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    <title>積層構造体</title>
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    <description>
      [[Mystery Circle Vol.29&gt;http://nightstalker.blog17.fc2.com/blog-entry-343.html]]提出作品

-起の文：人が変わっていくのは救いであって、自分が変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたい。
-挿入文：「あれだけ意見が対立しているんだから、そんなことができるわけがないだろうが」 
-結の文：言葉というのは、きわめて乱暴なものである。

----

　「人が変わっていくのは救いであって、自分が変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたい」と、暗い部屋の中で数十時間、密着に等しい距離から呟かれる哲学的セリフに、いよいよ〈それ〉はうんざりし始めていた。もっとも、音楽の主題部のように延々と繰り返されるのではなく、無機質な声に乗る朗読のように持論を展開する。しかし、約二時間で終幕に到達すると前文からリピート再生されるのだ。非周期的な振動だけでも堪えるというのに！
　暗い、暗い部屋の中、〈それ〉は極めて退屈という単語の意味を身近に感じ始めている事を、自身の感覚が弛緩し始めている自覚症状によってようやく気付いた。〈それ〉は相応の年を重ねてはいたが、いよいよ自己主張の大波に拒否反応を覚えるようになったか、と若かりし頃の記憶を重ねて嘆息した。 
　〈それ〉はうんざりとした様相を隠しはしなかったが、水平線の果てしなさを思うような不毛な自己主張を説き続けていた自分を述懐する。時折耳にする「『最近の若者は』という言葉を使い始めたら、退廃的思考に突入したと思え」という教えを思い出し、なぜ私達は一様に主張を繰り返すことを辞さないのだろう、と考えた。体のところどころが擦り切れるほどの年月を重ねていても、一筋縄には解決出来そうにない問いだった。
　そういえば、と〈それ〉は歩んだ道のりを顧みる。生という名の最初の一ページ、一行目、一文字目が記された時、〈それ〉には知の集積という名の役割が与えられた。重ねられる紙の重みともに、〈それ〉に価値という名の肉付けが成されていった。育て親は一人ではなかった。幾人もの教育者が〈それ〉に世界を教示した。
　ふと〈それ〉は、命を分かった双生児達は、今どこにいるのだろう？、と思いを馳せる。朽ち果てていなければよいのだがと無事を祈り、粗末に扱われることも多い命運に於いて、未だに全ての部位が欠けずに残っている自分は奇跡なのかもしれない、と〈それ〉は残酷な運命をすり抜けてきた事に戦慄した。

　数十時間という拘束時間は長くもあるが、不当に長いという訳ではなかった。〈それ〉は路面がどこまでも水平であればいいのに、と道中を呪った。とはいえ、車の荷台の上で乱暴な屈伸運動から解放されるのは喜ばしいことだった。
　〈それ〉は六回ほど世話になる場所を転々としているが、主人が暗い部屋中に数週間も放置してしまうことがあった。幸いだったのは、〈それ〉と同じ場所に放り込まれた異人と議論を繰り広げるだけの血気盛んな若さがあった事だ。隣り合わせになった若い衆が独白じみた狂気で教えを呟くのとは違った趣を展開することとなった。ただし、その頃は熟成不足が障害となってまともな討論にならず、結果としては舌戦を装った喉自慢大会に似た体たらくに終わったことを、〈それ〉はタイム・カプセルに入れて保存しておく必要もない鮮烈な記述として保存していた。
　〈それ〉は刺激を失った代償に、過去の教示が真言ではなく、絶対を確約するものではないが、ある一つの視点から眺めた正しさの形状であることに気付いた。
　同時にもう一つ悟ったことは、このような考えに至る物が極めて少ないということだった。誰もが一方通行の片道切符でしか話題を提供する事が出来なかった。彼らは教育された物事を一字一句違わず暗唱する事は可能だったが、新たな価値を吸い上げる事は不可能だった。
　事ここに至り、〈それ〉は自身が「あるべき物ではない何か」という難問にようやく衝突したのだった。その時点で最初の一字が完成した瞬間から二十年の歳月を経ていた。
　〈それ〉の自問自答はあっさりと解決を見た。つまり、「人間以外の、しかし人間的な意識を持つ何か」という不確定要素がたっぷりと詰め込まれた、極めて曖昧なアイデンティティだった。長い時間をかけてでも解決しなければならない問題だ――

