「で。………誰」
ティオの言葉。向かう先はヤスノリの脇に寄り添うように立つリンに対してだ。ベルガーは事情を知っているらしく、「先輩!」とかなんとか。既に懐いているようにも見える。それはそれでなんか面白くない。
画鋲ゴマ対決の日、降ってわいたお見舞いの話から二日後、その当日。昨日はネコの修理依頼のために部活に顔を出さなかったために初顔合わせ、何やら長期の課外実習から戻って、昨日から復学とか…そんな話らしい。
画鋲ゴマ対決の日、降ってわいたお見舞いの話から二日後、その当日。昨日はネコの修理依頼のために部活に顔を出さなかったために初顔合わせ、何やら長期の課外実習から戻って、昨日から復学とか…そんな話らしい。
「キミこそ誰なの。って、ああ。新入部員の一人?」
「おお、そうそう。つい先日付で入部することになったティオだ!」
「おお、そうそう。つい先日付で入部することになったティオだ!」
リンが尋ね返すのをヤスノリが受けて。ババーン!とか言いだしそうなテンションで紹介される。「どうも…」とだけ軽く頭を下げて挨拶。リンはリンで「なるほどなー、よろしくねぇ、ティオちゃん(ニコッ)」と無遠慮に距離を詰めて良い笑顔。その妙な距離感に一歩引くも、すぐにヤスノリの方へ視線を向けてなんやかんやと話し始めた。「え、なに。なんなの…」思わずそんなつぶやきも漏れるほどだ。
ここは学園都市の隣町、駅前ターミナル。ここで集合の上で、皆で病院に向かいましょう、とか。そう言う話になっていた。まだ集まっている面子はこの4人だけである。
ここは学園都市の隣町、駅前ターミナル。ここで集合の上で、皆で病院に向かいましょう、とか。そう言う話になっていた。まだ集まっている面子はこの4人だけである。
「…で、その先輩がなんでいるの…?」
「ん?昨日そう言う話で、お見舞いの品はどうしようって言う話をしてて。
ヤスノリ先輩が行くならボクも行くーってさ。仲良いよねー」
「ん?昨日そう言う話で、お見舞いの品はどうしようって言う話をしてて。
ヤスノリ先輩が行くならボクも行くーってさ。仲良いよねー」
なんか気味が悪いほど仲良さそうに見える先輩二人を横目に、ぼそぼそとベルガーに尋ねる。返ってきた言葉がそれでは「………へぇ」としか言いようがなかった。二人そって立つ姿を見れば、お似合いとも言えるような感じで、それもまた自分の目がおかしくなったのかとも思ってしまうくらいだ。なんか妙に寄り添ってるし。
「おはよう、集まってるわね」
「あ、先生。ライリさん。おはようございます」
「あ、先生。ライリさん。おはようございます」
カトリアの声。向けば、カトリアとライリが並んで4人の場所へ歩いてくるのが見えた。ベルガーとリンがきっちりと挨拶をする。逆に言えばあとの二人はそれぞれ適当で。
「レーベくんきてないけど?」
ん、とリンが辺りを見回しながらそう言う。リンとしたらこの面子では数少ない既知の相手だった。
「そいや。あのレーベとセットのねーちゃんも来てないな。どしたんだ」
「なにか、少し用事があるとかで…現地で合流するって連絡が来ましたよ」
「なにか、少し用事があるとかで…現地で合流するって連絡が来ましたよ」
ヤスノリが疑問を重ねると、ライリが答える。連絡は警備部経由で今朝がたに受けた。
詳細は聞いてないが…
詳細は聞いてないが…
「病院の近所にはいるらしくて。予定の時間には、病院で合流できるとは思うとか…いってましたけどね。
トモカの病室は受付に聞けばわかると思いますし」
トモカの病室は受付に聞けばわかると思いますし」
そんな事を言いながら前髪を弄り。学園の人間がこの辺りでやること…なんだろう、どこか釈然としない気持ちの表れだろうか。ただ、別に個人の行動をどうというつもりもなく。
