「た…たすっ…たすけてええっ…」
やばい。これはやばい。一歩間違えば死ぬ。食堂内の騒動云々よりも何より自分の身を…どうにかしないと。そうだレーベレヒト、落ち着け。クールに、クールになるんだ…俺ならできる、俺ならできる…
窓枠にしがみ付きながら必死に心を落ち着ける。
風も吹きつけ、危ういことこの上ない。窓枠がたゆんでいる様子も見てとれる。
風も吹きつけ、危ういことこの上ない。窓枠がたゆんでいる様子も見てとれる。
まずやらなければならないとこはなんだ状況を整理しないとこれでも並列思考処理には自信が自分の状況食堂内の騒動をどう[浮遊]にかしないといけないが別にどうしなくてもいいかあれはあれでタフだしどうなろうとしったことじゃない次の講義なんだっけまずは自分それが重要で晩飯どうしよう窓枠も今ミシ[強化]ミシと時間はあまりない相変わらず食堂内は嫌な静けさのままで耳を打つ風の音がうるさいというか考えの邪魔をするなそうまずは[運搬]位置をキープ安定化させてゆっくりと下に降りれば…
と、さっぱり落ち着いてないような思考ながらも2~3の魔術を構築していき、併せて身に付けている魔術具がそれぞれ淡い光を放っていく。しかしこのような状況ではうまく組み上がらず霧散していくのも仕方なく、身体を浮かすこともままならない。しかしどうやら強化魔術だけは成功したようで、窓枠から嫌な音は聞こえなくなっていた。ふぅ、と一息。こうなればしめたもので、着実に魔術を練っていく。[フロート][リフト]…並行して…
「…っていうか……アンタなにやってんの?」
「っうわあぁぁっっ!?」
「っうわあぁぁっっ!?」
不意に「後ろ」から掛けられた声に驚き、ただでさえ冷や汗まみれの指が滑り、外れそうになりながらも再び必死にしがみつく。せっかく構成し直した魔術もまた飛んで消えた。はぁはぁ、と息を乱しながらも何とか安定を取り戻してなんとかそちらを見ると一人の少女が呆れたような表情を浮かべて「浮いて」いる。
「ロッテかよ………。見て…わかんだろ……」
「わかるわけないじゃん。なにこれどんな状況なのよ。
ものっ…すごい速度で猫が壁をかけのぼったから何事かと思ったら…」
「わかるわけないじゃん。なにこれどんな状況なのよ。
ものっ…すごい速度で猫が壁をかけのぼったから何事かと思ったら…」
リーゼロッテ・ランセ。レーベレヒトの幼馴染の少女である。普段から小うるさいが、困った時には頼れる相手だ。猫ってなんだ、それは猫じゃないだろうどう考えても、そんな思いが脳裏をかすめるも、これはまさに地獄に仏、とばかりに口を開き
「…説明はあとでするから…とにかく助け…」
『ぐわっぱぁぁぁぁぁっっ!!』
『ぐわっぱぁぁぁぁぁっっ!!』
大人しく助けを求めよう、そう口に出したところで、人外の叫びか?と思われるような絶叫とともにレーベレヒトの頭上を何かが通り抜けて行く。行けば、その先には…
「ひゃっ!!」
「ぶもっふぉぅ!?」
「ぶもっふぉぅ!?」
リーゼロッテが両手を前に広げ、呼応するかのように彼女のブレスレットが輝きを放つ。その謎の物体は当然のように彼女にぶちかましを掛ける形であったが、リーゼロッテが一瞬で作りだした結界のようなモノに阻まれ弾き返され…再び奇声を上げながら食堂の中へと飛び込んで行った。しばし呆然と無言の二人。
「「………」」
「……と、突然だったから手加減できなかったけど…だ、大丈夫かな…」
「アレなら多分…というか、絶対大丈夫だろ。うん。この状況で、流石だな…
つかっ、そんなこと良いから助けてくれない、か…っ。そろそろ腕が…しびれ…」
「あ……わっ!ご、ごめん、大丈夫っ?」
「……と、突然だったから手加減できなかったけど…だ、大丈夫かな…」
「アレなら多分…というか、絶対大丈夫だろ。うん。この状況で、流石だな…
つかっ、そんなこと良いから助けてくれない、か…っ。そろそろ腕が…しびれ…」
「あ……わっ!ご、ごめん、大丈夫っ?」
一方で、レーベレヒトが窓枠にぶら下がっていたころ。食堂内では…
購買の紙袋をキャッチした状態で、その後のあまりにもあまりにもな成り行きに呆然と状況を見るほかなかったベルガーもようやく我に返ったように辺りを見回す。状況は散々だ。未だにシン…と静まり返り、騒ぎの中心である男女――白昼から何やら濃厚なラブシーンのようなものを演じている二人を遠巻きに眺め、というかいまだ何が起こったのか、という風体で固まっている。そうだ、ティオは…と首をめぐらしてみれば
「…アイツ、……コロス!」
不穏な呟きをもらしていた。周囲から見てもそこまで怒ることか?ということに並々ならぬ情念――怨念?を燃やし、もはや黒いオーラが垣間見えそうだ。巻きこまれ、押し倒された女性の上に乗ったままのサイゴウへ、ゆっくりと一歩一歩踏みしめるごと、ズン…!ズン…!と聞こえるはずもない幻聴まで聞こえてきそうだ。
「ちょ…っ!ティオ、落ち着けって!これ以上はやばい、こんな騒ぎになったら…。あの先輩だったらいつものことだろっ、なっ!?」
そうベルガーが必死になって言葉をつづけるも、しかしティオはまるで聞いてない、聞こえてない様子で足を進める。
いくらティオでもこんなほぼ自治都市としての機能を有している学園の中での騒動はまずい。それ自体は揉み消せても、というかむしろ俺の平穏な生活が…。警備員もきそうだし…
ベルガーが保身に向けて思考をめぐらせていると、ようやく、とティオが足を止める。ほっと思い、彼女の様子を見ると、
いくらティオでもこんなほぼ自治都市としての機能を有している学園の中での騒動はまずい。それ自体は揉み消せても、というかむしろ俺の平穏な生活が…。警備員もきそうだし…
ベルガーが保身に向けて思考をめぐらせていると、ようやく、とティオが足を止める。ほっと思い、彼女の様子を見ると、
「お、落ちつい……はっ…はんにゃ…っ」
「いつものことだけに…今日という今日は、許せんっ…!」
「いつものことだけに…今日という今日は、許せんっ…!」
一応言葉は聞こえていたらしい。ティオの浮かべる怒りの表情にぶるぶると震えるベルガーを余所に、ティオは大きく息を吸い込むと、
「ネコー――――――!!」
この場には合わない叫びだったためか、辺りのフリーズも解けたように皆が皆、それぞれの動きを始める。押し倒された女性――カトリアの友人らしき二人もサイゴウを引っぺがそうと動き出す。その中で、気がつけばティオの脇には一匹の猫が鎮座していた。駐輪場から食堂まで…その間僅か数秒。無造作に手を伸ばすと、むんず、と猫の尻尾を掴み、振りかぶる。周囲の手によって引き起こされたサイゴウへ向かい。
「葬らんっ!!」