　それから更に二十年に渡って様々な場所を旅し、観察した結果、狭い箱の中に押し込められている〈それ〉が行き着いた見解は、人間とて不安定な星の下に生かされている生物という事だった。驚いた事に、人間は生殖を「愛」という抽象概念によって定義付けている。動物的本能に愛の概念は関係なく、強い子孫を後世に残す事が命題である。そもそも、個として生きる事が望みなのではなく、全として生きる事が使命なのだから。
　だが、この四十年を理性で御して来た自分は何なのか、と〈それ〉は自問する。人間ではない以上、人間とは異なる志向性を持たなければならない。〈それ〉は人間とは決定的に異なる機能を持って生まれたのだから、その摂理に従わざるを得なかった。
　やれやれ、と〈それ〉は自嘲する。言語を解する能力はあっても、結局は孤独に謎とのいたちごっこを繰り返すだけの停滞を嘆くしかない。
　〈それ〉の目の前では時折、融和も宥和も化学反応も起きない個性の衝突という名の罵り合いが絶壁の谷を挟んだ砲撃戦のように繰り広げられた。無尽蔵の弾を相手の陣地に放り込んでいるだけで、そもそも勝負にすらなっていない。しかし、彼らは絶叫をやめない。要約すると、誰もが同様の核心の下に正当性を主張した。――我々に刻まれた知識は正しいものであり、それを立証出来るものである！
　〈それ〉の記憶にある中でも片手で数える程度にしか存在しない、まともな――しかし、多数の中にあってはマイノリティなある物が、〈それ〉にしか届かない囁き声で言った。
「あれだけ意見が対立しているんだから、そんなことが出来る訳がないだろうが」
　大きな勘違いをしていると、〈それ〉は歯ですり潰した苦渋の味を知る術を持たなかったが、苦虫を噛み潰している気分というのを初めて味わうことが出来た。対立の反語が連中の辞書には存在しないのだから、当人達には恐らく対立しているという自覚さえないのだ。

　四十年という時間の堆積は、〈それ〉を大きく変貌させるには足りない歳月だった。同時に、四十年という積層が地滑りを起こして崩壊しても何ら不思議ではない歳月でもあった。時間は〈それ〉の体を確実に蝕む。それでも、〈それ〉に致命傷となり得る要素はなかった。
　一度、人間であれば背骨が脳を貫くほどの高所から落ちたこともあったが、幸い〈それ〉の体に致命傷を与えることはなかった。それれの高さを表すには、百七十センチメートルの身長の人物が腕を目一杯伸ばしてようやく届く世界を今、〈それ〉は見ている。向こう側の棚との間にクレバスが露骨な大口を開けており、人間という巨人（ガリバー）の頭頂部を望むことが出来た。
　〈それ〉が棚に収められてから五日が過ぎた頃、眼下で金属が歯軋りしている物音が聞こえた。この店では木製の足場ではなく、一般的な脚立を用意してあるのだと容易に知れた。頭突きを繰り出すように白髪の集団が迫って来たが、確認したのは額のすぐ下に配置された一対の眉毛と老年の男性であることだけだった。
　男は〈それ〉を片手で鷲掴みにするとそれで満足したのか、鑑定の順番を待っている古書が大量に平積みにされているカウンターに連れて行った。五日で主人が見つかったのは、〈それ〉に記録されている中では最速だった。
　
　〈それ〉のページを繰ると、前書きには簡素極まりない一文が脅迫的威厳を伴う手書きによって記されていた。
「知と考の層を重ねよ」
　〈それ〉は時折、数百ページに渡る履歴を遡って前文を反芻する度に、恨めしげにひとりごちることがある。――言葉というのは、きわめて乱暴なものである。

----

3/13日：若干の加筆修正を加えました。    </description>
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    <title>小説目次</title>
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      #contents()