「とにかく、さ、いきましょ?あまり遅くなってもよくないしね」
ぽん、と手を合わせるとカトリアがそう言って場を締め、ライリの先導の元、一行は病院へ向かって歩き出した。
「で。………何」
皆が駅前に集まりだす、その少し前。朝も早い中、リーゼロッテに連れ出されたレーベレヒトはどこか不機嫌そうな様相で問いかける。
「何なんだよ…集合はまだ余裕あるだろ。
…っていうか駅集合じゃなかったっけ?」
…っていうか駅集合じゃなかったっけ?」
返答がないままに先を歩くリーゼロッテ。どこか思いつめたような表情をしているも、後に続くレーベレヒトにはわからない。ジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま歩き、「…ふわぁ…」などと緊張感に欠けた欠伸を一つ。それがまたリーゼロッテの癇に障るのであったが、何も聞かされないまま連れてこられたレーベレヒトには非はないといえよう。
辺りを見回せば、見慣れない場所ながらも、病院の敷地内まで入っていることはわかった。それを窺わせるように、入院着の患者などが目に入る。
辺りを見回せば、見慣れない場所ながらも、病院の敷地内まで入っていることはわかった。それを窺わせるように、入院着の患者などが目に入る。
「どこまで行くんだよ、ホントに。見舞いならまず受付するんじゃねーの?」
「…っるさいなぁ!もうちょっとだから…少し黙ってついてきて!」
「…っるさいなぁ!もうちょっとだから…少し黙ってついてきて!」
苛立ちを、半ば八つ当たりだとわかってはいるものの、ぶつけてしまう。バツが悪くて顔も合わせられず、結局はそれまで通り先を歩くしかなかった。当のレーベレヒトは「…おぉ、こわ」などと軽く肩をすくめる程度だったが、しかしそこからは大人しくついていくこととする。彼女の背中を追えば、病院の建物――入口の脇に掲げられた表記からするに入院棟――その脇、裏手へと進んでいく。よくもまぁ迷いもなく。そう思ったが、何年も前、小さな頃の話ではあるが、リーゼロッテにも馴染みのある場所であることを思い出した。
「………ここ。この辺り」
「…?……なにが?」
「…?……なにが?」
そんな昔のことを思い出していると、不意にリーゼロッテが立ち止まり、建物の上層を見上げながら声を発する。レーベレヒトとしては何が何だかわからないのは変わらずに、問いかける他はない。
「トモカさんの、病室が、あの辺のはずなの。えと…それで……」
言いづらそうにするリーゼロッテに、レーベレヒトは視線で先を促す。
先日見た、聞いた話を最初は恐る恐る、だが、話しだすと堰を切ったように口を動かして伝える。どうしようか、その気持ちが先に立って、ままならない部分も多かったが。
先日見た、聞いた話を最初は恐る恐る、だが、話しだすと堰を切ったように口を動かして伝える。どうしようか、その気持ちが先に立って、ままならない部分も多かったが。
「………という、わけ。なんだけど…」
「…なるほど、ねぇ」
「…なるほど、ねぇ」
意を決して話したものの、レーベレヒトの反応は芳しくない。どうしよう、と思い悩む風体でも無い。リーゼロッテが怪訝そうな、心配そうな視線で見つめていると、それに気づいたのか頭を掻きながら
「で、何。…そのくらいしか、俺には言うこと無いんだけど」
「え、なん…どうして?心配…とかほら、ねぇ!?」
「それで俺らに何ができるって言うのよ。そりゃ多少なりとも縁はある相手かもしれねーけど、
俺たち、たかが一学生だぜ?それに学長達が動いてるんだろ…だったら尚更」
「え、なん…どうして?心配…とかほら、ねぇ!?」
「それで俺らに何ができるって言うのよ。そりゃ多少なりとも縁はある相手かもしれねーけど、
