験をどうやってなかったことにするっていうんだよ……。 「……ごめんね、圭一くん。難しいことだと思うけど、魅ぃちゃんのためなの。だから、お願い」 「……魅音の……?」 ……そっか、いまは魅音の話だったな。 『彼は双子の姉を好きになるから』 だから詩音は俺に好きだと伝えられないと言った。 ……どうして? だって、俺はこんなに詩音が好きなのに。 昨日からずっと詩音のことばかり考えているのに。 なのに……魅音を好きになる? ……どうして? 解らない……そんなの解らねぇよッッ!!! ……もう、いい。 詩音のことは忘れよう。 もう、あんな奴に振り回されるのはごめんだ。 「……分かった。この数日間はなかったことにすればいいんだな?」 「うん。ありがとう。それから、今日は魅ぃちゃんをそっとしておいてあげて。明日からは元通りだから、今日だけ」 「……ああ」 「それじゃ、私は魅ぃちゃんのところへ行くから。……圭一くんも元気出してね!」 ……俺はレナが居なくなっても廊下に座ったままでいる。 部活も無し……か。 いや、ちょうどいい。 今日はひとりで居たい気分だしな。 「あ、いたいた! 圭ちゃんっ!!」 「……魅音? どうしたんだよ。お前、今日は……」 視線を上げて、違和感に気づく。 魅音の制服がさっきまでとは違う。 いや、違う……そうじゃなくて、そうじゃなくって!! 歩み寄ってくる人影は魅音ではなく……。 「詩音……?」 「探しましたよ~。どうしたんですか、こんなとこに座ったりして。具合でも悪いんですか? ……あ、分かった」 詩音は俺の目の前にしゃがみ込む。 「私のことを考えてたせいで寝不足なんでしょ?」 そう言って笑いながら俺の額を指で小突く。 悪ぶれる様子は全く無い。 ……状況が全っ然、飲み込めない。 昨日の今日だぞ!? あれだけはっきり拒絶しておいて……突き飛ばしまでしておいて、なんで俺の前に現われる? いや、そもそもなんでここに居る? 興宮の学校に通ってるはずだろ!? 「……な、なんで……?」 混乱した俺はなんとかその一言だけを搾り出した。 「え? ……ああ。今日は手続をしに来たんです。こっちに転校する為の手続ですね」 「……転校って……えぇっ!?」 「これからは一緒に居られる時間も増えますね。……お姉と同じくらいに」 「……い、いや、だって、あれだけはっきりと俺を……」 「……昨日、あれから色々と考えたんです。圭ちゃんは居るのに……悟史くんのように消えてなんかないのに。それなのに諦めるなんて馬鹿馬鹿しいじゃないですか」 「……サトシ……?」 「条件が同じなら、お姉になんて負けませんから。圭ちゃんにとってお姉がどんなに大きな存在でも……私はそれよりもっと大きな存在になってみせる。お姉より好きになる自信はある。お姉より好きになってもらう自信もある」 「え……っと。つまりその、俺と付き合ってもいい、ってことか……?」 「あ、ごめんなさい。それは保留ってことで」 「……は?」 ちょ、ちょっと待て……。 俺を好きだから、わざわざ転校して来たんじゃないのか……? 「だって交際できないからせめて、って条件であんなことしたんですよ? それなのに今すぐお付き合いしましょうってことになったら、圭ちゃんを騙して関係を持ったみたいじゃないですか」 「そりゃ、まぁ……そうだけど」 「それに不公平ですし。お姉にもチャンスをあげないと」 「チャンスって……」 「さ、そんなことより教室に戻りましょう。どうせ私のことばかり考えて朝食も採ってないだろうと思って、圭ちゃんのために栄養満点のお弁当作ってきましたから」 詩音は俺の腕を引っ張って起こし、そのまま教室へ向かって歩き出す。 ……詩音の弁当か。 この間のは魅音が作った物だったし、ちょっと興味あるな。 「……ちなみにどんな弁当なんだ?」 「えぇっとですね。うなぎの蒲焼きにニンニクのサラダ。それからマムシドリンクです」 ………………おい。 「なんだその露骨な精力増進メニューは!!」 「だって今夜もするんですよ? 圭ちゃんにはちゃんと精を付けてもらわなくちゃいけません」 「は、はぁ!?? だってお前……俺とは付き合えないって……」 「はい。でも圭ちゃんがどうしても私としたいって言うんですから、仕方ないですよね」 「ちょっと待てッ! 俺はそんなこと言ってないだろ!?」 