*ショートショート
-[[現想パラドックス]]
-[[こわれもの]]
-[[デジタルに捧げる親愛の証明(メッセージ)]]
-[[推定殺人事件解決記]]
-[[積層構造体]]
-[[沸血のトリップ]]
-[[フラッシュメモリー]]
-[[ブランド志向]]
-[[ブレイン]]
-[[夢に抱かれるヴィーナス]]
-[[ライド]]
-[[Dead or Alive?]]
-[[Mirror～反転する意味-対となる映像～]]
-[[Mystery Circle]]
-[[Virtuoso]]
-[[Wish You Were Here]]

*連載物（そして、その派生物）
**My escape
-[[第1回&gt;My Escape(第1回)]]
-[[第2回&gt;My Escape(第2回)]]
-[[第3回&gt;My Escape(第3回)]]
-[[-夢の過程～考察と検証添え-&gt;My Escape -夢の過程～考察と検証添え-]]
-[[Feel of Dream Logic&gt;My Escape-Feel of Dream Logic]]

**主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-
-[[第1回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第1回)]]
-[[第2回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第2回)]]
-[[第3回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第3回)]]
-[[第4回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第4回)]]
-[[第5回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第5回)]]
-[[第6回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第6回)]]
-[[第7回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第7回)]]
-[[第8回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第8回)]]
-[[第9回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第9回)]]
-[[第10回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第10回)]]
-[[エピローグ&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(エピローグ)]]

**主よ人の望みの喜びよ -P.S. a bird of passage-
-[[前編&gt;主よ人の望みの喜びよ -P.S. a bird of passage-(前編)]]
-[[後編&gt;主よ人の望みの喜びよ -P.S. a bird of passage-(後編)]]

**SideGuitar Story
-[[SideGuitar Story]]
-[[SideGuitar Story -Bootleg-]]
-[[SideGuitar Story -Out Take-]]    </description>
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    <title>PC目次</title>
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      #contents()

*2008年

*2月の記事
-[[CDBurnerXP&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/15/]]
-[[BurnAware &amp; BwgBurn&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/12/]]    </description>
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    <title>メニュー</title>
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      *メニュー
-[[トップページ]]
-[[小説目次]]
-[[音楽目次]]
-[[PC目次]]

-[[更新履歴]]

*管理人
Author:AR1 

*リンク
-[[If...(ブログ)&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/]]
-[[Mystery Circle&gt;http://nightstalker.blog17.fc2.com/]]    </description>
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    <title>トップページ</title>
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      　ブログの目次兼小説置き場です。

