魔術の発祥は、現代からすでに数千年にも前に遡ると言われている。300年ほど前に当時の魔術師、科学者、錬金術師たちの検証により明かされ、そもそも全ての魔術・科学・錬金術は一つの技術から草分けしていったという説だ。
様々な混乱を呼んだその説は現在では一般に広く受け入れられ、教科書の一部となってわたしたちに伝えられている。
様々な混乱を呼んだその説は現在では一般に広く受け入れられ、教科書の一部となってわたしたちに伝えられている。
「・・・リア君?」
考えてみればその説も言いえて妙だな、と彼女は思った。この星の外には人類が作った最大級の科学技術の塊『スペースコロニー』が数十基浮いており、その中には百万もの人が生活しているのだから。物語に出てくるような魔法とも、もはや区別のつく類ではない。ではそもそもの『一つの技術』はどこから来たのか。
「・・・ーい、カトリア君?」
『ひとつの技術』そのものの発祥は定かにはされていない。おそらくは技術が草分けされるさらに昔へと遡るのだろうが、現在の技術力、知識をもってしても解明されていないのが現状である。そういった過去の文献、遺跡、出土品などを調べ、解析するのがこのヴァニジア総合アカデミー大学魔術学部基礎魔術科・歴史解析研究室の役割である。
・・・とはいえ大仰な目的をもったこの研究室も、最近は規模の縮小が進み、今では教授と助教授が一人ずつと、数人の学生によって細々と活動しているのが現状である。その学生の一人である自分も教授になるつもりなどなく、教員を目指しているのだが。
大丈夫なのかなこの研究室、と時々思ってしまう。
それというのも魔術具の最大手メーカー『マジカルマグマグイッポンマツカンパニー』が事業拡大のたに地上へ拠点を移し、錬金部門や機械製品部門への参入を発表してからというもの、アカデミーでも労働者育成のため錬金術科・機械工学科に予算を割き、そのしわ寄せを受けたというのがその理由であった。
それというのも魔術具の最大手メーカー『マジカルマグマグイッポンマツカンパニー』が事業拡大のたに地上へ拠点を移し、錬金部門や機械製品部門への参入を発表してからというもの、アカデミーでも労働者育成のため錬金術科・機械工学科に予算を割き、そのしわ寄せを受けたというのがその理由であった。
「カトリア・C・ウィード君!」
「わぁっ!?は、はい!」
「わぁっ!?は、はい!」
ガターンッ!研究室に大きな音が響き渡る。
唐突に大きい声で呼ばれ、椅子を倒しながら慌てて立ち上がった目線の先には初老の男性が立っていた。
唐突に大きい声で呼ばれ、椅子を倒しながら慌てて立ち上がった目線の先には初老の男性が立っていた。
「あ・・・ヨーデフ教授?」
初老の男性は、魔術学歴史解析研究部ヨーデフ・ハルヴァン教授。わたしことカトリア・C・ウィードの恩師でもある。
「ようやく気づいてくれたかな。相変わらず研究熱心だねカトリア君。」
苦笑しながら言う教授を見て、またやってしまった・・・とカトリアは思った。
どうも自分は考え込みだすと周りの声が一切届かなくなるらしい。そのせいか周囲からは優秀だが鈍い子という認識を持たれているようだ。ちょっと心外ではあるが今回は反論できない。
どうも自分は考え込みだすと周りの声が一切届かなくなるらしい。そのせいか周囲からは優秀だが鈍い子という認識を持たれているようだ。ちょっと心外ではあるが今回は反論できない。
「すみません教授・・・」
「ああ、気にしないでくれたまえ。カトリア君は確か教員志望だっただろう?教育実習の時期が決まっ たから伝えにきたんだ。」
「ああ、気にしないでくれたまえ。カトリア君は確か教員志望だっただろう?教育実習の時期が決まっ たから伝えにきたんだ。」
カトリアの表情が気まずさから一転、ぱっと明るくなる。
「ほんとですか!?いつからなんですか?」
「うん、来月からだそうだよ。これが書類だ、目を通しておくように。」
「ありがとうございます!」
「うん、頑張るんだよ。
じゃあ僕は先日届けられた遺跡の解析データをまとめねばならんので研究棟へ戻るよ。」
「うん、来月からだそうだよ。これが書類だ、目を通しておくように。」
「ありがとうございます!」
「うん、頑張るんだよ。
じゃあ僕は先日届けられた遺跡の解析データをまとめねばならんので研究棟へ戻るよ。」
戻っていくヨーデフにお辞儀をし見送ると、カトリアは早速書類を確認するため封を解き始める。
「カトリア・C・ウィードの紋(サイン)において命ずる。汝が封を解き、汝に刻まれし記しを示せ」
カトリアの魔道具であるイヤリングが淡く白い光を放つと、書類に施された封がするするとほどかれていく。学園ではセキュリティのため、個人宛の書類・手紙などには封印(シール)を施す決まりがある。解封(アンシール)にはその宛名人の紋だけに封が解けるようになっており、魔術の修練とともに優秀な個人情報保護にもなっていた。
開かれた書類に目を通していくカトリアであったが、ふと気になる一文があった。
<・・・術科・高等部魔術科・高等部機械工学科・高等・・・>
「あれ・・・機械工学科・・・?あそこでも魔術歴史教えるの?」
(そういえば機械工学科といえば、MMIの社長令嬢が転校してきたなんていう噂もあったっけ。もしほんとなら大会社のお嬢様に会うチャンスがあるかもしれないわね。でもMMIといえば魔術具の最大メーカーなのに、なんでその子供が機械工学科なのかしら。)