「……圭ちゃん。この制服、似合ってますか?」 「はっ? ……いや、まぁ。似合ってるんじゃないか……?」 「ありがとうございます。でもこの制服はちょっと暑っ苦しいから、転校したついでに新しい制服を発注しちゃったんですよ」 「へぇ……。……それで?」 「……だからぁ。この制服はもう着ないから……いくら汚してもいいんですよ……?」 「え、そ、それはつまり……」 詩音は俺の耳に吐息を掛けるように囁く……。 「……圭ちゃんはそういうの好きそうですし。……これを着たまましてあげてもいいんですよ……?」 そう言って詩音はスカートから太ももをチラつかせる……。 ……って、ああ、不味い……昨日の……詩音の温もりを……思い出して……。 「あれ、どうしたんですか圭ちゃん? 前屈みになったりして。お腹痛いんですか?」 「し、詩音……てめぇ……!」 「前原くん、どうかしましたか?」 ち、知恵先生!? なんてタイミングで現われるんだよ?!?! ど、どど、どうする!?? 「あ、知恵先生。圭ちゃんが具合悪いみたいですので、保健室へ連れて行きますね。午後の授業には出られないかもしれません」 「……前原くん、本当ですか?」 「え、あ、まぁその、はい」 「そうですか。では、具合が良くなったら教室に戻ってきてください」 そう言い残し、知恵先生は教室へ向かっていった。 な、なんとか誤魔化せたな……。 って、もう昼休みは終わりか。 「ふぅ……って、ちょっと、おい!」 詩音は俺の手を引き、本当に保健室へ向かい歩き出す。 「圭ちゃん、本当に疲れてるみたいですから、少し横になった方がいいですよ? お弁当は後で持ってきてあげますから」 「いや、俺は別に……」 「それにせっかく二人きりになれるチャンスじゃないですか。……ねぇ?」 「は?」 保健室で二人きり……。 その言葉にいかがわしい妄想が膨らんでしまう。 ……ちょ、ちょっと待て! 「学校でそんな……セ、セックスなんてしちゃダメだろ!?」 「はい? 何を言ってるんですか、圭ちゃん。私はただ二人きりでお喋りしたいなぁ、って思っただけですよ?」 「は? ……な、ななな!!?」 「……ほらぁ。やっぱり圭ちゃんは私としたいんですよ」 「ち、違う!」 「何が違うんでしょうねぇ……」 俺は詩音に両肩を掴まれ、そのまま壁に押し付けられた。 「昨日したばかりなのに、もう欲求不満なんですか? いけませんね。こんな人を放っておいたら、性犯罪に走るかもしれません」 「んなわけあるかぁッッ!! ……って、ちょっと?!」 詩音は俺に抱きつき、耳元で囁く。 「……昨日のだけじゃ満足できないなら……その……胸とか……口でしてあげてもいいですよ……?」 「む、胸? ……口!??」 「……ねぇ、圭ちゃん。どっちがいいですか? 答えてください」 「そ、それは……」 「……して欲しくない、なんて言わないでくださいね? ……だって、こんなにおっきくなってるんですから」 ……ああ、そうだよ。 勃起してるよ。 悪いのかよ!? だって好きな女の子に抱きつかれて、こんなこと言われて、それに……さっきからずっと股間に太ももをグイグイ押し付けられてるんだぞ!? 「……ほら、圭ちゃん。正直に言ってください」 「………………両方」 「えっ?」 「…………だから、両方……して欲しい……」 「……ふふ。そうですよね。どっちも興味ありますよね。じゃぁ、正直に答えてくれたご褒美に、キスしてあげますね」 「は?」 詩音の唇が俺の頬に触れる。 ………………ちょっと…………待て……。 頭の中がぐるぐる回って……意識が途切れた。 「………………?」 気がつくと保健室のベッドで寝ていた。 ……あれ? 俺は……気絶したのか? そして、詩音がここまで運んでくれた……? ……なんか気絶する直前に全身が痺れたような気がするんだが……。 「ん……んく。……良かった。やっと起きてくれましたね」 「え、あ、ああ。……ん?」 ……なんだ今の……? 「もう、キスしただけで気絶しちゃうんですもん。ビックリしましたよ」 「……悪い。詩音が俺をここまで運んでくれたのか?」 「そうですよ。それよりお弁当持ってきてありますから、食べてください」 「……えぇっと。……分かった」 「はい。あーんしてください」 「…………」 ……子どもじゃないんだから、そういうのはやめて欲しいんだけどな。 