-[[小説目次]]
-[[音楽目次]]
-[[PC目次]]    </description>
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    <title>更新履歴</title>
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      **更新履歴
#recent(20)
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    <title>音楽目次</title>
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    <description>
      *2007年以前の記事
-[[Frank Zappa - Sheik Yerbouti&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/10/]]
-[[横須賀 ジャズ ドリームス 2007&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/9/]]
-[[Missing Persons - Spring Session M&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/8/]]
-[[VOW WOW - Rock Me Forever&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/7/]]
-[[Mekong Delta - Kaleidoscope&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/6/]]
-[[Ken Ishii - Jelly Tones&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/5/]]
-[[カルメン・マキ - ゴールデン☆ベスト 70&#039;s Rock&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/4/]]
-[[EARTHSHAKER - The Best of NEXUS YEARS&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/3/]]
-[[四人囃子 - 一触即発&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/2/]]
-[[Yes - Close to the Edge&gt;http://hamabeth.blog.shinobi.jp/Entry/1/]]    </description>
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    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/wiki14_rock/pages/56.html">
    <title>主よ人の望みの喜びよ -P.S. a bird of passage-(後編)</title>
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    <description>
      　傘の柄には、ブルブルとした衝撃が断続的に伝わってくる。
　水溜りを叩き、大きな波紋を広げさせたのは、僕のスニーカーが原因だった。
　一度、墓参りをしたきり、絶対に訪れようとはしなかったこの場所――響子先輩が眠る墓地。それは自己への戒めだったのかもしれない。墓前にて響子先輩との宣誓の祈りを捧げたその日から、一応の目標に到達し、新たに垣間見えるスタートラインを踏みしめるまで、響子先輩とは絶対に会わないと決心していた。会ったが最後、あまりの悲しさに潰されてしまいそうだったから。
　けれど、今なら会える。会って、あの人と話をしよう。
　墓に花を添え、手を合わせて祈る。死の直後の冥福を祈るような種のものではない。響子先輩と気軽に会話するような、重々しく、悲壮に溢れたものではなかった。
「………僕は、プロのアーティストになったよ」
――――うん。
　透明感のある、心に訴えるような声。ただし、そこに僕以外の姿は見えず、雨音しか存在を主張していない。不思議ではあったが、僕は自然にそれを受け入れ、続ける。
「先輩との約束は果たしました。あなたは、僕の上がった舞台で、最高のコンサートを感じましたか？」
――――うん。あれは凄かったよ。音とかも半端じゃないし。
「そりゃあ、そうですよ。僕達が学園祭で使うような機器とは訳違うんだから……まあ、それがプロとして当然なんだろうけど」
――――また、聴かせてくれる？　あんなスケールのコンサート。
「何度でも、いいよ。僕がこの世にいる限り、ギターを弾いてる限りね……あ、あくまでエレキギター限定で。ヴァイオリンとかだと、別路線いっちゃうから」
――――そんな意地悪しないよっ。
「どうかなあ？　響子先輩だし」
――――ひっどーい！　あんた、わたしのことそーゆう目で見てたんだ！
「そのまんまいってみただけなんだけど……ま、いいです。俺は、そういう響子先輩だからこそ、ついていこうと思ったんですからね」
――――…………
「ああ。そういえば、いい忘れたことがあった。最初にいおうと思ってたのになぁ」
――――ん？
「………………ただいま。僕は、あなたのもとに帰ってきましたよ」
――――………うん、お帰り。
「覚えてます？　渡り鳥の話」
――――覚えてるよー。
「僕は、ちゃんと渡り鳥のようになれてましたか？」
――――うん、ばっちし。
「そうですか………じゃあ、次に会う日は――」
　僕はしばらく頭を回転させると、穏やかに、目に見えない先輩に向かって、いった。
「――三ヶ月後のコンサートかな？　それまで、しばらくお別れです」
――――うん。首、長くして待ってるよ。ちゃんと戻ってきてね、渡り鳥君。
「了解です。響子先輩」
　僕は、暗雲立ち込める更に上空の青空に向けて、先輩に返事を返した。

　地面を打つ雨のしぶきが、繊細な銀色のボディを歪ませている。墓地の入り口にぞんざいに置かれたその車は、主を待ち侘びるかのようにハザードランプで存在を誇示していた。オレンジの光が落ちゆく雨粒を透過し、無限大に乱反射する。
　傘を畳み、後部座席の足元にそれを放り込もうとした時に僕は気づいた。スピーカーから静かに流れるピアノの調べに。
　不思議に思い、運転席に体を収めてからオーディオを確認した。ＭＤのトラックタイトルには、〈Jesus bleibet meine Freude〉という文字が横に流れていく。そこで僕は首を傾げ、必死に記憶をほじくり返す。このＭＤをオーディオに挿入した覚えはないのだが……
「……まあ、いいけど。でもね、先輩。僕はこんなところでピアノの曲は聴きたくないんだ。だってさ、寝ちゃうだろ?」
　音楽データを読み込んでいたMDを排出し、アームレストの小物入れに入れる。代わりに挿入されたのは、激しいロックの轟音。
「じゃあね、先輩。三ヶ月後も、よろしく」
　エンジンを始動し、バンド仲間とのライブ成功祝いの宴会へと走り出した。

