空間エーテル理論を元にした宇宙船の開発の話。
■バブルスキーの挑戦 ~1ヘクタールの野菜~
アワノフ・バブルスキーは宇宙船製造メーカ『富士宮ロケット』の技師長だった。バブルスキーは他社との開発競争の中、新たな宇宙エンジンの構想を考えていた。目をつけていたのが『空間エーテル理論』を使ったエンジンであった。空間の膨張を引き起こすことが出来るのであれば、それをロケットの推進力に利用できるはずだと考えたのだ。
それはそれまでの科学技術の常識であった、機械そのものの動きや、物質の化学変化を使った通常のやり方ではなく。次元の持つ理論部分を科学によって変化・改ざんさせ、現実の膨張を生みロケットの推進に利用するという点で、全く新しいアイデアだった。
それまでの宇宙ロケットの推進には多量の燃料が必要だった。無重力は摩擦抵抗がない世界であるから、ロケットの推進には切欠さえあれば何処までも進んでいくことは出来る。しかし、制動や軌道修正に使う燃料でもバカにはならず、自家用などの小型船の燃料タンクに実装するには積載に限界があり、それまでの技術では、せいぜい距離にして0.8光年の航行がやっとの事だった。
しかし、空間エーテルであればその燃料は野菜だけで済む(後の研究で判明したのだが、タマゴは不要であった)。エーテルであれば、理論上は約1ヘクタールの生産面積の野菜だけで、なんと100光年の旅が可能だったのだ。
理論は問題ない。実験でも空間の膨張は確認できた。問題なのはロケットの射出機構だった。何度やっても空間膨張がロケットごと爆発してしまい、開発室が毎日野菜のカスまみれになったという。自民団体からは食べ物を大事にしろという抗議の電話が殺到した。
■縁日 ~人生の終わり~
バブルスキーはつかれきっていた。開発は長引き、もう半年も家族の顔を見ていない。いつまでも成果の出ない研究で、あと三日以内に解決法が見つからなければ、もうチームを解散しなければならなかった。そしてその日、バブルスキーは出社したつもりだったが、何故か近所の神社へと足は動いていた。今日は縁日だった。…そう、それは単なる逃避行為だった。
バブルスキーは遊んだ、子供のようにははしゃいだ。もう40過ぎの禿げ上がった頭を光らせ、屋台を夢中で走り回る。りんご飴も食べたし、綿菓子も食った。射的もやったし、輪投げもやった。携帯には開発室からの仕事に来いメールが30通も溜まっていた。もう全てがおしまいだった。
あと何をしたら帰ろう。帰ってみんなに頭を下げて辞職して…そうだ、もう死のう。ああ、そういえばまだ金魚すくいをやっていなかったな。そうだ、金魚すくいをやろう。
バブルスキーは人生の最後に金魚すくいをすることにした。
■発見 ~破裂する金魚~
バブルスキーは金魚すくいが得意だった。子供の頃は金魚ハンターの異名を持つほどで、近所でも評判だった。何故今まで忘れていたのか。そして今でも腕は訛っていはなかった。バブルスキーはその日、金魚すくいの金魚を全て救い上げたのだった。たった一人で!
バブルスキーは屋台の親父にじと目でにらみ付けられながら、全て金魚用の袋に詰めてもらうように頼んだ。親父はむかっ腹が立ったのか、全ての金魚を一つの袋に入れようとした。バブルスキーは止めたが…遅かった。金魚用の袋は入りきらず、まるでシャボン玉が決壊するように破裂したのだった。
「これだ!」
バブルスキーはこの破裂を見て、ついに画期的なアイデアを思いついたのだった。
■次元泡ドライブ ~夢の自家用ジェット~
開発室に戻ったバブルスキーは提案した。「泡を使おう!」
最終的に行き着いた方法はこうだ。まず、α質エーテルで内部を満たした渦巻き型のミキサー炉に、野菜を投げ入れる。内部で粉々になりながら回転し、α質エーテルと混ざり合い、そして生まれた小宇宙(コスモ)を、今度は渦巻きの出口の部分で『次元泡』でコーティングするのだ。次元泡とはβ質エーテル体のみで作られる、元素を使わないシャボン玉のような素材である。これは物質だけでなく、次元そのものを遮断する性質を持っているが、すぐに割れてしまう不安定な性質のせいで、今まで科学においては実用では使われてこなかった物質だった(魔法では別)。
この泡を使って一度エーテル空間をつつみ、ロケット排出口より後部に打ち出し宇宙船外ですぐ破裂させる。こうすることで宇宙船のすぐに後ろで次元膨張がおき、実際の泡の直径の8倍の長さを持つ『距離』という事実が生まれ、その差異の分だけ推進する事が出来た。
推進を成功させればあとは完成度をあげるだけだ。ゴミとなる野菜のかけらは、ミキサーの段階で分子レベルまで分解してからエーテル結合する事により、ゴミを生まない純粋な宇宙(コスモ)とすることに成功した。推進速度はジェット燃料式には及ばないものの、連続でシャボン玉を精製することで、最高時速1光年というスピードにまで達成。一番のポイントである連続航行距離は、1ヘクタールの野菜積載あたり86光年にまでなっていた。理論値である100には及ばないものの、今までの限界である同サイズ小型船の0.8光年と比べれば約100倍となり、画期的なスペックとなった。
この成功により、空間エーテル式・次元泡ドライブは自家用ジェットの標準規格とまで位置づけられ(大型船では積載の限界に悩む必要がない事と、速度が速いこともあって現行のジェット燃料式がまだ主流である)、一般家庭でも気軽に星間を移動することが可能になったのだった。 この理論を始めて搭載した自家用機はその後から泡を出すカタツムリのような見た目(機体後部のミキサー炉がカタツムリのように大きく、渦を巻いている事)から『マイマイジェット』と名付けられ、今までも6 回のモデルチェンジを繰り返しつつロングセラーとなっている。『マイマイタクシー』と呼ばれる星間タクシー事業会社も誕生した。
ちなみに現行機の名称は『FUJI・マイマイジェット・MMJ-65』である。型番だけでMMJ-65と呼んだりもする。デザイン的には過去に出たスポーツタイプのMMJ-33GTSが人気である。
ぶっちゃけ、外観は客観的に見れば『野菜を燃料に、シャボン玉を出しながら飛ぶカタツムリ』であるので、そもそもそんなにかっこいいものではない。
- 富士宮ロケット MMJシリーズ
- 他社による MMJタイプ
二章 =次元泡ドライブ推進理論=