でも、詩音の厚意を無駄にするわけにもいかないか……。 俺は詩音が箸で挟んだおかずを口にする。 「おいしいですか、圭ちゃん?」 「……うん、うまい」 ……腹が減ってるのもあるが、単純に味付けで良いんだろうな。 まぁ自炊してるんだからある程度は……ん? 俺はもぐもぐと咀嚼していて、ある違和感に気づいた。 「…………?」 ベルトが乱雑に外されている。 ジッパーは上げられているものの、ズボンのボタンが外されている。 ……股間のアレがヒリヒリするというか敏感になっているというか。 ………………? 釈然としないまま食べていた物を飲み込む。 ……飲み込む……? そういや、さっき詩音も何か飲み込んでいたような……。 …………あ。 あああああああ!! 「……し、詩音……。お前まさか、俺が気絶している間に……フェ、フェ……」 「あ、バレちゃいました? はい、しました。圭ちゃんの精液、とってもおいしかったです☆」 「お、おま、え、は……」 「安心してください。これは圭ちゃんが気絶してたからノーカウントです。今夜もちゃんとしてあげますから」 「そういう問題じゃねぇッ!! 学校でこんな……」 「はいはい、お弁当食べちゃいましょうね。あーん」 「う、く、くく……」 なんなんだよ、こいつはッ!! もしかして俺は……とんでもない奴に惚れてしまったのか……? しかも……来週からこっちに転校してくるんだろ? 俺の学校生活は一体どうなってしまうんだ……。 「おい、待てよ! 魅音ッ!?」 辺りに「圭ちゃんの馬鹿ぁあぁあぁああぁああ!!!」という絶叫が響き渡る。 「あぁ……あ……」 「あらぁ~、行っちゃいましたね。やっぱり『私の圭ちゃん』ってのが効いたんでしょうか」 「なんであんな言い方するんだよッ!?」 「……あれでいいんですよ。あの子は自分が欲しい物を力ずくで奪うことを覚えなきゃいけないんです。私にねだったり、指をくわえて我慢するんじゃなくて、ね」 「お前にねだるって……なんだそれ?」 「……圭ちゃん。そんなことより、昨日のあれ。最後の。どういうつもりですか?」 「どういうって……ちゃ、着衣プレイはあの体位って、昔から決まってるんだよ……」 「私、恥かしいから嫌だって言ったじゃないですか! それなのに無理やり……そういうのって強姦って言うんじゃないんですか!?」 「は、はぁ!?? 違う! そんなつもりじゃない!」 「そっか……。私、圭ちゃんに強姦されたんだ……。酷い……酷いです、圭ちゃん……」 「だから違うってば! 俺は……」 「ぅっく……ひっ……ひ……っく……」 「そ、そんな泣きマネしたって……」 「うぅ……っく……うっ……」 「騙されたりなんか…………うぅ、分かったよ。謝るよ。……どうすりゃ許してくれるんだ……?」 「……今日は……圭ちゃんの……お部屋でしたいです……」 「なっ!? や、そ、それはちょっと……家に女の子を連れ込むのは、さすがに……」 「ぐすっ……ううぅ……」 「あぁ~……分かった。いいよ、俺の部屋で。この際だ。明日は日曜だし、泊まってってもいいぞ」 「本当ですか!? やったぁ! 圭ちゃん、大好きです!!」 「こら、抱きつくな! やっぱり嘘泣きじゃないかっ!!」 ……まったく、うるさいな。 私の半分も生きてないくせにイチャイチャと……見苦しい。 「……ジロウさん」 「なんだい、鷹野さん?」 「私たちって付き合い始めて何年になるかしら」 「えっ!? ど、どうしたんだい急に」 「あの子たちを見てね……。若いっていいなぁ、って。私たちもあんな風にイチャイチャしたいと思わない……?」 「え、あはは! それは嬉しいけど……」 「ねぇ、明日から旅行にでも行かない? ……二人っきりで」 「で、でも明日には東京に帰らないといけないし……。それに明日は鷹野さんも大切な用事があるって言ってなかったかい?」 「……もうそんな事はどうでも良くなっちゃったわ。……少しくらい帰るのが遅れたって誤魔化せるわよね? ジロウさん……」 「そ、そうだねぇ、う~ん……」 ……訂正。 年を取ってもイチャイチャしてるのは見苦しいわね。 「まったく。どいつもこいつも」 「あぅあぅ~。梨花も好きな人ができればきっとああなるのです」 「そう? ……そうは思いたくないわね」 「きっとそうなのですよ。