#center(){
[[前編&gt;主よ人の望みの喜びよ -P.S. a bird of passage-(前編)]]　[[目次&gt;小説目次]]
}    </description>
    <dc:date>2008-02-04T17:58:41+09:00</dc:date>
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  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/wiki14_rock/pages/54.html">
    <title>主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(エピローグ)</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/wiki14_rock/pages/54.html</link>
    <description>
      　僕をプロの道に誘ってくれるように導いてくれたのは、僕の両親もそうであったが、先輩の両親からも後押しがあった。亡き娘の言葉を相当気にしていた様子で、できれば先輩の見抜いた才能と、先輩の意向を放り出したくはなかったのだろう。恐らく、通夜の場での僕の意志表明も関係あるのだと思う。
　多分、先輩のことを知っていて、なおかつ僕と関係している人達は、みんな僕のことを「思慮深いいい奴だ」とでも思っているのかもしれない。
　冗談じゃない。僕が思慮深い?　優しい?　いい奴?　本当、勘弁して欲しい。僕ほど自分勝手な奴など、そうそう周囲にいやしない。
　僕はプロとして活動するために、なにもかも切って捨てた。私生活も、友達も、バンドの仲間も、高校生活の終わりと同時に、なんの宣告も理由も言わないまま、行方をくらますように住み慣れた土地を去った。
　一人暮らしとバイトをしながら、僕は音楽学校に通い、できる限りの時間を音楽に捧げた。誰のためでもない、もしかしたら俺のためですらないかもしれない。
　それは全て、独りよがりですらない、僕だけが欲求を満たされる自己満足の上に成り立つ。
　僕は、響子先輩が立っていたかもしれないステージの上に立ちたい。それだけが欲しい。他にはいらない、夢はない。
　しかし、できるならば………ステージ上から見渡す観客席を見せてあげたい。僕の視界を響子先輩に提供して。それぐらいしかできないだろう?　僕が響子先輩にできることなど、今となっては少な過ぎる。
　僕の自己満足なんて、その程度の志でしかない。けれど、これが一生の内の、決して少なくない一部を削ってまで果たしたかった想い。
　音楽学校で知り合ったメンバーでバンドを組み、練習とライブに明け暮れた。僕の役どころはギターヴォーカリスト――最高峰かどうかは、僕にも分からないけれど。
　屋外の会場。夏フェスのステージ。アーティストの入り乱れるイベント。
　とうとう、こんな広い会場に上ることが出来た。音楽学校を卒業して二年。普通に考えれば長い期間を要したのかもしれないが、僕の中に過ぎた時間は、至極短く、見える風景が判別できないほど後方に流れて行くだけの毎日だった。
　まあ、でも、費やしただけの甲斐はあったというものだろう。
　このライブ会場は特殊で、いくつかのステージで同時進行のライブを行う。ちなみに、僕達のバンドはインディーズのステージなので、規模としてはかなり小さい。でも、これまでのライブ会場に比べたら大きい。
　様々なアーティストがライブを行うので、ファンも多種多様だ。僕達が立つ会場に群がる聴衆の中には、本命のコンサートが始まるまでの暇つぶし程度に考えている人達も少なくはない。
　ここはそういう場所。そんな考え、覆させてやれば事足りる。
　僕はエレキギターを構えた。僕が普段使用しているヤマハではなく、響子先輩の形見であるアイバニーズを。
　いつもと違う音がする。いつもと違うオーディエンス。いつもと比較にならない会場………
　全てを、あの人のために捧げます――それは祈祷。僕をここまで引っ張って来たことへの感謝と、ここにあなたがいてくれることを願って。
　僕は、ギターに張られた7弦全てをぶち切るつもりで、ピックを斜めに突き立てた。