(そういえば機械工学科といえば、MMIの社長令嬢が転校してきたなんていう噂もあったっけ。もしほんとなら大会社のお嬢様に会うチャンスがあるかもしれないわね。でもMMIといえば魔術具の最大メーカーなのに、なんでその子供が機械工学科なのかしら。)
やや脱線しながら、機械工学科がなぜ魔術歴史の授業をするのか不思議に思ったが、きっと何か必要なんだろう。その程度に思い直し、カトリアは書類に集中しなおした。
「よ、カトリ。熱心だな!」
「わぁっ!?」
「わぁっ!?」
ガッターン!再び研究室に大きな音が響き渡る。
またしても不意に声をかけられ、カトリアは今度こそ椅子からすべり落ちた。
またしても不意に声をかけられ、カトリアは今度こそ椅子からすべり落ちた。
「いたたた・・・」
「おいおい。大丈夫かー?」
「おいおい。大丈夫かー?」
涙目になって腰をさすりながら声がした方へ顔を見上げる。
細身のメガネをかけ、長めの髪を後ろで束ねている。苦笑しながら手を差し伸べている白衣の男性。
細身のメガネをかけ、長めの髪を後ろで束ねている。苦笑しながら手を差し伸べている白衣の男性。
「ループレヒト先生!もう、驚かさないでくださいよー!」
「相変わらずいいリアクションだなー、カトリ」
「相変わらずいいリアクションだなー、カトリ」
まだ涙目なカトリアが差し出した手を、ループレヒトは楽しそうに笑いながら手を取った。
ループレヒト・レーヴェ。彼は魔術学部基礎魔術科・魔術解析学教室所属であり、魔術歴史解析研究室とは性質上よく交流がある。
時折アカデミーの講義に講師として出ることもあり、カトリアも彼の講義を何度か受けている。魔術師としては平凡な彼だが、魔術解析研究のホープであり人柄もルックスも良いのでアカデミーの女生徒からは特に人気がある。だが話が長いのと少々悪戯好きなのが玉に傷で、彼をよく知る人からの総評は「黙っていればいい男」といった具合であった。
ループレヒト・レーヴェ。彼は魔術学部基礎魔術科・魔術解析学教室所属であり、魔術歴史解析研究室とは性質上よく交流がある。
時折アカデミーの講義に講師として出ることもあり、カトリアも彼の講義を何度か受けている。魔術師としては平凡な彼だが、魔術解析研究のホープであり人柄もルックスも良いのでアカデミーの女生徒からは特に人気がある。だが話が長いのと少々悪戯好きなのが玉に傷で、彼をよく知る人からの総評は「黙っていればいい男」といった具合であった。
いつも愛想の良い顔をしてはいるのだが、今日のループレヒトは特に上機嫌なようにみえる、とカトリアは思った。その左手には梱包された何かの箱が握られていた。
驚かされた反撃に少しからかってやろうと思い、カトリアはその包みについて冷やかすように問い詰めてみることにした。
驚かされた反撃に少しからかってやろうと思い、カトリアはその包みについて冷やかすように問い詰めてみることにした。
「あれ、その包みどうしたんですか?もしかして女の子からプレゼントされたとか?」
「ん?あー、これのことかい?よく聞いてくれた!」
「ん?あー、これのことかい?よく聞いてくれた!」
嬉しそうな表情をし、ループレヒトの眼鏡が光る。
しまった!とカトリアは思った。ループレヒトのその言葉は「これから話が長くなるぞ」というサインである。
しまった!とカトリアは思った。ループレヒトのその言葉は「これから話が長くなるぞ」というサインである。
・・・ 1時間後、魔術概論から始まり中身についての経緯からあらゆる細かい事柄を説明され、半ばぐったりしたカトリアと満足げな表情のループレヒトが在った。要約すると「新型の魔術具が手に入ったので、弟に試してもらうから高等部へ出かける」ということだった。1分もいらない説明である。講義の時は話を聞いてれば終わるのでよかったが、講義以外で彼の長い話を聞くのはたまったものではない。
基礎魔術概論や歴史学は教員志望なだけに学んでいるカトリアだが、魔術具に関しては専門外である為ポンポン出てくる専門用語についていけるはずもなかった。
基礎魔術概論や歴史学は教員志望なだけに学んでいるカトリアだが、魔術具に関しては専門外である為ポンポン出てくる専門用語についていけるはずもなかった。
「・・・というわけで、これから優秀な我が弟君にこれを渡しに行くのさ。またなカトリ」
「はぁ・・・いってらっしゃーい・・・」
「はぁ・・・いってらっしゃーい・・・」
話が終わり満足げに立ち去るループレヒトを、カトリアは机に突っ伏しながら手を振り見送った。
「つ、つかれた・・・」
時計に目をやると正午を回っていた。他の生徒たちも気づけば研究室からいなくなっている。
ふう、とため息をついて上体を起こすと書類をファイルに閉じ、バッグへしまいこんだ。
ふう、とため息をついて上体を起こすと書類をファイルに閉じ、バッグへしまいこんだ。
「お昼、食べよー・・・」
力なくバッグを肩にかけると、カトリアは研究室を出て食堂へ向かっていった。
色々書き足しているうちに時間が思ったよりかかってしまいました、ごめんなさいorz
実験的にボスさんの考えたキャラクターと絡ませてみました。教授のほうは特に深い設定などはありませんw
実験的にボスさんの考えたキャラクターと絡ませてみました。教授のほうは特に深い設定などはありませんw