僕だってそうだったのです」 「あんたの話なんて聞きたくもないわよ」 「あぅあぅ! 梨花が酷いのですよ……」 「それにしても……圭一と詩音が懇ろになるなんてね」 「あぅあぅあぅ!夜の圭一は意外とうぶなのですよ」 「あんた、人の情事を覗き見てるの? ……最低ね」 こんなのがオヤシロさまだなんて知ったら、信心深い村の年寄り連中は卒倒するわね。 「それはそうと、一体どうなってるのかしらね」 今までのパターンからして詩音が発症すると思ってたのに。 それに富竹と鷹野が綿流しの晩には旅行に出かけて雛見沢に居ないって? 「……訳が分からないわね。富竹たちが綿流しの日に雛見沢に居ないってことは、生き延びるってことかしら?」 「あぅあぅ……。期待しない方がいいのです。どうせ二人そろって隣県の山中で焼死体なのですよ」 「最悪ね、それ。……でも、いつもと違った展開にはなりそうだし……退屈はしそうにないわね」 奉納演舞の練習をサボって休んでたけど……今回は少しだけ気合を入れてみようかしら。 「圭ちゃん、美味しいですか?」 詩音の作ってきた弁当を口にする。 いや、美味いよ。 美味いけどさ……。 「あのさ。食事中にくっ付くのはやめてくれないか……?」 「も~、恥かしがらないでください。私と圭ちゃんはいつだって一緒なんですから」 「し、しし、詩音んん……ッ!!」 「み、魅ぃちゃん、落ち着いて!」 「またいつものパターンですわね」 「みぃ~。圭一と詩ぃは仲良しさんなのです」 今日は一学期最後の日。 午前で授業が終わりだっていうんで、みんなで弁当を持ってきて午後から部活って話だったんだが……。 「どうしたんですか、お姉? 圭ちゃんの隣ならそっちが空いてますよ。ほらほら、遠慮せずに移ったらどうです?」 「ふぇっ!? ぁ、いや、それは……」 「魅ぃちゃん、頑張って! ここが正念場だよ! だよ!」 「……うぅ……。け、圭ちゃん。……そっち行ってもいい……?」 「……ああ、構わないぞ」 魅音はそそくさと椅子ごと移動してくる。 「圭ちゃん! し、詩音が作ったお弁当なんかより、おじさんが作ったお弁当の方が美味しいんだからっ! ほら、食べてみて!」 ……魅音が差し出した弁当を受け取る。 さすがに詩音のように食べさせる勇気はないらしい。 「ど、どう? おいしい!?」 「ああ、うまい」 「詩音のと比べてどっちがおいしい!?」 「……どっちもうまいよ」 「お姉。そんな風に聞かずに私と詩音のどっちが好き! って聞けばいいじゃないですか」 「うぇ!? い、いや、あたしは別に、圭ちゃんを………………だなんて……そんな……」 「……はぁ……」 詩音が転校してきて以来、毎日がこの調子だ。 昼は詩音と魅音の板挟みで、夜は……。 詩音があれこれと理由を作って……その……。 「……圭ちゃん。せっかくの夏休みですし、明日から圭ちゃんのお家でお勉強したいです。 ……受験勉強だけじゃなく、男女の違いについて、なんかも……」 詩音が俺にだけ聞こえるように囁いた言葉で、卒倒しそうになる。 帰りたい……。 みんなと無邪気に部活に明け暮れたあの日に帰りたい……帰りたいよぅ……。 「詩音! だいたいあんた、悟史を好きなくせになんて圭ちゃんにベタベタすんのよ!? おかしいでしょ!」 「確かに悟史くんも好きですよ? でも圭ちゃんはそれでも構わないって言ってくれました。ね、圭ちゃん?」 「……悟史……」 詩音は悟史が好き。 ………………あ。 「それだぁああぁああぁあああ!!!!!!!」 俺は絶叫してその場に立ち上がる。 「ど、どうしたんですか、圭ちゃん……?」 なんでもっと早く気づかなかったんだ!? 悟史だよ! 悟史を探し出せば俺はこの不健全な生活から解放されるはずだッ! 「魅音! 夏休みの部活は悟史の捜索に決まりだッ! 悟史を見つけた奴が優勝だぁ!!」 「ふぇ!? いきなりどしたの? って、ちょ、ちょっと!? どこ行くの圭ちゃん!!?」 「悟史を探しに行くんだよッ!! まずは聞き込みからだ!!」 「あ、待ってください、圭ちゃん!!」 「ちょ、待ちなさい二人とも……追いかけるよ、レナ!」 「待ってよ、魅ぃちゃん!」 「よく分かりませんが、わたくしたちも行きますわよ、梨花!」 「……みー。きっとボクが優勝なのです。にぱ~☆」