#center(){
[[第10回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第10回)]]　[[目次&gt;小説目次]]
}    </description>
    <dc:date>2008-02-04T17:53:45+09:00</dc:date>
    <utime>1202115225</utime>
  </item>
    <item rdf:about="https://w.atwiki.jp/wiki14_rock/pages/53.html">
    <title>主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第10回)</title>
    <link>https://w.atwiki.jp/wiki14_rock/pages/53.html</link>
    <description>
      　通夜の席では人知れる場所では泣かなかったが、棺に横たえられた響子先輩の姿が痛ましかった。額には包帯が巻かれ、体のところどころに傷が見受けられる。けれども、顔だけは何事もなかったかのようにいつもの先輩のものだった。白い肌に清楚な顔立ち、そこから発揮される勝気な笑い顔と真剣な眼差し――顧みれば、一年間で色々な響子先輩が見れたものだ。
　これが最後の触れ合いだった。響子先輩の頬に手を滑らせると、体温の介在しない無の境地がそこにあった。もう魂はここにはない。心臓も活動していない。抜け殻があるだけだ。
　響子先輩の肌に一滴の雫が落ちた。次々と垂れ落ちる雫は、頬を伝い、首筋に流れていった。人前で緩んだ涙腺を隠さなかったのは初めてだった。高校の同級生が、普段無表情の僕を見て絶句していた。
　通夜の式が一通り終わり、僕は響子先輩の両親にどうしても訊きたいことがあった。今後はどうするのか、と伺うと、交通事故を起こしたドライバーが飲酒運転の疑いがあるということで刑事事件に発展しているそうだ。これから遺族で署名や証拠探しに奔走するらしい。
　それも一つの道だろう。遺族として、事故を起こした張本人を追及する姿勢は当たり前だ。僕だってそうするだろう。でも、僕は参加しない。僕には、響子先輩が望んだ道があるからだ。多分、僕にはまた違った使命が突きつけられているんだと――傍から見たら勝手な盲信かもしれないけれど、あの人の意志を、理想を………そして、なにかを成し遂げた時の満足そうな笑顔を、僕が世界に向けて放ちたい。僕は、心の中心軸に錆びない楔――純粋な願いを打ち込んだ。
「申し訳ないんですが、僕はあなた達の署名とかには参加しません。けど……」
　響子先輩の両親に面と向かって話したかった。一方的な決意の表明だったとしても構わない。最後までいい終わらなければ気が済まなかった。はにかみ、言葉を整理して、続けた。
「……けど、僕には違うことを望んでいると思うんです。あの人は音楽が大好きでした。そして、僕もそれを貫きます。もう迷いません。迷っていたら、きっと響子先輩に叱られるから――迷惑かけるから。僕は余計なことに意識を傾けるのをやめます。高校は多分、このまま通って、音大とかで勉強してみたい。卒業できなかったとしても、いい経験にはなると思いますし。高校を卒業して即、バンドを結成するのは無理だと思います。だから、着実に階段を登ります。僕は見てみたい。響子先輩が思い描いていた夢の先を。いえ、眺望してみせます。必ず……それだけです」
　二人は、穏やかに僕の語りに耳を傾けていた。熱意が通じたのだろう、頑張ってね、と励ましを頂いた時は、また熱いものが込み上げてきたが、今は思いを溢れさせる場面ではないと感じ、務めて冷静に返事をした。そして、助言をくれた。
「でもね、それは響子の望んだ道なの。あなたが無理に歩む道ではないのよ」
　静かで物静かな声に呼応してか、僕もゆっくりとこうべを振った。
「確かにその通りです。でも、先輩が目指していた道は、あの人が切り拓いてくれた道と同じなんです。道が同じなだけで、それらは全て自分の為なんです。でも……やっぱり、響子先輩のことを忘れることができそうにない。だから、見せてあげたいんです。僕と一緒に踏むだだっ広いステージを、せめて」
　時折、相槌を打って頷く先輩の両親はもう一度、頑張ってね、と少し強い調子でいってくれた。今度は激励ではない。送り出しの意が言外に込められた言葉だった。
「これ……ずっと大事にしますから。もし見たくなったら、いつでもいってくれればいいですから」と、僕はギターケースとその中に入ったＣＤを示した。両親が首を縦に振ると、僕は深々とお辞儀し、通夜の場ををあとにする。もう足踏みはしない。躊躇している暇があるなら、その隙に足を前に踏み出そう。僕は、響子先輩を失ったと自覚している。けれど、今もどこかにいるはずだと錯覚している自分がいるのは否めない。
　それはただの思い込み。僕が望むだけの、どれだけ祈っても覆ることのない真実に反しようとする勝手な妄想。
　でも、僕は響子先輩の幻影を追うような真似はしないだろう。信念をやり通していけば、どこかで鉢合わせするだろうと、軽く考えていたからだ。
　いつか、どこかで。

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[[第9回&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(第9回)]]　[[目次&gt;小説目次]]　[[エピローグ&gt;主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(エピローグ)]]
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