俺たち、たかが一学生だぜ?それに学長達が動いてるんだろ…だったら尚更」
レーベレヒトに一歩詰め寄り「でも、それにしたって…!」と、言葉ですがるも、彼は首を振って
「別にさ。友達やら、家族やら…そういう人になにか危険が、って話なら俺も考える。
兄貴に相談したって良いし…ま、後で問題にはなるだろうけどある程度の実力行使に及んだって良い。
けどな、相手が違う。俺は別に正義のヒーローじゃないし、なりたいとも思わないし。
無差別に何かに巻き込まれてる人を助けようって思うほど、そこまでのお人好しでもない。
………ま、大前提としてそれほど自惚れるほどの力はないしな。
何を期待してたのか、やりたかったか…分からないでも無いが」
兄貴に相談したって良いし…ま、後で問題にはなるだろうけどある程度の実力行使に及んだって良い。
けどな、相手が違う。俺は別に正義のヒーローじゃないし、なりたいとも思わないし。
無差別に何かに巻き込まれてる人を助けようって思うほど、そこまでのお人好しでもない。
………ま、大前提としてそれほど自惚れるほどの力はないしな。
何を期待してたのか、やりたかったか…分からないでも無いが」
淡々とした口調に、気圧されるように。リーゼロッテは黙り、うつむいて、レーベレヒトの足元を見つめるような姿勢でじっと肩を震わせて彼の言葉を聞く。
「…それに。この場合、どっちをどうするんだ?実験をしている病院か?
それともその、I2の子弟とやらを止める方向か?
………いずれにせよ、学長達に任せるか…そうだな、俺よりもそれこそライリに伝えてやれよ」
それともその、I2の子弟とやらを止める方向か?
………いずれにせよ、学長達に任せるか…そうだな、俺よりもそれこそライリに伝えてやれよ」
追い打ちをかけるように、あくまでも調子を崩さず、淡々とそう言い切って、じっとリーゼロッテを見つめる。彼女は言葉もなく、しばらく俯いたままだったが、「…そ…でも、アンタは私の…」と、呟きを漏らすと、キッと顔を上げてレーベレヒトを睨みつけ
「わかったわよ!そんなに冷たいなんて思わなかった!
アンタに相談した私が間違ってた、ライリさんに伝えるもん!」
アンタに相談した私が間違ってた、ライリさんに伝えるもん!」
と、一気に捲し立て、「ぷいっ」と擬音が良く似合いそうな勢いで顔をそむけると、レーベレヒトに背を向けてずんずんと来た道を戻っていった。目尻に光るものが見えたような気がしないでもない。が、彼は動かず、追わず、その背を見送った後に「…もん、って」などと苦笑交じりに呟いた。首を振り、額に手を当てると、どこか心配そうな、しかしうんざりしたような口調で
「…ほんとに、余計なことに首突っ込まないで欲しいんだけどなぁ…
本心から言って巻き込まれたくないし。…とはいえ、ライくんこえーしな…」
本心から言って巻き込まれたくないし。…とはいえ、ライくんこえーしな…」
普段は柔和で人好きのするリーゼロッテの兄を思う。とにかく彼女を泣かせた場合のライムントは怖いのだ。放ってもおけない。そう、どこか言い訳じみた呟きを漏らすと、瞬時に集中。右手を高く挙げると、開いていた掌をゆっくりと、小指から握りこむようにしながら魔術式を4つ構築、開放する。身に付けた魔術具4 つが、それぞれ淡く光を放つ。
「…『空間』、『掌握』…『領域』『拡散』……散れ。
……とりあえずコレで。いざとなれば…いやでもどうすっかな。ホントやらかしたくないんだけど」
……とりあえずコレで。いざとなれば…いやでもどうすっかな。ホントやらかしたくないんだけど」
はぁ、とため息を漏らすと、他の面子とも合流すべく、しかしマイペースにリーゼロッテの後を追うように歩き出した。